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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1062942
審判番号 不服2001-3185  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2002-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-02 
確定日 2002-07-24 
事件の表示 平成 3年実用新案登録願第105031号「ケーブルの防湿構造」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 7月13日出願公開、実開平 5- 53056]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 [1]本願発明
本願は、平成3年12月19日の出願であって、その考案の要旨は、平成10年2月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ケーブルコア(1)に対して、螺旋波付き金属シース(2)と外被樹脂シース(3)とが順次積層され、かつ、前記螺旋波付き金属シース(2)と外被樹脂シース(3)との間に混和物からなる防湿材(4)が介在されてなるケーブルの防湿構造において、
前記防湿材(4)は、前記シース(2,3)に対して、その周方向の一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設けられていることを特徴とするケーブルの防湿構造。」
[2]原査定の拒絶の理由の概要
本願請求項1に記載された考案(以下、「本願考案」という)は、特開昭58-1920号公報(以下、「引用例1」という)及び特開平3-182008号公報(以下、「引用例2」という)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案しえたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
[3]引用例
引用例1には、金属被ケーブル及びその防食処理方法について記載されており、
(1-1)「(1)波付き金属シース外表面における山頂部分を除いた部分に防食コンパウンドを付着せしめて防食コンパウンド層を形成し、上記山頂部分及び防食コンパウンド層の上面に実質上一定厚さの防食層を形成した金属被ケーブルにおいて、上記防食コンパウンド層に粒状の混和物を混合した…金属被ケーブル。
(2)上記粒状の混和物を、防食層と同一材質の物質を粉砕して形成した…金属被ケーブル。
(3)上記混和物として、塩化ビニール(PVC)、ポリエチレン(PE)を用いた…金属被ケーブル。」(特許請求の範囲)、
(1-2)「この発明は電力ケーブル、通信ケーブル等における金属被ケーブル及びその防食処理方法に関するものである。電気ケーブル、通信ケーブル等の外表面保護のために被覆される波付き金属シースに防食処理を施すことは従来から行なわれている。この発明は上記の防食処理のために施こされる防食処理層を安価に形成することを目的としている。」(第1頁右欄3?6行)、
(1-3)「上記各例における防食コンパウンド層3は、金属シース2と防食層4とのなじみをよくし、ケーブル端末から防食層4と金属シース2間に水が浸透しないようにするため、また防食層4が万一軽い損傷を受けてもその部分から水が広範囲に金属シース2上に浸透しないようにするため、更にケーブルの曲げに対して防食層4が滑らかに動くようにするため、などの目的で設けられるものであり、通常アスファルト系コンパウンドを使用する。また防食層4は塩化ビニル(PVC) ポリエチレン(PE)等が使用される。」(第2頁左上欄18行?第2頁右上欄8行)、
(1-4)「この発明に係るケーブルの構造は、第3図に示すように、ケーブルコア1のまわりに波付き金属シース2を設け、その谷部に防食コンパウンド層3を埋め、その上面を山部の高さと一致せしめて…平坦に形成し、更にその上面に一定厚さの防食層4を形成したものである。」(第2頁左下欄12?17行)
(1-5)「3段階の付着としごきを繰返すことによって、金属シース2に接する面、防食層4に接する面にそれぞれ薄い防食コンパウンド層3を形成することができる。この場合は、金属シース2及び防食層4に接する面が、混和物5の混入しない防食コンパウンド6のみから成る層と接するので、防水・防食性及び防食層4と金属層2のなじみ性も良好である。」(第3頁右下欄16行?第4頁左上欄3行)、
(1-6)「この発明に係る金属被ケーブルは、防食コンパウンドを波付き金属シースの山頂部を除いた部分、即ち実質的に谷部全体に付着せしめることにより、防食コンパウンド層を形成したものであるから、その上面に形成される防食層は…一定厚さとなるので、凹凸状に付着せしめる場合に比べて防食層の材料が少なくてよい。また、上記の防食コンパウンド層に粒状の混和物を混合したことにより、防食コンパウンドの使用量も少なくてよく、・・・材料費を一層低減することができる。」(第4頁左上欄7?18行)という記載があり、
引用例2には、走水防止型波付金属シースケーブルについて記載されており、
(2-1)「1.ケーブルコア上にクッション層を介してらせん状波付金属シースを設けたケーブルにおいて、クッション層と金属シース間に吸水膨潤性物質を含んだ紐状体或いはテープ状体を1本或いは複数本、金属シースの谷部と交差するように配置してなる…走水防止型波付金属シースケーブル。」(特許請求の範囲)、
(2-2)「【発明が解決しようとする課題】 ところが、らせん状波付シースの場合には、波の山部の空隙部に走水防止機能を持たせることは工業技術的には困難である。
従来から、波付金属シースとしては、アルミ押出管に波付加工したもの或いは銅、アルミ、ステンレススチール溶接管に波付加工したもの等が使われているが、一般に波付加工はらせん状になされており、波の山部がらせん状に長さ方向につながっているところからこの部分に走水防止機能を持たせることが工業技術的に困難である。この欠点を克服するために波付加工をらせん状からいわゆるちょうちん状に変更し、波の山部が長さ方向に連続しない方法が提案されているが、この方法では屈曲特性等の機械特性が大幅に低下するため、我国では余り実用されていない。」(第2頁左上欄4?19行)、
(2-3)「本発明の目的は前記した従来技術の欠点を克服し、らせん状波付金属シースを有するケーブルに長さ方向の走水防止機能を付与せしめるケーブル構造を提供することにある。」(第2頁右上欄14?18行)、
(2-4)「本発明のケーブルを用いると損傷を受けた場合、金属シース下の優れた走水防止機能によってその影響を数m程度に限定せしめることができるため、局部修理が可能となり修理、復旧に要する費用も時間も大幅に節減することができる。」(第3頁右下欄9?14行)という記載がある。
[4]対比・判断
本願考案と引用例1に記載された発明とを対比すると、
引用例1発明の第1?3図に示された金属被ケーブルにおける「防食層」は、金属被ケーブルを保護する外層であるその作用・機能及びその材質{上記(1-3)参照}からみて、本願考案のケーブルにおける「外被樹脂シース」と等価であり、また、引用例1発明の「防食コンパウンド」は、粒状の混和物を混合したアスファルト系コンパウンドというその材質並びに防水・防食性というその作用・機能{上記(1-1)、(1-3)?(1-5)参照}からみて、本願考案のケーブルにおける「混和物からなる防湿材」と実質的に等価であると認める。
そうすると、引用例1には、上記(1-1)?(1-6)の記載を含む全記載から明らかなように、「ケーブルコアのまわりに波付き金属シースを設け、波付き金属シース外表面における山頂部分を除いた部分に防食コンパウンド(=防湿材)を付着せしめて防食コンパウンド層を形成し、上記山頂部分及び防食コンパウンド層の上面に実質上一定厚さの防食層(=外被樹脂シース)を形成した金属被ケーブルにおいて、上記防食コンパウンド層が粒状の混和物を混合したアスファルト系コンパウンド(=混和物からなる防湿材)からなる金属被ケーブル」に係る発明が記載されているから、両者を対比すると、両者は、「ケーブルコアに対して、波付き金属シースと外被樹脂シースとが順次積層され、かつ、前記波付き金属シースと外被樹脂シースとの間に混和物からなる防湿材が介在されてなるケーブルの防湿構造において、前記防湿材は、前記シースに対して、限られた部分に設けられていることを特徴とするケーブルの防湿構造」である点で一致しており、下記の点でのみ相違していると認める。
1)波付き金属シースが、本願考案では、螺旋波付き金属シースであるのに対して、引用例1発明ではそのような記載がない点。
2)防湿材が、本願考案では、シースに対して、その周方向の一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設けられているのに対して、引用例1発明ではそのようになっていない点。
上記相違点1)について検討する。
引用例2の上記(2-2)の記載から明らかなように、従来から、ケーブルにおける波付金属シースとしては、アルミ押出管に波付加工したもの或いは銅、アルミ、ステンレススチール溶接管に波付加工したもの等が使われているが、一般に波付加工はらせん状になされているのが普通であって、いわゆるちょうちん状に変更して、波の山部が長さ方向に連続しないようにしたものは、屈曲特性等の機械特性が大幅に低下するため、我国では余り実用されていない旨の記載がある。
そして、引用例1発明の第1?6図を見ると、金属シースの波付は、一方側の突部(=山部)に当たる部分に対応する反対側の部分は、全て突部(=山部)になっている構造からすると、いわゆるちょうちん状に波付加工されていることになるが、明細書中の全記載からみて、波付き金属シースをちょうちん状に限定して解釈しなければならない理由はどこにも見いだせない以上、ちょうちん状に波付加工されたものが開示されていれば、それより屈曲特性等の機械特性が優れている一般的に汎用されているらせん状に波付加工されたものを想起することは、当業者がきわめて容易になし得たことにすぎないものと認める。
上記相違点2)について検討する。
引用例2の上記(2-1)?(2-4)の記載を含む全記載から明らかなように、引用例2発明は、従来から、波の山部がらせん状に長さ方向に連続していないちょうちん状に波付加工された金属シースに比べて、らせん波付金属シースにあっては、波の山部がらせん状に長さ方向につながっているところから、この部分に走水防止機能を持たせることが工業技術的に困難であった実情に鑑みて、らせん波付金属シースを有するケーブルに長さ方向の走水防止機能を付与する目的で、ケーブルコア上にクッション層を介してらせん状波付金属シースを設けたケーブルにおいて、クッション層と金属シース間に吸水膨潤性物質を含んだ紐状体或いはテープ状体を1本或いは複数本、金属シースの谷部と交差するように配置したものであり、その結果ケーブルが損傷を受けた場合、金属シースの優れた走水防止機能によってその影響を数m程度に限定せしめることができるため、局部修理が可能となり修理、復旧に要する費用も時間も大幅に節減することができるものである。
ここで、吸水膨潤性物質を含んだ紐状体或いはテープ状体を1本或いは複数本、金属シースの谷部と交差するようにした配置の仕方は、換言すると、らせん波付金属シースの周方向の一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設けた配置の仕方と同じであるし、また、吸水膨潤性物質を含んだ紐状体或いはテープ状体は、混和物からなるものではないが、その走水防止機能からみて防湿材であることは明らかである。(請求人は、引用例2発明においては、吸水膨潤性物質を使用しているために、実際に浸水防止の効果が生じるまでに時間がかかるために防水効果が十分に発揮されない旨主張しているが、アスファルト系混和物からなる防湿材は引用例1に示されており、このような防湿材を使用すれば、防水効果が生じるまでの時間が短縮できることも自明である。)
そうすると、引用例2発明においては、防湿材をらせん波付金属シースの周方向の全部に亘って設けなくても、一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設けることにより、ケーブルが損傷を受けた場合、金属シースの優れた走水防止機能によって、局部修理が可能となり修理、復旧に要する費用も時間も大幅に節減することができていることは明らかである。
そして、引用例1発明における波付き金属シースには、上記相違点1)で記載したとおり、ちょうちん状に波付加工されたもののみならず、それより屈曲特性等の機械特性が優れているところから、さらに一般的に汎用されているらせん状に波付加工されたものを想起することは、当業者がきわめて容易になし得たことにすぎないものであることを考慮すると、引用例1発明の波付金属シースを有するケーブルに長さ方向の走水防止機能を付与する目的で、単に防湿材を波付金属シースの周方向の全部に設けることなく、一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設ける程度のことは、当業者がきわめて容易になし得たことにすぎないものと認められる。
しかも、上記構成を採用した本願考案においては、防湿性、防水性を低下させることなく、防湿材の充填量を削減でき、金属シースと外被樹脂シースとの間の防湿材の量が減少することから、接続工事等での端末処理が、防湿材に煩わされることなく容易に短時間で行えるという効果を検討してみても、本願考案における走水防止機構は、外被樹脂シースの内側に水が侵入することがあっても、金属シースの螺旋波の谷部を伝って螺旋状に進行するのであって、螺旋波をほぼ一周するまでには必ず、螺旋波と交差する帯状の防湿材に行き当たり、それ以上の侵入が阻止される作用(【0008】参照)によるものであるところから、このような走水防止機構ないし作用は、引用例2発明においても、防湿材が本願考案と同じ配置構造となっている以上、当然に存在していると認められるし、現に引用例2発明においては、ケーブルが損傷を受けた場合、金属シースの優れた走水防止機能によって、その影響を限定せしめて、局部修理が可能となり修理、復旧に要する費用も時間も大幅に節減することができているところからみて、本願考案において、引用例2発明と比較して予想外の効果が奏されていると認めることは到底できず、さらに、防湿材の充填量を削減できることについても、一部にのみ設置すれば、全部に設置するより充填量を削減できることも、当然に予測しうる程度のことにすぎない。
(なお、請求人は、本願考案では、防湿材は、ケーブルコアと金属シースとの間に介在させるのではなく、金属シースとその上にあるケーブル外被との間に介在させている点をも、重要な構成要件である旨主張している。
しかしながら、引用例1の上記(1-3)の記載からも明らかなように、引用例1発明の波付金属シースを有するケーブルにおいては、金属シースとその上にあるケーブル外被との間に介在させているので、本願考案となんら差異はない。
そして、引用例2におけるらせん波付金属シースを有するケーブルにおいては、防湿材をケーブルコアと金属シースとの間{即ち、らせん波付金属シースの下側(=内側)}に介在させているが、金属シースとその上にあるケーブル外被との間{即ち、らせん波付金属シースの上側(=外側)}に介在させたにしても、防湿材は、らせん波付金属シースと接して配設されていることに変わりはなく、らせん波付金属シースの下側と上側では、交互に無数に連なった山部と谷部が逆になるとしても、山部と谷部がある以上、構造上は実質的な差異はなく、しかも、らせん波付金属シースの周方向の一部にのみ介在するようにその長さ方向に沿って帯状に設けるという配置構造となっている限りにおいて、防湿材の上記した走水防止機構ないしは作用に相違が生じるものではないと認められるので、請求人の上記主張は採用することができない。)
したがって、本願考案は、引用例1?2に記載された発明に基づいて、当業者がきわめて容易に想到し得たものであると認める。
[5]むすび
以上のとおりであるから、本願考案は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-05-13 
結審通知日 2002-05-21 
審決日 2002-06-03 
出願番号 実願平3-105031 
審決分類 U 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 長 由紀子吉水 純子  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 柿澤 惠子
板谷 一弘
考案の名称 ケーブルの防湿構造  

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