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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A01K
管理番号 1093259
審判番号 無効2002-35054  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-13 
確定日 2003-04-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第1932638号実用新案「釣竿」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 理由
1.手続の経緯
本件登録第1932638号実用新案に係る出願は、昭和60年3月25日に実用新案登録出願され(実願昭60年42888号)、平成2年5月8日に出願公告(実公平2年16627号)がなされ、平成2年8月6日に異議申立がなされたが、平成4年6月23日に「異議理由なし」との決定がなされ、平成4年10月14日に設定登録がなされたものである。
これに対し、本件審判請求人より、平成14年2月13日に本件無効審判の請求がなされた。

なお、本件審判請求人は、平成11年4月8日、実用新案登録無効の審判(平成11年審判第35164号)を請求し、平成12年4月17日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決がなされたので、東京高等裁判所に出訴して審決の取消を請求したが、「原告の請求を棄却する」との判決(平成12年(行ケ)第192号、平成13年12月13日判決言渡)がなされている。

2.本件考案
本件登録第1932638号実用新案に係る考案の要旨(以下、「本件考案」という)は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布で形成した竿管表面に、これと同質材料からなりかつねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形して移動フード進退用の雄螺子を設けると共に前記雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように形成したことを特徴とする釣竿。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第10号証を提出し、本件考案は甲第1号証に記載された考案に基づき、周知・慣用技術を参酌することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は旧実用新案法第3条第2項の規定に該当し、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものであると主張している。

甲第1号証:特開昭59-73683号公報
甲第2号証:特開昭55-61430号公報
甲第3号証:特開昭51-3989号公報
甲第4号証:実願昭58-3625号(実開昭59-110576号)のマイクロフィルム
甲第5号証:米国特許第3381716号明細書
甲第6号証:米国特許第3673029号明細書
甲第7号証:特公昭51-25455号公報
甲第8号証:特開昭53-62693号公報
甲第9号証:米国特許第2749643号明細書
甲第10号証:特開昭59-161435号公報

4.請求人の示した甲各号証に記載された事項

甲第1号証には、「繊維強化プラスチック製のパイプであって、中間層と内層と外層とからなり、中間層は強化繊維がパイプの長さ方向に配置され、内層及び外層は強化繊維が周方向に配置されていることを特徴とするプラスチックパイプの構造。」(特許請求の範囲)、「この発明は繊維強化プラスチック製のパイプの構造の改良に関するものである。」(第1頁左下欄第11行?第12行)、「すなわちこの発明は、繊維強化プラスチック製のパイプであって、中間層と内層と外層とからなり、中間層は強化繊維がパイプの長さ方向に配置され、内層及び外層は強化繊維が周方向に配置されているものである。」(第1頁右下欄第14行?第19行)、「プラスチックパイプ1は繊維強化プラスチック製の内層2と中間層3と外層4とからなり、各層が互いに積層されて一体の管壁を形成している。そして各層の強化繊維は内層2および外層4が周方向、中間層3が軸方向に配置されている。すなわち中間層3がパイプ材としての基本的な荷重(引張り、圧縮、曲げ)を支える主材となり、内層2および外層4が二次的な荷重(潰し、引裂き等)を支える補強材となる。」(第2頁左上欄第1行?第9行)、「以上説明したように、この発明は強化複合材からなるパイプにおいて、管壁の周方向の断面係数を増大させたものであり、パイプ材としての二次的な荷重に対してもすぐれた比強度を発揮するため種々の用途に適用することができ、例えばヨットのマストやスピンポールあるいは釣竿等にも適用することができる。」(第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第2行)と記載されている。

甲第2号証には、「繊維織布又は繊維引前シートに樹脂を含浸せしめたプリプレグシートを芯金に巻付けた後、該シート巻着体の任意の周面に型材を載置し又は巻付け、該型材及びシート巻着体の外周面をテープで緊締した後、使用した樹脂の硬化条件に従い硬化させ、次いで、該硬化管状体より芯金、テープ及び型材を取除いた後、型材により形成された管状体表面の型溝が残る程度に硬化管状体の表面を研磨することを特徴とする管状体の製造方法。」(特許請求の範囲)、「本発明は、繊維織布又は繊維引前シートに樹脂を含浸せしめたプリプレグシートを用いて釣竿、ゴルフクラブ用ロッド、バトミントンラケット用ロッド等の管状体を製造する方法、特に、管状体の表面にリールシート嵌合溝、糸導環取付溝、文字・図柄等、握り部の滑り止め手段等を施こす場合に有用な管状体の製造方法に関する。」(第1頁左下欄第16行?同頁右下欄第4行)、「繊維織布又は繊維引揃シートに樹脂を含浸せしめたプリプレグシートを芯金に巻着した後、該シート巻着体の任意の周面に型材を載置し又は巻付け、該型材及びシート巻着体の外周面をテープで緊締した後、使用した樹脂の硬化条件に従い硬化させ、次いで、該硬化管状体より芯金、テープ及び型材を取除いた後、型材により形成された管状体表面の型溝が残る程度に硬化管状体の表面を研磨することを特徴とするものである。」(第2頁左上欄第9行?同欄第18行)、「第1図(イ)において1はプリプレグシートで、これはガラス、炭素、有機物、金属等の繊維織布に樹脂を含浸せしめたものとなっている。なお、繊維織布の替りに引揃シートを用いることもできる。このプリプレグシート1を第1図(ロ)に示すように芯金2に巻付けてシート巻着体3を形成する。ここで、テーパ状管状体を製造するときは、テーパ状の芯金を用いればよく、一定径の管状体を製造するときは一定径の芯金を用いればよい。」(第2頁右上欄第1行?第10行)、「その後、プリプレグシート1に使用した樹脂の硬化条件に従いシート巻着体3を硬化させ、しかる後、テープ5を解いて除去し、型材4をシート巻着体3から取り外す。」(第2頁右上欄第20行?同頁左下欄第3行)、「第2図は、上記の方法によって釣竿3の外周面に板状リールシート取付溝3Aを形成した例を示すものである。」(第2頁左下欄第13行?第15行)と記載されている。

甲第3号証には、「この発明は振り出し式の釣竿の改良に係り、その釣竿を構成する竿杆を収納せる筒体に握り部及び魚釣り用リールを取付け支承するリールシート部を一体に成型し、竿杆の保護、持ち運びの便利さ及び使用時の軽快さを目的としたものである。 以下、本発明の実施例を図面について説明すると、竿収納筒体(A)は合成樹脂材で筒状に成形し、その周面には後端側より前端側に向つて握り部(1)、魚釣り用リール(a)を支承するリールシート部(2)を夫々形成すると共に、筒体(A)の前部内側面は前端開口部に向って順次小径となるテーパー面(3)となし、竿収納筒体(A)内に収納せる振り出し式竿部材(4)の一番外側にあたる竿杆(4')の後部外面が当接係合し、竿収納筒体(A)に振り出し式竿部材(4)が連続状となるようにする。握り部(1)は竿収納体(A)の表面に溝(5)或いは凹凸状の粗面を施こして手の滑りを防止するようにする。 リールシート部(2)は固定環(2-1)、可動環(2-2)及び可動環(2-2)の前後動を規制する締付螺子環(2-3)、それに前記螺子環(2-3)を前後摺動させる螺子条(2-4)より成り、固定環(2-1)は握り部(1)の前方に固着し、その前方には魚釣り用リール(a)の脚部(a')が装着される平滑面(6)を形成すると共に、平滑面(6)の前方に締付螺子環(2-3)が螺合するする螺子条(2-4)を刻設形成する。」(第1頁左下欄第8行?同頁右下欄第15行)と記載されている。

甲第4号証には、「移動フードと送りナットを嵌合した螺子筒の前部外周一側にリール脚装着用の固定フードを一体に合成樹脂材で膨出形成し、上記螺子筒の後部に握り筒を嵌合固定し、上記固定フードの突出頂部から螺子筒の前端に向って長くかつ緩い傾斜面を一体に形成して握り部となしたことを特徴とする釣竿用パイプ状ハンドル。」(実用新案登録請求の範囲)、「この考案は、螺子筒前部外周一側にリール脚装着用の固定フードと握り部を合成樹脂材で一体に形成した釣竿用パイプ状ハンドルに関する。」(第1頁第12行?第14行)、「本考案の目的は、上記欠点に鑑み、螺子筒の前部外周一側に合成樹脂材で一体に膨出形成した固定フードの突出頂部から前端に向って長くかつ緩い傾斜面の握り部を一体に形成して握り易く、強度の強い握り部を備えた部品点数が少ない釣竿用パイプ状ハンドルを提案することにある。 以下、図示の実施例によって本考案を説明すると、第1図から第3図で釣竿用パイプ状ハンドルは螺子筒1の前部外周一側にリール脚装着用の固定フード2が合成樹脂材で一体に膨出形成され、固定フード2の突出頂部2aから螺子筒1の前端に向って例えば手の平の横幅より長い寸法Lでかつ緩い傾斜面3aの握り部3が一体に形成され、螺子筒1の外周には移動フード4が摺動自在に嵌合されると共に雄螺子1aに送りナット5が螺合され、螺子筒1の後部外周に有底筒状の握り筒6が嵌合固定されている。 上記釣竿用パイプ状ハンドルの中心孔7には釣竿8が嵌合固定されている。 釣竿用パイプ状ハンドルが上述のように構成されてリール脚が取り付けられるときは、固定フード2と移動フード4の凹部にリール脚9の取付板両端が夫々挿入され、移動フード4が送りナット5で固定フード側に押圧されて固定され、釣竿用パイプ状ハンドルが両手で握られるとき一方の手で握り部3外周が、他方の手で握り筒6の外周が夫々握られる。」(第2頁第8行?第3頁第14行)と記載されている。

甲第5号証には、請求人提出の抄訳によれば、「ガラス強化プラスチックパイプは硬化樹脂に、予め張力がかけられた繊維の補強材を埋め込んで提供される。パイプ両端には雄螺子及び雌螺子をその上に成形する。その上に成形された螺子は隣接して配置され、張力がかけられた状態で縦方向のガラスフィラメントに結合し、それによってそのような螺子の剪断抵抗が向上する。さらに、雌螺子は、フープ強度を向上するために螺子の頂部に螺旋形の繊維のガラスの繊維強化材が配置される。」(抄訳第1頁第3行?第8行)、「マンドレルの長手方向の一端には、マンドレル上の固定位置にニップル状部材14がねじ16によって取り付けられる」(抄訳第1頁第10行?第11行)、「ニップル14はねじ山部18を備え、;前記のねじ山部は、マンドレル及びニップル・アセンブリーの周りに形成されるガラス強化樹脂パイプの軸継手端の螺子鋳型を構成する。」(抄訳第1頁第13行?第15行)、「そのようなパイプは、エポキシ樹脂のような硬化樹脂中に埋め込まれた縦方向と螺旋状のガラスロービングの層が交互するガラス強化樹脂パイプを構成する。」(抄訳第1頁第17行?第18行)、「ニップル14上の樹脂離型剤の塗布に続いて、相当量の樹脂と硬化剤(樹脂と硬化剤との混合物が塗布するには薄すぎる場合、増調剤と共に)を、ニップルねじ山のまわり全体に塗布する。」(抄訳第2頁第2行?第4行)、「マンドレルが回転駆動されるに従って、この増調された樹脂はニップルねじ山に注がれる。」(抄訳第2頁第6行?第7行)、「この増調された樹脂質の混合物の塗布に続いて、樹脂質の混合物中に取り込まれた空気の分散を確保するために、約3?5本のガラス繊維からなるガラスロービング(図3中のストランド52参照)が、ねじ山18の谷の周りに螺旋状に巻回される。」(抄訳第2頁第9行?第12行)、「取り込まれた空気の除去の確保に加えて、フィラメントは、ねじ山に、ねじ山を含むパイプ部分にかけられる外力に抵抗するフープ強度を付与する。」(抄訳第2頁第14行?第15行)と記載されている。

甲第6号証には、請求人提出の抄訳によれば、「本発明は、螺子付きのフィラメント巻パイプ及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、両端が滑り止め加工されたマンドレルの上に樹脂含浸ガラス繊維を螺旋状に巻き付けて螺旋螺子を形成することの改良に関するものである。」(抄訳第1頁第3行?第6行)、「従来、ねじ山をつけたフィラメント巻パイプでは、通常、螺子は、切削によりパイプの両端に設けられる。」(抄訳第1頁第8行?第9行)、「パイプの表面上が、螺子形成のために切削されるので、螺子歯は樹脂に埋設された繊維ガラスストランドと実質上、並列に刻まれる。」(抄訳第1頁第11行?第12行)と記載されている。

甲第7号証には、「巻着工程は本来、プラスチックを含浸した例えばガラス繊維の粗撚糸のような撚糸が、所望の壁厚になるまで交互に並び、かつ重なるように巻着けるのである。この目的のためには、熱硬化性プラスチックを用い、巻着を完了した管の硬化は巻着マントル上で加熱して行なう。」(第1頁1欄第36行?同頁2欄第4行)、「一般に強化材としてはガラスあるいはポリエステル繊維を用いるのが正常であるが、この発明による方法では、各層は例えばプラスチック材料を多量に吸収することができるガラス繊維フリース(毛状物)、あるいはガラス繊維の粗紡糸から成る織布であってもよく、あるいは管全体をフリースと織布との層で構成してもよい。)(第2頁3欄第4行?同欄第10行)、「管は例えばガラス繊維フリース4層、ガラス繊維粗紡糸の織布6層、およびその上にガラス繊維フリース2層から成るものとする。」(第2頁4欄第15行?同欄第17行)、「ガラス繊維粗紡糸のようなプラスチックを浸漬した繊維を表面が完全に同じ高さになるまで巻着する。」(第3頁5欄第9行?同欄第11行)、「外面ねじ山を形成するために、プラスチックを含浸した粗紡糸を最初に管と同外径の山形造型ローラの中へ入れること、そこでこの山形造型ローラを管と縦方向に接触させ、山形粗紡糸を山形造型ローラから捲きもどして管状に巻着すると同時に山形造型ローラが成形と平滑化とを行なう」(第3頁5欄第21行?同欄第26行)、「もし、熱硬化性プラスチックを管の製造に用いたならば、完全に巻着した管を最初部分的にキューアし、ついでねじ山をつけたのち山つき管を完全にキューアする。このような方法で、ねじ山と管体との間に最適の接着を得るためには、管体にもねじ山にも同種のプラスチック材料を用いるのが普通である。」(第3頁5欄第42行?同頁6欄第4行)、「粗紡糸が管を接線方向に巻くから、圧縮荷重に耐える力は著しく増大する。」(第3頁6欄第10行?同欄第12行)、「第3a図、第3b図および第4a図、第4b図は管上に外備ねじ山を形成することが示してある。第3a図および第3b図では、プラスチックを含浸した粗紡糸100がそのまま山形造型ローラ110の外周上の凹み102の内に部分的に横たわり、その起きあがった部分104は管120に対して横たわっていることを示している。」(第4頁8欄第20行?同欄第26行)、「プラスチック材料は粗紡糸100を製ったのと同じ熱硬化性タイプであるから、管120’が完全にキューアする以前にねじ山を付ける。こうすれば、粗紡糸100と管120’との間の接着は優秀である。」(第4頁8欄第41行?第5頁9欄第1行)、「第5図の切断部分は、一列として管の壁がどのように構成してあるかを示す。最も内側は4層のガラス繊維フリース200から成り、これは互いに重なり合い、プラスチック材料が多量に含浸してある;つぎに3層のプラスチックの容量%がいくらか少ない粗紡糸織布210が続き、さらにこれに続いて2層の繊維フリース220が外層を形成するのであるが、これは比較的多量のプラスチックを含有する。」(第5頁9欄第20行?同欄第28行)、「製造しようとする繊維強化プラスチック管の長さに適合するプラスチック強化用各種繊維から成る乾燥状態のウエッブ(織布)をマガジンリール(複数)から巻き戻して、マガジンリールと平行に設置したテーブル上に単層または積層で広げたのち、テーブルに取付けた裁断器によって裁断したウエッブ生地を、フィードローラで管の同長の巻着マントルに送り適当回数層状に巻着して所望の管壁厚を形成」(第5頁9欄第39行?同頁10欄第3行)、「上記製造法によって成形した繊維強化プラスチック管の平滑表面にねじ山を付けるために、管と同一直径のねじ山付きローラを別に用意し、このローラ全表面に離型剤を塗布したのち、このねじ山の間、すなわち谷に予めプラスチックを含浸した撚糸例えば、ガラス繊維の粗紡糸を山の高さまで充填し、このローラを前1項記載の未硬化生地を巻着したままの巻着マントルに縦に接触させて互いに回転させながら上記撚糸をねじ山付きローラから巻き戻して、上記巻着マントル上の未硬化生地に巻着させたのち、前1項記載と同様に硬化室で未硬化プラスチックを硬化させて得られる外面ねじ山付き管」(第5頁10欄第32行?同欄第44行)と記載されている。

甲第8号証には、「芯金の外周に、らせん状に巻回しかつ互いに交差した複数本の全体に亘り、無端の糸条よりなる被覆を形成し、これに合成樹脂を含浸せしめ、次いで該合成樹脂を硬化せしめた後、前記芯金から離脱せしめることを特徴とする釣竿の製造法。」(第1頁左下欄第5行?同欄第10行)、「本発明は釣竿特に繊維強化合成樹脂製釣竿の新規な製造に関するものである。(第1頁右下欄第5行?同欄第6行)、「すなわち本発明の要旨は、芯金の外周に、らせん状に巻回しかつ互いに交差した複数本の全体に亘って無端の糸条よりなる被覆を形成し、これに合成樹脂を含浸せしめ、次いで該合成樹脂を硬化せしめた後、前記芯金から離脱せしめることを特徴とする釣竿の製造法に存する。 本発明において前記糸条を形成する繊維材料としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、化学繊維等があげられるが、重要なことはこれらの繊維からなる糸条は全体に亘って無端にかつ適度のピッチで芯金の外周に巻回し、同様に反対方向に巻回された糸条と交差して芯金外周に被覆せしめる点である。」(第1頁右下欄第19行?第2頁左上欄第11行)、「かくして形成された被覆にフェノール樹脂その他の熱硬化性樹脂、又はエポキシ樹脂等の常温硬化性樹脂を、充分塗布又は含浸せしめ、余分の樹脂液をしごき取り、半硬化せしめてから外側全面に例えばセロファンなどのテープを巻き付けて硬化せしめた後、芯金を抜き取れば目的とする製品が容易に得られる。なお第2図の場合、予め樹脂を含浸せしめた糸条を用い芯金に巻き付けてから完全硬化させてもよい。」(第2頁右上欄第8行?同欄第16行)と記載されている。

甲第9号証には、請求人提出の抄訳によれば、「本発明は、釣竿や同様な特性を要求される他の分野への使用に対して好適な特性を有するシャフトの製造に関する。 また特に、適宜の柔軟なプラスチック結合剤により結合されたガラス繊維からなるシャフトに関する。」(抄訳第1頁第3行?第6行)、「一般的に、本発明は、縦方向に延びるガラス繊維材でできた実質的均一な外層と、周方向に延びるガラス繊維材でできた内層とを備える中空シャフトから成る。 各繊維は隣接した繊維に結合され、柔軟なプラスチック結合剤によって定位置に固定されている。外側の縦方向に配置された繊維は、シャフトの曲げに抵抗するために張力材及び圧縮材として作用する。これらは、また、シャフトが曲げられた際に周方向に延びる繊維の剥離を防ぐ繊維強化材としても作用する。内層の周方向に延びる繊維は、縦方向に延びる繊維の剥離を防ぐ繊維強化材として作用する。これらは、また、縦方向に延びる繊維が張力材及び圧縮材として効率的に機能することができるように、この縦方向に延びる繊維の間のビーム深さを維持するための、繊維強化ウェブとして作用する。 図1,2に示される発明の態様では、シャフトは一般的に?符号1で示される。この棒状体は、シャフトに要求される全ての目的に対して使用することができる、弾力のあるシャフトである。これは特に釣竿を作製するために適用される。このような竿を作製するにあたり、釣竿や竿の断面形状を仕上げるために、相応しいガイド、握り及びフェルールが設けられる。 竿は、縦方向に延びる多くのガラス繊維材の実質的に均一な外層2を有する中空シャフトから成る。これらの繊維は非常に細く、およそ2マイクロインチの直径を有し、およそ300000ポンド毎立方インチの引張強さを有する。 外層の内側には、周方向に延びる内層4が配置され、今回のケースでは、螺旋状に巻かれた隣接するガラス繊維材5が配置されている。 全ての繊維は、適宜の柔軟なプラスチック樹脂により、隣接する繊維と互いに結合している。約華氏190度で約4時間加熱することにより硬化されるポリエステル型の樹脂を用いることが好ましい。この樹脂は、シャフトへの組み込みに先だって、ガラスフィラメント又は繊維に対しては塗布することにより設けられる。 本発明の好ましい形態においては、30重量部の樹脂が、70重量部のガラス繊維に塗布するために用いられる。しかし、この割合は、適宜変更できる。 繊維に塗布された後、図示はしないが、好適なテーパが形成された芯に組み込まれる。ガラス繊維5は、この芯に、隣接して螺旋状に巻かれる その後、外層の被覆である層2が設けられる。その後、棒状材全体を、セロファンの帯にて覆い、繊維を圧縮すると共に所望の形状に保持する。そして、所望の熱量で適宜の時間加熱することにより硬化され、組み込みに先だって繊維に塗布されていた樹脂を硬化する。その後、芯が抜き取られて、竿の中心が中空に形成され、またセロファンの帯も同様に除去される。」(抄訳第1頁第8行?第2頁第15行)と記載されている。

甲第10号証には、「従来より、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、全芳香属ポリアミド繊維、ボロン繊維などを補強材として、マトリックスとしてエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリール樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂の如き熱硬化性樹脂を含浸した一方向引揃えプリプレグが航空機や車両用構造材として、或いはゴルフシャフト、釣竿、ラケットフレームなどのスポーツ・レジャー用素材として有望視され、その利用が積極的に展開されてきている。 上述した複合材を構成する補強用繊維の性能向上は近年目覚しく、航空宇宙産業用の一次構造材として使用する為に必要とされる性能を備えたものも出廻りつつある。」(第1頁左下欄第18行?同頁右下欄第11行)、「平行に、均一な張力で縦方向に引揃えられた連続炭素繊維トウにエポキシ樹脂組成物100部および硬化触媒8部からなる樹脂フィルムを合体させて、炭素繊維量54g/m^(2)、該樹脂量32g/m^(2)になる様に作られたプリプレグに対し、♯1100番手のガラスヤーンからなり、経方向40本及び緯方向40本よりなるあらかじめ樹脂含浸された繊布をプリプレグ上面に貼合せることによってガラス/カーボン複合、成形用中間体を得た。この時の緯糸の重量は11wt%であった。この中間体を径が2.8φ/4.6φのテーパー付マンドレルに1m長さでその長手方向に炭素繊維方向を合わせながら巻きつけ、その上からポリプロピレン製テープを巻き、加熱硬化することによりパイプを成形した。」(第3頁左上欄第18行?同頁右上欄第12行)と記載されている。

5.当審の判断

甲第1号証に記載された考案を本件考案と対応させて記載すると、甲第1号証には、

「繊維強化プラスチック製の竿管を有する釣竿」

の考案が記載されている。

甲第1号証の「強化繊維」「プラスチック」が本件考案の「補強繊維」「合成樹脂」に相当するから、本件考案と甲第1号証記載の考案とは、

「補強繊維で補強された合成樹脂製の竿管を有する釣竿」

の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本件考案では、竿管を補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布で形成しているのに対し、甲第1号証には、このような構成に対応する記載がない点

(相違点2)
本件考案では、竿管表面に、これと同質材料からなりかつねじ山とねじ谷とが一体に連設形成された雄螺子部材を一体に密着成形して移動フード進退用の雄螺子を設けると共に前記雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように形成しているのに対して、甲第1号証には、このような構成に対応する記載がない点

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
甲第2号証には、「繊維織布又は繊維引揃シートに樹脂を含浸せしめたプリプレグシートを用いて釣竿等の管状体を製造する方法」が記載され、また、甲第8号証?甲第10号証には、「繊維で強化された熱硬化性合成樹脂で釣竿を形成すること」が記載されていることから、釣竿の竿管を補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布で形成することは周知の技術であるといえる。

(2)相違点2について

ア.釣竿の竿管表面に雄螺子部材を設ける点
甲第3号証には、「竿収納体(A)に螺子条(2-4)を形成し、螺子条(2-4)に螺合された締付螺子環(2-3)の螺合作用により可動環(2-2)の進退移動を規制する釣竿」の構成が記載されているが、本件考案の「竿管」に相当する「竿部材(4)」の表面に雄螺子を設ける構成については何ら記載が無く、また、それを示唆する記載も無い。
また、甲第4号証には「釣竿用パイプ状ハンドルの周面に雄螺子1aを形成し、雄螺子1aに螺合された送りナット5の螺合作用により移動フード4の進退移動を規制する釣竿」の構成が記載されているが、本件考案の「竿管」に相当する「釣竿8」の表面に雄螺子を設ける構成については何ら記載が無く、示唆も無い。
また、甲第5号証?甲第7号証には、管表面に雄螺子部材を設ける点の記載があるが釣竿とは異なる技術分野において使用される管であるから、「釣竿の竿管表面に雄螺子部材を設ける点」を記載したものではない。
また、他の甲各号証を検討しても、「釣竿の竿管表面に雄螺子部材を設ける点」を記載ないし示唆したものは見当たらない。

イ.雄螺子部材を管と同質材料で構成し、かつ、その繊維方向を周方向とする点
本件考案では、雄螺子部材を竿管と同質材料(すなわち、「補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布」)で構成し、かつ、その繊維方向が周方向となるように形成している。
すなわち、本件考案では、(a)雄螺子部材を竿管と同質材料で構成し、かつ、(b)雄螺子部材を補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布で構成し、かつ、(c)雄螺子部材が引揃シートで構成されているときは繊維方向が周方向に、織布で構成されているときは高密度の繊維方向が周方向になるように構成している。

この点について甲各号証を検討すると、甲第5号証では、FIG4及びその説明の記載を参照すると、ガラス強化樹脂で構成された管の表面に樹脂を型成型した雄螺子の構成が記載されているが、該雄螺子部分には繊維強化材が設けられていないから、上記(a)、(b)、(c)のいずれの構成も記載されていない。

また、甲第6号証に関しては、請求人提出の抄訳と被請求人が答弁書に添付した訳文とに相違があるが、より正確と思われる被請求人の訳文によれば、「パイプの表面が、その上にネジを形成するために切られるから、ネジを切られた歯の構造が、樹脂の中に埋められる実質上平行に切り刻まれるガラス繊維のストランドである。」と記載されている。
該記載によれば、管の表面に螺子を切っているから、管と雄螺子部材とが同質材料であることには相違ないが、雄螺子を補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグの引揃シート又は織布で構成することに関しては記載が無いうえ、繊維の方向についても明確な記載が無いから、上記(b)及び(c)については記載が無い。

更に、甲第7号証には、「熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維フリース、又は熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維粗紡糸の織布で形成された管の表面に、熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維粗紡糸を用いてねじ山を形成した繊維強化プラスチック管」が記載されており、雄螺子部材の繊維方向が周方向となるように形成しているとは認められるものの、雄螺子部材が「熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維粗紡糸の織布」又は「熱硬化性プラスチックを含浸したガラス繊維フリース」で構成されているものではないから、管と雄螺子部材とが「同質材料」であるとはいえず、また、雄螺子部材を引揃シート又は織布で構成する旨の記載も無いことから、上記(a)?(c)のいずれの構成も記載されていない。
なお、甲第7号証は、平成12年(行ケ)第192号判決において、「釣り竿とは属する技術分野において異なるところの大きい甲第3号証?甲第5号証の技術を,釣り竿の改良に適用することは,釣竿の開発に従事する当業者にとって,きわめて容易になし得るところではなかったというべきである。」と判断された文献であって、技術分野の判断基準は、主引用例であるかどうかによって異なるものということはできないから、甲第7号証記載の技術を釣竿に適用することは困難であるというべきである。

また、他の甲各号証を検討しても、上記(a)?(c)の構成を示唆する記載は無い。

このように、甲各号証のいずれも上記(a)?(c)の構成を同時に記載したものでは無く、また、甲各号証に記載された構成を組み合わせて上記(a)?(c)の構成(イの構成)とすることを示唆する記載も無い。

したがって、上記ア、イの構成を記載ないし示唆する証拠が無い以上、甲各号証を参照して、上記ア及びイの構成を含む上記相違点2の構成を導き出すことは困難である。

また、本件考案は、「釣竿自体に直接リール取付脚を確実かつ強固に装着できるようにして釣竿の握持を容易にすると共に魚釣り時における重量の軽減も図るようにした釣竿を提供する」という目的を達成するために、積極的に、釣竿の竿管とは独立の部材(雄螺子部材)を竿管表面に密着成形して雄螺子を構成しているものであり、この構成をとることによって、本件明細書記載の所期の効果を奏するものであるから、これらの目的ないし効果の記載されていない甲各号証の記載を参照したとしても、釣竿に上記相違点2の構成を設けることがきわめて容易であるとは到底いえない。

そして、本件考案は、上記相違点2の構成を備えることにより、「緊締ナットの螺合作用による負荷によって雄螺子が破損したり、剥離したりすることがないと共に雄螺子のねじ山及びねじ谷における補強繊維の方向が周方向で緊締ナットの回動方向と一致しているため両者間の摩耗も可及的に軽減され、特に竿管を摩耗損傷させるようなこともなく、円滑容易に螺合作用を行うことができる」という格別の効果を奏するものである。

よって、本件考案は、甲第1号証?甲第10号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものということはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件考案を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-02-12 
結審通知日 2003-02-17 
審決日 2003-03-03 
出願番号 実願昭60-42888 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (A01K)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 滝本 静雄日高 賢治  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 須田 勝巳
田良島 潔
登録日 1992-10-14 
登録番号 実用新案登録第1932638号(U1932638) 
考案の名称 釣竿  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 勝田 裕子  
代理人 西川 惠清  
代理人 森 厚夫  
代理人 峰 隆司  

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