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審決分類 審判 全部申し立て   H01P
管理番号 1047009
異議申立番号 異議2001-71601  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-28 
確定日 2001-10-01 
異議申立件数
事件の表示 登録第2606557号「非可逆回路素子」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2606557号の請求項1に係る実用新案登録を維持する。
理由 1.本件考案
実用新案登録第2606557号(平成4年3月28日出願、平成12年9月22日設定登録。)の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 信号の伝送方向には減衰度が極めて小さく、逆方向には減衰度が極めて大きい非可逆回路素子であって、
外部から直流磁界が印加されるフェライト板、
前記フェライト板の少なくとも一方主表面上において、前記直流磁界と直交する方向にかつ所定の角度間隔をあけて交差するように配置された複数の帯状の中心電極、および各前記中心電極の上に配置され、かつ粘着性または接着性を有する前記中心電極の交差部より大きな面積を有する複数の絶縁シートを備え、
各前記中心電極は、それぞれがその直上に配置される前記絶縁シートによって前記フェライト板の主表面上で貼り付けられることにより、当該フェライト板の主表面上で固定され、
各前記絶縁シートは、それぞれが各前記中心電極の交差部を覆うような位置関係で積層配置されることにより、各当該中心電極相互間を絶縁することを特徴とする、非可逆回路素子。」

2.申立ての理由の概要
実用新案登録異議申立人 ティーディーケイ株式会社は、本件考案は実願平1-43970号(実開平2-134711号)のマイクロフィルム(甲第1号証)、特開昭58-85609号公報(甲第2号証)、実願昭60-178284号(実開昭62-86705号)のマイクロフィルム(甲第3号証)、実願平1-95908号(実開平3-36202号)のマイクロフィルム(甲第4号証)、小西良弘著、「フェライトを用いた最近のマイクロ波回路技術」3版(昭55-6-25)p.83-85(甲第5号証)の記載及び示唆から、当業者であればきわめて容易に推考できた程度のものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、本件考案に係る実用新案登録は取り消すべきである旨主張する。

3.甲各号証に記載された考案
(1)甲第4号証に記載された考案
甲第4号証(実願平1-95908号(実開平3-36202号)のマイクロフィルム)には、第1図の記載とともに、「本考案は、VHF、UHF及びマイクロ波帯の高周波部品に採用される非可逆回路素子、例えばアイソレータ、サーキュレータに関し、特に各中心導体の組み立て工数を削減して生産性を向上できるようにした構造に関する。」(1頁15行ないし19行)、「高周波部品に採用される集中定数型のアイソレータ、サーキュレータは、信号の伝送方向には殆ど減衰はなく、かつ逆方向には減衰が大きくなるような機能を有しており、例えば自動車用電話、携帯電話等の移動通信機器には不可欠な部品である。」(2頁1行ないし5行)、「このようなアイソレータ、サーキュレータは、主として、磁性体製金属ケース内に複数の中心導体とフェライトとの組立て体を配設し、該フェライトに永久磁石により直流磁界を印加するように構成されている。」(2頁6行ないし9行)、「そこで本考案は、複数の中心導体を電気的絶縁状態で交互状に重ね、該中心導体にフェライトを当接させてなる非可逆回路素子において、上記各中心導体の少なくとも交叉部分の相互に当接する面に絶縁樹脂膜を形成して上記電気的絶縁状態を構成したことを特徴としている。ここで、本考案の絶縁樹脂膜は、静電塗装により樹脂を蒸着させたり、あるいは絶縁テープを貼着することにより実現できる。また、上記絶縁樹脂膜は中心導体同士が当接する部分を形成すればよく、片面でも両面でもよい。」(4頁4行ないし14行)、「本考案に係る非可逆回路素子によれば、中心導体同士の当接する部分に絶縁樹脂膜を形成したので、これを組立てる場合は、各中心導体を順次折り曲げて交叉させるだけで電気的絶縁状態を実現でき、その結果従来の絶縁フィルムを挟み込むという煩雑な作業を不要にでき、それだけ生産性を向上できる。また、本考案は、中心導体の所定部分に絶縁樹脂をコーティングする構造であるから、従来の絶縁フィルムを採用した場合と比べてコストを低減できる。」(4頁16行ないし5頁5行)、「上記フェライト組立て体5は、銅板からなる中心導体9のシールド部9a上に円板状の下部フェライト10aを載置し、該フェライト10aの上面に上記3本の中心導体9をそれぞれ120度ごとに交叉させて折り曲げ配置し、これの上面に上部フェライト10bを載置して構成されている。なお、上記フェライト組立て体5は、下部フェライト10aあるいは上部フェライト10bのいずれか1枚で構成される場合もある。そして、上記中心導体9の交叉部分の相互に当接する面に絶縁樹脂膜17が形成されている。即ち第1図に示すように、上記樹脂膜17は、下部フェライト10aに当接する最下部の中心導体9_(1)の外側,中間部の中心導体9_(2)の両面、及び上部フェライト10bが当接する最上部の中心導体9_(3)の内側にそれぞれ形成されている。この絶縁性樹脂17は、例えば230℃で静電塗装によりふっ素樹脂をコーティングしたものである。」(7頁2行ないし19行)の記載がある。
これらの記載によれば甲第4号証には、「信号の伝送方向には減衰度が極めて小さく、逆方向には減衰度が極めて大きい非可逆回路素子であって、外部から直流磁界が印加されるフェライト板10a、10b、前記フェライト板の少なくとも一方主表面上において、前記直流磁界と直交する方向にかつ所定の角度間隔をあけて交差するように配置された複数の帯状の中心導体9_(1)、9_(2)、9_(3)(本件考案の「中心電極」の相当する。)、および各前記中心導体の上に配置され、かつ粘着性または接着性を有する前記中心導体の交差部より大きな面積を有する複数の絶縁樹脂膜17(本件考案の「絶縁シート」に対応する。)を備え、各当該中心導体相互間を絶縁する非可逆回路素子。」の考案(以下、「甲第4号証に記載された考案」という。)が記載されているものと認められる。
(2)甲第1号証に記載された考案
甲第1号証(実願平1-43970号(実開平2-134711号)のマイクロフィルム)には、その明細書及び図面の記載によれば、「中心電極の間に絶縁シートを備え、それによって中心電極を相互に絶縁する非可逆回路素子。」の考案が示されているものと認められる。
(3)甲第2号証に記載された考案
甲第2号証(特開昭58-85609号公報)には、その明細書及び図面の記載によれば、「インダクタンスを増やすために、中心電極を複数の帯状にした非可逆回路素子。」の考案が示されているものと認められる。
(4)甲第3号証に記載された考案
甲第3号証(実願昭60-178284号(実開昭62-86705号)のマイクロフィルム)には、その明細書及び図面の記載によれば、「絶縁性を保つために各導体の分岐導体を誘電体で包んで各々の中心導体を構成している非可逆回路素子。」の考案が示されているものと認められる。
(5)甲第5号証に記載された考案
甲第5号証(小西良弘著、「フェライトを用いた最近のマイクロ波回路技術」3版(昭55-6-25)p.83-85には、その記載によれば、非可逆回路素子の動作原理が示されているものと認められる。

4. 対比・判断
そこで本件考案と甲第4号証に記載された考案とを対比すると、両者は、下記の点で一致ないし相違する。
(1)一致点
「信号の伝送方向には減衰度が極めて小さく、逆方向には減衰度が極めて大きい非可逆回路素子であって、外部から直流磁界が印加されるフェライト板、前記フェライト板の少なくとも一方主表面上において、前記直流磁界と直交する方向にかつ所定の角度間隔をあけて交差するように配置された複数の帯状の中心電極、および各前記中心電極の上に配置され、かつ粘着性または接着性を有する前記中心電極の交差部より大きな面積を有する複数の絶縁シートを備え、各当該中心電極相互間を絶縁する非可逆回路素子。」
(2)相違点
イ.本件考案は、各中心電極のそれぞれがその直上に配置される絶縁シートによってフェライト板の主表面上で貼り付けられることにより、当該フェライト板の主表面上で固定されるのに対して、甲第4号証に記載された考案はそのようになっていない点、
ロ.本件考案は、絶縁シートのそれぞれが中心電極の交差部を覆うような位置関係で積層配置されることにより、各当該中心電極相互間を絶縁するのに対して、甲第4号証に記載された考案は、複数の絶縁樹脂膜が中心導体相互間を絶縁する点、
(3)相違点についての判断
甲第1号証から甲第3号証、及び甲第5号証には、本件考案を特定する事項である、各中心電極は、それぞれがその直上に配置される絶縁シートによってフェライト板の主表面上で貼り付けられることにより、当該フェライト板の主表面上で固定され、という事項について記載も示唆もなく、当該事項により本件考案は、各中心電極がたとえ薄くても、それらを決められた位置に固定して保持できるため、生産性が向上し、中心電極のずれによる電気的特性の劣化やばらつきをなくすことができるという顕著な作用効果を奏するものであり、したがって、本件考案が前記甲第1号証から甲第5号証に記載されたものからきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。
(4)実用新案登録異議申立人の主張について
実用新案登録異議申立人は、非可逆回路素子の中心電極に関して、甲第4号証の4頁10行ないし12行に「本考案の絶縁樹脂膜は、静電塗装により蒸着させたり、あるいは絶縁テープを貼着することにより実現できる。」の記載があり、また、甲第4号証の第5図に従来技術との関連で円板状の絶縁テープの態様が開示されていることから、甲第4号証は、「中心導体9_(1)、9_(2)は、それぞれがその直上に配置される円板状の絶縁シート17によって下部フェライト板10aの主表面上で貼り付けられることにより、下部フェライト板10aの主表面上で固定」され、「各絶縁テープ17は、それぞれが各中心電極9_(1)?9_(3)の交差部を覆うような位置関係で積層配置されることにより、各当該中心導体相互間を絶縁する」構造を開示しているとみるのが妥当である旨主張する。
しかしながら、甲第4号証に記載された考案は、第5図に示された従来技術には円板状の「絶縁フィルムを挟み込むという手間のかかる煩雑な作業」(甲第4号証3頁14行ないし16行)があるという問題点を解決するために、「各中心導体の少なくとも交叉部分の相互に当接する面に絶縁樹脂をコーディングして電気的絶縁状態を構成」(甲第4号証1頁9行ないし12行)し、これにより「従来の絶縁フィルムを挟み込むという煩雑な作業を不要にでき、それだけ生産性を向上でき・・・従来の絶縁フィルムを採用した場合と比べてコストを低減できる。」(4頁末行ないし5頁5行)するものであると認められることから、円板の絶縁フィルムを採用することは予定していないものであって当然排除しているとみるべきである。
そうすると、甲第4号証に「本考案の絶縁樹脂膜は、静電塗装により蒸着させたり、あるいは絶縁テープを貼着することにより実現できる。」の記載があるとしても、「絶縁テープを貼着することにより実現」する文言が絶縁樹脂膜との関連で記載されていることを考慮すると、甲第4号証の「絶縁テープを貼着することにより実現」する態様は、第1図に示された非可逆回路素子のハッチングされた絶縁樹脂膜17の部分を、同じ形状の絶縁テープによって置換えた構成のものが、精々把握できるものであって、実用新案登録異議申立人が主張するような、甲第4号証は、「中心導体9_(1)、9_(2)は、それぞれがその直上に配置される円板状の絶縁シート17によって下部フェライト板10aの主表面上で貼り付けられることにより、下部フェライト板10aの主表面上で固定」され、「各絶縁テープ17は、それぞれが各中心電極9_(1)?9_(3)の交差部を覆うような位置関係で積層配置されることにより、各当該中心導体相互間を絶縁する」構造を開示しているとみることは到底できない。したがって、実用新案登録異議申立人の主張は失当であって採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、実用新案登録異議の申立ての理由によっては本件考案についての実用新案登録を取り消すことはできない。
また、他に本件考案についての実用新案登録を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件考案についての実用新案登録は拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認めない。
よって、平成6年改正法附則第9条第7項の規定に基づく、平成6年改正法の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
異議決定日 2001-09-12 
出願番号 実願平4-25940 
審決分類 U 1 651・ 121- Y (H01P)
最終処分 維持    
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 佐藤 秀一
特許庁審判官 武井 袈裟彦
山本 春樹
登録日 2000-09-22 
登録番号 実用新案登録第2606557号(U2606557) 
権利者 株式会社村田製作所
京都府長岡京市天神二丁目26番10号
考案の名称 非可逆回路素子  
代理人 阿部 美次郎  

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