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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B62D
管理番号 1039456
審判番号 審判1999-35251  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-26 
確定日 2001-05-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第2009146号実用新案「ゴムクロ-ラ装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2009146号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1. 手続の経緯
本件実用新案登録2009146号は、昭和62年6月16日に実用新案登録出願され、平成2年7月20日に出願公告がなされた後、平成3年5月17日付け手続補正書により補正がなされた上で、平成6年3月9日に設定登録されたものである。
これに対して、平成11年5月26日付けで、審判請求人オーツタイヤ株式会社より、実用新案登録無効審判の請求がなされ、その答弁の期間である平成11年8月31日に、願書に添付された明細書についての訂正の請求がなされ、合議体より上記訂正に対して訂正拒絶理由が通知され、更に、平成12年7月19日付けで、合議体より上記訂正に対する訂正拒絶理由を兼ねて、本件実用新案登録に対して無効理由が通知され、その指定期間内である平成12年9月29日に、先の訂正請求が取り下げられると共に、新たな訂正請求がなされ、更に合議体より、その新たな訂正請求に対する訂正拒絶理由が通知されたものである。

2. 訂正の適否
2-1 被請求人の求める訂正
平成11年8月31日付けでなした訂正請求は取り下げられており、被請求人が求める訂正は、平成12年9月29日付け訂正請求書に記載されたとおりの、以下のものである。

2-1-1 実用新案登録請求の範囲の欄中の記載に関して
訂正事項1
実用新案登録請求の範囲の記載を以下のとおり訂正する。
外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する芯金10の両肩段10b,10bを、中央角部10a,10aと左右両翼端部10c,10cとの中間位置で水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるとともに、前記両肩段10b,10bをゴムクローラ4の内周面とほぼ一致するように埋設し、かつその両肩段10b,10bがゴムクローラ4の内周面側へ露出するようになさしめ、さらに隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したことを特徴とするゴムクローラ走行装置。

2-1-2 考案の詳細な説明の欄中の記載に関して、
訂正事項2
本件に係る実用新案公報(実公平2-26781号)第3欄第4?5行に記載の「芯金10の両肩段部10b、10bを芯金翼部巾Sより長くなる」を「外転輪外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する芯金10の両肩段部10b、10bを芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けてなる」と訂正する。
訂正事項3
同第3欄第8?9行に記載の「露出するようになさしめると共に、」を「露出するようになさしめ、さらに」と訂正する。
訂正事項4
同第3欄第16行に記載の「左右翼端部3a、3a」を「外鍔3a、3a」と訂正する。
訂正事項5
同第3欄第17行に記載の「押圧接触して」を「常時押圧接触して」と訂正する。
訂正事項6
同第3欄第20?21行に記載の「押圧接触して」を「常時押圧接触して」と訂正する。
訂正事項7
同第3欄第27行に記載の「長く形成し、これを」を「長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるとともに、これを」と訂正する。
訂正事項8
同第3欄31行に記載の「露出するようになさしめると共に、」を「露出するようになさしめ、」と訂正する。
訂正事項9
同第3欄第36?37行に記載の「押圧接触して」を「常時押圧接触して」と訂正する
訂正事項10
本件訂正公報左欄第16?17行に記載の「長く形成したから、隣合う芯金10の肩段10b、10bが近づくことになって」を「長く形成して、隣合う芯金10の肩段10b、10bとの距離を近付けたので、」と訂正する。
訂正事項11
同右欄第6?8行に記載の「ゴムクローラの中心が、第8図A(従来例)及び第8図B(本考案例)に示す如く、d>d’となってスプロケットの噛合歯の中心に近づき、」を「ゴムクローラの中心から転輪当接部までの距離が、第8図A(従来例)及び第8図B(本考案例)に示す如く、d>d’となって短くなり、」と訂正する。
訂正事項12
同右欄第18行に記載の「ゴム挿通」を「ゴム層」と訂正する。

2-1-3 図面の簡単な説明の欄中の記載に関して
訂正事項13
本件に係る実用新案公報(実公平2-26781号)の第4欄第29?30行に記載の「ゴムクローラ本内に」を「ゴムクローラ本体内に」と訂正する。

2-2 合議体が通知した訂正拒絶理由の概要
平成12年10月20日付けで合議体が通知した、訂正拒絶理由は、概略以下のとおりである。
平成12年9月29日付けでなした訂正の請求は、実用新案登録請求の範囲の記載を添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に訂正することを含むものであり、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲には、以下のとおり記載されている。
「外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する芯金10の両肩段10b,10bを、中央角部10a,10aと左右両翼端部10c,10cとの中間位置で水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるとともに、前記両肩段10b,10bをゴムクローラ4の内周面とほぼ一致するように埋設し、かつその両肩段10b,10bがゴムクローラ4の内周面側へ露出するようになさしめ、さらに隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したことを特徴とするゴムクローラ走行装置。」(以下、「訂正考案」という。)

これに対して、本件登録に係る出願(昭和62年6月16日)前に頒布された刊行物である「実願昭60-13415号(実開昭61-129682号)のマイクロフィルム(甲第6号証の刊行物」)には、
芯金の両肩段部を、中央の芯金角部と左右両側の翼部との中間位置で形成し、これをゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段部がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめてその両肩段部上を転輪が押圧接触して走行するように構成するゴムクローラ
の考案が記載されているものと認められる。
訂正考案と甲第6号証に記載の考案とを比較すると、訂正考案は、以下の点で甲第6号証に記載の考案と相違し、残余の点で両考案は一致している。
相違点A
訂正考案は、両肩段を水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるものであり、肩段を外輪もしくは外鍔が常時押圧接触して走行するものであるの対して、甲第6号証に記載の肩段部は、翼部と同程度の巾であり、外輪が肩段部を押圧して走行するものの常時であることの記載はない点
相違点B
訂正考案は、ゴムクローラに、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したものであるのに対して、甲第6号証に記載のものはそのような構成を有する旨の記載はない点。

しかしながら、芯金に設けた走行面を、芯金の巾方向に延長することは、周知の技術であり(参考例 特開昭54-146338号公報(甲第3号証)、実願昭55-37360号(実開昭56-139684号)のマイクロフィルム(甲第4号証)、実願昭60-13416号(実開昭61-129683号)のマイクロフィルム(甲第5号証)、特開昭61-122085号公報((甲第1号証)の第9図))、かつ、甲第6号証のものの肩段部は、走行のための面を形成しており、上記周知の技術を適用する点に格別の困難性を認められない。
また、上記周知の技術により、転輪が走行面へ接触しない可能性は減少し、かつ、甲第6号証に記載の外輪は、走行する部分に対して常時接触する形式であるので、同相違点は、甲第6号証のものに周知の技術を適用してきわめて容易になし得た事項であって、相違点Aは、格別の事項とは認められない。
さらに、芯金を有するゴムクローラにおいて凹溝を設けることは、周知の技術(実願昭52-154015号(実開昭54-83139号)のマイクロフィルム(甲第7号証)、実公昭59-39108号公報(甲第8号証))であり、相違点Bにより奏する効果は、周知の技術から予測されるもの以上の格別のものとは認められない。よって、相違点Bは、格別の事項とは認められない。
したがって、訂正考案は、甲第6号証記載の考案及び周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により、その出願の際独立して、実用新案登録を受けることができるものとは認められないので、上記訂正の請求は拒絶すべきものである。

2-3 訂正に係る被請求人の主張
被請求人は、訂正考案に関し、概略以下の主張をなしている。
訂正考案は、以下の作用・効果を奏するものである。
(1) 芯金の両肩段10b,10bを、中央角部10a,10aと左右両翼部10c,10cとの中間位置で水平方向に芯金翼部中Sより長く形成して、隣合う芯金10の肩段10b,10bとの距離を近付けるようにしたので、この両肩段10b,10b上を常時押圧接触して走行する転輪(外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔)の落ち込みがなくなり、走行振動が減少する。
(2) 芯金10の肩段10b,10bがゴムクローラ4の内周面側へ露出するようにしたので、転輪によるえぐれ現象(水虫現象)が生じることがなくなってゴムクローラの耐久性が向上する。
(3) 芯金10の肩段10b,10bが長く露出していて転輪が安定して走行することから、転輪の横巾を小にすることができ、コストダウンに寄与する。また、横巾が小になると中央角部10a,10aを跨ぐ左右転輪当接部の間隔が小になり、外鍔輪3および外転輪5に使用できるものとなり、従来の鉄クローラ専用の足廻り装置のままでゴムクローラを装着して稼動させることができる。
(4) 芯金10の肩段10b,10bが長く露出していることから、外鍔転輪3、外転輪5に使用できるものとなり、これによりゴムクローラの中心から転輪当接部までの距離が短くなったことにより、芯金10の肩段10b,10bを近付くから、走行の安定性が図れると共に、効果的な駆動伝達が行われる。
(5) 芯金10の肩段10b,10bを水平方向に芯金翼部中Sより長くかつ露出して形成すると、隣り合う芯金10の肩段10b,10b間のゴム層が小となって肩段10b,10b間のゴム層の剥離及びゴムクローラの屈撓性の弱体化するが、これを隣り合う芯金10の肩段10b間に芯金10と平行な凹溝11を介在形成するという簡単な構成で解消している。
これに対して、甲第6号証のものは、「芯金の両肩段部をゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設した」点および「両肩段がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめた」点についての構成が、訂正考案と共通しているのみで、その他の構成において両者は悉く相違している。すなわち、上記甲第6号証には、隣接する肩段間の距離を近付けて転輪の落ち込みをなくし、走行振動を減少させるという、訂正考案の課題についての認識は全くなく、訂正考案における、「両肩段を芯金翼部中より長く形成して、隣接する芯金の肩段との距離を近付けるようにした」点については全く開示されていない。
また、上記甲第6号証には、訂正考案の「隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝を介在形成した」点についても、全く開示がない。
また、芯金に設けた走行面を巾方向に延長することに関して例示された、参考例に関して、甲第3号証のものは、履帯内に埋設した芯金と芯金との間に転輪が落ち込むとき、芯金のショックにより発生する振動の防止を目的とするもので、転輪の回転軌跡に対応する部位の芯金を延出させる思想が単に開示されているのみで、芯金の肩段に関わる構成およびその芯金の埋設状態に関わる構成は全く開示・示唆されておらず、この肩段上を外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行することについての技術思想は全くない。
また、甲第4号証のものは、中転輪方式のクローラ装置における芯金間への中転輪の落ち込みの問題点についての認識はあるものの、訂正考案のような外転輪方式、すなわち両肩段上を外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する方式における問題点の認識については全くない。
甲第5号証のものは、クローラ式走行装置のゴム製無限軌道帯に埋設す甲第4号証のものと同様、訂正考案のような外転輪方式、すなわち両肩段上を外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する方式における問題点の認識については全くない。
甲第1号証における第9図に記載の張出部4A,4Aは、あくまでも中転輪20の両側にある支え輪21がその上面を走行することができる部分を示すだけであって、やはり訂正考案のように両肩段上を外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行するものとは明らかに構成および作用効果が相違する。
よって、これら文献に記載の技術手段を甲第6号証に適用したとしても、「外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する芯金10の両肩段10b,10bを、水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるようにした」構成については、当業者が導き出せるものではなく、またその構成によって得られる前述の作用効果は、予能可能なものではない。
また、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝を介在形成することが、芯金を有するゴムクローラにおける周知の構成であるとして、例示した、甲第7,8号証に関して、甲第7号証のものは、中転輪を使用するゴムクローラにおいて、埋設される芯金とゴム質との境界での接着剥離を防止し、かつ走行時の振動を改善することを目的とし中転輪の走行条面S’,S”に芯金2の投影位置に隣接して横溝7を穿った構造のものであり、この横溝7は、ゴムと芯金との境界面において転輪によるせん断力により発生する接着剥離を防止するために形成されているのであるから、訂正考案における、転輪の走行振動低減のために隣り合う芯金の肩段間の距離を近付けるという構成を採用したことに伴って発生した、隣り合う肩段間のゴム層が小になることによる肩段間のゴム層の剥離およびゴムクローラの屈撓性の弱体化を解消することを目的とするものとは、凹溝を介在形成する目的が全く異なっている。
また、甲第8号証のものは、クローラ用弾性履帯に関わるもので、芯金(補強芯3)を埋設した部分と、芯金を埋設していない部分とを交互に設けた特殊タイプのゴムクローラにおいて、突起6と補助突起7との間に断面半円形の溝8を設けたものであり、訂正考案の凹溝とは、屈曲性の向上という作用効果が類似するのみで、訂正考案における前述のような肩段間のゴム層の剥離を解消するという作用効果を意図したものではない。
このように、訂正考案の「凹溝11」は、甲第7号証に記載の「横溝7」もしくは甲第8号証に記載の「溝8」とは全く異なる目的で設けられたものである。
よって、訂正考案は、甲第6号証に記載の考案に、周知例として引用された各文献に記載の技術手段を付加しても得られるものではなく、訂正考案は、甲第6号証に記載の考案および周知の技術に基づいて当業者がきわめて容易に想到し得たものではない。

更に、被請求人は、平成12年10月17日付け訂正拒絶理由通知に対して、概略以下の意見を述べている。
本件考案は、鉄クローラと外転輪方式のゴムクローラとを兼用するために、転動面巾の狭い外鍔型の外転輪を用いるために、肩段部をクローラ周方向に延伸させ、ゴムクローラの内周面と同一平面としたものであり、それにより肩段部が近づくことによるゴム層の剥離防止のために凹溝を設けたものである。
したがって、実開昭61-129682号公報(甲第6号証号証)の考案が芯金翼部上面の虫食い現象に対応したものであるのに対して、本件考案は、転輪が芯金翼部の間のゴム層への食い込むことを防止するものであり、両考案は別異のものである。
周知技術として例示される甲第7,8号証のものは、金属-金属間のゴムを全て削除したことによる凹溝を開示するものではなく、本件考案の凹溝とは別異の技術である。
したがって、平成12年9月29日付けでなした訂正請求は認められるべきものである。

2-4 訂正の適法性の判断
2-4-1 訂正事項1の訂正の目的、実用新案登録請求の範囲の変更・拡張、新規事項の追加の有無
平成12年9月29日付け訂正請求書による訂正は、訂正事項1として、実用新案登録請求の範囲の記載を、訂正請求書に添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり訂正することを含むものである。
同訂正は、実用新案登録請求の範囲の欄中に記載の「芯金10の両肩段10b、10b」を、願書に添付された明細書に記載される「外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する」なる技術的事項で限定することにより、「外転輪の外輪もしくは転輪の外鍔が常時押圧接触して走行する芯金10の両肩段10b、10b」と訂正し、同欄中に記載の「芯金翼部巾Sより長く形成し、これを・・埋設し両肩段・・なさしめると共に、・・」を、願書に添付された明細書に記載される「隣接する芯金の肩段との距離を近付ける」なる技術的事項を記載することにより、「長く形成し」なる事項をより明瞭となるように釈明し、「これ」をその指示語が指す「前記両肩段」とすることにより、記載が明瞭となるように釈明し、更に、「埋設し両肩段」なる記載をより明瞭となるように「埋設し、かつその両肩段」と訂正するとともに、「なさしめると共に」を「なさしめ、さらに」とより明瞭な記載に訂正することにより、「芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるるとともに、前記両肩段・・埋設し、かつその両肩段・・なさしめ、さらに・・」と訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、全体として実用新案登録請求の範囲を減縮するものであり、新規事項を追加せず、且つ、実用新案登録請求の範囲の記載を、実質的に変更または拡張するものではない。

2-4-2 訂正考案の独立登録要件
2-4-2-1 訂正考案
平成12年9月29日付け訂正請求書により訂正後の考案は、同請求書に添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された、2-2記載の「訂正考案」に要旨があるものと認める。

2-4-2-2 引用文献に記載の考案
これに対して、平成12年10月20日付けで、合議体が通知した、訂正拒絶理由に引用した、本件登録に係る出願日(昭和62年6月16日)前に頒布された刊行物である「実願昭60-13415号(実開昭61-129682号)のマイクロフィルム(甲第6号証、以下、「引用文献」という。)」には、以下の記載がある。
明細書第2頁第3?6行に、「・・芯金上のゴム層は容易に傷が入り、遂にはゴム層が剥脱(虫くい現象その他)したりするトラブルが発生するものとなる。」
明細書第2頁第8?13行に、「・・芯金角部の両側面に於ける一定範囲を他の翼部よりも高くなる肩段部に形成し、該肩段部上面がゴムクローラー内でクローラ内周側に露出するようなさしめて、転輪と直接接触するようになしたことにある。」
明細書第2頁第16行?第3頁第13行に、「第2図A・・本図面に見られる通り芯金角部3、3′の両側面に於ける一定範囲Sを他の翼部4、4′のそれより高く、・・した肩段部5、5′に形成する。・・これらのものでは芯金1の埋設時に各溝内へゴム材が他の翼部と同じ高さ位置まで填入されるものとなされるが、上面部は同じく露出した状態となされるのである。」
明細書第3頁第14?16行に、「本考案は、以上の如く構成せしめるものであつて転輪6は芯金1の露出部分を直接押圧する状態に回動する・・」
これらの記載と、転輪6が外転輪として図示される図面の記載とを併せみれば、引用文献には、
外転輪の外輪である転輪が押圧接触して走行する芯金の両肩段部を、中央の芯金角部と左右両側の翼部との中間位置で形成し、これをゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段部がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめたゴムクローラ
の考案が記載されるものと認めらる。

2-4-2-3 対比判断
訂正考案と引用文献に記載の考案とを比較すると、引用文献のものの芯金に設けた肩段部、芯金角部、翼部は、その形状・配置関係からみて、本件訂正考案の「肩段」、「中央角部」、「芯金翼部」にそれぞれ相当するものと認められるとともに、引用文献には、外輪と走行面との関係が常時接触する旨の明記はないが、その形式からして、所謂「常時接触」することは自明の事項である。
また、外転輪の走行に起因して生じるとされる「えぐれ現象」と称する訂正明細書の第2図Bに記載の現象と、引用文献が、従来技術の使用状態として図示した第1図Bの問題点とする「虫くい現象」との間に、現象を生じる部位に係る格別の差異はなく、本件の課題の一である「えぐれ現象」の解決は、引用文献の「虫くい現象」即ち、芯金翼部上面の虫食い現象と、必ずしも別異の課題を解決するもののみであるとは認められないから、引用文献のものの「虫くい現象」は、本件訂正考案の「えぐれ現象」に相当するものであって、両考案の「内周面とほぼ一致するように埋設」なる事項間に格別の差異は認められない。
よって、両考案は、以下の一致点の考案である点で一致し、相違点イ、ロの点で相違するものと認める。
【一致点】
芯金の両肩段を、中央角部と左右両翼端部との中間位置で形成し、これをゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめてその両肩段上を転輪が常時押圧接触して走行するように構成するゴムクローラ走行装置

【相違点イ】
本件訂正考案は、両肩段を水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成して隣接する芯金の肩段との距離を近付けるものであるのに対して、引用文献のもの肩段部は、翼部と同程度の巾である点
【相違点ロ】
本件訂正考案は、ゴムクローラに、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したものであるのに対して、引用文献のものはそのような構成を有する旨の記載はない点。

以下、上記相違点について検討する。
芯金に設けた走行面を巾方向に延長することは、周知の技術(参考例 特開昭54-146338号公報(甲第3号証)、実願昭55-37360号(実開昭56-139684号)のマイクロフィルム(甲第4号証)、実願昭60-13416号(実開昭61-129683号)のマイクロフィルム(甲第5号証)、特開昭61-122085号公報(甲第1号証)の第9図)であり、その延長により、それら延長された部材相互間の距離が近づくことは、その記載の有無に関わらず、自明の事項であるとともに、走行輪の落ち込みの防止、走行振動の減少は、その転輪形式の差違に関わらず、走行面の延長と云う技術が奏する作用効果であるから、被請求人が、2-3の(1)、(4)に主張する効果は、同周知の技術から予測される以上の格別なものとは認められず、相違点イに基づく作用効果上の差異は、引用文献に記載の考案及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない
しかも、引用文献のもの肩段部は、走行のための面を形成しているから、上記走行面に係る周知の技術を、引用文献のものの肩段部に適用する点に、格別の困難性を認められない。
よって、相違点イは、引用文献に記載の考案に周知の技術を適用して、当業者がきわめて容易になし得た事項であって、格別の事項とは認められない。
相違点ロについて検討すると、本件訂正考案に云う「凹溝」が、被請求人が主張する、隣り合う芯金の肩段部間(意見書に云う金属-金属間)のゴムを全て削除したことによる凹溝のみに特定されるとする記載は、明細書中に特段認められず、訂正考案に云う「凹溝」と、訂正拒絶理由通知中に指摘した、芯金を有するゴムクローラにおいて設けられる周知の「溝」、「横溝」(実願昭52-154015号(実開昭54-83139号)のマイクロフィルム(甲第7号証)、実公昭59-39108号公報(甲第8号証))との間に、被請求人が主張する、その溝巾に係る構成上の差異は認められない。そして、周知の技術においても、屈曲性の向上、即ち、撓みやすくする効果を期待できるものであるから、被請求人が、2-3の(3)に主張する効果は、同周知の技術の採用から予測される以上格別のものとは認められず、相違点ロに基づく作用効果上の差異は、引用文献に記載の考案及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
よって、相違点ロは、引用文献に記載の考案に周知の技術を適用して、当業者がきわめて容易になし得た事項であって、格別の事項とは認められない。
しかも、請求人が、2-3の(2)に主張する効果は、引用文献のものが、虫食い現象を解決することより予測される事項であり、請求人が、2-3の(3)に主張する効果は、金属クローラとゴムクローラの選択的装着が、当該技術分野における周知の課題であること(参考例 実開昭56-39382号公報(甲第9号証))を考慮すれば、引用文献の考案及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められず、本件訂正考案がその全体的構成において奏する効果は、引用文献の考案及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
したがって、本件訂正考案は、引用文献に記載の考案及び周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により、その出願の際、独立して実用新案登録を受けることができたものとは認められない。

2-5 むすび
以上のとおり、平成12年9月29日付けで被請求人が行った訂正請求は、平成5年法律第26号附則第4条第2項の規定により読み替えられた実用新案法第40条第5項により準用する、実用新案法第39条第3項に規定する要件を満たしていないから、上記訂正の請求は認められない。

3. 本件登録の無効事由
3-1 請求人の求めた審判
請求人は、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載の考案を立証するために甲第1号証として、「特開昭61-122085号公報」を提出するとともに、甲第1号証に請求人が主張する考案が記載されている事実を立証するために、甲第2号証として、甲第1号証に係る出願と分割の関係にある出願に係る「特公平5-30673号公報」を提出すると共に、同趣旨の理由から、甲第10号証として、「平成7年審判23061号審判請求書写し」及び甲第11号証として、「平成7年審判23601号審決」を提出し、更に、本件出願前の周知技術を立証するために、甲第3号証として、「特開昭54-146338号公報」、甲第4号証として、「実願昭55-37360号(実開昭56-139684号)のマイクロフィルム」、甲第5号証として、「実願昭60-13416号(実開昭61-129683号)のマイクロフィルム」、甲第6号証として、「実願昭60-13415号(実開昭61-129682号)のマイクロフィルム」、甲第7号証として、「実願昭52-154015号(実開昭54-83139号)のマイクロフィルム」、 甲第8号証として、「実公昭59-39108号公報」、及び、甲第9号証として、「実開昭56-39382号公報」を提出して、甲第2,10,11号証を参酌して、甲第1号証を見れば、甲第1号証には、芯金1の補強リブ4に、張出部4Aを、中央の突起部3と左右に延びる芯金基部2の端部との中間位置で、水平方向に芯金基部の巾より長く形成し、この補強リブ4を弾性材料から形成された無限軌道帯本体10に埋設し、補強リブの張出部が軌道帯本体の内周面側へ露出するようになさしめて、その張出部上を支え輪が走行するようにできる弾性無限軌道帯の考案が記載されている旨主張すると共に、甲第9号証に示されるように、本件登録実用新案に係る考案の課題は周知であるので、本件登録実用新案に係る考案は、甲第1号証に記載された考案に、甲第3?8号証に示される周知の技術を適用して、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効とされるべき旨主張している。

3-2 被請求人の請求人の主張に対する反論
被請求人は、甲第2号証が、甲第1号証に係る請求人の主張の論拠とはならないことを立証するために、乙第1号証として、甲第2号証に係る出願の特許異議申立事件に係る「特願平2-80477号特許異議申立事件に係る上申書 写し」、及び、乙第2号証として、「特願平2-80477号に係る特許異議の決定 写し」を提出して、概略以下の主張をなしている。
甲第1号証の補強リブ4には、転輪が押圧接触して走行する走行面の機能はなく、芯金の両肩段部をゴムクローラの内周面と一致させたものではないと共に、凹溝を設けるものでもない。
甲第3号証は、芯金を延出させているが、芯金の肩段に関わる構成及びその埋設状態に関わる構成を何等開示するものではなく、甲第4,5号証は、外転輪方式に係るものではない。甲第6号証の1文献によっては、何等の周知技術を立証することはなく、しかも、本件発明は、甲第6号証のものからは、予測できない効果を奏するものである。
また、甲第7,8号証のものに示される溝は、本件考案とは別異のものであり、甲第9号証は、何等の具体的構成も開示するものではない。
したがって、本件考案を甲第1号証?甲第9号証をもって、当業者がきわめて容易に考案をすることができたとすることはできない。

3-3 合議体が通知した無効理由
合議体が平成12年7月19日付けで通知した、無効理由は、概略以下のとおりである。
甲第6号証には、芯金の両肩段部を、中央の芯金角部と左右両側の翼部との中間位置で形成し、これをゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段部がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめるように構成するゴムクローラ
の考案が記載されており、本件登録実用新案に係る考案は、甲第6号証の考案及び周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、本件実用新案登録に係る考案は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであって、本件実用新案登録は、同法第37条第1項第1号の規定に該当するから、無効とすべきものである。

3-4 無効理由に対する被請求人の主張
被請求人は、合議体が通知した無効理由に対して、2-3に記載したとおり、本件考案は、甲第6号証に記載の考案及び周知の技術と相違し、それらのものから、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない旨主張している。

3-5 無効理由の検討
3-5-1 本件考案
2.に述べたとおり、平成12年9月29日付けで被請求人が行った訂正請求は認められず、平成11年8月31日付けで被請求人が行った訂正請求は取り下げられているので、本件考案は、出願公告後の平成3年5月7日付け手続補正書により補正された実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、以下の事項に要旨があるものと認める。
芯金10の両肩段10b,10bを、中央角部10a,10aと左右両翼端部10c,10cとの中間位置で水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成し、これをゴムクローラ4の内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段10b,10bがゴムクローラ4の内周面側へ露出するようになさしめると共に、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したことを特徴とするゴムクローラ走行装置。(以下、「本件考案」という。)

3-5-2 引用文献に記載された考案
これに対して、合議体が平成12年7月9日付けで通知した、無効理由に引用した、本件登録に係る出願日(昭和62年6月16日)前に頒布された刊行物である「実願昭60-13415号(実開昭61-129682号)のマイクロフィルム(「引用文献」、 甲第6号証)」には、4-2-2-2に記載したとおり、以下の考案が記載されているものと認める。
外転輪の外輪である転輪が押圧接触して走行する芯金の両肩段部を、中央の芯金角部と左右両側の翼部との中間位置で形成し、これをゴムクローラの内周面とほぼ一致するように埋設し両肩段部がゴムクローラの内周面側へ露出するようになさしめたゴムクローラ。

3-5-3 対比判断
本件考案と引用文献に記載された考案とを比較すると、本件考案は、以下の点で引用文献の考案と相違し、残余の点で両考案は一致している。
相違点1
本件考案は、両肩段を水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成したものであるのに対して、引用文献のものの肩段部は、翼部と同程度の巾である点。
相違点2
本件考案は、ゴムクローラに、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝11を介在形成したものであるのに対して、引用文献のものはそのような構成を有する旨の記載はない点。
これら相違点について検討すると、2-4-2-3に検討したとおり、両肩段を水平方向に芯金翼部巾Sより長く形成すること、及び、隣り合う芯金の肩段間に芯金と平行の凹溝を設けることは、それぞれ周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易になし得た事項と認められるから、相違点1,2は、格別の事項とは認められない。
したがって、本件考案は、引用文献の考案及び周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案に対してなされたものである。

4. むすび
以上のとおり、本件実用新案登録は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定により、なおその効力を有するとされる、改正前の実用新案法第37条第1項第1号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-03-05 
結審通知日 2001-03-16 
審決日 2001-03-28 
出願番号 実願昭62-93153 
審決分類 U 1 112・ 121- ZB (B62D)
最終処分 成立    
前審関与審査官 清水 英雄玉城 信一  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 神崎 潔
大島 祥吾
登録日 1994-03-09 
登録番号 実用新案登録第2009146号(U2009146) 
考案の名称 ゴムクロ-ラ装置  
代理人 井上 勉  
代理人 井上 勉  
代理人 安田 敏雄  

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