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審決分類 |
審判 全部申し立て B60C |
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管理番号 | 1043377 |
異議申立番号 | 異議2000-71097 |
総通号数 | 21 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案決定公報 |
発行日 | 2001-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-03-15 |
確定日 | 2001-06-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 登録第2600136号「空気入りタイヤ」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 登録第2600136号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件登録第2600136号実用新案は、平成5年6月25日に実用新案登録出願され、平成11年7月30日にその実用新案権の設定登録がなされ、その後、東洋ゴム工業株式会社(以下、「申立人」という。)により実用新案登録異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年10月13日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 2の1.訂正の要旨 ア.訂正事項a 実用新案登録請求の範囲の請求項1を、 「実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層と、これらベルトおよびベルト補強層で強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、 ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることを特徴とする空気入りタイヤ。」 と訂正する。 イ.訂正事項b 明細書段落【0005】【課題を解決するための手段】中の 「空気入りタイヤにおいて、カーカスの側方全周にわたって前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となる引張り抵抗性のコードのゴム引き層からなるサイド補強層を備え」との記載を、 「空気入りタイヤにおいて、ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え」 と訂正する。 ウ.訂正事項c 明細書段落【0007】中の 「また、サイド補強層9は、カーカス3の両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール中央部位置のカーカス領域を覆う配置が好ましい。……さらに、このコード8配列は、複数配列であれば、複数本のコードをそれぞれ径の異なる同心円に沿って配置しても、一本のコードをらせん状に配置してもよく、適宜選択可能である。」 との記載を、 「また、サイド補強層9は、カーカス3の両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール部位置、好ましくはサイドウォール中央部位置にわたるカーカス領域を覆う配置にする。……さらに、このコード8配列は、一本のコードをらせん状に配置することによって複数配列とする。」 と訂正する。 エ.訂正事項d 明細書段落【0009】【作用】の記載中の 「本考案は、トロイド状カーカス3の側方全周にわたって前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」との記載を、 「本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」 と訂正する。 オ.訂正事項e 明細書段落【0015】【考案の効果】中の 「本考案は、トロイド状カーカス3の側方全周にわたって前記カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」との記載を、 「本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」 と訂正する。 2の2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、考案の客体である「空気入りタイヤ」に係る「サイド補強層」の構成に更なる限定を付す点で、実用新案登録請求の範囲の減縮に相当し、 訂正事項b?eは、訂正事項aによる実用新案登録請求の範囲の減縮に伴い必要となる、明りょうでない記載の釈明に相当する。 そして、これらの訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 2の3.むすび したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項において準用する特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、または同第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件考案 上記の適法な訂正の結果、本件請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、前記訂正事項aに記載されたとおりの「空気入りタイヤ」である。 4.実用新案登録異議の申立についての判断 4の1.申立ての理由の概要 申立人は、甲第1号証(特開昭62-29403号公報)、甲第2号証(特開平4-95512号公報)、甲第3号証(特開昭62-157816号公報)、甲第4号証(特開昭62-125902号公報)、甲第5号証(特開昭48-83503号公報)を提出し(以下、甲第m号証を「甲m」、該甲号証記載の考案を「甲m考案」という。)、 本件考案は、甲1?5考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件考案に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである、 と主張する。 4の2.甲各号証の記載内容 a.甲1 ア.「ビードワイヤの上にビードフィラーが配置され、カーカス層が該ビードワイヤの廻りにタイヤ内側からタイヤ外側に折り返されたビード部を有するアスペクト比30?70のタイヤにおいて、繊維コード又はスチールコードからなる補強層をビード部からサイドウオール部にかけてタイヤ全周に亘って配置し、該補強層のコード角度を前記カーカス層のカーカスコードに対しほぼ直角としたことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」(特許請求の範囲)、 イ.「本発明は、……アスペクト比(扁平比)の低い高性能空気入りラジアルタイヤに関する。」(1頁左下欄下から4?1行)、 ウ.「第1図においては、左右一対のビード部C,C間には、……カーカス層4が配置されている。また、トレッド部Aにおけるカーカス層4上には、2層のベルト層5がトレッド部Aのほぼ全域に亘って環状に配置されている。」(2頁右上欄5?10行)、 エ.「なお、補強層3の配置位置は、ビードフィラー2の外側でなくともよく、例えば、ビードフィラー2の内側やカーカス層4の折り返されていない部分の内側等のいずれでもよい。」(2頁左下欄7?11行)、 オ.「補強層3は繊維コード又はスチールコードをコートゴム(被覆ゴム)中に埋め込んでなるものである。繊維コードとしては、……化学繊維や炭素繊維などが使用される。なお、カーカスコードよりも伸びの少ないものを用いることが好ましい。……また、コードの打ち込み本数は、コートゴム中にコードに直角方向に5cm当り20?60本……であることが好ましい。……20本未満では補強効果が不十分となる(タイヤS.Hの20?60%内)。」(2頁左下欄15行?同頁右下欄15行)、 カ.「補強層3のコード角度は、第2図に示すように、カーカス層4のカーカスコードに対しほぼ直角(80°?90°)である。……補強層3のコード3aとカーカス層4のカーカスコード4aとは、交差角θ=ほぼ直角……で交差している。換言すれば、補強層3のコード3aは、タイヤ周方向にほぼ平行である。このように交差することにより、カーカスコード個々を強固に束縛するため、補強層3の補強効果が著しく発揮され、操縦安定性の向上が可能となるのである。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄8行)、 キ.「このため、本発明は、アスペクト比60……などのサイドハイトの低いタイヤには、特に有効である。」(3頁左下欄4?6行)、 ク.上記空気入りラジアルタイヤの一例の半断面説明図に相当する第1図(3頁右下欄)及び第1図に示されたタイヤの側面視説明図に相当する第2図(4頁上欄)。 b.甲2 ケ.「扁平率が55以下の空気入りタイヤであって、トレッド部からサイドウオール部を経て一対のビードコアに至るトロイド状の本体部にビードコアをタイヤ軸方向内側から外側にかけて巻上げる巻上げ部を一体に設けたカーカス、前記本体部と巻上げ部との間に配され……硬質ゴムからなるビードエイペックス、前記トレッド部の内方かつカーカスの半径方向外側に配され……たベルト層、該ベルト層の半径方向外側に配され……るバンド層、および……本体部と巻上げ部との間で半径方向にのび、しかも下方部が前記ビードエイペックスと巻上げ部との間に介在する2枚以上の補強層を具える……ことを特徴とする空気入りタイヤ。」(請求項1)、 コ.第1図を引用して、「このカーカス層6は、ラジアル配置のコードを平行に配列した1または2枚のプライからなり」(3頁左上欄16?18行)、 サ.同じく、「前記ベルト層7は、……内外2枚のベルトプライ7A、7Bからなる。ベルト層7のコード……は、タイヤ周方向に対し、10?30度の角度に傾斜して並列され、各プライのコードは互いに交差する。」(3頁右上欄10?12行)、 シ.「バンド層13は、第2図に示すようにナイロンコードを1?15本平行に配列したリボン12をタイヤ周方向に連続して螺旋巻きすることにより形成する。」(3頁左下欄13?16行)、 ス.補強層9A、9Bについて、「上端は、タイヤ断面高さHtの0.25倍である上方点X2の高さHsをこえる高さH9au、H9buとする。」(4頁左上欄14?16行)、 セ.「補強層9A、9Bのコード材料として、芳香族ポリアミドが金属コードと同様な引張り剛性を有しかつ軽量であるゆえに使用される。」(4頁左下欄5?7行)、 ソ.「補強層……のコードはタイヤ半径方向に対し、15?75度の角度……に傾斜して配列され、かつ補強層……のコードは互いに交差する。」(4頁左下欄11?15行)、 タ.甲2考案の一実施例を示す断面図(6頁下欄)及びベルト層、バンド層のコードを略示する平面図に相当する第2図(7頁左上欄)。 c.甲3 チ.「ラジアルタイヤ」(詳細については、特許請求の範囲参照)、 ツ.第1図に関し、「トレッド部3におけるカーカス層4上には、上側ベルト層5uと下側ベルト層5dの2層のベルト層(コード角度が10°?35°で互いの交差)がトレッド部3のほぼ全域に亘って環状に配置されている。」(2頁左下欄10?14行)、 テ.タイヤ断面高さに「SH」という略称を用いること(2頁右下欄17行)、 ト.甲3考案のラジアルタイヤの一例の子午半断面説明図に相当する第1図(5頁右下欄)。 d.甲4 ナ.「環状のゴム被覆硬鋼線束の外径側に、断面三角形状の硬質ゴム製のエイペックスが設けられており、かつ、該エイペックスの側部にゴム被覆金属コードが周方向に積層巻回されたスチールフィラーが設けられていることを特徴とするビードワイヤー。」(特許請求の範囲)、 ニ.「本発明の実施例について第1図(a)(b)により説明すると、……エイペックス2の側部に1本の被覆金属コードを周方向に積層巻回して構成されたスチールフィラー……3が貼着により設けられている。」(2頁右上欄1?8行)、 ヌ.「本発明のビードワイヤーのスチールフィラーは……全体を真円とすることができた。又、……硬鋼線束とエイペックスとよりなるビードワイヤー単体に直接スチールフィラーを設けたので、タイヤ成型工程では従来のビードワイヤーの扱いと差異はない。」(2頁右上欄19行?同左下欄11行)、 ネ.甲4考案の実施例を示す断面図及び一部側面図に相当する第1図(a)(b)(3頁左上欄)。 e.甲5 ノ.タイヤ外皮の改良に係る考案について、「このように準備されたカーカスが成形できるためには、補強層として、もろい心線の回りにコードをらせん形に巻きつけて成る線で構成された層を用いる。成形に際して、この心線が切れて、加えられる伸び率に応じてらせんピッチがだんだんに増大して、波形が全くなくなるにいたる。」(2頁右下欄2?8行)。 4の3.対比・判断 先ず、本件考案と甲1考案とを対比すると、甲1の前記ア?ク、及び、該記載オ中の「タイヤS.H」がタイヤ断面高さを指す旨推認させる甲3の前記テからみて、 両者は、 「実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、このベルトで強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、 カーカスの側方全周にわたって前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となる引張り抵抗性のコードのゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とする空気入りタイヤ」 に係る点で一致するものの、 甲1には、本件考案の必須の構成である、前記訂正請求項1中の「ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え」る旨の構成(以下、該構成を「サイド補強層要件」という。)について、記載されていない。 次に、本件考案と甲2考案とを対比すると、後者でいう「バンド層」(前記シ参照)は前者の「ベルト補強層」に相当するから、前記ケ?タから総合して、 両者は、 「実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層と、これらベルトおよびベルト補強層で強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、 カーカスの側方全周にわたって引張り抵抗性のコードのゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とする空気入りタイヤ」 に係る点で一致するものの、 甲1と同様、甲2にも、本件考案の必須の構成である、前記サイド補強層要件について記載されていない。 もっとも、申立人は、該サイド補強層要件について甲4を引用し、甲1、甲2各考案を中心とし、それぞれの考案に甲4考案の内容を組み合わせることにより、本件考案は当業者がきわめて容易に想到できたものである、と主張する(実用新案登録異議申立書11?12頁「3.進歩性の判断」項中の(a)?(b)項、及び、同12頁「4.本件考案が減縮訂正される場合について」項中の(a)項参照。ただし、上記下線付与部は、実際は丸付き数字で記載されている)。 しかしながら、前記ナ?ネから明らかなとおり、甲4考案は、前記特定のエイペックスの側部にゴム被覆金属コードが周方向に積層巻回されたスチールフィラーが設けられてなる「ビードワイヤ-」に係るものであり、それは本件考案の必須の構成である、前記ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に設ける「サイド補強層」とは明らかに使用目的も使用個所も相違する。 そして、このような相違点を有する該「ビードワイヤー」中のスチールフィラーの存在態様が、ただちに「サイド補強層」中のコードの配置を教示するものとはいえない。 なお、その余の甲号証中には、該サイド補強層要件についての記載乃至教示は何ら存在しない。 そうすると、甲1?5考案から本件考案の前記必須の構成を導き出すことはできない。 一方、本件考案は、該必須の構成を具備することにより、請求項1記載の他の構成と相まって、本件登録実用新案明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、本件考案は、甲1?5考案に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。 5.むすび したがって、実用新案登録異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る実用新案登録を取り消すことはできない。 また、他に請求項1に係る実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【考案の名称】 空気入りタイヤ (57)【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層と、これらベルトおよびベルト補強層で強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、 ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることを特徴とする空気入りタイヤ。 【考案の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、乗り心地性は損なわず、コーナリング走行時の操縦安定性を高めた、へん平率が55%以下の空気入りタイヤに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 エンジン出力の増大とボディーの空力特性の改善等を図った車両、いわゆる高性能車は、最高速度が高く加速性能が優れていること、およびコーナリング走行時でより高い操縦安定性を有すること等が必要である。この高性能車用の空気入りタイヤは、一般には、通常タイヤに比べてタイヤ断面高さが低いへん平タイヤが用いられている。このへん平タイヤがコーナリング走行時の優れた操縦安定性を得るためには、タイヤの横剛性をできるだけ大きくするのが好ましい。このため、ベルト補強によって横剛性を高める手段を用いることが多い。 【0003】 【考案が解決しようとする課題】 しかし、ベルト補強によってタイヤの横剛性を高めると、タイヤの負荷転動時のタイヤ半径方向の変形量が小さくなりすぎることになるため乗り心地性が悪化し、特に、通常タイヤよりも断面高さが低いへん平ラジアルタイヤにとっては乗り心地性が大幅に悪化するおそれがある。 【0004】 そこで本考案の目的は、乗り心地性を損なうことなく、タイヤの横剛性を高めてコーナリング走行時の良好な操縦安定性を有する空気入りタイヤを完成させることにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本考案は、実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層と、これらベルトおよびベルト補強層で強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることを特徴とする空気入りタイヤである。 【0006】 本考案の空気入りタイヤの代表的な幅方向断面の一例を図1に示し、図中1は空気入りタイヤ、2はカーカスプライのコード、3はカーカス、4はクラウン部、5はベルト、6はベルト補強層、7はトレッド部、8はサイド補強層のコード、9はサイド補強層である。 図1に示す空気入りタイヤ1は、実質上ラジアル配列されたコード2の少なくとも1プライからなるトロイド状カーカス3のクラウン部4の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルト5と、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層6と、これらベルト5およびベルト補強層6で強化したトレッド部7とを備え、カーカス3の側方全周にわたって前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなる一層のサイド補強層9を備えている。 【0007】 このサイド補強層9は、その幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とした。この幅が、タイヤの断面高さの0.15倍未満だと十分なカーカス側方部10の補強及び円周剛性等の向上が図れず、また、0.65倍を超えると剛性が上がりすぎ操舵に対するレスポンスが速すぎドライバーが不快となるからである。また、サイド補強層9は、カーカス3の両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール部位置、好ましくはサイドウォール中央部位置にわたるカーカス領域を覆う配置にする。このサイド補強層9の枚数は、1?2枚が好ましいが必要に応じて増減できる。サイド補強層9のコード8には、スチールコード、およびナイロンコードで代表される有機繊維コードを用いるのが好ましい。さらに、このコード8配列は、一本のコードをらせん状に配置することによって複数配列とする。また、サイド補強層9のコードをプライのコード2に対し実質的に直交した配置にする方法としては、加硫成型前の成型ドラム上に張りつけられた状態のサイド補強層9のコード8は、タイヤ円周に沿って波形をなすコード配置にしておき、その後、グリーンケースに成形したときに、波形をなすコードがその長手方向に引っ張られることにより、このコード8をほぼタイヤ円周に沿ってストレート形状に配置するのが好ましく、その場合、加硫成形前の前記波形をなすコードの振幅は、半径方向外方に位置するコードほど大きくしておくのが好ましい。成型ドラム上に張りつけたときのサイド補強層9の波形をなすコード8の一例を図2に示すが、このときの円周長さを1、振幅をa、ピッチ数をnとすると、製品タイヤにおけるサイド補強層のコードの円周長さLは以下に示す式で決定することができる。 【数1】 ![]() 【0008】 カーカス3は1?2プライからなるのが好ましく、このプライコード2には、レーヨンコードを用いるのが好ましい。 ベルト5は、1?3枚のゴム引き層からなるのが好ましく、このゴム引き層のコードには、スチール又はケプラーコードを用い、このコードの配設角度をタイヤ赤道面に対し20?5°とするのが好ましい。 ベルト補強層6のコードは、ナイロンコードを用いるのが好ましく、ベルト補強層6は、ベルトの前面を覆うキャップ層およびベルト端を覆う狭幅のレイヤー層として配置するのが好ましい。 【0009】 【作用】 本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え、このサイド補強層9の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることにより、従来のベルトによって剛性補強をしたときのように乗り心地性を悪化させないで、高性能車用タイヤのカーカス側方部10の円周剛性およびねじり剛性を高めることができ、その結果、タイヤの横剛性を向上させることができる。また、サイド補強層9のコード8を、前記プライのコード2配列と実質的に直交する複数配列にすることで、特に前記プライのコード2に沿って鋭利な突起物や刃物等による外傷を受けたときには、このサイド補強層9によって傷口の拡張を抑制できる。 【0010】 【実施例】 本考案にしたがう空気入りタイヤの具体的な実施例を図1を参照しながら説明する。 実施例1は、タイヤサイズが275/40ZR17であり、トレッド円周を含む平面に対して90°に配列したレーヨンコード2の1プライからなるトロイド状カーカス3のクラウン部4の周りに、前記平面に対して20°の角度の交差コード配列となる二層のゴム引き層よりなるベルト5と、前記平面に対して0°の角度で平行配列されたナイロンコードの一層のゴム引き層よりなるベルト補強層6と、これらベルト5およびベルト補強層6で強化したトレッド部7とを備え、カーカス3の側方全周にわたって前記トロイド状カーカスのプライのコード2に対し90°の角度で複数配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなる一層のサイド補強層9を備えている。 【0011】 このサイド補強層9は、その幅を、タイヤの断面高さ(110mm)の0.38倍とした。また、サイド補強層は、カーカスの両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール中央部位置のカーカス側方部10を覆うよう配置した。サイド補強層9のコード8には、スチールコードを用いた。 従来例は、サイド補強層をもたない従来タイヤを使用した。 【0012】 高速走行時のコーナリング性、乗り心地性、および耐久性について試験した。 高速走行時のコーナリング性および乗り心地性の試験は、実車走行によるドライバーのフィーリングによって10段階評価した。 耐久性試験は、くさび打ち込み後の傷口の拡張を実測して比較した。表1にそれらの試験結果を示す。なお、表中の数値は、高速走行時のコーナリング性、および乗り心地性は大きいほど優れていることを示す。 【0013】 【表1】 ![]() 【0014】 表1の結果から、実施例は、従来例に比し、乗り心地性は同じにして、高速走行時のコーナリング性およびタイヤ耐久性が優れている。 【0015】 【考案の効果】 本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え、このサイド補強層9の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることにより、従来のベルトによって剛性補強をしたときのように、乗り心地性を悪化させることがなく、高性能車用タイヤのカーカス側方部10の円周剛性およびねじり剛性が高められ、その結果、タイヤの横剛性が向上してコーナリング走行時の操縦安定性が良好となり、タイヤの回転軸への入力が直接かつタイムロスすることなくスムーズにトレッドへ伝達され、また、路面からの入力も同様にしてドライバーに応答よく伝えられる。また、サイド補強層9のコード8を、前記プライのコード2配列と実質的に直交する複数配列にすることで、特に前記プライのコード2に沿って鋭利な突起物や刃物等による外傷を受けたときには、このサイド補強層9によって傷口の拡張を抑制できるので、タイヤの耐久性が向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】 トレッドゴム及びサイドウォールゴムを部分的に切除した、実施例1に使用した考案タイヤの幅方向半断面の斜視図である。 【図2】 成型ドラム上に張りつけた成形前の状態のサイド補強層のコードの配設形状を説明するため、一本のコードのみを図示したサイド補強層9の一部を示した図である。 【符号の説明】 1 空気入りタイヤ 2 プライコード 3 カーカス 4 クラウン部 5 ベルト 6 ベルト補強層 7 トレッド部 8 サイド補強層のコード 9 サイド補強層 10 カーカス側方部 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ア.訂正事項a 実用新案登録請求の範囲の請求項1を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、 「実質上ラジアル配列されたコードの少なくとも1プライからなるトロイド状カーカスのクラウン部の周りに、トレッド円周を含む平面に対して比較的小さな角度の交差コード配列となる少なくとも二層のゴム引き層よりなるベルトと、前記平面に対して実質的に平行配列された有機繊維コードの少なくとも一層のゴム引き層よりなるベルト補強層と、これらベルトおよびベルト補強層で強化したトレッド部とを備え、へん平率が55%以下である空気入りタイヤにおいて、 ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え、このサイド補強層の幅を、タイヤの断面高さの0.15?0.65倍の範囲とすることを特徴とする空気入りタイヤ。」 と訂正する。 イ.訂正事項b 明細書段落【0005】【課題を解決するための手段】中の 「空気入りタイヤにおいて、カーカスの側方全周にわたって前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となる引張り抵抗性のコードのゴム引き層からなるサイド補強層を備え」との記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「空気入りタイヤにおいて、ビード上位置からサイドウォール部にわたるカーカスの側方全周に、前記トロイド状カーカスのプライのコードに対し実質的に直交する配列となるように、1本の引張り抵抗性のコードをらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層を備え」 と訂正する。 ウ.訂正事項c 明細書段落【0007】中の 「また、サイド補強層9は、カーカス3の両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール中央部位置のカーカス領域を覆う配置が好ましい。……さらに、このコード8配列は、複数配列であれば、複数本のコードをそれぞれ径の異なる同心円に沿って配置しても、一本のコードをらせん状に配置してもよく、適宜選択可能である。」 との記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「また、サイド補強層9は、カーカス3の両側方部10に設け、ビード上位置からサイドウォール部位置、好ましくはサイドウォール中央部位置にわたるカーカス領域を覆う配置にする。……さらに、このコード8配列は、一本のコードをらせん状に配置することによって複数配列とする。」 と訂正する。 エ.訂正事項d 明細書段落【0009】【作用】の記載中の 「本考案は、トロイド状カーカス3の側方全周にわたって前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」との記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記トロイド状カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」 と訂正する。 オ.訂正事項e 明細書段落【0015】【考案の効果】中の 「本考案は、トロイド状カーカス3の側方全周にわたって前記カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となる引張り抵抗性のコード8のゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」との記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、 「本考案は、ビード上位置からサイドウォール部にわたるトロイド状カーカス3の側方全周に、前記カーカス3のプライのコード2に対し実質的に直交する複数配列となるように、1本の引張り抵抗性のコード8をらせん状に配置したコードゴム引き層からなるサイド補強層9を備え」 と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-05-29 |
出願番号 | 実願平5-34609 |
審決分類 |
U
1
651・
121-
YA
(B60C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 野村 康秀 |
特許庁審判長 |
小林 正巳 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 喜納 稔 |
登録日 | 1999-07-30 |
登録番号 | 実用新案登録第2600136号(U2600136) |
権利者 |
株式会社ブリヂストン 東京都中央区京橋1丁目10番1号 |
考案の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 梶崎 弘一 |
代理人 | 谷口 俊彦 |
代理人 | 杉村 暁秀 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 鈴木 崇生 |
代理人 | 室之園 和人 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 杉村 暁秀 |
代理人 | 尾崎 雄三 |