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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) A63H
管理番号 1039529
判定請求番号 判定2000-60166  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2001-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2000-12-15 
確定日 2001-05-31 
事件の表示 上記当事者間の登録第3036796号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「人形の芯体」は、登録第3036796号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 〔1〕請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、(イ)号図面及びその説明書に示す「人形の芯体」(以下、「イ号物件」という。)は、登録第3036796号実用新案の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

〔2〕本件考案
本件登録第3036796号実用新案の考案は、明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた適度の剛直性を有する胴芯本体と、適度の弾性復元性を有する頭保持体と、前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体とからなる人形の胴芯であって、
前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことを特徴とする人形の胴芯。
【請求項2】前記頭保持体が、イ草、藁、発泡体、線条体等の弾性復元性を有する材料からなり、前記胴芯本体が木材、合成樹脂等の剛直性を有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載の人形の胴芯。
【請求項3】前記頭保持体収容孔を円筒形又は逆円錐形としたことを特徴とする請求項1又は2記載の人形の胴芯。
【請求項4】前記頭保持体とその収容孔の少なくとも底との間に接着剤を介装したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の人形の胴芯。
【請求項5】前記切溝又は/及び嵌装孔に腕芯体の接着剤を入れたことを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の人形の胴芯。
【請求項6】前記胴芯本体の頭保持体収容孔の背面側に切溝を設けると共に該切溝底に上端開口の孔を設けたことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の人形の胴芯。」
ここで、本件登録第3036796号実用新案の請求項2ないし請求項6が、いずれも本件登録第3036796号実用新案の請求項1を引用する請求項1の従属請求項であることをかんがみて、先ず本件登録第3036796号実用新案の請求項1に係る考案について検討し、さらなる検討の必要があるときには請求項2ないし請求項6についても検討することにする。
本件登録第3036796号実用新案の請求項1に係る考案(以下、これを、「本件考案」という。)を分説すると、次のとおりである。
A 上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた適度の剛直性を有する胴芯本体と、
B 適度の弾性復元性を有する頭保持体と、
C 前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体と
D からなる人形の胴芯であって、
E 前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、
F 該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことを特徴とする
G 人形の胴芯

〔3〕イ号物件
判定請求書に添付された(イ)号図面の記載、並びに(イ)号説明書における「左側面から右側面まで開通する横向きの切り溝2を設けて人形本体7における胴体部8に内蔵する胴芯1と、中央部に屈曲出っ張り部4を設けて上記胴芯1の切り溝内にその屈曲出っ張り部4を挿入するとともにその右端部及び左端部をそれぞれ切り溝2の外に出して胴芯1の側方へ突出させることにより人形本体7における左腕部9と右腕部10にそれぞれ内蔵する一本の腕芯3とを具えた人形の芯体。」の記載、及び上記(イ)号説明書における【符号の説明】の欄の「5 縦穴」「6 頭部保持部材」の記載からみて、イ号物件は、次の構成a?gからなるものとするのが相当である。
a 上端が開口する所要深さの頭部保持部材6を収容するための縦穴5を備える、人形本体7における胴体部8に内蔵する胴芯1と、
b 前記縦穴5内に収容された頭部保持部材6と、
c 中央部に屈曲出っ張り部4を設けた一本の腕芯3と
d からなる人形の胴芯1であって、
e 前記胴芯1の背面に左側面から右側面まで開通する横向きの切り溝2を設け、
f 該切り溝2内に前記腕芯3の中央部の屈曲出っ張り部4を挿入するとともに、腕芯3の右端部及び左端部をそれぞれ切り溝2の外に出して胴芯1の側方へ突出させることにより人形本体7における左腕部9と右腕部10にそれぞれ内蔵する一本の腕芯3とを具えた
g 人形の芯体

〔4〕イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かの検討
1.本件考案とイ号物件との対比
本件考案とイ号物件とを対比すると、イ号物件の「人形の胴芯1」又は「人形の芯体」が、本件考案の「人形の胴芯」に相当するから、イ号物件の構成a、b、c、d、e、f、gのうち、構成d、gは、本件考案の構成要件D、Gにそれぞれ一致しており、イ号物件の構成d、gは、本件考案の構成要件D、Gを充足する。
しかしながら、イ号物件が本件考案の構成要件A、B、C、E及びFを充足しているか否かについては、それらの構成に相違があることから、明確ではない。

2.イ号物件の構成a、bが本件考案の構成要件A、Bを充足するか否かの検討
(1)対比
イ号物件の構成a、bと本件考案の構成要件A、Bとを対比すると、イ号物件の「上端が開口する所要深さの頭部保持部材6を収容するための縦穴5」「人形本体7における胴体部8に内蔵する胴芯1」及び「前記縦穴5内に収容された頭部保持部材6」が、それぞれ本件考案の「上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔」「胴芯本体」及び「頭保持体」に相当するから、両者は「上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた胴芯本体と、頭保持体と、」の点で一致し、本件考案が、胴芯本体について「適度の剛直性を有する」とし、また頭保持体について「適度の弾性復元性を有する」としているのに対して、イ号物件では、胴芯本体及び頭保持体について何ら限定していない点で、両者は相違する。
(2)相違点の検討
イ号物件についての判定請求書に添付された(イ)号図面及び(イ)号説明書には、イ号物件の人形の芯体の胴芯1及び頭部保持部材6の材料についての明確な記載がない。
しかしながら、本件考案の実用新案登録第3036796号公報には、次の記載のあることが認められる。
「【0002】【従来の技術】或種の日本人形例えば雛人形のうち、先端が尖った棒状の保持部を有する頭(カシラ)と、この保持部の差し込み保持を許容する許容孔に、藁等の頭保持体を嵌装した胴芯とからなる頭差し込み式人形がある(例えば実開昭52-62191号公報参照)。」の記載。
「【0003】この人形の胴芯は、その本体が発泡スチレン、発泡ポリスチレン等の合成樹脂製で、その外周に接着テープを巻きつけて藁等の頭保持体が抜け落ちないようにしてあり、さらに、胴芯本体に針金からなる腕金を差し込んである。また、人形の胴芯本体を木材製とし、頭保持体をイ草により構成したものも知られている(実開平2-126689号公報参照)。この従来例では、イ草がその収容孔から抜け落ちないように、上端開口を封止する和紙が貼り付けられている。」の記載。
「【0010】【考案の実施の形態】以下、本考案の実施の形態を図面に基づき説明する。図1?図4は、本考案の第一の実施形態を示し、人形の胴芯1は、円柱形の木材(桐)製胴芯本体2と、適度の弾性復元性を有する材料例えばイ草からなる頭保持体3と、針金からなる左右の腕芯体4とから成っている。」の記載。
これらの記載からみて、或種の日本人形例えば雛人形の技術分野においては、「先端が尖った棒状の保持部を有する頭(カシラ)と、この保持部の差し込み保持を許容する許容孔に、藁、イ草等により構成した頭保持体を嵌装した発泡スチレン、発泡ポリスチレン等の合成樹脂製または木材製の胴芯とからなる頭差し込み式人形」が、従来から知られている周知技術であるということができるから、イ号物件の人形の芯体の胴芯1及び及び頭部保持部材6も前記周知技術を踏襲しているものと考えることができ、また、このことを妨げる特段の事情を、イ号物件についての判定請求書に添付された(イ)号図面及び(イ)号説明書に見出すことができない。
そうすると、イ号物件の人形の芯体の胴芯1及び頭部保持部材6は、上記「先端が尖った棒状の保持部を有する頭(カシラ)と、この保持部の差し込み保持を許容する許容孔に、藁、イ草等により構成した頭保持体を嵌装した発泡スチレン、発泡ポリスチレン等の合成樹脂製または木材製の胴芯とからなる頭差し込み式人形」という周知技術に裏付けられているものとみなすことができることから、及び、実用新案登録第3036796号公報の「図1?図4は、本考案の第一の実施形態を示し、人形の胴芯1は、円柱形の木材(桐)製胴芯本体2と、適度の弾性復元性を有する材料例えばイ草からなる頭保持体3と、針金からなる左右の腕芯体4とから成っている。」(段落【0010】)の記載及び「前記頭保持体が、イ草、藁、発泡体、線条体等の弾性復元性を有する材料からなり、前記胴芯本体が木材、合成樹脂等の剛直性を有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載の人形の胴芯。」(【請求項2】)の記載を参照すると、発泡スチレン、発泡ポリスチレン等の合成樹脂製または木材製の胴芯は適度の剛直性を有し、また藁、イ草等により構成した頭保持体は適度の弾性復元性を有するものとされていることから、イ号物件の人形の芯体の胴芯1及び頭部保持部材6も、それぞれ「適度の剛直性を有する胴芯本体」及び「適度の弾性復元性を有する頭保持体」という本件考案の構成要件A及び構成要件Bの材料の特性を具備しているものと考えることができる。
そうすると、イ号物件の構成a、bは、それぞれ本件考案の構成要件A、Bに実質上一致するので、イ号物件の構成a、bは、本件考案の構成要件A、Bを充足する。

3.イ号物件の構成c、e、fが本件考案の構成要件C、E、Fを充足するか否かの検討
(1)対比
イ号物件の構成c、e、fと本件考案の構成要件C、E、Fとを対比すると、イ号物件の「腕芯3」「胴芯1」「切り溝2」及び「挿入」が、それぞれ本件考案の「腕芯体」「胴芯本体」「切溝」及び「嵌入固定」に相当するから、両者は「腕芯体を胴芯本体の切溝に嵌入固定した」の点で一致し、本件考案の人形の胴芯が「(C)前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体と、(E)前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、(F)該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定した」のに対して、イ号物件の人形の芯体は「(c)中央部に屈曲出っ張り部4を設けた一本の腕芯3と、(e)前記胴芯1の背面に左側面から右側面まで開通する横向きの切り溝2を設け、(f)該切り溝2内に前記腕芯3の中央部の屈曲出っ張り部4を挿入するとともに、腕芯3の右端部及び左端部をそれぞれ切り溝2の外に出して胴芯1の側方へ突出させることにより人形本体7における左腕部9と右腕部10にそれぞれ内蔵する一本の腕芯3を具えた」点で、両者の構成が相違する。
(2)相違点の検討
実用新案登録第3036796号公報には、前記した【0002】【0003】【0010】の記載のほかに、次の記載のあることが認められる。
「【0004】【考案が解決しようとする課題】ところで、上記従来技術の前者では、頭保持体が抜け落ちないように、胴芯本体外周に接着テープを巻付けなければならず、腕金は差し込んだだけであるから、回動する恐れがあるうえ抜け落ちたりその姿勢を一定に保持できないという問題がある。また、従来技術の後者では、イ草の抜け落ちを防ぐために収容孔開口に和紙を貼らなければならない。
【0005】本考案は、上述のような実状に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、腕芯体の抜け落ちを確実に防止しうると共に胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、また、頭保持体の抜け落ちを簡単に防止しうる人形の胴芯を提供するにある。」の記載。
「【0006】【課題を解決するための手段】本考案では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。即ち、本考案は、上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた適度の剛直性を有する胴芯本体と、適度の弾性復元性を有する頭保持体と、前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体とからなる人形の胴芯であって、前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことを特徴としている(請求項1)。
【0007】この場合、腕芯体が切溝の側面に拘束されるので、回動することがないと共に、上方への抜け出しが阻止され、腕芯体を屈曲させた場合でも、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる。」の記載。
「【0017】そして、腕芯体4は胴芯本体2に確実強固に固着されているので、抜け落ちる恐れがなく、しかも胴芯本体2に対する姿勢を保持することができ、したがって、人形の姿勢を製作者の意図のままに保つことができる。」の記載。
「【0021】【考案の効果】本考案は、上述のように上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた適度の剛直性を有する胴芯本体と、適度の弾性復元性を有する頭保持体と、前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体とからなる人形の胴芯であって、前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことを特徴とするものであるから、腕芯体を胴芯本体に確実強固に固定することができると共に、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる。」の記載。
これらの記載によれば、本件考案は、人形の胴芯において、従来技術では腕金は差し込んだだけであるから、回動する恐れがあるうえ抜け落ちたりその姿勢を一定に保持できないという問題を解決すること、及び、腕芯体の抜け落ちを確実に防止しうると共に胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持できる人形の胴芯を提供することを目的として、「(C)前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体と、(E)前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、(F)該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定した」構成とすること、すなわち、本件考案の構成要件C、E、Fを備えることにより、「腕芯体が切溝の側面に拘束されるので、回動することがないと共に、上方への抜け出しが阻止され、腕芯体を屈曲させた場合でも、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる」「腕芯体4は胴芯本体2に確実強固に固着されているので、抜け落ちる恐れがなく、しかも胴芯本体2に対する姿勢を保持することができ、したがって、人形の姿勢を製作者の意図のままに保つことができる」及び「本考案は、上述のように上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔を備えた適度の剛直性を有する胴芯本体と、適度の弾性復元性を有する頭保持体と、前記胴芯本体に基端が嵌入固定される腕芯体とからなる人形の胴芯であって、前記胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことを特徴とするものであるから、腕芯体を胴芯本体に確実強固に固定することができると共に、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる」との作用効果を奏するものである。
このことは、本件考案の第一の実施形態を示した図1(本考案の第一実施形態を示す縦断面図)に基づく実用新案登録第3036796号公報の考案の詳細な説明の欄の次の記載からも裏付けられる。
「【0011】前記胴芯本体2の上端には、前側と後側に切欠部2A,2Bが設けられ、上面中央よりも若干後側寄りに上からみて円形の上端が開口する所要深さの頭保持体収容孔5が設けられており、さらに、該収容孔5の左右両側に、前記腕芯体4径と同じか又は若干狭い幅の切溝6,6が、前記収容孔5から外端に貫通しかつ収容孔5の中心と一致するように設けられている。
【0012】前記切溝6は、その深さが腕芯体4の径(太さ)よりも深くされ、腕芯体4と略円径の腕芯体嵌装孔7が前記収容孔5と略平行に所要深さに設けられている。 また、前記頭保持体3は、適度の弾性復元性を有する材料、例えばイ草からなり、前記胴芯本体2の前記収容孔5の内面(周壁及び底面)に接着剤8を塗布した後、該収容孔5にイ草を束ねて(結束しないで)挿入し、イ草の頭保持機能を阻害することなく、しかも前記収容孔5にイ草が固着され、容易に抜け出さないようにしてある。
【0013】前記腕芯体4は、基部が直角に屈曲され、この屈曲部4Aが胴芯本体2の嵌装孔7に嵌入され、屈曲部4Aに続く水平部分が切溝6の両側壁に接触し、該切溝6側壁に拘束されて前後方向及び上方向に動かないようになっている。したがって、腕芯体4は、嵌装孔7からも抜け出し難く、胴芯本体2に対する姿勢を保持する。」の記載。
以上のことから、本件考案の構成要件C、E、Fは、本件考案の課題を解決する上で欠くことのできない構成であり、本件考案の本質的な部分を成していると認められる。
これに対して、イ号物件の構成c、e、fは、前述したとおり「(c)中央部に屈曲出っ張り部4を設けた一本の腕芯3と、(e)前記胴芯1の背面に左側面から右側面まで開通する横向きの切り溝2を設け、(f)該切り溝2内に前記腕芯3の中央部の屈曲出っ張り部4を挿入するとともに、腕芯3の右端部及び左端部をそれぞれ切り溝2の外に出して胴芯1の側方へ突出させることにより人形本体7における左腕部9と右腕部10にそれぞれ内蔵する一本の腕芯3を具えた」ものであるため、本件考案と同様の「腕芯3の中央部の屈曲出っ張り部4が切り溝2の側面に拘束されるので、回動することがないと共に、横向きの切り溝2であるために腕芯3の上方への抜け出しが阻止され、腕芯3を屈曲させた場合でも、胴芯1に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる」という作用効果を奏するものである。
しかしながら、イ号物件では、切り溝2が胴芯1の背面に左側面から右側面まで開通する横向きに設けられているために、腕芯3の背面側は切り溝2の側面に拘束されるということがなく、しかも、前記腕芯3は、本件考案のように、胴芯本体の上端の頭保持体収容孔の両側に設けられた両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔が設けられ、該嵌装孔に腕芯体の基端が嵌入固定されるというものではなく、前記腕芯3の中央部の屈曲出っ張り部4が単に切り溝2に挿入されているだけであるから、イ号物件の腕芯3の背面側は切り溝2から容易に離脱しうるものとなっていて、イ号物件は、本件考案の「腕芯体4は胴芯本体2に確実強固に固着されているので、抜け落ちる恐れがなく、しかも胴芯本体2に対する姿勢を保持することができ、したがって、人形の姿勢を製作者の意図のままに保つことができる」及び「腕芯体を胴芯本体に確実強固に固定することができると共に、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる」という作用効果を奏するものとはいえない。
また、(イ)号図面にも、胴芯本体の上端に前記頭保持体収容孔の両側に夫々切溝を設け、該両切溝底に上端が開口する腕芯体嵌装孔を設け、該嵌装孔に腕芯体の基端を嵌入固定したことは、記載されていない。
したがって、イ号物件は、前述のとおり、本件考案の構成要件C、E、Fを具備しておらず、「腕芯体4は胴芯本体2に確実強固に固着されているので、抜け落ちる恐れがなく、しかも胴芯本体2に対する姿勢を保持することができ、したがって、人形の姿勢を製作者の意図のままに保つことができる」及び「腕芯体を胴芯本体に確実強固に固定することができると共に、胴芯本体に対する姿勢を安定的に保持でき、人形の容姿を確保できる」という作用効果を奏しないものであるから、両者の作用効果も明らかに異なるものである。
したがって、イ号物件の構成c、e、fは、本件考案の構成要件C、E、Fを充足しない。

4.まとめ
以上、本件考案の構成要件とイ号物件の構成を対比すると、イ号物件は、本件考案の構成要件のうち構成要件A、B、D及びGを充足するものの、構成要件C、E及びFを充足しない。

5.本件登録第3036796号実用新案の請求項2ないし請求項6に係る考案について
以上のとおり、イ号物件の構成c、e、fが、本件考案の構成要件C、E、Fを充足しないものである以上、本件考案を引用する請求項2ないし請求項6に係る考案も、少なくとも上記構成要件C、E、Fを充足しないものとなることは、明らかである。

6.均等論の適用について
イ号物件の構成と本件考案の構成要件との間の相違点である本件考案の構成要件C、E、Fは、前述のとおり、本件考案の本質的な部分を成していると認められるので、本件考案の構成要件C、E、Fに対する均等論の適用の余地はない。

〔5〕むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件登録第3036796号実用新案の請求項1ないし請求項6に係る考案の構成要件を充足しないから、イ号物件は、本件登録実用新案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 (イ)号図面










(イ)号説明書


判定日 2001-05-16 
出願番号 実願平8-10339 
審決分類 U 1 2・ 0- ZA (A63H)
最終処分 成立    
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 二宮 千久
佐藤 昭喜
登録日 1997-02-12 
登録番号 実用新案登録第3036796号(U3036796) 
考案の名称 人形の胴芯  
代理人 杉山 泰三  

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