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審決分類 審判    H01L
審判    H01L
審判    H01L
管理番号 1079802
審判番号 新実用審判1999-40016  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-06 
確定日 2003-06-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第3042946号実用新案「複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3042946号の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 実用新案登録第3042946号の請求項5に係る考案についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その5分の1を請求人の負担とし、5分の4を被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯・本件考案
本件登録第3042946号実用新案の請求項1乃至5に係る考案(平成9年4月28日出願、平成9年8月20日設定登録。以下「本件考案1」乃至「本件考案5」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】上面にCPUピン挿着用スロットが形成されるとともに、下面にコンピュータ基板のCPUピン挿着用スロットに挿着可能なピンが形成された回路板と、
前記回路板の一側に設けられ、外部電源が連結可能な電源コネクタと、
前記回路板に設けられ、CPUが要する他の電圧を供給できる電圧調整器と、
複数のスイッチからなり、電圧調整器とCPU倍率係数を制御可能な調整スイッチセットとからなることを特徴とした複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント。
【請求項2】前記電圧調整器は、電圧安定器と電圧安定集積回路とを有し、前記調整スイッチセットのスイッチを調整することによって、電圧安定集積回路の参考入力電圧と供給電圧を変更することを特徴とした請求項1に記載の複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント。
【請求項3】前記電圧安定集積回路の参考電圧入力端は、分圧抵抗を介して前記調整スイッチセットを連結し、前記調整スイッチセットの切り換え状態を変更することによって、前記分圧抵抗のマイナスフィードバック量を変更することを特徴とした請求項2に記載の複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント。
【請求項4】前記調整スイッチセットは、CPUの倍率選択入力端に直接に接続する複数のスイッチを有することを特徴とした請求項1,2または3のいずれかに記載の複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント。
【請求項5】前記回路板にCPUの一部の制御信号を転換できるプログラマブル論理制御装置を有することを特徴とした請求項1に記載の複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件考案1乃至4について、少なくともこれらの考案は、甲第6号証ないし甲第8号証により特定された製品と同一であり、その出願前には公知、かつ公然実施の状態にあったものと認められ、実用新案法第3条第1項第1号および第2号の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとの理由により、また、本件考案5については、甲第1号証または甲第3号証に記載の考案に基いて、あるいは甲第1号証または甲第3号証のいずれかと甲第14号証に記載の考案に基いて、あるいは、甲第1号証または甲第3号証のいずれかと甲第15号証に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるとの理由により、結局、本件考案1乃至5に係る実用新案登録は、いずれも実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである旨主張している。
3.被請求人の主張
一方、被請求人は答弁書において、本件考案1乃至4に対し、乙第3号証乃至乙第5号証を提出し、甲第6号証ないし甲第8号証に示された公知の事実は意に反する公知であるから、実用新案法第11条第1項で準用する特許法第30条第2項が適用され、新規性の喪失がなかったものとみなされるべきである旨反論すると共に、本件考案5に対しては、前記各甲号証に基いてきわめて容易に考案をすることができたものではない旨反論し、結局、本件考案1乃至5に係る実用新案登録は、いずれも無効とされるべきものではない旨主張している。
4.甲第1,3,6?8,14及び15号証
(A) 請求人の提出した本件考案の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(米国特許第5384692号明細書)には、
a)要約および第7欄第25?45行に、外部の集積回路をマウントしてコンピュータシステムをアップグレードするためのソケットに関して、このソケットはベース46を備える点と、ベース46のトップにはマイクロプロセッサとしても構成できる集積回路パッケージ32のピン42の挿着用のコンタクトホール43が形成されている点と、ベース46のボトムにはPCB33上のバス35と電気的接続を図るための複数のピン(リード)44が形成されている点が、
b)第7欄第55行?第8欄第2行に、ベース46に埋設設置された集積回路31aは、集積回路パッケージ32と関連付けた論理回路とすることができる点、及び、その例としてのバストランスレーター等が、
c)第8欄第27行?第9欄第13行(特に第8欄第55行?第9欄第2行)に、ベース46に埋設設置された集積回路31aはバストランスレーター51としても構成でき、バストランスレーター51は、ソケット31に装着されるマイクロプロセッサー50が必要とする電圧を電源電圧から変換して供給する電源電圧変換の機能を果たす電圧変換回路として構成される点と、このバストランスレーター51は電圧の調整供給とCPUのクロック信号の倍率調整を実行する点が、
それぞれ記載されている。
(B)同じく、甲第14号証(特開平8-249270号公報)には、代替CPUからのアドレス信号および制御信号を受け取り、これからDIMMに使用されている各種DRAM用の制御信号を生成する機能を有するメモリ制御ICを、代替CPU及び電源ICなどの周辺回路と共にプリント基板の表面に配置したコンピュータ用電子装置が、第1,3,6,7図と共に記載されている。
(C)同じく、甲第15号証(特開平6-301442号公報)には、CPUから出力されるアドレス制御信号を基にしてアドレスストローブ信号を生成するタイミング制御回路が、CPUと共に回路用基板に搭載された高速処理装置が、第2,7,8図と共に記載されている。
(D)また、甲第3号証(株式会社インプレスのホームページ「秋葉原マップ」中の「アキバHotLine」の1997年4月5日付けで公開のインターネット情報としてのプリンタによる印刷物)には、「6x86/P54C/P55C/K6/M2に対応した「ゲタ」が出回る」の記事欄に、
a)「なんとも面白いもので、6x86/P54C/P55C/K6/M2に対応した「ゲタ」がアキバで出回り始めている。製品は「Power Leap」というメーカーのもの。
「ゲタ」とは、言わずと知れたCPU供給電圧の電圧変換とCPU内部のクロック倍率設定を行うアダプタ。486時代には、アップグレード用によく使われたもの。今一部で出回っているのは、PentiumのSocket用のもので、電圧を3.3(P54C)/3.1(K6)/2.8(P55C)/2.5(M2)に変換し、クロック倍率を2/2.5/3/3.5/5倍に設定できる。
これを使えば、古いマザーボードでも最新CPUが使えるというワケ。K6とM2はともかく、実際にSocket5のあるマザーボードにこのゲタを用い、MMX対応Pentium200を載せたところ、バッチリ動き」と記載されている。
b)また、上記のアダプタ(ゲタ)の外観等の4枚の画像が掲載され、そのうちの【裏に設定表あり】と記載された画像には、背面に多数のピンが配設されたものが表示されている。
(E)また、甲第6号証(「Oh!PC」1997年5月15日発行、ソフトバンク株式会社、第68頁)には、製品名「PL-PRO/MMX」の機能の概略説明文と外観写真が掲載されている。
(F)また、甲第7号証(ソフトバンク(株)「PCLife編集部」益田賢治の説明書)には、甲第6号証に掲載されたものと同じ製品名「PL-PRO/MMX」を1997年4月13日頃に秋葉原にて購入した旨陳述されている。
(G)さらに、甲第8号証は、ソフトバンク(株)が購入した製品名「PL-PRO/MMX」に添付されていたとする取り扱い説明書である。
5.乙第3?5号証
被請求人の提出した乙第3号証は、本件実用新案登録権者である被請求人の代表者胡大興による宣誓供述書と称するものであり、甲第6号証ないし甲第8号証に係る「PL-Pro/MMX」という製品は、本件実用新案登録に係る考案を具体化したものであること、及び、MAXUS Computer社へ譲渡された3個のサンプルは、専ら機能・性能評価用のものであり、日本国内における実用新案登録出願前に日本国内にて市販したり公表するためのものではなかった旨記載されている。
また、乙第4号証は、MAXUS Computer社の代表者安部則孝による宣誓供述書と称するものであり、甲第6号証ないし甲第8号証に係る「PL-Pro/MMX」という製品は、被請求人から入手した3個のサンプルであって、専ら機能・性能評価用のものであり、日本国内における実用新案登録出願前に日本国内にて市販したり公表するためのものではなかった旨記載されている。
さらに、乙第5号証は、納品書及び請求書の写しであり、被請求人からMAXUS Computer社への「PL-Pro/MMX」3台の出荷を示すものである。

6.対比・判断
(1)本件考案1乃至4について
甲第6号証ないし甲第8号証により特定された製品、並びに、下記e)で引き渡された製品が、本件考案1乃至4の実施品であることについて、さらに、下記e)で引き渡しが行われた状況から、本件考案1乃至4は、その実用新案登録出願(平成9年4月28日)前に日本国内において公然知られた考案、あるいは、公然実施をされた考案に該当するに至ったことについては、いずれも両当事者間に争いがない。
本件考案1乃至4の実施品に関する事実関係は概ね次のとおりである。
a)フレンドテックコンピューター(被請求人の英名称、以下、「F社」という。)は、本件考案1乃至4の実施品である製品名「PL-Pro/MMX」(以下、「実施品MMX」という。)を製造し、平成9年3月に、そのうちの3個を、MAXUS Computer社(株式会社イイガのハードウェア部門を担当、以下、「M社」という。)へ、1個当たり37USドルで輸出した。
b)実施品MMXに関する契約交渉は、F社側が代表者の胡大興、M社側が株式会社イイガの取締役天宅信裕の間でなされた。
c)契約交渉は、すべて口頭でなされ、実施品MMXに関する契約書は作成されなかった。
d)契約の際、胡大興は、天宅信裕に、実施品MMXは性能評価用のサンプルである旨伝えた。
e)平成9年4月13日頃、天宅信裕は、秋葉原にあるM社の店舗において、輸入した3個の実施品MMXのうちの1個を、取材に訪れた記者に引き渡した。
f)当該記者の入手した実施品MMXの記事が写真と共に、雑誌「Oh!PC」1997年(平成9年)5月15日号に掲載された。
そこで、上記本件考案1乃至4に係る新規性喪失の行為が、本件実用新案登録権者である被請求人の意に反してなされたものであるか否かについて以下検討する。
平成12年9月6日に実施された証拠調べ(証人尋問)の証言内容から、次のことが認められる。
g)株式会社イイガの代表者安部則孝は、実施品MMXの契約交渉に直接関与しておらず、天宅信裕を介して該契約交渉の報告を受けていた。
h)実施品MMXに関する禁止行為について、胡大興から天宅信裕へは具体的な説明がなされなかった。
i)天宅信裕は、考案の実施あるいは新規性の喪失等の実用新案法に関する知識を有していなかった。
j)天宅信裕は、実施品MMXについて、サンプルであることに伴う禁止行為を把握していなかった。
k)F社は、M社以外にも、実施品MMXを提供していた。
このように、胡大興は、天宅信裕に3個の実施品MMXが性能評価用のサンプルであることは伝えたものの、それを譲渡あるいは販売してはならないことを説明しなかったこと、また、実施品MMXは一般消費者による使い勝手が性能評価に直接繋がること、及び、社会通念上、販売会社に製品が渡れば、それが販売の対象になることが十分予測できたこと、一方、天宅信裕は、実用新案法について何も知らされないまま、かつ、禁止された行為であるとの認識のないままに、取材記者に当該商品を引き渡したこと、さらに、F社はM社以外にも、実施品MMXを提供していたこと等を総合的に勘案すると、胡大興に「考案を秘密にしようとする」意があったとの心証を得ることはできず、また、天宅信裕がそのような意を把握していたとすることもできない。
したがって、天宅信裕の上記行為が、被請求人の意に反したものであるとまでは認めることができず、上記行為により公然知られた、あるいは公然実施された状態に至った事実は、新規性喪失の例外規定の対象とはならない。
なお、上記乙号証について付言すれば、乙第3号証として提出された胡大興の宣誓供述書における「日本国における実用新案登録出願前に日本国内にて市販したり公表したりするためのものではない」旨の宣誓供述内容は、独断的な見解にすぎず、また、乙第4号証として提出された安部則孝の宣誓供述書については、当人が直接実施品MMXの契約交渉に関わってはいないこと、及び、天宅信裕から報告を受けたとされながら、天宅信裕自身が実施品MMXの禁止行為については把握していなかったこと等を考慮すれば、「日本国における実用新案登録出願前に日本国内にて市販したり公表したりするためのものではない」旨の宣誓供述内容には信憑性がない。また、乙第5号証は、実施品MMXの納品書及び請求書の写しであり、単にF社からM社へ3個の実施品MMXが輸出されたことを証明するものにすぎない。
したがって、本件考案1乃至4は、その出願日前に、公然知られた、あるいは公然実施された考案であり、実用新案法第3条第1項第1号あるいは第2号の規定により、実用新案登録を受けることができないものである。
(2)本件考案5について
本件考案5と甲第1号証、甲第3号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載のものとを比較すると、各甲号証の何れにも、少なくとも本件考案5を特定する事項である「(CPUグレードアップ用コンセントの)回路板の一側に設けられ、外部電源が連結可能な電源コネクタ」が具備されていない。
そして、本件考案5は、かかる事項により、CPUアップグレード用コンセントにおいて、大きな電源に対応でき、安定した供給量が期待できるという格別の効果を奏するものである。
確かに、甲第1号証及び甲第3号証に記載のものは、何れもCPUグレードアップ用コンセントに関するものではあるが、少なくとも、電源コネクタに関しては、不明または全く触れられていない。しかも、CPUアップグレード用コンセントにおいて、電源コネクタを回路板の一側に設けることが周知技術であるとも認められない。
また、甲第14号証及び甲第15号証に記載のものは、一般的なCPUアップグレード用ソケットであり、電源はマザーボードから提供されるものである。
そうすると、本件考案5は、上記各甲号証に記載のものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められない。

7.むすび
したがって、本件考案1乃至4の実用新案登録は、実用新案法第3条第1項第1号あるいは第2号の規定に違反してなされたものであるから、同法第37条第1項の規定により、これを無効にすべきものとする。
一方、本件考案5の実用新案登録は、請求人の主張及び証拠方法によっては、これを無効とすることができない。
また、審判費用については、実用新案法第41条の規定により準用する特許法第162条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-09-20 
結審通知日 2000-10-03 
審決日 2000-10-16 
出願番号 実願平9-3369 
審決分類 U 1 111・ 111- ZC (H01L)
U 1 111・ 112- ZC (H01L)
U 1 111・ 121- ZC (H01L)
最終処分 一部成立    
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 長崎 洋一
藤本 信男
登録日 1997-08-20 
登録番号 実用新案登録第3042946号(U3042946) 
考案の名称 複数電圧と複数倍率選択可能なCPUグレードアップ用コンセント  
代理人 下出 隆史  
代理人 加藤 光宏  
代理人 市川 浩  
代理人 廣江 武典  
代理人 五十嵐 孝雄  

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