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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
管理番号 1084966
審判番号 不服2000-2504  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2003-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-02-25 
確定日 2003-10-01 
事件の表示 平成 4年実用新案登録願第 76935号「手摺材」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 5月13日出願公開、実開平 6- 35473]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 【1】手続の経緯・本願考案
本願は平成4年10月8日の出願であって、その請求項1に係る考案(以下「本願考案」という)は、平成13年5月25日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】ASTM D 1894に規定する動摩擦係数が0.30以上の合成樹脂塗膜層を形成すべく、塗料中に無機質または有機質等の微粉末を添加した塗料、または塗料中の合成樹脂に摩擦係数の高い樹脂を用いた塗料を、基材表面に塗布してなる手摺材。


【2】刊行物に記載された考案及び技術的事項
当審が、平成13年3月15日付けで通知した拒絶理由通知書において、刊行物1として引用した実願昭59-194025号(実開昭61-109393号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という)、及び、同、刊行物2として引用した実願昭63-74047号(実開平1-177327号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という)には、それぞれ、次のような技術事項が記載されている。
〔1〕刊行物1(実願昭59-194025号(実開昭61-109393号)のマイクロフィルム)
(ア)「〔産業上の利用分野〕本考案は下肢不自由者が利用するトイレ、洗面所、浴場などに使用される下肢不自由者の介助用手摺に関するものである。」(2頁4?7行)
(イ)「〔従来の技術〕下肢機能に障害を有する人々の積極的な一般社会への参加を補助し、促進するために公共施設やそれに準じた不特定多数人の利用を目的とした施設、病院等のトイレ、洗面所、浴場などには、車椅子や杖等の補助具から便器、洗面台への移動、移行が安全且つ容易なように便器、洗面台の両側へ金属パイプ製の手摺が取付けられており、また浴場等においてもシャワーを浴びるところ、浴槽の側壁などに同材質でつくられた手摺が取付けられているのはよく知られている。」(2頁8?18行)
(ウ)「〔問題を解決するための手段〕本考案は前記問題点を解決するために、金属製パイプをもって所定形状に形成してなる手摺のうち、下肢不自由者が車椅子、杖などの補助具から手摺へ、又は手摺から補助具へ移動、移行するに際して手で握る手摺の握り部分を、金属製パイプの外周に抗菌剤配合の弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムで被覆した被覆パイプを用い・・・るという技術的手段を採用したものである。」(3頁8行?4頁1行)
(エ)「〔実施例〕以下本考案の一実施例として示した第1図?第9図について説明する。第1図及び第2図は小便器用手摺を示したものであって、この第1実施例においては、便器1の左右に側面倒U字形に横突設している部分と正面上方の水平杆部分の握り部分2を金属パイプ3の外周を抗菌剤配合の弾性を有する合成樹脂又は合成ゴム4で被覆した被覆パイプ5で形成し、・・・。第5図及び第6図に示すものは、洋便器用手摺に実施した第2実施例を示したものであって、側面逆L字形に横突設している握り部分2を抗菌剤配合の弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムで被覆して被覆パイプ5とし、・・・。第9図に示すものは、シャワー設置場所に取付けられた第3実施例の手摺を示したものであって、壁面13に沿って曲げられている握り部分2を、金属パイプ3の外周を抗菌剤配合の弾性を有する合成樹脂又は合成ゴム4で、しかも外周面が粗面となっているもので被覆して被覆パイプ5とし、・・・ている。」(4頁11行?6頁19行)
(オ)「〔考案の効果〕このように、本考案における手摺は下肢不自由者が車椅子、杖等の補助具から手摺へあるいは手摺から補助具への移動、移行に際して握る手摺の握り部分を抗菌剤配合の弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムで被覆した被覆パイプを使用しているので、抗菌効果を有し、ソフトで暖かい感触を得ることができると共に弾性を有するので握持しやすくまたすべり止め効果を奏する。特に外周面を粗面とするとすべり止め効果がより一層大となり且つ安全性の面において有利となる。」(6頁20行?7頁10行)
これら(ア)?(オ)の記載を含む明細書と図面の記載及び手摺に係る当業者の技術常識からみて、刊行物1には、
「金属パイプ表面に弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムの層が形成されてなる手摺用被覆パイプ。」の考案が記載され、
また、手摺用被覆パイプの表面が、合成樹脂又は合成ゴムの層であるので、ソフトで暖かい感触を得ることができると共に弾性を有し、握持しやすくまたすべり止め効果を奏すること、及び、合成樹脂又は合成ゴムの層の表面を粗面とすると、すべり止め効果がより一層大となり安全性の面において有利になることが記載されているものと認められる。

〔2〕刊行物2(実願昭63-74047号(実開平1-177327号)のマイクロフィルム)
(カ)「石粉と合成ゴム系塗料を各略半量を混合した溶液を熱収縮チューブの表面に径方向に適宜巾間隔に、直線状にコーテングし、すべり止部とした・・・表面すべり止。」(実用新案登録請求の範囲)
(キ)「〔技術分野〕本考案は手すり等のパイプ類の表面に熱収縮チューブを固着させたすべり止めに関する。」(1頁12?14行)
(ク)「〔考案の構成〕熱収縮チューブ2に石粉と合成ゴム系塗料を各略半量を混ぜ合せると付着性に優れた性能を有する溶液を例ば略5mm巾間隔に直線状にコーテングしたすべり止部3は厚みが約0.5mm?0.7mm位の厚さにコーテングさせて成った該チューブをパイプ1又は建築材などに包着して加熱収縮させるとコーテングしたすべり止部3が約0.7mm?0.9mm位に盛り上り凸凹面が形成されてすべり止となるのである。」(1頁19行?2頁8行)
これら(カ)?(ク)の記載を含む明細書と図面の記載及び手摺に係る当業者の技術常識からみて、刊行物2には、
「手摺パイプの表面にチューブを装着してなる手摺材において、チューブに石粉を添加した合成ゴム系塗料をコーテングしてすべり止部が形成されてなる手摺材。」の考案が記載されているものと認められる。


【3】本願考案と刊行物1に記載された考案との対比・判断
〔1〕本願考案と刊行物1に記載された考案との対比
刊行物1に記載された考案の「金属パイプ」,「手摺用被覆パイプ」は、本願考案の「基材」,「手摺材」にそれぞれ相当し、また、刊行物1に記載された考案の「弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムの層」については、後述するように塗膜により形成する層であるのか否か定かでないが、手摺に滑り止め機能を与える合成樹脂層として技術的に共通するものであるから、本願考案と刊行物1に記載された考案とは、「基材表面に滑り止め用合成樹脂層が形成されてなる手摺材。」の点で構成が一致し、以下の点で構成が相違している。
〈相違点1〉
「滑り止め用合成樹脂層」の形成に関して、本願考案が、塗膜により形成するものであるのに対して、刊行物1に記載された考案では、塗膜により形成するものであるのか否か定かでない点。
〈相違点2〉
「滑り止め用合成樹脂層」の表面特性に関して、本願考案が、「ASTM D 1894に規定する動摩擦係数が0.30以上」であるのに対して、刊行物1に記載された考案では、表面の動摩擦係数について何ら言及していない点。
〈相違点3〉
「滑り止め用合成樹脂層」の材料・材質に関して、本願考案が、「(ASTM D 1894に規定する動摩擦係数が0.30以上の合成樹脂塗膜層を形成すべく)塗料中に無機質または有機質等の微粉末を添加した塗料、または塗料中の合成樹脂に摩擦係数の高い樹脂を用いた塗料」であるのに対して、刊行物1に記載された考案では、塗料であるのか否か定かでなく(上記相違点1と関連)、しかも、その材料・材質については合成樹脂又は合成ゴムとしか言及していない点。

〔2〕構成の相違点についての判断
〈相違点1について〉
(1)刊行物2には、手摺パイプの表面にチューブを装着してなる手摺材においてチューブに石粉を添加した合成ゴム系塗料をコーテングしてすべり止部を形成すること、即ち、塗料のコーテングによりすべり止部を形成することが記載されている。
(2)そして、本願明細書中には、基材の表面に合成樹脂塗料を被覆して合成樹脂塗膜層を形成することが従来技術である旨述べている(段落【0003】参照)ことからみて、刊行物1に記載された考案において、「滑り止め用合成樹脂層」を形成する際に、刊行物2に記載された考案の技術を適用することに、格別の阻害要因を認めることができない。
(3)従って、本願考案における当該相違点1に係る構成は、刊行物2に記載された考案の技術から当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

〈相違点2について〉
(1)合成樹脂塗膜層の動摩擦係数について、「ASTM D 1894」の規格による数値で「0.30以上」のものが手摺の滑り止め機能について良好であるということを具体的に示す文献は見あたらず、この点において、請求人の「手摺材の動摩擦係数に係る臨界性を有する知見は、新規な知見であります。」(請求書3頁11?12行参照)との主張のとおりであると認められるところ、刊行物1に記載された考案において、手摺材の表面を構成する合成樹脂層(弾性を有する合成樹脂又は合成ゴムの層、以下同様)が滑り止め機能を有するものであるから、当該合成樹脂層は滑り止め機能を奏するための相応の動摩擦係数を有するものと推測でき、そして、合成樹脂層(膜)の技術分野において、動摩擦係数についての「ASTM D 1894」の規格が従来から周知であり(「実用プラスチック用語辞典」、昭和50年1月20日第2版第4刷、株式会社プラスチック・エージ発行、瀬戸正二監修、大阪市立工業研究所プラスチック課編纂、522?523頁「摩擦係数」の項参照)、また、合成樹脂膜の他部材との接触性能の向上のために「ASTM D 1894」の規格に着目することも従来から周知である(例.特開昭55-34968号公報〈フィルム巻取性能の向上のためのフィルム間の動摩擦係数について記載〉,特開昭63-130333号公報〈印刷や接着性,機械的性能等の向上のためのフィルム間の動摩擦係数について記載〉,特開平1-169100号公報〈シール材との接触性能の向上のための埋設管表面の不透水膜の動摩擦係数について記載〉参照)から、このような合成樹脂層(膜)の技術分野における従来から周知である動摩擦係数の規格を、同じく、動摩擦係数について考慮すべきものである手摺の合成樹脂層の規格として採用することに、格別の阻害要因を認めることができないから、本願考案が、手摺の滑り止め機能について、「ASTM D 1894」の規格による数値という新規な知見に着目したものであるとしても、手摺表面の合成樹脂層の摩擦性能を規定するために、動摩擦係数の規格として従来から周知である「ASTM D 1894」の規格を採用することは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。
(2)また、本願考案において、合成樹脂塗膜層を「ASTM D 1894」の規格による動摩擦係数の数値を「0.30以上」としたことについては、その数値範囲を定めた技術的意義(有利な作用効果)が、「握力の弱い高齢者や病人でも確実に体を支えることができて安全である。」(段落【0020】参照)ということであり、これは、合成樹脂層による「下肢不自由者」に対しての滑り止め効果の達成という刊行物1に記載された考案の技術的意義と基本的に同等のものであると推測され、また、同等のものではないとする格別の技術的理由もないから、当該合成樹脂層の表面特性として、「ASTM D 1894」の規格による数値を「0.30以上」のものとすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。
(3)従って、本願考案における当該相違点2に係る構成は、従来から周知の事項を考慮することにより、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。
(4)尚、請求人は、上記各周知例について、「技術的課題との対応において本願考案の構成を示唆する如何なる要素も存しない」(意見書1頁20?21行参照)と主張しているが、当審においては、動摩擦係数に関する「ASTM D 1894」の規格が従来から周知であることを単に例示するために上記各周知例を引用しており、各周知例に記載された動摩擦係数の数値自体について引用するものではないから、このような請求人の主張は採用できないし、また、請求人は、刊行物1に記載された考案の滑り止め効果について、「手摺材を把持したときの被覆層の弾性変形に基づく表面形状の変化によって(指が埋入して)滑り難くしたもの」であるから本願考案と刊行物1に記載された考案とは別異である旨主張している(意見書2頁17?25行参照)が、刊行物1に記載された考案の合成樹脂層は、その弾性の程度如何にかかわらず層表面の摩擦により「滑り難く」なるもの、即ち、当該合成樹脂層には、「滑り難く」なるための相応の動摩擦係数を有することは明らかであるから、このような請求人の主張は採用できない。

〈相違点3について〉
(1)刊行物2には、上記したように、「手摺パイプの表面にチューブを装着してなる手摺材において、チューブに石粉を添加した合成ゴム系塗料をコーテングしてすべり止部が形成されてなる手摺材。」の考案が記載されており、当該考案における「石粉」,「合成ゴム系塗料」は、本願考案の「微粉末」,「塗料」にそれぞれ相当するから、刊行物2に記載された考案には、本願考案における当該相違点3に係る構成が開示され、また、上記周知例として挙げた特開昭55-34968号公報には、合成樹脂膜の表面粗度に関し、「ASTM D 1894」の規格による数値を調整するために、樹脂中に無機粒子を添加する方法や重合のために使用した不溶解塩を一定量残存させる方法等があることが記載されており、本願考案における当該相違点3に係る構成が開示されているものと認められる。
(2)そして、刊行物1には、手摺材(手摺用被覆パイプ、以下同様)の表面を合成樹脂又は合成ゴムの層とすることですべり止め効果を奏すること、及び、手摺材の表面を粗面にすることですべり止め効果をより一層大とし且つ安全性の面において有利とすることが記載されているから、刊行物1に記載された考案に、刊行物2に記載された考案の技術や上記周知例に記載された技術を適用することに、格別の阻害要因を認めることができない。
(3)従って、本願考案における当該相違点3に係る構成は、刊行物2に記載された考案の技術や上記周知例に記載された技術から、当業者がきわめて容易に想到し得たものである。

〔3〕効果について
本願考案に係る構成によって奏する効果も、刊行物1に記載された考案並びに刊行物2に記載された考案の技術及び従来から周知の技術から普通に予測できる範囲内のものであって格別なものが認められない。


【4】むすび
以上のとおりであるから、本願考案は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1,2に記載された考案及び従来から周知の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
審理終結日 2002-02-19 
結審通知日 2002-03-12 
審決日 2003-08-12 
出願番号 実願平4-76935 
審決分類 U 1 8・ 121- WZ (E04F)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 山田 忠夫井上 博之  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 蔵野 いづみ
伊波 猛
考案の名称 手摺材  
代理人 石井 将  

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