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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない F25B
管理番号 1039437
審判番号 審判1999-35657  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-11 
確定日 2001-02-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第1901183号実用新案「放熱器」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
本件登録第1901183号実用新案は、昭和56年2月27日に実用新案登録出願され、平成4年4月20日にその設定登録がされたものである。
これに対し、本件請求人である山洋電気株式会社より、平成11年11月11日に、本件登録を無効とする審決を求める旨の審判が請求された。
その後、本件被請求人に対し、平成12年3月10日に上記請求の請求書副本の送達が行われ、その指定期間内である平成12年4月25日に審判事件答弁書及び訂正請求書が提出された。
さらに本件請求人に対し、上記審判事件答弁書及び訂正請求書の副本の送付が行われ、本件請求人より、その指定期間内である平成12年7月25日に審判事件弁駁書が提出された。

2.訂正の適否の判断
(2-1)訂正の内容
上記訂正請求によれば、
(a)願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口していることを特徴とする放熱器。」
の記載を、
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口し、且つ前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対していることを特徴とする放熱器。」
と訂正する。
(b)願書に添付した明細書第4頁第12行?第13行の「図示の実施例では、ファン取付板22の空気吸入孔22aは、」を削除する。
(c)願書に添付した明細書第4頁第13行の「フィン18の内端が」の記載を、「フィン18の内端側部分は、」と訂正する。
(d)願書に添付した明細書第4頁第15行の「露出している。」の記載を、「露出してファン20に軸線方向に相対している。」と訂正する。
(e)願書に添付した明細書第6頁第5行?第6行の「制約されることがない。」の次に、「なお、フィンの空気吸入孔から露出してファンに相対する部分は、吸熱板の中央付近部分で放熱作用が低下することがないようにし、本考案の放熱器の放熱効果の向上を減殺することがない。」を挿入する。
(f)願書に添付した図面第1図を、別紙訂正図面第1図のとおりに訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(訂正事項(a)について)
訂正事項(a)は、実用新案登録請求の範囲の構成に「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」構成を付加する訂正を含むものである。そして、この訂正は、訂正前における考案の目的の範囲内において、フィン(帯状フィン)の内端側の構成を限定し、またファンとの位置関係を特定するものであって、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。さらに願書に添付した明細書の第4頁第9行?第15行には「…空気流れ通路24の内端24bは、ファン取付板22の空気吸入孔22a付近で開口してファン20からの冷却空気の入口となっている。図示の実施例では、ファン取付板22の空気吸入孔22aは、フィン18の内端がファン20からの空気に直接接触するように空気吸入孔22aから露出している。」、同第5頁第5行?第7行には「…吸熱板16に当った空気は、この空気流れ通路24の開いた内端(入口)24bから放射方向に拡がり、…」と記載され、また願書に添付した図面の第1図及び第3図の記載からみて、帯状フィン22の内端側部分は、ファン20からの空気に直接接触するように空気吸入孔22aから露出してファン20に軸線方向に相対していることが明確に記載されているものと認められる。したがって、これらの記載からみて、訂正事項(a)は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、またこの訂正により実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正事項(b)、(c)、(d)について)
訂正事項(b)、(c)及び(d)は、願書に添付した明細書第4頁第12行?第15行の「図示の実施例では、ファン取付板22の空気吸入孔22aは、フィン18の内端がファン20からの空気に直接接触するように空気吸入孔22aから露出している。」の記載を、「フィン18の内端側部分は、ファン20からの空気に直接接触するように空気吸入孔22aから露出してファン20に軸線方向に相対している。」と訂正するもので、この訂正は、実用新案登録請求の範囲を訂正することに伴う訂正であって、明りょうでない記載の釈明に相当する。また上記「(訂正事項(a)について)」で記載したとおり、この訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものと認められ、またこの訂正により実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正事項(e)について)
訂正事項(e)は、実用新案登録請求の範囲を訂正することに伴う訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、本件考案は、放熱効果が高いこと、また全体的に小型化することを目的、効果の1つとするものであり、またフィンは、冷却空気の流れを案内する機能とともに吸熱板からの熱を放熱する機能を有するものである。してみると、フィンの内端側部分を、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対して配置すれば、ファンからの空気に直接接触するフィンの内端側部分により該個所の放熱機能を有することは明らかであり、当該訂正は、訂正前における考案の目的の範囲内においてその構成から自明の事項を記載したものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、またこの訂正により実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(訂正事項(f)について)
この訂正は、願書に添付した図面の第1図において、ファン取付板22に有する空気吸入孔22aの下側を表示すると思われる点線を空気吸入孔22aの上側を表示すると思われる点線と略対照の位置に修正するものである。そして、願書に添付した図面の第1図に記載の空気吸入孔22aの下側を表示すると思われる点線は、第3図の記載からみて誤記と認められれるから、この訂正は、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2-3)独立実用新案登録要件
(刊行物記載の考案)
本件出願前に頒布された刊行物である実公昭51-21601号公報(以下、「刊行物1」という。)には、
「第1図は電子機器を密封するロッカー1の頂面に本考案に係る放熱ユニット2を取付けた構成を示している。放熱ユニット2は図に示すように、ロッカーの1壁部として機能し、ロッカーに取付自在の構成体である。即ち、放熱ユニット2は大きくはユニット本体と放熱用ファン7から成り、このユニット本体はロッカー外壁の構成要素となる放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5から成るファン支持体を含んで構成されており、ガイド板5は上枠板に対し下枠板と称し得る放熱板3と上枠板4を連結している。上記ユニット本体はその中央にモータ6で駆動される放熱ファン7を回転可能に内蔵している。この場合、ファン風路は上枠板4とガイド板5から成るファン支持体と放熱板3との間に形成される。上下枠板の連結フレームであるガイド板5は夫々ファン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し、上枠板の吸込口4aからファン7の回転により流入する風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に、下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している。」(第1頁第2欄5行?25行)こと、
「次に本考案の作用効果を説明すると、ロッカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪って対流し、下枠板の吸熱フィンに熱を与える。次にこの熱は吸熱フィン3aにより下枠板及びガイド板5に伝導される。それと平行して放熱ファンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニット本体に流入し、下枠板に衝突してその熱を奪う他、ガイド板に案内されて本体の外に移動する間にガイド板の熱も奪いながら放出されるため、この放熱ユニットは電子機器に対する冷却効果が極めて高い。」(第1頁第2欄37行?第2頁第3欄8行)こと、が図面と共に記載され、これらの記載からみて刊行物1には、
「放熱板3(下枠板)と上枠板4との間に挟まれ前記放熱板3(下枠板)に板面が直角になるように取付けられた複数のガイド板5と、前記上枠板4とガイド板5から成るファン支持体に取付けられた放熱用ファン7(放熱ファン7)とから成り、前記上枠板4は、中央に吸込口4aを有し、前記複数のガイド板5は、前記放熱板3(下枠板)と上枠板4との間で隣合うフィンの間に放射方向のファン風路を形成するように放射状に配列され、且つ前記ファン風路の外端は前記放熱板3(下枠板)と上枠板4との間の外縁付近で開口し、前記ファン風路の内端は前記上枠板4の吸込口4a付近で開口している放熱ユニット、即ち放熱器」が記載されている。
同じく本件出願前に頒布された刊行物である米国特許第3149666号明細書(以下、「刊行物2」という。)には、
冷却装置、特に半導体素子の冷却装置に関し、
「図に示された本発明の実施例は、符号14で示すエアーディレクター及び半導体サポートを構成する複数の部品からなるアセンブリが間に装着される一対のエンドプレート10及び12を備えている。送風装置16はエンドプレート12の外表面に固定されている。エアーディレクター及び半導体サポートアセンブリは、電気絶縁材料からなり且つエンドプレート10及び12の間を延びる中央チューブ20の周りに構成されている。チューブ20は、同じ横断面を有する複数の分割部材22,24,26,28,30及び32によって囲まれている。」(第1頁第2欄12行?18行)こと、
「ブロワ-及びハウジング16は、図2に示されるように、ナットとボルトとによりプレート12に取付けられている。ハウジング内のファンまたはブロワ-60は、中央モータ62と複数のブレード64とを備えている。モータ62は、チューブ20の直径とほぼ等しい直径を有している。ハウジング16がプレート12に固定されたときに、モータはチューブ20の一端を塞ぐ。複数のブレード64は、複数の分割部材の複数の円弧状プレート34とチューブ20との間の環状の通路と整合している。駆動されると、ファンはこの環状の通路内と複数のフィン36の表面上にエアーを指向させる。」(第2頁第3欄17行?27行)こと、が図面とともに記載されている。
同じく本件出願前に頒布された刊行物である米国特許第3313339号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、
強制または自然対流によって上部またはいかなる側面からも容易に冷却される新規な半導体冷却装置に関し、
「本発明によれば、ベースプレートはアルミニウムのような高い熱伝導性の材料から形成されている。複数のフィンは、ベースプレートに対してほぼ直交するように配置されており、各フィンの平面はベースプレートの中心から延びる放射平面内をベースプレートの周辺から延びている。ベースプレートの中心部分及び複数のフィンの内側エッジは冷却されるべき半導体素子を装着するための空間(volume)を画定する。」(第1頁第1欄23行?31行)こと、
「図面を参照すると、四角いベースプレート11が16枚の上方に延びるフィン12を支持する一体構造からなる発明の好ましい実施例が示されている。各フィンの平面は、周辺13からベースプレートの中心に向かって延びる放射状平面内においてベースプレート11と直交している。複数のフィン12の複数の内側エッジ16とベースプレート11の中心部15は、冷却されるべき半導体素子を装着するためのほぼ円形横断面の空間(volume)を画定する。」(第1頁第1欄41行?50行)」こと、
「強制または自然対流は、いずれかの側面からフィンを通してまたは複数のフィンの自由端部から素子の上に空気またはその他の流体が流れることにより行われる。この場合、冷却媒体はいずれかの側面またはすべての側面に向かって複数のフィンを通して流れ出る。」(第1頁第2欄5行?8行)こと、が図面とともに記載されている。
同じく本件出願前に頒布された刊行物である実開昭55-145056号公報(以下、「刊行物4」という。)及び実開昭54-92171号公報(以下、「刊行物5」という。)には、
「強制冷却用のファンをファン取付板としてのエンドプレート(刊行物4)又は当板(刊行物5)を介して放熱器に取付けた強制空冷型放熱器が、また放熱器にはファンからの冷却風の流路に沿ってフィン(放熱フィン)を突設したもの」
が記載されている。
同じく本件出願前に頒布された刊行物である実願昭54-61690号(実開昭55-162954号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物6」という。)には、
「特に冷却効果の優れた強制冷却スタックに関し、平行に配した冷却フィン16の一部を切り欠いて収納部18を形成し、該収納部18に各冷却フィン16の長手方向に対して送風方向が直角となるように強制冷却ファン20を埋入固定した強制冷却スタック」が記載されている。

(対比)
本件訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された考案(以下、「本件訂正考案」という。)と刊行物1記載のものとを対比すると、刊行物1における「放熱板3及び下枠板3」、「ガイド板5」、「放熱用ファン7及び放熱ファン7」、「吸込口4a」、「ファン風路」は、その機能に照らして本件訂正考案における「吸熱板」、「帯状フィン」、「ファン」、「空気吸入孔」、「空気流れ通路」に相当する。また刊行物1には、「上枠板4と複数のガイド板5とから成るファン支持体」と記載し、放熱用ファン7を上枠板4に取り付けるとの明示はない。しかしながら、当業者の技術常識からみて放熱用ファン7を上枠板4に取り付けるのが自然であり、刊行物1記載のものにおいても放熱用ファン7を上枠板4に取り付けているものと認められ、刊行物1記載の「上枠板4」は、本件訂正考案における「ファン取付板」に相当するものと認められる。したがって、上記両者は、
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口している放熱器」
の点で一致し、下記の点で相違している。
(相違点)
本件訂正考案では、前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対しているの対し、刊行物1記載のものでは、フィンの内端側部分を空気吸入孔から露出するとの記載はなく、上記本件訂正考案の構成を具備するとは認められない点。

(当審の判断)
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物1についてさらに検討するに、第1図の記載をみると、放熱用ファン7(放熱ファン7)は、上枠板4の吸込口7aから挿入され放熱板3に近接した状態で取付られている。この構成からみてガイド板5を内方に延ばし、ガイド板の内端側部分を放熱用ファンからの空気に直接接触するように前記吸込口(空気吸入孔)から露出して前記ファンに軸線方向に相対するように設ければ、ガイド板と放熱用ファンとが干渉することが予測され、刊行物1記載のものにおいて上記の構成を採用することは通常できないものと認められる。してみると、「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」構成が刊行物1記載のものに基づいてきわめて容易になし得たものと認めることができない。
また、刊行物2には、冷却装置、特に半導体素子の冷却装置に関し、ファン取付板に相当するエンドプレート12を介して送風装置12(ファンに相当)を取付けたものが記載されているが、刊行物2記載のものは、放熱部を構成する環状の通路内に複数のフィン36を軸流ファンの空気流れ方向に沿って設けたものであって、「ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、複数の帯状フィンは、吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィン間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され」た本件訂正考案の放熱器とはその形態が相違し、また刊行物2には、「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」点について記載も示唆もないものである。
さらに、刊行物4及び刊行物5に記載のものは、刊行物2に記載されたものと類似する構成であって、刊行物4及び刊行物5に記載されたものも本件訂正考案の放熱器とはその形態が相違し、また「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」点について記載も示唆もないものである。
しかも、刊行物3には、高い熱伝導性の材料で形成されたベースプレート11に、該ベースプレート11の周辺13から中心に向かって複数のフィン12を中心部15に空間を形成して配した強制または自然対流によって冷却される半導体冷却装置(すなわち放熱器)が記載されている。そしてこの冷却装置(放熱器)は、複数のフィンの自由端部、すなわち上方から強制的に空気を送風し冷却することが一実施態様として認められるとしても、刊行物3記載のものは、中心部15の空間に半導体素子を装着して冷却するものであって、冷却装置(放熱器)に対する被冷却体の配置が相違し、また刊行物3には冷却装置(放熱器)に対し強制的に空気を送風する手段(ファン)をどのように設けるかの記載はなく、当然に上記相違点における本件訂正考案の構成について記載も示唆もされていない。
また刊行物6には、「冷却フィンの一部を切り欠いて収納部を形成し、該収納部に各冷却フィンの長手方向に対して送風方向が直角となるように強制冷却ファンを埋入固定した強制冷却スタック、すなわち放熱器」が記載されているが、刊行物6記載の放熱器は、複数のフィンを平行に配したものであって、「複数の帯状フィンは、吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィン間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され」たものではなく、また「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」点について記載されているとは認められない。
してみると、刊行物1乃至刊行物6には、いずれにも本件訂正考案の構成要件である「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」点について記載されていない。
そして、本件訂正考案は、上記記載の構成を具備したことにより明細書記載の格別の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正考案が、刊行物1に記載されたものであるとも、また刊行物1に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとも、刊行物1乃至刊行物6記載の考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるとも認めることができない。
よって、本件訂正考案は、出願の際独立して実用新案登録を受けることができるものである。

(2-4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有するとされ、前記附則第4条第2項の規定により読み替え適用される旧実用新案法第40条第2項、及び同条第5項で準用する同法第39条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.無効理由についての判断
(3-1)本件考案
本件登録第1901183号実用新案の考案の要旨は、平成12年4月25日付けの訂正請求書で訂正された訂正明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口し、且つ前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対していることを特徴とする放熱器。」(以下、「本件考案」という。)

(3-2)請求人の主張
請求人山洋電気株式会社は、本件考案は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された考案と同一であり、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである、と主張し、証拠方法として次のものを提出している。
甲第1号証:実公昭51-21601号公報
甲第2号証:米国特許第3149666号公報
甲第3号証:米国特許第3313339号公報
甲第4号証:実開昭55-145056号公報
甲第5号証:実開昭54-92171号公報

(3-3)甲各号証記載の考案
請求人が提出した甲第1号証は刊行物1、同じく甲第2号証は刊行物2、同じく甲第3号証は刊行物3、同じく甲第4号証は刊行物4、同じく甲第5号証は刊行物5であるから、甲第1号証乃至甲第5号証には上記『(2-3)独立実用新案登録要件』の欄における『(刊行物記載の考案)』の項に記載した考案が記載されている。

(3-4)対比、判断
本件考案と甲第1号証記載のものとを対比すると、上記『(2-3)独立実用新案登録要件』の欄における『(対比)』の項に記載したとおり、甲第1号証には、本件考案の構成要件である「前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対している」点について記載されていない。またこの点が上記『(2-3)独立実用新案登録要件』の欄における『(当審の判断)』の項に記載したとおり甲第2号証乃至甲第5号証にも記載されていない。
そして、本件考案は、実用新案登録請求の範囲に記載した構成を必須の構成要件として具備したことにより明細書記載の格別の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件考案が、甲第1号証に記載されたものと同一であると認めることができない。

(3-5)むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠によっては、本件登録実用新案を無効とすることができない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
放熱器
(57)【実用新案登録請求の範囲】
吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口し、且つ前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対していることを特徴とする放熱器。
【考案の詳細な説明】
本考案は、軸流ファンを取付けて用いられて放熱作用を有効に行なうことができる放熱器に関し、特にペルチエ効果素子から成るマイクロクーラー等に組み合わせて用いられるのに適したフィン型放熱器に関するものである。
この種のフイン型放熱器は、一般に、吸熱板と、この吸熱板にフイン面が直角になるように取付けられた多数のフィンとから成っている。従来技術では、これらのフィンは、平行に並べて配列されているので、フィン面と直角の方向の列に対しては強いがフィン面と平行な方向の列には弱く、また空気の流れはフィンが延びる方向に平行な一方向に限られているので、冷却空気の流れは方向性が悪く、放熱効果が低く、従ってファンはフィンが延びる方向に冷却空気が供給されるように取付けることが要求されるため、放熱器が大型となって設置場所が限定される欠点があった。
本考案の目的は、上記の欠点を回避し、機械的強度が大きい上に放熱効果が高く、また設置場所が限定されることがない放熱器を提供することにある。
本考案の実施例を図面を参照して詳細にのべると、第1図は本考案に係る放熱器10を備えたマイクロクーラー12を示し、このマイクロクーラー12は、扁平なペルチェ効果素子14から成っている。ペルチェ効果素子14は、例えば、ビスマスとアンチモンとを接合して構成された金属複合体から成っており、この金属複合体に一方から他方に電流を流すと、一方の面が吸熱され他方の面が発熱される。本明細書では、電流を一定方向に流した場合、吸熱する面を吸熱面14aとし、発熱する面を発熱面14bとする。
本考案の放熱器10は、ペルチェ効果素子14の発熱面14bに接合される吸熱板16とファン取付板22との問に挟まれ吸熱板16に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィン18と、ファン取付板22に取付けられた小型ファン20とから成っている。ファン取付板22は、中央に円形の空気吸入孔22aを有し、小型ファン20からの冷却空気(冷風)は、この空気吸入孔22aを通して吸熱板16とファン取付板22との間の空間に吸入される。
複数の帯状フィン18は、吸熱板16とファン取付板22との間で隣合うフィン18の間に放射方向の空気流れ通路24を形成するように放射状に配列されている。空気流れ通路24の外端24aは、吸熱板16とファン取付板22との間の外縁付近で開口して冷却空気の出口となっており、空気流れ通路24の内端24bは、ファン取付板22の空気吸入孔22a付近で開口してファン20からの冷却空気の入口となっている。フィン18の内端側部分は、ファン20からの空気に直接接触するように空気吸入孔22aから露出してファン20に軸線方向に相対している。
次に、マイクロクーラー12の放熱作用をのべると、マイクロクーラー12のペルチェ効果素子14の発熱面14bから発生する熱は、本考案の放熱器10によって放熱される。この際、小型ファン20から供給される冷却空気(冷風)は、軸線方向からファン取付板22の空気吸入孔22aを通して吸熱板16に当り、吸熱板16の表面に沿って水平に拡がるが、隣合うフィン18の問で放射方向の空気流れ通路24が形成されているので、吸熱板16に当った空気は、この空気流れ通路24の開いた内端(入口)24bから放射方向に拡がり、空気流れ通路24の開いた外端(出口)24aから外部に導かれ、空気の円滑な流れを許している。
特に注目すべきことは、空気流れ通路24が放射方向に延びているので、冷却空気はフィン18の整流作用によって吸熱板16の全面に均等に行きわたり、従って、放熱作用が向上することである。
本考案によれば、上記のように、複数のフィンは平行でなく放射状に配列されているのであらゆる方向の反りに対して強く機械的強度が向上し、またファンからの軸線方向の冷却空気の流れは、放射状に配列されたフィンによって一方向ではなく、放射方向に整流されて放熱効果が向上し、且つファンはこのファンからの冷却空気の流れがフィンの長さ方向に沿うように配置する必要がなくフィンの上面に直接相対するように配置されるので放熱器は全体的に小型化され、放熱器の取付けが制約されることがない。なお、フィンが空気吸入孔から露出してファンに相対する部分は、吸熱板の中央付近部分で放熱作用が低下することがないようにし、本考案の放熱器の放熱効果の向上を減殺することがない。
【図面の簡単な説明】
第1図は本考案に係る放熱器を用いたマイクロクーラーの側面図、第2図は吸熱板とフィンとの上面図、第3図はファンを取り除いた状態の正面図である。
10-----放熱器、16-----吸熱板、18-----フィン、20-----ファン、22-----ファン取付板、22a-----空気吸入孔、24-----空気流れ通路、24a-----外端(出口)、24b-----内端(入口)。
【図面】

訂正の要旨 本件訂正の要旨は、登録第1901183号実用新案の明細書を本件訂正請求書に添付の訂正明細書のとおりに訂正するもので、その訂正の内容は、下記訂正事項(a)?(f)のとおりである。
訂正事項(a)
願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口していることを特徴とする放熱器。」
の記載を、
「吸熱板とファン取付板との間に挟まれ前記吸熱板に板面が直角になるように取付けられた複数の帯状フィンと、前記ファン取付板に取付けられたファンとから成り、前記ファン取付板は、中央に空気吸入孔を有し、前記複数の帯状フィンは、前記吸熱板とファン取付板との間で隣合うフィンの間に放射方向の空気流れ通路を形成するように放射状に配列され、且つ前記空気流れ通路の外端は前記吸熱板とファン取付板との間の外縁付近で開口し、前記空気流れ通路の内端は前記ファン取付板の空気吸入孔付近で開口し、且つ前記フィンの内端側部分は、前記ファンからの空気に直接接触するように前記空気吸入孔から露出して前記ファンに軸線方向に相対していることを特徴とする放熱器。」
と訂正する。
訂正事項(b)
願書に添付した明細書第4頁第12行?第13行の「図示の実施例では、ファン取付板22の空気吸入孔22aは、」を削除する。
訂正事項(c)
願書に添付した明細書第4頁第13行の「フィン18の内端が」の記載を、「フィン18の内端側部分は、」と訂正する。
訂正事項(d)
願書に添付した明細書第4頁第15行の「露出している。」の記載を、「露出してファン20に軸線方向に相対している。」と訂正する。
訂正事項(e)
願書に添付した明細書第6頁第5行?第6行の「制約されることがない。」の次に、
「なお、フィンの空気吸入孔から露出してファンに相対する部分は、吸熱板の中央付近部分で放熱作用が低下することがないようにし、本考案の放熱器の放熱効果の向上を減殺することがない。」を挿入する。
訂正事項(f)
願書に添付した図面第1図を別紙訂正図面第1図のとおり訂正する。
審理終結日 2000-12-01 
結審通知日 2000-12-15 
審決日 2000-12-26 
出願番号 実願昭56-26064 
審決分類 U 1 112・ 113- YA (F25B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 会田 博行  
特許庁審判長 滝本 静雄
特許庁審判官 大槻 清寿
櫻井 康平
登録日 1992-04-20 
登録番号 実用新案登録第1901183号(U1901183) 
考案の名称 放熱器  
代理人 澁谷 啓朗  
代理人 菊地 徹  
代理人 菊池 新一  
代理人 菊池 新一  
代理人 西浦 嗣晴  
代理人 菊地 徹  

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