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審決分類 |
審判 全部申し立て F16J |
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管理番号 | 1051719 |
異議申立番号 | 異議2001-71547 |
総通号数 | 26 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案決定公報 |
発行日 | 2002-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-05-24 |
確定日 | 2001-12-17 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 登録第2606527号「積層メタルガスケット」の請求項1及び2に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第2606527号の請求項1及び2に係る実用新案登録を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件実用新案登録第2606527号は、平成5年12月28日に出願され、平成12年9月14日に実用新案権の設定の登録があり、実用新案登録公報が平成12年11月27日に発行され、それに対し、平成13年5月24日付けで日本ラインツ株式会社及び平成13年5月25日付けで石川ガスケット株式会社より、実用新案登録異議の申立てがあり、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成13年10月5日付けで実用新案登録異議意見書の提出があったものである。 2.異議申立ての理由の概要 実用新案登録異議申立人日本ラインツ株式会社は、証拠として、甲第1号証:特開平6-229477号公報、甲第2号証:特開昭62-224772号公報及び甲第3号証:実願平2-27798号(実開平4-44456号)のマイクロフィルムを提出し、本件登録実用新案の請求項1及び2に係る考案は甲第1号証の発明と同一であるから、本件登録は実用新案法第3条の2の規定に違反してなされたものである旨を主張する。 また、実用新案登録異議申立人石川ガスケット株式会社は、証拠として、甲第1号証:実開平4-44456号公報、甲第2号証:実開平1-174552号公報、甲第3号証:実開平4-75270号公報、甲第4号証:実開昭55-98857号公報及び甲第5号証:特開昭62-110075号公報を提出し、本件請求項1及び2に係る考案は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである旨を主張している。 3.本件考案 本件の請求項1及び2に係る考案(以下、「本件考案1」及び「本件考案2」という。)は、登録された明細書及び図面の記載よりみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】 「積層状に配置した複数のガスケット構成板を有し、これらガスケット構成板のそれぞれに、エンジンのシリンダ孔に対応させて開口部を形成するとともに、複数のシリンダヘッド固定用ボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を形成した積層メタルガスケットであって、 前記ガスケット構成板として、 前記開口部の開口周縁部付近に環状のビードを形成し、開口部の周縁とビード間に平坦な環状延設部を形成した弾性金属板からなるビード板と、 前記環状延設部に対応する位置に開口部の周縁部付近を折り返したストッパー部を有するストッパー板と、 前記ストッパー部に対応する位置に、一方の面側のみを全周にわたって段落ち状に形成するとともに、少なくともボルト挿通孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した環状受部を一体的に形成したスペーサ板と、 を備えたことを特徴とする積層メタルガスケット。」 【請求項2】 「前記環状受部の肉厚をボルト挿通孔側へ行くにしたがって薄肉に構成したことを特徴とする請求項1に記載の積層メタルガスケット。」 4.引用刊行物 当審で通知した取消理由において引用した、本件出願前に頒布された刊行物である実願平2-27798号(実開平4-44456号)のマイクロフィルム(異議申立人石川ガスケット株式会社提示の甲第1号証及び異議申立人日本ラインツ株式会社提示の甲第3号証に相当。以下、「刊行物1」という。)、実願昭63-70150号(実開平1-174552号)のマイクロフィルム(異議申立人石川ガスケット株式会社提示の甲第2号証に相当。以下、「刊行物2」という。)、実願平2-119783号(実開平4-75270号)のマイクロフィルム(同甲第3号証に相当。以下、「刊行物3」という。)、実願昭53-182247号(実開昭55-98857号)のマイクロフィルム(同甲第4号証に相当。以下、「刊行物4」という。)、及び特開昭62-110075号公報(同甲第5号証に相当。以下、「刊行物5」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 [刊行物1:実願平2-27798号(実開平4-44456号)のマイクロフィルム] 「燃焼室孔を囲繞するビードを形成した弾性金属板からなる基板に副板を積層し該副板の燃焼室孔側端縁を前記基板を挟んで折返し重合するか、又は燃焼室孔を囲繞するビードを形成した弾性金属板からなる基板により副板を挟んで積層すると共に該副板に別の副板を積層するか又は単独で燃焼室孔側端縁を折返し重合した金属ガスケットにおいて、前記金属ガスケットがボルト締結された際に生じるデッキ面間の隙間量に応じて前記基板または副板のいずれか一方または双方の前記燃焼室孔側端縁における板厚を前記ボルト締結部に近付くに従い減少させ、さらに前記折返し部の厚さを前記燃焼室孔全周につき略一定として該折返し部と前記板厚減少部間に隙間をつくることにより、前記折返し部を前記金属ガスケットのボルト締付け量に追従させて前記デッキ面間の隙間量を微調整することを特徴とする金属ガスケット。」(実用新案登録請求の範囲) 「[産業上の利用分野] 本考案は内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックとのデッキ面間をシールする金属ガスケットに係り、特にシリンダヘッドをボルト締結した際に生じる燃焼室孔周りの異なるデッキ面間隙の不整を補償し得た金属ガスケットに関する。」(2頁3?8行) 「[従来の技術] 内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックとのデッキ面間のシールに利用されている金属ガスケットは、シール面をシールすべく形成されたビードをシリンダヘッド締結時のボルト締付け力により弾性変形させ、この弾性変形時の弾性復元力及び弾性復元量によりデッキ面に弾性的なシール線を形成する。これにより、デッキ面間のシールを果たすと共にデッキ面の歪に追従させてシール効果を維持するようにしている。 このような金属ガスケットをシリンダヘッドとシリンダブロックとのデッキ面間に介装してボルト等により締結すると、ボルト締結力はボルト締結部位から離間するに従って低下するため、ボルト締結部位の近傍とボルト締結部位から離間した部位とではそのデッキ面間隙に差が生じてビードによるシール面圧が低下し、燃焼ガスの吹き抜け或は燃焼圧力による叩かれ等により耐久性が低下する等の問題があった。」(2頁9行?3頁7行) 「本考案は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、シリンダヘッド締結によって生じる異なるデッキ面間隙の不整を補償すると共に燃焼圧力による前記燃焼室周りのデッキ面間隙の拡縮を防止し、またデッキ面に均等にシール圧を作用させて安定したシールをなし得る金属ガスケットを提供することを目的とする。」(5頁15行?6頁1行) 「第2実施例: 他の実施例の金属ガスケットを、第2図(a)乃至(d)に示す。これらの金属ガスケットは、上記実施例におけると同様に、第2図(a)に示すような副板13を挟んで燃焼室孔を囲繞するビード11b、12bを形成した弾性金属板からなる基板11、12を積層すると共に副板13に別の副板14を積層して該副板14の燃焼室孔側端縁を折返し重合することにより折返し部14aを形成した金属ガスケットを基本形とし、この金属ガスケットに、いずれの金属ガスケットにおいても折返し部14aの厚さTを略一定としてボルト締結時のデッキ面間隙量に応じて副板13の燃焼室孔側端縁13aの板厚と副板2の折返し重合部14bの板厚を第2図(b)乃至第2図(d)に示すように薄肉にしたものである。 即ち、第2図(b)に示すように副板13の燃焼室孔側端縁部13aの板厚t_(8)を………(中略)………と形成するか、または第2図(「第1図」は「第2図」の誤記と認める。)(d)に示すように副板13の燃焼室孔側端縁部13aの板厚t_(10)を段差部を設けて薄くt_(10)>t_(9)とした薄肉部13cを形成する。」(10頁19行?12頁3行) 「さらに、燃焼室孔側端縁の板厚はボルト締結部に近付くに従い減少させた構成としてあるから、燃焼室孔を囲繞する周方向への段差部がなく、従来例のような段差部によるシール性の低下がない。」(16頁4?8行) 上記摘記記載及び図面、特に第2図(d)の記載からみると、刊行物1には、積層状に配置された構造であって、ガスケットを構成する複数の板のそれぞれに、燃焼室孔に対応させた開口部が形成され、複数のシリンダヘッド固定用のボルトが挿通する複数のボルト孔が形成された金属ガスケットが記載されている。そして、該ガスケットは、副板13と、該副板13を挟んで燃焼室孔P_(1)?P_(4)を囲繞する位置、すなわち開口周縁部付近に環状のビード11b、12bが形成され且つ開口部の周縁とビードの間には平坦な環状の延設部が設けられた弾性金属板からなる基板11、12と、燃焼室孔側端縁すなわち開口部の周縁部付近を折返し重合することにより折返し部が形成された副板14とから構成され、副板13には、ボルト締結時のデッキ面間隙量に応じて薄くした、すなわち少くともボルト孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した環状の薄肉部13cが形成され、薄肉部13cは、折返し部に対応する位置に、一方の面側のみに段差部を設けることによって薄く形成されている。 また、薄肉部13cを「燃焼室孔側端縁における板厚を前記ボルト締結部に近付くに従い減少させ」て形成することも記載されており、副板13の薄肉部13cが「肉厚をボルト孔に行くにしたがって薄肉に構成」する点も開示されている。 そうすると、刊行物1には次の考案(以下、「引用考案1」及び「引用考案2」という。)が記載されていると認めることができる。 [引用考案1] 積層状に配置した複数のガスケットを構成する板を有し、これらの板のそれぞれに、燃焼室孔に対応させて開口部を形成するとともに、複数のシリンダヘッド固定用のボルトが挿通する複数のボルト孔を形成した金属ガスケットであって、ガスケットを構成する板として、開口周縁部付近に環状のビード11b、12bが形成され且つ開口部の周縁とビードの間には平坦な環状の延設部が設けられた弾性金属板からなる基板11、12と、開口部の周縁部付近を折返し重合することにより折返し部が形成された副板14と、折返し部に対応する位置に、一方の面側のみに段差部を設け、少くともボルト孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した環状の薄肉部13cを一体的に形成した副板13とを備えてなる積層状の金属ガスケット [引用考案2] 引用考案1の金属ガスケットにおいて、副板13の薄肉部13cの肉厚をボルト孔に行くにしたがって薄肉に構成したもの [刊行物2:実願昭63-70150号(実開平1-174552号)のマイクロフィルム] シリンダヘッドガスケットに関するものであり、シリンダ穴を取り囲む補強リングを備え、該補強リングによってシール面圧を保持するようにした構造のものにおいて、補強リングをグロメット内に収設する構成に代わるものとして次の記載がある。 「母材シートを金属積層形で構成する場合はグロメット3に代えて外板を折り返して構成する折り返し部を用いることになる。」(5頁1?3行) [刊行物3:実願平2-119783号(実開平4-75270号)のマイクロフィルム] 「並列する燃焼室孔Aを有し、該燃焼室孔Aに沿ってビード1を形成した弾性金属板からなる二枚のビード基板2,3の間に、ビード1の頂部が対称的に接する二枚の中間板を積層した積層形の金属ガスケットにおいて、第1中間板4の燃焼室孔の縁部に沿って、表裏の段差5a、5bの形成により断面膨出状の扁平な肉厚リング6を一体に形成し、該肉厚リング6を第2中間板7の縁部を折返し包持して、補償部8を形成したことを特徴とする金属ガスケット。」(実用新案登録請求の範囲1) [刊行物4:実願昭53-182247号(実開昭55-98857号)のマイクロフィルム] 「図面は本考案に係る金属積層形ガスケットの一実施例を示し、上板1と下板2の間に逃げ板3および中間板4を介在させ、上板1をシリンダー孔5において折り返してシリンダー孔5の縁どり部6と成し、逃げ板3を前記縁どり部の構成板、すなわち、上板1より薄肉にして構成するのである。」(1頁12行?2頁2行) [刊行物5:特開昭62-110075号公報] 「第4図は、このガスケットの外周部を示しており、積層板26は積層板25側に折り返されて主板21および積層板25を挟み込んでいる。なお、図示はしていないが、ボルト穴31においても、同様にして積層板26は積層板25側に折り返されている。」(4頁上段右欄18行?下段左欄3行) 上記刊行物2?5に記載されたガスケットは、周縁部の内側の層に、外側の層を折返した部位に対応する位置に、段差を設けたり、薄肉に形成するなどの加工が施されてあり、いずれも、「段落ち状」に形成された縁部を有するということができる。 したがって、上記刊行物2?5には、上記摘記記載及び図面の記載からみて、次の周知技術が開示されているものと認める。 [周知技術1] 外側の層の縁部を内側の層の縁部を包むように折返すことによって、周縁部に折返し部を形成してなる積層型金属ガスケットにおいて、内側の層の縁部の、折返し部に対応する位置を段落ち状に形成すること また、刊行物2、4及び5の記載から、次の技術が周知であることが理解される。 [周知技術2] 外側の層の縁部を内側の層の縁部を包むように折返すことによって、周縁部に折返し部を形成してなる積層型金属ガスケットにおいて、折返し部に対応する位置の内側の層の厚さを薄く形成することにより積層体縁部の厚さを調整すること 5.対比・判断 (1)本件考案1について 本件考案1と上記引用考案1とを対比すると、後者の「燃焼室孔」は前者の「エンジンのシリンダ孔」に相当し、以下同様に、「ボルト孔」は「ボルト挿通孔」に、「基板11、12」は「ビード板」に、「折返し部」は「ストッパー部」に、「副板14」は「ストッパー板」に、「副板13」は「スペーサ板」に、「薄肉部13c」は「環状受部」に、「段差部」は「段落ち状に形成された受部」に、それぞれ相当するから、本件考案1の用語を用いて表すと、両者には、以下のような一致点、相違点が存在する。 [一致点] 「積層状に配置した複数のガスケット構成板を有し、これらガスケット構成板のそれぞれに、エンジンのシリンダ孔に対応させて開口部を形成するとともに、複数のシリンダヘッド固定用ボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を形成した積層メタルガスケットであって、前記ガスケット構成板として、前記開口部の開口周縁部付近に環状のビードを形成し、開口部の周縁とビード間に平坦な環状延設部を形成した弾性金属板からなるビード板と、前記環状延設部に対応する位置に開口部の周縁部付近を折り返したストッパー部を有するストッパー板と、前記ストッパー部に対応する位置に、一方の面側のみを段落ち状に形成するとともに、少なくともボルト挿通孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した受部を一体的に形成したスペーサ板とを備えた積層メタルガスケット」 [相違点] 本件考案1において、スペーサ板に形成する「環状受部」が「全周にわたって段落ち状に形成」されているのに対し、引用考案1においては、副板13の端縁13aの段差部が全周にわたっているかどうか不明である点 上記相違点について検討するに、本件登録明細書の記載によれば、本件に係る考案は、「積層メタルガスケットにおいては、通常、ストッパー部の幅が一様で且つ厚さが一様なので、ストッパー部又はそれに対応するビード板の開口周縁部のシリンダブロックに対する面圧が、シリンダヘッド固定用ボルトが挿通するボルト挿通孔側へ行くにしたがって大きくなり、上死点付近におけるシリンダ孔の内壁部が部分的に内側へ変形して、シリンダ孔の真円度が低下し、シリンダ孔とピストンリング間のシール性の低下により、エンジン性能が低下したり、オイル消費量が増大するという問題が発生する。特に、シリンダ孔の上死点付近においては、エンジンの圧縮行程及び爆発行程における高温・高圧な燃焼ガスをシールする関係上、僅かな真円度の低下でも、エンジン性能が大幅に低下したり、オイル消費量が増大するという問題が発生するのである。」(段落【0003】【考案が解決しようとする課題】参照)という点を課題と認識し、「シリンダ孔の開口周縁部に対する面圧を一様に設定して上死点付近におけるシリンダ孔の真円度の低下を防止し得る積層メタルガスケットを提供すること」を目的とするものである(段落【0004】参照)。そして、その課題解決のために、各請求項に記載された構成を採用するものであって、「スペーサ板のストッパー部に対応する位置」には、「少なくともボルト挿通孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した環状受部が形成されて」いるから、「シリンダヘッド固定用ボルトを締結すると、環状延設部とストッパー部とストッパー部に対向するストッパー板の部分と環状受部とがシリンダヘッドとシリンダブロック間に挟持され、ビード付近にはストッパー部の肉厚に環状受部の肉厚を加算した厚さからビードに対応するスペーサ板の肉厚を差し引いた隙間が形成され、この隙間によりビードの異常変位が規制される」のであり、また、「環状受部の肉厚をボルト挿通孔付近において薄肉に構成してあるので、シリンダ孔の開口周縁部のうちのボルト挿通孔付近における積層メタルガスケットのシリンダブロックに対する面圧を低く設定することが可能となり、上死点付近におけるシリンダ孔の真円度を向上することが可能となる」ものと説明されている(段落【0008】参照)。 すなわち、本件に係る各考案は、主として、スペーサ板に「少なくともボルト挿通孔付近の肉厚を他の部分よりも薄肉に構成した環状受部」を形成することによって、ビード付近に隙間を形成し、その隙間によりビードの異常変位を規制するという技術的思想に基づいて考案されたものと解することができる。 登録明細書には、上記の構成については他の箇所にも多々記載があるのに対し、スペーサ板に形成する受部を「全周にわたって段落ち状に形成する」点に関し、その点の構成を採用することによる作用効果についての記載はなく、該明細書の記載から「全周にわたって」とする点に格別のものがあると認めることができない。 そうすると、「全周にわたって」の技術的意義は一般的なものと解釈せざるを得ないが、一般に、外側の層の縁部を内側の層の縁部を包むように折返すことによって、周縁部に折返し部を形成してなる積層体の製造において、折返し部の対応する位置の内側の層の縁部を段落ち状に形成すること、折返し部によって積層体の縁部が厚くなることを防止するために、すなわち積層体縁部の厚さを調整するために、縁部における内側の層の厚さを薄く形成することは適宜採用されていることであり、上記4欄で周知技術1及び2として認定したように、積層型金属ガスケットにおいても周知の技術といえるものである。 してみると、引用考案1の副板13の縁部13aにおいて、副板14の折返しによって厚くなる箇所の厚さを調整するために、折返し部に対応する箇所に段差部を全周にわたって形成するようなことは、当業者であれば積層型金属ガスケットにおける周知の技術を適用することによって、きわめて容易になし得ることといわざるを得ない。 したがって、上記相違点に係る本件考案1の構成を採用することが当業者にとって格別の創意を要することとはいえない。 権利者は、刊行物2,4及び5について、ビード板についての記載が無いものであるから、刊行物1記載の技術と組み合わせることができないものである旨主張する。 しかしながら、「全周にわたって段落ち状に形成する」点の作用、効果は上記のとおりであり、それがビード板の有無によって左右されるものとは解されず、積層型金属ガスケットという点で共通する各刊行物記載の技術を組み合わせることを阻害するものではない。 よって、本件考案1は、上記引用考案1および周知の技術(周知技術1及び2)に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。 (2)本件考案2について 本件考案2は、本件考案1の構成に「環状受部の肉厚をボルト挿通孔側へ行くにしたがって薄肉に構成した」点の構成を加えるものである。 上記のように、引用考案2は、引用考案1の金属ガスケットにおいて、副板13の薄肉部13cの肉厚をボルト孔に行くにしたがって薄肉に構成したものであり、引用考案2の「ボルト孔」及び「薄肉部13c」は、本件考案2の「ボルト挿通孔」及び「環状受部」にそれぞれ相当する。 本件考案2と引用考案2とを対比すると、本件考案1と引用考案1との一致点と同じものに加え、上記「環状受部の肉厚をボルト挿通孔側へ行くにしたがって薄肉に構成した」点でも両者は一致し、本件考案1と引用考案1との相違点と同じ点で相違する。 そして、該相違点に係る構成を採用することは、上記5(1)欄における判断と同様の理由で、引用考案2に上記周知の技術(周知技術1及び2)を適用することにより当業者がきわめて容易に想到し得ることということができる。 したがって、本件考案2は、上記引用考案2および周知の技術(周知技術1及び2)に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおりであるから、本件考案1及び2は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、本件請求項1及び2に係る実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない出願に対してされたものである。 したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第3条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-10-30 |
出願番号 | 実願平5-70304 |
審決分類 |
U
1
651・
121-
Z
(F16J)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 柴沼 雅樹 |
特許庁審判長 |
船越 巧子 |
特許庁審判官 |
常盤 務 秋月 均 |
登録日 | 2000-09-14 |
登録番号 | 実用新案登録第2606527号(U2606527) |
権利者 |
国産部品工業株式会社 大阪府豊中市走井2丁目6番5号 |
考案の名称 | 積層メタルガスケット |
代理人 | 斎下 和彦 |
代理人 | 小川 信一 |
代理人 | 柳野 隆生 |
代理人 | 野口 賢照 |