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審決分類 審判 判定 その他 属する(申立て不成立) A61G
管理番号 1032522
判定請求番号 判定2000-60139  
総通号数 17 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-05-25 
種別 判定 
判定請求日 2000-10-13 
確定日 2001-01-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第1908777号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号物件に係る「ベッド」は、実用新案登録第1908777号の技術的範囲に属する。
理由 理 由
〔1〕請求の趣旨・手続の経緯
本件平成2000年判定第60139号(以下「本件判定請求」という。)請求の趣旨は、請求人が製造販売してきたイ号物件に係る「ベッド」が、実用新案登録第1908777号(以下「本件実用新案登録」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものであり、本件実用新案登録及び本件判定請求に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
(1)本件実用新案登録の出願:昭和60年7月19日(実願昭60-110734号)
(2)本件実用新案登録の出願公告:平成3年6月4日(実公平3-25780号)
(3)実用新案権の設定の登録:平成4年5月26日
(4)本件判定請求:平成12年10月13日差出
(5)上申書(イ号物件を示すカタログ)(請求人):平成12年11月15日付け
(6)答弁書(被請求人):平成12年12月4日付け
(7)判定事件弁駁書:平成12年12月19日付け
(8)検証物提出書:平成12年12月20日
(9)口頭による審尋:平成12年12月20日
(10)口頭審理:平成12年12月20日
なお、平成12年12月20日期日の口頭審理において、判定請求人は、検甲号証1に係るベッド(平成12年11月15日付け上申書に添付したカタログの「New PA-5000 HOSPITAL BED SERIES」の「A タイプボード」に相当する。)が本件判定請求に係るイ号物件であって、判定請求書に添付されたイ号物件の説明書及び添付図面は、本件イ号物件の参考説明書・図面である旨、陳述した。

〔2〕本件実用新案登録に係る考案
本件実用新案登録に係る考案(以下「本件考案」という。)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された「鋼板、合成樹脂板等の表面平滑な床板の端縁あるいはその他の任意の個所に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着してなり、これにより床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止するようにしたことを特徴とするマットレスの滑り落ち防止機構を備えたベッド。」にある。

〔3〕当事者の主張
1.請求人の主張(請求の趣旨・理由)
請求人は、イ号物件は本件実用新案登録の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものであって、判定請求書において、イ号物件と本件考案を対比し、概要、以下のとおり主張する。
「(5)イ号物件と本件登録実用新案との対比
1)共通点
イ号物件も、本件登録実用新案も、ベッド床板に、滑り落ち防止部材を複数個付着するという観念的な点では、共通している。
2)相違点
しかしながら、具体的には、イ号物件の構成は、背上げ、脚上げ機能を持たせるために、背部床板(1)、臀部(2)、大腿部床板(3)、並びに脚部床板(4)を順次配置したベッドの床板において、背部床板(1)及び大腿部床板(3)並びに脚部床板(4)には、複数の長孔(5)を有する細長い窪み部(6)を、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し、臀部床板(2)には、一つの長孔(7)を備えた長い窪み部(8)を、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し、しかして、ベッド床板全体において、多数の凹凸部を形成すると共に、前記臀部床板(2)及び大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群を形成したずれ防止部材(9)を上面に取り付けた構成のベッドである。
このように、イ号物件は、床板のほぼ全面にわたって、凹凸部を構成しており、この凹部に、マットレスが落ち込む状態になり、これが、全体として、マットレスの滑り落ち防止効果を生じさせている。イ号物件は、臀部床板(2)及び大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群からなるずれ防止部材(9)を付加して、マットレスの硬さによっては、前記すべり落ち込みによるずれ防止効果が減少するのに対応している。
本件登録実用新案は、表面平滑な床板に、表面ギザギザな滑り防止片を複数個付着することである。即ち、表面平滑な床板及び表面ギザギザな滑り防止片が、本件登録実用新案を構成づける本質的構成要件である。
(6)イ号物件が本件登録実用新案の技術的範囲に属しない理由
1)本件登録実用新案においては、前記した通り、「従来は、すのこ状に床板を構成して、その隙間にマットレスを落ち込ませて、マットレスのずれを防止していたが、これでは、製造が厄介であり、且つマットレスが傷つきやすいという欠点があった」と述べ、また、その他随所に、「表面平滑な床板を使用しても、ぎざぎざにより、マットレスは、傷つかず、ずれ落ちず、よって、表面平滑な床板を、プレス成形できるので、製造が容易である」旨述べている。かかる点からみても、表面平滑な床板は、本件登録実用新案においては、本質的な構成要件の一つである。
イ号物件は、床板のほぼ全面にわたって、凹凸部を構成しており、この凹部に、マットレスが落ち込む状態になり、これが、全体として、マットレスの滑り落ち防止効果を生じさせると共に、イ号物件は、臀部床板(2)及び大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群からなるずれ防止部材(9)を付加して、マットレスの硬さによっては、前記すべり落ち込みによるずれ防止効果が減少するのに対応させている。
イ号物件は、床板の全体に、凹凸部を形成して、その凹部にマットレスが落ち込むように構成して、マットレスのずれを防止するように構成したから、その意味においては、イ号物件における床板は、本件登録実用新案が、従来例として、説明しているすのこ状床板と、機能的には、同様である。
2)イ号物件の構成は、このように、本件登録実用新案の、前記本質的な構成要件の一つである表面平滑な床板を採用しておらず、この構成要件を充足していない。」
また、判定請求人は、本件実用新案登録の技術的範囲に関して、同じく判定請求書において、概要、以下のとおり主張する。
「甲第1号証の如く、本件登録実用新案の出願日以前に、既に、ベッド敷台を構成するすのこ板にギザギザを設けて、マットレスのすのこ上におけるずれを防止することが開示されている。このような技術は、本件登録実用新案の出願日以前に開示されている公知の技術である。・・・このような、技術が、甲第1号証により、出願前に公知である以上、本件登録実用新案の技術的範囲は、明細書に記載されたそのままに、解釈されなければならず、拡張性を持った解釈は、許されない・・・。」
証拠方法
甲第1号証:実公昭57-40844号公報
検甲証1:イ号物件に係るベッド
検甲証2:ベッドの床板
その他、参考資料として、被請求人が請求人に対して、総額41億1270万円の損害賠償請求ないし不当利得返還請求を求めた平成12年6月29日付けの内容証明郵便(写し)を提出した。

2.被請求人の主張(答弁の趣旨・理由)
被請求人葉、イ号物件は本件実用新案登録の技術的範囲に属する、との判定を求めるものであって、請求人の上記主張に対して、被請求人は、判定事件答弁書において、概要、以下のとおり主張する。
「本件考案は、「鋼板、合成樹脂板等の表面平滑な床板の端縁あるいはその他の任意の個所に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着してなり、これにより床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止するようにしたことを特徴とするマットレスの滑り落ち防止機構を備えたベッド」に特徴を有する。すなわち、本件考案は表面がぎざぎざな滑り防止片を床板端縁、あるいはその他の任意の個所に複数個付着するという構成を採用し、このぎざぎざの滑り止め作用により、プレス成形によって容易に製作された表面平滑な床板を使用するにもかかわらず、マットレスを傷付けることなくマットレスの床板からの滑り落ちを防止し、しかも床板の製造が容易である、という効果を奏するものである。(乙第1号証第2ページ第4欄第7?13行)。
(2)上述本件考案にかかるベッドは要するに、
(a)マットレスを載置すべき床板が表面平滑である。
(b)この床板の端縁あるいはその他の任意の個所に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着する。
(c)これにより、表面平滑な床板を使用するにもかかわらず、床板上に載置されたマットレスは滑り防止片のぎざぎざな面と接触して滑り落ちが防止される。
の(a)、(b)、(c)に特徴を有するものである。
(3)一方、判定請求書に添付されたイ号図面並びにその説明書に示されるベッド(以下、「イ号物件」という)は判定請求書の「イ号物件の説明書」第1?8行にあるように、「背部床板(1)、臀部床板(2)、大腿部床板(3)、並びに脚部床板(4)を順次配置したベッドの床板において、背部床板(1)及び大腿部床板(3)並びに脚部床板(4)には、複数の長孔(5)を有する細長い窪み部(6)を、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し、臀部床板(2)には、一つの長孔(7)を備えた長い窪み部(8)を、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し」た床板であって、さらに、判定請求書のイ号図面中、特に斜視図にあるように、床板の臀部床板(2)および大腿部床板(8)の部分の両端縁に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片(イ号図面のずれ防止部材9に相当する)をそれぞれ2個づづ付着した床板を有するベッドである。
(4)ここで、本件考案とイ号物件を比較すると、イ号物件は床板の端縁に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片(ずれ防止部材9)を複数個付着すること、ならびに、この滑り防止片により床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止することについて本件考案と同じある。したがって、イ号物件は本件考案の前記第1項に示される特徴(b)および(c)を備え持ち、この点、本件考案と一致する。
次に、イ号物件の床板が本件考案の前記特徴(a)、すなわち、マットレスを載置すべき床板が表面平滑な床板であるかについて以下のとおりに検討する。
(5)ベッドは通常、床板上にマットレスを配置して構成される。このようなベッドにおいて、床板面が平滑な場合には、患者等の伏床者の動きによってマットレスが床板から滑り落ちることがあり、特に病院用ベッドでは、伏床の患者が身体不自由者であったり、重病患者である場合には、患者がマットレスと共にベッドから滑り落ちる危険性があり、大変に危険である。(乙第1号証第1ページ第1欄第14?21行)
そこで、このようなマットレスの滑り落ちを防止するために、従来、短冊状の細長い板を間隔をあげて複数個並列してすのこ状に形成し、これをベッドの床板として使用する方法が採用されていた。このようなすのこ状の床板では、短冊の隙間にマットレスが落ち込んで滑り止めとなり、これによりマットレスの滑り落ちを防止していた。(乙第1号証第1ページ第1欄下から第5行?第2欄第1行)
しかし、上述のすのこ状床板では、製造が厄介であるのみならず、マットレスが傷付きやすいという欠点を有しており、プレス成形により容易に製作しうる表面平滑な鋼板等の使用が強く望まれていた。(乙第1号証第1ページ第2欄第2?6行)
すなわち、すのこ状床板では、マットレスが短冊の隙間に落ち込んで滑り落ちが防止されるものの、
(イ)マットレスが傷つきやすい。
(ロ)製造が厄介である。
という欠点がある。
この欠点を解消するためには、
(ハ)床板にマットレスが落ち込むような隙間がないこと。すなわち、表面に隙間がなく、平滑であること。
(ニ)プレス成形により容易に製作し得ること。
が必要である。
しかし、このような表面平滑な床板では、プレス成形で製作されるため製造が容易となるが、マットレスが床板から滑り落ちるという欠点を有するのである。
本件考案はこのような観点に基づいて開発されたベッドであって、プレス成形により製作された鋼板、合成樹脂板等の表面平滑な床板端縁あるいはその他の任意の個所に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着することにより、プレス成形による表面平滑な床板を使用するにもかかわらず、マットレスを傷つけることなく、マットレスの床板からの滑り落ちを防止し、しかもプレス成形のため、床板の製造が容易となる。
したがって、本件考案における「表面平滑な床板」とは乙第1号証の記載から明白なように、従来のすのこ状床板との対比において用いられた用語であって、 (A)プレス成形により製作され、すのこ状床板のようにマットレスが落ち込むような隙間がない。
(B)マットレスが床板面にきっちりと接触する。
(c)このため床板に滑り防止片を容易に付着し得る。
の要件を備えた床板であり、単に言葉上の「表面平滑」を意味するものではない。
(6)ここで、イ号物件の床板を検討すると、イ号物件の床板もまた、
(A)プレス成形により製作され、すのこ状床板のようにマットレスが落ち込むような隙間がない。
(B)マットレスとの接触面がつるつるな平滑である。
(C)このため、床板に滑り防止片を容易に付着し得る。
の要件を備えた床板である。
なお、イ号物件の床板はイ号図面に示されるように、長孔(5または7)を有する細長い窪み部(6または8)を複数個備えて構成される。この横断面、例えば、臀部床板(2)の横断面を示すと、添付図面(乙第2号証)のようになる。乙第2号証図面はイ号物件における臀部床板(2)の表面にマットレスを載置し、マットレスと、滑り防止片、長孔(7)および窪み部(8)との接触状態を表した横断面図である。
乙第2号証において、窪み部(8)は幅がわずかに6.5cm、深さが0.9cmであり、この中に幅2.5cm、長さ5cmの小さな長孔(7)を有するものである。このような長孔(7)および窪み部(8)はいずれも幅がわずかであり、たとえこれらが複数個配列されても、従来のすのこ状床板の隙間とは全く異なり、これら長孔(7)や窪み部(8)の中にマットレスが落ち込むことは到底考えられない。すなわち、マットレスは乙第2号証に示されるように、窪み部(8)に橋かけしたように飛び越えてしまい、窪み部(8)や長孔(7)に落ち込むことはなく、床板面にきっちりと接触する。
さらに、マットレス上に患者等の伏床者が乗って荷重が加わっても、マットレスは乙第3号証に示されるように、窪み部(8)にわずかに沈む程度であって、やはり窪み部に橋かけしたように飛び越えてしまい、窪み部(8)や長孔(7)に落ち込むことはない。
したがって、これら窪み部(8)や長孔(7)がマットレスの滑り落ち防止に寄与することはあり得ない。しかも、床板面にはイ号物件に示されるように、滑り防止片が容易に付着される。
さらに、窪み部(6または8)はイ号図面から明白なように、側壁が下方から上方に向けてテーパー状に拡がっており、このようなテーパー状ではマットレスの滑りが益々加速される。マットレスの滑り落ち防止に寄与するものは乙第2号証および乙第3号証に示されるように、滑り防止片である。すなわち、滑り防止片の表面のぎざぎざがマットレスと接触するため、このぎざぎざによってマットレスの滑り落ちが防止される。このことは請求人の製品カタログKA-7000シリーズ(乙第4号証)に「ベッドへの乗り降りやギャッチ操作の繰り返しで生じるマットレスのズレを防ぎます。」とあるとおりである。
なお、これらの長孔(5または7)および窪み部(6または8)はこれら孔から空気を導入し、窪み部を通して床板とマットレスの間に空気を送り、むれを防止するための通気孔、あるいは強度を増加するための溝であって、決してマットレスの滑り落ちを防止するためのものではない。このこともまた、乙第4号証の「通気孔を設けて、ボトム面全体の通気性を高めました。」の記載、請求人の製品カタログKA-500シリーズ(乙第5号証)の「強度を増すために縦横に溝を配し、通気性を良くするために穴があげられています。」の記載、さらには、請求人の製品カタログKA-7000SERIES(乙第6号証)の「軽く優れた強度の鋼板製です。しかも、通気性を良くするために穴があげられています。」の記載のとおりである。
また、イ号物件の床板は長孔や窪み部を有するにもかかわらず、プレス成形により容易に製作し得るものである。
したがって、イ号物件の床板は上述(A)、(B)および(C)の要件をことごとく備え、本件考案と同様、上述第1項(a)に示されるプレス成形により容易に製作し得る「表面平滑な床板」の範疇に属する床板である。
(7)判定請求書の請求の理由に対する反論
1)第8ページ下から3行乃至最下行(第4ページ第13?16行も同様の記載)、「しかして、ベッド床板全体において、多数の凹凸部を形成すると共に、前記臀部床板(2)および大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群を形成したずれ防止部材(9)を上面に取り付けたベッド」について。
長孔および窪み部を部分的に拡大してみれば、これらは請求人の述べるとおり確かに凹凸である。しかし、床板を全体的に観察すれば、乙第2号証に示されるように、これら凹凸は窪み部(8)の幅が極めて小さくてほぼ平滑であり、しかも長孔(7)も小さく、このため、マットレスはこれら長孔(7)や窪み部(8)を橋がけして飛び越えてしまい、この中に落ち込むことはなく、床板とぴったりと接触する。したがって、これら長孔(7)や窪み部(8)はマットレスの滑り落ちを防止するものではなく、本件考案における「表面平滑」の範疇である。
なお、「突起群を形成したずれ防止部材(9)」は本件考案にかかる「表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片」である。「ずれ防止」も「滑り防止」も同じである。「滑る」から「ずれ」が生じるのである。
2)第4ページ第17?22行(第5ページ第10?15行も同様な記載)、「このように、イ号物件は、床板のほぼ全面にわたって、凹凸部を構成しており、この凹部に、マットレスが落ち込む状態になり、これが、全体として、マットレスの滑り落ち防止効果を生じさせている。イ号物件は、臀部床板(2)及び大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群からなるずれ防止部材(9)を付加して、マットレスの硬さによっては、前記すべり落ち込みによるずれ防止効果が減少するのに対応している。」について。
イ号物件において、長孔や窪み部にマットレスが落ち込むことはあり得ない。(乙第2号証および乙第3号証参照)。したがって、これらがマットレスの滑り落ち防止効果を生じさせることはない。イ号物件において、マットレスの滑り落ち防止効果を生じさせるのは「表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片」(ずれ防止部材(9))である。(乙第2号証および乙第3号証参照)。また、上述のとおり、「ずれ防止」も「滑り防止」も同じである。
3)第5ページ第16?20行、「イ号物件は、床板の全体に、凹凸部を形成して、その凹部にマットレスが落ち込むように構成して、マットレスのずれを防止するように構成したから、その意味においては、イ号物件における床板は、本件登録実用新案が、従来例として、説明しているすのこ状床板と、機能的には、同様である。」について。
イ号物件において、上述のとおり、床板の長孔や窪み部にマットレスが落ち込むことはない。(乙第2号証および乙第3号証参照)。したがって、これらがマットレスのずれを防止するようなことはあり得ない。上述のとおり、「ずれ」も「滑り」も同じである。
また、イ号物件の床板は「すのこ状床板」ではない。「すのこ状床板」では、マットレスが短冊状の細長い板間の隙間に落ち込んで滑り落ちが防止されるが、イ号物件では乙第2号証および乙第3号証のとおり、長孔および窪み部にマットレスが落ち込むことは絶対にあり得ず、これら長孔や窪み部がすのこ状床板と機能的に同じとなることはない。長孔や窪み部は上述のとおり、床板とマットレスの間に空気を送り込んでむれを防止したり、強度を増す機能を有するものである。
4)第5ページ下から第3行?最下行(第6ページ第2?5行も同様な記載)、「イ号物件の構成は、このように、本件登録実用新案の、前記本質的な構成要件の一つである表面平滑な床板を採用しておらず、この構成要件を充足していない。」について。
イ号物件の床板は上述したとおり、本件考案の「表面平滑な床板」の範疇である。
証拠方法:
乙第1号証:実公平3-25780公報(本件実用新案登録の出願公告公報)
乙第2号証:イ号物件における臀部床板(1)にマットレスを載置しマットレスと滑り防止片、長孔(7)および窪み部(8)との接触状態を表した横断面図
乙第3号証:乙第2号証ベッドのマットレス上に伏床者が乗ったときのマットレスと滑り防止片、長孔(7)および窪み部(8)との接触状態を表した横断面図
乙第4号証:請求人の製品カタログKA-7000シリーズ
乙第5号証:請求人の製品カタログKA-500シリーズ
乙第6号証:請求人の製品カタログKA-7000SERIES

3.請求人の弁駁
上記被請求人の答弁に対して、請求人は、平成12年12月19日付け判定事件弁駁書において、以下のとおり弁駁する。
「イ号物件が、本件登録実用新案の本質的な構成要件のひとつである「表面平滑な床板」という構成を採用していない理由を、以下補足致(する)。
a.イ号物件においては、床板のほぼ全面に窪み部(8)が形成されているため、マットレスの底面と、床板との接触面積は、小さくなります。この接触面積が小さくなればなるほど、最大静止摩擦力が大きくなります。つまり、マットレス上に位置する人間の荷重は、その接触面積だけで支持することになるからです。この最大静止摩擦力が大きくなることが、イ号物件の床板において、マットレスのずれ防止効果があることの理論的な根拠の一つです。
例えば、多数の孔が設けられているパンチングメタルに、平手を押しつけると、孔の部分に相当する手の平の部分は、白くなり、荷重を受けているその周囲は、赤くなります。白い部分には、荷重がかからず、赤い部分に荷重がかかり、それを、そのまま、動かそうとすると、表面平滑な板を動かすよりも、動きにくくなります。これは、最大静止摩擦力が大きくなっているからです。
b.マットレス上に人間の荷重がかかると、マットレスは、床板との接触している部分だけで、その荷重を受け変形します。即ち、前記した赤い部分だけで全部の荷重を受けますので、白い部分は、下方に押しやられます。即ち、マットレスの底面に凹凸部が生じ、つまり、落ち込みが生じ、窪み部(8)のエッジに引っかかり現象が生じて、マットレスが、動きにくくなるのです。
このように、窪み部(8) によってマットレスの底面に凹凸部が生じることが、イ号物件において、マットレスのずれ防止効果があることの理論的な根拠の他の一つです。
マットレスは、柔らかめのものから、硬めのものまで、ありますが、いずれにしましても、マットレスは、金属板ではなく、人間が仰臥して、心地よさの、硬さでありますから、前記したa,bの理由が成立するのです。
以上の理由から、イ号物件は、床板自体に、滑り止め効果を持たせる構成を採用しており、本件登録実用新案の「表面平滑な床板」という本質的構成要件を充足しておりません。
本件登録実用新案における「表面平滑な床板」という構成要件の概念は、床板の表面が平らで、それ自体は、滑り止め効果を持つような構成を有していないという概念であります。
(2)本件登録実用新案の「従来の技術」として説明している「すのこ状の床板」が、滑り止め防止効果があるのも、前記したa、bの理論的根拠と全く同じであります。
(3)被判定請求人の答弁書第4ページ中頃に、「イ号物件の床板は、マットレス上に人間が乗っても、乙第3号証に示すように、マットレスは、窪み部(8) に、僅かに沈む程度であって、窪み部(8) に橋かけしたように、飛び超えてしまい、窪み部(8)や長孔(7)に落ち込むことはない」と主張して、「沈む」ことと、「落ち込む」ことを分けて説明しております。そして、ここで、重要なことは、イ号物件が「沈む」ことを、乙第3号証によって、被判定請求人目身も認めているということです。しかしながら、「沈む」ことと、「落ち込む」ことを分けて説明することの意味、即ち、技術的意味が分かりませんが、マットレスが、窪み部(8)に、沈んでいるということは、マットレス底面と、床板との接触面積が小さくなっていることであり、最大静止摩擦力は、大きくなっていて、動きにくくなっているということであります。
また、沈んでいれば、マットレスの底面に凹凸部が生じると共に、沈んだ部分が、窪み部(8) のエッジに引っかかり、動きにくくなるのは、理論的に、明白であります。
このような理由から、被判定請求人の前記主張は、到底容認できません。」

〔4〕当審の判断
1.本件考案について
(1)本件考案の構成について
本件考案は、その明細書の実用新案登録請求の範囲に記載とおりのものであり、これを分説すると、
A 鋼板、合成樹脂板等の床板を有するベッド。
B 床板が表面平滑。
C 床板の端縁あるいはその他の任意の個所に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片が複数個付着されてなる。
D これにより床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止するようにした。
E マットレスの滑り落ち防止機構を備えたベッド。
にある。
(2)本件考案の課題及び作用効果について
本件考案の課題及び作用効果は、明細書の考案の詳細な説明中の記載によれば、以下のとおりである。
「ベッドは通常、床板上にマットレスを配置して構成される。このようなベッドにおいて、床板面が平滑な場合には、患者等の伏床者の動きによってマットレスが床板から滑り落ちることがあり、特に病院用ベッドでは、伏床の患者が身体不自由者であったり、重病患者である場合には、患者がマットレスと共にベッドから滑り落ちる危険性があり、大変に危険である。」(公告公報第1頁第1欄第14?21行)
「前述のマットレスの滑り落ちを防止対策として従来、短冊(状)の床板を複数個並べてすのこ状に形成し、これをベッドの床板として使用する方法が採用されていた。このようなすのこ状の床板では、短冊の隙間にマットレスが落ち込んで滑り止めとなり、これによりマットレスの滑り落ちを防止していた。」(同第1頁第1欄第22行?第2欄第1行)
「しかし、上述のすのこ状床板では、製造が厄介であるのみならず、マットレスが傷付きやすいという欠点を有しており、プレス成形により容易に製作しうる表面平滑な鋼板等の使用が強く望まれていた。」(同第1頁第2欄第2?6行)
「しかして、本考案の目的は鋼板、合成樹脂板等の表面平滑な床板を使用するの(に)もかかわらず、マットレスの滑り落ちを防止し得る、前述の公知技術に存する欠点を改良した、特に病院用ベッドとして最適なベッドを提供することにある。」(同第1頁第2欄第8?12行)
「以上のとおり、本考案は、床板面に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着したから、表面平滑な床板を使用するの(に)もかかわらず、ぎざぎざの滑り止め作用によりマットレスを傷付けることなくマットレスの床板からの滑り落ちが防止され、しかも床板の製造が容易である。」(同第2頁第4欄第7?13行)

2.イ号物件について
(1)イ号物件の構成について
イ号物件は、判定請求人が提出した検甲号証1、及びこれに加えて、平成12年11月15日付け上申書に添付したカタログ、判定請求書に添付されたイ号物件の参考説明書・図面を参酌すると、以下の構成のものであると認められる。
a 床板が背部床板(イ号物件の参考説明書・図面の1)、臀部床板(同2)、大腿部床板(同3)、脚部床板(同4)の各部材から構成され、各部材が鋼板製の、キャスター付きのギャッチベッドである。
b 床板には、1列6個の窪み部(同(8))付きの開孔(「イ号物件の参考説明書・図面」にいう長孔(5))が、背部床板(1)に5列、臀部床板(2)に1列、大腿部床板(3)に2列、脚部床板(4)に3列、それぞれ形成されている。
c 床板を構成する臀部床板(2)、大腿部床板(3)の幅方向の両端縁の上面に、表面に突起群が形成されたマットレスズレ止めが各2片取付けられている。
(2)イ号物件の作用効果について
イ号物件は、上記構成からなるものであって、以下の作用効果を奏することになるものと認められる。
d 「マットレスズレ止め」によって、床板上に配置されるマットレスの滑り落ちを防止することができる。
e 鋼板をプレス成形して製造でき、床板の製造が容易で、マットレスを傷つけることもない。なお、判定請求人が平成12年11月15日付け上申書に添付して提出したイ号物件を示すカタログの「機能説明」の「鋼板プレスボトム」の説明中には、鋼板「プレス」ボトムであることが示されている。
f その他(通気性がよい、ベッドメイキングがしやすい、耐久性・耐薬品性に優れる、搬送が楽など)。

3.本件考案とイ号物件との対比
(1)本件考案の構成A、C、D、Eについて
イ号物件は、鋼板製の床板からなるベッドであって、表面に突起群が形成されたマットレスズレ止めは本件考案の「表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片」に相当し、マットレスの滑り落ちを防止するようにしたものであると認められるから、イ号物件が、本件考案の構成要件A、C、D、Eを充足することは明白であり、この点は当事者間に争いもない。
(2)本件考案の構成B(床板が表面平滑)について
1)判定請求人は、イ号物件が本件考案の構成要件Bを充足しないと主張する根拠として、
「イ号物件は、床板のほぼ全面にわたって、凹凸部を構成しており、この凹部に、マットレスが落ち込む状態になり、これが、全体として、マットレスの滑り落ち防止効果を生じさせると共に、イ号物件は、臀部床板(2)及び大腿部床板(3)の幅方向の両側において、突起群からなるずれ防止部材(9)を付加して、マットレスの硬さによっては、前記すべり落ち込みによるずれ防止効果が減少するのに対応させている。・・・その凹部にマットレスが落ち込むように構成して、マットレスのずれを防止するように構成したから、その意味においては、イ号物件における床板は、本件登録実用新案が、従来例として、説明しているすのこ状床板と、機能的には、同様である。」という。
2)しかしながら、イ号物件の床板には、溝(「イ号物件の参考説明書・図面」の符号(6),(8)、以下同じ)中に穴(5),(7)が多数形成されているから、これらを「凹部」ということができるとしても、床板に「凸部」は何ら形成されていないので、判定請求人がいうように、イ号物件が床板のほぼ全面にわたって「凹凸部」を構成したものであるということはできない。
3)次に、イ号物件の床板の穴(5),(7)は、判定請求人が平成12年11月15日付け上申書に添付して提出したイ号物件を示すカタログ(「機能説明」の「鋼板プレスボトム」の説明)や、被請求人提出の乙第4?6号証の記載(穴が通気性をよくするものであることが記載されている)を考慮すれば、通気性の向上を主たる目的として形成されているものというべきであり、溝(6),(8)は床板部材の強度を増すためのものであると認められる(なお、乙第5号証「KA-500シリーズ」の「鋼板絞りボトム」の項には、強度を増すために縦横に溝を配した旨記載されている)。
前記カタログ中の説明も考慮すれば、マットレスの滑り落ち防止(マットレスのずれを防止)は、もっぱら、床板部材とは別途設けられた「マットレスズレ止め」によってさせることを意図したものであることが明白である。
4)この点、判定請求人の主張は、商品カタログには明記されていないとしても、事実上凹部にマットレスが落ち込み、マットレスの滑り落ち防止効果が生ずるものであるというものと思われる。
たしかに、マットレス上に位置する人間の加重によってマットの一部が若干床板の溝(6),(8)に若干沈むことはあり得る(乙第3号証の状態)が、イ号物件の溝(6),(8)はマットレスを溝に落ち込ませて滑り落ちを防止させるような形状・構造が採用されているものとは認められない。
したがって、「凹部にマットレスが落ち込む状態になり、これが全体としてマットレスの滑り落ち防止効果を生じさせる」という判定請求人の主張には到底首肯することができない。
5)また、判定請求人は、甲第1号証を引証するとともに、本件登録実用新案の技術的範囲は明細書に記載されたそのままに解釈されなければならず拡張性を持った解釈は許されない、と主張する。
もとより、登録実用新案の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものであって、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して解釈すべきものである(実用新案法26条・特許法71条1?2項)。また、リパーゼ判決として著名な最高裁平成3年3月8日判決(民集45巻3号123頁)は、発明の要旨認定に関するものであるが、特許請求の範囲の記載が一義的に明確に理解することができないとか、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない、と判示している。
ところで、「平滑」とは「平らでなめらかなこと」(広辞苑)であるから、実用新案登録請求の範囲の床板が表面平滑である点は、床板の表面が全体として平らでなめらかなことと解することができる。そして、ベッドの床板を表面平滑に形成することは一般的に行われていることであり、一方、ベッドもこ通気性を付与するために床板に多数の小穴を開けることも、これまた広く行われていることであり、穴開きの床板が、穴が開いていることによって「表面平滑」に含まれないとすることはできない。
イ号物件の床板は、表面に非平滑化加工がされたものではないので、全体として表面平滑であるとするのが相当である。
なお、明細書の考案の詳細な説明の記載を斟酌したとしても、従来例として短冊状の床板を複数個並べてすのこ状に形成したベットの床板が説明され(公告公報第1頁第1欄第22行?第2欄第1行)、「すのこ状床板では、製造が厄介であるのみならず、マットレスが傷付きやすいという欠点を有しており、プレス成形により容易に製作しうる表面平滑な鋼板等の使用が強く望まれていた。」(同第1頁第2欄第2?6行)「しかして、本考案の目的は鋼板、合成樹脂板等の表面平滑な床板を使用するの(に)もかかわらず、マットレスの滑り落ちを防止し得る、前述の公知技術に存する欠点を改良した、特に病院用ベッドとして最適なべッドを提供することにある。」(同第1頁第2欄第8?12行) 「以上のとおり、本考案は、床板面に、表面がぎざぎざな面で形成された滑り防止片を複数個付着したから、表面平滑な床板を使用するの(に)もか わらず、ぎざぎざの滑り止め作用によりマットレスを傷付けることなくマットレスの床板からの滑り落ちが防止され、しかも床板の製造が容易である。」(同第2頁第4欄第7?13行)と説明されているので、短冊状の床板を複数個並べてすのこ状に形成したベットの床板が本件実用新案の技術的範囲に属しないとはいえても、これとは構成・機能において相違するイ号物件を同様に扱うことは適切でない。
6)そして、判定請求人が引証した甲第1号証によって本件実用新案の技術的範囲の解釈が左右されるものであるとは到底認められない。
そもそも判定制度は、特許発明(登録実用新案)の技術的範囲について、特許庁がその高度な専門的技術的知見を生かし厳正中立なる立場から公的な見解を表明する制度であるが、鑑定的な性格をもつにとどまり法的拘束力はなく、行政不服審査法(1条2項)にいう「行政庁の処分その他22巻4号936頁)のであるから、特許権(実用新案権)侵害訴訟における権利濫用の法理や過度の限定解釈を判定に持ち込むことは妥当でない。
7)これらによれば、イ号物件の床板は全体として表面平滑であるというべきであって、本件考案の構成要件Bも充足する。

〔5〕以上のとおりであるから、イ号製品は、本件実用新案登録に係る考案の技術的範囲に属するものとして解するのが相当である。
よって結論のとおり判定する。
別掲 イ号物件の参考説明書・図面(請求人提出のもの)

添付図面に示すように、背挙げ、脚上げ機能を持たせるために、背部床板(1)、臀部床板(2)、大腿部床板(3)、並びに脚部床板(4)を順次配置したベッドの床板において、背部床板(1)及び大腿部床板(3)、並びに脚部床板(4)には、複数の長孔(5)を有する細長い窪み部(6)、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し、臀部床板(2)には、一つの長孔(7)備えた長い窪み部(8)、その長手方向をベッドの長手方向に向けて、その複数本をベッドの幅方向に平行に配置し、しかして、ベッド床板全体において、多数の凹凸部を形成すると共に、前記臀部床板(2)及び大腿部床板(3)幅方向両側において、突起群を形成したずれ防止部材(9)を上面に取り付けたベッド



判定日 2001-01-11 
出願番号 実願昭60-110734 
審決分類 U 1 2・ 9- YB (A61G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西川 正俊  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 佐藤 洋
熊倉 強
登録日 1992-05-26 
登録番号 実用新案登録第1908777号(U1908777) 
考案の名称 マツトレスの滑り落ち防止機構を備えたベツド  
代理人 三觜 晃司  
代理人 染谷 仁  
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