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審決分類 審判 全部無効 特39条先願 無効としない A46B
管理番号 1025045
審判番号 審判1999-35112  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-03-10 
確定日 2000-09-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第2510593号実用新案「歯間歯ブラシ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯・本件考案
本件実用新案登録第2510593号は、出願日が昭和61年2月21日(パリ条約による優先権主張 1985年2月21日 アメリカ合衆国)である特願昭61-35376号の特許出願を平成2年8月27日に実用新案登録出願に変更し、同日付けで2つに分割出願した一方の出願であって、平成5年12月13日付けおよび平成6年11月28日付けの手続補正書により補正された後、平成8年6月25日に設定登録されたものである。そして、その考案の要旨は、登録明細書および図面の記載からみてその実用新案登録請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。
「一体とされた第1の部分と第2の部分とからなり、その第1の部分が首部(31)と、その首部より太い第2部分と首部とを連結する連結部(33)とからなるプラスチック製ハンドルと、ブラシ(26)と、そのブラシから前記ハンドルの軸方向に延びているより線ステムとで形成されたブラッシング手段と を備えた歯間ブラシにおいて、前記より線ステムが少なくとも前記首部(31)を通過して埋め込まれ、離脱しないように、かつごくわずかだけ首部からでるように一体成形され、前記第1の部分は指の力で容易に曲げ及びその力の除去でもとの状態に向かって復元する弾性を持たせられ、前記ハンドルの長さは第1の部分を人差し指と親指の先端部で摘んで第2の部分を人差し指に沿わせてハンドルの後端が掌にとどかない長さとして、指の圧力を加えて第2の分の軸線方向に対して所定の角度で第1の部分を曲げることができるようにし、第1の部分とブラッシング手段を覆い、第1部分から外したときに第2部分に取り付けることができる構造のキャップを備えていることを特徴とする歯間歯ブラシ。」

2.請求人の主張及び証拠
請求人は、「本件請求項1に係る登録実用新案(以下、「本件考案」という)は、甲第1号証に示す同日出願の請求項1に係る登録実用新案(以下、「甲第1号証考案」という。)と実質的に同一であるから、旧実用新案法第7条第2項の規定により登録を受けることができないものであり、同法第37条第1項第1号により無効とすべきものである。」(審判請求書、第2頁、(3)無効事由の項の記載事項)と主張している。そして、以下の証拠方法を提出している。
甲第1号証 実公平6-33853号公報
甲第2号証 平成5年12月13付け意見書の写し
甲第3号証 平成6年11月17日付け審判請求理由補充書の写し
甲第4号証 意匠登録第616007号公報
甲第5号証 実開昭59-31938号公報
甲第6号証 昭和57年4月28日(株)国際医書出版発行「歯科ジャーナル」第15巻第4号第449?454頁
甲第7号証 平成6年7月11日付け拒絶査定謄本の写し

3.被請求人の主張
被請求人は、「本考案と甲第1号証考案とは、仮に審判請求人のようにステムの長さの差は本質的なものではなく、歯間歯ブラシ本体自体は同じであるとしても、一方はキャップがなければならず、他方はキャップがなくてもよく、両者全く異なり、両者同一ではあり得ない。」(答弁書、第3頁、第29行?第4頁、第3行)と主張している。

4.請求人の提示した甲第1号証について
請求人の提示した甲第1号証である実公平6-33853号公報は、実願平3-88438号に係るものであり、その考案は、昭和61年2月21日に特許出願された特願昭61-35376号の発明を、平成2年8月27日に実用新案登録出願に変更し、同日付けで2つに分割出願した本件考案に係る出願である一方の出願に対して、他方の出願に係る考案であって、平成6年9月7日に出願公告され、平成9年8月22日に実用新案登録第2148867号として登録されているものである。
そして、甲第1号証の実用新案登録請求の範囲の第1項の考案は、その実用新案登録請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。
「一体とされた第1の部分と第2の部分とからなり、その第1の部分が首部(31)と、その首部より太い第2部分と首部とを連結する連結部(33)とからなるプラスチック製ハンドルと、ブラシ(26)と、そのブラシから前記ハンドルの軸方向に延びているより線ステムとで形成されたブラッシング手段と を備えた歯間ブラシにおいて、前記より線ステムが前記首部(31)及び連結部(33)を通してハンドルの第2の部分にまで達して離脱しないように、かつごくわずかだけ首部からでるように一体成形され、前記第1の部分は指の力で容易に曲げ及びその力の除去でもとの状態に復元する弾性を持たせられ、前記ハンドルの長さは第1の部分を人差し指と親指の先端部で摘んで第2の部分を人差し指に沿わせてハンドルの後端が掌にとどかない長さとして、指の圧力を加えて第2の部分の軸線方向に対して所定の角度で第1の部分を曲げることができることを特徴とする歯間歯ブラシ。」

5.当審の判断
本件実用新案登録第2510593号の第1項に記載された考案(本件考案)と甲第1号証の実用新案登録第2148867号の第1項に記載された考案(甲第1号証考案)とを対比し、検討する。
両者は、特許出願から実用新案登録出願に変更し、変更と同時に分割出願した同一出願人の同日出願に係る考案であって、それらの第1項に記載された事項のうち、次の点に記載された事項において一致している。
「一体とされた第1の部分と第2の部分とからなり、その第1の部分が首部(31)と、その首部より太い第2部分と首部とを連結する連結部(33)とからなるプラスチック製ハンドルと、ブラシ(26)と、そのブラシから前記ハンドルの軸方向に延びているより線ステムとで形成されたブラッシング手段と を備えた歯間ブラシにおいて、前記より線ステムが離脱しないように、かつごくわずかだけ首部からでるように一体成形され、前記第1の部分は指の力で容易に曲げ及びその力の除去でもとの状態に復元する弾性を持たせられ、前記ハンドルの長さは第1の部分を人差し指と親指の先端部で摘んで第2の部分を人差し指に沿わせてハンドルの後端が掌にとどかない長さとして、指の圧力を加えて第2の部分の軸線方向に対して所定の角度で第1の部分を曲げることができる歯間歯ブラシ。」
そして、次の点で相違している。
(1)「前記より線ステム」が、本件考案では、「少なくとも前記首部(31)を通過して埋め込まれ、」としているのに対して、甲第1号証考案では、「前記首部(31)及び連結部(33)を通してハンドルの第2の部分にまで達して」としている点。
(2)「もとの状態に復元する弾性」が、本件考案では、「もとの状態に向かって復元する弾性」としているのに対して、甲第1号証考案では、「向かって」という構成がない点。
(3)本件考案が、「第1の部分とブラッシング手段を覆い、第1部分から外したときに第2部分に取り付けることができる構造のキャップ」の構成を備えているのに対して、甲第1号証考案は、これに対応した構成がない点。
そこで、この相違点を検討する。
相違点(1)について
本件考案の登録明細書の記載を斟酌すると、(課題を解決するための手段)の項には、「前記より線ステムが前記首部及び連結部を通してハンドルの第2の部分にまで達して離脱しないように、」(登録明細書の平成5年12月13日付け手続補正書第2頁第16行?同第18行、実用新案登録公報第4欄第39行?同第40行)すること、(実施例)の項には、「ブラシ26のステム32が先端部を通って伸び、成形されたハンドルの中に埋め込まれる。たとえば第2図に示すように、そのより線のステムはハンドル20のほぼ断面で示した領域にわたる十分な距離だけ伸びる。ステム32は、ハンドルを成形するときにハンドルのプラスチック内に埋め込み同時に成形する。」(登録明細書第13頁第3行?同第9行、実用新案登録公報第6欄第43行?同第48行)こと、が記載されている。また、第2図、第9図に示された構造には、より線ステム32が首部31から第1の部分を通り、第2の部分の途中まで存在していることが窺える。
さらに、本件考案の登録人は、平成6年11月17日付けの平成2年実用新案登録願第88439号拒絶査定に対する審判請求事件における審判請求理由補充書(請求人の提示した甲第3号証)において、その(3)本願考案が登録されるべき理由の項において、「前記より線ステムが前記首部及び連結部を通してハンドルの第2の部分にまで達して離脱しないように、かつごくわずかだけ首部からでるように一体成形され、」(審判請求理由補充書、第3頁第3行?同第5行)ること、「本願考案はステムを第2の部分に達するまでとして、後端部までは達していないようにしてステムの終端部をハンドルで完全に覆って固定している。」(審判請求理由補充書、第5頁第2行?同第3行)こと、を主張している。
これらの記載事項によれば、「より線ステム」の構成は、請求人の主張するように、本件考案の実施例に示されたそのものの構成である、より線ステム32が首部31から第1の部分を通って、より線ステムの終端部が第2の部分に達するまでとして後端部に達しないようにしてある、というものである。
しかし、これは、本件考案の実施例に示された具体的な構成、審査段階で引用した引用例との比較において構成の違い、を述べているものであって、本件考案は、実用新案登録請求の範囲の第1項に記載されているように、より線ステムが首部を少なくとも通過して埋め込まれていれば足るというものであり、考案の実施例のそのものの構成ではなく、実施例に示されている具体的な構成に限定しない構成を考案の構成要件としているものである。
そして、この構成を否定する理由も見いだせない。
なお、請求人は、甲第4号証乃至甲第6号証を提示して、より線ステムをハンドルに埋め込み固定することがきわめてありふれたものである旨の主張しているが、ハンドル部となる管状体の内部により線ステムを挿入した甲第5号証に記載された第4図、第5図のものとは本件考案とは本質的に異なるものといえるし、甲第4号証乃至甲第6号証に記載されたものには、より線ステムとハンドルとの構造、例えば、より線ステムがハンドルに埋め込まれているのか、或いは、差し込まれているのか、についての説明もなく、この構造を甲第4号証乃至甲第6号証の図面に示されたものから推考する他ないが、仮に、請求人の主張するように、より線ステムが少なくとも首部を通過して埋め込むことがきわめてありふれたものであるとしても、指の力で容易に曲げ及びその力の除去でもとの状態に向かって復元する弾性を持たせた部分があるハンドルに適用し得る旨の記載も示唆もなく、甲第4号証乃至甲第6号証は、考案の同一性を論じる周知技術の証拠として採用することができない。さらに、請求人は弁駁書において、「少なくとも首部を通過して」という要件は、「ハンドルの第2部分まで達する」という要件を文言上広くしたものであり、考案の要旨を変更するものである旨の主張しているが、本件考案の出願当初の明細書又は図面中には、より線ステムが首部を通過しているものが記載されており、この要件は、出願当初の明細書又は図面に記載された範囲内の構成であり、何ら明細書の要旨を変更するようなものではない。
したがって、より線ステムが、本件考案のように少なくとも首部を通過して埋め込まれてある構成と、甲第1号証考案のように第2の部分まで達している構成とでは、明らかに考案の構成が異なるし、考案の作用効果についても両考案が同一であるという証拠もない。
相違点(2)について
請求人は、この相違点の構成である「復元」について、本件考案の考案の詳細な説明には、第1の部分の「復元」に関する記載は一切見当たらないと主張しているが、本件考案の登録明細書の(課題を解決するための手段)の項には、「第1の部分は指の力で容易に曲げ及びその力の除去でもとの状態に復元する弾性を持たせられ」と記載されているように、第1の部分は弾性を有する部材であって、その材料は、希望の曲げ特性を有する材料で製造されるプラスチック製ハンドル20と一体成形されているものであり、第1の部分の曲げ応力を除去したときには、第1の部分の弾性によって元の状態に復元するということは容易に理解し得るところであるから、請求人の主張には根拠がない。しかしながら、曲げ応力を除去したときには、請求人が主張するように、常に「もとの状態に復元する」とは限らないことに鑑みれば、「向かって」とは、復元の状態についての単なる釈明にすぎないものといえるから、本件考案の「もとの状態に向かって復元する」という構成は、甲第1号証考案の「もとの状態に復元する」ものと差異があるということはできない。
相違点(3)について
この相違点について請求人は、「キャップは、単にハンドルの前後に付け替えができることのみを要件とするものであるため、少なくとも一つの取り付け口さえ有すれば、長さや大きさ、形状はもちろんのこと、具体的な取付構造をも問わないということができ、思想の外延が極めて不明確な状態にある。」こと、「例えば、万年筆などのように、携帯性と先端の保護を必要とする小型物品において周知慣用されているキャップ本来の構造あるいは機能を表現したものに過ぎない。」こと、本件考案の課題、作用効果等から、「本件考案の遡及出願日前には歯ブラシの分野において多数の文献が存在し、周知慣用の技術となっていたのである。」こと、「その取付構造は、単なる差し込み式、ネジ式に限らず、全くの取付構造が含まれることはいうまでもない。」こと、「本件考案が歯間ブラシであるとしても、キャップを適用することで、歯間ブラシ自体の本来的な作用効果が変化するとは考えられない。その上、携帯性・衛生保護・長さ調整という観点からすれば、歯間ブラシであろうが、単なる歯ブラシであろうが、キャップを適用しようとする思想自体に何ら影響はない。」こと、を主張している。
「キャップ」を常識的範囲から捉えれば請求人が主張するとおりではあるが、本件考案の「キャップ」は、登録明細書の(考案が解決しようとする課題)項に記載されているように、「本考案は新規な歯間歯ブラシ、ポケットまたは財布に中にいれて携帯できる小型の歯ブラシを提供することを課題とするものである。」(登録明細書第6頁第10行?同第12行、実用新案登録公報第第4欄第10行?同第12行)ことであり、さらに、登録明細書の(実施例)の項に、「キャップ22がハンドル20にはめ込まれると、ブラシ26は清浄かつ衛生的に保たれる。またキャップをハンドルの反対側から差し込めば全体として長くなる。前記キャップ内面に設けた隆起29がハンドル20の反対側への取り付けをより確実にし、親指と人差指の間の部分34で掌につつまれて手でつかむことがはるかに容易かつ確実になる。」(登録明細書第12頁第2行?同第9行、実用新案登録公報第6欄第24行?同第30行)ということ、「ハンドル20の長さは、ハンドルの首部31が親指と人差し指の間に挟まれるたとき、ハンドルが人差指に沿って伸び、その他端が掌に届かない程度のごく短いものとする。また、キャップ22の長さは、ハンドルの他端にキャップを被せたとき、そのキャップの端部が掌またはその近くの親指と人差指との間の部分34に捕らえられる長さとする。」(登録明細書第20頁第1行?同第8行、実用新案登録公報第9欄第9行?同第15行)ということ、を記載しているように、請求人の主張する「キャップ」の常識的範囲の作用効果の他に、本件考案の「キャップ」は、その長さについての限定はしていないけれども、ポケットまたは財布に入れられる小型の歯間歯ブラシ用のキャップであって、ハンドルの長さが、第1の部分を人差し指と親指の先端部で摘んで第2の部分を人差し指に沿わせたときにハンドルの後端が掌にとどかない長さになっていて、このハンドルの後端である第2の部分にキャップを取り付けた場合に、登録明細書に記載されている、「親指と人差指の間の部分34で掌につつまれて手でつかむことがはるかに容易かつ確実になる。」というような作用効果をも奏することがあることを考慮すれば、相違点(3)の構成があることによって、本件考案と甲第1号証考案とは、考案の作用効果についても、両者が同一であるということはできない。

以上のとおりであるから、本件考案と甲第1号証考案とは、同一の考案であるとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-06-14 
結審通知日 2000-06-23 
審決日 2000-07-11 
出願番号 実願平2-88439 
審決分類 U 1 112・ 4- Y (A46B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 山崎 豊小谷 一郎  
特許庁審判長 滝本 静雄
特許庁審判官 大槻 清寿
櫻井 康平
登録日 1996-06-25 
登録番号 実用新案登録第2510593号(U2510593) 
考案の名称 歯間歯ブラシ  
代理人 濱田 俊明  
代理人 山川 政樹  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  

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