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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A01K 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない A01K |
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管理番号 | 1061343 |
審判番号 | 無効2001-35140 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2002-08-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-03-30 |
確定日 | 2002-04-05 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2519056号実用新案「釣り針」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件実用新案登録第2519056号の考案は、平成3年8月13日に実用新案登録出願され、平成8年9月3日に実用新案権の設定登録が行われた。その後、審判請求人株式会社カツイチにより無効審判の請求がなされ、審判請求書の副本が被請求人に送達され、被請求人は指定期間内である平成13年8月28日付けで訂正請求書を提出している。 2.訂正請求について 2-1.訂正の内容 平成13年8月28日付訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。 (A)実用新案登録請求の範囲、請求項1の「第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a) を有してなる、釣り針」を、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、「第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a) を有しており、この斜面(52a)の角度が45度以下であることを特徴とする釣り針」と訂正する。 (B)明細書中の段落番号0004の「第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有してなることを特徴とするものである。」という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有しており、この斜面52aの角度が45度以下であることを特徴とするものである。」と訂正する。 (C)明細書中の段落番号0011の「尚、斜面52aの角度は自由であるが、ずれを確実に防止するためには、45度以下とすることが望ましい。即ち、45度以上となると、一重に巻回していても、力が加わった際に2重になるという懸念が生ずる。」という記載を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「斜面52aの角度は、ずれを確実に防止するために、45度以下とする。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項(A)は、斜面の角度を「45度以下」と限定するものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、実用新案登録明細書の段落番号0011には「尚、斜面52aの角度は自由であるが、ずれを確実に防止するためには、45度以下とすることが望ましい。即ち、45度以上となると、一重に巻回していても、力が加わった際に2重になるという懸念が生ずる。」と、斜面の角度を45度以下とすることが望ましいと記載されていたのであるから、明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、実質上、実用新案登録請求の範囲を拡張し・変更するものでもない。 上記訂正事項(B)は、上記訂正事項(A)の請求項1の訂正に対応して明細書の考案の詳細な説明における[課題を解決するための手段]の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、上記訂正事項(A)と同様の理由で、明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、この訂正に伴い、実質上、実用新案登録請求の範囲が拡張又は変更されるものではない。 上記訂正事項(C)も、上記訂正事項(A)の請求項1の訂正に対応して明細書の考案の詳細な説明における対応する実施例の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、上記訂正事項(A)と同様の理由で、明細書に記載した事項の範囲内におけるものであり、また、この訂正に伴い、実質上、実用新案登録請求の範囲が拡張又は変更されるるものではない。 2-3.むすび したがって、上記訂正は、平成11年法律第41号附則第14条で改正された平成5年法律第26号による改正前の実用新案法第40条第2項ただし書、並びに同法第40条第5項において準用する同法第39条第2項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.無効審判請求について 3-1.本件考案 上記「2.訂正請求について」で述べたように訂正請求が認められるから、本件実用新案登録第2519056号の請求項1及び2に係る考案は、訂正請求書で訂正された実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件考案1」及び「本件考案2」という。) 【請求項1】(本件考案1) 基端にチモト部(4) を有した釣り針軸軸部(3) を前方側に湾曲させて先端を針先部(1) とした釣り針において、 釣り針軸部(3) が、上記チモト部(4) と、その先端側に形成され巻回糸(a) を巻き付けるための第1巻回用部(51)と、この第1巻回用部の先端側に形成され上記の巻回糸(a) 端を巻き付けるための第2巻回用部(52)とを備え、 すくなともこの第1巻回用部(51)の前面に、出糸(b) を受容する縦溝(10)が、形成され、 第1巻回用部(51)の前後方向幅が、第1巻回用部(51)の左右方向幅及び第2巻回用部(52)の前後方向幅より小さく設定され、 第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a) を有しており、この斜面(52a)の角度が45度以下であることを特徴とする釣り針。 【請求項2】(本件考案2) 請求項1記載の釣り針に巻回糸(a) と出糸(b) とが装着され、この出糸(b) が上記の縦溝(10)に受容されると共に、巻回糸(a) が第1巻回用部(51)と第2巻回用部(52)との双方に一重に連続して巻回されてなることを特徴とする巻回糸と出糸とが装着された釣り針。 3-2.請求人の主張 審判請求人は、無効理由として次のように主張し、証拠方法として、甲第1号証の1(「釣紀行別冊シリーズ(6)EXCITINGマダイ」1989年10月15日ライトハウス出版発行、第18頁、第38頁、第39頁)、甲第1号証の2(甲第1号証の1、第18頁の商品パッケージ部分拡大写真)、甲第1号証の3(甲第1号証の1、第39頁の図拡大写真)、甲第2号証の1(「隔週刊つり情報」平成2年10月1日大陸書房発行、第78頁)、甲第2号証の2(甲第2号証の1,第78頁の商品パッケージ部分拡大写真)、甲第3号証(実公昭64-53号公報)及び甲第4号証(被請求人の商品パンフレット、表紙、第4?8頁、裏表紙)を提出している。 (1)本件実用新案登録の請求項1に係る考案は、実用新案登録出願前に頒布された刊行物(甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証)に記載された考案であるため、平成5年改正前の実用新案法第3条第1項第3号の規定により実用新案登録を受けることができない考案であり、その実用新案登録は同法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 (2)本件実用新案登録の請求項2に係る考案は、実用新案登録出願前に頒布された刊行物(甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証)に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるため、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない考案であり、その実用新案登録は同法第37条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 3-3.甲第1号証乃至甲第3号証の記載事項 [甲第1号証] (ア)甲第1号証の1の第18頁は「キンリュウHライン強さの秘密」と縦に大書きした有限会社藤原辰次商店のグラビア広告であって、中央に釣り針を斜めから写した拡大写真があり、その右側にチモト部付近を正面に近いやや斜めの角度から写した拡大写真が掲載されている。 中央の釣り針の写真には、基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針が示されている。そして、右側のチモト部付近を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には前面に縦溝が形成されていることが示されている。そして、この縦溝が形成されている部分は、前後方向幅が左右方向幅及び釣り針軸部の前後方向幅より小さくなっていると見えなくもない。 (イ)甲第1号証の1の第18頁、左上には「MARUTA KINRYU 船マダイ 12号 11本入」及び「MARUTA KINRYU マダイ 12号 12本入」の商品を写した写真があり、基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針が示されている。そして、この写真を拡大した甲第1号証の2によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部には、軸部に比べて前後方向の幅が僅かに狭い部分が示されている。 (ウ)甲第1号証の1の第38頁には、右下に釣り針のチモト部を写した写真が示されると共に、「KINRYUのHラインシリーズはチモトにたてミゾが入っているので、ハリスがズレないという特徴がある。」との説明が記載されている。そして、釣り針のチモト部を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には、前面に縦溝が形成されていることが示されている。そして、この縦溝が形成されている部分は、前後方向幅が左右方向幅及び釣り針軸部の前後方向幅より小さくなっていると見えなくもない。 (エ)甲第1号証の1の第39頁には、上部に「MURATA KINRYUのマダイ用釣」として「大ダイヒラマサ(金)12?14号」「船マダイ(金)8?12号」「マダイ(金、白)6?16号」「タイ釣(ヒネリ)(金、白)6?16号」を写した写真があり、基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針が示されている。そして、写真を拡大した甲第1号証の3によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部には、軸部に比べて前後方向の幅が僅かに狭い部分が示されている。 [甲第2号証] (オ)甲第2号証の1の第78頁は「大物に挑め!KINRYU Hライン」と横に大書きした有限会社藤原辰次商店のグラビア広告であって、中央に釣り針を斜めから写した拡大写真があり、その右側にチモト部付近を正面に近いやや斜めの角度から写した拡大写真が掲載されている。 中央の釣り針の写真には、基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針が示されている。そして、右側のチモト部付近を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には前面に縦溝が形成されていることが示されている。そして、この縦溝が形成されている部分は、前後方向幅が左右方向幅及び釣り針軸部の前後方向幅より小さくなっていると見えなくもない。 (カ)甲第2号証の1の第78頁、左上には「MARUTA KINRYU 船マダイ 8号 13本入」及び「MARUTA KINRYU グレ 10号 11本入」の商品を写した写真があり、基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針が示されている。そして、この写真を拡大した甲第2号証の2によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部には、軸部に比べて前後方向の幅が僅かに狭い部分が示されている。 [甲第3号証] 甲第3号証には、第1?3図と共に、次の記載がある。 (キ)「基端にチモト部を有したつり針軸部を前方向に湾曲させて先端を針先部としたつり針において、 つり針軸部のつり糸巻付箇所の左右方向の幅を、該つり糸巻付箇所の前後方向の幅、及びつり針軸部における、つり糸巻付箇所に隣接した箇所の左右方向の幅よりも広く設け、この幅広に設けられたつり糸巻付箇所の腹面とチモト部腹面とに縦溝を連続して設けたことを特徴とするつり針。」(実用新案登録請求の範囲) (ク)「第1図は本考案の実施例のつり針の正面図、第2図は側面図、第3図は第1図のIII-III線端面図である。このつり針は、基端にチモト部4を有した軸部3を前方向(第2図視左方向)に湾曲させて先端を針先部1としている。・・・(中略)・・・チモト部4の下には、つり糸巻付箇所5が形成されている。このつり糸巻付箇所5は、腹面6とその反対側の背面7とが切除され、あるいはプレスされることにより、左右方向の幅が、軸部3の他の箇所の直径よりも長く設けられている。また、つり糸巻付箇所5の前後方向の幅は、軸部3の他の箇所の直径よりも短く設けられている。即ち、このつり糸巻付箇所の形状は、横断面円形の軸部3に比して偏平で且つ幅の広いものになっている。・・・(中略)・・・そして、チモト部4の腹面とつり糸巻付箇所5の腹面6とには、それらの中央に縦溝10が連続して形成されている。・・・(中略)・・・」(第2頁右欄第6?34行) (ケ)また、第2図には、軸部3とつり糸巻付箇所5との間に段差が形成されていると共に、つり糸巻付箇所5にのみ巻回糸を巻き付けたつり針の図が記載されている。 なお、甲第4号証は、審判請求書にも「甲第4号証は被請求人の比較的最近(発行日不明)の商品パンフレットであって、第6?7頁に「船マダイ」、「大ダイヒラマサ」、「タイ釣(ヒネリ)」、「マダイ」の商品パッケージの写真と種々号数の釣り針の図が掲載されている。」(審判請求書第6頁第23?25行)と記載されているように、発行日が不明の文献である。 3-4.本件考案1についての判断 審判請求人は、「本件考案1は甲第1号証乃至甲第3号証に記載された考案である」と主張しているので、この点について検討する。 [甲第1号証について] 甲第1号証には、上記「3-3.甲第1号証乃至甲第3号証の記載事項」[甲第1号証](ア)乃至(エ)の事項が記載されており、記載事項(ア)から甲第1号証の1の第18頁の中央の釣り針の写真には、先ず「基端にチモト部を有した釣り針軸部を前方に湾曲させて先端を針先部とした釣り針」が示されている。 また、記載事項(ア)から甲第1号証の1の第18頁の右側のチモト部付近を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には、前面に縦溝が形成されていることが示されている。そして、釣り針は釣り針軸部のチモト部側の端部に巻回糸を巻き付けるものであるから、この「縦溝が形成されている部分」は本件考案1の「第1巻回用部」に相当し、また、「この縦溝が形成されている部分に連続する釣り針軸部」は本件考案1の「第2巻回用部」に相当する。そうすると、「釣り針軸部が、チモト部と、その先端側に形成され巻回糸を巻き付けるための第1巻回用部と、この第1巻回用部の先端側に形成され巻回糸端を巻き付けるための第2巻回用部とを備え、」という構成が記載されていると認められる。 また、記載事項(ア)から甲第1号証の1の第18頁の右側のチモト部付近を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には前面に縦溝が形成されており、この縦溝は出糸を受容する溝と解される。そうすると、「すくなくとも第1巻回用部の前面に、出糸を受容する縦溝が、形成され、」という構成が記載されていると認められる。 また、記載事項(ア)から甲第1号証の1の第18頁の右側のチモト部付近を写した写真によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部の縦溝が形成されている部分は、前後方向幅が左右方向幅及び釣り針軸部の前後方向幅より小さくなっていると見えなくもないから、「第1巻回用部の前後方向幅が、第1巻回用部の左右方向幅及び第2巻回用部の前後方向幅より小さく設定され、」という構成が記載されているということもできる。 しかし、甲第1号証の1の第18頁の中央及び右側の写真は、釣り針を斜め前方から写した写真であるから、縦溝が形成されている部分の後面がどのような構成になっているかは明らかでなく、即ち、縦溝が形成されている部分の後面と軸部の後面とを連続する斜面が形成されていることや、まして、斜面の角度が45度以下であることは記載されていない。 甲第1号証の記載事項(イ)からは、甲第1号証の1の第18頁左上の写真を拡大した甲第1号証の2によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部には、軸部に比べて前後方向の幅が僅かに狭い部分が示されている。しかし、甲第1号証の2はあくまで拡大写真であって、拡大したものだけから確認できる事項をもって刊行物に記載された考案とすることはできず、引用刊行物である甲第1号証の1の第18頁左上の写真自体からは、「縦溝」も「第1巻回用部の後面と連続する斜面」も確認することはできない。 甲第1号証の記載事項(ウ)から、甲第1号証の1の第38頁の釣り針のチモト部を写した写真には、釣り針軸部のチモト部側の端部には、前面に縦溝が形成されていることが示されている。そして、この縦溝が形成されている部分は、前後方向幅が左右方向幅及び釣り針軸部の前後方向幅より小さくなっていると見えなくもない。 しかし、この写真も釣り針を斜め上方から写した写真であるから、縦溝が形成されている部分の後面がどのような構成になっているかは明らかでなく、即ち、縦溝が形成されている部分の後面と軸部の後面とを連続する斜面が形成されていることや、まして、斜面の角度が45度以下であることは記載されていない。 甲第1号証の記載事項(エ)からは、甲第1号証の1の第39頁上部の写真を拡大した甲第1号証の3によれば、釣り針軸部のチモト部側の端部には、軸部に比べて前後方向の幅が僅かに狭い部分が示されている。しかし、甲第1号証の3はあくまで拡大写真であって、拡大したものだけから確認できる事項をもって刊行物に記載された考案とすることはできず、引用刊行物である甲第1号証の1の第39頁上部の写真自体からは、「縦溝」も「第1巻回用部の後面と連続する斜面」も確認することはできない。 以上まとめると、甲第1号証の1の第18頁のグラビア広告と、第38?39頁の記事とは一連の記載ではないが、仮に同一会社の同型式の商品を説明するものとして合わせ考慮してみても、甲第1号証には、本件考案1の構成要件である、第2巻回用部の後面が第1巻回用部の後面と連続する斜面を有することや、この斜面の角度が45度以下であることは記載されていない。 [甲第2号証について] 甲第2号証には、上記「3-3.甲第1号証乃至甲第3号証の記載事項、」[甲第2号証](オ)乃至(カ)の事項が記載されているが、記載事項(オ)の甲第2号証の1の中央の釣り針全体の写真及び右側のチモト部付近の写真は、甲第1号証の1の第18頁の中央及び右側の写真とほぼ同じであり、また、記載事項(カ)の甲第2号証の1の左上の写真は甲第1号証の1の第18頁の左上の写真とほぼ同じである。してみると、甲第1号証について述べたと同様の理由で、甲第2号証には、本件考案1の構成要件である、第第2巻回用部の後面が第1巻回用部の後面と連続する斜面を有することや、この斜面の角度が45度以下であることは記載されていない。 [甲第3号証について] 甲第3号証には、上記「3-3.甲第1号証乃至甲第3号証の記載事項、」[甲第3号証](キ)乃至(ケ)の事項が記載されている。 甲第3号証記載の考案と本件考案1とを対比すると、甲第3号証記載の考案の「つり糸巻付箇所5」及び「縦溝10」はそれぞれ本件考案1の「第1巻回用部」及び「縦溝」に相当することが明らかである。しかし、記載事項(ケ)から、第2図においては、つり糸巻付箇所5にのみ巻回糸が巻き付けられており、他に、つり糸巻付箇所5に連続する軸部に糸を巻き付けることを示唆する記載はないから、甲第3号証には「巻回糸端を巻き付けるための第2巻回用部」に相当するものが記載されているとはいえない。 してみると、甲第3号証刊行物には本件考案1の「基端にチモト部を有した釣り針軸軸部を前方側に湾曲させて先端を針先部とした釣り針において、釣り針軸部が、上記チモト部と、その先端側に形成され巻回糸を巻き付けるための第1巻回用部を備え、すくなともこの第1巻回用部の前面に、出糸を受容する縦溝が、形成されてなる釣り針。」が記載されていると認められる。しかし、甲第3号証には本件考案1の構成要件である「第1巻回用部の先端側に形成され巻回糸の端を巻き付けるための第2巻回用部」や「第1巻回用部の前後方向幅が、第2巻回用部の前後方向幅より小さく設定され、」という構成、及び「第2巻回用部の後面が、第1巻回用部の後面と連続する斜面を有しており、この斜面の角度が45度以下である」という構成が記載されているとはいえない。 なお、審判請求人は、甲第3号証には「つり糸巻付箇所5はプレスされることにより設けられる」と記載されており、「つり糸巻付箇所5をプレスにより扁平にする場合、軸部3とつり糸巻付箇所5の背面7との境界を画するような極端な段差は形成されず、むしろ、軸部3から背面7にかけては必然的に直線状あるいは曲線状の斜面となる」とも主張している。(審判請求書第8?10頁) しかし、プレス加工により斜面が形成されるとしても、斜面の角度が45度以下になるとはいえず、この構成が甲第3号証に記載されているということはできない。 [まとめ] 以上のとおりであるから、本件考案1が、甲第1号証刊行物乃至甲第3号証刊行物に記載された何れかの考案であるということはできない。 3-5.本件考案2についての判断 審判請求人は、「本件考案2は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである」と主張しているので、この点について検討する。 本件考案2は、本件考案1の「釣り針」に巻回糸と出糸を装着したものである。しかし、上記「3-4.本件考案1についての判断」に記載したように、甲第1号証乃至甲第3号証の何れにも、本件考案1の構成要件である「第2巻回用部の後面が、第1巻回用部の後面と連続する斜面を有しており、この斜面の角度が45度以下である」という構成は記載されていないから、本件考案1の「釣り針」自体が記載されておらず、また、巻回糸を常に一重に揃えて巻回すために、第2巻回用部の後面が第1巻回用部の後面と連続する斜面を有しており、この斜面の角度を45度以下とするという構成を示唆する記載もない。 さらに、甲第1号証刊行物及び甲第2号証刊行物には、第1巻回用部の後面と連続する斜面あるいは段差自体が記載されているとはいえず、また、甲第3号証刊行物には、上記記載事項(ケ)によれば、つり糸巻付箇所5(第1巻回用部)と軸部3との間に段差が形成されている図が記載されているが、巻回糸はつり糸巻付箇所5のみに巻き付けられている。してみると、甲第1号証刊行物乃至甲第3号証刊行物記載の考案では、本件考案でいう「段差の部分で二重に巻回糸が巻かれてしまい、その結果、二重に巻かれた部分から基端方向に糸がずれてしまい、ひいては、巻回糸全体の緩みが生じてしまう」という課題自体を生じるものではないから、巻回糸を常に一重に揃えて巻回すために、第2巻回用部の後面が第1巻回用部の後面と連続する斜面を有しており、この斜面の角度を45度以下とするという構成を導き出すことはできない。 したがって、甲第1号証乃至甲第3号証記載の考案に基づいて当業者が本件考案2をきわめて容易に考案することができたということはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の請求項1及び2に係る考案の実用新案登録を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【考案の名称】 釣り針 (57)【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】基端にチモト部(4)を有した釣り針軸軸部(3)を前方側に湾曲させて先端を針先部(1)とした釣り針において、釣り針軸部(3)が、上記チモト部(4)と、その先端側に形成され巻回糸(a)を巻き付けるための第1巻回用部(51)と、この第1巻回用部の先端側に形成され上記の巻回糸(a)端を巻き付けるための第2巻回用部(52)とを備え、すくなともこの第1巻回用部(51)の前面に、出糸(b)を受容する縦溝(10)が、形成され、第1巻回用部(51)の前後方向幅が、第1巻回用部(51)の左右方向幅及び第2巻回用部(52)の前後方向幅より小さく設定され、第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a)を有しており、この斜面(52a)の角度が45度以下であることを特徴とする釣り針。 【請求項2】請求項1記載の釣り針に巻回糸(a)と出糸(b)とが装着され、この出糸(b)が上記の縦溝(10)に受容されると共に、巻回糸(a)が第1巻回用部(51)と第2巻回用部(52)との双方に一重に連続して巻回されてなることを特徴とする巻回糸と出糸とが装着された釣り針。 【考案の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は、釣り針に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 一般に釣り針は、基端にチモト部を有した釣り針軸軸部を前方側に湾曲させて先端を針先部としたもので、釣り糸を括り付けて使用される。この釣り糸は、軸部に巻き付ける部分(以下、巻回糸という)と、この巻回糸から出て釣り竿に続くべき部分(以下、出糸という)とからなり、チモト部の基端側の軸部前面に出糸を沿わせて、巻回糸を巻き付けることにより、出糸の固定を行っている。ところが、この出糸は往々にしてずれる場合があり、又、巻回糸が回ってしまいすっぽ抜ける場合がある。そこで、これを解決するために、本願出願人は、実公昭64-53号の考案に関して実用新案登録を取得した。この考案は、チモト部の基端側の軸部前面に出糸を受容する溝を設けると共に、巻回糸を巻回する部分の軸部形状を偏平なものとしたことを要旨とする。これにより、出糸のずれを防止し、且つ、巻回糸が回ってすっぽ抜けてしまうことを防止したものである。 【0003】 【考案が解決しようとする課題】 ところが、この考案に係る釣り針の場合、図6に示すように、巻回糸aを巻回する部分cの軸部形状を偏平なものとしたことにより、これに隣接する部分dとの間に段差eが生じてしまう。そして、巻回糸a端は、往々にして、隣接する部分dまで巻回されることがあり、しかも、この段差eの部分で二重に巻かれてしまう。その結果、二重に巻かれた部分から基端方向(図6中の矢印方向)に糸がずれてしまい、ひいては、巻回糸全体の緩みが生じてしまうおそれがある。 【0004】 【課題を解決するための手段】 そこで本願の第1の考案は、基端にチモト部4を有した釣り針軸軸部3を前方側に湾曲させて先端を針先部1とした釣り針において、次の構成を特徴とするものを提供することにより、上記の課題を解決する。この釣り針においては、釣り針軸部3が、上記チモト部4と、その先端側に形成され巻回糸aを巻き付けるための第1巻回用部51と、この第1巻回用部の先端側に形成され上記の巻回糸a端を巻き付けるための第2巻回用部52とを備えてなり、すくなともこの第1巻回用部51の前面に、出糸bを受容する縦溝10が形成されている。この第1巻回用部51の前後方向幅は、第1巻回用部51の左右方向幅及び第2巻回用部52の前後方向幅より小さく設定されている。そして、第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有しており、この斜面52aの角度が45度以下であることを特徴とするものである。又、本願の第2の考案は、第1の考案の釣り針に巻回糸aと出糸bとが装着され、この出糸bが上記の縦溝10に受容されると共に、巻回糸aが第1巻回用部51と第2巻回用部52との双方に一重に連続して巻回されてなることを特徴とするものを提供することにより、上記の課題を解決する。 【0005】 【作用】 この釣り針においては、出糸bを受容する縦溝10が形成されていると共に、この第1巻回用部51の前後方向幅が、第1巻回用部51の左右方向幅及び第2巻回用部52の前後方向幅より小さく設定されているため、巻回糸が回ってしまうおそれがなく、出糸は常に縦溝10内に位置してずれることがない。しかも、第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有してなるため、巻回糸aが第1巻回用部51と第2巻回用部52との双方に一重に連続して巻回され、これにより、二重に巻かれた部分から基端方向(図6中の矢印方向)に糸がずれてしまうおそれを解消し、緩みのない巻回糸aによる締付を実現し得る。 【0006】 【実施例】 以下、図面に基づき本考案の一実施例を説明する。図1は実施例の釣り針の要部拡大側面図であり、図2は同釣り針の側面図である。この釣り針は、基端にチモト部4を有した軸部3を前方(図1、図2では左方)に湾曲させて腰部2を形成すると共に、その先端に針先1を形成したものである。チモト部4の先端側には、巻回用部5が形成され、この巻回用部5に巻回糸aが巻付けられていると共に、出糸bが巻回用部5に巻回糸aによって固定されている。 【0007】まずチモト部4について説明すると、このチモト部は、実施例の釣り針の要部拡大正面図である図3に示すように、幅広に形成され、又図1に示されているように最も薄く形成されている。 【0008】 次に、巻回用部5は、基端側の第1巻回用部51と、この第1巻回用部の先端側に形成された第2巻回用部52とから構成されている。そして、上記のチモト部4前面から第2巻回用部52の前面にかけて、縦溝10が形成されている。この第1巻回用部51は図4に示すように断面偏平に形成され、第2巻回用部52は図5に示すように略円形か或いはやや偏平に形成されている。従って、第1巻回用部51の前後方向幅は、第1巻回用部51の左右方向幅及び第2巻回用部52の前後方向幅より小さく設定されている。尚、第2巻回用部51の左右方向幅は自由であるが、第2巻回用部52の前後方向幅と略等しいか或いはこれより小さく設定することが好ましい。 【0009】 図1に戻り、この第2巻回用部の後面は、側方からみて、第1巻回用部の後面51aと連続する斜面52aと、その先端側に形成された平行面52bとを有する。この平行面52bは、軸部3のさらに先端側部分と同様に円形の断面を有するものであるが、必ずしも設ける必要はなく、第2巻回用部52を斜面52aのみで形成することも可能である。この斜面52aを設けることにより、第2巻回用部の断面は、第1巻回用部51の偏平な断面形状から円形にまで徐々に変化していく。 【0010】 上記の縦溝10は、第1巻回用部51の前面の部分が最も深く形成され、第2巻回用部52の前面の部分においては徐々に浅くなり消滅している。又チモト部4の前面の部分においては、徐々に浅く且つ徐々に幅広になり消滅している。尚、この縦溝10は、少なくとも第1巻回用部51に形成すれば足りる。 【0011】 次に、この釣り針に釣り糸を装着した状態を説明する。まず、出糸bは、上記の縦溝10に挿入され、上方(釣り竿側)に延ばされている。このとき、縦溝10の深さは、出糸bの径よりも大きくするより、小さくする方が固定が確実となる点で有利である。そして、巻回糸bは、第1巻回用部51と第2巻回用部52とに巻回される。このとき、第2巻回用部52の後面側は、斜面52aを有するため、2重になることなく、全体が綺麗に一重に揃った状態で巻回される。従って、従来のように糸が2重になった部分からずれるというおそれが解消される。斜面52aの角度は、ずれを確実に防止するために、45度以下とする。又、前述のように、この実施例では、縦溝10は、第2巻回用部52の前面の部分においては徐々に浅くなり消滅しているため、縦溝10が消滅する部分で段差を生じない。このように、縦溝10が消滅する部分で段差を形成しないことにより、段差の部分で出糸が擦られ、糸が切れてしまうという懸念が解消されるものである。 【0012】 又、この巻回糸bの巻回回数は適宜変更し得るが、8?12回程度とすることが好ましく、縦溝10は巻回糸bの巻回がなされる長さだけ形成しておくことが好ましい。より具体的には、軸部3の線径に応じて使用する釣り糸の径もほぼ決まるため、釣り糸の径に応じて縦溝10の長さを設定することが可能となる。この線径と縦溝の長さとの望ましい関係の一例を表1に示す。尚表1中、線径と縦溝の長さの単位はmmであり、線番号はその線径を有する線材の呼称である。 【0013】 【表1】 ![]() 【0014】 【考案の効果】 以上、本願の第1の考案は、出糸の位置がずれることを防止すると共に、巻回糸を常に一重に揃えて巻回できる釣り針を提供し、糸ずれにより巻回糸全体の緩みが生じてしまうおそれを解消した釣り針を提供し得たものである。本願の第2の考案は、出糸の位置がずれることを防止すると共に、巻回糸を一重に揃えて巻回し、糸ずれにより巻回糸全体の緩みが生じてしまうおそれを解消した釣り糸付きの釣り針を提供し得たものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本願考案の一実施例の要部拡大側面図である。 【図2】 同全体側面図である。 【図3】 同要部拡大正面図である。 【図4】 図3のIV-IV線端面図である。 【図5】 図3のV-V線端面図である。 【図6】 従来例を示す要部拡大側面図である。 【符号の説明】 1 …針先部 3 …釣り針軸部 4 …チモト部 51 …第1巻回用部 52 …第2巻回用部 52a…斜面 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ア.実用新案登録請求の範囲の請求項1の「【請求項1】基端にチモト部(4)を有した釣り針軸軸部(3)を前方側に湾曲させて先端を針先部(1)とした釣り針において、釣り針軸部(3)が、上記チモト部(4)と、その先端側に形成され巻回糸(a)を巻き付けるための第1巻回用部(51)と、この第1巻回用部の先端側に形成され上記の巻回糸(a)端を巻き付けるための第2巻回用部(52)とを備え、すくなともこの第1巻回用部(51)の前面に、出糸(b)を受容する縦溝(10)が、形成され、第1巻回用部(51)の前後方向幅が、第1巻回用部(51)の左右方向幅及び第2巻回用部(52)の前後方向幅より小さく設定され、第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a)を有してなる、釣り針」を、「【請求項1】基端にチモト部(4)を有した釣り針軸軸部(3)を前方側に湾曲させて先端を針先部(1)とした釣り針において、釣り針軸部(3)が、上記チモト部(4)と、その先端側に形成され巻回糸(a)を巻き付けるための第1巻回用部(51)と、この第1巻回用部の先端側に形成され上記の巻回糸(a)端を巻き付けるための第2巻回用部(52)とを備え、すくなともこの第1巻回用部(51)の前面に、出糸(b)を受容する縦溝(10)が、形成され、第1巻回用部(51)の前後方向幅が、第1巻回用部(51)の左右方向幅及び第2巻回用部(52)の前後方向幅より小さく設定され、第2巻回用部(52)の後面が、第1巻回用部(51)の後面と連続する斜面(52a)を有しており、この斜面(52a)の角度が45度以下であることを特徴とする釣り針」と訂正する。 イ.明細書中の段落番号0004の「第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有してなることを特徴とするものである。」という記載を、「第2巻回用部52の後面が、第1巻回用部51の後面と連続する斜面52aを有しており、この斜面52aの角度が45度以下であることを特徴とするものである。」と訂正する。 ウ.明細書中の段落番号0011の「尚、斜面52aの角度は自由であるが、ずれを確実に防止するためには、45度以下とすることが望ましい。即ち、45度以上となると、一重に巻回していても、力が加わった際に2重になるという懸念が生ずる。」という記載を、「斜面52aの角度は、ずれを確実に防止するために、45度以下とする。」と訂正する。 |
審決日 | 2002-02-22 |
出願番号 | 実願平3-72265 |
審決分類 |
U
1
112・
113-
YA
(A01K)
U 1 112・ 121- YA (A01K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 星野 浩一 |
特許庁審判長 |
石川 昇治 |
特許庁審判官 |
高橋 泰史 藤井 俊二 |
登録日 | 1996-09-03 |
登録番号 | 実用新案登録第2519056号(U2519056) |
考案の名称 | 釣り針 |
代理人 | 鮫島 武信 |
復代理人 | 牛田 利治 |
代理人 | 江原 省吾 |
代理人 | 城村 邦彦 |
代理人 | 鮫島 武信 |
代理人 | 田中 秀佳 |
代理人 | 白石 吉之 |