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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B41K
管理番号 1059668
判定請求番号 判定2001-60028  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2002-07-26 
種別 判定 
判定請求日 2001-03-02 
確定日 2002-05-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第2573776号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 イ号物件の説明書(イ号図面を含む)及びイ号図面代用顕微鏡写真に示す「スタンプ台」は、登録第2573776号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 [1]請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号物件の説明書(イ号図面を含む)及びイ号図面代用顕微鏡写真に示すスタンプ台(以下、「イ号物件」という)が、登録実用新案第2573776号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

[2]本件考案
本件登録実用新案は、その明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至請求項3に記載されたとおりのものである。
「【請求項1】インキパッドにおける表面布帛に、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、1.2デニール以上の繊維を副成分とし、かつ、上記主成分たる極細繊維が50%を越え95%以下の範囲で混用して構成された布帛を配したことを特徴とするスタンプ台。
【請求項2】0.9デニール以下の極細繊維が長繊維である請求項1記載のスタンプ台。
【請求項3】1.2デニール以上の繊維が長繊維である請求項1記載のスタンプ台。」
そして、本件登録実用新案の明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載を参酌すれば、本件登録実用新案の請求項1に記載された考案(以下、「本件考案」という)は、以下の構成要件に分説するのが相当である。
A.インキパッドにおける表面布帛に、
B.単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、
C.1.2デニール以上の繊維を副成分とし、
D.かつ、上記主成分たる極細繊維が50%を越え95%以下の範囲で混用して構成された布帛を配した
E.ことを特徴とするスタンプ台。

[3]当事者の主張
1.請求人はイ号を下記(1)のようにa?eの構成要件に分説し、同じく下記(2)の理由により、当該構成要件a?eは、本件登録実用新案の請求項1に記載された考案の構成を充足しない旨を主張している。
(1)イ号物件の構成
a.インキパッドにおける表面布帛に、
b.単繊維繊度が0.351デニールの極細繊維を主成分とし、
c.1.062デニールの繊維を副成分とし、
d.かつ、上記主成分たる極細繊維が重量%で58.44%混用して構成された布帛を配した
e.ことを特徴とするスタンプ台。
(2)充足しないとする理由
本件考案と、イ号物件とは、副成分の繊維が、本件考案では1.2デニール以上であるのに対して、イ号物件は1.062デニールである点で異なっている以外は、全て共通している。
ところで本件案登録実用新案に係る出願から登録までの経緯をみると、本件考案の1.2デニール以上の繊維を副成分とする構成は、本件考案の本質的部分では、ないとは言えないことから、本件考案における副成分繊維の1.2デニール以上とイ号物件の同じく副成分繊維の1.062デニールとを、均等とすることは、無理がある。従ってイ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しないと言うべきであると判定請求人は主張している。
2.これに対して、判定被請求人は、イ号物件は、本件登録実用新案の請求項1に記載された考案の構成を全て充足している旨を以下のように主張している。
「本件判定の対象となる「スタンプ台」は、「単繊維繊度が0.351デニールの極細繊維を主成分とし、1.062デニールの繊維を副成分とし、かつ上記主成分たる極細繊維が重量%で58.44%混用された」布帛を、「原反として」表面布帛に用い、それに「インキを含浸」させてインキパッドとするなどして製造され販売されているものであって、インキを含浸させると「インキの種類」などで各成分のデニールの「数値が変化」するものである。
本件実用新案の技術的範囲の判定においては、インキを含浸させた状態での各成分のデニールの「数値」が問題になるものであることは明白であり、乙第8号証(財団法人日本化学繊維検査協会東京分析センターの平成13年5月24日付試験証明書)によれば、「黒、青、赤のインキを含浸」させた後の各成分の単繊維繊度は、主成分が0.3デニール、副成分が1.2デニールであるとの事実が認められる。仮に乙第8号証を考慮にいれないとしても、表面布帛にインキを含浸させれは、副成分の繊度は大きくなり、請求人のいう「副成分」の全部又は一部が、1.2デニール以上又は少なくともこれに近い値になり、このことを請求人目身も知っているか又は当然予測しえたとの事実は、請求人の主張の全趣旨からも推認できることである。
このような事実からすれば、本件請求の対象が本件考案の技術的範囲に属するものである。たとえ、請求人のいわゆる「副成分」の一部のみが1.2デニール以上であったとしても、本件考案にいう「1.2デニール以上の繊維を副成分」とするとの認定に妨げない(本件考案において副成分の量は限定されていない)。また、請求人も認めるように、布帛をインキに含浸させた場合の繊度の数値が変化し、全体としては特定しえないのであれば、請求の技術的範囲の解釈、又は、均等とすべき範囲の解釈においても、当然このことを考慮にいれるべきあって、本件請求の対象は、本件考案の技術的範囲に属すると解すべきである。」(三菱鉛筆株式会社提出の平成13年12月3日付回答書第4頁13行?第5頁9行)
[4]当審の判断
1.イ号物件について
[争いのない点]
本件判定の対象となるイ号物件のスタンプ台は、インキを含浸していない状態では、そのスタンプ台の表面布帛は、単繊維繊度が0.351デニールの極細繊維を主成分とし、1.062デニールの繊維を副成分とし、かつ上記主成分である極細繊維が、重量%で58.44%混用されたものであるということについては、判定請求人、判定被請求人双方に争いのないところである。
[争点について]
判定請求人は、布地を原反より裁断して未使用の状態で測定するとしているのに対し、判定被請求人は、各繊維のデニールの数値は、インキを含浸させた状態で測定すべきものであり、そうした状態で測定した結果のスタンプ台表面布帛の単繊維繊度は、主成分が0.3デニール、副成分が1.2デニールである(財団法人日本化学繊維検査協会東京分析センターの平成13年5月24日付け試験証明書参照)と主張している。
[イ号物件の認定]
そこで本件登録実用新案の明細書を参酌すると、段落【0012】、【0013】には、
「A.単繊維繊度が0.9デニール以下の極細長繊維と単繊維繊度が1.2デニール以上の長繊維とを交編または交織する。」
「B.Aに挙げた2種の長繊維を混繊、合撚等の手段により得た複合長繊維糸で布帛を構成する。」
と記載されているように、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細長繊維と、単繊維繊度が、1.2デニール以上の長繊維を交編又は交織し、これらの2種の長繊維を混繊、合撚等の手段により得た複合長繊維糸で布帛を構成するのであり、布帛を織る前に、繊維糸にインキを含浸させてから測定したデニール値であるとの記載は見あたらず、またその考え方も示唆されていないことは明らかである。
このことから本件考案のデニール値は、インキを含浸していない状態での測定値であると見るのが自然であり、当該技術分野の技術常識から判断しても判定被請求人の主張は無理があり、採用できない。
してみるとイ号物件のスタンプ台の構成は、インキを含浸していない状態で測定したものであり、以下の通りであると認める。
a.インキパッドにおける表面布帛に、
b.単繊維繊度が0.351デニールの極細繊維を主成分とし、
c.1.062デニールの繊維を副成分とし、
d.かつ、上記主成分たる極細繊維が重量%で58.44%混用して構成された布帛を配した
e.ことを特徴とするスタンプ台。

2.対比・判断
(一)本件考案とイ号物件との対比
本件考案の構成要件とイ号物件とを対比すると、イ号物件は、本件考案の構成要件A、B、D、Eを充足していることは明らかである。しかしながら、本件考案の構成要件Cと、イ号物件の構成要件cとでは、繊維のデニール数値が相違する。
(二)検討
そこで、本件考案の構成要件Cとイ号物件の構成cとの相違点についての検討を行う前に、本件考案の解釈について検討することとする。
(1)出願当初の明細書及び図面の記載事項
イ.実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載事項
「【請求項1】インキパッドにおける表面布帛に、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、0.9デニールを越える繊維を副成分として混用して構成された布帛を配したことを特徴とするスタンプ台。」
ロ.考案の詳細な説明
(ロ-1)「そして、これら繊維が長繊維又は短繊維の形で混用された布帛においては、主成分たる極細繊維が50%を越え95%以下の範囲で占めるのが適当である。」(明細書第4頁段落【0017】)
(ロ-2)「所で、スタンプ台の表面布帛に用いる繊維の単繊維繊度が0.9デニール以下の極細長繊維100%である場合には、布帛内に形成される微小空隙孔による毛管力と保持インキ量の両方の機能が時として過大になる現象が生じることが確認された。」(明細書第7頁段落【0024】)
(ロ-3)「この点から、本考案では、極細繊維のみでなく布帛の毛管力とインキ保持量をやや抑制するために、単繊維繊度が0.9デニールを越える(好ましくは1.2デニール、さらに好ましくは1.5デニール以上)繊維を副成分として混用するものである。」(明細書第7頁段落【0025】)
(ロ-4)「【考案の効果】本考案は以上の通りであり、インキパッドからのインキ転写量を程好く平準化して擦り汚れの懸念なく、印影品質の向上をもたらし、またインキ量が減少してもインキの出が良好なので紙質を問わず印影にカスレなどを生じさせることなく長期間使用でき、しかも上記のようにスタンプ回数も格段に増加させ得る。」(明細書第8?9頁段落【0033】)
(2)拒絶理由通知書、意見書、補正書
本件登録実用新案に係る出願の審査段階において、平成6年12月15日付けで、「本願の請求項1に記載された考案は、特願平3-108690号(特開平4-312881号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、実用新案法第3条の2の規定により実用新案登録を受けることができないとの拒絶理由通知がなされている。
それに対して、平成7年3月8日付けで意見書、手続補正書が提出され、実用新案登録請求の範囲の請求項1を、「インキパッドにおける表面布帛に、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、1.2デニール以上の繊維を副成分として混用して構成された布帛を配したことを特徴とするスタンプ台。」と補正するとともに、意見書において、「引例1の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「単繊維繊度が1.0デニール以下の合成繊維フィラメントを用いた織編物を、盤面布として用いたスタンプ台。」が開示されており、・・・これに対して、本願考案は、・・・本願出願人が出願した先願である「単繊維繊度が0.9デニール以下の極細長繊維で構成された布帛を表面布帛として配したスタンプ台」(実願平4-14540号)の課題(この点で引例1にも同様の課題を内在するものと思量される)を解決することを目的としており、この目的を達成するために、「インキパッドにおける表面布帛に、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、1.2デニール以上の繊維を副成分として混用して構成された布帛を配したスタンプ台」とし、この構成を採用することにより初めて、本願考案の効果である・・・を提供するものであり、これらの点については引例1に何等開示されておりません。」(平成7年3月8日付け意見書第2頁第2?22行)と主張している。
本件登録実用新案に係る出願の審査段階においては、さらに平成8年9月4日付けで、新たな引用例を通知して進歩性を否定するとともに、「請求項において、主成分としての極細繊維と副成分としての繊維の各単繊維繊度の数値が限定されているが、明細書記載の実施例及び参考例のみでは、主成分と副成分の比率が異なるすべての場合において、数値限定の範囲内のすべての部分で、明細書記載の効果を奏するかどうか不明である。」から、実用新案法第5条第4項の規定を満たしていないとの拒絶理由通知がなされている。
それに対して、平成8年11月29日付けで手続補正書が提出され、実用新案登録請求の範囲の請求項1を上記[2]のとおりとしている。
(3)拒絶査定に対する審判請求、補正
本件登録実用新案に係る出願は、平成8年9月4日付けで通知された拒絶理由をもとに、平成9年3月5日付けで拒絶査定がされている。それに対して平成9年5月1日付けで、審判請求がされている。
平成9年5月20日付けの審判請求理由補充書によると、「各請求項において限定された単繊維繊度の数値の範囲内等とした理由及びその数値範囲限定により達成される作用効果等が考案の詳細な説明の欄に理論的・定量的に記載されておりますので、当業者であれば上述の明細書記載の効果を奏することが本願明細書(考案の詳細な説明の欄)から容易に理解できるものであると確信します。」(審判請求理由補充書第3頁末行?第4頁4行)とあり、また、「各請求項において、限定された単繊維繊度の数値の範囲及びその数値限定による作用効果の理論的・定量的説明が考案の詳細な説明の欄に詳述されており、かつ、その範囲内における実施例1つ、並びに、本願考案の範囲外となる参考例2つのデータが記載されているものでありますので、当業者にとって当該考案の実施は本願明細書から容易にできるものであり、」(同第4頁16?21行)と記載しており、「主成分としての極細繊維は0.9デニール以下で、副成分としての繊維は1.2デニール以上である」と限定したことによってのみ目的とする作用効果が得られることを明細書の記載から当業者が容易に理解できるとしている。
そして、同理由補充書と同時に補正書が提出され、考案の詳細な説明において、考案の効果について、「本考案によれば、スタンプ台の表面布帛に用いる繊維の単繊維繊度が0.9デニール以下の極細長繊維100%である場合の課題、すなわち、布帛内に形成される微小空隙孔による毛管力と保持インキ量の両方の機能が時として過大になる現象を解決するため、インキパッドにおける表面布帛に、単繊維繊度が0.9デニール以下の極細繊維を主成分とし、1.2デニール以上の繊維を副成分とし、かつ、上記主成分たる極細繊維が50%を越え95%以下の範囲で混用して構成された布帛を配することにより、毛管力によるインキの吸い上げ量が小さくなり、極細繊維のみの布帛の過大な毛管力を抑えることができることとなる。従って、本考案のスタンプ台では、インキパッドからのインキ転写量を程好く平準化して、擦り汚れの懸念なく、印影品質の向上をもたらし、また、インキ量が減少してもインキの出が良好なので紙質を問わず印影にカスレなどを生じさせることなく長期間使用でき、しかも上記のようにスタンプ回数も格段に増加させ得るという格段に優れた効果を発揮することとなる。」と補正している。
(4)以上の(1)乃至(3)の点を総合的に勘案すると、本件考案に係るスタンプ台は、まさにその請求項1に記載された各構成要件のすべてを有することを必須の要件としており、それら構成のすべてを備えることにより明細書記載の所定の作用、効果を奏するものである。
換言すれば、本件考案は、その請求項1に記載された字句のとおりのすべてのものを備えることを意図しているものであるとするのが相当である。
それ故、イ号物件の構成要件cは本件考案の構成要件Cを充足していないと認められる。
ところで、イ号物件が本件考案の一部構成と異なる部分を有するとしても、その異なる部分が所定の要件を充足するのであれば、均等な構成として解することもありえるが、本件考案の構成要件Cと、イ号物件の構成要件cとの相違点である副成分繊維のデニール数値は上記に示した本件考案の登録までの経緯からも明らかなように、本件考案の本質的部分である。
したがって、均等論を考慮するまでもなく、イ号物件が本件考案の構成と均等なものであるということはできない。
[5]むすび
以上のとおり、イ号物件は本件考案の構成要件を具備していないから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しないものとして、解するのが相当である。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2002-05-16 
出願番号 実願平4-14540 
審決分類 U 1 2・ 1- ZA (B41K)
最終処分 成立    
前審関与審査官 白樫 泰子中村 圭伸  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 渡辺 努
鈴木 秀幹
登録日 1998-03-20 
登録番号 実用新案登録第2573776号(U2573776) 
考案の名称 スタンプ台  
代理人 神田 正義  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 藤本 英介  
代理人 山本 文夫  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 宮尾 明茂  

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