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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て不成立) A43B
管理番号 1064509
判定請求番号 判定2001-60128  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2002-10-25 
種別 判定 
判定請求日 2001-11-15 
確定日 2002-08-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第3073233号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 イ号図面及びその説明書に示す「スリッパ」は、実用新案登録第3073233号の請求項1、4及び5に係る登録実用新案の技術的範囲に属する。請求項2、3及び6に係る登録実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 1.本件請求の趣旨
イ号図面及びその説明書に示す「スリッパ」(以下、「イ号物件」という。)は、登録第3073233号実用新案の技術的範囲に属さない、との判定を求める。

2.本件考案
本件登録実用新案は、登録明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件考案1ないし6」という。なお、符号は当審で付与。)。
【請求項1】
(A)底部と辺縁の一部が該底部に縫合わされた甲被部とからなるスリッパにおいて、
(B)前記甲被部がその左右に分割された形状の半体を縫合わせて構成されており、
(C)スリッパを上から見た状態で前記甲被部の履き口の形状が略円弧状または略楕円弧状で
(D)且つその中央部が爪先方向に向かって凹部となっていることを特徴とするスリッパ。
【請求項2】
(E)前記甲被部の各半体は底部と縫合わす辺縁以外の辺縁がテープ状物で縁取りされていることを特徴とする請求項1記載のスリッパ。
【請求項3】
(E’)前記半体は、履き口の辺縁と縫合わせの辺縁とが異なったテープ状物で縁取りされていることを特徴とする請求項2記載のスリッパ。
【請求項4】
(B’)前記甲被部の左右の半体は付合わせ状態で縫合わされていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のスリッパ。
【請求項5】
(F)前記甲被部の半体を縫合わせた箇所が補強部材で補強されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のスリッパ。
【請求項6】
(F’)前記補強部材がスリッパの内側から裏打ちされたものであることを特徴とする請求項5記載のスリッパ。

3.イ号物件
イ号物件は、請求人である株式会社ストロングが製造、販売しているものである。
イ号図面及びその説明書を参照すると、イ号物件は、以下の事項を含むものと認められる。
(a)スリッパは、底部2と、辺縁の一部が該底部2に縫い合わされた甲被部1とからなる。
(b)甲被部1は、薄布製の甲表材51と、軟性を有する樹脂(EVA=エチレンビニールアセテート)板製の甲芯材52と、薄布製の甲裏材53とを貼り合わせた三層構造からなるものであって、甲芯材52と甲裏材53はそれぞれ一枚物で形成され、甲表材51は、左右異なった模様の薄生地51a、51bを使用して付合わせ状態で逢着5し、その逢着部5が中央部に位置するようにして一枚物で形成した甲芯材52に貼り付ける。
(c)甲被部1における履き口の形状は、スリッパを上から見た状態で、略楕円弧状である。
(d)且つその中央部が爪先方向に向かってV字形の凹部となっている(図1(a)参照)。
(e)甲被部1の履き口となる部分の辺縁を包み込むようにバイヤス布54、55を逢着する
(f)甲表材51の中央逢着部5を隠すようにアクセサリー用の短冊布56を配設して両端縁を逢着6する。
なお、イ号物件の特定については両当事者間に争いがあるが、後記する理由により、上記のとおりに認定した。

4.当事者の主張
(請求人の主張)
(1)本件請求の適否について
本件請求書の被請求人名称を、「株式会社ヴィクトリー」と記載したが、「有限会社ヴィクトリー」の誤記である。また、イ号図面の説明書に、「イ号図面は、有限会社ストロングの製造・販売に係る「スリッパ」を示す」と記載したが、「イ号図面は、株式会社ストロングの製造・販売に係る「スリッパ」を示す」の誤記である。(いずれも、平成14年1月23日付けの手続補正書により補正された。)
(2)イ号物件について
イ号物件は、イ号図面及びその説明書に示すとおりの次のものである。
「底部2と、辺縁の一部が該底部に縫い合わされた甲被部1とからなるスリッパにおいて、
前記甲被部は、薄布製の甲表材51と、軟性を有する樹脂(EVA=エチレンビニールアセテート)板製の甲芯材52と、薄布製の甲裏材53とを貼り合わせた三層構造からなるものであって、甲芯材52と甲裏材53はそれぞれ一枚物で形成され、甲表材51は左右異なった模様の薄生地51a、51bを使用して逢着5し、その逢着部5が中央部に位置するようにして一枚物で形成した甲芯材52に貼り付けた構成を有し、
該甲被部1の履き口となる部分には、その辺縁を包み込むようにバイヤス布54、55を逢着すると共に、前記甲表材51の逢着部5を隠すようにアクセサリー用の短冊布56を配設して両端部を逢着6し、且つ、履き口近傍に飾りリボン57を取り付け、
該甲被部1における履き口は、爪先に向かってV字形に形成されているスリッパ。」
(3)イ号物件と本件考案との対比
イ号物件に係る甲被材は、薄布製の甲表材と樹脂板製の甲芯材と薄布製の甲裏材とを貼り合わせた三層構造からなるものであって、甲芯材と甲裏材はそれぞれ一枚物で形成されており、左右に半体として分割されてはいない。 したがって、イ号物件の構成(b)は、本件考案1ないし6の構成要件(B)を充足しない。
(4)本件考案の公知性について
スリッパにおいて、甲被部をその左右に分割された形状の半体を縫合わせて作成すること、履き口を爪先に向かってV字形とすることは、以下の証拠方法によれば本願出願前公知である。してみると、本件考案1ないし6は公知技術を含んでおり、本件考案1ないし6については、公知技術に属するイ号物件を除いて、技術的範囲を限定的に定めるべきである。
[証拠方法]
甲第2号証:実公平8-3282号公報
甲第3号証:請求人代表者平松宏司の陳述書(写)
甲第4号証:平野産業株式会社代表者平野勝英の陳述書(写)
甲第5号証:請求人の「’89春商品リスト」(写)
甲第6号証:請求人の1989年冬物リスト
甲第7号証:平野産業株式会社の昭和62年以前の商品写真アルバム(写)
甲第8号証:平野産業株式会社の平成元年春物商品写真アルバム(写)
甲第9号証:平野産業株式会社の平成2年頃の商品写真(写)
甲第10号証:スター株式会社が昭和60年頃に製造販売していた商品写真(写)
甲第11号証:双葉工業有限会社が平成元年以前に製造販売していた商品写真(写)
甲第12号証:実用新案登録第3011753号登録実用新案公報
(なお、甲第1号証の1は、実用新案登録第3073233号(本件登録実用新案)の実用新案公報であり、甲第1号証の2は、同号の登録原簿である。また、甲第3ないし第11号証は、平成13年(ヨ)第22138号事件に関して東京地方裁判所に提出された書証の各写しである。)
(5)均等論について
本件考案の構成要件(B)に関しては、形状を維持するための剛性を有する芯材も含めて甲被部の全部が中央から裁断されていると解すべきであり、甲芯材及び甲裏材が左右に分割されている点も考案の本質的部分であるところ、イ号物件は、この本質的部分を有さない。また、イ号物件は、甲第3号証ないし甲第11号証のとおり、公知技術と同一又は当業者が公知技術に基づいてきわめて容易に推考できたものである。さらに、明細書中の段落【0002】及び【0003】の記載からすると、一枚物の甲被部は従来技術として認識されているから、イ号物件のような一枚物の甲被部を用いることは、本件考案から意識的に除外されている。
したがって、本件判定に関して、均等論の適用の余地はない。

(被請求人の主張)
(1)請求の適否について
本件に係る登録実用新案の権利者は、「有限会社ヴィクトリー」であるにもかかわらず、本件請求書の被請求人名称が、「株式会社ヴィクトリー」とされている。また、イ号図面の説明書には、「イ号図面は、有限会社ストロングの製造・販売に係る「スリッパ」を示す」と記載されており、請求人である株式会社ストロングの製造・販売に係るイ号物件が特定されていない。してみると、本件請求は違法である。
(2)イ号物件について
本件請求に係るイ号物件は、裁判所で審理された(平成13年(ヨ)第22138号)イ号物件(当該裁判事件における債務者である請求人が製造販売する製品)とは相違している。
また、上記(1)により、イ号物件が特定できないため、被請求人作成のイ号写真によってイ号物件を特定すると、次のものである。
「底部と辺縁の一部が該底部に縫合わされた甲被部とからなるスリッパにおいて、甲被部は甲表材と、甲芯材と、甲裏材とからなり、前記甲表材は左右対称で且つ異なった模様の2枚の生地が縫合わされ、その縫目部が甲被部の中央部に位置するようにして甲芯材に貼り付けられており、スリッパを上から見た状態で甲被部の履き口の形状は、略楕円弧状で且つその中央部が爪先方向に向かって凹部となっているスリッパ。」
(3)イ号物件と本件考案との対比
本件考案1ないし6において、甲被部を「その左右に分割された形状の半体を縫い合わせて構成」することにより、「デザインに種々の変化を持たせることができる」という作用効果が生じる(登録明細書【0029】)が、上記作用効果をもたらすものは、専ら「甲表」である。上記イ号物件において、甲被部のうち甲表材の形態が、デザイン性に優れ、外観を変化させるという作用効果をもたらすうえで重要な意味を持つから、イ号物件においては、甲被部が、その左右に分割された形状の半体を縫合わせた構成を有するといえる。
したがって、イ号物件の構成(b)は、本件考案1ないし6の構成要件(B)、本件考案4ないし6の構成要件(B)、(B’)を充足する。
(4)本件考案の公知性について
本件考案1ないし6において、「スリッパを上からみた状態で甲被部の履き口の形状が略円弧状または略楕円弧状で且つその中央部が爪先方向に向かって凹部となっている」ことにより、「履く人の足によくフィットし、種々の足幅の人にも対応でき、履いて歩くときに、足の返りがよいので使用していても甲被部に筋がついたりせず、いつまでも美しい状態が保たれ、見場が悪くなることがない」という効果が生じる。上記履き口の形状は、全体としてみると、S字形(右側)、逆S字形(左側)を呈し、甲第3?11号証に基づき請求人が主張する、スリッパの技術分野で公知の「Vタイプ」ではない。甲第2及び第12号証のものは、左右に分割された形状の半体を縫い合わせて構成したものでもなく、上記履き口の形状を呈するものでもない。したがって、本件考案1ないし6は公知技術を含まない。
(5)均等論について
イ号物件は、均等論を適用するまでもなく、本件考案1ないし6の技術範囲に属する。仮に、均等論を適用するとしても、次の理由により、イ号物件は、本件考案1ないし6の技術範囲に属する。
(イ)イ号物件では、甲芯材及び甲裏材が左右に分割されていないが、本件考案においては、甲被部を左右に分割された形状の半体を縫合わせて構成することにより、甲被部のデザインを変化に富んだものとすることを目的としているから、通常、外から見えない部分である甲芯材及び甲裏材が左右に分割されているかどうかは、本件考案の本質的部分ではない。
(ロ)また、左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材を使用しても、甲被部のデザインを変化に富んだものとするという目的は達成し得るし、同一の作用効果を奏する。
(ハ)スリッパの分野において、甲被部を、甲表材、甲芯材及び甲裏材の三層構造とすることが一般的であり、しかも、甲芯材及び甲裏材は、従来、左右に分割されていなかったから、左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材を使用することは、イ号物件の製造時に於いて当業者が容易に想到し得ることである。
(ニ)イ号物件は、本件考案の出願時において、公知技術と同一であるとも、当業者が該公知技術に基いて容易に推考することができたものともいえない。
(ホ)本件考案の出願手続において、左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材を使用した構成が実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されているわけではない。

5.当審の判断
(1)請求の適否について
平成14年1月23日付けの手続補正書により、被請求人の名称は、登録原簿どおり「有限会社ヴィクトリー」と、イ号図面の説明書中、製造・販売者名は、請求人である「株式会社ストロング」と、それぞれ、補正された。
また、上記補正は、判定請求書に表記された被請求人の住所、名称のうち、会社の種類についての表記のみを補正するものであるところ、判定請求書に記載された登録番号に基づいて登録原簿を調査したところ、権利者は、千葉県松戸市新作518-7を住所とする「有限会社ヴィクトリー」であり、判定請求書の会社の種類の表記は誤記であることが明らかであるから、本件判定請求書の被請求人の表記が正しくないからといって、本件請求が特許法第135条の規定でいう「補正をすることができないもの」に該当するとはいえない。(なお、審判便覧22-02「当事者に関連する事例」1.(3)を参照されたい。)
また、判定請求書の請求の理由中には、イ号物件は請求人が製造販売するものである旨記載されているのであるから、イ号図面の説明書中、製造・販売者名に「有限会社ストロング」とあるのは、「株式会社ストロング」の誤記であることは明らかであり、イ号図面の説明書中、製造・販売者名に誤りがあるからといって、本件請求が、特許法第135条の規定でいう「補正をすることができないもの」に該当するとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

(2)イ号物件について
上記(1)に示したように、判定請求書の記載の不備は、上記補正により解消されているから、イ号物件は、請求人が提出したイ号図面及びその説明書により特定すべきである。そして、イ号図面の【図1】(a)について、請求人は、スリッパの履き口が爪先に向かってV字形とされた、と説明しているが、同図をみると、「甲被部1における履き口の形状は、スリッパを上から見た状態で、略楕円弧状で且つその中央部が爪先方向に向かってV字形の凹部となっている」と認められるため、上記3.のとおり、イ号物件を特定した。
なお、被請求人は、本件請求に係るイ号物件は、裁判所において審理されたイ号物件とは異なると主張しているが、本件請求は、請求人により提出されたイ号図面及びその説明書に示す「スリッパ」が本件登録実用新案の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものであり、イ号物件は、請求人が提出したイ号図面及びその説明書に基いて特定すべきであるので、上記被請求人の主張は妥当でない。

(3)イ号物件と本件考案との対比
(i)本件考案1、4との対比
(イ)争いのない点
イ号物件(構成(a))が本件考案1、4の構成要件(A)を充足することについては、両当事者間に争いはない。また、履き口の形状について、請求人は、イ号物件が「爪先に向かってV字形とされた」ものと認識し、このV字形の履き口形状が公知のものである旨主張しているものの、本件考案1、4とイ号物件との履き口の形状の異同については争っていない。そして、イ号物件は、上記3.で認定したとおり、「スリッパを上から見た状態で、略楕円弧状で且つその中央部が爪先方向に向かってV字形の凹部となっている」構成(c)、(d)を有しており、イ号物件は、本件考案1、4の構成要件(C)、(D)を充足している。
(ロ) 争点(構成要件(B)、(B’)の充足性)について
本件考案1、4は、甲被部を「その左右に分割された形状の半体を縫い合わせて構成され」(構成要件(B))、「左右の半体は付合わせ状態で縫合わされ」(構成要件(B’)」るものであるところ、この甲被部に関しては、登録明細書中に、(i)「甲被部1を製作するに当り、甲被部1の左半体11と右半体12を、図4(a)に示すような形状に、裁断する。すなわち、甲被部1は、図4(a)に示すように、左右対称の形状をしており、その対称軸側の辺縁11a、12aは、爪先11b、12bから点11c、12cに連なる略直線状部15aと、略斜めの履き口部15bと、両者15a、15bの間を結ぶカーブ状部15cとからなっている。なお、後述のように、左右の直線状部15aが付合わせ状態で縫合わされる。」(段落【0015】)、(ii)「そして、この裁断状態において左右の甲被部1の半体11、12の辺縁11a、12aの箇所(図4(a)で斜線を施した箇所)の上下および側面をテープ13、14(図1参照)でくるみ、縁取りを行う。この際、テープ13、14は1つのテープで辺縁11a、12aの全てを縁取りしてもよいが、例えば、各辺縁11a、12aの中間でテープ13、14を切替え、別の色合いのものと繋ぎ合わせて、彩りを変えるようにしてもよい。」(段落【0016】)、(iii)「次に、テープ13、14で縁取りした甲被部1の半体11、12を、それぞれの辺縁11a、12aの爪先側11b、12bからカーブに至る手前11c、12cの箇所まで(すなわち、図4(a)の略直線状部15aの部分に亘り)縫合わせる。この際に、テープ13、14を介して辺縁11a、12aを付合わせ状態にしながら縫合わせる。」(段落【0017】)、(iv)「縫合わせた甲被部1の裏側に、補強部材3を縫着する。補強部材3は、図4(b)に示すように、細長い長方形部分3aと、その長方形部分3aの一端に形成され外側に拡開した頭部3bとからなる。補強部材3を、図1(a)(一点鎖線で示した)および図2に示すように頭部3bが爪先側に位置するようにして、縫着する。補強部材3を縫着する部分は、甲被部1の縫合わせた爪先11b,12bから縫止まり箇所11c、12cまでであり、特に、縫止り部11c、12cにおいては、甲被部1の半体11、12の間を左右に複数回往復してしっかりと縫合わせる。」(段落【0018】)、(v)「このようにして出来た甲被部1は、従来の1枚ものの甲被部と同様の製造工程により、スリッパとすることができる。」(段落【0019】)、及び、(vi)「すなわち、甲被部1を、従来のように、吊込機(図示せず)により成形し、腕ミシン(図示せず)を使用して下底21および中底22と縫合わせる。そしてその後、中敷23を貼合わせてスリッパが出来上がる。」(段落【0020】)と記載されているだけであり、甲被部が、甲表材、甲芯材及び甲裏材から成る三層構造のものであることは明示されていない。甲被部を三層構造とすることは本願出願前周知であるから、本件考案1、4に係る甲被部が、この周知の構造を採用しているとしても、上記(iii)、(v)及び(vi)の記載からして、甲被部半体を縫合わせた後、更なる加工を行うことなく、甲被部と下底及び中底とを縫合わせる工程を採用していることが窺えるから、本件考案1、4に係る甲被材は、甲芯材及び甲裏材を含めて左右に分割されていると解するべきである。
したがって、イ号物件は、本件考案1の構成要件(B)、本件考案4の構成要件(B)、(B’)を充足していない(なお、構成要件(B’)のうち、左右の分割体を付合わせ状態で縫合わせる縫合構造については、イ号物件においても採用されている。)。

(ii)本件考案5との対比
(イ)イ号物件においては、甲表材51の中央逢着部5を隠すようにアクセサリー用の短冊布56を配設し、両端縁を逢着している(構成(f))。この短冊布は、デザインを表現するために設けられたものと認められるが、中央逢着部5を覆い隠して、その両端縁を甲被部に逢着していることからすると、中央逢着部の補強効果を有するものであることは明らかである。
(ロ)してみると、イ号物件は、本件考案5の構成要件(F)を充足する。また、イ号物件が、本件考案5の構成要件(A)、(C)及び(D)を充足するが、構成要件(B)、(B’)を充足しないものであることは前述のとおりである。

(iii)本件考案2、3、6との対比
(イ)本件考案2及び3は、「甲被部の各半体は底部と縫合わす辺縁以外の辺縁がテープ状物で縁取りされている」構成要件を有し、この構成要件により「左右の甲被部をテープにより縁取りしているので、甲被部とテープとの組合わせによってデザインに種々の変化を持たせることができる」(【0029】)という作用効果を生じるものであるが、イ号物件は、左右の甲表部、バイヤス布54、55、アクセサリー用の短冊布の組合わせによって、デザインに変化をもたせようとしており、作用効果を奏するための構成が全く異なる。
(ロ)また、本件考案6は、「甲被部の半体を縫合わせた箇所が補強部材で補強され、この補強部材はスリッパの内側から裏打ちされている」構成要件を含んでいるが、イ号物件が有する甲芯材は、縫い合わせた箇所を補強するものではない。
(ハ)したがって、イ号物件は、本件考案2、3、及び6に係る構成要件(E)、(E’)及び(F’)を充足していない。

(4)本件考案1?6の公知性について
甲第3?第11号証には、それぞれ、スリッパの写真が掲載されている。甲第3?第11号証から、直ちに、これらのスリッパが出願前公知であったと認めることはできないが、仮に、これらのスリッパが本願出願前公知であるとしても、甲第3?第11号証のものは、履き口の形状を、上から見た状態で、略V字状としたものであり、少なくとも、本件考案1ないし6における、構成要件(C)、(D)を備えていない。また、甲第2及び第12号証刊行物に、かかる構成要件(C)、(D)に関して記載はない。してみると、本件考案1ないし6が公知技術を含むことを前提とする上記請求人の主張は採用できない。

(5)均等論について
イ号物件は、本件考案1に係る構成要件(B)、本件考案4及び5に係る構成要件(B)、(B’)を充足していないことは上述したとおりであるが、平成6年(オ)第1073号(平成10年2月24日判決言渡)最高裁判決により判示されたところに従って、この構成要件(B)、(B’)に関して、均等論の適用が可能かどうか判断する。
(i)本件考案1、4及び5においては、甲被部を一層とし、「その左右に分割された形状の半体を縫い合わせて構成」すること(構成要件(B))により、「デザインに種々の変化を持たせることができる」という作用効果が得られるが(登録明細書【0029】)、この作用効果をもたらすものは、デザインが表現される部分である甲被部の表面部であることは当業者に明らかである。また、仮に、甲被部が多層構造のものであったとしても、上記作用効果は、甲被部の表面部によってもたらされ、甲被部の内部構造に依らないことも当業者に明らかである。
そうすると、本件考案1、4及び5においては、甲被部の表面部が左右に分割されていることが、考案の目的を達成するうえでの不可欠な事項、すなわち考案の本質的部分であり、これ以外の甲被部の構造は考案の本質的部分には当たらないというべきである。
(ii)そして、上記一層の甲被部を、イ号物件のように、左右に分割された甲表材と左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材とからなる三層の甲被部に置き換えても、左右に分割された甲表材が甲被部の表面に位置して、甲被部の表面部を形成している以上、甲被部のデザインを変化に富んだものとするという本件考案1、4及び5の目的は達成され、また、本件考案1、4及び5と同一の作用効果が奏されるというべきである。
(iii)また、従来より、甲表材、甲芯材及び甲裏材とを貼り合わせた、三層構造の甲被部は周知であり、しかも、甲表材、甲芯材及び甲裏材は、左右に分割せずに使用するのが普通であるから、左右に分割された一層の甲被部を、この甲被部と左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材とからなる三層の甲被部に置き換えることは、イ号物件の製造時に於いて当業者が容易に想到し得ることというべきである。
(iv)また、イ号物件における、少なくとも、「スリッパを上からみた状態で甲被部の履き口の形状が略円弧状または略楕円弧状で且つその中央部が爪先方向に向かって凹部となっている」点は、上述したとおり、本願出願前公知の考案であるとも、また、公知の考案に基いて当業者が容易に想到し得るものではないから、イ号物件が、本件考案の出願時において、公知技術と同一であるとも、当業者が該公知技術に基いて容易に推考することができたものともいえない。
(v)さらに、本件考案の出願手続において、左右に分割されていない甲芯材及び甲裏材を使用した構成が実用新案登録請求の範囲から意識的に除外されたという事情も見当たらない。
よって、本件考案1、4及び5については、均等論を適用すべきであり、イ号物件は、本件考案1、4及び5の技術的範囲に属する。
なお、本件考案2、3及び6とイ号物件との相違部分である、構成要件(E)、(E’)及び(F)は、本件考案2、3及び6の本質的部分であり、イ号部件と、本件考案2、3及び6とが均等物ということはできない。

6.むすび
したがって、イ号物件は、本件考案1、4及び5の技術的範囲に属し、本件考案2、3及び6の技術的範囲に属しないものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2002-08-09 
出願番号 実願2000-3193(U2000-3193) 
審決分類 U 1 2・ 1- YB (A43B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 田中 秀夫
平上 悦司
登録日 2000-08-30 
登録番号 実用新案登録第3073233号(U3073233) 
考案の名称 スリッパ  
代理人 三中 菊枝  
代理人 三中 英治  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  
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