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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て全部成立) C23F
管理番号 1058321
審判番号 審判1998-35482  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-10-06 
確定日 2002-04-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第1930212号実用新案「エツチング液移送循環装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第1930212号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 I.手続の経緯
本件実用新案登録第1930212号に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、昭和62年7月1日に出願され、実公平3-54140号として出願公告され、平成4年9月24日にその設定登録がされたところ、平成10年10月6日付で請求人株式会社アルメックスより無効審判が請求がされたものである。
そして、請求人(株式会社アルメックス)及び被請求人(株式会社荏原電産)から提出された書面は、それぞれ以下のとおりである。

〈請求人から提出された書面〉
平成10年10月6日付「審判請求書」
平成11年5月14日付「審判事件弁駁書」
平成11年11月1日付「文書提出命令の申立書」及び「文書送付嘱託の申立書」
平成11年12月17日付「求釈明申立書」
平成12年3月2日付「証拠提出書」
平成12年4月24日付「証拠提出書」
平成12年6月20日付「証拠方法提出書」
平成12年7月31日付「審判事件弁駁書」及び「証拠方法提出書」

〈被請求人から提出された書面〉
平成11年1月12日付「審判事件答弁書」
平成11年2月3日付「審判事件答弁書(第2回)」
平成11年12月16日付「文書提出命令決定書に基づく文書提出」
平成12年6月28日付「審判事件答弁書(第3回)」
平成12年7月31日付「上申書」、「文書成立の認否」及び「証拠提出書」

II.本件考案
本件考案は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された以下のとおりのものである。
「エッチング液に熔解した銅を冷却晶析法により硫酸銅結晶として回収した後このエッチング液を再使用するためにエッチング槽と硫酸銅回収装置とを循環経路にて連結した装置において、前記循環経路中の前記硫酸銅回収装置から前記エッチング槽への返送経路中に前記硫酸銅回収装置の近傍に設置され加熱手段及び撹拌手段を備えた中間槽を介在せしめ、この中間槽から前記エッチング槽に至る部分の返送経路に保温手段を付設したことを特徴とするエッチング液移送循環装置。」

III.当事者の主張および証拠方法
[1]請求人の主張および証拠方法
口頭審理における請求人の陳述(平成12年6月29日の「第1回口頭審理及び証拠調べ調書」参照)によれば、本件無効審判の請求の趣旨は、「実用新案登録第1930212号は、これを無効とする、との審決を求める。」というにある。
そして、請求人は、本件考案の無効理由として、
「無効理由1;
本件考案は、甲第1号証?甲第9号証、甲第15号証?甲第23号証に示される本件考案に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた考案である。
無効理由2;
本件考案は、甲第1号証?甲第9号証、甲第15号証?甲第23号証に示される本件考案に係る出願の出願前に日本国内において公然実施をされた考案である。
無効理由3;
本件考案は、甲第1号証?甲第9号証、甲第15号証?甲第23号証に示される本件考案に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた考案、公然実施をされた考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。」
と主張し、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第30号証を提出するとともに、証人 崎迫均、証人 田代光市、証人 市川清の証人尋問を申請している。

甲第1号証;昭和61年5月7日付新潟凸版印刷株式会社宛の、「銅剥離回収装置の仕様書」
甲第2号証;昭和61年5月13日付新潟凸版印刷株式会社宛の、「61.5.15東洋技研工業(株)」の出図印のある「銅剥離回収装置の仕様書」
甲第3号証;「設計61.3.3崎迫」の印及び「61.5.1(株)荏原電 産」の出図印のある「サイクロエッチシステムフロー図」の図面
甲第4号証;「61.4. 崎迫」の印のある「制御装置図」
甲第5号証?甲第30号証;(省略)

[2]被請求人の主張および証拠方法
口頭審理における被請求人の陳述(平成12年6月29日の「第1回口頭審理及び証拠調べ調書」参照)によれば、被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。」というにある。
そして、被請求人は、請求人の主張する理由及び提示された証拠方法(書証及び人証)によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできないことを主張し、証拠方法として次の乙第1号証?乙第18号証を提出している。

乙第1号証;東洋技研工業株式会社を甲、株式会社荏原電産を乙とする甲乙両当事者間の「契約書」
乙第2号証;担当者欄に福永印のある「61年4月17日付営業報告書」
乙第3号証;61年4月21日付「決裁書」
乙第4号証;61.5.7幅田印のある書面
乙第5号証;61年4月30日付「決裁書」
乙第6号証;(株)山梨アビオニクスのメッキラインの一部を示す写真
乙第7号証;(株)山梨アビオニクスの回収装置を示す写真(カラーコピーにて代用)
乙第8号証;新潟凸版印刷株式会社総務部と記された「構内立入り工事業者遵守事項」
乙第9号証の1;「業者作業管理規定」
乙第9号証の2;「当社担当者管理規定」
乙第9号証の3;「緊急工事対応管理規定」
乙第9号証の4;「構内工事・作業等の関係業者に対する警備業務規定」
乙第9号証の5;凸版印刷株式会社エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された「就業指示書」
乙第9号証の6;凸版印刷株式会社エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された「火気使用作業の注意」
乙第9号証の7;凸版印刷株式会社エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された「クリーンルーム内作業の注意」
乙第9号証の8;凸版印刷株式会社エレクトロニクス事業本部新潟第二工長畑島光久宛の「誓約書」
乙第9号証の9;凸版印刷株式会社エレクトロニクス事業本部新潟第一工場長宮島恵二宛の「誓約書」
乙第9号証の10;凸版印刷(株)エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された「工事通知書」
乙第9号証の11;凸版印刷(株)エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された警備・総務宛の「交通規制届願」
乙第9号証の12;凸版印刷(株)エレクトロニクス事業本部新潟工場と記された警備・総務宛の「敷地占有許可申請書」
乙第10号証の1;1999年12月15日付三和レヂン工業株式会社名の株式会社荏原電産宛の「誓約証明書」
乙第10号証の2;1999年12月15日付有限会社海宝電工名の株式会社荏原電産宛の「誓約証明書」
乙第10号証の3;1999年12月15日付有限会社K・R名の株式会社荏原電産宛の「誓約証明書」
乙第11号証;平成12年2月14日付のアイカ電子株式会社技術部作成の「審尋書に対するご回答」
乙第12号証の1;1999年12月7日付株式会社荏原電産プリント回路薬品事業部企画調査部崎迫均作成の「硫酸銅回収装置(無効審判物件)の現地搬送据付状況説明」
乙第12号証の2;「中間タンク外形図」と記載された図面
乙第13号証;「新潟凸版印刷(株)正門」として示された写真のカラーコピー乙第14号証;2000年6月25日付(株)荏原電産 精密・電子事業部 崎迫均作成の「新潟凸版から硫酸銅回収システムを受注する為のアルメックスとの秘密保持契約締結経過について」
乙第15号証;平成11年12月9日付の「提出した配管図面に示す装置の構成の対比表」
乙第16号証;2000年7月27日付株式会社荏原電産 機械事業部業務部
福永哲夫作成の「陳述書」
乙第17号証;証人 崎迫均及び証人 市川清の証言記録
乙第18号証;弁護士 鈴木健二作成の「照会申出書」

[3]当事者の提出した書証の記載事項等
1.甲第2号証;
請求人の提出した甲第2号証は、その表紙に、東洋技研工業(株)61.5.15出図との印が押され、昭和61年5月13日東洋技研工業株式会社及び仕様書No.S-3807との表示がされた、新潟凸版印刷株式会社へ宛てた銅剥離回収装置についての仕様書(以下、「甲第2号証仕様書」という。)であり、該甲第2号証仕様書には、「『治具の銅剥離』として「硫酸+過酸化水素タイプの化学剥離液」を使用しています。本装置は、剥離液を回収可能な液に交換し、剥離液より装置稼働中に連続的に銅を回収し、剥離液を再使用する為の装置であります。それにより、「剥離液コストの低減」を目的としています。」(No.1の「1目的」参照)、「1.回収装置関係 1)銅剥離槽・・・5)回収槽・・・冷却-冷水使用・・・6)中間槽・・・加熱-蒸気使用・・・攪拌機・・・10)配管(中間槽→剥離槽)・・・全て、配管ヒーティング(電気使用)を行ないます・・・2.補給装置関係 1)硫酸補給関係 ・・・硫酸原液槽・・・89w%H_(2)SO_(4)(精製)」(No.5?No.10の「4-1 槽及び附帯機器」参照)と記載されるとともに、また、その図面「銅剥離回収装置(一次銅、二次銅半田ライン)配管フローシート」(図番S-3807-F-01、日付S61.5.8)には、一次銅ライン銅剥離槽、一次銅ライン回収槽、一次銅ライン中間槽間に循環経路を形成するように配管した状態が図示されている。

2.甲第1号証、甲第3号証?甲第30号証;(省略)

3.乙第1号証;
被請求人の提出した乙第1号証は、請求人(当時の東洋技研工業株式会社)を甲とし、被請求人を乙とする甲乙両当事者間で締結された契約書(以下、「乙第1号証契約書」という。)であり、該乙第1号証契約書には、その第1条(注文)に「(1)注文品 銅剥離回収装置 (2)仕様 別紙装置製作仕様による。 (3)数量 1式」、その第2条(納入場所・納期)に「(1)納入場所 新潟県新発田市大字五十公野字山崎5270 新潟凸版印刷株式会社 (2)納期 昭和63年3月31日」、その第13条(秘密の保持)に「1.注文品にあたり甲と乙間の技術資料・図面・その他の技術情報は、秘密の保持に最大の注意を払いこれを第三者に洩らしてはならない。又注文品製作以外の目的に使用したりこれらを第三者に使用させてはならない。2.注文品の甲乙間での契約内容は、新潟凸版印刷株式会社殿及び第三者に一切洩らしてはならない。」と記載され、甲乙代表者による署名と甲の所長印、乙の社長印が押印されている。

4.乙第2号証?乙第18号証;(省略)

[4]証拠調べにおける証人の供述
平成12年6月29日に行なった証拠調べにおける証人 崎迫均及び証人 市川清の供述の要点は次のとおりである。

1.証人 崎迫均の証言
1-1.(乙第1号証を示し、「この契約書の締結はいつか」との請求人の問に)「昭和61年5月ぐらいだった。」
1-2.(「甲第1?4号証の仕様書と図面を請求人に渡した時期は」との被請求人の問に)「昭和61年の、たしか5月頃。」
1-3.(「甲第1?4号証を請求人に渡したとき、秘密保持契約を結んだか」との被請求人の問に)「はい、結んでおります。」
1-4.(「秘密保持についての話し合いはどのように行なわれたか」との被請求人の問に)「私達(営業の福永、技術担当の崎迫)が、当時の東洋技研工業の鹿沼工場へ出向き、樋口取締役、島倉課長、技術の市川さん、営業の田代さん4名出席の場で、秘密保持をしてほしいという話をし、よろしいです、という返事を得た。」
1-5.(「甲第1?4号証の仕様書と図面を請求人に渡した時期は、秘密保持契約の前か、後か」との被請求人の問に)「(秘密保持契約の)後に渡しているはずです。」

2.証人 市川清の証言
2-1.(甲第2号証を示し、「凸版印刷に渡した時期、相手、部数は」との請求人の問に)「5月15日の日付ですので、この日か、次の日に、多分5部ほど、4部か5部、メーンの担当3名、管理職2名ほどに渡している。」
2-2.(甲第2号証を示し、「この仕様書を提出して、具体的に凸版印刷と契約が成立したのはいつか」との請求人の問に)「約1年ちょっとですから、62年の冬近かった。」
2-3.(乙第1号証を示し、「乙第1号証の契約書の存在を知っていたか」との請求人の問に)「いえ、知りませんでした。」
2-4.(「昭和60年に請求人が新潟凸版へメッキラインを納品したときに秘密保持契約があったか」との被請求人の問に)「いえ、そういうものは結んではおりません。」
2-5.(「昭和61年の3月、4月頃、樋口取締役、営業の田代、システムの市川同席の場で、崎迫が銅回収装置の秘密保持について話し合いをしたか」との被請求人の問に)「記憶にない。」

IV.当審の判断
[1]無効理由1について
まず、無効理由1の当否について検討する。
1.甲第2号証
当事者間でその成立に争いのない甲第2号証仕様書には、前記「III.[3]1.甲第2号証」で記載したとおり、回収槽で硫酸を含有する剥離液から冷却により銅を回収し、回収槽と銅剥離槽間を循環経路にて連結させて銅回収後の剥離液を再使用する装置において、循環経路中の回収装置から銅剥離槽への返送経路中に回収装置の近傍に設置され加熱手段及び撹拌手段を備えた中間槽を介在せしめ、中間槽から銅剥離槽に至る部分の返送経路に配管ヒーティングを行なった銅剥離回収装置(以下、「甲第2号証考案」という。)が記載されていることが認められる。

2.本件考案との対比
甲第2号証考案の「剥離液」、「硫酸を含有する剥離液から冷却により銅を回収し」、「回収槽」、「銅剥離槽」、「配管ヒーティングを行なった」及び「銅剥離回収装置」は、それぞれ、本件考案の「エッチング液」、「エッチング液に溶解した銅を冷却晶析法により硫酸銅結晶として回収し」、「硫酸銅回収装置」、「エッチング槽」、「保温手段を付設した」及び「エッチング液移送循環装置」に相当するといえる。
そこで、本件考案と、甲第2号証考案とを対比すると、両者には何らの相違も認められないから、本件考案は、甲第2号証考案と同一と認められる。

3.甲第2号証考案の公知性について
3-1.請求人の主張
請求人は、「甲第2号証仕様書は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に、請求人から新潟凸版印刷株式会社(以下、「N社」という。)へ提出されたものであり、しかも、甲第2号証仕様書の受け渡しに際し、請求人とN社との間には何らの秘密保持義務も課せられていなかったのであるから、甲第2号証考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた考案である。
よって、本件考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた甲第2号証考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当する。」旨主張する。

3-2.被請求人の主張
一方、被請求人は、乙第1?18号証を提出するとともに、「甲第2号証仕様書がN社へ提出されたことによっては、甲第2号証考案が、公然知られた考案であるとはいえない」旨主張している。
そして、被請求人の主張の要点は、概略、次の(1)?(7)のとおりである。

(1)甲第2号証仕様書は、いずれも実用新案法第3条第1項第1号に規定される公然性(即ち、秘密の域を脱した状態に置かれた公開的文書である点)の要件を欠いている。即ち、甲第2号証仕様書に、請求人主張の通りの「関係者」(被請求人とN社の担当者)が関与していたとしても、これらの関係者はいずれも秘密保持義務を有しない不特定多数の者に当たらない。
加えて関係者中、被請求人は秘密保持義務を有する者に当たり(乙第1号証・・・契約書 第13条)、当然のこととしてこの秘密保持義務をN社に対しても遵守させる義務があるばかりか、N社自身が自社の企業秘密(甲第2号証仕様書)を自社以外の不特定多数の者に公然と了知乃至公開させることは社会通念上、あり得ないことである。【平成11年1月12日付審判事件答弁書第3頁「(2)主張の要旨」参照】

(2)請求人がN社に提出した甲第2号証仕様書を第三者が閲覧したり、知り得る状態にはなく、同様にN社の社員が機密義務を有せずして機密義務を有しない第三者に開示する状況にはなく、N社の社員が機密義務を有しないとの主張は事実並びに証拠に照らし失当である。【平成12年6月28日付審判事件答弁書(第3回)第2?5頁「5 答弁の理由(1)?(4)及び6 結論」、及び、平成12年7月31日付上申書第13頁「5 上申の内容(5)」参照】

(3)配線基板製造会社は、競合会社への自社技術の漏洩防止のため、社内における厳密な機密管理を行なっている。このことは、現在稼働中のメッキラインを設備している件外アイカ電子株式会社が、合議体からの文書提出命令に対し、自社の機密管理上文書の提出に応じられない旨の回答書を乙第11号証として提出しているとおりである。
同様に、これら配線基板製造会社は、請求人等を含めたメッキライン元請会社に対し、乙第8号証の如き文書を渡し、下請業者(構内立入り業者)への守秘義務を課しており、当然のこととして元請である請求人に対しても、メッキラインの受注契約に際し秘密保持の義務を課している。
つまり、被請求人は、請求人の下請業者として、請求人を通じ乙第8号証の文書の手交を受け、機密管理の指示を受けたものである。【平成12年6月28日付審判事件答弁書(第3回)第2頁「(1)乙第8号証と乙第11号証について」参照】

(4)乙第9号証の1乃至12に示されるように、凸版印刷株式会社或いは同社のエレクトロニクス事業本部新潟工場では、機密保持を含む社内及び社外管理のために、業者作業管理規定等の各種規定、就業指示書、誓約書等を制定している。
特に、乙第9号証の5の就業指示書の「4.守秘義務について」の項には、「1)指定された場所以外に立ち入ってはならない。2)社外において当社の業務内容、規模、人員等について一切他言してはならない。」と厳しく規定され、また、乙第9号証の1の業者作業管理規定の「V.守秘義務」の項には、「1.指定された場所以外に立ち入ってはならない。2.社外において当社の業務内容、規模、人員等について一切他言しないこと。」と社員以外の外部立入り業者に対する守秘義務を課している。乙第9号証の8及び9は、凸版印刷株式会社のエレクトロニクス事業本部新潟工場自身が制定した、工場内に立入りする者の凸版印刷株式会社に対する「誓約書」の書式であり、請求人は勿論、被請求人、並びに各工事業者がこの誓約当事者に相当する。この誓約書の1には、「貴社から開示を受けた情報、製造装置の保全で知り得た技術上、業務上、その他全ての情報ならびに社内で見聞して得た全ての情報を、第三者に開示または漏洩しないこと。」と、厳しく規定されている。
請求人、被請求人、並びに各下請工事業者に対しては、書式において多少の相違はあれ、このような宣誓書にあるとおりの守秘義務が課せられ、工場内作業を行う管理が行なわれているのである。【平成12年6月28日付審判事件答弁書(第3回)第3?4頁「(2)乙第9号証について (3)乙第9号証の8及び9について」参照】

(5)配線基板製造会社(凸版印刷株式会社等)は元請会社とその下請会社に対し、同設備に関する情報の秘密保持を課しており、被請求人はこれを遵守すべく下請業者にも周知徹底しており、被請求人は、、硫酸銅回収装置の据付配管業者、配線工事業者、保温工事業者に対して、硫酸銅回収装置に関する秘密保持義務を口頭で課しており、乙第10号証の1乃至3はこれらの業者が口頭の指示により守秘義務を課せられていることを宣誓していることを証する書面である。【平成12年6月28日付審判事件答弁書(第3回)第4?5頁「(4)乙第10号証の1乃至3について」参照】

(6)乙第2号証乃至乙第5号証に示されるとおり、被請求人は請求人からの要請のあった回収装置の提供に当たり、そのノウハウの秘密保持には万全の注意を払い、爾後の仕様書、図面の作成に当たったものである。又当然のこととして、請求人が甲第2号証仕様書をN社に提出したとしても、請求人の同社への納品を前提とした秘密保持規定である以上、同社に対してもこの義務を負い、秘密保持せしめる義務を負うものである。【平成12年7月31日付上申書第7頁下から2行?第8頁下から6行参照】

(7)乙第18号証により、N社に納入した硫酸銅回収装置付メッキライン並びにこれに関連する図面、文書等がN社において秘密保持されていたこと、更にはN社と請求人との間で秘密保持契約がされていたことを立証する。

3-3.甲第2号証考案の公知性についての判断
被請求人の主張の要点(1)?(7)について以下検討する。
(1)について;
被請求人の提出した乙第1号証契約書には、請求人・被請求人の代表者の署名、捺印がされているものの、契約の日付が記入されていないため、この契約書が何時締結されたものであるか契約書自体からでは不明であるところ、乙第14号証及び証人 崎迫均の証言によれば、「この契約書は、請求人側4名(樋口取締役、技術島倉課長、市川技術担当、営業田代)、被請求人2名(営業福永主任、技術担当崎迫)同席のもと、被請求人からの秘密保持の申し出に応える形で昭和61年4、5月頃に締結されたものである。」とされ、その一方、証人 市川清の証言によれば、「乙第1号証契約書の存在自体を知らなかった。」、「(証人 市川清)同席の場で、乙第1号証契約書の締結に関連する秘密保持についての話し合いがされたことはない。」とされているから、昭和61年3月、4月、5月頃における乙第1号証契約書の存在、締結時期に関して、両証人の証言内容は一致していない。
したがって、乙第14号証の記載、証人 崎迫均、証人 市川清の証言からでは、乙第1号証契約書が何時の時点で締結されたものであるかを正確に特定することはできないが、乙第1号証契約書の第1条第2条に、銅剥離回収装置の納期が昭和63年3月31日とされていること、また、証人 市川清の証言によれば、「甲第2号証仕様書は、昭和61年5月15、16日頃に、N社のメインの担当者3名、管理職2名に対して、4、5部渡したが、具体的にN社と契約が成立したのはその後約1年少し経過した昭和62年の冬頃であった」とされていることから、乙第1号証契約書の締結時期は、少なくとも昭和63年3月31日より前の時期であることは推測される。ただ、この場合であっても、昭和63年3月31日以前に請求人と被請求人との間で行なわれた銅剥離回収装置等に関連するやり取りは、甲第2号証仕様書の他、例えば、甲第1、3、4号証に示されるように複数あることから、乙第1号証契約書の第1条にいう「(1)注文品 銅剥離回収装置」が、甲第2号証仕様書に示された銅剥離回収装置のことであるとまで断定することはできない。
そうであれば、乙第1号証契約書は、請求人と被請求人との間で取り交わされた契約書であるとしても、その契約の日付が明らかでないばかりか、その結果として、如何なる仕様の銅剥離回収装置に関し締結された契約であるかも明らかでないものと言わざるを得ない。
しかしながら、乙第1号証契約書の第1条にいう「(1)注文品 銅剥離回収装置」が、甲第2号証仕様書に基づいて製作される銅剥離回収装置のことであると仮定した上で、乙第1号証契約書に記載される具体的な契約条項について更に検討するに、乙第1号証契約書には、甲第2号証仕様書をN社に提出するに当たって、請求人、被請求人、N社間における甲第2号証仕様書の取扱い等について、直接的にN社に関連した契約条項(例えば、秘密保持義務の有無等)が特別に設けられているわけではない。即ち、乙第1号証契約書の第13条第2項では、注文品の甲乙間での契約内容について、N社及び第三者に対しての守秘義務を定めているにも拘わらず、同条第1項においては、甲第2号証仕様書の類の請求人・被請求人間の技術資料・図面・情報等については、第三者に漏らしてはならないことを規定するだけであって、納品先であるN社に対して漏らしてはならないと規定しているわけではないばかりか、N社に対して秘密保持義務を課しているわけでもない。
したがって、乙第1号証契約書の契約条項からみても、請求人が甲第2号証仕様書をN社に提供するに際し、甲第2号証仕様書に示された技術内容について、請求人はN社に対して守秘義務を有するとか、あるいは、請求人はN社に対して守秘義務を当然に課すべきであるとされていると認めることはできない。
そうであれば、甲第2号証考案は、請求人が、甲第2号証仕様書をその納品先であるN社の担当者・管理職に渡しN社に提出したことによって、公然知られた考案に該当するに至ったものと言わざるを得ない。
なお、被請求人は、甲第2号証仕様書は公開的文書でない点、甲第2号証仕様書に関与した被請求人の担当者とN社の担当者とは秘密保持義務を有しない不特定多数の者に当たらない点、被請求人は秘密保持義務をN社に対しても遵守させる義務がある点、N社自身が自社の企業秘密である甲第2号証仕様書を自社以外の不特定多数の者に公然と了知乃至公開させることは社会通念上あり得ない点をあげ、甲第2号証考案は公然知られた考案でないとも主張する。
しかしながら、公然知られた考案であるか否かは、守秘義務のない不特定人(多数であることは必ずしも必要としない)が、(例えば、甲第2号証仕様書という文書を介して)その考案を知り得る状態にあったか否かによって判断されるべきものであって、甲第2号証仕様書という文書自体が公開されることを必須の条件とするものではない。
また、甲第2号証仕様書に関与したN社の担当者が秘密保持義務を有しない不特定多数の者に当たらず、被請求人は秘密保持義務をN社に対して遵守させる義務があるとの主張には具体的な根拠が見いだせないばかりか、立証されてもいない。
さらに、N社自身が甲第2号証仕様書を自社以外の不特定人に公然と了知乃至公開させれば、公然知られた考案となることは当然であるが、請求人が、守秘義務のないN社に対して甲第2号証仕様書を提供したという事実があり、一方、甲第2号証仕様書の提供を受けたN社において、甲第2号証考案を機密事項としていたとの事実が認められない以上、甲第2号証仕様書の提供を受けたN社が、その後、自社以外の不特定人にこれを公開したか否かを問わず、甲第2号証考案は公然知られた考案となるのであって、その後不特定人に知らしめたか否かは全く別の問題である。

(2)について;
前記「(1)について;」で述べたとおり、甲第2号証仕様書を第三者が閲覧したり、知り得る状態にあったか、また、N社が機密義務を有しない第三者に開示したかによって、公然知られたか否かを問題としているのではなく、甲第2号証仕様書を守秘義務のないN社に提供したことによって甲第2号証考案は公然知られた考案となったのであるから被請求人の主張は失当である。
なお、N社の社員が機密義務を有する旨の主張も、その具体的な根拠を欠く一方的な主張にすぎず、採用できない。

(3)?(5)について;
配線基板製造会社等においては、乙第8号証?乙第10号証の3に示されるように業者作業管理規定等の各種規定、就業指示書、誓約書等を制定し、構内立入業者・下請会社等に対して秘密保持義務を課し、自社技術情報等の外部への他言禁止を行ない、或いは、乙第11号証に示されるように、外部への自社技術情報の提供を拒否することにより、自社技術・業務等の機密保持を図ることは、確かに一般的に行なわれていることといえる。
ただ、被請求人の提出した前記乙第8?10号証の3は、N社(或いは凸版印刷株式会社)に出入りする構内立入業者・下請会社等(以下、単に「業者等」という。)に対して、N社の機密漏洩防止の観点から、N社側から一方的に守秘義務を課したものであって、N社と業者等が対等の関係で、相互の技術情報等の秘密保持を約したものでないこと、即ち、N社が知り得た業者等の保有する技術情報等についてまで、N社が秘密保持を約したものでないことは明らかである。
したがって、かかる観点からすれば、N社が甲第2号証仕様書の提供を請求人から受けるに当たり、請求人が知り得たN社の技術情報等に関して、N社の側から請求人に対して守秘義務を課すことはあり得るといえるが、請求人の側からみれば、甲第2号証仕様書の提供とは、N社からの受注品の納入に相当する行為であって、甲第2号証仕様書の提供に際し、請求人はその内容である甲第2号証考案についてN社に説明をし、N社からの質問等に対して答える立場の納品者であると言わざるを得ない。
そうであれば、請求人は、前述の業者等と同様な立場であって、請求人からN社に対して特別の取決めを申しでない限り、甲第2号証考案について、N社に対し守秘義務を課すことが当然であるとはいえず、また、甲第2号証仕様書の提供を受けたことにより甲第2号証考案を知ることとなったN社が、請求人に対して、甲第2号証考案についての秘密保持を当然に約したとすることもできない。
そして、甲第2号証仕様書の提供に際し、請求人とN社との間で、秘密保持等に関する特別の取決めがなされたとの事実については、これを認めることはできないばかりか、請求人とN社との通常の商取引において、取引内容の秘密保持について、双方に暗黙の合意・了解があったと認めることもできない。
このことは、被請求人からの尋問に対する証人 市川清の「昭和60年に請求人がN社へメッキラインを納品したときには秘密保持契約を結んでいない」との証言からも窺えるように、被請求人とN社との間では、製品の受注・納入に際し、常に秘密保持契約が結ばれているとは限らないことからも明らかである。
なお、本件無効審判の審理に当たり、合議体が件外アイカ電子株式会社に行なった審尋に対する回答書であるところの乙第11号証によれば、件外アイカ電子株式会社は、被請求人が同社に納入した硫酸銅回収装置(装置型式RE-10)についての図面、説明書等を所持するものの、同社においては、上記装置を含む工程全体を機密事項としており、機密事項の開示による同社の損害の可能性から、資料を提出できない旨回答しているが、この回答内容は、件外アイカ電子株式会社における機密事項は外部に公開できないことを述べたにすぎないから、このことをもって、請求人とN社との間での甲第2号証仕様書の授受に際し、当然に守秘義務が課せられていたと認めることはできない。

(6)について;
乙第2号証?乙第5号証は、いずれも被請求人の社内文書にすぎないから、かかる被請求人の社内文書によって、甲第2号証仕様書をN社へ提出するに際して、N社と請求人、被請求人との間で、秘密保持の取り決めがあったと認めることはできず、さらに、請求人がN社に対して秘密保持せしめる義務を負っていると認めることもできない。

(7)について;
乙第18号証は、「3 紛争の内容・・N社に納入した装置等の技術的な秘密をN社社員又は請求人等が外部に漏らすことが可能であったと主張しているので、その真否を確認するため照会を申請するものである。」とした、請求人からN社に納入した装置に関連する文書・契約・秘密保持・社内規則等を照会事項とする弁護士会照会申出書であって、被請求人は、照会申出書に対する回答があり次第提出するとしているにも拘わらず、未だ回答書は提出されていない。
したがって、前記照会事項にあげられた、請求人とN社との間の納入契約における守秘義務の存在、あるいは、N社における機密保持の存在については、これが事実であると認めるに足る立証がされているとはいえない。
被請求人の主張の要点(1)?(7)については上記のとおりであり、被請求人の提出した証拠方法及び証人 崎迫均、証人 市川清の証言によっては、「甲第2号証考案は、公然知られた考案であるとはいえない」旨の被請求人の主張は採用できない。

4.まとめ
したがって、甲第2号証考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前である昭和61年5月15日、16日頃に、請求人からN社の担当者等へ受け渡しすることによりN社へ提出された甲第2号証仕様書に記載された考案であり、しかも、甲第2号証仕様書の受け渡しに当たり、請求人とN社との間には何らの秘密保持義務も課せられていなかったのであるから、請求人がN社へ甲第2号証仕様書を提出したことによって、甲第2号証考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた考案に至ったものと認められる。
よって、本件考案は、本件実用新案登録に係る出願の出願前に日本国内において公然知られた甲第2号証考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当する。

V.むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由2、無効理由3について検討するまでもなく、本件考案は、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号(平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなお効力を有するとされる改正前の実用新案法第37条第1項第1号に相当する。)の規定に該当し、無効とされるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-02-12 
結審通知日 2002-02-15 
審決日 2002-03-06 
出願番号 実願昭62-100024 
審決分類 U 1 112・ 111- Z (C23F)
最終処分 成立    
前審関与審査官 鳴井 義夫  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 雨宮 弘治
伊藤 明
登録日 1992-09-24 
登録番号 実用新案登録第1930212号(U1930212) 
考案の名称 エツチング液移送循環装置  
代理人 川村 恭子  
代理人 中村 智廣  
代理人 平山 正剛  
代理人 佐々木 功  
代理人 鈴木 健二  
代理人 三原 研自  
代理人 中畑 孝  
代理人 福島 昭宏  
代理人 卜部 忠史  

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