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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない G05D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない G05D
管理番号 1056851
審判番号 訂正2001-39169  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-05-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-09-21 
確定日 2002-03-27 
事件の表示 実用新案登録第2134718号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1.手続の経緯
実用新案登録第2134718号の請求項1及び請求項2に係る考案は、平成1年12月29日(優先日平成1年3月28日、日本国)に出願され、平成8年1月29日に出願公告され、平成8年9月10日にその実用新案の設定登録がなされ、平成10年12月29日に請求項1に係る考案について無効審判が請求され、特許庁において平成11年審判第35011号事件として審理され、平成13年5月1日付で実用新案登録第2134718号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする旨の審決がなされ、この審決を不服とする訴えが東京高等裁判所になされた。
一方、本件訂正審判の請求は平成13年9月21日付けでなされ、その請求の趣旨は、実用新案登録第2134718号の明細書及び図面を請求書に添付した明細書及び図面のとおり訂正することを求めるものである。

2.訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正事項は、
(a)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の「ダイヤフラム、」(実用新案公報1欄5行乃至6行)及び考案の詳細な説明の項の「ダイヤフラム、」(実用新案公報4欄19行)の記載を「ダイヤフラムと、」と訂正、
(b)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の「配置された箱体」(実用新案公報1欄14行乃至15行)を「配置された鍔を有する箱体」と訂正、考案の詳細な説明の項の「配置された箱体」(実用新案公報4欄25行)を「配置された鍔を有する箱体」と訂正、
(c)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の「カバー内に配置され」(実用新案公報2欄5行)を「カバー内において該カバーとは独立した部材で前記ダイヤフラムの周縁を介して前記仕切体が下面に位置するスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され」と訂正、考案の詳細な説明の項の「カバー内に配置され」(実用新案公報4欄29行)を「カバー内において該カバーとは独立した部材で前記ダイヤフラムの周縁を介して前記仕切体が下面に位置するスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され」と訂正、
(d)訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項2において「配置された箱体に、」と「第2調整スプリング」との間に「請求項1に記載の鍔に代えて、」の文字を挿入、考案な詳細な説明の項の「配置された箱体に、」と「第2調整スプリング」との間(実用新案公報4欄34行)に「請求項1に記載の鍔に代えて、」を挿入、
(e)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「結部材」(実用新案公報3欄38行)を「連結部材」と訂正、
(e')訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「溝110」(実用新案公報3欄41行)を「隙間110」と訂正、
(f)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「シート部」(実用新案公報5欄12行及び13行)を「弁シート」と訂正、
(g)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「ダイヤウラム」(実用新案公報5欄17行)を「ダイヤフラム」と訂正、
(h)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「弁体」(実用新案公報5欄33行)を「反弁体」と訂正、
(i)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「溝10」(実用新案公報5欄45行)を「隙間10」と訂正、
(j)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「弁体7」(実用新案公報6欄29行)を「弁体9」と訂正、
(k)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「流出孔」(実用新案公報6欄30行)を「流出口」と訂正、
(l)訂正前明細書の考案の詳細な説明の項の「流量口」(実用新案公報8欄4行)を「流入口」と訂正
しようとするものである。

3.当審の判断
3-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(a)は明りょうでない記載の釈明に該当する。訂正事項(b)、(c)のうちの請求項1に係る訂正事項である「配置された鍔を有する箱体」及び「カバー内において該カバーとは独立した部材で前記ダイヤフラムの周縁を介して前記仕切体が下面に位置するスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され」は出願当初の明細書に添付された図面に示された構成で、係る構成の付加は実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、これによって実用新案登録請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではなく、訂正事項(b)、(c)のうち考案の詳細な説明の項に係る訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。訂正事項(d)、(h)は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、訂正事項(e)、(e')、(f)、(g)、(i)、(j)、(k)及び(l)は誤記の訂正を目的とするものに該当する。

3-2.独立登録要件
3-2-1.訂正考案
訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下、同項記載の考案を訂正考案という。)は次のとおりのものである。
「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、
上記ハウジングに被冠されたカバーと、
上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラムと、
該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、
該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体と、
上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、
上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置された鍔を有する箱体と、
上記カバー内に配置され上記箱体を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、
上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、
上記カバー内において該カバーとは独立した部材で前記ダイヤフラムの周縁を介して前記仕切体が下面に位置するスプリング受座と前記箱体の鍔との間に配置され箱体を反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、
を具備したことを特徴とするガス圧力調整器。」

3-2-2.引用例
当審での訂正拒絶理由で引用した米国特許第4744387号明細書(以下、引用例1という。)に、「例えば、多くの工程が最高の純度で提供される流体を必要としている。実施例の一つが半導体工業の場合、この工業では、レギュレータそれ自身から流体の流れの中に導入された迷い子の微粒子は、これらが製品機能を破壊する場所にある製品に付着した時に極めて高価な製品をスクラップ化してしまう。一つの実施例は導電性粒子であって、チップ上の二つの電子素子を架橋してまう。レギュレータ内部でこの種の微粒子の発生原は、ダイヤフラム、バルブそして特に流体経路中のバネ類である。相対する部品間のバネの摩擦を含め、バネの屈曲作用、部品間の擦り合いまたはぶつかり合いが、その例である。」(1欄22行乃至35行)、
「自由作動するあらゆる部品及び流れ経路中の摩擦接触を取り除き、空隙部容積を最小化するために流れ経路から全てのバネを取り除くことが本発明の目的である。」(1欄51行乃至54行)、
「本発明のレギュレータ10は、ネジ山13で螺合接合される二つの部品11、12で構成される本体を有する。バルブは作動線14を有する。入口15は伸びて本体に入り、入口空隙部16に入る。従来の連結装置17はレギュレータをシステムの中に半田づけするために設けてある。出口20は伸びて本体に入り、感知空隙部21に入る。軸線14上のポペット通路22は入口空隙部及び出口空隙部と相互に連結する。隆起したリング形弁座25がポペット通路を取り囲み、ここで弁座が入口空隙部に入る。感知空隙部は部分的に本体で拘束され、また部分的に可撓性ダイヤフラム26で覆われる。該ダイヤフラムは円形(空隙部やポペット通路と同様に)であり、しかも中心部分は軸線方向に動き、この時ダイヤフラムを横切る差動力が変化する。ポペットステム27がポペット口を通るが周囲に隙間があるので摩擦は起きない。ポペットヘッド28がステムに取り付けられるか、またはステムと一体構成される。ポペットヘッド上のシール29は座に接した時にポペット通路を閉じるように面している。」(2欄39行乃至61行)、
「固定物32はダイヤフラムに取付けられて封止されるフランジ32aをもつ。底部バネ案内33はダイヤフラムに担持され、固定物32が通っている。上方バネ案内34は底部バネ案内に対面し、距離バネ35がこれら両方の案内間に置かれ、圧縮状態にある。」(3欄1行乃至6行)、
「ポペットバネ60は固定物32と56の間に引っ張られた状態でその両端で保持された引っ張り形コイルバネである。このバネ60の性向はダイヤフラムを上方に引き寄せる傾向をもつ。距離バネの性向はダイヤフラムを下方に押し込む傾向をもつ。距離バネが印加する圧縮力は距離バネ調節ネジを旋回して調節できる。ポペットバネに加わる張力はポペットバネ調節ネジを旋回して調節できる。」(3欄25行乃至32行)、
「流体の流れ中には、自由作動部品、またはバネ、または摩擦部品が存在しないことが観察されよう。唯一の物理的接触はポペットとその座の間のみである。」(3欄39行乃至42行)
と記載されていることが認められ、これらの記載によれば引用例1は訂正考案の技術的課題、すなわち、「弁の開閉、すなわち、弁体109の摺動に伴い、スプリング111が伸縮するが、このスプリング111の伸縮により、スプリング111とハウジング101とが摺接して、金属粉等が発生する。スプリング111はガス流路途中に配置されているので、上記発生した金属粉が流通するガス中に混入して、ガスの品質を低下させてしまうという問題点があった。特に、ICの製造等の半導体産業において使用するガスは、高純度であることが望ましく、そのため、従来はスプリング111として耐蝕性に優れた特殊な材質のものを使用する等、コスト的にも好ましくない方策を余儀なくされていた。本考案は上記実情に鑑みてなされたもので、スプリングとハウジングとの摺接により発生する金属粉等がガス中に混入されることのないガス圧力調整器を提供することを目的としている。」(訂正明細書3頁6行乃至17行)という技術的課題と同様の技術的課題を解決するものであって、そのための構成として
「ガス流入口とガス流出口を備えるとともに入口空隙部及びリング形弁座を一体的に備えた部品11と、
上記部品11に被冠された部品12と、
上記部品11と部品12との間に配置されたダイヤフラムと、
上記部品11と部品12との間に形成された感知空隙部と、
上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記入口空隙部内を移動して上記リング形弁座の開閉をなすポペットヘッドと、
上記ダイヤフラムの反ポペットヘッド側の部品12内に配置された底部バネ案内と上部バネ案内との間に配置され上記底部バネ案内を介してダイヤフラムをポペットヘッド方向に付勢する距離バネと、
上記部品12に取り付けられ上記距離バネを調整する摘まみと、
上記部品12内の固定物32と56との間に配置され、底部バネ案内を反ポペットヘッド方向に付勢するポペットバネと、
を具備したガス圧力調整器」との考案(以下、引用例1考案という。)が開示されていると認めることができる。

同じく、当審での訂正拒絶理由で引用した米国特許第4807849号明細書(以下、引用例2という。)に、「本発明の目的は、螺合手段の存在に起因する前述のバーチャルリークの問題を回避する改良した流体流れ制御装置を提供することにある。更に詳しくは、本発明の目的は、内部螺合手段を採用せずにシールを設計した位置に保持、すなわち締付ける構造をもち改良された流体流れ制御装置を提供することにある。」(1欄26行乃至33行)、
「ここで図を参照すると、直径方向に漸増する力から、装置2のシール上に、集中中心力を生み出す目的で力を伝達するために、本発明の圧縮部材1が、本発明の流体流れ制御装置2の中に使用された状態が示されている。圧縮部材1は、集中中心力をシール3に与えるために圧縮部材の一方の側の中心に位置する第一表面4と、第一表面と反対側の部材1の第二側面状の大きい直径の第二表面5とを有する。第二表面5の半径方向外側部分6はその半径方向内側部分よりも高くなっていて、直径方向に大きい力が印可される接触表面を提供している。圧縮部材1には流体通路7が形成されており、この流体通路は第一表面4から第二表面5に向け部材の中心軸線8に沿いこの圧縮部材を貫通している。」(3欄58行乃至4欄7行)、
「アーム10の下方表面11はくり抜き溝13を介して圧縮部材1の中心部分12に接合される。第二表面5の外側周辺部分の上には環状リム14があり、このリムは直径方向に漸増する力が印可される接触面となっている。このリム14はまたスペーサとしても機能し、流体流れ制御装置2のダイヤフラム15を、図示のようなアーム10の中に均一に離間された四つの流体通路16の障害とならないように保持する。アーム10のテーパのついた形状と、圧縮部材の下方中心部分12のくり抜き溝13とがこの圧縮部材の固定応力部材を構成する。すなわち、圧縮部材のアーム10のあらゆる部分は等しく応力を受け、圧縮部材のアームが負荷中心に湾曲するようになっている。くり抜き部分13がなかったならば、中心部分12とアーム10の下方表面11との交点に過剰応力が生じる筈である。」(4欄41行乃至59行)
と記載されていることが認められる。

同じく、当審での訂正拒絶理由で引用した米国特許第1859089号明細書(以下、引用例3という。)に、「バルブ・ケーシング1は、入口フランジ2と出口フランジ3とそれぞれ、また弁シート支持物5中で終わる内部下向き排出流体進入チャネル4と一体化された鋳造物である。比較的短い円筒状ケーシング20はプランジャ・ダイヤフラム80を収容し、低圧膨張室として働く。この室本体は、バルブ・ケーシングのトップ・フランジ6にねじ込まれ、レンチを用いて、プランジャ・ダイヤフラムの周辺部分がその間に締め付けられて、ケーシングの直立フランジ部分23上に設けられた平面と係合する。膨張室のケーシングはトップ・キャップ30を担持する。バルブ・ケーシングの底部は、ねじによって連結された個別のボトム・カップ40によって形成されている。ダイヤフラムの中央で支持されて、垂直に延びるバルブ・オペレータは2つの一体にねじ込まれる部材50、60から成り、その間にはプランジャ・ダイヤフラムが締め付けられており、バルブを操作するための限られた垂直移動を自由に実施できる。下部の分岐部材またはヨーク部材50は、リング部分52中のねじ式結合によって作動可能なバルブ・ディスク51を担持し、上部中空スピンドル部材60は、それぞれ61と62とで示す内部押し下げスプリングと外部押し上げスプリングのためのガイドとして働く。バルブ・オペレータの押し下げがバルブの開きに該当し、バルブ・オペレータの押し上げがバルブの閉じに相当することは明白である。」(1頁左欄49行乃至右欄31行)、
「ボトム・クロージャ40はソケット41付きで形成され、ソケット41は、バルブ・ディスク51から垂れ下がる棒部分56を受け入れ案内するために内側が機械加工されているので、バルブ・オペレータは正確に案内され、その移動は下向きに制限されている。ボトム・カップ40の着脱を容易にするために、その外側部分はナット面42を備えている。」(2頁左欄3行乃至11行)
と記載されていることが認められる。

同じく、当審での訂正拒絶理由で引用した実願昭59-152387号(実開昭61-70211号)のマイクロフィルム(以下、引用例4という。)に、「第1図に示されているように、この減圧弁1は、供給ポンプ側に接続される一次側通路3と、ノズル側に接続される二次側通路4とをそれぞれ開設されているボデー2を備えており、ボデー2には弁通路5が一次側通路3と二次側通路4とを連通するように開設されている。弁通路5には弁体7が進退自在に挿通されており、弁体7は弁通路5に形成されている弁座6に離着座することにより弁通路5を開閉するように構成されている。ボデー2には中空部8が形成されており、中空部8の内部にはダイアフラム11が中空部8を横断して2室に仕切るように張設されている。中空部8の内部をダイアフラム11に仕切られてなる一方の室9には連絡通路13が二次側通路4に連通するように開設されており、この連通により、この室は圧力室を構成するようになっている。この圧力室9には弁体7の先端部が突出されており、弁体7はばね14により、ダイヤフラム11の中央部に保持されている受け具12にその先端面が常時当設するように、付勢されている。・・・この大気室10の内部には弁ばね16がボデー2に反力をとって弁体7を弁座6から離反させる方向に常時付勢するように配設されている。すなわち、大気室10における弁体7の延長線上には、ばね受け18を保持している調整ねじ部材17が進退調整可能に螺合されており、ばね受け18とダイアフラム11の受け具12との間には、圧縮コイルばねからなる弁ばね16が蓄力状態で介設されている。また、大気室10の内部には感温ばね19がボデー2に反力をとって弁体7を弁ばね16の付勢方向とは反対方向に付勢するように配設されている。すなわち、ダイアフラム11の受け具12には略筒形状に形成されているばね受け具20が、弁ばね16の外側を包囲するように同心的に配されて保持されており、ばね受け具20におけるダイアフラム11とは反対側の端部に突設された係合部21と、大気室10の内周面におけるダイアフラム11に寄った位置に突設されている係合部22との間には、昇温時に伸長する特性をもつ形状記憶合金により圧縮コイルばね形状に形成されている感温ばね19が弁ばね16と同心的に配されて介設されている。そして、この感温ばね19は大気室10の温度が上昇した時に、伸長変形することにより、弁ばね16に抗する付勢力を増加するように設定されている。」(4頁11行乃至7頁1行)と記載されていることが認められる。

同じく、当審での訂正拒絶理由で引用した米国特許第3003519号明細書(以下、引用例5という。)に、「図2に詳細に示すようなカートリッジまたは弁ユニットは、内部に軸方向に配置された凹みまたは井戸34があるベース32を有するカップ30を備える。ベース32には、2つの垂直に配置されたダクトまたは通路36および38を設ける。ダクトそれぞれの下端は、それぞれぴったり填った管40および42を受けることができ、それによって弁ユニットの入口および出口を提供する。・・・スターラップ部材44には、上方向に延在する外ねじ心棒60を設ける。例えばゴムまたは他の適切な材料など、適切な水不浸透性の弾性材料のダイヤフラム62を、カップ30の肩64の周縁に配置し、心棒60がダイヤフラムを通って延在する。ダイヤフラムは、ロック・ディスク66で覆うことができ、その上面は67のように心棒60を囲む区域で環状に鋸歯状にされる。ダイヤフラムの周縁上に保持リング69を配してもよい。ハウジングガイド68は、カバー・プレート70と、下方向に延在する縁またはフランジ72と、放射状に配置されて上方向に延在する管状心棒74とを備え、ダイヤフラム上に配置される。管状スプリングハウジング76は、上端に78のような外方向のフランジを設け、74中に設置される。つる巻スプリング80が心棒74を囲み、カバー・プレート70とフランジ78とを係合する。スプリングハウジング76は、ナット82によって心棒60に固定され、その下端は、鋸歯67と係合するよう、83で鋸歯状になる。スプリングハウジング76中には、つる巻スプリング84が設置され、それはねじ86によって所定の位置に固定される。」(2欄65行乃至3欄33行)と記載されていることが認められる。

3-2-3.対比・判断
訂正考案の構成要件の一部として実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されている「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」に関し、訂正明細書に「上記ハウジング1には、カバー11が被冠されており、カバー11とハウジング1との間には仕切体13が介在している。この仕切体13はハウジング1側に固着されており、その中央部には弁シート15が形成されている。この弁シート15と上記弁体9とにより弁を構成している。」(訂正明細書4頁23行乃至26行)と記載され、また、図面第1図にはハウジング1、弁シート15、仕切体13はそれぞれ別体のものとして図示されているといえ、これらによれば、「該ダイヤフラム室を介して上記ガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体」の技術的意味はハウジングとは別体のものとして備えられた弁シートを保持するものであって、それ以上の意味、すなわち、ガス圧力の調整に関与する等の技術的意味を有するものでないことは訂正明細書及び技術常識に照らして明らかである。そこで、訂正考案と前示引用例1考案とを対比するに、まず、両者で使用されている用語につきそれらの技術的意味ないし機能の観点から考えると、引用例1考案の、「入口空隙部」、「リング形弁座」、「部品11」、「部品12」、「感知空隙部」、「ポペットヘッド」、「距離バネ」、「摘まみ」、「ポペットバネ」はそれぞれ訂正考案の「弁室」、「弁シート」、「ハウジング」、「カバー」、「ダイヤフラム室」、「弁体」、「第1調整スプリング」、「ハンドル」、「第2調整スプリング」に相当するものといえる。そうすると、両者は
「ガス流入口及びガス流出口を備えるとともに弁室及び弁シートを備えたハウジングと、
上記ハウジングに被冠されたカバーと、
上記ハウジングとカバーとの間に配置されたダイヤフラムと、
該ダイヤフラムと上記ハウジングとの間に形成されたダイヤフラム室と、
上記ダイヤフラムに連結されたダイヤフラムの変形により上記弁室内を移動して上記弁シートの開閉をなす弁体と、
上記ダイヤフラムの反弁体側のカバー内に配置されダイヤフラムを弁体方向に付勢する第1調整スプリングと、
上記カバーに取り付けられ上記第1調整スプリングを調整するハンドルと、
ダイヤフラムを反弁体方向に付勢する第2調整スプリングと、
を具備したガス圧力調整器。」
の点で一致し、
(1)訂正考案が弁シートをハウジングに別体に形成して備え、ダイヤフラム室を介してガス流入口とガス流出口とを連通する仕切体を設けたのに対し、引用例1考案が弁シートをハウジングに一体的に形成し、仕切体を備えていない点、
(2)訂正考案が第1調整スプリングを鍔を有する箱体に、第2調整スプリングをカバー内において該カバーとは独立した部材でダイヤフラムの周縁を介して仕切体が下面に位置するスプリング受座と箱体の鍔との間に配置したのに対し、引用例1考案が第1調整スプリングを底部ばね案内と上方ばね案内との間に、第2調整スプリングを第1調整ばね内方に位置する上下の固定物の間に配置した点、
でそれぞれ相違する。

前記各相違点について検討する。
イ.相違点(1)について
前示引用例2の記載によれば、引用例2には訂正考案が属する技術分野であるガス圧力調整器においてシール(訂正考案の弁シートに相当する。)をハウジングとは別体のものとして備え、このシールを流体通路を有する圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)で保持する構成が示されており、このハウジングとは別体として備えられたシールを引用例1考案のハウジングに一体的に形成された弁シートに代えて採用し、このシールの保持部材として圧縮部材を用いることは当業者がきわめて容易に着想できることであり、そして、引用例1考案にはその構成上シールと圧縮部材の採用を妨げるべき事情は存在しないのであるから、訂正考案の相違点(1)に係る構成は当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
なお、引用例2は圧縮部材1を押し付ける部材としてリング20を設けているが、圧縮部材を押し付ける部材は、圧縮部材がその機能を発揮できる限度で採用して足りるものといえ、引用例1においては、ダイヤフラム26を挟んでいる部品11(訂正考案のハウジングに相当する。)と部品12(訂正考案のカバーに相当する。)との部分にその適用の余地があるといえる。

ロ.相違点(2)について
前示引用例4の記載によれば、引用例4にはダイヤフラムの反弁体側のボデー(訂正考案のカバーに機能上相当する。)内に配置された係合部を有するばね受け具(訂正考案の鍔を有する箱体に相当する。)を介してダイヤフラムを弁体方向に付勢する弁ばね(訂正考案の第1調整スプリングに相当する。)とボデー内の係合部とばね受け具の係合部との間にばね受け具を反弁体方向に付勢するスプリングを配置するとの構成が示されている。引用例4の圧力制御弁はインクジェットプリンタのインクを加圧するもので、ボデー内の係合部とばね受け具の係合部に配置するスプリングが感温ばねである点で訂正考案とは異なるが、引用例4のばね受け具自体についてみれば、その係合部に配設されるばねが感温ばねでなければ使用できないとする技術的理由は見当たらず、そうすると、引用例4からは、係合部を有するばね受け具の内外にばねを配置し、ばね受け具の係合部で外側のばねを受ける構成を摘出することができ、そして、引用例3には正確に案内させるためにバルブ・ディスクから垂れ下がる棒部分をソケットに案内させるものではあるが、流体圧力調整弁においてナットを有するスピンドル部材を用いて内部押し下げスプリングをスピンドル内部に配置し、ナットとばね受け座との間に外部押し上げスプリングを配置するという技術思想が開示されているのであるから、この引用例3に接した当業者であれば、引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとして、ばね受け具の内外にばねを配置する構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることはきわめて容易に着想できるものといえる。
また、前示引用例5の記載によれば、引用例5にはナット20(訂正考案のカバーに相当する。)内において該ナットとは独立した部材でダイヤフラムの周縁を介してカップ30の肩64が下面に位置するハウジングガイド68(訂正考案のスプリング受座に相当する。)と、管状スプリングハウジング76のフランジ78との間に管状スプリングハウジングを反弁体方向に付勢するスプリング80を配置するとの構成が示されており、引用例5の弁ユニットは給水器等に適用されるものであってガス圧力を調整するものではないが、ダイヤフラムの周縁に接するハウジングガイドを外側スプリングの受座とする構成を摘出することができるのであるから、引用例4のカバー内に一体形成された係合部に代えて、カバーとは独立した部材でダイヤフラム周縁に接するスプリング受座を適用することは、当業者がきわめて容易になしえたことである。
そして、引用例1においてダイヤフラム26を挟んでいる部品11と部品12との部分に圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)を適用しうることは前示イのとおりであるから、そうすると、引用例1考案に、引用例4のばね受け具の内外にばねを配置する構成及び引用例5のカバーとは独立した部材でダイヤフラム周縁に接するスプリング受座の構成を適用し、訂正考案の相違点(2)に係る構成となすことは当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。

この点につき、請求人は、「訂正考案の第2調整スプリングと引用例1のポペットばね60とでは、弁体に対して間接的にバネ力を作用させるか、直接的に作用させるかでバネとしての機能が異なるものであり、引用例3,4のバネの配置構成のみを取り出して引用例1のバネ構成に適用しようとしても、各引用例には「圧力調整を行うために弁室(第1圧力室)に独立部材として配置可能なポペット状の調整弁を第2調整スプリングによるバネ力で間接的に付勢させるという技術的思想」が存在しないのであるから、引用例1のポペットばねを引用例2,4のバネに置き換えることはできず、これら引用例から訂正考案をきわめて容易に案出することはできない。」(意見書9頁4行乃至12行)と主張する。
しかしながら、弁体に対して間接的にバネ力を作用させるか、直接的に作用させるかの相違というのは、結局のところ、訂正考案が第2調整スプリングを箱体に付勢力が作用するよう配置したのに対し、引用例1考案がポペットバネを固定物32に付勢力が作用するように配置したという構成の相違にすぎないのであり、そして、引用例3に接した当業者であれば、引用例4の2つのばねを内部押し下げスプリング、外部押し上げスプリングとして、ばね受け具の内外にばねを配置する構成を引用例1の第1調整スプリングと第2調整スプリングの配置に代えて適用しようとすることはきわめて容易に着想できるものといえるのであるから、第2調整スプリングを箱体に付勢力が作用するように配置するとの構成は、当業者がきわめて容易に想到しえたものといえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
また、請求人は、「「カバーでハウジングを被冠し固定することで独立部材としてのスプリング受座を固定し、スプリング受座をダイヤフラムの周縁を介して配置したことにより、ダイヤフラムの下方にシールされたダイヤフラム室を形成する構造、及び、スプリング受座がダイヤフラム17の周縁を介して、下面で仕切体13を支持し、ハウジング1上に仕切体13を固着(密着して固定)させる機能」を有する構造は、引用例1乃至引用例5に何ら記載も示唆もされていない。」(同11頁11行乃至17行)と主張する。
しかしながら、訂正考案が、「カバーでハウジングを被冠し固定することで独立部材としてのスプリング受座を固定し」との構成を備えるものでないことは、訂正明細書の請求項1の記載に照らして明らかであり、また、訂正考案のスプリング受座がカバーでハウジングを被冠し固定することで固定されると解したとしても、引用例2にはナット21(訂正考案のカバーに相当する。)をボディ17(訂正考案のハウジングに相当する。)に被冠し固定することでリング20とダイヤフラム15を固定する構造が示されているから、スプリング受座とダイヤフラムの固定にあたって、この固定構造を採用し、カバーでハウジングを被冠し固定することでスプリング受座を固定する構造となすことは、当業者がきわめて容易になしえたことというべきものである。そして、スプリング受座がダイヤフラム17の周縁を介して、下面で仕切体13を支持するとの構成は、前示のとおり、引用例1考案においてダイヤフラム26を挟んでいる部品11と部品12との部分に圧縮部材(訂正考案の仕切体に相当する。)を適用し、引用例5のカバーとは独立した部材でダイヤフラム周縁に接するスプリング受座の構成を適用することにより得られるものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

そして、訂正考案が奏する「以上詳述したように本考案によるガス圧力調整器によると、調整スプリングとハウジング等との間の摺接により生じる金属粉等のガス中への混入を防止することができ、ガスの品質低下を防止することができる。また、調整スプリングとして特殊な材料のものを使用する必要もない。」(訂正明細書7頁7行乃至10行)との作用効果も引用例1乃至5から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、訂正考案は、引用例1乃至5に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は旧実用新案法第39条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2002-01-23 
結審通知日 2002-01-28 
審決日 2002-02-13 
出願番号 実願平1-151529 
審決分類 U 1 41・ 121- Z (G05D)
U 1 41・ 856- Z (G05D)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 氏原 康宏
紀本 孝
大野 覚美
岩本 正義
登録日 1996-09-10 
登録番号 実用新案登録第2134718号(U2134718) 
考案の名称 ガス圧力調整器  
代理人 阪本 清孝  
代理人 阿部 泰典  
代理人 佐藤 泰正  
代理人 鈴木 正勇  
代理人 飯田 丘  
代理人 志村 正和  

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