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審決分類 審判 全部申し立て   G11B
管理番号 1036079
異議申立番号 異議1999-75007  
総通号数 18 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-28 
確定日 2001-04-04 
異議申立件数
事件の表示 登録第2596996号「磁気ヘッド」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2596996号の請求項1に係る実用新案登録を取り消す。
理由 [1] 手続きの経緯
本件実用新案登録第2596996号の考案は、平成5年12月29日に出願され、平成11年4月23日に設定登録がされ、その後、実用新案登録異議申立人 持田孝雄より、実用新案登録異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年8月24日に訂正請求がなされ、平成12年10月17日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、権利者からは何らの応答もなかったものである。


[2] 訂正の適否
実用新案登録権者は、実用新案登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1、段落【007】の【課題を解決するための手段】、及び段落【0014】の【考案の効果】に記載されている
「該カット端面の記録媒体接触面に補強ガラス充填部を設けた構成としたこと」を、
「該カット端面が形成された溝を、該磁気ヘッドの記録媒体接触面の該記録媒体進行方向の両端部、及び該記録媒体の幅方向の端部に延在する形状とし、
さらに該溝に補強ガラスを充填して、記録媒体接触面としたこと」と訂正することを求めた。

上記訂正について検討すると、上記訂正は、サイドイレース現象の防止ためのカット端面が形成された溝を、磁気ヘッドの記録媒体接触面の記録媒体進行方向の両端部、及び記録媒体の幅方向の端部に延在する形状としたものである。
これに対して、登録明細書の第1図に磁気ヘッドの形状が示されているが、第1図に示されたとおりのもの(磁気ヘッドの記録媒体接触面の記録パターンが重ね書きされる側のトラックエッジ側に磁気ヘッドの端部に沿って平行に形成した溝を有する)で、磁気ヘッドの記録媒体接触面の記録媒体進行方向の両端部、及び記録媒体の幅方向の端部に延在する形状とした溝についての記載もしくは示唆する記載もない。
登録明細書における磁気ヘッドは、
「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、VTR装置、またはデジタルオーディオテープレコーダ装置等の回転磁気ヘッドにより、ヘリキャルスキャン方式で高密度磁気記録再生を行う磁気記録再生装置に関し、この磁気記録再生装置における磁路に磁性薄膜部を用いた磁気ヘッドに関するものである。」とあるように、ヘリカルスキャン方式で高密度磁気記録再生を行う磁気記録再生装置に用いられるものであり、磁気記録媒体の進行方法に対して斜めに配置された関係にある。
したがって、訂正された「カット端面が形成された溝を、磁気ヘッドの記録媒体接触面の該記録媒体進行方向の両端部、及び該記録媒体の幅方向の端部に延在する形状」とする磁気ヘッドは、第1図に記載された磁気ヘッドにおいて、溝は記録媒体接触面の前後端部とは非平行に、且つトラックエッジ側の磁気ヘッド端部に非平行に形成された形状となり、登録明細書に記載された磁気ヘッドの溝の形状と異なるものとなる。
してみれば、上記訂正は、新たな事項を加えるものであり、また登録明細書に記載された事項の範囲内においてなされていないものであるから、登録明細書の要旨を変更するものである。

当該訂正は、明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とは認められず、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)付則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第115号)(以下、「平成6年改正法」という。)付則第9条第2項の規定により準用され、同付則第10条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項にの規定に違反しているので、当該訂正は認められない。


[3] 実用新案登録異議申立てについての判断
1.本件考案
実用新案登録第2596996号の請求項1に係る考案は、平成12年8月24日付けの訂正が上記「[2]訂正の適否」のとおり認められないので、平成11年4月23日に設定登録された、その実用新案登録請求の範囲に記載された下記のとおりである(以下、本件考案という。)。
「ギヤップ形成部に金属磁性膜を配設した磁気ヘッドにおいて、該磁気ヘッドのギヤップ部におけるトラックエッジのうち、記録媒体に記録パターンが重ね書きされる側のトラックエッジをカット端面とし、該カット端面の記録媒体接触面に補強ガラス充填部を設けた構成としたことを特徴とする磁気ヘッド。」

2.申立の理由の概要
(1)申立人 持田孝雄は、本件考案についての実用新案登録に対して、
証拠として
甲第1号証 特開平1-235012号公報
甲第2号証 特開平5-143925号公報
甲第3号証 特開平2-240806号公報
甲第4号証 特開平3-272005号公報を提出し、本件考案の実用新案登録は第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件考案についての実用新案登録を取り消すべき旨主張している。

(2) 引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由に引用された刊行物
刊行物1:特開平1-235012号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平5-143925号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平3-272005号公報(甲第4号証)

(3) 刊行物に記載された事項
刊行物1には、
「1.磁気記録媒体対接面で斜めに被着される金属磁性膜どうしを突き合わせて磁気ギャップを形成してなる磁気ヘッドにおいて、磁気ギャップの両端部に溝を形成してなることを特徴とする磁気ヘッド。」(特許請求の範囲)と、
「ここで、本発明の特徴は、記録媒体との摺接面16に磁気ギャップ15の両端部、すなわち、トラック幅Tw相当する間隔で2本の平行溝17,17’を形成することである。先ず、この2本の溝17,17’によって、トラック幅Twが正確に規定される。次に、磁気ギャップ15以外での不要の記録再生作用を防止することができる。特にトラック幅Twの端部は対向する合金磁性膜12,12’の距離が近いために記録再生作用が強い。そこで、溝17,17’によって、摺接面の合金磁性膜12,12’の一部を除去してしまう。さらに、この溝17,17’は磁気テープと磁気ヘッドが接触走行中の空気逃げの役目をするため、スペーシング損失の増大を低減する効果がある。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第8行)と、
「本実施例においては、磁気ギャップの両端部に形成された溝17,17’にガラスなどの非磁性材18を充填し、溝のエッジ部で磁気テープにきずを付けないようにしてある。この場合、非磁性材18はフェライトコアより硬度の低い材料を充填する。そして、常にフェライトコア面より凹部19が形成されるようにしておく。このようにすることによって、磁気ギャップ近傍部の合金磁性膜12,12’を保護する役目をする。」(第3頁左下欄第9行?同第17行)と記載されている。

以上の記載及び図面から、刊行物1には、磁気ギャップ以外での不要の記録再生作用を 防止するため、
「ギャップ形成部に金属磁性薄膜を配設した磁気ヘッドにおいて、磁気ヘッドのギャップの両端部にトラック幅に相当する間隔に溝を形成し、溝に補強ガラスを充填した磁気ヘッド。」の考案(以下、刊行物1の考案という。)が記載されていると認められる。


刊行物2には、
「【0010】
このため、上記オーバーライト部106での強い漏洩磁界によって、図24に示すように、先行する磁気ヘッド102で記録されたトラック幅の記録トラック104の一部が消去(サイドイレーズ)されてしまう。以下、サイドイレーズされた同図中斜線で示す領域をグレーゾーン111と称する。この結果、グレーゾーン111が大きくなり、十分なS/Nが確保できなくなる。特に、5μmという狭幅のトラックに対して1μm消去されると、再生出力はそれだけで2dBも低下することになり、できる限りグレーゾーン11の拡大を抑える必要がある。」(第3頁第3欄段落10)と、
「【0014】
【作用】
本発明にかかる磁気ヘッドにおいては、磁気ギャップ形成面とこれと対向する磁気コア半体のコア端面とのなす角度のうち大きい方をオーバーライト側に配しているので、オーバーライト側における金属磁性薄膜のエッジ部からの漏洩磁束はこれと反対側の金属磁性薄膜のエッジ部からの漏洩磁束よりも小さなものとなり、サイドイレーズによるグレーゾーンの発生が抑えられる。」(第3頁第14段落)と記載されている。

刊行物3には、
「そこで、この実施例では、ダイシングソーやワイヤソーを用いてボンディング後に溝を形成し、溝4の側面の連続性を得るようにした。また、こうして得た溝4内に非磁性基板3と異なる非磁性材料を充填することにより、溝4の端部4d(第10図)が媒体摺動面に表われないようにした。」(第3頁左下欄第4行?第9行)と、
「第2図において、磁気コア2は基板5上に薄膜形成され、その上に接着層6を介して補強板7が接着される。摺動面では、磁気コア2の磁極部で磁気ギャップ1が形成されている。磁気コア2の磁極部の両側には、連続する溝4が形成され、これら溝4内に基板5と異なるフォルステライトやSiO2などの非磁性材料が充填されている。」(第3頁右下欄第9行?第10行)と記載されている。
(4) 対比
本件考案と刊行物1の考案を対比すると、両者は記録再生部となる磁路に磁性 薄膜部を使用した磁気ヘッドであり、
前者の「ギャップ部」「カット端面」は、
後者の「ギャップ」,「溝」に対応するから、両者は、
「ギャップ部形成部に金属磁性薄膜を配設した磁気ヘッドにおいて、該磁気ヘッドのギャップ部のトラックエッジをカット端面とし、カット端面に補強ガラス充填部を設けた磁気ヘッド。」で共通し、以下の点で相違する。

相違点
A.カット端面にしたトッラクエッジが、本件考案では記録媒体に記録パターンが重ね書きされる側であるのに対して、刊行物1の考案では両側である点。
B.補強ガラス充填部を設けた面が、本件考案では記録媒体接触面であるのに対して、刊行物1の考案ではフェライトコア面より凹部が形成されている点。
(5) 判断
相違点Aについて
刊行物2には、オーバーライト部での漏洩磁束によって、先行記録された一部が消去(サイドイレーズ)されてしまうことが記載されている。オーバーライトは、本件考案の重ね書きのことであり、重ね書きされる側にはサイドイレーズが発生するため、この側の漏洩磁束を反対側に対して小さなものとすることが記載されている。
刊行物1には、ギャップの漏洩磁束が隣接トラックに不要な記録再生作用を防止するためギャップの両端部に溝を設けることが記載されており、刊行物2に記載された事項より、重ね書きされる側において、サイドイレーズが抑止されていることは明らかである。
これらのサイドイレーズ,不要な記録再生作用はともに、ギャップから隣接トラックへ漏洩する磁束によってもたらされるもので、対策手段も共通することから、刊行物1の考案と刊行物2に記載された事項を組み合わせて、重ね書き側をカット端面としたことは当業者がきわめて容易に推考できたことと認める。

相違点Bについて、
刊行物3に記載された磁気ヘッドには、ギャップの端部を規定する溝が設けられており、サイドイレーズを防止していることは明らかである。また、この溝は媒体摺動面に端部が表れないように低融点ガラスが充填されている。
磁気テープ走行時における磁気ヘッドと磁気テープとの接触により、ヘッド端面や磁気テープへの悪影響を防止するために、テープと磁気ヘッドのトラックエッジとの接触を避ける必要があるが、刊行物1の考案のように凹部を設けてトラックエッジ部とテープが接触しないようにするか、若しくは刊行物3に記載されているようにトラックエッジの端部が表れないようにするかは当業者が適宜選択する事項である。刊行物1の考案において、補強ガラス充填部を設けた面を記録媒体接触面とすることは当業者がきわめて容易に推考できたことと認める。

したがって、本件考案は、刊行物1?3(甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたもので実用新案登録を受けることができない。


[4] むすび
以上のとおりであるから、本件考案に係る実用新案登録は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第1項及び第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2001-01-29 
出願番号 実願平5-76023 
審決分類 U 1 651・ 121- ZB (G11B)
最終処分 取消    
前審関与審査官 竹中 辰利  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 田良島 潔
相馬 多美子
登録日 1999-04-23 
登録番号 実用新案登録第2596996号(U2596996) 
権利者 ミツミ電機株式会社
東京都調布市国領町8丁目8番地2
考案の名称 磁気ヘッド  

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