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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) E05B
管理番号 1081498
審判番号 無効2000-35570  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-10-17 
確定日 2003-07-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第2506280号「ドア用電気錠」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成13年 6月18日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13(行ケ)年第0332号平成15年 4月 8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 登録第2506280号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2506280号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)についての出願は、昭和63年11月2日に出願され、平成8年5月16日にその考案について実用新案権の設定登録がなされ、その後本件無効審判請求人である美和ロック株式会社より無効審判の請求があり、特許庁において無効2000-35570号事件として審理され、平成13年6月18日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がなされたが、これに対する訴えが請求人よりなされ、東京高等裁判所において平成13年(行ケ)第332号事件として審理され、平成15年4月8日に「特許庁が無効2000-35570号事件について平成13年6月18日にした審決を取り消す。」旨の判決が言い渡され、当該判決は確定した。

2.請求人が主張する無効理由の概略
明細書の【考案の詳細な説明】の項には、その考案、すなわちドア用電気錠に関する考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、構成及び効果を記載しなければならないところ、本明細書にはアクチュエータとボルトの連携機構が記載されていないため、当業者が容易にドア用電気錠の実施をすることができない。
したがって、実用新案登録第2506280号は実用新案法第37条第1項第4号(条文は請求人の主張とおり)に該当し、無効とすべきものである。

3.当審の判断
無効審判請求人が主張する無効理由について、審決取消請求事件(東京高等裁判所 平成13年(行ケ)第332号)の平成15年4月8日言渡しの判決において、次のように判示されている。(判決書第12頁第9行ないし第18頁第18行)
「(1) 従来のドア用電気錠は,ドアロックを開閉するアクチュエータと,カード等により入力された開施錠データを照合し,この照合結果に基づきアクチュエータを駆動制御する制御部とを備え,その電源である電池を室内側のドアノブを固定する長座に収納していたのに対し,本件考案は,上記のアクチュエータと制御部を備えるドア用電気錠において,電池をドアの内部に収納するとの構成により,長座をコンパクトにし,ドアとノブの間隔を小さくすることができるとの効果を奏するものである。請求項1に記載された本件考案の内容を簡単に要約すれば,本件考案は,ドアロックを開閉するアクチュエータと,制御部とを備えた本体をドア内部に収納するドア用電気錠において,電池を収納した電池ホルダを着脱自在とする電池ケースを本体と一体にドア内部に設けたことを特徴とするドア用電気錠である,ということができる。
本件考案は,このように,ドアの内部に収納される電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部を備えたドア用電気錠に係る考案であるから,本件明細書の考案の詳細な説明においては,ドアの内部に収納される電池ホルダ等の構成のみならず,このような電池によって稼働することができる,ドアの内部に収納されるアクチュエータと制御部を,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成等を記載しなければならない(旧実用新案権5条4項)。もっとも,当業者が当然に知っている技術常識に属する事項についての記載は,場合によってはこれを省略することもできるから,上記の記載要件を具備しているかどうかは,本件出願時において,当業者が当然に知っている技術常識をも考慮した上で,判断しなければならない。
(2) ドア用電気錠のアクチュエータとその駆動力伝達機構について,本件明細書に記載されているのは,単に,「このドア用電気錠本体31の内部にはソレノイドSOL1が収納されている。ソレノイドSOL1は図外の機構を介してラッチボルト33およびトリガボルト34を側板38から出し入れする。」(甲第2号証の2第4欄18行?21行),「この制御部に対して前述のソレノイドSOL1が図示しないコネクタを介して、後述する電池ボックスとともに接続される。」(同4欄25行?27行)」,及び,「電池ケース35には制御部およびソレノイドに接続された端子35a,35bが設けられているため、電池ホルダ32をこれらと直接接続する必要がなく」(同5欄2行?5行)との文言,並びに,錠本体中にソレノイドが配置されることを示している図(第1図)だけである。
-中略-
本件考案は,上記のとおり,いずれもドアの内部に収納される電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部とを備えたドア用電気錠に係る考案であるから,当然のこととして,本件明細書の考案の詳細な説明には,このようないずれも電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部につき,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その構成等を記載しなければならない。しかし,本件明細書には,アクチュエータとその伝達機構については,上記のような記載しかなく,このような考案の詳細な説明の記載では,本件考案に適用することができるソレノイドとその駆動力伝達機構が存在するか自体がまず明らかでなく,仮に客観的には存在するとしても,当業者は,それを既存の技術の中から探し出してこなければならないのであり,当業者が本件考案を容易に実施をすることができる程度に記載されたものということは困難である。
もっとも,このようなソレノイドとその伝達機構とが,明細書の詳細な説明に記載されていなくとも,当業者にとって容易にその実施をすることができるような技術常識に属する事項であるとすれば,その記載を簡略にすることが許容され,少なくとも,明細書の記載不備を理由に実用新案登録を無効とすることはできない,ということができる -中略- 。
しかし,本件考案は,上記のようなものである以上,単に,乙1文献及び乙2文献等から,ドア用電気錠において,ドアの内部に収容することができる往復の駆動力を発生するソレノイド,及び,ソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が周知であることを示すだけでは足りないのであり,これらのソレノイド及びソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が,ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって,ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり,かつ,このような小電力用のソレノイド及び伝達機構が,本件出願時において,当業者にとって,本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである -中略- 。
なお,ドアの内部に収納する電池で駆動するソレノイドと比べ,外部電源で駆動するソレノイドは,その定格電力が大きいのが特徴であることは,例えば,乙5文献(原告の総合カタログ。ただし,発行年月日は不明。)には,外部電源により駆動する電気錠が掲載されており,そのソレノイドは,19Vで1.3Aないし28Vで2.0Aの定格と表示されているのに対し,被告らが電池により駆動するものとして試作した本件模型において使用されているソレノイドは,6Vで1Aの定格のものであることから明らかである。したがって,ドアの内部に収納する電池で駆動するドア用電気錠においては,定格電力が小さくとも,ボルトの出し入れに必要な力を発揮するソレノイドを備える必要があるのである。
(3) 被告らが本訴において周知技術を立証する証拠として提出した乙号各証を見ても,本件出願時において,ドアの内部に収納することができるソレノイドとその駆動力を伝達してボルトを出し入れするドア用電気錠の技術内容を開示するものはあっても,錠本体の外部の電源に接続されるリード線等を備えたものであって,外部電源により駆動するものであったり,外部電源によるものか,あるいは,電池から供給される相対的に小さな電力により駆動するソレノイドに関する技術内容を開示するものか,それ自体からは明らかではないものばかりである。
・乙1文献には,ドアの内部に複数個のソレノイドとその駆動力の伝達機構を配置し,それによりボルトを出し入れする機構が開示されている。しかし,この機構が電池により駆動され得るものであるとは認めることができない。このソレノイドを駆動する電源のリード線が錠本体の外部に引き出されているところからすれば,むしろ,電池により駆動されるものではないとみるのが自然である。(乙第1号証第1,第5,第6図参照)
・乙2文献ないし乙4文献にも,同様に,ドアの内部に複数個のソレノイドとその駆動力の伝達機構とを配置し,それによりボルトを出し入れする機構が開示されている。しかし,このソレノイドとその伝達機構が小電力の電池により駆動され得るとの技術内容の開示はない。(乙第2-第4号証)
・乙5文献は,前記のとおり,その発行時期が不明である(仮に,本件考案の出願前に発行されたものであるとしても,このソレノイドを駆動する電源は,リード線が錠本体の外部に引き出されているところからすれば,電池により駆動され得るものではないとみるのが自然である。(乙第5号証)
・乙6文献は,窓自動開閉装置に係るものであり,乙7文献は,保管庫等に取り付ける電子錠に係るものである。いずれにも,複数個のソレノイドとその駆動力の伝達機構と,それによりボルトを出し入れする機構が開示されている。しかし,このソレノイドとその伝達機構とが小電力の電池により駆動され得るとの技術内容の開示はない。(乙第6,第7号証)
・乙8文献及び乙13文献は,いずれも,株式会社沖電気のソレノイドのパンフレットであり,ボルトを往復動させるために必要な双安定型のラッチングソレノイド等が紹介されている。しかし,それに必要とされる標準印加電力は,コイル2線式のもので3Wないし30W,コイル3線式のもので10Wから120W,その標準ストロークがそれぞれ1mmないし15mmであり,これらの定格のものがドアの内部に収納する小電力の電池により駆動し,ボルトの出し入れに必要な力を発揮し得るソレノイドであるかどうかは必ずしも明らかではない。(乙第8,第13号証)
以上によれば,本件明細書には,ドアの内部に収納される電池を電源として駆動する小電力用のソレノイドで,ボルトを出し入れするのに十分な力を持った,ソレノイドについて具体的な記載が全くないばかりか,本件出願時において,定格電力が小さくとも,ボルトの出し入れに必要な力を発揮するソレノイドが,本件明細書に記載するまでもないほどに,当業者間において周知の技術であったことを認めるに足りる証拠はない。
(4) 被告らは,本件考案が当業者にとって実施可能であることを立証する証拠として,本訴において本件模型(検乙第1号証)を試作して提出した。しかし,本件模型に使用されているソレノイドは,単に,「ソレノイド(6V/6Ω,1A定格)」と特定されているだけであり(乙第9号証),このソレノイドが本件出願時において当業者にとって技術常識といえるものであったのか,あるいは,このソレノイドが本件出願時においてそもそも存在していたものであるのか,いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。本件模型は,そもそも,本訴において被告らが試作したものであるから,それだけでは,本件出願時において,本件明細書の考案の詳細な説明に記載されたところに従って,当業者がこれを容易に製作し得たものであることを立証するものではない。本件模型によっては,本件明細書の考案の詳細な説明において,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その考案の構成が記載されていたということを立証することはできない。
(5) 以上からすれば,本件明細書の考案の詳細な説明においては,本件考案の「ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」との構成について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成についての記載がない,というべきであり, -中略- 。」

なお、判決が引用している乙6、7、8、13文献、検乙第1号証、乙9号証は、何れも上記平成13年(行ケ)第332号事件の中で本件無効審判の被請求人が提出した証拠である。

以上の判示事項によれば、本件明細書の考案の詳細な説明において,本件考案の「ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ」について,当業者がこれを容易に実施することができる程度に,その構成について記載されているとすることができない。

4.むすび
したがって、本願は、明細書の考案の詳細な説明の記載に不備があり、実用新案法第5条第3項に規定する要件を満たしていないから、本件実用新案登録は実用新案登録第37条第1項第3号に該当し無効とすべきものである。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論の通り審決する。
審理終結日 2001-05-09 
結審通知日 2001-05-18 
審決日 2001-06-18 
出願番号 実願昭63-143912 
審決分類 U 1 112・ 531- Z (E05B)
最終処分 成立    
前審関与審査官 鉄 豊郎辻野 安人  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 鈴木 憲子
矢沢 清純
登録日 1996-05-16 
登録番号 実用新案登録第2506280号(U2506280) 
考案の名称 ドア用電気錠  
代理人 小森 久夫  
代理人 小森 久夫  
代理人 飯田 岳雄  

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