• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A62B
管理番号 1081505
判定請求番号 判定2002-60100  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案判定公報 
発行日 2003-09-26 
種別 判定 
判定請求日 2002-11-06 
確定日 2003-08-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第2111378号の判定請求事件について、次のとおり判定する。   
結論 判定請求書に添付されたイ号写真(甲第1号証)及び平成15年3月24日付け判定請求回答書に添付されたイ号図面(甲第2号証)に示す型式番号「DSロックII型」の「ロープ緊張金具」は、登録第2111378号実用新案の技術的範囲に属しない。
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号写真(甲第1号証)及びイ号図面(甲第2号証)に示すところの被請求人の製造する型式番号「DSロックII型」の「ロープ緊張金具」(以下、「イ号物件」という。)が、実用新案登録第2111378号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2.本件考案
本件考案は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、その構成要件を分説すると、次のとおりである。
(a)2枚の細長い基板を所定の間隔を置いて対設固定し、
(b)この基板の一端部に止着ロープを止着し、
(c)この基板の反対側端部間にロープを支承する凹溝を有するロープ支承体を設け、
(d)この基板の中間部に軸杆を架設し、この軸杆に外周縁に喰い込み歯を形成したロープ係止爪板をロープ支承体の凹溝側に向けて回動自在に設け、
(e)このロープ係止爪板にロープ係止爪板とロープ支承体との間隙巾を狭める方向に作用するスプリングを設け、
(f)ロープ係止爪板の外周縁の形状を回動によりロープを挟持する間隙巾が次第に巾狭くなる形状に形成し、且つ喰い込み歯の形状をロープの撚り山の形状とピッチに合致するピッチの凹状歯に形成し、
(g)このロープ係止爪板にロープ係止爪板をスプリングに抗して回動せしめる工具の工具差込孔を設けたことを特徴とする
(h)親綱調節金具。

3.イ号物件
請求人が提出した判定請求書の「6 請求の理由」における平成15年3月24日付け判定請求回答書により訂正された「(4)イ号物件の説明」(同回答書第3頁26行?第4頁26行参照)並びに同回答書に添付された訂正後の「イ号図面」である甲第2号証の各記載内容を参考にすると、イ号物件は、次の(A)?(H)の構成からなるものとするのが相当と認める。
(A)フック1と、ユニバーサルジョイント11と、ロープホルダー21とからなり、ロープホルダー21は、一枚の金属板を二つ折りして形成した案内枠22を有し、案内枠22は、水平方向の折り曲げ部分に形成された、断面形状がロープL_(0)の外面に沿う円弧状をしたロープ案内部23と、このロープ案内部23に連接され、一側片が三角状に突き出した対向一対の側板部24からなる。
(B)この案内枠22の先端よりの三角形状の突き出し部分に、フック1を連結するユニバーサルジョイント11の連結軸12を設けている。
(C)フック1を連結するユニバーサルジョイント11の連結軸12に近接する案内枠22の先端よりの三角形状の突き出し部分に、ロープL_(0)を架け渡して折り返すローラ25をピン26によって回転自在に設けている。
(D)案内枠22の側板の後端部に軸杆27を架設し、この軸杆に外周縁に喰い込み歯30を形成したロープ係止爪板28を、案内枠22のロープ案内部23の内面に向けて回動自在に設けている。
(E)このロープ係止爪板28にこのロープ係止爪板28と案内枠22のロープ案内部23との間隙巾を狭める方向に作用するスプリング29を設けている。
(F)ロープ係止爪板28の外周縁の形状を回動によりロープL_(0)を挟持する間隙巾が次第に巾狭くなる形状に形成し、且つ喰い込み歯30の形状をロープL_(0)の撚り山の形状とピッチに合致するピッチの凹状歯に形成している。
(G)ロープ係止爪板28にロープ係止爪板28をスプリング29に抗して回動せしめる工具の工具差込孔31を設けている。
(H)(以上、(A)?(G)を備える)ロープ緊張金具。
なお、イ号物件を、判定請求書及び上記判定請求回答書において「ロープ固定具」と表現していたものを、平成15年5月22日の口頭審理において「ロープ緊張金具」と表現することが当事者間で合意された(平成15年5月22日の第1回口頭審理調書参照)。

4.対比・判断
(1)本件考案とイ号物件との対比
両者を対比すると、イ号物件が本件発明の構成要件(f)及び(g)と文言上一致する構成(F)及び(G)を備えており、また、イ号物件である「ロープ緊張金具」が親綱調節金具として使用されるものであることに両当事者間に争いがないといえるから、イ号物件は、本件発明の構成要件(f)、(g)及び(h)を充足するといえる(ちなみに、被請求人は、平成15年5月22日付け口頭審理陳述要領書の第5頁にも記載しているように、イ号物件が本件考案の構成要件(f)及び(g)を充足することを争っていない)。
しかしながら、イ号物件が、本件考案の構成要件(a)ないし(e)を充足するか否かは明らかでない。

(2)イ号物件が本件考案の構成要件(a)?(e)を充足するか否かについて
被請求人は、イ号物件が本件考案の構成要件(c)、(d)及び(e)を少なくとも充足しないと主張する(口頭審理陳述要領書の第6頁6?7行参照)。
そこで、イ号物件が、本件考案の構成要件(c)、(d)及び(e)を充足するか否かにつき、先に検討する。
(イ)イ号物件が本件考案の構成要件(c)、(d)及び(e)を充足するか否かについて
被請求人は、本件発明の構成要件(c)、(d)及び(e)における「ロープ支承体」につき、「ロープを掛け渡して引っ張る支点軸となる」ものと主張していると解され(口頭審理陳述要領書の第3頁6?7行参照)、これに対して、請求人は、「凹溝に支承したロープをロープ係止爪板とで挟持し緊張するためのもの」であり、「ロープを折り返して支承する」という特定はしていないと主張する(判定請求理由補充書4頁24?27行参照)。
そこで、本件考案における「ロープ支承体」の技術的意義につき、検討する。
本件考案の明細書には、本件考案の「ロープ支承体」に関して、次のように記載されている。
a.考案の詳細な説明における[産業上の利用分野]の欄
「本考案は、かかる親綱を水平に緊張する親綱調節金具に係るものである。」(本件考案の公告公報1頁2欄の9?10行参照)
b.考案の詳細な説明における[作用]の欄
「ロープ4を通した後、…(中略)…、ロープ係止爪板9の喰い込み歯8がロープ4の撚り山に係合状態に密着しロープ4をロープ支承体6の凹溝5に押圧することになる。そして第3図に示すようにロープ4を親綱aとして使用する場合には、ロープ4の端部を牽引するとロープ4は水平に緊張され、この親綱aに作業者の腰に止着した命綱b(通称子綱)のカラビナ14をかけて作業する。」(本件考案の公告公報2頁3欄の42?50行参照)
c.考案の詳細な説明における[効果]の欄
「本考案は、上述の様に構成したからロープ端部を牽引するだけでロープ係止爪板を回動させてロープの長さを所望長だけ調節することが出来るから極めて簡単にロープの牽引調節が出来、それだけ作業能率の向上を高めることになる。…(中略)… このように本考案は、簡単にロープ長を調節出来たり、ゆるめたり、また結び目のあるロープでも通すことが出来る便利な親綱調節金具を提供し、…(中略)…低コストになる。 また、ロープ係止爪板の喰い込み歯はロープ撚り山の形状とピッチに合致するピッチの凹状歯に形成したから落下衝撃が瞬間にかかっても喰い込み歯とロープの撚り山との密着係止作用によりロープが抜ける危険がなく、ロープ係止爪板がロープをロープ支承体に強く圧着して確固にロープを止着するから命綱としての役目を確実に果たすことになる秀れた実用上の効果を有するものである。」(本件考案の公告公報2頁4欄の7行?3頁6欄の3行参照)
上記記載事項aないしcによれば、本件考案は、親綱を水平に緊張するために使用される親綱調節金具に係るものであるから、該親綱の長さを調節するに際して、ロープ端部を牽引することが必要となるものであって、該ロープ端部を牽引することによりロープ係止爪板が回動してロープを緊張することができ、ロープの長さを所望長だけ調節した後は、ロープ係止爪板がロープをロープ支承体に強く圧着して確固にロープを止着するという作用ないし効果を実現するものと解される。
ところで、親綱を水平に緊張する場合、すなわち、ロープ端部を牽引する場合を考えてみると、本件考案の図面の第1図または第3図の下方に向かってロープ4が牽引される状態が想定されるところ、該状態においてロープが緊張されるためには、基板1、2が該ロープの緊張時の引っ張り力(以下、「ロープの緊張力」という。)に抗してその位置に保持されることが必要であり、このため、本件考案の基板の一端部には止着ロープが止着されることが規定されていると解される。
そして、止着ロープ3で保持状態とされた基板1、2において、ロープの緊張力を受け止める箇所は、止着ロープ3と丁度反対側に位置するところの基板1、2の端部間に配置されたロープ支承体6であって、これ以外にロープの緊張力を受け止める手段が該基板に設けられていないことは明らかである。
さらに、親綱を緊張させた後に該親綱を圧着する場合を考えてみると、ロープ係止爪板9の喰い込み歯8がロープ撚り山の形状とピッチに合致するピッチの凹状歯に形成されているため、該喰い込み歯とロープの撚り山との密着係止作用により、ロープ係止爪板9がロープをロープ支承体6に強く圧着して確固にロープを止着していると解される。
してみると、本件考案の「ロープ支承体」の技術的意義は、ロープ係止爪板とともにロープを強く圧着して確固にロープを止着するというロープ止着作用のみならず、ロープを牽引・緊張する際に、ロープの緊張力を受け止めるというロープの支承作用をも実現できることにあるというべきである。
このような理解は、本件考案において、「基板の一端部に止着ロープを止着し」、「この基板の反対側端部間にロープを支承する凹溝を有するロープ支承体を設け」、さらに、「この基板の中間部に軸杆を架設し、この軸杆に外周縁に喰い込み歯を形成したロープ係止爪板をロープ支承体の凹溝側に向けて回動自在に設け」るという配置関係(本件考案の構成要件(b)?(e)参照)を規定していることとも整合するものといえる。
そこで、上記理解を前提としてイ号物件の構成を検討してみると、イ号物件における「案内枠22の先端よりの三角形状の突き出し部分に、フック1を連結するユニバーサルジョイント11の連結軸12を設け」た構成(イ号物件の構成(B)参照)は、ロープの緊張力に抗してロープ緊張金具をその位置に保持するために必要な構成であり、該連結軸と対向する位置である案内枠22の先端よりの三角形状の突き出し部分に配置されたところのローラ25に、ロープL_(0)が架け渡され、折り返されることから、上述したロープの緊張力を受け止める作用は、該ローラ25によって奏されることが明らかである。(ちなみに、イ号物件における「ロープ案内部23」が上述のロープの緊張力を受け止める作用を奏しないことは明らかである。)
すなわち、イ号物件において、親綱を水平に緊張する場合(ロープ端部を牽引する場合)を考えてみると、この際にロープ係止爪板28と案内枠22のロープ案内部23との間隙巾は広がる方向に変化しており、ロープ係止爪板28とロープ案内部23とによるロープの係止作用が実質的に働かない状態にあることが明らかであるから、上述したロープの緊張力を受け止めるというロープの支承作用は、該ローラ25によって実現されていることは明らかである。
してみると、イ号物件における「ローラ25」は、本件考案の構成要件(c)における「ロープを支承する凹溝を有するロープ支承体」が奏する二つの作用のうちのロープの支承作用を奏するものに相当するといえる。
ところが、イ号物件における「ローラ25」は、その「外周縁に喰い込み歯30を形成したロープ係止爪板28」とともに、ロープを強く圧着して確固にロープを止着するというロープ止着作用をも奏するものとして構成されていないことは明らかであるから、本件考案における「ロープ支承体」に相当するものということができない。
したがって、イ号物件は、本件考案の構成要件(c)、(d)及び(e)における「ロープ支承体」を具備するということができないから、当該構成要件を充足するということはできない。

(3)まとめ
以上検討したように、イ号物件は、本件考案の構成要件(f)、(g)及び(h)を充足するといえるものの、本件考案の構成要件(c)、(d)及び(e)を充足するということができないから、本件考案の構成要件(a)及び(b)につき更に検討するまでもなく、イ号物件は、本件考案の構成要件(a)ないし(f)の全てを充足するということができない。
なお、平成15年5月22日の口頭審理において、本判定請求につき、請求人は均等に関する主張をする意志がないことが確認されたが、均等の要件につき付言すると、次のとおりである。
本件考案の明細書における[考案が解決しようとする課題]の欄の記載からみると、本件考案の構成要件(f)及び(g)は、明らかに本件考案の本質的部分であるといえるものの、本件考案における構成要件(a)?(e)までもが明らかに本質的部分であるということはできない。
さらに、一対の基板における一端部に配置の止着ロープ、他端部に配置のロープ支承体、さらにその中間部にロープ係止爪板の軸杆を架設配置するという本件考案における配置構成は、当初明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたものであって、審査経過において限定補正されたものではないと解されることを考慮すると、上記構成要件(a)?(e)については均等論を適用する余地があるともいえる。
しかしながら、本判定請求事件において、イ号物件と本件考案とが構成上相違する部分につき、これを均等のものといえるための証拠を見出し得ないことから、イ号物件を本件考案の均等物であるということができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2003-08-01 
出願番号 実願昭63-148632 
審決分類 U 1 2・ 1- ZA (A62B)
最終処分 成立    
前審関与審査官 佐田 洋一郎篁 悟  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 藤原 直欣
和泉 等
登録日 1996-03-22 
登録番号 実用新案登録第2111378号(U2111378) 
考案の名称 親綱調節金具  
代理人 東尾 正博  
代理人 鳥居 和久  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  
代理人 鎌田 文二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ