• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A01K
管理番号 1053440
審判番号 審判1999-35164  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-04-08 
確定日 2002-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第1932638号実用新案「釣竿」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1、手続の経緯・本件考案
本件登録第1932638号実用新案(昭和60年3月25日に実用新案登録出願、平成4年10月14日に設定登録)に係る考案の要旨(以下、「本件考案」という)は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、
「補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃えシート又は織布で形成した竿管表面に、これと同質材料からなりかつねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形して移動フード進退用の雄螺子を設けると共に前記雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように形成したことを特徴とする釣竿。」
にあると認める。

2、請求人の主張
本件実用新案登録に係る考案は下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案及び周知・慣用技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、旧実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
従って、本件実用新案登録に係る考案は、同法第37条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。

甲第1号証:特公昭51-25455号公報
甲第2号証:英国特許公開第2038977号明細書(なお、請求人は、この証拠方法を英国特許2038977としているが、添付資料からみて前記のとおりにした)
甲第3号証:英国特許第1553220号明細書
甲第4号証:特開昭51-3 9 8 9号公報
甲第5号証:実願昭58-3625号(実開昭59-110576号)のマイクロフイルム
甲第6号証:大谷杉郎、大谷朝男 共著、「カーボンファイバー入門」(昭和58年8月25日、株式会社オーム社発行)92?93頁

3、当審の判断
3-1、甲号各証記載の考案
甲第1号証には、化学プラント建設用の管あるいは電信柱として適用できる繊維強化プラスチックに関し、3欄4?10行には、「一般に強化材としてはガラスあるいはポリエステル繊維を用いるのが正常であるが、この発明による方法では、各層は例えばプラスチック材料を多量に吸収することができるガラス繊維フリース(毛状物)、あるいはガラス繊維の粗紡糸から成る織布であってもよく、あるいは管全体をフリースと織布との層で構成してもよい。」と、
5欄20?26行には、「この発明は、さらに、外面ねじ山を形成するために、プラスチックを含浸した粗紡糸を最初に管と同外径の山形造型ローラの中へ入れること、そこでこの山形造型ローラを管と縦方向に接触させ、山形粗紡糸を山形造型ローラから巻きもどして管上に巻着すると同時に山形造型ローラが成形と平滑化とを行なう」と、
5欄42行?6欄4行に、「もし、熱硬化性プラスチックを管の製造に用いたならば、完全に巻着した管を最初部分的にキューアし、ついでねじ山をつけたのち山つき管を完全にキューアする。このような方法で、ねじ山と管体との間に最適の接着を得るためには、管体にもねじ山にも同種のプラスチック材料を用いるのが普通である。」と、
8欄20?26行に、「第3a図、第3b図および第4a図、第4b図管上に外備ねじ山を形成することが示してある。第3a図および第3b図では、プラスチックを含浸した粗紡糸100がそのまま山形造型ローラ110の外周上の凹み102の内に部分的に横たわり、その起きあがった部分104は管120に対して横たわっていることを示している。」と記載されている。
上記明細書の記載及び図面の記載によると、甲第1号証に記載された考案において、管120は、ガラス繊維フリース又はガラス繊維の粗紡糸から成る織布に熱硬化性プラスチックを含浸したプリプレグで形成されており、ねじ山は、プラスチック材料を含浸した粗紡糸100を巻着して形成されているから、管120とねじ山が同質材料からなるとはいえないので、甲第1号証には、
ガラス繊維の粗紡糸から成る織布に熱硬化性プラスチックを含浸したプリプレグの織布で形成した管表面に、熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維粗紡糸からなるねじ山を一体に密着成形した繊維強化プラスチック管が記載されていると認められる。
甲第2号証には、その1頁75?93行に、「この螺子山は、平行な螺子山でもよいが、斜めの螺子山であることが好ましい。・・・この管構造は、好ましくは、円筒となるように積層された、樹脂を含浸させたトウ(テープ)からなり、螺子山はこの円筒の外面又は内面に、樹脂が完全に硬化する前に型成形工程により成形する。トウは大多数の繊維の配向が、実質上、管構造の長手方向に向くような方法で積層され、それぞれのトウは典型的には8mmの幅であり、一側から他側までの間に5000から10000本の繊維が密接して配置されている。
オフショア油田採掘場での使用において、我々は本発明では炭素繊維を好適に使用できることがわかった。」(翻訳文1頁10?21行)と、
2頁53?62行に、「図に、螺子山により螺合される一対の繊維強化プラスチック管1及び2を示す。従って管1には雄螺子山部が付与され、管2には雌螺子山部が付与される。雌螺子山部は実質上、内面に螺子山が形成された円筒状の成形部分3からなる。この螺子山は実際はやや斜めに形成されるが、平行な螺子山とすることもできる。」(翻訳文2頁3?6行)と、
2頁106?111行に、「管2の雄螺子山部は外面に螺子山を有する成形部分6からなる。成形部分6は成形部分3と同様の方法により作製されたものであり、そして管2の端部において管を作製する際に用いた、螺旋状に巻き回された繊維樹脂を用いて固定されていることが示されている。」(翻訳文2頁11?14行)と記載されている。
これらの記載及び図面の記載によると、甲第2号証に記載された考案において、管2は、樹脂を含浸させたトウで形成されており、雄螺子山部は、トウに含浸させた樹脂を型成形によって形成しているから、管2と雄螺子山部が同質材料からなるとはいえないので、甲第2号証には、
ガラス繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したトウを、トウの大多数の繊維の配向が管の長手方向に向くように積層して形成した管表面に、雄螺子山部を一体に密着成形した繊維強化プラスチック管が記載されていると認められる。
甲第3号証には、その1頁33?36行に、「本発明は、深海油田の掘削の際に直面する厳しい条件に適合するように設計した管体を提供するものである。」と、
3頁90?103行に、「図1Aに示すように構成される管は、繊維強化プラスチック3つの環状の領域からなる。半径方向の外側に向けて、これらの領域は、繊維が巻き回されてフープ補強を与える領域10、繊維が斜めに巻き付けられて長手方向補強を与える領域12、及び再びフープ補強を与える領域12からなる。この領域10、12、14は、従来からのフィラメント巻き回し技術を承継して形成される。各領域では繊維が母材樹脂に含浸されて一体の部材となる。」(翻訳文2頁20?25行)と、
4頁30?41行には、「管Aは、領域14における一層の炭素繊維の層と、領域12における3層のガラス繊維の層と、領域10における一層の炭素繊維の層を含み、領域10の内側に追加のガラス繊維の層がある。管Bは領域14の外側の半層の炭素繊維の層、その領域(領域14)の内側の半層の炭素繊維の層、領域12における3層のガラス繊維の層、及びこの領域(領域10)の内側の1と1/2層のガラス繊維の層を含む。」(翻訳文3頁2?7行)と、
8頁25?33行に、「図5に示すように、結合要素62,64が管36の本体へ一体に形成された結合構造を使用することが望ましい。
差し込み口として形成された要素64は差し込み口として形成され、要素62は他の管に形成された対応する差し込み口を受けるために適応するソケットとして形成されている。」(翻訳文3頁25行?4頁4行)と、
第8頁第40?42行に、「しかし簡単に言えば、差し込み口64には、多数の溝68が、ランド70の間に形成されて、付与されている。」(翻訳文4頁6?7行)と
記載されている。
これらの記載及び図面の記載によると、甲第3号証に記載された考案において、管は、周方向に配列したガラス繊維等のフィラメントによってフープ補強するものであるが、補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの織布で形成したものとは認められず、また、複数の溝68がどのように形成されているかは明らかでないので、甲第3号証には、
ガラス繊維等のフィラメントを周方向に配列してフープ補強をなす領域10、14、22、26、34、36と、フィラメントを螺旋状に巻いて長手方向の補強をなす領域12、24、28、32とを、交互に積層して形成した管の表面に、結合要素として複数の溝68を形成した繊維強化プラスチック管が記載されていると認められる。
甲第4又は5号証には、合成樹脂で形成した竿管表面に、ねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を一体に成形して移動フード進退用の雄螺子を設けた釣竿が記載されていると認められる。
甲第6号証には、「この種のプリプレッグ品の主体は一方向引揃品(略称UD-PP)と呼ばれるもので,一方向に並べられた薄いHPCFの層に予備硬化段階のエポキシ樹脂が含浸されたシート状の製品である.表6・12にその商品例を示す.幅広いものをシート,幅の狭いものをテープと呼んでいる.」(93頁11?14行)と記載されている。

3-2、対比・判断
本件考案と甲第1号証記載の考案とを比較すると、甲第1号証記載の考案の「ガラス繊維の粗紡糸」「熱硬化性プラスチック」「ねじ山」が、本件考案の「補強繊維」「熱硬化性合成樹脂」「雄螺子部材」にそれぞれ相当しているから、両者は、補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃えシート又は織布で形成した管表面に、ねじ山とねじ谷とを連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形した管で一致しているが、
甲第1号証記載の考案は、本件考案の「釣竿管表面に、これと同質材料からなる雄螺子部材を密着成形して移動フード進退用の雄螺子を設けると共に前記雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように形成した」構成を有していない点(以下、「相違点A」という)で本件考案と相違している。
また、本件考案と甲第2号証記載の考案とを比較すると、甲第2号証記載の考案の「ガラス繊維」「トウ」が、本件考案の「補強繊維」「プリプレグ」にそれぞれ相当しているから、両者は、補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃えシート又は織布で形成した管表面に、ねじ山とねじ谷とを連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形した管で一致しているが、
甲第2号証記載の考案は、前記相違点Aで本件考案と相違している。
さらに、本件考案と甲第3号証記載の考案とを比較すると、甲第3号証記載の考案の「ガラス繊維やカーボン繊維等のフィラメント」「結合要素として複数の溝部68」が、本件考案の「補強繊維」「雄螺子部材」にそれぞれ相当しているから、両者は、補強繊維によって補強された管表面に、ねじ山とねじ谷とを連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形した管で一致しているが、
甲第3号証記載の考案は、前記相違点A、及び、管を、補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃えシート又は織布で形成していない点で本件考案と相違している。
上記相違点を検討するに、合成樹脂で形成した竿管表面に、ねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を一体に成形して移動フード進退用の雄螺子を設けた釣竿は、甲第4又は5号証で示されているように、また、プリプレグの引揃えシートは、甲第6号証で示されているように周知といえる。
しかしながら、上記相違点Aにおける本件考案の構成は甲第1ないし6号証に記載されておらず、しかも、甲第1号証記載の考案の管は、具体的には、化学プラントや電信柱として用いられるものであり、また、甲第2又は3号証記載の考案の管は、油田掘削場で用いられるものであり、釣竿とはその産業分野を異にしている。
そうすると、前記周知な竿に、甲第1ないし3号証記載の考案を適用して、竿を補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグで形成し、さらに、このプリプレグで形成した竿の表面に、これと同質材料からなりかつねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を、前記雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように形成することは、当業者といえどもきわめて容易にできることではない。
そして、本件考案は、明細書記載の効果を奏するものであるから、本件考案が、甲第1ないし6号証記載の考案に基いてきわめて容易にできたものとすることはできない。

4、むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-03-16 
結審通知日 2000-03-31 
審決日 2000-04-17 
出願番号 実願昭60-42888 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (A01K)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 滝本 静雄日高 賢治  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 鈴木 寛治
白樫 泰子
登録日 1992-10-14 
登録番号 実用新案登録第1932638号(U1932638) 
考案の名称 釣竿  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 水野 浩司  
代理人 森 厚夫  
代理人 中村 俊郎  
代理人 西川 惠清  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ