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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A01D
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A01D
管理番号 1096419
審判番号 無効2002-35005  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-12-28 
確定日 2004-03-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第2541651号実用新案「草刈機」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 実用新案登録第2541651号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
本件登録第2541651号実用新案の請求項1に係る考案(以下、本件考案という)は、平成4年12月29日に実用新案出願され、平成9年4月25日にその実用新案権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より、平成13年12月28日に本件無効審判の請求がなされ、被請求人は、平成14年4月1日に願書に添付した明細書の訂正を請求し(後に取り下げ)、当審において平成14年6月17日付けで無効理由を通知したところ平成14年8月9日に明細書の訂正を再度請求した。
当審は、実用新案法第41条において準用する特許法第150条第1項の規定に基づく請求人の申立により証拠調べとして、平成15年3月14日福岡県福岡市早良区百道浜2丁目1番22号 ももちキューブ内特許庁審判廷において、「株式会社オーレック製ラビットモアーRM82型機」(以下、検証物という。)の検証を行い、さらに、同日に同審判廷において証人、瓜田栄及び諏訪武富に対する証人尋問を行った。

2.請求人の主張等
2-1.請求人の主張する無効理由
請求人は、下記の証拠方法を提示し、本件実用新案登録は、次の理由により実用新案法第37条第1項第2号に該当するので、無効とすべきである旨主張する。
(1)本件考案は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)甲第8号証ないし甲第14号証、証人及び検甲第1号証で立証されるとおり、本件考案は、その出願前に日本国内で公然実施された考案であるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第1項第1号及び第2号の規定に該当する考案に対してされたものである。

甲第1号証:米国特許第4934130号明細書
甲第2号証:無効2000-35097号(特許第279656号)の審決
甲第3号証:特開平1-101817号公報
甲第4号証:実公昭48-35059号公報
甲第5号証:実公昭57-54595号公報
甲第6号証:特公昭63-32413号公報
甲第7号証:実開昭59-101624号公報
甲第8号証:RM82型機のパンフレットの写し
甲第9号証:RM82型機の要部写真
甲第10号証:RM82型機の使用状態の証明
甲第11号証:RM82型機の売上伝票
甲第12号証:作業小屋及び壁のメモの写真
甲第13号証:平成4年7月27日発行の農経しんぽうの写し
甲第14号証:平成4年7月27日発行の農村ニュースの写し
検甲第1号証:ラビットモアーRM82型機(製造番号141719)
証人:瓜田 栄
青森県中津軽郡西目屋村大字田代字神田244-8
2-2.無効理由通知の概要
平成14年6月17日付けの無効理由通知は、下記の引用例等を提示し、本件実用新案登録は、次の理由により実用新案法第37条第1項第2号に該当するので、無効とすべきであるというものである。
(1)本件請求項1に係る考案は、引用例1ないし3に記載された考案および周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件請求項1に係る考案は、公然実施あるいは公然知られた考案及び引用例2に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、その実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例1:実願昭61-162134号(実開昭63-66428号)のマイクロフィルム
引用例2:特開平1-101817号公報
引用例3:米国特許第4934130号明細書
引用例4:実公昭55-35940号公報
引用例5:実公昭49-27067号公報
引用例6:実公昭48-16835号公報
引用例7:実公平2-44664号公報
検甲第1号証:株式会社オーレック製 ラビットモアー RM-82型機(製造番号141719)

3.被請求人の反論
被請求人は下記の証拠方法を提示して大略次のとおり反論する。
(1)「甲第1号証?甲第7号証の何れにも、本件考案の『刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動ブーリの回転の制動ができるようにした草刈機』の構成、つまりカッターとカバーを備えた刈取部の上下動とクラッチの断続および従動プーリの回転の制動が関連するとの構成および『昇降操作手段を操作して刈取部を所定の位置まで上昇させると昇降操作手段側係合体がクラッチ側係合体と係合してクラッチ機構を断方向に作動する』という構成は、開示も示唆もされていないのである。
上記のとおり、甲第3号証ないし甲第7号証には上記相違点の本件考案に関する構成が記載されておらず、甲第3号証ないし甲第7号証を甲第1号証記載の発明に適用したとしても本件考案の構成にはなりえず、当業者がきわめて容易に想到できたものとはなしえない。
しかして、本件考案は、上記相違点により、『【0034】…駆動ブーリと従動ブーリの高さの差が大きくなった場合でもベルトの脱落が防止されると共にカッターの回転停止により安全性の確保を図ることができる。…昇降操作手段の操作だけでクラッチ機構を断方向に作動させることができるので操作が簡単である。』(本件実用新案登録明細書)という格別の効果を奏する。」(答弁書23頁3?18行)
(2)「そもそも、考案は、ある技術的課題の解決のもと、該技術的課題を解決するために一定の技術的手段を採用し、その結果技術的課題を解決する一定の効果を奏することに存する技術思想である。
しかしながら、提出された甲各号証には、本件考案に係る先行技術は開示されていないのであり、また、これらの先行技術を組み合わせることの明示も暗示もなく、況や本件考案にかかる技術課題については、全く開示も示唆もされてもいないのである。
この様に、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第7号証には本件考案にかかる技術的課題の記載がないのであるから、甲各号証に記載された先行技術があったとしても、当業者といえども本件考案が解決した如き技術的課題に着目するはずもなく、当業者が技術的課題を解決するために実用新案登録請求の範囲に記載されたような解決手段に想到することは、論理的にも実際的にもあり得ないのである。
畢竟、請求人の主張は、本件登録明細書から得た知識を前提として事後的に分析したものであり、いわゆる『後知恵による評価』或いは『結果論に基づく進歩性の否定』にしか過ぎないのであり、しかも本件考案の構成の各部分が複数にまたがる証拠のそれぞれに記載されているというだけの主張にしか過ぎないのであり、本件考案は実用新案法第3条第2項に該当するものではない。」(答弁書23頁19行?24頁9行)
(3)「仮に瓜田栄なる者から佐藤裕之なる者の父佐藤四郎が株式会社オーレツク製のRM82型機を購入し、使用していた事実が立証されたとしても、そもそも本件考案とRM82型機とはその構造が異なるのであり、公然知られ或いは公然実施されたことが立証され得ることはあり得ないのであり、また、佐藤裕之なる者の証言に信懇性がないことは、既に第1回審決によっても明らかになっており、従ってかかる証人を尋問する必要は皆無である。
即ち、請求人は、佐藤四郎なる者が本件考案出願日前に、本件考案にかかる草刈機とは異なる構造の草刈機を「ラビットモアー」なる名称の下に、瓜田栄なるものから購入し使用していたとの事実を立証しようとしているのである。
しかし、本件考案とRM82型機とはその構造が異なるのである。
従って、そもそも瓜田栄なる者が販売し、佐藤四郎なる人物がその者から購入し、使用していたという製品自体が本件考案とは異なるのであるから、その点から見ても、仮に証すべき事実が立証されたとしても、本件考案の公然知られた事実、公然実施の事実は決して立証されないのである。
甲第13号証、甲第14号証の場合も同様である。」(答弁書24頁17行?25頁3行)
(4)「甲3に記載の芝刈り機は、刈り高さ設定用の接地ゲージ輪が備えられた芝刈り装置をリンク機構を介して昇降自在に走行機体に連結したもので、従来の芝刈り機には、接地ゲージ輪の接地圧を軽減する手段が備えられておらず芝が押しつぶされ仕上がり状態が悪くなる課題を解決せんとするものであって、訂正明細書の考案のように、刈取部を上昇する際に、昇降ハンドルの操作の負担軽減を図るため刈取部に上方へ向かう付勢力を付与するものではない点に注意すべきである。」(平成15年4月16日付け上申書8頁1?7行)

乙第1号証:無効2000-35097号事件(請求人は、本件審判請求人と同じ)の無効審判請求書の写し
乙第2号証:無効2000-35097号事件における平成12年10月6日付回答書の写し
乙第3号証:無効2000-35097号事件における第1回証拠調べ調書の写し(平成13年7月12日付)
乙第4号証:無効2000-35097号事件における平成13年7月12日付指示説明書の写し
乙第5号証:無効2000-35097号事件における平成13年7月12日付証人等の陳述を記載した書面の写し
乙第6号証:無効2000-35097号事件における平成13年7月17日付上申書の写し
乙第7号証:無効2000-35097号事件の審決書謄本の写し
乙第8号証の1:米国特許第4934130号明細書
乙第8号証の2:米国特許第4934130号明細書の訳文
乙第9号証:無効2000-35097号事件の無効審判請求書に添付された甲第6号証の写し
乙第10号証:1992年10月2日(金)に、信越共立エコー株式会社の関係者に対して行った、RM-82型機の販売デモンストレーションの資料の写し
乙第11号証:平成4年10月12日付けで信越共立エコー株式会社から送られてきた、「乗用モアRM82のサンプル機の販売結果報告の件」の写し
乙第12号証:RM-82型機に対する信越共立エコー株式会社の要望(乙第11号証)についての検討結果を記載した書類の写し
乙第13号証:1992年11月11日(水)に被請求人の会社で井関川崎サービス販売株式会社と行った「RM82生産及び他打ち合せ議事録」の写し
乙第14号証:無効2000-35097号事件における、検甲第1号証(株式会社オーレック製RM-82型機)の検証調書の写し
乙第15号証:馬瀬文夫著「特許請求の範囲」(社団法人発明協会 昭和60年7月20日発行)124?125頁
乙第16号証:東京高等裁判所「製本糸綴機事件」判決文の要約
乙第17号証:請求人会社のホームページ
乙第18号証:株式会社オーレック取締役開発部長 諏訪武富の陳述書
乙第19号証の1?12:平成4年7月?平成5年6月までの幡和工業株式会社からの仕入先元帳
乙第20号証の1?12:平成4年7月?平成5年6月までの幡和工業株式会社からの請求書及びそれに対する支払い決裁書
乙第21号証:RM-82型のナイフテンションアームの設計図
乙第22号証の1:RM-82A型のナイフテンションアームの設計図
乙第22号証の2:RM-82A型機のナイフブレーキブラケットの設計図
乙第22号証の3:RM-82A型機のナイフブレーキの設計図
乙第23号証:RM-82型機のナイフブレーキブラケットの設計図
乙第24号証:RM-82A型機の付勢手段である上下バネ部品の設計図
乙第25号証:無効2000-35098号事件の検証調書
乙第26号証:第1回口頭審理及び証拠調べ調書
乙第27号証:RM-82A型機の従動プーリ部分を示した写真
乙第28号証:瓜田栄証人反訳書面
乙第29号証:諏訪武富証人反訳書面
乙第30号証:甲第3号証のコイルスプリング周りの構造を表した斜視図
証人:氏名 諏訪武富
住所 福岡県三瀦郡城島町大字内野422-20

4.訂正請求について
4-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
平成8年10月18日に提出した手続補正書で補正した明細書(以下、「実用新案登録明細書」という)における実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された「車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバー(20)を備えた刈取部(2)、座席(11)の側部に配設されており、上記刈取部(2)を人力によって昇降操作する昇降操作手段、上記刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、上記刈取部(2)のカッター(C)を回転させる従動プーリ(51)、駆動プーリと上記従動プーリ(51)に回し掛けてあるベルト、上記従動プーリ(51)への駆動力を断続するクラッチ機構、上記クラッチ機構が断方向に作動したときカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動する制動手段、上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー(41)、上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバー(41)を動かすクラッチ側係合体、を含み、上記昇降手段は、上記刈取部(2)に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、更に上記昇降操作手段を操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動することを特徴とする、草刈機。」を、
「刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機であって、 前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバー(20)を備えた刈取部(2)、
座席(11)の側部に配設されており、上記刈取部(2)を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、
上記刈取部(2)のカッター(C)を回転させる従動プーリ(51)、
駆動プーリと上記従動プーリ(51)に回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリ(51)への駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー(41)、
上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、
当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバー(41)を動かすクラッチ側係合体、
を含み、
上記昇降手段は、上記刈取部(2)に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、
上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリ(51)の回転を制動するようにしたことを特徴とする、
草刈機。」
と訂正する。
(2)訂正事項b
実用新案登録明細書の段落【0009】の【問題を解決する手段】の記載を、
「上記課題を解決し目的を達成する為に講じた本考案の手段は次の通りである。
即ち本考案は、刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機であって、 前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバーを備えた刈取部、
座席の側部に配設されており、上記刈取部を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、
上記刈取部のカッターを回転させる従動プーリ、
駆動プーリと上記従動プーリに回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリへの駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー、
上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、
当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバーを動かすクラッチ側係合体、
を含み、
上記昇降手段は、上記刈取部に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、
上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリの回転を制動するようにしたことを特徴とする、
草刈機である。」と訂正する。

4-2.訂正の適否
上記訂正事項aによる訂正は、「刈取部(2)」が前輪と後輪との間に配置されており、「昇降操作手段」が昇降ハンドルで構成されており、「クラッチ機構」がクラッチレバーの上方への回動によって駆動力を断するものであり、「制動手段」が従動プーリ周面を押圧するブレーキシューで構成されているものに限定するものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項bによる訂正は、考案の詳細な説明の記載を訂正後の実用新案登録請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、実用新案登録明細書には、「クラッチ機構を作動する手段であるクラッチレバー41の後部寄りが回動可能に取付けてある。」(段落【0023】)、「クラッチレバー41を上方へ回し、操作ワイヤWを緩める。これによってクラッチ機構を断方向に作動させる。」(段落【0024】)、「制動手段であるブレーキシュー17の一部に掛けてある。ブレーキシュー17は、テンションプーリ16によるベルトB2へのテンションを解除したときに前方へ回動し、従動プーリ51周面を押圧してブレーキをかける。」(段落【0028】)「昇降操作手段である昇降ハンドル34が元部を中心軸として回動可能に取り付けてある」(段落【0020】)、「昇降ハンドル34を上方に引き上げれば刈取部2を上昇させることができる。」(段落【0022】)と記載されているので、上記訂正事項a及びbびよる訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項により読み替えて準用される実用新案法第40条第2項ただし書きの規定及び同じく実用新案法第40条第5項において準用する実用新案法第39条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

5.無効理由についての判断
5-1.本件考案
上記4.で示したように上記訂正請求が認められるから、本件の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という)は、平成14年8月9日付けの訂正請求書で訂正した実用新案登録明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機であって、
前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバー(20)を備えた刈取部(2)、
座席(11)の側部に配設されており、上記刈取部(2)を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、
上記刈取部(2)のカッター(C)を回転させる従動プーリ(51)、
駆動プーリと上記従動プーリ(51)に回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリ(51)への駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー(41)、
上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、
当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバー(41)を動かすクラッチ側係合体、
を含み、
上記昇降手段は、上記刈取部(2)に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、
上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリ(51)の回転を制動するようにしたことを特徴とする、
草刈機。」

5-2.実用新案法第3条第1項違反について(請求人の主張する(2)の無効理由)
5-2-1.検証物の構成
検証によると、請求人が申請した検証物(ラビットモアーRM82型機 製造番号141719(検甲第1号証))の構成及び作用は以下のとおりのものと認められる。
1)カバーを含む刈取部はリンク装置により、前輪と後輪との間で昇降できるようにフレームを取付けてある。カバーは進行方向前方側が開口されている。
2)刈取部下端部を枢支したリンクの上端部には長孔が設けられ、リンクが、回転支持体のピンに、スライド可能に取付けてあり、刈取部に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を構成している。
3)座席の進行方向左側には、昇降ハンドルがあり、昇降ハンドルは回転支持体に取付けてあり、昇降ハンドルを上方に引き上げると刈取部を上昇させることができる。
4)昇降ハンドルの内側(座席側)に、クラッチレバーが支軸に回動自在に枢支してあり、クラッチレバーでクラッチ機構を作動することができ、クラッチレバーの支軸寄りには調整板側へ突出する係合ピンが設けられている。
5)原動機の駆動軸には駆動プーリが取付けられてあり、カッターの垂直軸には従動プーリが取付けてある。
6)駆動プーリと従動プーリにはベルトが回し掛けられており、テンションプーリによってベルトに張力を付与すると動力が伝達され、ベルトが緩むと動力が遮断されるクラッチ機構が構成されている。
7)従動プーリの外周面に当接するブレーキシューが設けられている。
8)昇降ハンドルを掛止部付近まで引き上げると、回転支持体が係合ピンを押上げ、クラッチレバーを上方に回転させて操作ワイヤを弛め、クラッチ機構を断方向に作動させるとともに、ブレーキシューを従動プーリの外周に当接して従動プーリを停止させる。
9)刈取部に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段は備えていない。

5-2-2.検証物の公知性等について
(1)証人、瓜田栄の証言
(1-a)証人は、丸ハンドルの乗用型草刈り機であることで話題になっていたラビットモアーRM82(検甲第1号証)を仕入れ、弘前ねぷた祭りである8月1日にラビットモアーRM82(検甲第1号証)を佐藤四郎に販売した(証人が8月1日に販売したことを立証する売上伝票等の物的証拠はない。)。
また、証人が販売したラビットモアーRM82は検甲第1号証の1台だけである。(乙第28号証(瓜田栄の反訳書面)5頁15行?6頁4行)
(1-b)検甲第1号証(ラビットモアーRM82)を改造したことはない。(乙第28号証9頁12?20行)
(1-c)甲第11号証である売上伝票(控)は、証人の所有する物ではなく、証人はこれをこの証人尋問調べにおいて初めて見るものである。(乙第28号証22頁2?4行)
(2)証人、諏訪武富の証言
(2-a)検甲第1号証と同じ型式であるラビットモアーRM82は、1990(平成2)年の秋ぐらいから開発を始め、1992(平成4)年6月から製造、販売したが、ラビットモアーRM82にカッター(刈刃)の制動手段(ブレーキ装置)を付けて販売したことはない。(乙第29号証(諏訪武富の反訳書面)2頁18?19行、12頁2?13行)
(2-b)ラビットモアーRM82には、カッターの制動手段がなく危険であるとの指摘があったため、ラビットモアーRM82を改良するため1992年(平成4年)11月頃試作機を製作した。(乙第29号証15頁7行?16頁3行)
(2-c)既に販売したラビットモアーRM82に対して、制動手段(ブレーキ装置)を付けることができるようにしてほしいとの要望があったため、ラビットモアーRM82の制動手段の部品を供給した。(乙第29号証6頁15?16行)
(2-d)検甲第1号証のラビットモアーRM82は、改造されており、ナイフブレーキ(乙第22号証の3)、ナイフブレーキブラケット(乙第23号証)及びナイフテンションアーム(乙第22号証の1)で構成される制動手段(ブレーキ装置)が付加されているとともに、燃料タンクが大型化されている。(乙第29号証2頁29行?3頁18行)
(3)甲号証等の記載内容
(3-a)甲第8号証(RM82型機のパンフレットの写し)の1頁には、ラビットモアRM82の写真が掲載されており、2頁の右下には、「P‘N9000443-0001A 1992.8マルH」と記載されている。
(3-b)甲第10号証(平成11年12月7日付け佐藤裕之の証明書)には、「下記写真に示す株式会社オーレック製RM82型機を、平成4年8月1日に購入し、平成4年8月1日より、りんご園の草刈に使用しておりました。」と記載されている。
(3-c)甲第11号証(平成4年7月11日付け売上伝票(控))には、「瓜田自転車 様」、品名欄に「オーレックRM-82 No141719」、「決済 10/30」と記載されている。
(3-d)甲第13号証(平成4年7月27日発行の農経しんぽうの写し)には、「株式会社オーレック・・・はこのほど、小型乗用草刈り機『ラビットモアー・RM82』を新発売した。」と記載されている。
(3-e)甲第14号証(平成4年7月27日発行の農村ニュースの写し)には、「オーレック・・・から、小型乗用草刈り機『ラビットモアー・RM82』を発売した。」と記載されている。
(3-f)乙第10号証(1992年10月2日(金)に行ったRM-82型機の販売デモンストレーションの資料の写し)には、「1992年10月2日(金)」、「(株)オーレック 営業部 野田雅憲」と記載されているとともに、ラビットモアーRM82の写真が掲載されている。
(3-g)乙第11号証(「乗用モアRM82のサンプル機の販売結果報告の件」の写し)には、「宛先 (株)オーレック 野田係長」と記載され、改良内容として、「今シーズン実施したRM82の試験販売を通じて確認した技術的苦情及び改良項目を下記の如くまとめたので連絡致します。」、改良内容として「・燃料タンクの拡大」「・エンジン停止と共に刈刃停止するブレーキをつける。」と記載されている。
(3-h)乙第12号証(乙第11号証の要望箇所に対する返事を記載した書類の写し)には、右上に、「1992.10.13」と記載されており、要望内容として、「エンジン刈刃停止」、改良内容として、(10)「クラッチブレーキ方式の見直し コスト クラッチ切→ブレーキの方向で検討中 エンジン停止→刈刃ブレーキまでは考えていません(クラッチ入では止まる)」と記載されている。
(3-i)乙第13号証(「RM82生産及び他打ち合せ議事録」)には、会議目的として、「6月までのRM82生産の件、新機種生産予定の件」、「RM82仕様変更により型式変更
RM82(92年度)→RM82A(93年度)」、改良点として「2)刈刃ブレーキ付 現行60秒→約7秒」と記載されている。
(3-j)乙第19号証の1?12(平成4年7月?平成5年6月までの幡和工業株式会社からの仕入先元帳)において、乙第19号証の1?7(1992.7.2?1993.1.30)には、「RM82A ナイフブレーキ」に関する記載はないが、乙第19号証の8?12(1993.2.23?1993.6.30)には、「RM82A ナイフブレーキ」を仕入れたことが記載されている。
(3-k)乙第20号証の1?12(平成4年7月?平成5年6月までの幡和工業株式会社からの請求書及びそれに対する支払い決裁書)には、1992年(平成4年)7月31日から幡和工業株式会社
(3-l)乙第21号証(RM-82型のナイフテンションアームの設計図)には、「型式 RM82」、「部品名 ナイフテンションアーム」、「日付 ‘92.4.30」と記載されている。
(3-m)乙第22号証の1(RM-82A型のナイフテンションアームの設計図)には、「型式 RM82A」、「部品名 ナイフテンションアーム」、「日付 ‘92.12.10」と記載されている。
(3-n)乙第22号証の2(RM-82A型機のナイフブレーキブラケットの設計図)には、「型式 RM82A」、「部品名 ナイフブレーキブラケット」、「日付 ‘93.1.16」と記載されている。
(3-o)乙第22号証の3(RM-82A型機のナイフブレーキの設計図)には、「型式 RM82A」、「部品名 ナイフブレーキ」、「日付 ‘93.1.16」と記載されている。
(3-p)乙第23号証(RM-82型機のナイフブレーキブラケットの設計図)には、「型式 RM82」、「部品名 ナイフブレーキブラケット」、「日付 ‘93.3.4」と記載されている。
(3-q)乙第24号証(RM-82A型機の付勢手段である上下バネ部品の設計図)には、「型式 RM82A」、「部品名 上下バネ」、「日付 ‘93.1.8」と記載されている。

(4)検証物の公知性等についての検討
乙第10?13号証(上記(3-f)?(3-i)参照)によると、1992年10月頃、ラビットモアーRM82の試験販売を通じて得た技術的苦情等に基づき、カッターの制動手段(ブレーキ装置)を設けるとともに燃料タンクを大型に改良することが検討されていたといえる。
また、乙第19号証の1?12(上記(3-j)参照)、乙第20号証1?12(上記(3-k)参照)及び乙第22号証1?3(上記(3-m)?(3-o)参照)によると、RM-82A型の部品である、「ナイフテンションアーム」、「ナイフブレーキブラケット」、「ナイフブレーキ」は1992年12月以降に設計され、その後製造され、乙第21号証(上記(3-l)参照)及び乙第23号証(上記(3-p)参照)によると、RM-82型の部品である、「ナイフテンションアーム」は1992年4月30日に設計されているのに、「ナイフブレーキブラケット」は、1993年3月4日に設計されている。
そして、証人、諏訪武富の上記(2-a)ないし(2-d)の証言は上記乙号各証から把握されることと齟齬も無く信用することができる。
そうすると、ラビットモアーRM82は、製造販売されたときにはブレーキ装置が設けられていないものであるが、検甲第1号証のラビットモアーRM82は、ブレーキ装置が設けられており、製造販売された後、改造されているから、ラビットモアーRM82が本件出願前に製造販売されていたとしても、ブレーキ装置が設けられた、検甲第1号証のラビットモアーRM82が、本件発明の出願前に存在していたとは認めることができない。
5-2-3.判断
以上のとおり、検甲第1号証のラビットモアーRM82が本件出願前に存在していたとは認めることができないから、上記「5-2-1.検証物の構成」に記載した構成が本件出願前に公然知られた考案、あるいは、公然実施された考案とすることはできない。
したがって、本件考案は実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とすることはできない。

5-3.実用新案法第3条第2項違反の1(「2-2.無効理由通知の概要」の(1))について
5-3-1.引用刊行物記載の考案
(1)無効理由で引用され本件出願日(出願日 平成4年12月29日)前に頒布された、実願昭61-162134号(実開昭63-66428号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載が認められる。
(1-a)「刈刃ハウジング(2)は、前輪(9)と後輪(10)との間で、しかも、車台(3)の下方に、バーナイフ状の複数の刈刃(14)…(実施例では、左右2枚の刈刃)を垂直入力軸(15)、垂直被駆動軸(16)・・・を介して軸支内装した下方開口の楕円形箱形状のもので、上下回動調整可能なリフトレバー(17)に連動された適宜支持装置(18)によって車台(3)下部に支持され、このリフトレバー(17)操作によって上下位置調整可能に構成されている。」(5頁5?13行)、
(1-b)「ミッションケース(6)の垂直出力軸(13)上の出力プーリー(19)と刈刃ハウジング(2)内の複数の刈刃(14)…との間には、この出力プーリー(19)の回転動力を刈刃(14)…まで伝達する伝動装置(A)が装着される。
伝動装置(A)は、機体(1)側の前記出力プーリー(19)と、刈刃ハウジング(2)側の垂直入力軸(15)上端部に取付けた入力プーリー(20)との間に、刈刃ハウジング(2)側適所に縦軸(21)で軸支された中間プーリー(22)を介して入力ベルト(23)が巻回され、この中間プーリー(22)と入力プーリー(20)との間の入力ベルト(23)を水平面で緊張および弛緩させ動力接断するための刈取テンションクラッチ体(24)が入力プーリー(20)近傍の刈刃ハウジング(2)上面側に枢支ピン(25)着されるとともに・・・、このテンションクラッチ体(24)と一体的に枢支ピン(25)回りに回動可能にブレーキ部材(26)が形成され、刈取テンションクラッチ体(24)がシート(8)近傍配備のクラッチレバー(27)にワイヤー(28)を介して連動連結されている。そして、このクラッチレバー(27)のクラッチ入切操作によって刈取テンションクラッチ体(24)は枢支ピン(25)回りに正逆回転して入力ベルト(23)を緊緩させ、これにより、動力接断がなされ、これと同時に、ブレーキ部材(26)も刈取テンションクラッチ体(24)と逆に枢支ピン(25)回りに回転し、動力接続時には入力ベルト(23)から離間され、動力切断時には入力ベルト(23)の外面側に沿って面圧接され、この入力ベルト(23)が入力プーリー(20)のV溝に圧接されて入力プーリー(20)、後述の分配ベルト等を介して全刈刃(14)…が制動されるように構成されている。」(5頁14行?7頁9行)、
(1-c)「以上によると、クラッチレバー(27)がクラッチ入側に切替操作されると、刈取テンションクラッチ体(24)が入力ベルト(23)に圧接され、これが緊張されることになり、エンジン(5)の動力は、出力プーリー(19)から入力ベルト(23)を介して入力プーリー(20)に伝達され、さらに、この入力プーリー(20)と一体回転する分配プーリー(29)から、分配ベルト(31)を介して従動プーリー(30)に伝達され、垂直入力軸(15)、垂直被駆動軸(16)…を介して刈刃(14)…が回転駆動され、・・・逆に、クラッチレバー(27)がクラッチ切側に切替操作されると、刈取テンションクラッチ体(24)が入力ベルト(23)から離間方向に回動されると同時に、ブレーキ部材(26)が入力プーリー(20)位置の入力ベルト(23)に圧接されることになり、エンジン(5)の動力は、入力プーリー(20)に伝達されなくなると同時に、入力プーリー(20)が制動され、刈刃(14)…の惰性回転も停止されることになる。」(8頁6行?9頁6行)。
(1-d)刈刃ハウジング(2)の前方は、草が切断できるように当然開口されている。
上記記載及び図面の記載によると、引用例1には、
前輪(9)と後輪(10)との間の車台(3)下方に適宜支持手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されている刈刃ハウジング(2)を備えた刈取部、
シート(8)の側部に配設されており、上記刈取部を人力によって昇降操作するリフトレバー(17)、
上記刈取部の刈刃(14)…を回転駆動させる動力が伝達される入力プーリー(20)、
出力プーリー(19)と上記入力プーリー(20)に回し掛けてある入力ベルト(23)、
クラッチレバー(27)のクラッチ入切操作によって入力ベルト(23)を緊緩させ、上記入力プーリー(20)への駆動力を断続する刈取テンションクラッチ体(24)、
上記刈取テンションクラッチ体(24)が断方向に作動したときブレーキ部材(26)で入力ベルト(23)の外面側に沿って面圧接し、この入力ベルト(23)が入力プーリー(20)のV溝に圧接して刈刃(14)…を駆動している入力プーリー(20)の回転を制動する制動手段、
上記刈取テンションクラッチ体(24)を作動するクラッチレバー(27)、を含み、
上記クラッチレバー(27)を操作すると、上記刈取テンションクラッチ体(24)を断方向に作動すると共に、ブレーキ部材(26)を作動して入力ベルト(23)の外面側に沿って面圧接し、この入力ベルト(23)が入力プーリー(20)のV溝に圧接して刈刃(14)…を駆動している入力プーリー(20)の回転を制動するようにした乗用型草刈機。(以下、「引用例1の考案」という)が、記載されていると認められる。
(2)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、特開平1-101817号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載が認められる。
(2-a)「吊上げリンク(11),(11)夫々の連結ピン孔(22)を長孔に形成することにより、昇降操作レバー(16)のロック機構(21)による固定にかかわらず芝刈り装置(4)が連結ピン孔(22)の長さで決まる範囲内で走行機体に対して昇降することを許容してある。」(3頁右上欄9?14行)、
(2-b)「連動部材(13)の揺動に伴い走行機体に対して昇降移動する箇所(A)と、吊上げリンク(11),(11)夫々の連動部材(13)の揺動に伴い前記連動部材箇所(A)と同方向に走行機体に対して昇降移動する箇所(B)にわたってコイルスプリング(23)を取付けてあると共に、芝刈り装置(4)が作業用下降レベルにある状態では、刈刃ハウジング(6)の後端側に取付けられた刈高さ設定用の接地ゲージ論(24)が設置するのを可能にしながら接地ゲージ輪(24)の接地圧低減をするべく芝刈り装置(4)を前記スプリング(23)が吊下げ支持するように構成してある。」(3頁右上欄14行?同頁左下欄5行)と記載されている。
(3)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、米国特許第4934130号明細書(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載が認められる。
(3-a)「図2に示されているように、シャーシの一側方に配置されている前記バーは、ドロー・バー38により、シャーシに回動可能に固定された軸40に接続された三腕フオロア39に連結されている。シャーシの反対側に於いて、前記軸は、図面を参照して後述するタイプのリンク機構に作用するように構成された別のフオロア(図示せず)を支持している。
前記軸40は、更に、前記カッタ・アタッチメントのそれぞれの側方に配置された二つの平行なパイプ42を有する概してU字状のヨーク41も支持している。これらのパイプ42は、前記軸40に回動可能に固定されている。これらのパイプは、水平に延びる内側部と、上下方向に延びる外側部とを有し、パイプ43を介して互いに接続され、前記パイプ43は、刈取り作業中に地面上に載置されるように構成された複数のローラ44の為の支持体として作用する。
前記パイプ42は、それぞれ、アングル・リンクアーム46が回動可能に固定された耳部45を有する。前記リンクアーム46の一端部は、ドロー・バー47を支持し、その他端部は前記三腕フオロア39の第1アーム48に接続されている。前記リンクアーム46の他端部は、前記パイプ42の縦部分と前記フオロア39の第2アーム50との間に延出するレバー49に回動可能に固定されている。前記リンクアーム50の前記パイプ42と接触している端部は、フオーク51として形成され、前記パイプ上で揺動するように構成され、他方、
その第2端部は、前記第2アーム50のピン53がその中で揺動するスロット52を有する。前記フオロアの第3アーム54は、前記駆動ユニットと前記カツタ・アタッチメン上との間で移動するベルト(詳細には図示せず)に作用するべく、ドローバー55を介してテンションローラ56(図1)に接続されている。」(第2欄23?53行)、
(3-b)「前記カッタ・アタッチメントは、複数のプーリ66を有し、これらプーリは、それぞれ、カッタ・アタッチメントの一つのフレードを駆動し、前記シャーシは、対応の数の制動ラバー・ブロック67を有する。これらのブロックは、カッタ・アタッチメントが図2中に於いて破線で示された位置であるその非作動上方位置にまで回動された時に、前記プーリに係合するように配置されている。これらのブロックは、又、前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのためのバネ支持体としても作用し、これによって、モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」(第3欄5?14行)、
(3-c)「同時に、前記ドローバー55に接続されたテンシヨンローラによってエンジンとカッタ・アタッチメントとの間の前記ベルトにテンシヨンが付与されていることにより,カッタ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せず)が係合される。」(第3欄44?48行)。
上記記載及び第1、2図の記載によると、引用例3には、バー19を上方に回動すると、ドロー・バー38を介して三腕フオロア39が軸40を中心に回動し、ドローバー55を作動してテンションローラ56によるカッタ・アタッチメントのベルト駆動装置を断とすると共に、カッタ・アタッチメントが図2中の破線で示された非作動上方位置では、プーリ66に制動ラバー・ブロック67を係合して、カッターの回転を止める考案、すなわち、一つの操作レバー(バー19)を引き上げ操作することにより、カッターを上昇し、カッターへの動力伝達を切断すると共にブレーキを作動させる技術思想が開示されているといえる。
なお、請求人は、引用例3には「これらのブロックは、又、前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのためのバネ支持体としても作用し、これによって、モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」(上記(3-b)参照)と記載されており、引用例3記載のモアの場合は、制動ラバーブロック67の機能は、本質的にはモアが駆動される時のがたつきと騒音を回避するためのものである旨主張するが、上記記載は、カッタ・アタッチメント(もちろん駆動されていない)を上方に位置させた状態でモアを走行(駆動)させる時には、制動ラバーブロック67がカッタ・アタッチメントを弾性的に支持するバネ支持体として作用するから、カッタ・アタッチメントのがたついきと騒音とが回避されるとの意味であるから、請求人の主張は採用できない。
(4)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、実公昭55-35940号公報(以下、「引用例4」という。)には、「機体が枕地側にいたり回行する際には、操作レバー3は操作しないでクラッチレバー4のみを第6図に示すように矢印イ方向に操作すると、拘束体Bにおける板体16,16′が屈折部19,19′の接合により折れない状態で板体16′が操作レバー3の背面にあたり、そのまま板体16′で操作レバー3を後押ししながら従動させ、」(2頁左欄26?32行)と記載されている。
(5)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、実公昭49-27067号公報(以下、「引用例5」という。)には、「本考案のコンバインにおける刈取部駆動停止装置は、主変速レバー8の作業速度側イ位置と走行速度側および後進側ロ位置とをそれぞれ中立位置に対して相対向する位置に在らしめ、該主変速レバー8の側方には刈取クラッチレバー10を設けるとともに主変速レバー8には刈取クラッチレバー10に係接し得る制御杆11を一体的に付設して主変速レバー8を走行速度側および後進側ロ位置に操作したとき同時に刈取クラッチレバー10が切れるよう構成したものであるから、機体を路上走行させる場合、あるいは後進させる場合に操縦者は主変速レバー8を操作するだけで刈取装置4および搬送装置5を自動的に停止させることができて刈取、搬送部の動力を切忘れたりすることはなく」(2頁左欄18行?同頁右欄7行)と記載されている。
(6)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、実公昭48-16835号公報(以下、「引用例6」という。)には、「本考案に於けるコンバインのクラッチは、脱穀装置作動用クラッチ操作具28と刈取装置作動用クラッチ操作具16とを有するコンバイン30のクラッチに於いて、前記刈取装置作動用クラッチ操作具16をして該刈取装置作動用クラッチ17を入れた時、前記脱穀装置作動用クラッチ26をも入れるべく両クラッチ操作具16,28を連動連結させると共に、前記刈取装置作動用クラッチ操作具16をして該刈取装置作動用クラッチ17を切った時には前記脱穀装置作動用クラッチ26を切り得ない様両クラッチ操作具16,28を連動させるべく両クラッチ操作具16,18間に片側連動機構31を設けたものである」(2頁右欄16?28行)と記載されている。
(7)無効理由で引用され本件出願日前に頒布された、実公昭2-44664号公報(以下、「引用例7」という。)には、「前記回転軸44の左端にはレバー連係手段である連動板51を固着すると共に、前記変速レバー36の中間に受筒軸52を介してレバー連係手段である連動ピン53を支持させていて、前記変速レバー36を前進位置より後進位置に揺動変換操作するとき、前記連動ピン53の先端を連動板51に係合させ、前記回転軸44を介し操作片48aを一体回動させて前記スプール47を退入させ植付部15を上昇させるように構成している。」(2頁左欄34?43行)と記載されている。
周知技術を示す刊行物
実願昭54-117373号(実開昭56-35432号)のマイクロフイルム(以下、「刊行物1」という。)には、「従動プーリ(2A),(2A’)のうち、大径側・・・のもののベルト巻回用周溝(2a)に直接圧接して受動側回転部材(2)を制動する作用姿勢と離間した非制動作動姿勢とに揺動切り換え可能な制動具(3)」(4頁2?6行)と記載されている。
実願昭61-202845号(実開昭63-104233号)のマイクロフイルム(以下、「刊行物2」という。)には、「74はPTO軸58の慣性回転を防止するブレーキシューで、従動プーリ55下側面に対向して配置されている。」(10頁8?10行)と記載されている。

5-3-2.対比・判断
本件考案と上記引用例1記載の考案とを対比すると、引用例1記載の考案の「車台(3)」が本件考案の「車体」に対応し、同様に、「適宜支持手段」が「昇降手段」に、「刈刃ハウジング(2)」が「カバー(20)」に、「シート(8)」が「座席(11)」に、「刈刃(14)…」が「カッター(C)」に、「入力プーリー(20)」が「従動プーリ(51)」に、「出力プーリー19」が「駆動プーリ」に、「入力ベルト(23)」が「ベルト」に、「刈取テンションクラッチ体(24)」が「クラッチ機構」に、「ブレーキ部材(26)」が「ブレーキシュー」に、それぞれ対応しており、また、引用例1記載の考案の「リフトレバー(17)」は人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成しているから、両者は、
前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバーを備えた刈取部、
座席の側部に配設されており、上記刈取部を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部のカッターを回転させる従動プーリ、
駆動プーリと上記従動プーリに回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリへの駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで、カッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー、を含む草刈機で一致し、
(A)制動手段が、本件考案では、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動するのに対し、引用例1記載の考案では、ブレーキ部材(26)で入力ベルト(23)の外面側に沿って面圧接し、この入力ベルト(23)が入力プーリー(20)のV溝に圧接して刈刃(14)…を駆動している入力プーリー(20)の回転を制動する点、
(B)本件考案では、「昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体」と「当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバー(41)を動かすクラッチ側係合体」を含み、「昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、」かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ(51)の回転を制動するようにし」、「刈取部を上昇させる動作でクラッチの断操作と従動プーリの回転の制動ができるようにし」ているのに対し、引用例1記載の考案では、リフトレバー(17)とクラッチレバー(27)とが連動されていない点、
(C)本件考案では、「刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段」を含み、「昇降手段は、上記刈取部(2)に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有して」いるのに対し、引用例1記載の考案では、前記構成を備えていない点、
で両者は構成が相違する。
上記相違点について検討する。
上記(A)の相違点について
ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して従動プーリの回転を止めることは周知(例えば、上記刊行物1及び2参照)であるから、引用例1の発明において、ブレーキ部材(26)で入力プーリー(20)の周面を押圧するよう構成することは当業者ならきわめて容易に想到できることである。
上記(B)の相違点について
引用例3には、1つのレバー(バー19)によって、カッタ・アタッチメントを上昇させ、カッターへの駆動力を「断」すると共に、カッターの制動作動を行うようにする技術思想が開示されており、しかも、関連する2つ作動部を操作する各レバーを併設し、1つのレバーを操作することにより他のレバーを連動して操作できるように構成することは慣用技術(例えば、上記引用例4ないし7参照)である。
そうすると、引用例1記載の考案において、1つのレバーによって、刈取部を上昇させ、刈取部への動力を切ると共に刈取部にブレーキを掛けるようにすること、すなわち、リフトレバー(17)の引き上げに連動してクラッチレバー(27)を上方へ回動するようにして本件考案のように構成することは当業者がきわめて容易に想到できることである。
上記(C)の相違点について
刈取部(芝刈り装置(4))を昇降する吊上げリンク(11),(11)に長孔を形成するとともに、刈取部を上方へ付勢する付勢手段を設けることとは、引用例2に記載されているので、引用例1記載の考案において、リフトレバー(17)と刈取部との間に、刈取部に加わる突き上げ力を逃がすように構成するとともに、刈取部を上方へ付勢する付勢手段を設け、上記相違点における本件考案のように構成することは当業者がきわめて容易に想到できることである。
なお、被請求人は、引用例2記載の考案のスプリング(23)は、刈取り部を上昇させる際に、昇降ハンドルの操作負担を軽減するを図るためのものではないから本件考案のものとは構成が相違する旨主張する(「3.被請求人の反論」(4)参照。)が、実用新案登録請求の範囲には、「刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段」と記載されており、そして、引用例2記載の考案のスプリング(23)が刈取部(芝刈り装置(4))に上方へ向かう付勢力を付与しているから被請求人の主張は採用できない。
そして、本件考案が奏する効果は、引用例1ないし3に記載された考案および周知技術から予測できる程度のことであって格別顕著なものではない。
したがって、本件考案は、引用例1ないし3に記載された考案および周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
5-4.実用新案法第3条第2項違反の2(「2-2.無効理由通知の概要」の(2))について
検甲第1号証は、本件出願前に公然知られたものとは認められないが、ブレーキ装置を備えていない、ラビットモアー RM-82型機は本件出願前に製造・販売されている蓋然性が高く(甲第13、14号証参照)、ブレーキ装置を備えていない、ラビットモアー RM-82型機から、「5-2-1.検証物の構成」における、1)ないし6)の構成及び「昇降ハンドルを掛止部付近まで引き上げると、回転支持体が係合ピンを押上げ、クラッチレバーを上方に回転させて操作ワイヤを弛め、クラッチ機構を断方向に作動させる」草刈機が、公然実施あるいは公然知られた考案(以下、「公然実施された考案」という。)と推認できる。
そして、本件考案と公然実施された考案とを対比すると、
(い)本件考案では、「クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動する制動手段」を含み、「上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリ(51)の回転を制動するようにし」、刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにしているのに対し、公然実施された考案では、クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段が設けられていない点、
(ろ)本件考案では、「刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段」を含んでいるのに対し、公然実施された考案では、付勢手段を含んでいない点、
で両者は構成が相違する。
しかしながら、前記(い)の相違点については、クラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるように構成することは周知技術(上記引用例1、上記刊行物1、2参照)であるから、公然実施された考案に前記周知技術を適用することにより当業者がきわめて容易に想到できることであり、また、前記(ろ)の相違点については、公然実施された考案に上記引用例2に記載された考案を適用することにより当業者がきわめて容易に想到できることである。
そして、本件考案が奏する効果は、公然実施された考案、引用例2に記載された考案及び周知技術から予測できることであって格別顕著なものではない。
したがって、本件考案は、公然実施された考案、引用例2に記載された考案及び周知技術に基づいて当業者が容易に考案をすることができたものである。

5-5.むすび
以上のとおりであるから、本件考案は、引用例1ないし3に記載された考案及び周知技術、あるいは、公然実施された考案及び引用例2に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当する。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
草刈機
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機であって、
前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバー(20)を備えた刈取部(2)、
座席(11)の側部に配設されており、上記刈取部(2)を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部(2)に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、
上記刈取部(2)のカッター(C)を回転させる従動プーリ(51)、
駆動プーリと上記従動プーリ(51)に回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリ(51)への駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッター(C)を駆動している従動プーリ(51)の回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー(41)、
上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、
当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバー(41)を動かすクラッチ側係合体、
を含み、
上記昇降手段は、上記刈取部(2)に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、
上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部(2)を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリ(51)の回転を制動するようにしたことを特徴とする、
草刈機。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は草刈機に係り、更に詳しくは刈取部を昇降させる昇降操作手段を人力によって操作して刈取部を所定の位置まで上昇させるとクラッチが断方向に作動し、クラッチの断方向の作動に伴ってカッターを駆動している従動プーリを制動手段により制動するようにし、更に刈取部に上向きの突き上げ力が加わったときにその力を逃がして草刈機の各部の損傷防止を図ったものに関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
芝や草を刈るために乗用型の草刈機が使用されている。従来の乗用型草刈機は刈取部が昇降できないか、昇降できても昇降のストロークが少なかった。このためトラックの荷台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し一人では載せられない課題があった。
この課題は刈取部の昇降ストロークを大きくすることによって解決できる。
【0003】
ところで乗用型の草刈機のカッターは駆動プーリからベルトを介して駆動されている従動プーリによって駆動されている。駆動プーリは車体側に設けてあり、従動プーリは昇降する刈取部側に設けてある。そうして刈取部の下降時、つまり刈取作業時には駆動プーリと従動プーリとは同一平面に位置し、同じ高さになって伝動効率が高いように設定されている。
【0004】
この為刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は駆動プーリと従動プーリとは高さの位置に違いが生じる。その際にベルトにテンションがかかっているとベルトがプーリから外れてしまうという課題がある。
【0005】
実願昭61ー122623号(実開昭63-28322号)のマイクロフィルムには、従動プーリの外周近傍にベルト押えを配設して従動プーリからベルトが外れないようにしたものが開示されている。この構造では駆動プーリと従動プーリの高さの差が一定の範囲内であれば従動プーリからベルトが外れることは防止できる。
しかし刈取部の昇降ストロークを大きく取った場合は駆動プーリと従動プーリの高さの差が大きくなり、駆動プーリからベルトが外れてしまうためにベルト外れを防止するには十分とは言えない。
【0006】
ところで、刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は危険防止や刃の破損を防止する為にカッターの回転を制動する必要がある。その場合に刈取部を上昇させる動作とクラッチの「断」作動とカッターの制動とを一つの動作で行なうことができれば便利であるばかりでなくベルトがプーリから外れない。
【0007】
また、刈取部に下から突き上げ力が加わったときにその力を逃がすことができれば草刈機の各部の損傷防止ができ、メンテナンスの観点からは好ましいものである。
【0008】
【考案の目的】
本考案の目的は、刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機を提供することにある。
また本考案の他の目的は、刈取部に突き上げ力が加わったときにその力を逃がして損傷防止を図った草刈機を提供することにある。
【0009】
【課題を解決する為の手段】
上記課題を解決し目的を達成する為に講じた本考案の手段は次の通りである。
即ち本考案は、刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動と従動プーリの回転の制動ができるようにした草刈機であって、
前輪と後輪との間の車体下方に昇降手段を介して昇降可能に設けてあり、進行方向前方側が開口されているカバーを備えた刈取部、
座席の側部に配設されており、上記刈取部を人力によって昇降操作する昇降操作手段を構成する昇降ハンドル、
上記刈取部に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段、
上記刈取部のカッターを回転させる従動プーリ、
駆動プーリと上記従動プーリに回し掛けてあるベルト、
クラッチレバーの回動によって上記従動プーリへの駆動力を断続するクラッチ機構、
上記クラッチレバーの上方への回動により上記クラッチ機構が断方向に作動したときブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段、
上記クラッチ機構を作動するクラッチレバー、
上記昇降操作手段の動きとともに動く昇降操作手段側係合体、
当該昇降操作手段側係合体との係合によって上記クラッチレバーを動かすクラッチ側係合体、
を含み、
上記昇降手段は、上記刈取部に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を有しており、
上記昇降操作手段を構成する昇降ハンドルを引き上げ操作して上記刈取部を所定の位置まで上昇させると上記昇降操作手段側係合体が上記クラッチ側係合体と係合して上記クラッチ機構を断方向に作動し、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して従動プーリの回転を制動するようにしたことを特徴とする、
草刈機である。
【0010】
【作用】
例えば草刈機を搬送用のトラックに積み込む場合、或は草刈作業地に凹凸が多い場合は、草刈機の下方に配置してある刈取部を昇降操作手段によって上昇させる。刈取部の上昇は従動プーリの上昇を伴うので、位置が固定されている駆動プーリとの間に作動平面の高さの差が生じる。
【0011】
しかし、昇降操作手段を操作して刈取部を所定の位置まで引き上げると昇降操作手段側係合体がクラッチ側係合体と係合してクラッチ機構を断方向に作動し、従動プーリへの駆動力が切断される。またクラッチ機構が断方向へ作動したときカッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段が作動する。
【0012】
これによって駆動プーリと従動プーリの高さの差が大きくなった場合でもベルトの脱落が防止されると共にカッターの回転停止により安全性の確保を図ることができる。このように昇降操作手段の操作だけでクラッチ機構を断方向に作動させることができるので操作が簡単である。
【0013】
上記刈取部の上昇は昇降操作手段を人力で操作して行われる。人が昇降操作手段を操作して刈取部を引き上げるには相当な力が必要となる。
そこで昇降操作手段を座席の側部に配設して操作し易くし、更に付勢手段で刈取部に上方へ向かう付勢力を付与して体にかかる負担軽減を図っている。
【0014】
刈取部が地面と接触する等して刈取部に突き上げ力が加わったときには、緩衝手段によってその力を逃がすることができるので草刈機の各部の損傷防止ができ、メンテナンスの観点からは好ましい。また、刈取部を構成しているカバーの前方が開放されているので、長い草を刈るときでも草の倒れが少なく、刈り取りやすい。
【0015】
【実施例】
本考案を図面に示した実施例に基づき更に詳細に説明する。
図1は本考案にかかる草刈機の一実施例を示す概略側面図、図2は駆動部の構造を示す要部裏面図、図3は昇降レバー及びクラッチレバーの構造を示す要部斜視図、図4は駆動部の構造を示す説明図である。
符号Aは草刈機で、フレーム1を有している。フレーム1の前後部には、前部車軸10及び後部車軸10aが設けてある。各車軸10、10aには、前輪W1及び後輪W2が取付けてある。
【0016】
フレーム1後部には、後部車軸10a及び後述するカッターを駆動する原動機Eが搭載してある。原動機Eの冷却風ダクトDは下方に導出してある。
原動機Eの駆動軸13(図2に図示)にはプーリP1、P2が取付けてある。プーリP2とフレーム1後部裏側に配設してあるミッションMのプーリP3にはベルトB1が巻き掛けてある。14はクラッチを構成しているテンションプーリである。なおプーリP1と、後述するカッターの垂直軸の従動プーリ51との間にはベルトB2が巻き掛けてある。
【0017】
フレーム1前部には、前輪W1を操舵するステアリングSが設けてある。12はブレーキペダル、120はブレーキペダルと連動して走行ブレーキの作動と走行クラッチの切断とを一緒に行なうようにした作動ロッド、Bはバッテリーである。
【0018】
フレーム1の中間部上部には、上方に盛り上げて形成してある座枠板15が取付けてある。座枠板15の上部には座席11が取付けてある。座枠板15の下方には座枠板15とほぼ同一形状に形成され、上面カバー201と共に後述する垂直軸50を支持する支持板15aが配設してある。なお、支持板15aは後述するカバー20の上部に取付けてある。また、座枠板15と支持板15aは同じ金型を使用して成形されており、コストダウンを図っている。
【0019】
フレーム1の中間部下側には刈取部2が配設してある。刈取部2は、ほぼ円盤状のカバー20を備えている。カバー20は側面カバー200と上面カバー201を有している。なお、前記した支持板15aは上面カバー201の上に設けてある。側面カバー200は前部側が解放されており、後部側及び進行方向の左方側は、側面カバー200で塞がれている。カバー20の右方側には、側面カバー200の一部を構成する側部カバー24が設けてある。側部カバー24は上方へ回動できるようにしてあり、カバー20右側を開閉できる。
【0020】
カバー20を含む刈取部2は、取付けピン30a、30b、30c、30d及びリンク31、32、33(フレーム1の左右に設けてある)からなる昇降手段であるリンク装置3により、昇降できるようにフレーム1に取付けてある。
リンク33の上端部には長孔330が設けてある。リンク33は、長孔330を回動支持体340のピン341にスライド可能に嵌め入れて取付けてあり、長孔330と共に刈取部2に加わる突き上げ力を逃がす緩衝手段を構成している。
昇降操作手段側係合体を構成している回動支持体340の元部は、支持板43に支軸342を介して回動可能に取付けてある。また回動支持体340には、昇降操作手段である昇降ハンドル34が元部を中心軸として回動可能に取付けてある。
【0021】
昇降ハンドル34は支持板43に隣設してある円弧状の調整板35の調整溝350に挿通してある。調整溝350には、下部の四箇所に半円状に切欠された掛止部351が設けてある。また調整溝350上端部には、掛止部352が設けてある。
【0022】
上記構造によると、昇降ハンドル34を上方に引き上げれば刈取部2を上昇させることができる。なお、刈取部2は、刈取部2に上方へ向かう付勢力を付与している付勢手段である引上げバネ25によって常時上方へ引かれており、手操作により昇降ハンドル34を引き上げる際に要する力が軽減されると共に、リンク装置3等各部の負担も軽減される。
【0023】
支持板43の上部には、支軸44を介してクラッチ機構を作動する手段であるクラッチレバー41の後部寄りが回動可能に取付けてある。クラッチレバー41のうち支軸44寄りには調整板35側へ突出して、クラッチ側係合体である係合ピン42が設けてある。係合ピン42先端部は回動する回動支持体340に接触する位置まで突出させてある。クラッチレバー41後端部には係合ピン42とは反対側へ突出して取着ピン45が設けてある。取着ピン45には後述する操作ワイヤWの一端部が取付けられる。
【0024】
図3においては操作ワイヤWを引っ張っている場合を図示している。そしてこの状態から、昇降ハンドル34を引き上げて掛止部352に掛止すれば回動支持体340が係合ピン42を押し上げ、クラッチレバー41を上方へ回し、操作ワイヤWを緩める。これによってクラッチ機構を断方向に作動させる。
【0025】
カバー20の中央部には、軸受(図示省略)を介して垂直軸50が取付けてある。また、垂直軸50は軸受(図示省略)を介して支持板15aを貫通させてあり、上端部には従動プーリ51が取付けてある。従動プーリ51は座枠板15と支持板15aの間の空間部に位置している。従動プーリ51には上記したとおりベルトB2が巻き掛けてあり、原動機Eにより駆動される。
【0026】
垂直軸50下端部にはカッターCが取付けてある。カッターCはカッターバー21を有し、カッターバー21は垂直軸50に水平に取付けてある。カッターバー21はカバー20の下方側に位置し、その両端部には軸ピン23を介して刈刃22が揺動可能(固定も可能)に取付けてある。なお、両刈刃22の刃先は、カバー20内に収まるように設定してある。
【0027】
原動機E側のプーリP1と従動プーリ51に巻き掛けてあるベルトB2のプーリP1側寄りには、クラッチ機構を構成しているテンションプーリ16が配設してある。テンションプーリ16はアーム160先部に取付けてあり、アーム160の中間部は軸ピン161によって回動可能に軸支してある。アーム160後端部には、操作ワイヤWの先端部が取付けてある。操作ワイヤWの中間部はチューブT内に通してあり、元端部は上記クラッチレバー41の取着ピン45に取付けてある。
【0028】
また、アーム160の軸ピン161より先部には軸ピン162を介してブレーキロッド170の後端部が取付けてある。ブレーキロッド170の先端部はフック状に形成され、支軸171を介して回動可能に取付けてあり、制動手段であるブレーキシュー17の一部に掛けてある。ブレーキシュー17は、アーム160が回動してテンションプーリ16によるベルトB2へのテンションを解除したときに前方へ回動し、従動プーリ51周面を押圧してブレーキをかける。またアーム160が回動しテンションプーリ16によりベルトB2にテンションがかかったときには後方へ回動し、ブレーキを解除するようにしてある。
【0029】
図5は草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。図1ないし図5を参照して本実施例の作用を説明する。
(1)操縦者が乗車し、昇降ハンドル34を操作して刈取部2の高さを草刈作業地の状態に最適の高さに調整する。
【0030】
(2)草刈作業中、作業地の凸部などが刈取部2に接触しても、リンク33の長孔330の作用により刈取部2のみが跳ね上がり、突き上げ力を逃がして各部の損傷を防止する。
【0031】
カバー20の前方は解放されているので、図5に示すように長い草を刈るときでも草の倒れが少なく、刈取りやすい。
カバー20の側部カバー24を上方に折り曲げて側部を開放すると刈刃22の交換が容易である。
更にはカッターCの刈刃22は揺動自在に取付けてあるので、路石などの硬いものに当たっても逃げが利き、損傷を防止できる。
【0032】
(3)草刈機を搬送用トラックに積載する際に、作業時の高さのままでは刈取部2が架台等に接触するような場合や、作業地に凹凸が多い場合などは刈取部2を上昇させる。
その際は、昇降ハンドル34を引き上げて掛止部352に掛止する。これにより回動支持体340が係合ピン42を押し上げ、クラッチレバー41を上方へ回し、操作ワイヤWを緩める。操作ワイヤWが緩むとアーム160が回動し、テンションクラッチ16によるベルトB2へのテンションが解除され、ベルトB2が緩み、作動中であってもカッターCの作動は停止する。このときブレーキシュー17が回動して従動プーリ51を停止させる。
【0033】
またベルトB2が緩むことにより、従動プーリ51と駆動プーリP1との間に高さの差が生じた状態でもベルトB2は脱落しない。
なお、本考案は図示の実施例に限定されるものではなく、実用新案登録請求の範囲の記載内において数々の変形が可能である。
【0034】
【考案の効果】
本考案は上記構成を備え、次の効果を有する。
(a)例えば草刈機を搬送用のトラックに積み込む場合、或は草刈作業地に凹凸が多い場合は、草刈機の下方に配置してある刈取部を昇降操作手段によって上昇させる。刈取部の上昇は従動プーリの上昇を伴うので、位置が固定されている駆動プーリとの間に作動平面の高さの差が生じる。
しかし、昇降操作手段を操作して刈取部を所定の位置まで引き上げると昇降操作手段側係合体がクラッチ側係合体と係合してクラッチ機構を断方向に作動し、従動プーリへの駆動力が切断される。またクラッチ機構が断方向へ作動したときカッターを駆動している従動プーリの回転を制動する制動手段が作動する。
これによって駆動プーリと従動プーリの高さの差が大きくなった場合でもベルトの脱落が防止されると共にカッターの回転停止により安全性の確保を図ることができる。このように昇降操作手段の操作だけでクラッチ機構を断方向に作動させることができるので操作が簡単である。
【0035】
(b)上記刈取部の上昇は昇降操作手段を人力で操作して行われる。人が昇降操作手段を操作して刈取部を引き上げるには相当な力が必要となる。
そこで昇降操作手段を座席の側部に配設して操作し易くし、更に付勢手段で刈取部に上方へ向かう付勢力を付与して体にかかる負担軽減を図っている。
【0036】
(c)刈取部が地面と接触する等して刈取部に突き上げ力が加わったときには、緩衝手段によってその力を逃がすることができるので草刈機の各部の損傷防止ができ、メンテナンスの観点からは好ましい。また、刈取部を構成しているカバーの前方が開放されているので、長い草を刈るときでも草の倒れが少なく、刈り取りやすい。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本考案にかかる草刈機の一実施例を示す概略側面図である。
【図2】
駆動部の構造を示す要部裏面図である。
【図3】
昇降レバー及びクラッチレバーの構造を示す要部斜視図である。
【図4】
駆動部の構造を示す説明図である。
【図5】
草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。
【図6】
従来の草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。
【符号の説明】
A 草刈機
2 刈取部
20 カバー
21 カッターバー
22 刈刃
24 側部カバー
25 引上げバネ
C カッター
34 昇降ハンドル
41 クラッチレバー
50 垂直軸
51 従動プーリ
B2 ベルト
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-12-12 
結審通知日 2003-12-17 
審決日 2004-02-05 
出願番号 実願平4-93619 
審決分類 U 1 112・ 113- ZA (A01D)
U 1 112・ 121- ZA (A01D)
最終処分 成立    
前審関与審査官 小島 寛史  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 二宮 千久
瀬津 太朗
登録日 1997-04-25 
登録番号 実用新案登録第2541651号(U2541651) 
考案の名称 草刈機  
代理人 今村 定昭  
代理人 梶原 克彦  
代理人 梶原 克彦  
代理人 朝倉 悟  
代理人 綾田 正道  

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