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審決分類 審判    G02B
管理番号 1024994
審判番号 新実用審判1999-40008  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-06-01 
確定日 2000-06-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第3053089号実用新案「球面鏡とビデオプロジェクターの組み合わせによるドームスクリーンへの広角投映」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第3053089号実用新案の登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 【1】手続の経緯
《1-1》本件審判請求の対象である実用新案登録第3053089号の請求項1に係る考案は、平成10年4月9日に出願され、平成10年7月29日に設定登録されたものである。
《1-2》これに対して、請求人は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件考案は、甲第1号証ないし甲第3号証の刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項に違反して登録されたものであり、本件実用新案登録を無効にすべき旨主張している。以下、これを「無効理由1」という。
また、請求人は、本件考案は、本件の出願の日前の他の特許出願である甲第4号証、甲第5号証(甲第4号証の公開特許公報の明細書及び図面)を提出し、本件考案は、甲第4号証の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であるから、実用新案法第3条の2に違反して登録されたものでり、本件実用新案登録を無効にすべき旨主張している。以下、これを「無効理由2」という。

甲第1号証:実用新案登録第2561047号公報
甲第2号証:特開平6-165875号公報
甲第3号証:特開平6-35066号公報
甲第4号証:特開平10-31982号公報
甲第5号証:特願平9-128808号のファイル事項記載書類

【2】当審の判断
《2-1》本件考案
本件の明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1には以下のとおり記載されている。
「ビデオプロジェクター1から投映された光2を曲率のある鏡3で反射させ、ドームスクリーン4の広範囲に投映するシステム。」
被請求人は、平成11年11月18日付けの答弁書において、本件の考案の認定に関して、乙第1号証ないし乙第3号証、参考図1及び参考図2を提示し、
『i)用語「ビデオプロジェクター」とは、明細書第(0001)段に記載されているように、「プラネタリウム等のドーム劇場において映像を投映する」ものである。また、この「ビデオプロジェクター」は、明細書第(0004)段にも「ビデオプロジェクターの仕様より長い距離の投映をする場合、ヒ°ントを合わせることができずにいた。」という記載がなされているように、最大仕様範囲内でヒ°ントを合わせるためのヒ°ント調節手段を備えていることは明らかである。
ii)用語「曲率のある鏡」とは、明細書第(0005)段に記載されているように、「光を反射させ、焦点距離を延ばすことが出来るようにした」ものである。また、この「曲率のある鏡」は、明細書第(0006)段にも記載されるように「長い投映距離でも焦点が合い、明瞭な映像を見ることが出来る」ように構成されたものである。同様に、この「曲率のある鏡」については、明細書第(0008)段の「画面全体の焦点を調整することが出来るようにした」と記載され、明細書第(0 009)段に「投映された映像全体が明瞭になる」と記載されている。したがって、本件考案にいう「曲率のある鏡」とは、明細書の考案の詳細な説明の欄の記載を参酌すると、「ビデオプロジェクターからドームスクリーンに映像を投映する場合に、ビデオプロジエクターの結像距離を延ばすことにより長い投映距離にも拘わらず焦点を合わせることが可能で、画面全体の焦点を調節して明瞭に投映する」構成とされているものである。
iii)用語「ドームスクリーン」とは、明細書第(0001)段の「プラネタリウム等のドーム劇場においてビデオプロジェクターで映像を投映する」との記載から、劇場用ドームスクリーンをいうことは明らかである。
iv)用語「広範囲に」とは、明細書の図1及び図2に示されているように、ビデオプロジェクターから投映された光がドームスクリーンの広範囲に投映されることを意味する。また、明細書第(0009)段に「投映された映像全体が明瞭になる」と記載されている。したがって、用語「広範囲に」とは、「ドームスクリーン、すなわち劇場用ドームスクリーンの広範囲に」をいうことは当業者の技術常識からして明らかである。
v)すなわち、本件考案は、上述した明細書の考案の詳細な説明の記載に従えば、
「プラネタリウム等のドーム劇場において映像を投映するビデオプロジェクター1から投映された光2を曲率のある鏡3で反射させ、ビデオプロジェクター1の結像距離を延ばすことにより長い投映距離にも拘わらず、その画角の上下左右の各部で投映距離の差によらず、画面全体の焦点を調節することにより劇場用ドームスクリーン4の広範囲に投映するシステム。」をその要旨とする。』
と主張し、前記i)?v)で述べた用語の解釈を前提として本件考案の効果を主張している。
また、被請求人は、同答弁書において、前記i)?v)で述べた用語の解釈を前提として、甲第1号証との対比について
『審判請求人は、審判請求書第4頁(3)(丸付き数字1)において、「プロジエクターから投映された映像を曲率のある鏡で反射させドーム面状の曲率を有するスクリーンに投映するシステムである点で共通する」と記載し、甲第1号証において映写装置としてプロジエクターがあたかも記載されている如く主張する。しかしながら、甲第1号証には、「プロジエクター」なる用語は全く記載されていない点で審判請求人の主張には甲第1号証を離れた論理の飛躍があり、そのまま認められるものではない。しかしながら、本件考案と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、「映写装置から投映された映像を曲率のある鏡で反射させドーム面状の曲率を有するスクリーンに投映するシステム」である点で一致することは認める。しかしながら、本件考案は、
イ) 映写装置としてビデオプロジェクターを用いる点、
口) ドームスクリーンの広範囲に投映する点で、甲第1号証に記載された発
明と相違する。』
と主張している。
さらに、被請求人は、平成12年2月25日付け上申書において、本件考案の要旨は要旨は、実用新案登録請求の範囲に記載のとおりであると主張すると共に、
『本件考案の用語「ドームスクリーン」とは、平成12年1月28日付け提出の口頭審理陳述要領書において提出した乙第4号証、乙第4の2号証、乙第5号証、並びに平成12年2月8日に口頭審理陳述要領書を補充すべく提出した乙第20号証に立証されるように、当業者における技術常識、及び本件考案の明細書第(0001)段の記載のいずれを参酌しても、プラネタリウム等のドーム劇場に付設されるドームスクリーンと解釈せざるを得ないものであります。』
と主張している。
ところで、請求項に係る考案の認定は、請求項の記載が明確である場合には、請求項の記載どおりに行うべきものであり、請求項の用語の意味は、その用語が有する通常の意味と解釈することにより行う。ただし、請求項に係る考案の認定にあたって、請求項の記載が明確でなく理解が困難であるが、実用新案登録請求の範囲以外の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項中の用語を解釈すれば請求項の記載が明確にされる場合は、その用語を解釈するにあたってこれらを考慮するのである。
しかるに、本件の明細書の請求項における「ビデオプロジェクター」、「曲率のある鏡」、「ドームスクリーン」及び「広範囲に」なる用語は、被請求人が提示した乙第1号証ないし乙第20号証(枝番号を含む)を検討するまでもなく、それらの意味がそれらの用語自体から明確である。そして、「ドームスクリーン」を「プラネタリウム等のドーム劇場に付設されるドームスクリーンと解釈せざるを得ない」とする合理的根拠は格段存在しない。
従って、本件の請求項1に係る考案は、本件の明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの「ビデオプロジェクター1から投映された光2を曲率のある鏡3で反射させ、ドームスクリーン4の広範囲に投映するシステム。」(以下、「本件考案」という。)であると認められる。

《2-2》無効理由1についての判断
《2-2-1》甲第1号証ないし甲第3号証の記載
《2-2-1-1》甲第1号証:実用新案登録第2561047号公報
[0004]段落
「本考案は、上記問題を解決するものであって、超小型ドームの製作を可能にすると共に、ドーム内の曲面に正確な映像を作り出すことができる疑似環境提示装置を提供することを目的とする。」
[0005]段落
「【課題を解決するための手段】そのために本考案の疑似環境提示装置は、内部が加圧されることにより曲面形状に形成されるドーム4と、ドーム4の外部に配設される映写装置11と、ドーム4内に配設される反射鏡10とを備え、ドーム4の曲率に応じて変形させた映像を反射鏡10で反射させることによりドーム4内面の映写スクリーン2に映写することを特徴とする。」
[0006]段落
「【作用】本考案においては、ドーム4を加圧して映写スクリーン2を曲面形状に緊張させた後、被験者は、ドーム4内に入り映写装置11を作動させる。映写装置11の映像は、ドーム4の外部から反射鏡10で反射され、映写スクリーン2の面に映写される。この場合、映像は、例えば室内インテリアであり、ドーム4の曲率に応じて変形されたコンピュータグラフィックスを用いる。」
[0009]段落
「ドーム4および予圧室5の出入口には被験者が出入りするためのファスナーが設けられる。また、ドーム4内には、照明器具7、被験者用の椅子8、映写制御装置9および曲面形状を有する反射鏡10が配設され、ドーム4の外側には映写装置11が配設されている。さらに、映写スクリーン2の映写装置11に対向する部分には、映像を透過させるための透明ガラス12を設けている。
[0010]段落
「上記構成からなる本考案の作用について説明する。先ず、ドーム4および予圧室5をエアコンプレッサ6により加圧して映写スクリーン2を曲面形状に緊張させた後、照明器具7を点灯させ、エアコンを運転させて温熱環境を整備する。図3および図4に示すように、被験者は、予圧室5から加圧されたドーム4内に入り椅子8に着席した後、映写制御装置9を操作して映写装置11を作動させる。映写装置11の映像は、ドーム4の外から透明ガラス12を経て反射鏡10で反射され、映写スクリーン2の面に映写される。この場合、映像は、ドーム4の曲率に応じて変形されたコンピュータグラフィックスを用いる。なお、映写装置11を複数配設してもよく、また、反射鏡10としては平面鏡10′でもよい。
[0011]段落
「【考案の効果】以上の説明から明らかなように本考案によれば、内部が加圧されることにより曲面形状に形成されるドームと、該ドームの外部に配設される映写装置と、前記ドーム内に配設される反射鏡とを備え、ドームの曲率に応じて変形させた映像を前記反射鏡で反射させることによりドーム内面の映写スクリーンに映写するようにしたため、超小型ドームの製作を可能にすると共に、ドーム内の曲面に正確な映像を作り出すことができる。また、映写装置がドームの外部に配設されるため、騒音や発熱の問題がなく、そのための遮音装置や冷却装置が不要となる。」
上記記載及び添付された図面からみて、甲第1号証には
「映写装置11から投映された映像を曲面形状を有する反射鏡10で反射させ、曲面形状に形成されたドーム4内面の曲面形状に緊張させた映写スクリーン2に正確な映像を映写する疑似環境提示装置」なる考案が記載されている。

《2-2-1-2》甲第2号証:特開平6-165875号公報
[0001]?[0003]段落
「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、シミュレータ(Simulator )に用いられる視界発生装置に関し、更に詳しくは、テレビジョン映像を使ったシミュレータ等の視界発生装置に関する。」【0002】【従来の技術】従来より、種々の移動装置(車両、航空機、船舶、宇宙船等)の模擬操縦あるいは体験装置(以下シミュレータと称する)用の視界表示装置として、テレビジョン映像を用いたものが種々提供されており、大別して視界を直接CRT上に表示させるもの、またはテレビジョン映像をTVプロジェクター(Television Projector、テレビジョン映像を小型液晶画面等に表示させ、投光器からの光をこの画面に透過させることによって、または小型CRTからの映像をレンズ等によって拡大投映させる等によって、テレビジョン映像を投映させる装置)を使用してスクリーンに投映させるものに分けられる。【0003】シミュレータには、できるだけ現実に近い視界が求められる。単一のCRTを使用したものでは視野が狭く、形状も限られるため臨場感に乏しい欠点があるが、TVプロジェクターによって、テレビジョン映像をスクリーンに投映する技術によれば、容易に大映像が得られ、また各種シミュレータの窓部分をスクリーンとさせることも容易であるので、シミュレータ用の視界発生装置として有効である。」
[0007]?[0008]段落
「【0007】本発明は上述の問題に鑑み、単一のTVプロジェクターによって横長視界を得ることができ、かつ容易にインターアクティブ性を可能とするシミュレータ用視界表示装置を提供することを目的としている。【0008】【課題を解決するための手段】上記目的を達成させるために、本発明に係る模擬視界表示装置では、テレビジョン方式を用いた視界表示装置であって、テレビジョン映像を投映する投映手段と、前記テレビジョン映像を結像させるスクリーン部とを有する視界表示装置に於て、前記投映手段と前記スクリーン部との間には、前記テレビジョン映像の縦横比を変化可能に前記スクリーン部上に拡大反射させる、曲面鏡が設けられ、かつ前記スクリーン部は、曲面鏡による拡大映像を結像可能に曲面処理され、テレビジョン映像は前記拡大反射される方向に圧縮処理されたことを特徴とした。」
[0011]?[0012]段落
「【0011】要すれば、テレビジョン映像をスクリーン上に投映するプロジェクターと、プロジェクターからの光の縦横比を変えて拡大反射する曲面鏡と、この拡大光を結像させる曲面スクリーンとを有し、テレビジョン映像はNTSC方式によって制御できる手段をとった。【0012】【作用】上記のように構成されたので、投映手段から発せられたテレビジョン映像光は、曲面鏡の曲面方向に拡大投映され、この映像光は、拡大される方向に曲面処理されたスクリーン上に結像される。またテレビジョン映像は拡大される方向に圧縮処理されているので、スクリ ーン上に展開されたときに、視野が拡大された映像となる。テレビジョン映像はNTSC方式により制御できる。【発明の効果】以上説明したように本発明に係る、模擬視界表示装置によれば少なくとも以下の効果がある。(1)投映手段から発せられたテレビジョン映像光は、曲面鏡と曲面処理されたスクリーンとによって、縦横比が拡大され表示装置としての視覚効果が高まる。(2)拡大方向に圧縮処理されたテレビジョン映像が扱えるので、拡大された方向に映像歪みが生じることがなく、かつ視野が拡大され、より視覚効果が高まる。(3)縦横比の拡大は単一のTVプロジェクターによって成し得るので、複数のCRT等を用いる必要がなく、制御が容易であり、画像分割が生じない。(4)単純な構成で縦横比の変化をもたらすことができるので、視覚効果の向上にあたり、定価格かつ高信頼性と成し得る。」

《2-2-1-3》甲第3号証:特開平6-35066号公報
[0001]段落
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、正面の表示画面にゲーム用動画が表示されてゲームが行なわれるスロットマシン等のゲーム機に係わり、前記表示画面の大幅な大型化が可能なゲーム機に関する。
[0004]?[0007]段落
「【0004】本発明は、このような従来の事情に着目してなされたもので、前記表示画面の大幅な大型化が可能なゲーム機を提供することを目的としている。【0005】【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、1 正面の表示画面にゲーム用動画が表示されてゲームが行なわれるゲーム機において、内蔵する小型液晶パネル(21)に前記ゲーム用動画を映し出してこれを拡大投影する液晶プロジェクタ(20)を内部に配設し、前記液晶プロジェクタ(20)の投影光を裏面側に受けて、前記ゲーム用動画を正面側に映し出すべく、この投影光を正面側に透過させるスクリーン(10)を、前記表示画面として正面に配設したことを特徴とするゲーム機。【0006】2 前記液晶プロジェクタ(20)は、前記スクリーン(10)の後方に向けて投影光を発射するよう、前記スクリーン(10)の側方に配置し、前記スクリーン(10)の後方には、前記液晶プロジェクタ(20)の投影光を反射させこれを前記スクリーン(10)の裏面に入射させる反射鏡(30)を配設したことを特徴とする項1記載のゲーム機。【0007】3 前記液晶プロジェクタ(20)は、前記スクリーン(10)の下方から後方に向けて投影光を発射するよう、前記スクリーン(10)の下側に配置し、前記反射鏡(30)の反射面は、前記投影光を縦方向に拡大すべく、上下方向に湾曲しスクリーン(10)側に凸なものとしたことを特徴とする項2記載のゲーム機。」

《2-2-2》本件考案と甲第1号証に記載された考案との対比
本件考案と甲第1号証に記載された考案とを対比すると、甲第1号証に記載された考案における「曲面形状を有する反射鏡」、「映写する」ことは、本件考案の「曲率のある鏡」、「投映する」ことに相当する。
そして、甲第1号証に記載された考案における「疑似環境提示装置」は、スクリーンに映像を映写するシステムを構成することは当業者に明らかである。
また、甲第1号証に記載された考案における「映写装置11」及び本件考案の「ビデオプロジェクター」は、いずれもスクリーンに映写すべき映像を発生する装置である。
さらに、スクリーンがドームの躯体の一部であるか躯体とは別のものであるかとは関係なく、映像がその上に映写されるものがスクリーンであるから、甲第1号証に記載された考案における「曲面形状に形成されたドーム4内面の曲面形状に緊張させた映写スクリーン2」及び本件考案の「ドームスクリーン」は、いずれもドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンであることは明らかである。
従って、両者は、「映像を発生する装置から投映された映像を曲率のある鏡で反射させドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンに投映するシステム」である点で一致する。
そして、以下の点で両者は相違する。
相違点(a):
本件考案における映像を発生する装置は「ビデオプロジェクター」であるのに対して甲第1号証に記載された映像を発生する装置は「映写装置」である点。

相違点(b):
本件考案におけるドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンは「ドームスクリーン」であるのに対して、甲第1号証に記載されたドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンは「曲面形状に形成されたドーム内面の曲面形状に緊張させた映写スクリーン」である点。

相違点(c):
本件考案における投影範囲がドームスクリーンの広範囲と規定されているのに対して、甲第1号証に記載された考案では、投影範囲の広狭を規定する記載がない点。

《2-2-3》判断
相違点(a)について:
映像をスクリーンに映写するシステムにおいて、動画を映写するために、ビデオプロジェクタである、TVプロジェクター、液晶プロジェクタを映像を発生する装置として使用することは、甲第1号証、甲第2号証に記載されているように周知であった。
よって、映像をスクリーンに映写するシステムである、甲第1号証に記載された考案の、「映像を発生する装置」(映写装置)を周知のビデオプロジェクタに変更することは当業者がきわめて容易に想到できた事項である。

相違点(b)について:
本件考案では、ドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンが「ドームスクリーン」であると規定している。「ドームスクリーン」は、曲面形状のドーム内面を直接映写のためのスクリーンとする形態、及び甲第1号証に記載された考案のようにそのような形状のドームの内面に沿って設けられたドームとは別体部材を映写のためのスクリーンを含むものである。よって、「ドームスクリーン」であるという規定は、甲第1号証に記載された考案のスクリーンとの実質的な層とはならない。
また、仮に、「ドームスクリーン」は、曲面形状のドーム内面を直接映写のためのスクリーンとする形態のみを意味するものとしても、甲第1号証に記載された考案のスクリーンは曲面形状のドーム内面に沿った曲面形状のものであるから、ドームの内面に沿ったスクリーンを省略しドームの内面を映写のためのスクリーンとすることは当業者がきわめて容易に想到できる事項である。

相違点(c)について:
甲第1号証に記載された考案における、投影範囲を検討するに、甲第1号証の[0004]段落には、「ドーム内の曲面に正確な映像を作り出すことができる疑似環境提示装置を提供することを目的とする。」と記載され、[0006]段落には、「本考案においては、ドーム4を加圧して映写スクリーン2を曲面形状に緊張させた後、被験者は、ドーム4内に入り映写装置11を作動させる。映写装置11の映像は、ドーム4の外部から反射鏡10で反射され、映写スクリーン2の面に映写される。この場合、映像は、例えば室内インテリアであり、ドーム4の曲率に応じて変形されたコンピュータグラフィックスを用いる。」と記載されている。
してみると、映写される映像は室内インテリアであり、疑似環境を提示するのであるから、観察者にあたかも現実の室内にいるような体験をさせるものである。また、ドーム4の曲率に応じて変形されたコンピュータグラフィックスを用いることにより、映写された映像のドームの曲率に応じた変形が相殺されるように工夫されている。
このことから、当業者がこれを検討した場合、甲第1号証に記載され考案はドーム内面の広い範囲(広い立体角)にわたって映像が映写されるように工夫されていることを理解する。
従って、甲第1号証には、ドーム内面の曲面形状に沿った形状のスクリーンの広範囲に投映するとは直接規定していないが、甲第1号証の記載から、当業者がそのような規定を付すことはきわめて容易になし得たことである。
なお、投影の範囲を広い範囲にすることは、甲第2号証[0003]段落、甲第3号証[0007]段落に記載されているように、本件考案の出願前に普通に行われていることである。

そして、本件考案の、明細書に記載された「ドームスクリーン上の広範囲に映像を投映することにより、臨場感ある演出が可能になる」、「長い投映距離でも焦点が合い、明瞭な映像を見ることが出来る」、「投映された映像全体が明瞭になり、臨場感ある映像を楽しむことが出来る」という効果は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された事項から予測される範囲のものである。
従って、本件考案は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に発明をすることができたものである。

【3】むすび
以上のとおりであるから、本件考案の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであるから、前記無効理由2について判断するまでもなく、同法第37条第1項第2号により無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-04-11 
結審通知日 2000-04-21 
審決日 2000-05-02 
出願番号 実願平10-3302 
審決分類 U 1 111・ 121- Z (G02B)
最終処分 成立    
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 辻 徹二
橋本 栄和
登録日 1998-07-29 
登録番号 実用新案登録第3053089号(U3053089) 
考案の名称 球面鏡とビデオプロジェクターの組み合わせによるドームスクリーンへの広角投映  
代理人 間山 進也  
代理人 神保 欣正  

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