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審決分類 審判 全部申し立て   F16B
管理番号 1036071
異議申立番号 異議2000-74258  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-21 
確定日 2001-03-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第2604678号「グロメット」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2604678号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 I.本件考案
本件実用新案登録第2604678号(平成4年9月18日出願、平成12年3月17日設定登録。)の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、願書に添付した明細書および図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】 貫通孔を有するとともに、モールを取り付け可能でかつ前記貫通孔と同軸で立設されたねじ収容部を有する装着部と、前記ねじ収容部とは反対側の面において前記貫通孔を取り囲むようにして配され、かつ開脚方向への撓み変形可能に形成されかつボディ側に穿孔された取り付け孔へ仮嵌め可能な脚部と、前記ねじ収容部に収容され前記貫通孔を通して前記脚部側へねじ込まれたときの脚部の開脚動作によってボディ側への本止めを可能とするねじと、を具備してなるグロメットであって、 前記ねじ収容部の内壁面は前記ねじのねじ込み操作を案内する案内面となっているとともに、ねじ収容部の開口端からは軸方向に肉抜きが形成され、さらに前記ねじ収容部内における前記貫通孔の周縁には前記ねじの頭部によって圧潰可能なシール縁が突出形成されていることを特徴とするグロメット。

II.実用新案登録異議申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人 大島 信久は、本件の出願前に頒布された刊行物として甲第1号証である実願平1-101412号(実開平3-39607号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)、甲第2号証である実願昭54-134424号(実開昭56-54311号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)及び甲第3号証である米国特許第3,313,083号明細書(以下、「刊行物3」という。)を提示し、本件考案は刊行物1乃至刊行物3に記載された考案に基づいて、本件考案の出願前に考案の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下、当業者という。)がきわめて容易に考案することができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができないから、実用新案登録を取り消すべきである旨、主張している。

III.刊行物1乃至刊行物3に記載された考案
1.刊行物1に記載された考案
イ.「スクリュウグロメット10について詳しく説明すると、第1図、第2図に示される如く矩形板状の頭部22の周縁一辺から上方(第1図、第2図)に向けて係止片24が突出されているとともに頭部22の下面(第1図、第2図下側の面)からその下方(第1図、第2図下方)に脚部26が突出されている。頭部22には、第9図にも示される如く略中央部に貫通孔28が形成され、この貫通孔28を通してタッピングスクリュウ12が螺合されるようになっている。」(7頁16行?8頁6行)
ロ.「係止片24は中間部が略直角に屈曲されて先端部が頭部22の上方(脚部26の反対側)で頭部22から離れる方向に延出されている。この係止片24の両側部からは細幅の突片36が互いに離れる方向に突出し、これらは両者間の間隔が先端にかけて徐々に拡がっている。この係止片24には、第3図にも示される如く突片36の突出側と反対側の中間部に凹部38が形成されている。凹部38は突片36と共にモール14の係止用となっている。」(9頁18行?10頁7行)
ハ.「脚部26は第3図、第4図にも示される如く 頭部22の貫通孔28と同軸的に連通する中空部を有した断面四角形状の筒状で、頭部22の貫通孔28を通して内側にタッピングスクリュウ12が挿入されるようになっている。」(10頁15行?19行)
ニ.「ボデーパネル18の取付孔20への脚部26の挿入時には、爪60が脚部26の内側に弾性変形しつつボデーパネル18の取付孔20を通過し、これによってボデーパネル18の取付孔20に脚部26が挿入される。ボデーパネル18の取付孔20への脚部26の挿入状態では、ボデーパネル18の取付孔20を通過した後の爪60の形状復元によつて、第5図に示される如く爪60が脚部26の内側から外側に突出し、爪60によって脚部26の抜き出しが阻止される。したがつて、ボデーパネル18の取付孔20への脚部26の挿入によって脚部26の抜き出しが阻止されてボデーパネル18に仮止めされる。ボデーパネル18の取付孔20に脚部26を挿入後は、ねじ部材48の螺合孔56に第6図に示される如くタッピングスクリュウ12が螺合される。ねじ部材48の螺合孔56にタッピングスクリュウ12が螺合されると、めねじ部材48が脚部上方(頭部22に接近する方向)に移動し、この移動によって脚部26の小突起46の斜面54に爪60が当接して押し拡げられ、この移動と変形で爪60が押し拡げられた状態でボデーパネル18の裏面に当接して爪60と頭部22との間にボデーパネル18を狭持し、これによってモール14がボデーパネル18に取りつけられる。」(19頁11行?20頁16行)
ホ.「この貫通孔28の周囲には頭部22の上面(第1図、第2図上側の面)から径の異なる二個の小径筒部30、32が同軸的に且つ略同等高さに突出されているとともに小径筒部30、32の周囲にリブ34が突出されている。小径筒部30、32はタッピングスクリュウ12の頭部よりも小径で、頭部22の貫通孔28へのタッピングスクリュウ12の挿入時に先端にタッピングスクリュウ12の頭部が当接してタッピングスクリュウ12の挿入量を制限するとともにタッピングスクリュウ12の非螺合状態における挿入限でタッピングスクリュウ12の頭部に指を引っ掛けて容易にタッピングスクリュウ12を抜き出し可能とするようになっている。また、小径筒部30、32は薄肉で、タッピングスクリュウ12の螺合状態で先端にタッピングスクリュウ12の頭部が当接してタッピングスクリュウ12のゆるみ止めとして作用されるようになっている。タッピングスクリュウ12の螺合状態では小径筒部30、32がタッピングスクリュウ12の締め付け力で変形することもある。」(8頁6行?9頁6行)
ヘ.「リブ34によってタッピングスクリュウ12の頭部が包囲されてタッピングスクリュウ12の頭部に他の周辺部材や作業時に作業者の指等が引っ掛かることがない。」(21頁1行?4行)
以上の記載事項並びに明細書及び図面の全記載からみて、刊行物1には、以下の考案(以下、「引用考案」という。)が記載されているものと認めることができる。
貫通孔28を有するとともに、モール14を取り付け可能でかつ上面に突出されたリブ34を有する頭部22と、前記リブ34とは反対側の面において前記貫通孔と28と同軸的に連通する中空部を取り囲むようにして配され、かつ開脚方向への撓み変形可能に形成されかつボデイパネル18側に穿孔された取付孔20へ仮止め可能な爪60とめねじ部材48を収容する脚部26と、前記リブ34に収容され前記貫通孔28を通して前記脚部26側へねじ込まれめねじ部材48が上方に移動して爪60とめねじ部材48を収容する脚部26がボディパネル18に当接したときの爪60の開脚動作によってボディパネル18側への取付を可能とするタッピングスクリュー12と、を具備してなるスクリューグロメット10であって、 前記リブ34の高さはタッピングスクリュー12の挿入限でタッピングスクリュー12頭部に周辺部材等が引っ掛からないような高さとなっていて、さらに前記リブ34内における前記貫通孔28の周縁には前記タッピングスクリュー12の頭部が当接してタッピングスクリューの挿入量を制限する薄肉の小径筒部30、32が突出形成されていることを特徴とするスクリューグロメット10。

2.刊行物2に記載された事項
「グロメツト本体20は、第1図に示す従来のスクリューグロメツト1と同一形状、即ち、略中央部にボルト挿通孔4を有する円形鍔状の頭部2と、この頭部2の裏面に上記ボルト挿通孔4を挟んで突出された一対の脚部3とから成るものであるが、上記頭部2の上面にはその周縁部に固着された筒状部23が設けられると共に、脚部3の先端部には内方に向かつて突起24が突設されている。」(4頁14行?5頁2行)

3.刊行物3に記載された事項
「第14図を参照しつつファスナーの僅かな変更形状を説明すると、環状体28a’は、相当の弾性を付するために細い溝が付されており、環体の外表面は、支持パネルに取り付けられた状態で保持される、例えば、モールディングM、あるいはプラスチックキャップCのような部材の相互作用によるスナップ止めに適応する傾斜状のカム面44(第15図)を備えている。」(5欄15行?22行参照)

IV.本件考案と刊行物1乃至刊行物3に記載された考案との対比・判断
本件考案と引用考案を対比すると、引用考案の「環通孔28」は本件考案の「環通孔」に相当し、以下同様に、「モール14」は「モール」に、「貫通孔28と同軸的に連通する中空部」は「貫通孔」に、「取付孔20」は「取り付け孔」に、「仮止め」は「仮嵌め」に、「ボデイパネル18」は「ボディ」に、「取付孔20」は「取り付け孔」に、「爪60とめねじ部材48を収納する脚部26」は「脚部」に、「タッピングスクリュウ12」は「ねじ」に、「スクリューグロメット10」は「グロメット」に、「取付け」は「本止め」に、それぞれ相当するものと認められるので、本件考案と引用考案には、下記のとおりの一致点及び相違点があるものと認められる。
[一致点]
貫通孔を有するとともに、モールを取り付け可能でかつ反対側の面において前記貫通孔を取り囲むようにして配され、かつ開脚方向への撓み変形可能に形成されかつボディ側に穿孔された取り付け孔へ仮嵌め可能な脚部と、前記貫通孔を通して前記脚部側へねじ込まれたときの脚部の開脚動作によってボディ側への本止めを可能とするねじと、を具備してなるグロメット。
[相違点]
相違点(1).本件考案は、「前記貫通孔と同軸で立設されたねじ収容部を有する装着部」の構成を具備しているのに対して、引用考案は「前記貫通孔28を包囲して設けられたリブ34を有する頭部22」の構成を備えている点。
相違点(2).本件考案は、「前記ねじ収容部の内壁面は前記ねじのねじ込み操作を案内する案内面となっている」構成を具備しているのに対して、引用考案はそのような構成を備えていない点。
相違点(3).本件考案は「ねじ収容部の開口端からは軸方向に肉抜きが形成され、」た構成を具備しているのに対して、引用考案はそのような構成を備えていない点。
相違点(4).本件考案は、「前記ねじ収容部内における前記貫通孔の周縁には前記ねじの頭部によって圧潰可能なシール縁が突出形成されている」構成を具備しているのに対して、引用考案はそのような構成を備えていない点。
上記相違点について検討する。
相違点(1)について、
引用考案の貫通孔28を包囲して設けられたリブ34は、貫通孔と同軸で立設されたねじ(ねじ頭部)収納部とは認められないが、刊行物2に記載された考案には、ボルト挿通4(貫通孔)と同軸の筒状部23が立設され、ねじ(ねじ頭部)収納部となっているものが開示されているので、相違点(1)は格別のものとは認められず、当業者が適宜成し得たものと認める。
相違点(2)について、
本件考案は、「ねじ収容部の内壁面は前記ねじのねじ込み操作を案内する案内面となっている 」構成を有することにより、グロメットを現場へ搬入する場合、ねじがねじ収容部によつて取り囲まれており、搬入途上でねじ同士が直接ぶつかり合うことがないため、ねじの脱落が防止される。また、脚部をボディの取り付け孔へ仮嵌めした後に、ねじをねじ込む場合には案内面によってねじ込み動作が案内されるため、ねじは直立姿勢のまま螺進し脚部を正規の状態で拡開させる。したがつて、ボディに対する良好な係着状況が得られる。等の明細書記載の作用効果を奏するものでるから、上記相違点2に係る本件考案の構成は、刊行物1または刊行物2に記載の考案から当業者がきわめて容易に成し得たものとは認められない。
相違点(3)について、
本件考案の「ねじ収容部の外壁の一部にU字状の溝部を形成し、」ねじ収容部8の拡開方向への撓み変形を許容した点は、刊行物3に記載された考案における環状体28a’は、螺子34の収納部を構成していると共に、細い溝が付されていることからみて 、環状体28a’の拡開方向への撓み変形を許容しているものと認められるので、相違点(3)は格別のものとは認められず、当業者が適宜成し得たものである。
相違点(4)について、
刊行物1に記載された考案の薄肉の小径筒部30、32は、明細書に開示されたように主として、タッピングスクリュウ12のゆるみ止めとして作用するのに対して、本件考案のシール縁7は、ねじ5の頭部5aがフランジ片4まで至ると、シール縁7が全周に沿って圧潰されるものであり、シールゴム14および潰されたシール縁7によってボディパネルBに対するシールがそれぞれ達成される等の刊行物1に記載された考案の小径筒部30,32による前記作用効果と異なる明細書記載の作用効果を奏するものであるから上記相違点4に係る本願考案の構成は、刊行物1に記載の考案から、当業者がきわめて容易に成し得たものとは認められない。

以上相違点で述べた事項を整理し、本件考案の課題も述べ作用効果を総合判断すると、従来のグロメットでは以下のような問題点があった。第1の問題点は、現場へ搬入されたグロメットの中にはねじ32の仮締め不足が原因で、脱落しているものがある、と言う点が挙げられる。これはねじ32が高く突出しているため、搬入途上でぶつかり合いやすいためであり、逆にこれを回避すべくねじ32を深く締め込んでおいたのでは、脚部31は拡開状態となってボディの取り付け孔へ差し込みができない場合が生じる。このようなことから、軽度のぶつかり合いであっても比較的容易に脱落を起こすことになっていた。第2の問題点はねじ32を仮締めする際に斜めにねじ込まれることがあり、その結果ねじ32が傾斜姿勢で取り付くことがあり、現場でそのまま本締めを行えば、脚部に対して斜めに入り込むなど、正規の固定がなされずボディに対する十分な係着力が得られない、という点である。
そこで、本件考案はこうした問題点に鑑みて開発工夫されたものであり、上記相違点(2)に係る構成を採用することにより、ねじの脱落を防ぎ、かつ良好な係着状況を実現するグロメットを提供するために、ねじ収容部によってねじ手段を取り囲むようにしたため、ねじ手段の脱落を有効に規制することができる。また、ねじ込み動作が案内されるようにしたため、直立姿勢でのねじ込みが可能となり、正規の係着状態が得られる。等の上記相違点の検討の記載でも述べたような所期の作用効果を奏するものであり、また、上記相違点(4)に係る構成を採用することにより、ボディパネルBに対するシールが達成される等の作用効果を奏するものである。
したがつて、本件請求項1に係る考案は、刊行物1乃至刊行物3に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものとは認められない。

V.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議申立ての理由及び証拠によつては本件請求項1に係る実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
異議決定日 2001-02-19 
出願番号 実願平4-71422 
審決分類 U 1 651・ 121- Y (F16B)
最終処分 維持    
前審関与審査官 栗林 敏彦北村 英隆  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 秋月 均
和田 雄二
登録日 2000-03-17 
登録番号 実用新案登録第2604678号(U2604678) 
権利者 株式会社東郷製作所
愛知県愛知郡東郷町大字春木字蛭池1番地
考案の名称 グロメット  
代理人 中村 盛夫  

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