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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B41J
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) B41J
管理番号 1036061
審判番号 審判1999-35686  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-24 
確定日 2001-02-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第1939711号の実用新案登録無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 平成11年審判第35544号 登録第1939711号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。平成11年審判第35686号 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 A.平成11年審判第35544号

1.手続きの経緯と本件考案
本件実用新案登録第1939711号に係る考案(昭和58年10月21日出願、平成4年11月25日設定登録。)は、実用新案訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載の次のとおりのものである。(以下「本件考案」という。)
「キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに印字ヘッドのアップダウン連動して熱転写リボンの巻取り力を断続しヘッドダウンの時にのみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにし、前記印字ヘッドをダウンさせて印字を行なう際には、その印字開始位置より手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、前記印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにしてなる片方向に印字する熱転写プリンタであって、
前記空送りを少なくとも1文字分の空送り量とし、ダウンしている印字ヘッドをアップ後この印字ヘッドをダウンさせて同じ行を印字する際に、指定された印字開始位置に応じてその印字開始位置より手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、
前記印字ヘッドを前記空送り量分空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにした熱転写プリンタ」

2.請求人の主張
[無効理由1]
本件考案は、検甲第3号証に示す、本件考案の出願前に日本国内において公然実施をされた型名PC-8824、製造番号3501865LAの日本電気株式会社製熱転写プリンタ(以下、「実機」という。)の構成と同一であり、本件考案は実用新案法第3条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由2]
本件考案は、検甲第3号証に示す、本件考案の出願前に日本国内において公然実施をされた、実機をその内の1つとする型名PC-8824の熱転写プリンタの構成と同一であり、本件考案は実用新案法第3条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.被請求人の主張
上記実機は、本件考案の出願前に日本国内において公然実施をされたものではないし、実機をその内の1つとする型名PC-8824の熱転写プリンタも本件考案の出願前に日本国内おいて公然実施されたものではないから、本件考案は実用新案法第3条第1項第2号には該当せず、無効とされるべきものではない。

4.証拠
平成12年12月6日に特許庁の審判廷で実施した検甲第3号証に係る実機の検証の結果、
実機は次の構成を有する。
(1)キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行うとともに印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻き取り力を断続し、ヘッドダウンの時のみ熱転写リボンの巻き取りを行うようにし、
(2)前記印字ヘッドをダウンさせて印字を行う際には、その印字開始手前に前記印字ヘッドをダウンさせ、前記印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにしてなる片方向に印字する熱転写プリンタである。
実機は、次のような印字動作をする。
(1)キャリッジリターンが指令された後、キャリッジに設けられたサーマルヘッド発熱素子は印字開始位置から少なくとも一文字分以上手前の位置に移動して停止する。
(2)印字ヘッドがダウンする。
(3)印字ヘッドの設けられたサーマルヘッド発熱素子は、前記ダウンした位置からキャリッジの移動に伴い、少なくとも一文字分以上空送りされ、印字開始位置に移動する。
(4)前記印字開始位置からサーマルヘッド発熱素子により印字が開始される。
(5)同一行で一定のスペース(空白部)がある場合に、ヘッドダウン状態のサーマルヘッドを一旦ヘッドアップさせ、ヘッドアップ状態でのキャリツジの移動が指令された後、キャリッジは、このキャリッジに設けられたサーマルヘッドの発熱素子がそのスペースの次に印字すべき位置の少なくとも一文字分以上手前の位置に位置するまで移動して、停止する。
(6)サーマルヘッドがダウンする。
(7)キャリッジは移動を開始し、キャリッジに設けられたサーマルヘッドの発熱素子は、当該キャリツジの移動に伴い、前記ダウンした位置から少なくとも一文字分以上空送りがされた後、実際に印字をすべき印字開始位置に移動する。
(8)前記印字開始位置からサーマルヘッドの発熱素子により印字が開始される。

5.構成の対比
本件考案を検甲第3号証にかかる実機と対比すると、両者間に相違はない。

6.当審の判断
本件考案と検甲第3号証にかかる実機との構成の同一性については両当事者間に争いはなく、もっぱら検甲第3号証にかかる実機もしくは実機をその内の1つとする型名PC-8824の熱転写プリンタが、本件考案の出願前に公然実施されたものかどうかが争われているので、その点について判断する。

(1)日本電気株式会社(以下[NEC]という。)の型名PC-8824の熱転写プリンタはいつ頃販売されたか。
a)甲第10号証は1983年(昭和58年)8月に発行されたコンピュータ関連の「ASCII」という雑誌であり、ここに実機と同一型名であるPC-8824の熱転写プリンタについて販売元であるNECの宣伝が掲載されていること。
b)甲第11号証は1983年(昭和58年)10月1日に発行されたコンピュータ関連の「ASCII」という雑誌であり、そこには編集部による「ビジネスクオリティ 高印字品質プリンタ」という記事があり、その中に「5月のビジネスショーにおいて、日本電気から、PC-8800シリーズ及びPC-9800シリーズ用に、2種の低価格の24ドットプリンタが発表された。」、「そこでものは試しと、従来の機種用のソフトを新しいプリンタを接続して帳票をまず打出してみることにした。使用したのは、超低価格のPC-8824で、これをPC-9801のシステムにつないでみた。」とあること。
c)甲第8号証及び9号証はそれぞれ、1983年(昭和58年)6月または7月に発行されたエレクトロニクス関連の「I/O」という雑誌であるが、その中に「アイテム」によるPC-8824の販売、宣伝がなされていること。
以上のことを合わせ考えると、NECの型名PC-8824という熱転写プリンタは、遅くとも本件考案の出願日である昭和58年10月21日以前に日本国内において販売されたものとみることができる。

(2)遅くとも昭和58年10月21日以前に日本国内において販売されたNECの型名PC-8824と検甲第3号証にかかる実機との関係
実機の銘板には、型名として「PC-8824」、製造番号として「3501865LA」が付られていて、この製造番号の意味するところは、甲第26号証の東京地方裁判所民事第47部法廷で実施された田村武夫の証言によれば、この実機が1983年(昭和58年)5月に1865番目の製品としてLで示される工場で、最初の仕様で製造されたものである。
甲第8号証、9号証、10号証に記載されているように、6月、7月、8月とPC-8824の販売の宣伝がなされ、その間販売を停止するような事情変更があったことを窺わせる事実もないことから、昭和58年5月に製造された実機はこの宣伝の時期、あるいは遅くとも昭和58年10月21日以前に販売されたNECの型名PC-8824の熱転写プリンタの内の一つであるとみるのが自然である。
これに対して被請求人は次の(3)に上げるように実機には不自然な部分があることを根拠に、実機は本件考案の出願後に変更されて現在の印字動作をするようになった旨主張しているが、(4)に上げる被請求人の主張に対する当審の見解で述べるように、被請求人の主張する実機の不自然な部分は、いずれも実機が本件考案の出願後に変更されて現在の印字動作をするようになったことを裏付けるものではない。
むしろ以下に上げるPC-8824の開発時期の技術水準やPC-8824に関するレポート記事からみて、実機をその内の1つとするNECの型名PC-8824は販売当初から実機の印字動作をしたものとみることができる。
すなわち、PC-8824の開発時期であると考えられる昭和57年頃には、併合した別件の平成11年審判35686号において証拠として提出された甲第3号証乃至11号証に記載されているように、シリアルプリンタにおいて所定の印字品質を確保するために、駆動モータの起動時に、印字ヘッドを保持するキャリッジが所定の安定した速度になるまで印字をしない助走区間を設けることが知られていた。
NECの型名PC-8824の熱転写プリンタのように、駆動モータの起動時にキャリッジの慣性に加えてさらにインクリボンの巻き取り機構の慣性も加わるものにあっては、なおさら駆動モータの起動時に印字をしない助走区間を設けることが必要であり、リボンの緩みによる印字品質の低下について認識していたかどうかはともかくとして、駆動モータの起動時に印字をしない助走区間を設けること、NECの型名PC-8824の熱転写プリンタのようにキャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行うものにあっては駆動モータの起動時に空送りすることは、上記開発時点における技術水準からみてすでに考えていたとみるのが自然であること。
甲第11号証の編集部によるレポート記事である「ビジネスクオリティ 高印字品質プリンタ」には、「そこでものは試しと、従来の機種用のソフトを新しいプリンタを接続して帳票をまず打出してみることにした。使用したのは、超低価格のPC-8824で、これをPC-9801のシステムにつないでみた。・マルチプラン マルチプランの出力は全て通常の漢字コードのみを使っているため、上図のように、全く問題なく美しい帳票が出力できる。」(第287頁中欄及び右欄)とあり、レポート記事の中で改行した第1文字や、同一行においてスペースを空けた場合の第1文字目の印字品質に問題があるとの評価もないし、また、上図の印字例である帳票をみても改行した第1文字や、同一行においてスペースを空けた場合の第1文字目の印字品質に問題があるとすることはできないから、編集部で試行のために購入したPC-8824は本件考案のような印字動作をしていたとみるのが自然であること。なお、この帳票の図面は、記事の文脈上、読者にPC-8824による印字に問題ないことを理解させようとするものであるから、実際の印字を再現したものとみることができる。

(3)被請求人の反論
(a)PC-8824が認定の動作をするようになったのは、本件考案の出願後である。その根拠は以下の通りである。
本件考案は、発売当初のPC-8824において実施されていた技術ではなく、改良技術として後から追加実施されたものである。・・・当時書かれた文書である本件実用新案の明細書の記述自体が、本件考案が発売当初のPC-8824の改良としてなされた、当時の事実を反映している。(答弁書第6頁)
PC-8824の駆動モータがヘッドを上図実線のように急速に加速するものであることは、PC-8824においてヘッドダウン後直ちに印字開始することが可能であったことを示している(答弁書第9頁)。
変更前のPC-8824の動作は、ほぼ印字開始位置でヘッドを停止し、その位置でヘッドをダウンさせ、その位置からキャリッジの駆動を開始すると同時に印字も開始するものである。(平成12年12月6日の口頭審理調書)
(b)実機のROMには1.4と付されており、これは発売後4回目のバージョンである。
(c)実機の大きな主回路基板はフラックスが洗浄されて裏面がきれいになっていて、横河電機の工場の生産ラインで作られたままのものではないことが明らかである。又、実機の大きな主回路基板に回路素子(抵抗)を実装する方法が横河電機のワークマンシップスタンダードに従って実装されたものではないから、検甲第3号証の大きな主回路基板は工場で製造された時のままのものでない。
(d)実機の現在のフォントがユーザーズマニュアルの2-15頁に掲載されているものと異なり、実機は現在、その製造当時とは異なるフォントを有している。
(e)PC-8824のサーマルヘッドにゴムキャップが装着されているが、サービスマニュアルにはゴムキャップのない図が描かれている。このことは、ゴムキャップがサービスマニュアルの発行日である昭和58年8月より後に装着されるようになったことを示している。

(4)被請求人の主張に対する当審の見解
(a)については、登録実用新案権者のような特許等管理組織のある法人が、自らが公然実施した考案を実用新案登録出願することは考えにくいことであるが、考えにくいからといってそのことを根拠に、実機をその内の1つとするPC-8824が、本件考案の出願日の前後で、明細書の従来技術に記載されているヘッドダウン後直ちに印字開始するものから、1文字分の空送りしてから印字開始するものに変更されたとすることはできない。
また、実機の駆動モータが加速性に優れたものであり、ヘッドダウン後直ちに印字開始することができる構成を備えているからといって、変更の可能性が否定できないというだけで、それだけで変更した根拠とはならない。
さらに、技術的にみて、本件考案の出願前に販売されていたものが印字品質を確保するための上記平成11年審判35686号において証拠として提出された甲第3号証乃至11号証に記載されている周知技術を採用していないとは考えにくいこと。
以上のことから、出願明細書の記載や実機の構成を根拠として、実機をその内の一つとするPC-8824が、本件考案の出願後にその印字動作が変更されたものであるとすることはできない。

(b)については、ROMに付されている1.4が発売後4回目のバージョンであることを立証するため被請求人は、乙33号証の横河電機株式会社の甲府品証部の小又次雄の陳述書を提出している。
しかしこの陳述書は被請求人である実用新案権者の従業員の陳述であること、なぜ1983年(昭和58年)当時のラベル表記の方法であるといえるのかが不明であること、仮に陳述通りのラベル表記だとしても、被請求人が主張するように発売当初頻繁にロットアウトが生じていたということからみて、実機の製造時において既に4回目のバージョンであった可能性も否定できないこと、さらに、4回目のバージョンであったとしても、そのことによって直ちに印字動作を制御するプログラムが変更されたとはいえないことから、ROMに1.4とバージョンアップ情報が付されていることをもって、実機が本件考案の出願後に本件考案の印字動作をするように変更されたものであるとすることはできない。

(c)については、フラックスを洗浄しないことが横河電機の工場における基準であったことを立証するものがないこと、及び乙34号証添付の「ワークマンシップスタンダード」はそのPAGE 01に84-08-13に改訂がなされた旨の記述があり、1983年(昭和58年)5月頃の「ワークマンシップスタンダード」に「部品本体は取付穴のほぼ中央に取り付けられていること(図4)」との記載があったかどうか不明であること、さらに仮に大きな主回路基板が製造後に交換されたものであるとしても、そのことをもって直ちに印字動作を制御するプログラムが変更されたとはいえないことから、大きな主回路基板がフラックスが洗浄されていること及び回路素子のリード線の長さが異なることを根拠に、実機が本件考案の出願後に本件考案の印字動作をするように変更されたものであるとすることはできない。

(d)については、甲第11号証にASCIIの編集部によって印字された帳票の印字結果をみてみると、算用数字の「3」のフォントがユーザーズマニュアルのセルフプリントの算用数字「3」と明らかに異なる。フォントを途中で交換する理由もないから、ユーザーズマニュアルの方が別のフォントを格納したプリンタでセルフプリントしたものを掲載した可能性があるし、仮に実機においてフォントが格納されたROMを交換したとしても、そのことを根拠に、実機が本件考案の出願後に本件考案の印字動作をするように変更されたものであるとすることはできない。

(e)については、サービスマニュアルにはネジ1本まで表記されているから、サーマルヘッドのゴム製キャップがサービスマニュアルの発行された時点では装着されていなかったという主張は合理的である。しかし、仮にそうであったとしても、サーマルヘッドはそれ自体独立して交換可能であり、そのことを根拠に実機が本件考案の出願後に本件考案の印字動作をするように変更されたものであるとすることはできない。

(f)まとめ
(a)で述べたように、本件考案の出願の事実をもって、実機をその内の1つとするPCー8824が出願の前後で印字動作に変更があったとすることはできないし、(b)乃至(e)において述べた点は、それらの点を全て合わせて考えたとしても、実機が本件考案の出願後に本件考案の印字動作をするように変更されたものである根拠とすることはできず、被請求人の主張は採用できない。

(5)公然実施に関するまとめ
以上のことから、実機をその内の1つとするNECの型名PC-8824という熱転写プリンタは、本件考案の出願前に日本国内において公然実施をされたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件考案は、本件考案の出願前に公然実施をされた、実機をその内の1つとするNECの型名PC-8824という熱転写プリンタと同一の考案であり、平成5年改正前の実用新案法第3条第1項第2号に該当するから、同法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、平成11年審判第35544号の結論のとおり審決する。

B.平成11年審判第35686号
1.手続きの経緯と本件考案
平成11年審判第35544号の「1.手続きの経緯と本件考案」で述べたとおりである。

2.請求人の主張
[無効理由1]
本件考案は、特開昭56-62184号公報(甲第1号証)または特開昭58-90978号公報(甲第2号証)に記載された考案に、甲第3号証乃至甲第12号証に示されている従来技術を単に組み合わせたものにすぎないものであって、当業者がきわめて容易に考案することができた程度のものであり、実用新案法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであるから、同法37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
[無効理由2]
本件考案は、その明細書の記載において意味が不明瞭な部分があり、また、当業者が印字スピードを上げるために実施するには不十分な記載であって、実用新案法第5条第3項の規定を満たしていないため、同法37条第1項第3号の規定により無効とすべきものである。

3.被請求人の主張
被請求人の答弁の趣旨及び答弁の理由は、平成12年3月17日付の答弁書に記載されたとおりで、答弁の理由の要旨は、甲第1号証には本件考案の特徴である「空送り動作」は何ら記載されていない。甲第2号証ではヘッドアップ時にリボンの僅かなたるみが生じるという本件考案の課題が生じない。甲第3号証乃至甲第11号証に記載のものは、いずれもキャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻き取りを行なうような構成のプリンタではないので、これらにはもともと本件考案の「空送り動作」の概念は存在していない。
以上のことから、本件考案は甲第1?13号証からきわめて容易に考案できるものではない。
また、本件考案当時の技術水準においては文字の大きさは自由に選択することはできず、標準的な大きさが存在した。「1文字分のから送り量」は本件考案の明細書の記載を根拠とするもので、その意味はこの開示に照らして十分理解することが可能である。
また、印字スピードを上げることは本件考案の構成の目的とする効果ではないから、そのための工夫についての記載は求められる事項ではない。
以上のことから、明細書の記載に不備はない。

4.無効理由1(実用新案法第3条第2項違反について)
証拠
(1)甲第1号証記載の考案
キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続しヘッドダウンの時のみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにし、かつ、行の途中で印字を行わない空隙があった場合は、印字ヘッドをアップさせてキャリッジを移動させることでインクリボンの無駄な消費を防止する熱転写プリンタ。

(2)甲第2号証記載の考案
キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに、印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンに対して動作するリボン押えを設け、ヘッドダウンの時のみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにし、かつ、行の途中で印字を行わない空隙があった場合は、印字ヘッドをアップさせるとともに、熱転写リボンをリボン押さえで挟持して熱転写リボンが巻き取られないようにすることでインクリボンの無駄な消費を防止する熱転写プリンタ。

(3)甲第3号証乃至甲第11号証記載の考案
シリアル型プリンタにおいて、記録ヘッドの移動速度が加速領域を経て一定速度になってから印字を開始すること。

(4)甲第12号証
プリンタの駆動回路よりモータON信号が入ると、モータが回転を始め、離脱工程に停止していたヘッドが移動し、ヘッドが圧着工程に入る。紙端より約6mmの位置までヘッドが移動したとき、リードスイッチがONになり、この信号により印字が開始される。(第172頁右欄下から5行?末行)

(5)甲第13号証
パルスモータPMYに所定パルスを印加したらパルスモータPMYを停止する。再び、印字命令がワードプロセッサWPよりプリンタ制御部PCに印字命令が印加されると、プランジャ111の通電を遮断しバネの作用でサーマルヘッド101、圧接ローラ107、108によりテープ103を記録紙115に圧接し印字を開始する。(公報第3頁右上欄16行?左下欄4行)

5.対比
[甲第1号証との対比]
本件考案と甲第1号証記載の考案を対比すると、次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともに印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続し、ヘッドダウンの時にのみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにした片方向に印字する熱転写プリンタであって、ダウンしている印字ヘッドをアップ後この印字ヘッドをダウンさせて同じ行を印字する熱転写プリンタ。
(相違点)
本件考案が「印字ヘッドをダウンさせて印字を行なう際には、その印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにし、ダウンしている印字ヘッドをアップ後この印字ヘッドをダウンさせて同じ行を印字する際にも、指定された印字開始位置に応じてその印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドを空送り量分空送りして所定の印字開始位置まで移動させる」ようにしているのに対して、甲第1号証記載の考案は、ダウンさせる位置や空送りについて何ら言及していない点。
(相違点の検討)
甲第1号証乃至13号証には熱転写プリンタにおいて、「印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させる」点について記載されていない。
また、甲第1号証にはヘッドをダウンさせるに先立ってキャリッジを停止させることが記載されていないし示唆もされていないから、甲第3号証乃至13号証に記載されているように「シリアル型プリンタにおいて、停止状態から移動開始した記録ヘッドの移動速度が、加速領域を経て一定速度になってから印字を開始すること」が周知であったとしても、甲第1号証記載の考案に周知技術を組み合わせる誘因となるものがない。
したがって上記相違点は当業者が容易に考えつくことができた構成の変更であるとすることはできない。
これに対して請求人は、キャリッジの駆動力を利用してインクリボンの巻取りを行なうシリアル式の熱転写プリンタでは、キャリッジに対する負荷変動の発生や熱転写リボンに対する負荷の変化により走行が不安定になるから、印字する際にキャリッジが停止した状態でヘッドダウン動作を行い、その後キャリッジを移動させて印字を開始する必要があったから、甲第1号証記載の考案も当然にこのような動作をするものであり、そのことを前提に甲第3号証乃至13号証に記載されている周知技術を組み合わせれば本件考案が構成される旨主張している。
しかし、キャリッジの駆動力を利用してインクリボンの巻取りを行なうシリアル式の熱転写プリンタにおいて、キャリッジが停止した状態でヘッドダウン動作を行なうことが甲第1号証や甲第2号証に記載されていないしその点が周知でもない以上、甲第1号証記載の考案が当然のこととしてキャリッジが停止した状態でヘッドダウン動作を行なうものであるとの前提のもとで、引き続くキャリッジの走行開始時において甲第3号証乃至13号証記載の周知技術を組み合わせることがきわめて容易である旨の請求人の主張は採用できない。

[甲第2号証との対比]
本件考案と甲第2号証記載の考案を対比すると、次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
キャリッジの駆動力を利用して熱転写リボンの巻取りを行なうとともにヘッドダウンの時にのみ熱転写リボンの巻取りを行なうようにした片方向に印字する熱転写プリンタ。
(相違点)
(1)本件考案が「印字ヘッドのアップダウン連動して熱転写リボンの巻取り力を断続」するものであるのに対して、甲第2号証記載の考案は「印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンに対して動作するリボン押えを設け、ヘッドアップの時は熱転写リボンをリボン押さえで挟持して熱転写リボンが巻き取られないようにし、ヘッドダウンの時のみ熱転写リボンの巻き取りを行なうようにし、かつ、行の途中で印字を行わない空隙があった場合は、印字ヘッドをアップさせるとともに、熱転写リボンをリボン押さえで挟持して熱転写リボンが巻き取られないようにする」ものである点
(2)本件考案が「印字ヘッドをダウンさせて印字を行なう際には、その印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させるようにし、ダウンしている印字ヘッドをアップ後この印字ヘッドをダウンさせて同じ行を印字する際にも、指定された印字開始位置に応じてその印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドを空送り量分空送りして所定の印字開始位置まで移動させる」ようにしているのに対して、甲第2号証記載の考案は、ダウンさせる位置や空送りについて何ら言及していない点。
(相違点の検討)
相違点(1)については、印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続する点は甲第3号証乃至13号証にも記載されていないから、この点が当業者が極めて容易に考えつくことができた構成の変更であるとすることはできない。
相違点(2)については、「印字ヘッドをダウンさせて印字を行なう際には、その印字開始位置より少なくとも1文字分手前に印字ヘッドをダウンさせ、印字ヘッドをその分だけ空送りして所定の印字開始位置まで移動させる」点について甲第3号証乃至13号証にも記載されていない。
また、甲第2号証にはヘッドをダウンさせるに先立ってキャリッジを停止させることが記載されていないし示唆もされていないから、甲第3号証乃至13号証に記載されているように「シリアルプリンタにおいて、停止状態から移動開始した記録ヘッドの移動速度が、加速領域を経て一定速度になってから印字を開始すること」が周知であったとしても、甲第2号証記載の考案に周知技術を組み合わせる誘因となるものがない。
さらに、甲第2号証記載の考案は印字ヘッドのアップダウンに連動して熱転写リボンの巻取り力を断続するものではなく、常にキャリッジの駆動力が熱転写リボンを巻き取る力として作用しているものであるから、本件考案の解決すべき課題である熱転写リボンのゆるみが生じる余地はなく、リボンの緩みの観点から本件考案の相違点(2)に係る構成とすることがきわめて容易であるとすることができない。
したがって、甲第2号証記載の考案に甲第3号証乃至13号証記載の考案を組み合わせて本件考案の相違点(2)に係る構成とすることが、当業者がきわめて容易に考えつくことができたことであるとすることはできない。

6.無効理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件考案は甲第1号証乃至13号証記載の考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

7.無効理由2(実用新案法第5条違反について)
(1)特許請求の範囲中の「1文字分の空送り量」について
訂正明細書の考案の詳細な説明において、「本考案の熱転写プリンタは、熱転写リボンのたるみによる印字不良が、ヘッドダウン後の最初の印字部分に限られることに着目し、」(公報第28頁左欄第17行?19行)とあるように、本件考案は少なくとも1文字分空送りすれば印字不良は起こらないとの発想に基づくもので、1文字の大きさが自由に選択できる場合にあっても、本件考案はその選択された1文字の大きさ以上の空送りをさせるというものであるから、その構成は明瞭である。
(2)考案の詳細な説明に「印字スピードを上げるための具体的な工夫」が記載されていないについて
まず、考案の詳細な説明中に同じ行を印字する場合に印字ヘッドをアップダウンさせる構成については具体的な記載がある。
印字ヘッドをアップダウンさせることと印字スピードを上げることの関連については記載されていないが、本件考案は印字スピードを上げることを課題として、そのための解決手段を提供するものではないから、印字スピードを上げるための具体的な工夫が記載されていないからとして、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の構成が記載されていないとすることはできない。
8.無効理由2のまとめ
以上のことから、本件考案に係る出願が平成5年改正前の実用新案法第5条第3項及び4項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、平成11年審判第35686号の結論のとおり審決する。
審決日 2000-12-14 
出願番号 実願昭58-163037 
審決分類 U 1 112・ 112- Z (B41J)
U 1 112・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 小沢 和英
番場 得造
登録日 1992-11-25 
登録番号 実用新案登録第1939711号(U1939711) 
考案の名称 熱転写プリンタ  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 久保田 伸  
代理人 七字 賢彦  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 尾崎 英男  
代理人 秋野 卓生  
代理人 和田 聖仁  
代理人 飯田 秀郷  
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