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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない E06B
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない E06B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない E06B
管理番号 1041552
審判番号 審判1999-35643  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-11-04 
確定日 2001-02-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第1985989号実用新案「折り畳み式可動門扉」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 経緯

本件実用新案登録第1985989号は、昭和61年1月18日に出願され、平成5年9月24日に設定登録され、平成11年11月4日に松村産業株式会社より無効審判の請求があり、平成12年5月9日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成12年8月22日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出されたものである。

第2 請求人及び被請求人の主張の概要

1.請求人は、「実用新案登録第1985989号の明細書の実用新案登録請求の範囲記載の第1項ないし第3項に係る考案はいずれもこれを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」趣旨で無効審判を請求し、請求の理由として、審判請求書及び審判事件弁駁書において、甲第1号証の1ないし甲第18号証を提示して、無効理由を次のように主張する。
(1)本件実用新案登録の請求項1に記載された考案については、その出願前日本国内において頒布された甲第2号証に記載されたものと同一であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当する。仮に甲第2号証に記載されたものと相違点があるとしても、当該相違点は周知・慣用の事項であって、請求項1に記載された考案は当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当する。
(2)請求項1に記載された考案は、その出願前日本国内において公然実施された(甲第2号証、甲第3号証及び甲第12号証参照)ものと同一であるから、実用新案法第3条第1項第2号に該当する。仮に相違点があるとしても、当該相違点は周知・慣用の事項であって、請求項1に記載された考案は当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当する。
(3)請求項1に記載された考案については、その出願前日本国内において頒布された甲第11号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当する。
(4)本件実用新案登録の請求項2に記載された考案において限定された構成はついては、甲第2号証、甲第3号証、甲第9号証及び甲第10号証に示すように周知又は公知の技術であって、請求項2に記載された考案は当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当する。
(5)本件実用新案登録の請求項3に記載された考案において限定された構成はついては、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に示すように周知又は公知の技術であって、請求項3に記載された考案は当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当する。
(6)本件実用新案登録の請求項1ないし3に記載された考案については、本件の出願前に出願されその後公開された甲第18号証に記載されたものと同一であるから、実用新案法第3条の2に該当する。
2.一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」趣旨で答弁し、答弁書において次のように主張する。
(1)本件実用新案登録の請求項1ないし3に記載された考案は甲第2号証に記載されたものと同一でなく、また、それから当業者がきわめて容易に考案できたものでもない。
(2)請求項1ないし3に記載された考案は、その出願前に公然実施されたものでもなく、また、それから当業者がきわめて容易に考案できたものでもない。
(3)請求項1ないし3に記載された考案は甲第11号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案できたものでもない。

なお、本件実用新案登録は昭和61年1月18日の出願に係るものであり、実用新案登録請求の範囲(2)及び(3)は同(1)の実施態様であるから、請求人の請求の趣旨は、実用新案登録第1985989号の明細書の実用新案登録請求の範囲(1)ないし(3)に記載された考案はこれを無効とするであって、無効理由は実用新案登録請求の範囲(1)ないし(3)に記載された考案についての無効理由をいうものと解される。
さらに、請求人の無効理由(6)は、弁駁書においてはじめて主張されたものであって、審判請求書には全く主張していなかった無効の理由を追加(条文の追加)するものであるから、上記の主張は実質的に請求書の要旨を変更するものであって、実用新案法第38条第2項の規定に違反するので、当該主張は認められず、当該主張の証拠である第18号証も採用できない。

第3 本件考案

本件実用新案登録に係る考案は、明細書の実用新案登録請求の範囲(1)ないし(3)に記載された次のとおりのものであり、以下、同(1)に記載された考案を本件考案という。
(1)並立するたて格子1,1間を伸縮リンク2で連結して扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能とし、かつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートAのたて格子1の適所にヒンジ受け16を設けるとともに、
折り畳み自在とした板状パネル14の単位パネル14aの両端部にはヒンジ本体18を取り付け、前記ヒンジ受け16とヒンジ本体18とを着脱自在に枢着し、
このヒンジ受け16とヒンジ本体18との枢着時にはパネル14が伸縮リンク式ゲートAを隠蔽でき、非枢着時には伸縮リンク式ゲートAのみにより非隠蔽状態となるように構成してあることを特徴とする折り畳み式可動門扉。
(2)伸縮リンク式ゲートAのたて格子1に設けたヒンジ受け16は筒状体とするとともに、単位パネル14aの端部にも筒状体17を設け、パネル14を伸縮リンク式ゲートAに装着した時に前記筒状体のヒンジ受け16と筒状体17とに連結軸20を挿通して取り外し可能に固定してある実用新案登録請求の範囲第(1)項記載の折り畳み式可動門扉。
(3)単位パネル14aは縦に2分割したパネル片面体32,32で形成すると共に、両パネル片面体32,32同士は蝶番34でヒンジ連結して折り畳み自在にしてある実用新案登録請求の範囲第(1)項または第(2)項記載の折り畳み式可動門扉。

第4 請求人主張の無効理由についての検討

1.証拠に記載された事項の認定
請求人が無効理由の根拠として提示した書証の記載事項について検討する。
(1)甲第2号証の1及び同2:ホリー株式会社発行の製品名「ウィンディゲート」のパンフレット及び同裏表紙写し
甲第2号証の1及び同2には、ゲートが示されており、甲第2号証の2の図面によれば、移動柱間または移動柱と固定柱の間に、折り畳まれるパネル(図面から1枚のパネルは高さが約1800mmで幅が約450mmと認められる。)とX形のブレースが1組が設けられており、X形のブレースは、開いた状態で、一番高いところで移動柱等の半分よりも少し上となっていると認められる。また、甲第2号証の2の右下には「60.8. 10,000」の記載が認められる。
(2)甲第3号証:ホリー株式会社発行の「ウィンディゲート取扱説明書」
表紙には「昭和61年4月1日 初版」と記載され、1頁には甲第2号証の2と同様の図面が記載され、1頁及び4頁の図面には、ウィンディパネル面板の上下端部を中間部柱や端部柱とヒンジピンを介して取りつけ、ヒンジピンの下端に松葉ピンを取りつける状態が示されている。
(3)甲第4号証:実願昭58-144747号(実開昭60-51296号)のマイクロフィルム
工事現場等の仮設門扉に関する考案が記載されており、固定柱と移動柱の間に設けられた吊柱と本体折畳材とが伸縮腕で斜め格子状に伸縮自在に連結された門扉と、この門扉の前面にジャバラシートを張設されたものが図面とともに記載されている。
(4)甲第5号証:実願昭55-104131号(実開昭57-26589号)のマイクロフィルム
伸縮自在ロングドアに関する考案が記載されており、前後二段形成の格子状杆体の後面全面に渉って幕状の安全カバーを取りつけたものが図面とともに記載されている。
(5)甲第6号証:実願昭56-185933号(実開昭58-90993号)のマイクロフィルム
アコーデオン門扉の伸縮装置に関する考案が記載されており、平帯板のX形配置による連鎖状菱形枠を介して伸縮自在とした門扉が図面とともに記載されている。
(6)甲第7号証:実願昭56-124409号(実開昭58-29789号)のマイクロフィルム
伸縮門扉に関する考案が記載されており、傾斜する複数本の斜桟が交叉状に配列された伸縮枠と縦桟とにより伸縮する門扉が図面とともに記載されている。
(7)甲第8号証:実願昭51-126369号(実開昭53-43731号)のマイクロフィルム
門扉に関する考案が記載されており、従来例として、アコーディオン型門扉等が記載され、さらに、縦長に形成された複数の扉板の上部及び下部に連結アームが装着され、扉板を回動させたり、その間隔を縮小させる門扉が図面とともに記載されている。
(8)甲第9号証:実願昭58-34330号(実開昭59-140682号)のマイクロフィルム
折畳式扉に関する考案が記載されており、特に第5図に関して、折戸(板状体)の両端上下部、支持枠体の垂直部の上下部に軸受孔を有する取付片を配設し、該軸受孔にピン軸を挿通することによって折戸を隣接する支持枠体に回動自在に取り付けることが図面とともに記載されている。
(9)甲第10号証:実願昭56-100769号(実開昭58-11093号)のマイクロフィルム
工事用仮設門扉に関する考案が記載されており、特に第3図に関して、隣接する扉構成板間を蝶番と扇形規制板と軸とによって連結することが図面とともに記載されている。
(10)甲第11号証:登録意匠第629552号公報(昭和59年7月18日発行)
仮設門扉に係る物品の意匠の図面が記載されており、説明欄には「本物品は例えば工事現場等において使用される門扉であって、網枠部の折畳みを介して伸縮可能に設けられる。又本物品は間口の幅に応じて門扉を2つ以上適宜に連結させて使用する事が可能である。」と記載されている。ここで、X形の斜材の高さは、網枠部の高さの約半分強となっている。
(11)甲第12号証:平成11年3月19日浅井正之作成の陳述書
甲第2号証、甲第3号証に関して陳述している。
(12)甲第13号証:実開昭57-93598号公報
伸縮式門扉として、パンタグラフ状に交叉する斜架材を組み合わせた門扉が図面とともに記載されている。
(13)甲第14号証:実開昭57-61099号公報
門扉として、パンタグラフ式伸縮機構を有する門扉が図面とともに記載されている。
(14)甲第15号証:実願昭56-186991号(実開昭58-90985号)のマイクロフィルム
アコーディオン式間仕切に関する考案が記載されており、間仕切本体に設けられた横状及び縦状のX字型連結部材と、間仕切本体の外周を被覆するシートとにより、間仕切本体を伸縮できるようにした仕切が図面とともに記載されている。
(15)甲第16号証:実願昭51-158580号(実開昭53-74952号)のマイクロフィルム
建築作業場出入口の組立式伸縮扉に関する考案が記載されており、主軸、伸縮用金具、折りたたみ用金具、鉄しんに沿ってシートを取り付けた伸縮扉が図面とともに記載されている。
(16)甲第17号証:実願昭53-124471号(実開昭55-40199号)のマイクロフィルム
伸縮門扉に関する考案が記載されており、コ字形杆間の上下端部に伸縮自在な水平パンタグラフ体を連結し、この水平パンタグラフ体に目かくし板を設けるとともに、コ字形杆間の中間の高さ位置に伸縮自在な垂直パンタグラフを連結した伸縮門扉が図面とともに記載されている。

2.本件考案について
(1)本件考案は、実用新案登録請求の範囲(1)に記載した構成としたことによって次の作用効果を奏する。
(A)ヒンジ受けとヒンジ本体の枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽でき、非枢着時には伸縮リンク式ゲートのみにより非隠蔽状態となるように構成してなることから、隠蔽が必要な場合と不要の場合とに選択使用することができる(本件公報8欄15ないし23行)。
(B)隠蔽時にも、伸縮リンクを使用した骨組み構造と折り畳み自在なパネルとが一体であるから、従来の単なるパネル構造、又は上下両端部にパンタグラフ状の羽根板を有するパネル構造の門扉に比べて十分な強度が得られる(本件公報8欄24ないし29行)。
(2)本件考案の「閉鎖可能」について
本件明細書の考案の詳細な説明及び図面には、「閉鎖可能」の意味について明記されていない。しかしながら、伸縮リンク式ゲートについて請求項1には「並立するたて格子1、1間を伸縮リンク2で連結して扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態で閉鎖可能とし、かつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートA」と記載されており、伸縮リンク式ゲートAのみで閉鎖可能なゲートであること、一般に、門扉やゲートにおいて「閉鎖可能」とは、人が自由に出入りできないことを意味することから、本件考案においても、そのような意味で用いられると考えられる。
(3)本件考案の「着脱自在」について
本件明細書の考案の詳細な説明及び図面には、次の記載が認められる。
(A)「産業上の利用分野」の項に、「この考案は、折り畳み式可動門扉の改良に関する」と記載されている(2欄5ないし6行)。
(B)「従来の技術」の項に、(イ)複数のたて格子間を伸縮リンクで連結した骨組み構造の伸縮リンク式ゲート、(ロ)横方向に伸縮自在に支持した複数の板状パネルを上から吊り下げてなるパネル式ゲートのほか、(ハ)、(ニ)として、扉本体の上端部と下端部にパンタグラフ状の羽根板を取り付け、この上下両部の羽根板間にパネルを設けたパネル式ゲートの例が挙げられている(2欄8ないし25行)。
(C)「考案が解決しようとする問題点」の項に、従来は隠蔽を目的とする場合とそうでない場合に応じて前記(イ)(ロ)の二種類の構造のものから一つを選択して設置していたが、「目的によっては、一時期だけ隠蔽が必要で通常は門扉の内側が透けて見えて良い場合、またはその逆の場合があり、このような場合には従来の折り畳み式可動門扉では即座に対応できない上に、両者を配置替えするための費用が高くつくなどの不都合があった」(3欄8ないし16行)と記載されている。
(D)「問題点を解決するための手段」の項に、「横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートのたて格子の適所にヒンジ受けを設けるとともに、折り畳み自在とした板状パネルの単位パネルの両端部にはヒンジ本体を取り付け、前記ヒンジ受けとヒンジ本体とを着脱自在に枢着し」(3欄43行ないし4欄3行)、「隠蔽を必要としない場合には簡単に前記パネルを伸縮リンク式ゲートから取り外せるようにしてなるものである」との記載がある(4欄8行ないし12行)。
(E)「実施例」の項に、「このヒンジ軸35の上端部には、軸本体より径の大きい係止頭部35aが形成されると共に、下端部には割りピン40が装着され、これにより上下の各ダブルリーフヒンジ34、34の軸筒体36、36からヒンジ軸35が抜けるのを防止している」(7欄12ないし17行)という記載があり、第2図に、パネル裏面側から見たヒンジ受けとヒンジ本体の連結の詳細図(抜け止め装置を含む)が示されている。
(F)「考案の効果」の項に、「門扉により隠蔽が必要な場合には上記パネルをヒンジ連結により伸縮リンク式ゲートに取り付け、また隠蔽が不要の場合にはヒンジ連結を解除して上記パネルを取り外すことにより、両方の目的に容易に選択使用することができ、極めて使い勝手が良い」という記載がある(8欄18ないし23行)。
本件明細書及び図面の上記記載によれば、本件考案にいう「着脱自在」とは、伸縮リンク式ゲートのたて格子に設けられたヒンジ受けと単位パネルの両端部に設けられたヒンジ本体を、門扉による隠蔽が必要な場合と隠蔽が不要の場合に応じて、「容易」「簡易」に連結したり、右連結を解除できることをいうと解される。そして、ここでいう「容易」「簡易」とは、門扉の設置現場において、作業員が人力又は工事器具を用いて連結若しくは連結解除できるものであれば足りると考えられる。
また、上記パネルを取り外した場合には、伸縮リンク式ゲートのみにより門扉としての機能を果たすものであることは当然である。
(4)本件考案の「隠蔽」について
本件明細書考案の詳細な説明及び図面には、次の記載が認められる。
(A)「考案が解決しようとする問題点」の項に、従来例のうち、(イ)の伸縮リンク式ゲートには、「強度的には十分であるけれども、組み合わされた格子目の間から門扉の内側が透けて見えるため、隠蔽を目的とする用途には適しない」という問題点があると記載されている(2欄27ないし3欄3行)。これに対し、(ロ)のパネル式ゲートは、「門扉の内側がパネルによって遮られるので十分な隠蔽効果を発揮」(3欄4ないし6行)し、(ハ)及び(ニ)のパネル式ゲートも、「扉本体の上下両端部にパンタグラフ状の羽根板を設けていること」から、前記欠点を解消することができるとされている(3欄23ないし26行)。
(B)「問題点を解決するための手段」の項に、「伸縮リンクの伸縮動作に応じてパネルを伸縮させて門扉の内側を隠蔽する」という記載がある(4欄8ないし9行)。
本件明細書及び図面の上記記載に照らせば、門扉の内側がパネルにより遮られるパネルゲート及び扉本体の上下両端部に羽根板を設けたパネルゲートでは、従来から十分な隠蔽効果が発揮できており、本件考案は、伸縮リンク式ゲートにおいて、組合わされた格子目の間から門扉の内側が透けて見えるのを防止するための手段を提供したことに特徴があるといえる。そうすれば、本件考案にいう「隠蔽」とは、「門扉の内側」、「扉本体の上下両端部」を遮断することをいい、伸縮リンク式ゲートにおいては、「組み合わされた格子目により構成される面」を遮断することをいうと解される。

(5)甲第2号証、甲第3号証に記載されたものについて
(5-1)請求人は、本件考案は甲第2号証の1及び同2(以下、まとめて甲第2号証という。)に記載され、または実施されたものと同一であるから実用新案法第3条第1項第2号または同第3号に該当し、相違点があるとしても該相違点は周知・慣用手段にすぎないから実用新案法第3条第2項に該当する旨主張するが、この主張は、甲第2号証のヒンジの構造については、甲第3号証に記載されたヒンジと同じ構造であることを前提とするものと解される。
被請求人は、甲第2号証については、その成立性や公知性について争う旨の主張はなく、構成の相違を主張するのみである。甲第3号証については、本件考案の出願後に印刷されたものであるから、本件考案の出願時に公知となったものではなく、さらに甲第2号証に記載されたものと同一(の構成)とは限らない旨主張する。
(5-2)対比
そこで、まず構造について検討するに、甲第2号証に記載されたものと甲第3号証に記載されたものは、ゲートを広げた状態を表す構造図が一致(部材の名称が一部異なる)しており、仕様表の品番としてともに「J1737、J1738、J1739、J1741」が記載され、称号、製品名、間幅(A)、高さも一致していることから、甲第2号証の「ウィンディゲート」の構造は、甲第3号証に記載されたものと同一の構成を有すると認められる。
そして、甲第2号証及び甲第3号証(以下、甲第2号証等という。)には、上記1の(1)及び同(2)に記載した構造のゲートが記載されていると認められる。
そうすると、甲第2号証等には、固定柱、移動柱、端部柱、中間部柱に設けられたヒンジ受けに、パネル面板の両端部に設けられたヒンジ本体を連着して、パネル面板を取り付ける構造のゲートであって、柱間にはX字状のブレース(斜材)が設けられていることが認められる。
しかし、パネル面板を外した場合に残るのは、両側の柱とX字状のブレース(斜材)一組だけであり、該ブレースは、一杯に開いた状態では、交差部の高さが柱の上端(1930mm)の半分に満たないため、パネル面板を外した場合に残る柱とブレースだけでは、開閉の際に安定性に欠ける上、現場関係者以外の者が下をくぐるか、上を跨いで侵入することも容易となり(乙第6号証の1ないし4)、強度上も防犯上も「門扉」としての機能を有しないと認められ、甲第2号証等のゲートは、常にパネルを取り付けた状態で使用することが予定されており、取り外すことは予定していないものと認められる。
以上によれば、甲第2号証等に記載されたものには、本件考案の構成要件の「閉鎖可能」、「着脱自在」という構成を備えているとは認められない。また、甲第2号証等に記載されたものには、本件考案の構成要件の「たて格子」という構成を備えているとも認められない。
したがって、本件考案と甲第2号証等に記載されたものとは次の点で一致し、相違していると認められる(符号は省略)。
[一致点]
並立するものの間を伸縮リンクで連結して扉本体の上部から下部に至り目隠し不能状態とし、かつ横方向に伸縮自在としてなる伸縮リンク式ゲートの柱の適所にヒンジ受けを設けるとともに、
折り畳み自在とした板状パネルの単位パネルの両端部にはヒンジ本体を取り付け、前記ヒンジ受けとヒンジ本体とを枢着し、
このヒンジ受けとヒンジ本体との枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽できるように構成してあることを特徴とする折り畳み式可動門扉。
[相違点1]本件考案の伸縮リンク式ゲートは、たて格子間に設けられているのに対し、甲第2号証等に記載されたものは、柱間に設けられている点、
[相違点2]本件考案の伸縮リンク式ゲートは、目隠し不能状態で閉鎖可能となっているのに対し、甲第2号証等に記載されたものは、閉鎖可能とはなっていない点、
[相違点3]本件考案のヒンジ受けとヒンジ本体とは着脱自在に枢着されているのに対し、甲第2号証等に記載されたものは、着脱自在となっていない点、
[相違点4]本件考案の伸縮リンク式ゲートはヒンジ非枢着時には該ゲートのみにより非隠蔽状態となるのに対し、甲第2号証等に記載されたものは、伸縮リンク式ゲートのみでは非隠蔽状態とはならない点。
(5-3)相違点の検討
まず、相違点3について検討する。
本件考案の上記相違点3に係る構成については、上記1で認定したように、請求人の提出した証拠には具体的に何ら記載されていない。
請求人は、「着脱自在」なヒンジは、甲第2号証等以外にも、甲第9号証、甲第10号証に記載されているように周知・慣用手段である旨主張する。
しかしながら、本件考案において「着脱自在」は、上記(3)の(G)に記載したように、伸縮リンク式ゲートのたて格子に設けられたヒンジ受けと単位パネルの両端部に設けられたヒンジ本体を、門扉による隠蔽が必要な場合と隠蔽が不要の場合に応じて、「容易」「簡易」に連結したり、右連結を解除できることをいうと解されることから、甲第2号証等に記載されたものは、本件考案でいう着脱自在という構成を有しないことは上記(5-2)に記載したとおりである。
また、甲第9号証には、折畳式扉に関する考案が記載されており、特に第5図に関して、折戸(板状体)の両端上下部と支持枠体の垂直部の上下部に軸受孔を有する取付片を配設し、該軸受孔にピン軸を挿通することによって折戸を隣接する支持枠体に回動自在に取り付けることが図面とともに記載されているものの、該取付片とピン軸とによる連結構造は、折戸(板状体)と支持枠体とを連結するものであって、この連結を解除した場合には、折戸(板状体)が取り外され、門扉としての機能を有さなくなるから、この連結構造は、折戸(板状体)を必要に応じて着脱自在とするものとは考えられず、本件考案でいう(パネルの)着脱自在という構成を有するものということはできない。
さらに、甲第10号証には、工事用仮設門扉に関する考案が記載されており、特に第3図に関して、隣接する扉構成板間を蝶番と扇形規制板と軸とによって連結することが図面とともに記載されているものの、隣接する扉構成板間を連結するものであって、この連結を解除した場合には扉構成板がばらばらとなってしまい、門扉としての機能を有さなくなるから、これも、本件考案でいう着脱自在という構成を有するものということはできない。
また、他に「着脱自在」なヒンジが本件考案の出願前に周知または慣用の技術的事項であったとも認められない。
(5-4)したがって、本件考案は、甲第2号証等に記載されたものと同一とすることはできず、また、甲第2号証等に記載されたもの及び周知・慣用の技術的事項から、当業者がきわめて容易に考案できたものとすることはできないから、甲第2号証等の頒布、公然実施について判断するまでもなく、実用新案法第3条第1項第2号、同第3号、または同条第2項に該当するとすることはできない。

(6)甲第11号証に記載されたものについて
(6-1)請求人は、本件考案は甲第11号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案できたものである旨主張する。
しかしながら、甲第11号証には、上記1の(10)に記載した事項が記載され、同公報の正面図、背面図によれば、この仮設門扉は、一方の支柱の約半分の高さから、他方の支柱の下端に向けて渡された斜材により構成されたX状の格子と支柱の間に、支柱の上下両端部を覆う網枠部(パネル)を付したものであり、網枠部の外側から、門扉の内側が透けて見えることは明らかであるから、本件考案のように、パネルが伸縮リンク式ゲートを「隠蔽」するという構成を有しない。
また、右正面図、背面図によれば、パネルを除いたX字状部分は、支柱の約半分の高さしかないため、現場関係者以外の者が、X字の交差部の下をくぐるか、上を跨いで外部から侵入することは容易であると考えられ、パネルを外した場合に残る支柱及び斜材が、それだけで本件考案のような「扉本体の上部から下部に至り閉鎖可能とし」た「伸縮リンク式ゲート」の機能を有するとはいえないし、パネルを着脱して使用することを予定したものとも断定できない。
したがって、本件考案と甲第11号証に記載されたものとは、甲第2号証等との対比における相違点1ないし3に加え、「本件考案は、ヒンジ受けとヒンジ本体との枢着時にはパネルが伸縮リンク式ゲートを隠蔽できるものであるのに対し、甲第11号証に記載されたものは、隠蔽できるものではない点」で相違していることになる。 そして、それらの相違点に対する判断は、上記(5)においてした判断と同じであって、本件考案は、甲第11号証に記載されたもの及び周知・慣用の技術的事項から、当業者がきわめて容易に考案できたものとすることはできないから、実用新案法第3条第2項に該当するとすることはできない。

第5 まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-11-17 
結審通知日 2000-12-01 
審決日 2000-12-12 
出願番号 実願昭61-5614 
審決分類 U 1 112・ 112- Y (E06B)
U 1 112・ 121- Y (E06B)
U 1 112・ 113- Y (E06B)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 宮崎 恭
鈴木 憲子
登録日 1993-09-24 
登録番号 実用新案登録第1985989号(U1985989) 
考案の名称 折り畳み式可動門扉  
代理人 峯田 勝次  
代理人 大内 信雄  
代理人 鈴木 活人  
代理人 武田 純  
代理人 酒井 一  
代理人 藤本 昇  

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