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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効としない G11B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない G11B
管理番号 1075006
審判番号 審判1998-35003  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-02-03 
確定日 2000-07-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第1995625号実用新案「磁気テ-プ用ガイド」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1,手続の経緯・本件考案の要旨
本件実用新案登録第1995625号考案(以下、本件考案という)は、昭和57年11月26日に出願され、平成2年7月24日に出願公告(実公平2-27412号)され平成5年11月26日にその設定登録がなされたものである。
本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「ステンレススチールよりなる軸1と、この軸1の一部分に回転自在に遊嵌された非磁性材料よりなるガイドローラー2と、前記軸1の前記ガイドローラ2の両端部へ近接した部分に圧入固定されたステンレススチールよりなる鍔状のストッパー3,4とを備え、前記軸1の他の部分へ前記ストッパー3,4とは別体でかつ外周にねじが形成された黄銅その他の柔らかい金属よりなるスリーブを圧入固定したことを特徴とする磁気テープ用ガイド。」
2,請求人による無効理由
これに対して、本件無効審判請求人である株式会社エンプラス(以下、「エンプラス」という)は、「本件実用新案登録は実用新案登録請求の範囲の記載と考案の詳細な説明及び考案の実施例を示している筈の図面との間のみならず、実用新案登録請求の範囲の記載それ自体に記載上の矛盾と不明確さがあり、本件考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができる程度に明細書には考案の構成が記載されていないものであり、従って本件実用新案登録は、実用新案法第5条第4項の規定に違反してされたものである。
よって、本件実用新案登録は同法第37条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。(以下、理由1という)
また、本件登録実用新案の真の考案者は、本件考案者として表示されている水木弘司ではなく、埼玉県狭山市入間川1431ー22の株式会社山田精密製作所(以下、「山田精密」という)の代表者である山田房夫であって、水木弘司は本件実用新案登録について山田房夫から登録を受ける権利を承継していなかったにもかかわらず、本件実用新案登録出願をなし、本件実用新案登録を受けたものであり、従って本件実用新案登録はいわゆる冒認登録実用新案であり、実用新案法第37条第1項第5号の規定によって無効にされるべきものである。(以下、理由2という)」
と主張している。
また、参加人株式会社フジパーツ(以下、「フジパーツ」という)は、平成10年5月29日に、実用新案法第41条の規定に基づく特許法第148条第1項の規定を準用した共同訴訟的当事者参加を申請し、その参加申請は認められている。
そして、参加人の主張する実用新案登録第1995625号に対する無効理由は、無効審判請求人エンプラスの無効理由2と同じである。
3,請求人の主張
・理由1に対して、
本件考案に関して、その実用新案登録請求の範囲の記載中「鍔条のストッパー3,4」はスリーブと別体であるとは認め難い。別体であるとする構成は、従来技術においてもされていることは明白である(公告公報2欄13?19行「第1図におけるストッパー4とスリーブ部6とを別々に成形し・・・・・・かみ合いクラッチ状にかみ合わせ」るとする記載参照)ところ、従来のガイドである第1図示のストッパー4と本件登録によるガイドである第2図示のストッパー4とは(ストッパー3を含めて)同一構成であって、しかもこのストッパー4にそれぞれ対応することになるスリーブ6とスリーブ5とでは構造上微塵の差異も窺い知ることができない。このストッパーについては、本件では明細書の全記載を通じて「鍔状のストッパー3,4」としか記載されておらず、それ以外の構成については一切説明が存在しないから、上掲のストッパー3,4とは従来のガイドと全く同一のものと言う外なく、これに反する説明及び図面による明示がないのでスリーブ5とスリーブ6との差異はなくスリーブとストッパーとが別体であると言うのは単なる希望的観測を述べたにすぎず、ストッパー4とスリーブ5とは本来一体のものであるとしか考えられない。従って、本件考案についての作用効果「ストッパー4とスリーブ5とは分離されている」、「スリーブ5は一方のストッパー4とかみ合いクラッチ状に係合したものではなく」「公告公報4欄13?14行、17?18行)と完全に矛盾するものである。
本件実用新案登録請求の範囲の記載によれば、軸1は、ガイドローラーの遊嵌される「軸1の一部分」(A部分とする)、鍔状のストッパー3,4が圧入固定された「軸1の前記ガイドローラー2の両端部へ近接した部分」(B部分とする)、スリーブを圧入固定した「軸1の他の部分」(C部分とする)、のA,B,Cの3部分を有することは分かる。しかしながら、「軸1の他の部分」が上記A,B両部分を除く軸1の部分全体であるのか、B部分の間で何らかの位置関係が特定されるものであるのか不明確である。何となれば、B部分の「近接した部分」とC部分の「他の部分」次第ではスリーブの軸1上での位置が定まらず、さらにスリーブとストッパーとの軸1線上での位置が交錯することになるからである。この位置の交錯にあって、仮にスリーブがストッパーよりガイドローラー側にきたとき本件登録考案はそれ自体が技術的に意味をもたない従って実施不可能なものであり、「軸1の一部分」とスリーブを固定した「軸1の他の部分」との曖昧なる表現では、考案を未完成ならしめているといって過言ではないのである。こうした「一部分」、「近接した部分」、「他の部分」と言った極めて曖昧な記載は本来的に考案の構成に欠くことのできない事項を不明瞭ならしめている以外の何ものでもなく、上記三つの部分の間の軸1線に沿った相互の相対的位置関係が明確になされるべきである。
・理由2に対して、
水木弘司は、昭和38年にテープレコーダ関連製品の製造販売会社を設立し、本件登録実用新案の出願のなされた昭和57年当時を挟んで同51年ころからホームビデオの磁気テープ用ガイドローラーを主力商品として製造販売するに至る株式会社水木精密(以下「水木精密」という)の社長であった。
昭和56年当時の磁気テープ用ガイドローラは外見上現在のものと同様のものであり、ステンレス鋼製の軸にプラスチック製非磁性材料からなるガイドローラを回転自在に遊嵌させ、テープレコーダーに設置した状態を想定して上下を区別すると、軸に遊嵌されたガイドローラーの両端部に隣接して上ストッパーと下ストッパーを圧入固定しこれら上下のストッパーでガイドローラーの軸方向の動きを制限していたが、上下のストッパーのうち下ストッパーはガイドローラ端部が接触するストッパー部分とテープガイド自体をVTR本体に取付固定するためのネジ切りしたスリーブ部分とを両部分が一体のステンレス鋼で構成していた。このため、上下ストッパーの成形、ネジ切り等の工作には高硬度で加工性のよくないステンレス鋼を使っているので困難を伴い、また下ストッパーを軸に圧入固定する作業に際してもスリーブ部分のネジに変形等が生じる結果テープガイドとして要求される精度を出すことが応々にして困難であった。
そこで、水木精密として、当時ガイドローラ用のステンレス鋼製の軸やストッパーを納入していた下請業者に改良案の提案を求めたところ、この下請業者であった山田精密の山田社長から、これまでの下ストッパーについてストッパー部分とネジ切りしたスリーブ部分とを一体構造としていたものを改め、ストッパー部分からスリーブ部分を切り離し、ラジアルな円盤状のストッパー部部はこれまでと同じくステンレス鋼製とする一方、ネジ切りしたスリーブ部分を軟かく加工が極めてし易い黄銅製としこれらそれぞれ異質の材料で別個の部品としてツーピースの下ストッパーの試作品が山田社長から水木精密に持込まれ品質性能の検討依頼がなされた。
上記の下ストッパーの改良部品と称する物を見た水木精密側は、材質が軟かくネジ切りした黄銅製のスリーブ部分を使っているような下ストッパーなど使いものにならないと考えたが、一応試しにと水木精密の三島工場の試験設備を使ってこの下ストッパーの引抜実験を行ったところ意外にも要求される強度を満たすものであることが判明した。
このツーピースの下ストッパー部品は製作に際してストッパー部分とスリーブ部分を軸に圧入固定する場合、それぞれ別体をなしている部分を個別に軸に圧入することになり、これまでとは異なり組み立て時にスリーブ部分やそのネジ自体を傷つけることがなくなるという利点も確認された。また、スリーブ部分はこれにネジ切りする場合、従前の高硬度のステンレス鋼から軟質で加工性の優れた黄銅製となったためネジ切り作業が極めて容易になり且つ高精度のネジ形成が可能であることも分かったのである。
上記の結果を知り、水木弘司は自らを考案者として水木精密を名義人として実用新案登録出願を昭和57年11月26日にしたものであるが、上述した全ての経緯については水木弘司氏が本件実用新案登録の冒認を認めているものである。(甲第1号証・水木弘司氏陳述書)。
水木精密の下請け関係の責任者として購買部品につき納入業者の窓口を勤めた米本潔氏には山田社長から下ストッパー部品の試作品が持込まれたが、米本氏は上記の実験結果を確認した後、山田精密におけるストッパーの量産品に到達するまでの間に山田精密との何度かの行き来をしており、上記改良された下ストッパーを組込んだVTR用ガイドローラが水木精密の主力製品になるまでに至る経緯にあって、水木氏が考案者ではなく山田氏が創作した試作品を提供したものであり、水木精密には本件実用新案を考案した者が居なかったことも明らかである。(甲第2号証・米本潔氏陳述書)。
本件実用新案登録の出願後である昭和61年11月から平成5年3月にかけて水木精密にあってVTR用ガイドローラの製造責任者を勤めた日向誉氏は、本件実用新案登録出願が同59年6月に出願公開された当時自らの考案を冒認出願されたことを知った山田氏が真の考案者であることを何度も水木氏に申し入れようとしたが一度として会ってもらえなかったという事実を明言している。(甲第3号証・日向誉氏報告書)。
山田氏と何度かの接触があった当時の製造部長日向氏は、水木精密名義で本件実用新案登録が平成2年7月末に出願公告された時、この考案が山田氏が真に創案したものであるか否か確認しようとしたところ、この日向氏の要求に応えて山田氏は、自己の考案であることを証する資料として、前掲露木氏による試験データを平成2年8月29日付けファックスで送付してきており(甲第3号証・日向誉氏報告書添付)、水木精密の冒認の事実を確認している。
山田氏の試作品である下ストッパーの構造は、ストッパー部分とネジ切りしたスリーブ部分のツーピース部品を個別に軸に圧入してなされるものであった。この試作品50個の試験は水木精密三島工場の露木氏が担当して行われ、その結果は昭和57年10月6日付けの品名「100110ネジ変更切削品試験データ」(甲第3号証日向誉氏報告書添付)に明らかである。この試験の測定項目には「ツバ部抜去力」と「ネジ部抜去力」の項があり、試作品はその下ストッパーが回転自在のガイドローラのストッパーの役目を果たすツバ部と、ガイドをユニットとしてVTRに組み付けるためのネジ切りされたスリーブ部分とが、二個の別体の部分に分離されているものであることが明白である。
以上に述べたところから、本件実用新案は、真の考案者山田房夫氏に依らず水木氏の冒認出願により登録されたものであり、冒認の事実は甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証のそれぞれから明白である。従って、本件実用新案登録は実用新案法第37条第1項第5号の規定によって無効とされるべきである。
甲第3号証・日向誉氏報告書に明らかなように、本件請求人と真の考案者である山田房夫とは件外の事情で現在没交渉の状態である。しかしながら、本件実用新案登録が冒認により取得されているにも拘らず、こうした冒認による実用新案登録に基づき実用新案件侵害訴訟が提起され、多数のメーカー、ユーザー、代理店に対して警告状が送られている状況に鑑み、冒認による権利の乱用が罷り通ることは本件請求人に留まらず広く第三者への利害に影響を及ぼすことが予想される。ここに、本請求人は、事実を再確認するためにも、真の考案者である山田房夫の職権による証拠調べをなすこと並びに前述の甲各号証の陳述者及び報告者と山田房夫氏本人との対質が行われるように、本請求に沿って、御審理の過程に実用新案法第41条で準用する特許法第150条第1項の規定による職権証拠調べを加えることを切望する次第であると主張している。
なお、請求人が主張する職権による山田房夫に対する証拠調べについては、合議体としては、山田房夫に対する職権による証拠調べは行う意志がないことを請求人に通知し、必要ならば請求人側で山田房夫に対する証拠調べを申請するように連絡したが、請求人からの応答はなかった。
4,被請求人の主張
・理由1に対して
本件無効審判被請求人は、請求人の上記実用新案法第37条第1項第4号に基づく主張の内容を正確に理解することができない。
この理由に基づく請求人の第1の主張は、図面に開示された本件考案の実施例の内容と、明細書の表現とが矛盾するとの主張であるとのように見受けられる。
特に、第1図のストッパーと、第2図のストッパーとが図面表現上、見分けがつかない旨の主張のようであるが、被請求人が吟味したところ明細書の関連記載を参酌すれば即座に技術内容を理解することができる。すなわち、図1の技術上の問題点に鑑みて図2の本件考案がなされたことが明細書の開示から明確であるので、考案の理解には何ら支障はない。図面の見かけ上の問題と、考案の開示の問題とを混同すべきでない。
したがって、被請求人は、本件出願の図面表現がどのように実用新案法第5条第4項の規定に違反することとなるのか全く理解できない。
実用新案法第5条第4項は、当業者が明細書の記載全体及び図面の開示全体に基づいても考案を認識できず、したがって考案の実施できない場合に、登録できない旨を規定したものであって、この意味において、本件考案の開示は当業者が容易に理解できる程度に記載されており、何ら問題はない。
また、請求人の実用新案法第37条第1項第4号に基づく第2の主張は、実用新案登録請求の範囲の記載にかかるものと認められるが、この点についても被請求人は、請求人の主張の意図を理解することができない。考案の内容は、上記のように明細書及び図面の開示全体から把握されるものであって、本件の実用新案登録請求の範囲の記載は、技術思想としての考案を当業者が理解するにおいて全く明瞭であり何らの障害も存在しない。
すなわち、明細書の開示に基づき、図1に示される従来の磁気テープ用ガイドの内容を理解し、その問題点を認識すれば、本件考案にかかる磁気テープ用ガイドの技術思想を理解するのは当業者であれば容易である。請求人の主張は当業者レベルとは思えない程度の理解力に基づくものといわざるを得ない。
・理由2に対して、
請求人は、本件の考案者として記載されている水木弘司が真の考案者でない旨、すなわちいわゆる冒認出願である旨の主張をする。
しかし、請求人の主張は、本件の有効性に重大な影響を与えるものであり、請求人の主張するとおりの事実関係が現実に存在したのでなければ受け入れるものではない。上記の主張を支持するために請求人が提出した甲第1号証から甲第3号証はすべて陳述書ないし報告書である。しかし、まず、立証すべき内容が技術的思想である考案の成立の認定であり、この認定のためには本件考案にかかわる出願前の技術的に正確な事実関係が明確にされなければならない。
また、虚偽の主張があれば特許法第198条の罰則規定が適用されることも踏まえて、請求人の主張は慎重に吟味されなければならない。
甲第1号証について
甲第1号証の作成者である「水木弘司」は、本件の出願時においては、出願人である水木精密の社長であったが、現在は、被請求人が原告となっている本件に基づく実用新案件侵害訴訟事件の被告のもと社長であり、現在の関係者である。すなわち、「水木弘司」は、本件登録実用新案が無効になることによって利益を受けるものである。したがって、甲第1号証における「水木弘司」の自ら真の考案者でないことの表明は信憑性がない。もとより、考案行為は、事実行為として客観的に認定されるべきものであるから、単に特定の関係者が意思表明することによって定まるものではない。
甲第1号証の水木弘司の陳述書によれば、「……下側のストッパーはVTR本体のベースに取付けた状態に於いて磁気テープの走行位置を微調整するためのネジ加工を施す必要があるため、加工工程が複雑になりコスト高であると共に生産量が上がらず受注に追いつかない状況がありました。そのため当社は改善策を検討中であったところ、山田精密の山田社長がストッパーとスリーブを分離して加工し、それぞれの単品パーツをシャフトに圧人して一体としたSUB ASS’Y試作品を水木精密に提示し、品質検討を依頼してきたので、三島工場に於いて露木検査員が検査を行いデータを作成した結果極めて満足な内容でありました。このSUB ASS’Yはシャフト、ストッパー、ネジ付きスリーブの3点で構成されたものですが、重要なポイントは、ストッパーとスリーブ個々の圧入抜去力が保持されていることで、試作品50個全て十分な数値でありました。特にスリーブ材質を黄銅にしたことによって加工が極めて容易になり、精度が出し易く加工時間が短縮されたコスト低減となりました。
私は山田精密で考案試作されたストッパーとスリーブを分離したSUB ASS’Y品そのものがパテントになるとは考えにくかったので、完成品であるガイドローラーそのもので出願するように河野弁理士に依頼し、原技術部長と打ち合わせを行い、出願しました。……」(甲第1号証第1頁第22行目から第2頁第8行目)とある。
この「水木弘司」の陳述書の内容を整理すると以下のとおりである。
▲1▼本件出願前に水木精密は少なくとも、従来の磁気テープ用ガイド(ガイドローラー)の問題点を認識していた。
▲2▼本件出願前において、水木精密は磁気テープ用ガイドの上記問題点の改善策を検討していた。
▲3▼本件出願前に、山田精密の山田社長がシャフト、ストッパー、ネジ付きスリーブの3点で構成されたSUB ASS’Yの品質検討を水木弘司が社長であった水木精密に依頼した。
▲4▼「水木弘司」は、山田社長の該SUB ASS’Yの品質検討の依頼に基づいて行われた抜去試験の結果が満足の行くものであると認定した。
▲5▼「水木弘司」はストッパーとスリーブを分離したSUB ASS’Y品そのものがパテントになると考えにくいと判断した。
▲6▼「水木弘司」は完成品であるガイドローラーそのもので出願するように河野弁理士に依頼し、原技術部長と打ち合わせを行って出願した。
請求人は、この「水木弘司」の陳述書に基づいて、真の考案者は、「水木弘司」ではなく山田精密の社長である「山田房夫」であると主張するが、上記▲1▼ないし▲6▼の記載に照らしてみると、山田社長が考案の成立過程に関与した可能性があることは窺わせるものの、水木弘司が考案者でないことを証明するものは何もない。
また、甲第1号証の陳述では、請求人が真の考案者と主張する山田精密の山田社長は、水木精密の依頼に基づいて試作品を制作したのか、山田社長自身がその考案の解決課題を認識していた結果して試作品を制作したのさえ全く不明である。
そして、申第1号証から山田社長の試作品であるとするSUB ASS’Yは、本件考案にかかる磁気テープ用ガイドの完成品ではなく、シャフト、ストッパー、ネジ付きスリーブの3点で構成されるものであるから、山田社長が、出願前に完成品である磁気テープ用ガイドの問題点を認識していたかどうかは疑わしい。
山田社長が水木精密の依頼に基づいて試作品を製作し持ち込んだシャフト、ストッパー、ネジ付きスリーブの3点からなる試作品を水木精密において性能を検査したのであれば、解決課題を認識し、磁気用テープガイドの完成品としての性能を最初に認識したのは、「水木弘司」である。したがって、仮に上記陳述に基づいて判断しても、山田社長は実用新案法上は考案者ではなく単なる考案協力者と認定するのが至当である。
いずれにしても、甲第1号証からは、水木精密と山田社長との接点があったことは首肯できるとしても、どのような接点があったかは全く不明であり、請求人の主張を受け入れることはできない。
甲第1号証の陳述書は、現在では、上記のように本件が無効になることによって利益を得る立場にある「水木弘司」が、真の考案者は自分ではない旨を表明したものであるが、その上記▲1▼ないし▲6▼の記載内容は、客観的にみれば、むしろ「水木弘司」が真の考案者である可能性を示すものといわざるを得ない。
なお、請求人は、山田社長が考案者であれば、反射的に「水木弘司」の出願は冒認出願となるかのように主張するが、山田社長が仮に上記試作品にかかるSUB ASS’Yに基づいて本件考案と同一の磁気テープ用ガイドを考案したとしても、その事実と、「水木弘司」の考案者としての適格性とは全く別の問題である。
また、山田社長が真の考案者であるならば、なぜ自ら出願しなかったのか大きな疑問が残る。そして、「水木弘司」による本件考案の出願の正当性を妨げる法的根拠も全く存在しない。
甲第2号証は、作成者である米本潔は、被請求人が原告となっている本件に基づく実用新案件侵害訴訟事件の被告のもと取締役であり、本件実用新案権が無効となることで利益を受ける者である。
甲第2号証には、「……試作品を水木精密の三島工場で試験した結果、意外にも良好な結果が得られ、量産品にするまで、提案者の山田精密と私の担当する資材との間で何度か行き来があったことを憶えております。……」(甲第2号証第2頁第1行目ないし第4行目)と記載されている。この記載によれば、試作品が制作された時点において、考案が完成していたかどうかは全く不明である。それまでに何度か行き来があったのであれば単に山田社長が上記試作品を持ち込んだ時点で考案が完成したと見るのは妥当でない。
すなわち、甲第2号証は、問題点の認識をだれが行ったのか、考案の完成がいつか、考案の完成を確認したのがだれであるか等、考案の成立にかかわる何らの事実も提供するものでなく、むしろ考案完成の時期が不明であることを示しているにすぎない。すなわち、甲第2号証は、山田社長が試作品を持ち込んだことを単に作成者の意見として表明しているにすぎず、本件考案の成立を認定するための手がかりになるような有効な事実は何ら提供していない。したがって、甲第2号証は水木弘司が考案者でないことの証拠にはならない。
甲第3号証について
甲第3号証の作成者である「日向誉」は、本無効判請求人にかかる株式会社「エンプラス」の従業員である。
すなわち、「日向誉」は本件登録実用新案が無効になることにより利益を受ける立場の者である。
甲第3号証は山田社長の発言を間接的に報告するものに過ぎず「水木弘司」が真の考案者でないことの根拠となるものではない。「水木弘司」が本件考案の真の考案者であるかどうかは、山田社長の行為とは全く独立して認定すべき問題であるからである。
この観念において、甲第3号証は水木弘司が考案者でないことを証明する事実を何ら示すものでく本件考案の無効の根拠とはなり得ないものである。
本件の出願経過の検討
本件実用新案権は、上記したように本件出願公告に対し、5つの実用新案登録異議申立がなされたがいずれも理由がない、との決定がなされ、平成5年11月26日実用新案登録されたものである。
そして、上記山田社長が、上記5つの異議申立事件の異議申立人の一人であることは重要であると考えられる。該異議申立事件の異議申立人である山田社長の主張は、本件考案は実開昭55-57169号及び実開昭55-158051号に基づき実用新案法第3条2項により当業者がきわめて容易に考案できた、というものである。
すなわち、上記異議申立事件においては、真の考案者とされる当の山田社長は、全く冒認に基づく主張をしていない。
本件登録実用新案の帰属を明確にするために、本件考案過程における関連事実を吟味するにあたり、請求人が真の考案者であると主張する山田社長が自らの実用新案登録出願をしていないこと、及び山田社長が「水木弘司」による実用新案登録出願を知って自ら異議申立てを行ったにもかかわらず、冒認の主張をしていないことは、いかにも不可解であり、明確な説明がない限り、請求人の上記主張は納得できない。
以上のように実用新案法第37条第1項第5号に基づく請求人の主張は、山田社長の考案関係者としての可能性を示すものの、水木弘司が真の考案者でないと証明する根拠とならないことは明らかであり、請求人の主張を受け入れることは到底できないものである。
すなわち、仮に、上記山田精密の社長である山田房夫氏がガイドローラーの改良に何らかの関与があったとしても、水木弘司がこれとは別に独自に考案を完成させ、本件出願したという可能性を否定することはできない。
そうであれば、山田社長が本件実用新案の考案過程に関与したことが仮に立証されたとしても本実用新案権の有効性は何ら影響を受けるものではない。
いずれにしても、請求人の主張を裏付けるために請求人が提出した甲第1号証?甲第3号証は一部の関係者の陳述のみに依拠しており、本件登録実用新案の出願前にかかる15年以上も前の事実を吟味し、考案の帰属を判断するには余りにも不十分であり、請求人の主張は到底受け入れることができない。
5,参加人の主張
・理由2に対して、
参加人は、本件考案が水木弘司の考案にかかるものではなく、山田の考案であることを示すための、昭和56年、57年当時被請求人水木精密の資材担当者であった米本潔の陳述書(2)を提出する[丙第1号証]。米本は既に陳述書[甲第2号証]を提出しているが、陳述書(2)によれば、本件考案が水木精密においてなされたものではないことが、さらに次のような事実からも裏付けられる。
▲1▼本件考案を実施した試作品の製作を被請求人の水木精密が山田精密に依頼したことはなく、試作品は山田精密から持ち込まれたものである。
このことは、当時被請求人の水木精密と外部業者との取引が全て米本を通して行われていたことから、米本が知っている事実である[丙第1号証陳述書(2)第5項]。
▲2▼本件考案の試作品が一体型ストッパーの代替品になりうることは、繰り返し試験を行ってはじめてわかったことで、当初はむしろ、試作品では抜去力が小さくなることから、高い精度を要求されるガイドローラとしては問題があるのではないかと思われていた。試作品がそのようないきさつを経て実用に至ったことからも、当時の被請求人の水木精密の関係者にはその提案が被請求人の水木精密内部から出されたものでないことがよくわかっていた(同陳述書第6項)。
▲3▼米本の推測では、山田精密はスイスのエスコマ社のエスコマテックと呼ばれる円筒状の金属材料の外周に高精度のねじを高速で切る量産機械を持っていたので、下ストッパーの製造にその機械を利用しようと考えたことが、山田精密が本件考案を想到する動機となった。一方、本件考案の試作品は高い精度を要求されるガイドローラに採用することにむしろ不安が生じる構造であり、当時の被請求人の水木精密には本件考案を想到する技術上の動機は存在しなかった(同陳述書第7項)。
被請求人もツーピース試作品が山田精密から持ち込まれた事実は争っていないようであるが[丙第3号証3頁23行?25行参照]、この試作品が極めて高い精度が要求されるガイドローラに使えるかどうかむしろ当初は疑われ、そしてVTRメーカが実際に採用するまでに、特に抜去力の点で問題が懸念されていたという事実、そしてそのような問題があると予想されるツーピースの構成を想到する動機が山田精密には存在したが、下ストッパーを自ら製造していない水木精密には存在しなかったという事実は、本件考案が山田によってなされたものであるという参加人の主張をさらに有力に裏付けるものである。
なお、山田精密に原紙が保管されている日向報告書添付の試験データ(これは本件実用新案が出願公告された時は、山田がエンプラスの日向に、真の考案者が山田であることを示す証拠としてファックス送信したデータでもある。)は、試作品の抜去力のデータである(例えば1頁表の最右欄)。
さらに右推認の有力な根拠となる一つの事実をさらに追加して以下のとおり主張する。
▲1▼本件実用新案登録は昭和57年11月26日に出願されているが、それは本件考案の試作品の試験が完了し、実用化できることが確認された後である。このことは、日向報告書添付の昭和57年10月6日付で確認されている試験データの内容が試作品の実用可能性を示すものであり、しかもそれが最終的なデータとして山田によって長年保管されていた事実から明らかである[丙第3号証中4頁3行?16行参照]。又、本件考案は実際に昭和58年には量産化され、VTRメーカに供給されている[甲第3号証添付のVTRメーカ用の図面の日付参照]ことからも、本件実用新案が出願されたのは事実上実用化が決まった段階であるといえる。
▲2▼ところで、一般に部品メーカから部品の供給を受けるセットメーカは一旦決められた量産されている部品の仕様を変更することについては消極的であり、特に大きな仕様変更を行うことはできるだけ避けようとする。それは多数の部品から成る製品の仕様が既に確立しているときに、部品の大きな仕様変更は不良品の問題が新たに発生する原因となりうるというリスクがあるからである。本件考案を実施したツーピース型ガイドローラはそれまでの一体型ガイドローラに比べて大きな仕様変更になる。しかもガイドローラに要求される極めて高い精度に鑑みると、ツーピース型ガイドローラの構造は従来の一体型に比べてフランジ部が薄いため抜去力が小さくなり、精度上問題がある可能性が予想される構造であったので試験を経てVTRメーカに採用されるまでに1?2年位の長い年月を要した。
この仕様変更がガイドローラの仕様としては極めて大きな変更であることと、前述の仕様変更に対する一般的消極性を考えれば、VTRメーカが採用を決めるまでに長期を要したことはむしろ当然のことといえる。
▲3▼従って、本件考案はツーピースの試作品が発案されて、実際に実用化に至るまで長期間を要している訳であるが、被請求人が本件実用新案登録を事実上実用化が決まった遅い段階で出願している事実は、本件考案が被請求人の発案によるものでないことを示している。
もし、水木弘司が本件考案を自ら行っていたならば、この長期にわたるテスト前に早期かつ正式に譲渡証書を取り交し、有償であれば商法第265条(取締役会社間の取引)の承認手続を経て被請求人所有に本件考案を帰属した後、出願も長期にわたるテストより前の時点で行われていた筈である。少なくとも譲渡手続が完了しなければ水木弘司個人の発明を勝手にテスト出来ず、しかも適法に本件考案の権利帰属を確保しない限り、会社あげて量産実用化のための長期の開発費及びテスト経費のかかる投資的企業活動は起せないためである(職務考案に対し勤務規則等で当然に被請求人に帰属する旨の規定があれば別であるが、そうだとしても)。被請求人がツーピース型ガイドローラの考案を自ら行ってその効果を多少とも認識していたのであれば、たとえ試作品がVTRメーカによって採用されることが決まっていなくても他社に同じ考案の出願をされないように、あるいは長期のテスト期間中に考案が公知となってしまうことをおもんかばって、まず自ら出願をしておくのがメーカ、特に技術部等の出願を担当する部所が肝に命じなければならない出願実務としては常識的なことである。ところが被請求人が実質上実用化が決まった段階で本件実用新案の出願を行っている事実は、本件考案が水木弘司自身の発案によるものでなく、当然譲渡証書を手交する前記譲渡手続も行われる筈もなく、実用化という現実に迫られて第三者による模倣をおそれ自社出願したと考えられるのが合理的である。他人の考案を実用化されるかどうかわからないうちから勝手に出願することはあまり考えられないが、実用化が決まれば収益確保の経営目的と、他社に権利を取られないように自社出願しておこうという心理が働く可能性は大いにある。
以上のように、本件実用新案の出願時期は、本件考案が水木弘司によってなされたこととは矛盾し、本件考案が水木弘司によってなされたものではなかったという事実に符合するものである。
6,当審における判断
・理由1に対して、
請求人は、「本件登録考案に関して、その実用新案登録請求の範囲に記載中「鍔状のストッパー3,4」はスリーブ5と別体であるとは認め難い。別体であるとする構成は、従来技術においてもなされていることは明白である(公告公報2欄13?19行「第1図におけるストッパー4とスリーブ部6とを別々に成形し・・・・・かみ合いクラッチ状にかみ合わせる」とする記載参照)ところ、従来のガイドである第1図のストッパー4と本件登録考案によるガイドである第2図示のストッパー4とは、(ストッパー3を含めて)同一構成であって、しかもこのストッパー4にそれぞれ対応することになるスリーブ6とスリーブ5とでは構造上微塵の差異も窺い知ることができない。このストッパーについては、本件では明細書及び図面の全記載を通じて「鍔状のストッパー3,4」としか記載されておらず、それ以外の構成については一切の説明が存在しないから、上掲のストッパー3,4とは従来のガイドと全く同一と言う外なく、これに反する説明及び図面による明示がないのでスリーブ5とスリーブ6との差異はなく、スリーブとストッパーとが別体であると言うのは、単なる希望的観測を述べたにすぎず、ストッパー4とスリーブ5とは本来一体のものであるとしか考えられない。従って本件考案についての作用効果「ストッパー4とスリーブ5とは分離されている。」、「スリーブ5は一方のストッパーとかみ合いクラッチ状に係合したものではなく」(公告公報4欄13?14行、17?18行)と完全に矛盾するものである。」旨主張しているが、第2図においてストッパー4とスリーブ5とがそれぞれ異なる向きのハッチィングで示されていること、及び明細書中の「前記ストッパー4とは別体で且つ外周にねじが形成された黄銅製のスリーブ5を圧入固定している。」という記載がなされているので、請求人が主張する「本件では明細書の全記載を通じて「鍔状のストッパー3,4」としか記載されておらず、それ以外の構成については一切の説明が存在しないから、上掲のストッパー3,4とは従来のガイドと全く同一と言う外なく、これに反する説明及び図面による明示がないのでスリーブ5とスリーブ6との差異はなく、スリーブとストッパーとが別体であると言うのは、単なる希望的観測を述べたにすぎず、ストッパー4とスリーブ5とは本来一体のものであるとしか考えられない。」は採用できない。
また、請求人は、「本件実用新案登録請求の範囲の記載によれば、軸1は、ガイドローラの遊嵌される「軸の一部分」(A部分とする)、鍔状のストッパー3,4が圧入固定された「軸1の前記ガイドローラ2の両端部へ近接した部分」(B部分とする)、スリーブを圧入した「軸1の他の部分」(C部分とする)、のA,B,Cの3部分を有することは分かる。しかしながら、「軸1の他の部分」が上記A,B両部分を除く軸1の部分全体のこことであるのか、B部分の間で何らかの位置関係が特定されているものであるのか不明確である。何となれば、B部分の「近接した部分」とC部分の「他の部分」次第ではスリーブの軸1上での位置が定まらず、さらにスリーブとストッパーとの軸1線上での位置が交錯することになるからである。この位置の交錯にあって、仮にスリーブがストッパーよりガイドローラ側にきたとき本件登録考案はそれ自体が技術的に意味をもたないしたがって実施不可能なものであり、「軸1の一部分」とスリーブを固定した「軸1の他の部分」との曖昧なる表現では、考案を未完成ならしめていると言って過言ではないのである。こうした「一部分」、「近接した部分」、「他の部分」と言った極めて曖昧な記載は本来的に考案の構成に欠くことのできない事項を不明瞭ならしめている以外の何ものでもなく、上記三つの部分の間の軸1に沿った相互の相対的な位置関係が明確になされるべきである。」と主張しているが、実用新案登録請求の範囲中において、「一部分」、「近接した部分」、「他の部分」という記載がなされていたとしても、該、「一部分」、「近接した部分」、「他の部分」という記載は明細書及び図面中の記載を参照すれば当業者において十分理解できるものであるので、この点をもって本件が実用新案法第5条第4項の規定に違反しているとはいえない。
・理由2に対して、
本件実用新案登録が実用新案法第37条第1項第5号違反(いわゆる、冒認登録実用新案)であるか否かについて以下検討する。
請求人は、
証拠方法として、
甲第1号証の1 証人 水木弘司
甲第2号証の1 証人 米本 潔
甲第3号証の1 証人 日向 誉
を挙げ、
添付書類として、
甲第1号証の2 水木弘司氏の陳述書
甲第1号証の3 証拠調申請書
甲第2号証の2 米本潔氏の陳述書
甲第2号証の3 証拠調申請書
甲第3号証の2 日向誉氏の報告書
甲第3号証の3 証拠調申請書
を提出している。
さらに、参加人フジパーツは
証拠方法として、
証人 宿谷 善七
を挙げ、
添付書類として、
丙第1号証 米本潔氏の陳述書(2)
丙第2号証 意見書(1)
丙第3号証 意見書(2)
丙第4号証 証拠調申請書
を提出している。
当審において、平成11年1月21日に証人 米本潔の証人尋問を、また、平成11年2月15日に証人 水木弘司、日向誉及び宿谷善七の証人尋問を行った。
その証人尋問において、各証人から以下の証言がなされた。
・水木精密では、昭和56年以前に、ステンレス製の軸に組み合わせるガイドローラを支持する上下のストッパーのうち、下側のストッパーは、ストッパーとガイドローラを取付ベースに取り付けるため、ねじを切ったスリーブとの一体構造の磁気テープ用のガイドローラ(以下、一体型ガイドローラという)を製造していた。(米本潔の証言)
・上記一体型ガイドローラは嵌合組立する際は、スリーブが変形してしまったり、ねじが傷つき易く、ステンレス製のためねじ切作業に時間がかかる等様々な欠点があったため、改良が求められていた。(米本潔の証言)
・昭和56年から57年にかけて、水木精密の加工協力工場であった狭山市の山田精密の社長である山田房夫から、水木精密の本社で資材を担当していた米本潔のもとに、ガイドローラーの下側につくストッパーをステンレス製のストッパーとビデオやVTRの取付ベースに取付けるねじを切ったスリーブ部に分けたもの(スリーブ部は黄銅(しんちゅう))の話が持ち込まれた。(米本潔の証言)
・話を受けた米本潔は、非常に精密な工作・加工を要するガイドローラとして大丈夫かと思ったが、話だけでは、分からないので、「物」を持ってくるように指示した。(この段階では、米本潔個人の判断であって、社長である水木弘司には話をしていない。)(米本潔の証言)
・その後、山田房夫が試作品を持ってきたので、水木精密の三島工場で試験を行った。試験データが満足いくものでなかったので、試作を繰り返し、試作品の試験はその後、何度か行われた。甲第3号証の添付資料として添付されている試験データは、何度か行われた試験のデータであるが水木弘司は見たことがない。(米本潔及び水木弘司の証言)
・試作品の試験データがワンピースと同じ寸法値が出たというのでお客さんにばらまいた。(水木弘司の証言)
・出願の手続は技術部長の原が全て行い、社長であった水木弘司の元には稟議書で回ってくるだけで、まったく口出しはしておらず、100%稟議は下りていた。(水木弘司の証言)
・山田房夫から、昭和59年頃(本件実用新案登録の公開日(昭和59年6月4日)後に、水木弘司に「私が全てやったのに、お宅の名前で考案者というのはちょっとおかしいじゃないか」という抗議があったが取り合わなかった。その後も、水木製密と山田精密との取引は続いた。水木精密(株)と山田精密との取引きが停止したのは昭和60年か61年である。(水木弘司の証言)
・平成3年6月に水木弘司は水木精密の代表取締役社長を辞めている。そして、辞める際に、水木グループの再建に妨げになるような行為は一切しないという念書(お願い書)を提出している。しかし、その後、半年位で、フジパーツを設立して水木精密の「ガイドローラ」と全く同じものを製造販売している。(水木弘司の証言)
・平成4年頃、水木弘司は山田精密の会社に行って、山田房夫に本件実用新案登録について、「冒認」ということで、無効審判を起こして欲しいとお願いに行ったが、山田房夫は「冒認」としての無効審判を請求していない。(水木弘司の証言)
・水木精密には、出願前に、考案者(発明者)が、この権利は会社に譲渡しますという、譲渡証書に署名する制度はなかった。(水木弘司の証言)
・本件実用新案登録の「ガイドローラ」の開発は水木弘司自身が直接発想したものではない。(水木弘司の証言)
・水木精密では考案者(発明者)の出願には、水木弘司のものも本件以外に複数件あり、それ以外の水木精密の社員のものもあり、発明者(考案者)の決め方は非常に曖昧であった。(水木弘司の証言)
・本件実用新案登録の「ガイドローラ」は全てのお客さんから認定がおりそうだったので、私(水木弘司)がこれは出願したほうが良いと判断した。(水木弘司の証言)
・山田房夫が「ガイドローラ」の発明者(考案者)であると言ったのを聞いた。水木弘司は山田房夫に無断で出願をした、また、共同出願にして欲しいという要求も無視されたと言っているのを聞いた。(日向誉の証言)
・甲第3号証に添付された「シャフトユニット」の試験データの内、「面振れ」は10ミクロンの中に入っていれば良いものである。そして、10ミクロンを超えているものは、「規格外品」である。50個の内10以内のものは11個(22%)のみである。(日向誉の証言)
・甲第3号証に添付された「シャフトユニット」の試験データの内、「面振れ」は20ミクロンの中に入っていれば良いものである。そして、20ミクロンを超えているものは、「規格外品」である。50個の内20ミクロンを超えているものは19個(38%)である。(宿谷善七の証言)
・1997年3月4日に山田房夫が宿谷善七に「ガイドローラ」は自分の発明であることを証明したいということで相談をもちかけられた。(宿谷善七の証言)
・1997年3月10日に山田房夫が宿谷善七に水木弘司に証人になってもらうために連絡をとれないかという話があった。水木弘司に連絡すると、山田房夫が考案者であることを証明することに自分も協力するという返事であった。(宿谷善七の証言)
・水木精密(株)には、従業員のした発明に対しての取扱いについては、規定は特になかった。従業員がした発明は、会社が出願人になることが普通であるという認識であった。(宿谷善七の証言)
以上の各証人の証言を総合して判断すると、甲第3号証に示されている「シャフトユニット」の試験データは面振れの規格値が日向誉(10ミクロン以内)及び宿谷善七(20ミクロン以内)と相違してはいるが、どちらの証言からも、甲第3号証の試験データが得られた時点では、規格外品が多く(78%又は38%)、この段階(昭和57年10月6日)では、当該「シャフトユニット」が実用に耐える段階にな至ってなかったと判断するのが妥当である。そして、山田房夫が昭56年から57年にかけて、米本潔のもとに、ガイドローラーの下側につくストッパーをステンレス製のストッパーとビデオやVTRの取付ベースに取付けるねじを切ったスリーブ部に分けたもの(スリーブ部は黄銅(しんちゅう))の話を持ち込んでから、1年近く経過した時点である昭和57年10月6日の段階の甲第3号証の試験データの元になる「シャフトユニット」が未だ実用に耐える物ではないということが上記の如く各証人の証言から明らかであるので、その50日後である、本件実用新案登録の出願日である昭和57年11月26日以前に実用に耐える「シャフトユニット」が水木精密に再度持ち込まれ、その試験を行った後に、水木精密が実用新案登録の出願を行ったということを立証する証拠は示されてはいない。したがって、甲第3号証に示されている試験データの元になる「シャフトユニット」を見て水木精密が実用新案登録の出願を行ったという審判請求人及び参加人の主張は妥当とはいえない。
また、山田房夫が本件実用新案登録の「ガイドローラ」の真の考案者であるか否かという点については、「山田房夫が私が考案した。」という話を聞いたという証言が米本潔、日向誉及び宿谷善七によってなされているが、それらは、全て伝聞であり、水木弘司が山田房夫のした考案を無断で出願したという証言も、その証言をした背景(本件実用新案登録は昭和57年11月26日に出願され、平成2年7月24日に出願公告され、それに対して、異議申立てがなされ、平成5年11月26日にその設定登録がなされものであるが、それまでは、当該実用新案登録が実用新案法第37条第1項第5号の規定により無効である旨の主張は何等なされていなかったが、その後、水木弘司が水木精密の社長を解任された後、水木弘司は別の会社を設立し、水木精密の権利に属する実用新案登録の「ガイドローラ」と同一の製品を製造を始めたことによって、水木精密から、エンプラス及びフジパーツ等に対して、実用新案権侵害損害賠償請求訴訟が東京地方裁判所に提起されてから、当該実用新案登録が無効であるという主張を始めた。)を考慮すると、その証言の内容の信憑性に多くの疑問がある。そして、「ガイドローラ」を考案したとされている山田房夫本人の「ガイドローラ」を考案したということを立証する山田房夫本人の証言は当審において、何等なされてはいない。したがって、「ガイドローラ」の考案者が水木弘司ではないとはいえない。また、真の考案者は山田房夫であるともいえない。
また、実用新案法では、実用新案登録の出願人がたとえ、その願書に記載された考案者と一致していない場合でも、その考案者から権利を承継した出願人が出願していれば、実用新案法第37条第1項第5号の規定に違反しているとはいえないのであるから、審判請求人及び参加人が主張する如く、仮に、山田房夫が本件実用新案登録の真の考案者であったとしても、本件実用新案登録の出願人は水木弘司個人ではなく、法人である水木精密であるので、水木弘司が個人として山田房夫との間で権利の承継をしていなくとも、出願人である水木精密が山田房夫から何等かの形で、権利の承継をしていれば、実用新案法第37条第1項第5号には適合するものではない。
そして、当時の水木精密では、従業員の発明(考案)に対して、権利の承継を書面で行うという規定は存在していないが、従業員の発明(考案)を会社が出願人として出願することが普通に行われていた状況を考慮すると、下請けであった山田房夫の持ち込んだ考案に対して正規の承継の書面を作成していたという証拠はないが、当審において、審判請求人及び参加人から、出願人である水木精密が山田房夫から権利の承継を受けていないということを立証するに足りる証拠は何等示されてはいない。
また、平成11年4月12日及び平成114月26日付けで、参加人株式会社エンプラス及び無効審判請求人エンプラスから、平成11年1月21日及び平成11年2月15日に行われた、証人尋問の証人尋問調書に代えた記録テープの反訳に対しての意見が弁駁書として提出されているが、当該弁駁書の内容は、参加人及びも甲審判請求人の解釈を述べただけのものであって、該弁駁書を参酌しても上記判断を覆すには至らない。
したがって、本件実用新案登録が実用新案法第37条第1項第5号に違反してなされたという審判請求人及び参加人の主張は認められない。
なお、このことは、審判請求人が真の考案者であると主張する山田房夫が水木精密の名前で本件実用新案登録が出願されていることに対して、何等行動(山田房夫は本件実用新案登録に対して異議の申立ては行っているが、その理由は実用新案法第37条第1項第5号に関するものではなく、その後、現在に至るまで、実用新案法第37条第1項第5号違反を理由とする無効審判を請求していない。)をしていないこととも矛盾していない。
7,むすび
以上のとおりであるから、審判請求人及び参加人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 1999-05-10 
結審通知日 1999-05-18 
審決日 1999-05-28 
出願番号 実願昭57-178545 
審決分類 U 1 112・ 152- Y (G11B)
U 1 112・ 531- Y (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 麻野 耕一  
特許庁審判長 内藤 照雄
特許庁審判官 犬飼 宏
片岡 栄一
登録日 1993-11-26 
登録番号 実用登録第1995625号(U1995625) 
考案の名称 磁気テープ用ガイド  
代理人 西島 孝喜  
代理人 福田 親男  
代理人 竹内 英人  
代理人 社本 一夫  
代理人 菅 隆彦  
代理人 尾崎 英男  
代理人 小川 信夫  
代理人 中山 慈夫  
代理人 今井 庄亮  
代理人 今城 俊夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 丸山 和也  
代理人 増井 忠弐  
代理人 松尾 和子  
代理人 中村 稔  
代理人 男澤 才樹  
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