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審決分類 審判 全部申し立て   H03B
管理番号 1053463
異議申立番号 異議2000-74677  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2002-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-26 
確定日 2002-01-04 
異議申立件数
事件の表示 登録第2605186号「温度補償型水晶発振器」の請求項1に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2605186号の請求項1に係る実用新案登録を取り消す。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2605186号に係る考案は、平成5年3月29日に出願され、平成12年4月21日に設定登録され、その後、実用新案登録異議申立人日本電波工業株式会社より、実用新案登録異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年4月26日に意見書が提出されたものである。


2.本件考案

本件実用新案登録第2605186号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という)は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
水晶振動子の一端に、サーミスタ、抵抗及びコンデンサとから成る高温領域温度補償回路部、低温領域温度補償回路部を夫々直列的に接続するとともに、水晶振動子の他端に、2つのコンデンサとから成る並列回路を接続した温度補償型水晶発振器において、
前記高温領域及び低温領域温度補償回路部の抵抗がトリミング処理され得る厚膜抵抗体膜から成り、
前記並列回路の一方のコンデンサがトリミング処理され得る厚膜トリミングコンデンサから成ることを特徴とする温度補償型水晶発振器。


3.引用刊行物記載の考案

当審が取消理由通知において引用した、引用刊行物1<実願昭62-49332号(実開昭63-156110号>のマイクロフィルム)には次の事項が記載されている。

a)「第3図は従来の直接補償型水晶発振回路である。高温補償回路Aと低温補償回路Bによって補償されるが、サーミスタとコンデンサを組み合わせた回路であり、水晶振動子1と直列に入るリアクタンスが温度によって変化するのを利用することにより温度補償している。」(第2頁第4乃至9行より引用)

b)第3図には、水晶振動子の一端に、サーミスタ、抵抗及びコンデンサとから成る高温補償回路Aと低温補償回路Bを直列に接続するとともに、水晶振動子の他端に、固定容量のコンデンサと可変容量のコンデンサから成る並列回路を接続した直接補償型水晶発振回路が記載されている。

上記記載a)および記載b)で示した第3図に記載された回路図からみて、引用刊行物1には、次の考案(以下、「引用刊行物1に記載の考案」という)が記載されているものと認める。

水晶振動子の一端に、サーミスタ、抵抗及びコンデンサとから成る高温補償回路と低温補償回路を直列に接続するとともに、水晶振動子の他端に、固定容量のコンデンサと可変容量のコンデンサから成る並列回路を接続した直接補償型水晶発振回路。


4.本件考案と引用刊行物1に記載の考案との対比

そこで、本件考案と引用刊行物1に記載の考案とを比較すると、

引用刊行物1に記載の考案における「高温補償回路」、「低温補償回路」が、本件考案における「高温領域温度補償回路部」、「低温領域温度補償回路部」に夫々対応し、
また、引用刊行物1に記載の考案における「固定容量のコンデンサと可変容量のコンデンサから成る並列回路」が、本件考案における「2つのコンデンサとからなる並列回路」に対することは明らかであるから、

本件考案と引用刊行物1に記載の考案とは、

水晶振動子の一端に、サーミスタ、抵抗及びコンデンサとからなる高温領域温度補償回路部、低温領域温度補償回路部を夫々直列的に接続するとともに、水晶振動子の他端に、2つのコンデンサとから成る並列回路を接続した温度補償型水晶発振器
である点で一致し、

本件考案においては、「高温領域及び低温領域温度補償回路部の抵抗がトリミング処理され得る厚膜抵抗体膜から成」るのに対して、引用刊行物1に記載の考案においては、「高温領域及び低温領域温度補償回路部の抵抗」がどのようなものであるか特に言及されていない点(相違点1)、

本件考案においては、「並列回路の一方のコンデンサがトリミング処理され得る厚膜トリミングコンデンサから成る」のに対して、引用刊行物1に記載の考案においては、「並列回路」を構成する「コンデンサ」としてどのようなものを用いているか特に言及されていない点(相違点2)

で夫々相違している。


5.相違点についての判断

そこで、上記相違点について検討すると

イ)相違点1に関して、

当審が取消の理由に引用した引用刊行物2<実願昭60-78836号(実開昭61-195613号)のマイクロフィルム>には、

c)「本考案は、温度変化に応答して異なる出力電圧を発生し、例えば可変容量ダイオードに印可して発振器の温度変化による周波数変動分を補償する温度補償発振器用の補償電圧発生基板(以下、温度補償用基板とする。)に関し、特に温度補償発振器を製造する際の作業効率に優れた温度補償用基板として利用される」(第1頁第11乃至17行より引用)、

d)「一般に、圧電振動子例えば水晶振動子を発振素子とした水晶発振器にあっては、周辺温度の変化による発振周波数の変化を補償した温度補償発振器が知られている」(第1頁第19行乃至第2頁第2行より引用)、

e)「この温度補償基板にあっては、・・・・(中略)・・・・通常市販される固定抵抗を単一で使用することができず各抵抗A、B、C、Dを直並列の抵抗網とし、所定の抵抗値を得るようにしていた。従って、作業者はその抵抗網に適合する複数の固定抵抗をその都度選択して回路基板に装着するという非常に面倒で時間のかかる作業を強いられる」(第4頁第10乃至20行より引用)、

f)「レーザにより抵抗体を切断してその抵抗値を任意の値に調整できる基板であれば、個別の固定抵抗を選択する必要がなくその精度も高めることができることに着目し、基板に補償電圧発生回路用の導電路を分断して形成し、導電路の間に所定の値に調整できる抵抗膜を形成した」(第5頁第12乃至18行より引用)、

g)「第1図aは、本考案の温度補償基板の平面図で、同図bは、同回路図である。
この実施例の温度補償基板は、例えばセラミック基板の板面に形成された入出力及びアース電極用の各パッド部V_(0)、V_(i)、Eから導電路が延出して、所定の導電路間に抵抗膜が施され点線枠イ、ロ、ハ、ニで示した中温部補償部、低温部補償部、高温部補償部及び極値調整用の各回路網を形成している。尚、図中の符号S_(n)、S_(n)’、S_(1)、S_(1)’S_(h)、S_(h)’は中温部、低温部、高温部補償部の回路網用のサーミスタ端子を示す。そして、高温部を除く中温部、低温部補償部及び極値調整部には、前述した抵抗A、B、C、Dに相当する抵抗網a、b、c、dが形成されている・・・・(中略)・・・・・そして、各抵抗網a、b、c、dは、例えばレーザにより抵抗膜x、yを飛散し、比抵抗値が大きい抵抗膜yにて各抵抗網a、b、c、dの設定抵抗値rに対しそれ以下の例えば0.99rを目標値として概略抵抗値0.99rに粗調整し、比抵抗値の小さな抵抗膜xにて誤差を含めた0.01rを微調整して所定の設定抵抗値rを得るようにしている。」(第6頁第6行乃至第8頁第3行より引用)
と記載されており、

上記記載d)から引用刊行物2に記載の考案は、本件考案および引用刊行物1に記載の考案と同様に、水晶振動子用いた温度補償回路を有する発振器に関するものであり、
また、上記記載c)およびe)乃至g)から、引用刊行物2に記載の考案は、上記指摘の如き発振器に用いられる温度補償回路において、該温度補償回路を構成する抵抗の抵抗値の調整を容易とするために、該抵抗を抵抗膜によって形成し、レーザにより該抵抗膜を飛散させることにより所望の抵抗値を得るようにしたこと、即ち温度補償回路の抵抗をトリミング処理可能な抵抗膜で構成したものである。
また、引用刊行物1に記載の考案においても、その温度補償回路を構成する抵抗値を調整する必要があることは、引用刊行物2の上記記載e)等にも指摘されているように、当業者にとっては自明な事項である。
したがって、抵抗値の調整作業を容易とする目的で上記刊行物2に記載の考案の技術を適用し、前記高温領域温度補償回路部、低温領域温度補償回路部を構成する抵抗を、トリミング処理可能な厚膜抵抗体膜で構成することは、当業者がきわめて容易に成し得たものである。


ロ)相違点2に関して、

当審が取消の理由に引用した引用刊行物3<実願昭57-69561号(実開昭58-172210号)のマイクロフィルム>
(平成13年2月22日付取消理由通知書において、上記引用刊行物3に関して、その出願番号を、正しくは上記の如く<実願昭57-69561号>とすべきところを、誤って、<実願昭57-69551号>と記載したが、併記した同刊行物3の公開番号は、正しく<実開昭58-172210号>と記載しており、実用新案権者も、当該取消理由通知に対する応答に際して、上記の正しい番号にて対応している。)に、

h)「本考案の目的は、上述したような欠点を除去した周波数調整用コンデンサを使用した圧電発振器を提供することであり、本考案はその目的を達成させるため、少なくとも圧電振動子を含む圧電発振回路部品を絶縁基板に接続し、かつ複数対のクシの歯状金属膜を前記絶縁基板上に付着していることを特徴とする圧電発振器を主構成としている。
第2図は、本考案の一実施例を示す水晶発振器の回路部品配置図であり、・・・・(中略)・・・・水晶振動子Xが孔5,6間に接続され、孔7が裏面において周波数調整用コンデンサC’_(3)と接続している。
このコンデンサC’_(3)は、本例では21対のクシの歯状にして並列接続した銅箔9,10(図面作図上、対数を8対だけ示している。)をエポキシ基板4の裏面上に付着して構成している。この銅箔の膜厚10?100μが適当であり、本例では40μにしている 」(第3頁第4行乃至第4頁第7行より引用)、

i)「所望な中心周波数に微調整する際には、一方のクシの歯状銅箔9の接続線8を所定対数の箇所で刃物などで切断すればよい」(第5頁第1乃至3行より引用)、
と記載されており、

この記載から、水晶振動子を用いた発振回路において、周波数調整用に用いられるコンデンサを金属膜で構成し、その周波数の調整を該金属膜を必要量だけ切断、即ちトリミングすることで実現する点は、当業者にとって周知の技術であり、
また、該コンデンサの周波数調整用のトリミングのためにレーザを用いる点についても、当審が取消の理由に引用した引用刊行物4<特開平04-51604号公報>に、

j)「水晶発振器の発振周波数を決定すること帰還回路を構成する膜抵抗及び膜容量の電極面積をレーザトリミング技術により調整することを特徴とする混成集積回路」(第1頁左下欄第5乃至8行より引用)、

k)「発振のための増幅器と水晶振動子に加えて、基板上に形成された抵抗・容量をレーザトリミングにより調整することにより安定な発振特性をえることが出来る。」(第1頁右下欄第15乃至18行より引用)、
と記載されているように、当業者にとっては既に周知の技術事項である。

そして、引用刊行物1に記載の考案において、温度補償型水晶発振器の水晶振動子の他端に設けられた可変容量コンデンサも、該発振器の周波数調整用のコンデンサであることは、当業者にとって自明の事項あるから、この周波数調整用の可変容量コンデンサを上記周知技術を適用して、トリミング処理され得る導体膜で構成すること、即ち、厚膜トリミングコンデンサとすることに何らの困難も見出せない。

そして、引用刊行物1に記載の考案において、温度補償回路の抵抗と可変容量コンデンサとに、同時に、引用刊行物2に記載の考案におけるトリミング処理可能な厚膜抵抗体膜および引用刊行物3乃至4に記載の技術におけるトリミング処理可能な厚膜トリミングコンデンサを適用可能なことは自明の事項である。

なお、該技術を適用することによって、温度補償回路の抵抗の抵抗値および可変容量コンデンサの容量がトリミング処理によって同時に調整し得るようになる点および製造工程において洗浄処理が可能となる点は、その構成を採用することによって当然期待される効果の範囲内のものである。


6.むすび

以上のとおりであるから、本件考案は当審で取消の理由に引用した各引用刊行物に記載された考案に基づき、その出願前にその考案の属する分野における通常の知識を有するものが、きわめて容易に考案し得たものであるから、実用新案法第3条第2項の規定に該当するものであり、、本件請求項1に係る実用新案登録は、拒絶査定されるべき実用新案登録出願に対してなされたものである。
したがって、本件考案は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定めた政令(平成7年政令第205号)第3条第1項及び第2項の規定により取り消されるべきものである。
異議決定日 2001-11-09 
出願番号 実願平5-14888 
審決分類 U 1 651・ 092- Z (H03B)
最終処分 取消    
前審関与審査官 徳永 民雄丸山 高政  
特許庁審判長 馬場 清
特許庁審判官 吉見 信明
石井 茂和
登録日 2000-04-21 
登録番号 実用新案登録第2605186号(U2605186) 
権利者 京セラ株式会社
京都府京都市伏見区竹田鳥羽殿町6番地
考案の名称 温度補償型水晶発振器  

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