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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04D
管理番号 1025118
判定請求番号 判定2000-60046  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-03-30 
種別 判定 
判定請求日 2000-04-05 
確定日 2000-08-31 
事件の表示 上記当事者間の登録第2051398号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「雪止装置付屋根」は、登録第2051398号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 〔1〕請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、(イ)号図面及びその説明書に示す「雪止装置付屋根」(以下、「イ号物件」という。)は、登録第2051398号実用新案(以下、「本件考案」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

〔2〕本件考案
本件考案は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、それを構成要件に分説すると、次のとおりである。
A 長尺トタン板の長手方向の一側縁部を7型状に外側方に折り起して被接部を形成すること。
B 長尺トタン板の長手方向の他側縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を形成すると共に吊下部の外側方に取付片を設けること。
C 多数枚の長尺トタン板を屋根の野地板上に屋根の勾配と直交する横線と平行する向きとして且つ吊下部が棟側、被接部が軒側となる状態として並べ配すること。
D 吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させこれら吊下部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させること。
E 雪止め装置を備えた屋根であること。
なお、実用新案登録請求の範囲の下から2行目の「これら吊子部」の記載は、その前後の「吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させこれら吊子部及び被接部の接合水平部分を」の記載からみて、「これら吊下部」の誤記と認められるので、上記のように認定した。

〔3〕イ号物件
判定請求書に添付された(イ)号説明書及び(イ)号図面の記載によると、イ号物件は、次のa?eからなるものとするのが相当である。
a 長尺板状体の長手方向の一側縁部を左起立板部4B、左水平板部4D、左上傾斜板部4H、左下傾斜板部4Iを順に形成するように外側方に折り起して左方はぜ部4を形成すること。
b 長尺板状体の長手方向の他側縁部を右起立板部3B、右水平板部3D、右傾斜板部3Fを順に形成するように折り曲げ起して右方はぜ部3を形成すると共に右方はぜ部3の外側方に吊子5の水平取り付け片5Cを設けること。
c 多数枚の長尺板状体を屋根の野地板上に屋根の勾配と直交する横線と平行する向きとして且つ右方はぜ部3が棟側、左方はぜ部4が軒側となる状態として並べ配すること。
d 右起立板部3Bと左起立板部4Bを接合させ、右水平板部3Dを左水平板部4Dの下面に位置させ相互に止着し、右方はぜ部3の右傾斜板部3F及びこれに添着した防水テープ3F1を、左方はぜ部4の左上傾斜板部4Hと折り返した左下傾斜板部4Iにより挟むようにして圧絞し、この部分を軒先側に向かって斜めの下傾状となったまま保持すること。
e 雪止め装置を備えた屋根であること。

〔4〕イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて
1.本件考案とイ号物件との対比
本件考案とイ号物件とを対比すると、長尺トタン板は、屋根に用いる長尺板状体の代表的なものであり、イ号物件の「長尺板状体」は、本件考案の「長尺トタン板」に相当し、イ号物件の「右方はぜ部3」及び「左方はぜ部4」は、本件考案の「吊下部」及び「被接部」に相当するから、イ号物件は本件考案の構成要件C及びEを具備している。しかしながら、構成要件A、B及びDを具備しているか否かについては、それらの構成に相違があることから、明確ではない。

2.イ号物件の構成aが本件考案の構成要件Aを具備するか否かの検討
(1)相違点
本件考案は、縁部を7型状に外側方に折り起して被接部を形成するのに対し、イ号物件は、縁部を左起立板部4B、左水平板部4D、左上傾斜板部4H、左下傾斜板部4Iを順に形成するように外側方に折り起して左方はぜ部4(被接部)を形成している点で、両者は相違している。
(2)相違点の検討
イ号物件における、左方はぜ部4(被接部)を形成する左起立板部4B、左水平板部4D、左上傾斜板部4Hは、イ号図面を参照すると、順に垂直部分、水平部分、傾斜部分をなし、本件考案の「7型状」に等しい形状を構成しているから、イ号物件は、本件考案の構成要件Aを具備する。

3.イ号物件の構成bが本件考案の構成要件Bを具備するか否かの検討
(1)相違点
本件考案は、縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を形成すると共に吊下部の外側方に取付片を設けるのに対し、イ号物件は、縁部を右起立板部3B、右水平板部3D、右傾斜板部3Fを順に形成するように折り曲げ起して右方はぜ部3を形成すると共に右方はぜ部3の外側方に吊子5の水平取り付け片5Cを設ける点で、両者は相違している。
(2)相違点の検討
本件明細書(平成5年8月19日付け手続補正書)の考案の詳細な説明には、
「(従来の技術)従来、例えば……桟木を雪止めとして利用する屋根は実開昭59-98030号公報などによって公知となっている。また、これとは別個に、例えば水平式長尺トタン板のハゼ締め工法として、例えば長尺トタン板の一側部を板厚分浮かせて重合片部を形成し、その先端を外側方に折り起して7型状に立上片と垂下片と水平辺とを有する被接部を設け、その水平辺の裏面に石綿糸を接着剤又は糊料で包被した脱水芯片を接着せしめると共に、他側緑に取付片を残して内側方に折り返し折り曲げ起立して二重の┐型状吊子部を設ける方式が実公昭57-41295号公報などによって公知なっており、これを横方向に施工して雪止機能を与える方法も考えられないこともなかった。」(2頁9行?4頁9行)との記載、
「(考案が解決しようとする問題点)然しながら、前者の構造のものは……野地板上に桟木を設置する必要があるのみならず屋根材の桟木への取付構造が複雑であって屋根葺作業も面倒であるなどの問題点があり、また後者のようなハゼ締め方式においては相互に接合された吊下部を被接部の水平辺が最終的には垂直辺に沿って下方に折曲げられるのでこれら吊下部と被着部は全体として単に上方への垂直壁を形成するにとどまり、従ってこれらハゼ締め部は積雪の落下方向への横圧に対しては必ずも充分な耐圧力を有することがなく、例えば溶雪時に屋上の積雪による強い落下圧を受けると全体が軒先方向に下傾して雪止めの機能を喪失する虞れがあるなどの問題点があった。」(4頁10行?5頁12行)との記載、
「(考案の作用及び効果)
本考案は叙上のように長手方向の一側縁部を7型状に外側方に折り起して被接部を、同じく他側縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を夫々形成すると共に吊下部の外側方に取付片を設けた多数枚の長尺トタン板を構成し、これ等長尺トタン板を屋根の野地板上に屋根の勾配と直交する横線と平行する向きとして且つ吊下部が棟側、被接部が軒側となる状態として並べ配すると共に吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させて成るので吊下部と被接部が一体となって雪止め機能を充分に果し得るは勿論であるが……、また本考案においては吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させこれら吊子部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させこのようにして形成した吊下部と被接部の接合水平部分を下方に向って折返すことなくそのまま恰も梁上端フランジのような形状に保持するようにして軒側に突出するようにしたので、同部はこれと直角の吊下部と被接部の接合垂直部分と相俟ってアングル鋼のような形状を呈しこのために同部の強度を顕著に高めて積雪の落下方向への横圧に確実に対処し得るものであって、本考案はこれらによって前記の問題点を充分に解決することができる効果を奏するものである。」(8頁4行?10頁10行)との記載がある。
これらの記載によると、本件考案は、長手方向の一側縁部を7型状に外側方に折り起して被接部を、同じく他側縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を夫々形成すると共に吊下部の外側方に取付片を設けた多数枚の長尺トタン板を、屋根の野地板上に屋根の勾配と直交する横線と平行する向きとして且つ吊下部が棟側、被接部が軒側となる状態として並べ配し、吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させ、これら吊下部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させて屋根の雪止め装置を構成するものであり、そして、吊下部と被接部の接合水平部分を下方に向って折返すことなくそのまま恰も梁上端フランジのような形状に保持するようにして軒側に突出するようにしたことで、二重面を┐型状に折り曲げ起して形成した吊下部の水平部分及び被接部の水平部分と垂下片とが接合した接合水平部分は、これと直角の、二重面を┐型状に折り曲げ起して形成した吊下部の垂直部分と被接部の垂直部分とが接合した接合垂直部分と相俟ってアングル鋼のような形状を呈し、このために接合水平部分の強度を顕著に高めて積雪の落下方向への横圧に確実に対処し得るという効果を奏し、従来技術の問題点を解決するものであることが認められる。そうすると、本件考案における構成要件Bの「縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を形成すること」は、本件考案の課題を解決する上で欠くことのできない構成であり、本件考案の本質的な部分を成していると認められる。
そこで、イ号物件が本件考案の構成要件Bを具備しているか否か検討すると、イ号物件の構成bにおける、「右方はぜ部3」は、本件考案の「吊下部」に相当すると認められるが、「縁部を右起立板部3B、右水平板部3D、右傾斜板部3Fを順に形成するように折り曲げ起して」形成された「右方はぜ部3」は、縁部を折り返した二重面となっていないことは、イ号図面からも明らかであるから、イ号物件は本件考案の構成要件Bを具備していない。
(3)判定請求人の主張に対して
請求人は、この構成要件Bに関して、「一般に屋根として用いる長尺トタン板において┐状に折曲すべきその縁片を単板状のままとするか若しくは折返して二重面状として強化するかはトタン屋根板の属する技術の分野において通常の知識を有する者(例えばブリキ職人)が格別の考案を要せずして簡単に選択できる周知、慣用の技術手段に過ぎず、従って(イ)号屋根において吊下部が当該部を二重面構造とする本件登録実用新案と異なって単板形状とされている点は本件登録実用新案の当該部の単なる設計変更(若しくは均等手段の採択)であるにとどまり、両者が技術思想を格別に異にするという理由にはならない。」(判定請求書8頁17行?9頁7行)と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたように、本件考案における構成要件Bの「縁部を折り返して二重面とし且つ当該二重面を┐型状に折り曲げ起して吊下部を形成すること」は、本件考案の課題を解決する上で欠くことのできない構成であり、本件考案の本質的な部分を成していると認められ、その本質的な部分において本件考案とイ号物件とは構成を異にするものであるので、請求人の主張を採用することはできない。

4.イ号物件の構成dが本件考案の構成要件Dを具備するか否かの検討
(1)相違点
イ号物件の「右起立板部3B」、「左起立板部4B」、「右水平板部3D」、「左水平板部4D」は、本件考案の「吊下部の垂直部分」、「被接部の垂直部分」、「吊下部の水平部分」、「被接部の水平部分」に相当するから、本件考案は、吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させこれら吊下部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させるのに対し、イ号物件は、吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させ相互に止着し、吊下部の右傾斜板部3F及びこれに添着した防水テープ3F1を、被接部の左上傾斜板部4Hと折り返した左下傾斜板部4Iにより挟むようにして圧絞し、この部分を軒先側に向かって斜めの下傾状となったまま保持する点で、両者は相違している。
(2)相違点の検討
本件考案は、明細書の記載によれば(上記3.(2)参照。)、吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させ、これら吊下部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させて屋根の雪止め装置を構成し、吊下部と被接部の接合水平部分を下方に向って折返すことなくそのまま恰も梁上端フランジのような形状に保持するようにして軒側に突出するようにしたことで、接合水平部分は、これと直角の吊下部と被接部の接合垂直部分と相俟ってアングル鋼のような形状を呈し、このために接合水平部分の強度を顕著に高めて積雪の落下方向への横圧に確実に対処し得るという効果を奏し、従来技術の問題点を解決するものであることが認められる。そうすると、本件考案の構成要件Dの「吊下部と被接部の各垂直部分を接合させ吊下部の水平部分を被接部の水平部分の下面に位置させて両部分を接着テープを介して止着し且つ被接部の垂下片を内方に向って折曲げて吊下部の水平部分の下面に接合させこれら吊下部及び被接部の接合水平部分を軒側に突出させること」は、本件考案の課題を解決する上で欠くことのできない構成であり、本件考案の本質的な部分を成していると認められる。
そこで、イ号物件が本件考案の構成要件Dを具備しているか否か検討すると、イ号物件の構成dにおいては、吊下部の右傾斜板部3F及びこれに添着した防水テープ3F1を、被接部の左上傾斜板部4Hと折り返した左下傾斜板部4Iにより挟むようにして圧絞し、この部分を軒先側に向かって斜めの下傾状となったまま保持しているだけであって、内方に向って折曲げて吊下部の下面に接合させ、これらの接合水平部分を軒側に突出させてはいない。
したがって、イ号物件は本件考案の構成要件Dを具備していないと言わざるを得ない。

5.まとめ
以上、本件考案の構成要件とイ号物件の構成を対比すると、イ号物件は、本件考案の構成要件のうち構成要件A、C、Eを具備するものの、構成要件B及びDを具備しない。

〔5〕むすび
以上のとおり、イ号物件は本件考案の構成要件を具備しないから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2000-08-10 
出願番号 実願昭63-36820 
審決分類 U 1 2・ 1- ZB (E04D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 山口 由木  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 宮崎 恭
鈴木 公子
登録日 1995-02-20 
登録番号 実用新案登録第2051398号(U2051398) 
考案の名称 雪止め装置を備えた屋根  
代理人 杉山 泰三  

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