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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない E02D
管理番号 1098177
審判番号 無効2000-35666  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-11 
確定日 2004-06-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第2099411号「地表埋設用蓋付枠」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成13年9月26日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第497号、平成14年8月9日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 手続の経緯

実用新案登録第2099411号は、平成1年11月22日に出願され、平成7年4月12日に出願公告(実公平7-15882号)され、平成8年1月26日に登録されたものであって、平成12年12月11日に無効審判の請求があり、特許庁において無効2000-35666号事件(本件)として審理され、平成13年4月20日に被請求人より訂正請求がなされ、平成13年8月29日に請求人より上申書が提出され、平成13年9月26日付けで「訂正を認める。実用新案登録第2099411号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする」旨の審決がなされ、この審決に対する訴えが東京高等裁判所になされ(平成13年(行ケ)第497号)る一方、平成14年4月17日付けで、訂正審判(訂正2002-39095号)がなされ、平成14年6月13日付けで「訂正することを認める」旨の審決がなされた。
そして、平成14年8月9日に上記無効2000-35666号事件について平成13年9月26日付けでなされた審決を取り消す旨の判決が言い渡され、その判決は確定した。その後、本件審判事件についてさらに審理され、平成14年10月22日付けで請求人に対して審尋がなされ、請求人より平成14年12月6日付けで回答書が提出された。

2 本件訂正考案

上記のように訂正2002-39095号によって訂正された実用新案登録請求の範囲は次のとおりである。
「蓋本体2が蓋受枠6上にその上面が略面一に嵌合され、蓋本体2の下端外周縁に逃げ空所5を形成すべく切り欠き部4が刻設された地表埋設用蓋付枠において、蓋本体2の上方外周側面には蓋受枠6の上方内周縁に形成されたテーパー面8に合致するテーパー面7が形成されてなり、且つ前記切り欠き部4の少なくとも一箇所以上には突起体10が外周方向に突設されてなり蓋受枠6の少なくとも一箇所以上には、前記突起体10を係入するための凹部11が形成され、しかも前記蓋受枠6には蓋本体2の環状脚部3を載置するための受部9が形成され、且つ前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられてなることを特徴とする地表埋設用蓋付枠。」
以下、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載された考案を、本件訂正考案という。

3 請求人及び被請求人の主張

(1)請求人は、請求書及び平成13年8月29日付けの上申書において、甲第1号証ないし甲第8号証及び甲第12号証ないし甲第14号証を提示して、本件考案は本件実用新案登録出願前に公知の甲第1号証に記載された考案及び甲第2号証ないし甲第8号証及び甲第12号証ないし甲第14号証に記載された周知の技術から当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨主張し、本件訂正考案については、平成14年12月6日付けの回答書において、訂正により限定された構成は甲第16号証ないし甲第18号証に記載された周知の技術であるから、本件訂正考案は当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当しその出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものであって、同法第39条第3項の規定に違反し、平成5年法律第26号附則第4条第2項で読み替えられた実用新案法第37条第1項第2号の2の規定により無効とされるべきである旨主張する。
甲第1号証 実願昭53-58692号(実開昭54-159749号)マイクロフィルム
甲第2号証 実願昭55-189780号(実開昭57-114853号)マイクロフィルム
甲第3号証 実願昭54-66200号(実開昭55-168555号)マイクロフィルム
甲第4号証 実公昭58-51246号公報
甲第5号証 実公昭58-51248号公報
甲第6号証 実公昭62-4595号公報
甲第7号証 実公昭62-4596号公報
甲第8号証 実公昭62-23885号公報
甲第12号証 JIS A 5506-1987 下水道用マンホールふた 昭和62年1月31日発行 表紙、P.1?P14、裏付け
甲第13号証 「機械工学辞典」1990年3月20日株式会社朝倉書店発行、P.190
甲第14号証 第3版「鉄鋼便覧 V 鋳造・鍛造・粉末冶金」昭和57年10月1日丸善株式会社発行、P.7?P.14
甲第16号証 実願昭58-155106号(実開昭60-66748号)マイクロフィルム
甲第17号証 特開昭58-150632号公報
甲第18号証 実願昭55-186458号(実開昭57-110154号)マイクロフィルム

(2)被請求人は、平成13年4月20日付け及び平成13年8月24日の答弁書において、本件訂正考案は、甲第1号証に記載された考案及び甲第2号証ないし甲第8号証及び甲第12号証ないし甲第14号証に記載された周知の技術から当業者がきわめて容易に考案できたものではなく、実用新案法第3条第2項の規定には該当しない旨主張する。

4 引用例に記載された技術的事項

請求人の提出した甲第1号証ないし甲第8号証及び甲第12号証ないし甲第14号証及び甲第16号証ないし甲第18号証には、以下の事項が記載されていると認められる。

(1)甲第1号証(以下、「引用例1」という。)
(ア)「本考案は、ホール壁筒体の上縁に嵌合固定した蓋受枠体に、蓋を密着状態に固定して蓋の旋回や飛び出しを阻止し、もって蓋の旋回に起因する騒音の発生や蓋の飛び出しにより誘発される不測の事故の発生を完全に防止することができるマンホールに係るものである。
従来、下水道、電線埋設管等のマンホールは、ホール壁筒体の上縁に蓋受枠体を嵌合固定し、該蓋受枠体の蓋嵌合凹段部に蓋を嵌め込むようになっているが、下水管渠の清掃や電線埋設管の検査等を定期的に行なう必要上、重量物である蓋はその開閉を容易にするために蓋の周側壁と該周側壁に対応する壁嵌合凹段部との間に若干の間隙を存した状態で蓋嵌合凹段部に嵌め込まれている。このため、特に車輌の往来が激しい道路に設置されたものにおいては、車両が通過する際、車輌との摩擦あるいは振動によってマンホールの蓋が旋回作用を受け、蓋が多方向に不規則に移動、揺動して騒音を発したり、あるいは蓋の飛び出しにより大事故を誘発する等の欠点があった。」(1頁16行?2頁15行)
(イ)「9は蓋受枠体1の立上がり面2a一側に穿設された凹溝であって、この凹溝9は前記錠体4が設けられた位置と対向する側に設けられており、蓋3の周側に突成された凸部10と嵌合され、該蓋3の旋回および上動を規制できるようになっている。」(5頁3行?8行、第3、4図)
上記記載を含む明細書全体の記載及び第1図?第4図によれば、引用例1には、「蓋が蓋受枠体上にその上面が略面一に嵌合された地表埋設用蓋付枠において、蓋の下端外周縁の一箇所に凸部が外周方向に突設されてなり、蓋受枠体の該凸部に対応する部分には、前記凸部を係入するための凹溝が形成され、しかも前記蓋受枠体には蓋の環状脚部を載置するための水平載置面が形成されてなる地表埋設用蓋付枠体」の考案(以下、「引用例1考案」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証(以下、「引用例2」という。)
(ア)「第1図は、このマンホールカバーの分解斜視図、第2図は同じく縦断面図である。11は受枠であって、その内周面は、親蓋が嵌着する。テーパ面12とそれに接続したリング状受部13とから構成されている。21は親蓋であって、外周側面は受枠に嵌着するテーパ面22とし・・・」(2頁5行?10行)
(イ)「地中に埋設固定してある受枠11に親蓋21をその鉤孔27に工具を掛け持上げ、外周側面22を受枠の内周側面12に挿入し、相互のテーパ面同志を接触せしめて、親蓋21を受枠11に嵌着する。」(3頁4行?8行)
上記記載と第2図の記載によれば、親蓋21周面上部のテーパ面と、受枠11の内周側面のテーパ面と接触していること、親蓋21と受枠11の上面が略面一となっていること、親蓋21の下部は周面が切り欠かれて、受枠11との間に空所が形成されていることとが認められる。

(3)甲第3号証(以下、「引用例3」という。)
(ア)「本考案は、汚水ます、浄化槽、マンホール等の地表埋設物の蓋受け構造の改良に関する。
従来上記のような地表埋設物は、排水から出る臭気の発散防止、蓋のガタつきによる騒音防止のため、第1?2図に示すように蓋受け枠1の上面の内側に溝2を周設し、この溝2に蓋3のつば部4を嵌入し、溝2の外壁5の壁面52に蓋3の外周面6を密着させ、且つ溝2の内壁7側の深さを深くして防音と防臭の効果を図っていた。しかしこの場合、溝2内に雨水や泥水が流入して土砂8が堆積すると、蓋3のつば部4が溝2内に嵌入しなくなるため、車が蓋3の上を通過すると、蓋3がハネてガタつく欠点があった。」(1頁9行?2頁2行)
(イ)「第3?4図に示すように蓋受け枠11の上面の内側に内壁12と外壁13とよりなる溝14を設け、その内壁12側の深さを、該蓋受け枠11にはめる蓋15の外周面16の厚さより浅く形成する。蓋15には溝14に嵌入するつば部17を突設し、このつば部17の両側に土砂溜り18が出来るように、つば部17の幅を溝14の幅より狭く設定する。
このように構成したので、蓋受け枠11と蓋15との隙間より雨水や泥水が流入して土砂が溝14内に堆積しても内壁12側が浅いため、土砂はここからオーバーフローするので、内壁12より高くは堆積しない。このため溝14内に土砂が堆積しても、はめた蓋15は、その外周面16が外壁13の上縁131よりはずれることがないので、蓋15はズレず、ガタつきによる騒音も少くすることが出来る。」(2頁14行?3頁10行)

(4)甲第4号証(以下、「引用例4」という。)
第3、4図には、マンホール蓋7の外周部下面に設けられたリング形突起8が、受枠1の周溝5に嵌まり込む構造が記載され、リング状突起の外周面には切欠き部が設けられている。

(5)甲第5号証(以下、「引用例5」という。)
マンホールカバーに関し、「蓋11の外周側面14は、受枠の内周側面22に嵌着するよう、下方に従い縮径するテーパ面となっているが、受枠への嵌入を容易にするため、中間において段差部を設け、この段差部より下のテーパ面は、これより上のテーパ面より後退せしめてある。」(2欄15?20行)

(6)甲第6号証(以下、「引用例6」という。)
第2図に、マンホールの環状の係止枠2の外周壁3から内方に形成された乗載溝4に、マンホール蓋7の下面外周部に形成された環状周壁8が嵌着している構造が記載され、環状周壁8の下方には切欠き部が形成されている。

(7)甲第7号証(以下、「引用例7」という。)
第2図に、マンホールの環状の支持枠2の外周壁3から内方に形成された乗載溝4に、マンホール蓋7の下面外周部に形成された環状周壁8を載置する構造が記載され、環状周壁8の下方には切欠き部が形成されている。

(8)甲第8号証(以下、「引用例8」という。)
「1は入口の内周面に環状の支持枠を設けたマンホールであって、該支持枠2は外周壁3から内方に乗載片4を突設してなる。」(3欄39?41行)
「7は円板状の溝蓋であって、その外径は前記支持枠2の外周壁3の内径と略等しく、その下面周部に形成した環状の周壁8を前記乗載片4上に載置して前記支持枠に支持される。」(4欄1?4行)

(9)甲第12号証(以下、「引用例9」という。)
2頁の4.1には、(マンホールふたでは、)ふたと枠との接触面には、がたつきがあってはならないこと、ふたと枠との接触面は機械加工しなければならないことが記載されている。また。12頁の「4.構造・機能」には、ふたのがたつきを防止する観点から、蓋本体の外周面と蓋受枠の内周面にテーパー面を形成した「こう配受け型」が追加されたことが記載されている。

(10)甲第13号証(以下、「引用例10」という。)
「機械加工」とは、工作機械に切削工具を取り付け、加工物より不必要な部分を切りくずとして除去し、所定の寸法、形状に加工することを意味することが、記載されている。

(11)甲第14号証(以下、「引用例11」という。)
12頁の2.2.5.aに「加工工数を低減するため加工すべき場所・面積をできるだけ少なくする。図2・22は加工面積を減らすため段付きにした例である。加工は出張り部だけでよい。」と記載されている。

(12)甲第16号証(以下、「引用例12」という。)
(ア)「5はマンホールの本体1のフタ2を載置する受面であるが、受面5の隅部には環状溝6が設けられている。又受面5上には複数の案内溝7が放射線状に設けられており、各案内溝7は環状溝6と接続されている。なお本実施例においてはマンホールの本体1の内壁面8に案内溝7に接続する縦溝9を設けて案内溝7から砂やゴミ等がマンホール内に流れ落ちやすくしているが、案内溝7を中心に向うほど下向に傾斜するようにテーパをつけて、縦溝9を省略しても良い。」(明細書3頁13行?4頁2行、第2図及び第5図)、
(イ)「又設置したマンホールの本体1とフタ2とがはまり合ったすき間11に砂やゴミ等が侵入しても、雨水によって環状溝6に流れ込み案内溝7を介してマンホールの穴内に流れ落ちるので、すき間11に砂やゴミ等が詰って固くなるようなことはなく、いつでもフタ2を容易に開閉することができる。」(同4頁16行?5頁2行)

(13)甲第17号証(以下、「引用例13」という。)
「第7図の(セ)において、受枠Bの内枠2と外枠1の間に溜溝部10を設け泥、砂、雨水等が流入しても、この溜溝部10に落ち込み、内枠2の上面の機械加工面14に泥、砂、雨水等が直接ふれないように防止している。さらに溜溝部10より略水平に内枠2内の数カ所に土砂抜割溝12を形成し、泥、砂、雨水等が自然に土砂抜割溝12より外へ流出するよう形成している。よって、内枠2の上面の機械加工面14の、雨水による部分腐食や泥、砂かみ等を防ぎガタ付や衝撃音あるいは破損を防止し・・・」(公報5頁右下欄19行?6頁左上欄8行、第7図(セ))

(14)甲第18号証(以下、「引用例14」という。)
「第3図および第2図に示す如く、蓋板1の下面に、周縁に沿って断面形状が台形をなす支持部3を隆設せしめる。受枠2の内側に設けたV字形をなす受溝6は、その両壁のなす角度を、蓋板1の台形をなす支持部3の傾斜を有する外側面4と内側面5によりなす角度と一致するように形成させ、蓋板1を受枠2上に載置したときに、第3図に示す如く蓋板1の傾斜する外側面4の上端が、受枠2の受溝6の壁面上部において線接触し、またその外周面4の下端は、受枠2の受溝6の壁面と僅かな空隙を生ずるように形成する。また、受枠2の受溝6を形成する内壁8の一部を第2図に示す如く切り欠き部7を設ける。」(明細書3頁12行?4頁5行)
「土砂が蓋板1と受枠2の間に挟っても、蓋板1の外側面4は上端のみ線接触しているので、受溝6の底部に落下し易すく、かつ受溝6の内壁8には切り欠き部7を設けてあるので、受溝6に土砂が沈積することは少なく、また掃除も容易である。」(同4頁18行?5頁3行)

5 本件訂正考案と引用例記載のものとの対比、判断

(1)一致点及び相違点
本件訂正考案と引用例1考案とを対比すると、引用例1考案の「蓋」、「蓋受枠体」、「凸部」、「凹溝」及び「水平載置面」は、本件訂正考案の「蓋本体」、「蓋受枠」、「突起体」、「凹部」及び「受部」に相当するから、両者は、
「蓋本体が蓋受枠上にその上面が略面一に嵌合された地表埋設用蓋付枠において、蓋本体の下端外周縁の少なくとも一箇所以上には突起体が外周方向に突設されてなり蓋受枠の少なくとも一箇所以上には、前記突起体を係入するための凹部が形成され、しかも前記蓋受枠には蓋本体の環状脚部を載置するための受部が形成されてなる地表埋設用蓋付枠。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件訂正考案が、蓋本体の下端外周縁に逃げ空所を形成すべく切り欠き部が刻設され、さらに前記切り欠き部の少なくとも一箇所以上には突起体が外周方向に突設されているのに対し、引用例1考案の蓋本体の下端外周縁には切欠き部が設けられていない点、
相違点2:本件訂正考案が、蓋本体の上方外周側面には蓋受枠の上方内周縁に形成されたテーパー面に合致するテーパー面が形成されるのに対して、引用例1考案の蓋本体と蓋受枠の各側面との間には隙間が存在する点、
相違点3:本件訂正考案が、前記蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ隙間が設けられているのに対し、引用例1考案の蓋本体の環状脚部と蓋受枠との間には隙間が設けられていない点。

(2)相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用例3(甲第3号証)には、「蓋15には溝14に嵌入するつば部17を突設し、このつば部17の両側に土砂溜り18が出来るように、つば部17の幅を溝14の幅より狭く設定する。」(上記4(3)(イ)参照)と記載され、第3、4図を参照すると、土砂溜り18は、蓋15の下端外周縁を切り欠いてつば部17の幅を狭くして形成されていることが認められる。また、その作用効果として、「このように構成したので、蓋受け枠11と蓋15との隙間より雨水や泥水が流入して土砂が溝14内に堆積しても内壁12側が浅いため、土砂はここからオーバーフローするので、内壁12より高くは堆積しない。このため溝14内に土砂が堆積しても、はめた蓋15は、その外周面16が外壁13の上縁131よりはずれることがないので、蓋15はズレず、ガタつきによる騒音も少なくすることが出来る。」(上記4(3)(イ)参照)と記載されている。
また、引用例5(甲第5号証)には、蓋本体の下端外周縁の切り欠き部について、「受枠への嵌入を容易にするため」に設けられることが記載され、引用例2、4、6?8には、蓋本体の下端外周縁の切り欠き部が特段の説明がされることなく図示されていることを考慮すると、蓋本体の下端外周縁に切欠き部を設け、蓋本体と蓋受枠との間に空間を形成することは本件出願前に周知であったといえる。
このように、蓋本体の下端外周縁と蓋受枠内周縁との間に土砂等が侵入して蓋本体が浮き上がりずれたりすることがあるという課題と、この課題解決手段として、蓋本体の下端外周縁に切欠き部を設けることによって、蓋本体の下端外周縁を切り欠いて蓋受枠内周縁との間に土砂溜まりとなる空間を設けることが、本件出願前に周知であった。
そして、引用例1考案の蓋にあっても、土砂の堆積による蓋の浮き上がりを防止するという課題が存在することは当業者にとってきわめて容易に予測しうるものであるから、引用例3に記載された課題解決手段を採用しようとすることも、当業者にとってはきわめて容易になし得たことであって、引用例1考案の蓋本体の下端外周縁に逃げ空所を形成すべく切り欠き部を刻設すると、当然切欠き部から突起体を突設させる構成となることから、引用例1考案の蓋本体の下端外周縁に逃げ空所を形成すべく切り欠き部を刻設して本件訂正考案の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことにすぎない。

(イ)相違点2について
引用例2(甲第2号証)には、下部周面が切り欠かれ、受枠11との間に空所が形成されている親蓋21であって、親蓋21の「外周側面22を受枠の内周側面12に挿入し、相互のテーパ面同志を接触せしめて、親蓋21を受枠11に嵌着する」(上記4(2)(イ)参照))ものが記載され、引用例5(甲第5号証)には、「蓋11の外周側面14は、受枠の内周側面22に嵌着するよう、下方に従い縮径するテーパ面となっているが、受枠への嵌入を容易にするため、中間において段差部を設け、この段差部より下のテーパ面は、これより上のテーパ面より後退せしめてある。」と記載されている。
これらの記載によれば、蓋本体と受枠との上方側面をテーパー面を介して密着して、蓋本体を受枠に嵌着させ、かつ蓋本体の下方側面には切欠き等により受枠との間に空所を設けることは、本件出願前周知であったということができる。
また、蓋本体と蓋受枠とを、「重量物である蓋はその開閉を容易にするために」、「若干の間隙を存した状態」(引用例1)で嵌合するようにすること、「排水から出る臭気の発散防止、蓋のガタつきによる騒音防止」(引用例3)のために密着させること、ともに当業者が設計にあたって、設置される環境や使用条件等に応じて適宜採用可能な設計的事項と認められる。
このように、蓋本体と受枠とをその周面において密着するように構成するか、間隙を設けて構成するかは、当業者が適宜選択し得る事項であるから、引用例1考案において、蓋本体の上方外周側面には蓋受枠の上方内周縁に形成されたテーパー面に合致するテーパー面を形成し、テーパー面を介して密着嵌合するように構成することは、当業者であればきわめて容易になし得たことにすぎない。

(ウ)相違点3について
(i) 本件訂正考案は、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11(注、蓋受枠6の少なくとも一箇所以上に形成され、突起体10を係入するための凹部)の底部11aとの間にのみ隙間が設けられ」た構成としており、その作用効果に関して次の記載が認められる。
「蓋本体2を開放する際には、突起体10の先端が蓋受枠6の凹部11の底部11aに添って移動することとなり、底部11aに溜まった土砂等を削り取りつつ蓋受枠6内へ掻き落とすために、凹部11内に堆積物が生じることがなく、蓋本体2の開閉作業が常に容易に行えるのである。(中略)第2図(イ)乃至(ハ)に示すように円形でもよい。同図(ロ)においては、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に侵入した砂塵等が蓋受枠6の溝12から凹部11の底部11aを経て地表水と共に蓋受枠6内へ排除される状態を示す(二点鎖線)。」(訂正明細書4頁16行?26行(公告公報3頁左欄1行?15行の実施例の項の訂正))、
「蓋受枠の受部に溝が周設され、且つ凹部の底部には蓋受枠の内周方向へ下る傾斜が付されてなるために、蓋受枠と蓋本体との隙間から地表水と共に砂塵等が侵入しても、該砂塵等を溝から凹部の底部を経て地表水と共に蓋受枠内へ排除し滞留を防止する。しかも、蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行えるという優れた効果をも有する。」(同明細書第5頁8行?14行(公告公報3頁左欄35行?3頁右欄8行の考案の効果の項の訂正))。
以上の記載から、本件訂正考案においては、蓋受枠6と蓋本体2との隙間から地表水と共に侵入した砂塵等は、蓋受枠6の溝12から蓋受枠の凹部11の底部11aにのみ設けられた「隙間」を経て地表水と共に蓋受枠6内へ排除され、地表水や砂塵等の滞留を防止するとともに、蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行えるという作用効果を奏するものである。
そして、本件訂正考案においては、当該「隙間」を設けた位置について、「蓋本体2の環状脚部3の底面と前記凹部11の底部11aとの間にのみ」と規定しており、当該部分に「隙間」を設けることは引用例2ないし引用例14に記載されておらず、また、それを示唆する記載もなく、当該「隙間」を設けることが地表埋設用蓋付枠の技術分野において本件実用新案登録出願前に公知の技術的事項であったとも認められない。
(ii) 請求人は、本件訂正考案について、平成14年12月6日付けの回答書において、次のように主張する。
つまり、引用例12(甲第16号証)の(ア)に摘記した部分には、蓋と蓋受枠の隙間から地表水と共に侵入した砂やゴミを受部の環状溝6(本件訂正考案の溝12に相当)を介して放射状に複数設けられた中心に向う下向きの傾斜面とした案内溝7によってマンホール内に排出する構成が示唆されており、この案内溝7を傾斜面とすればフタ2の裏面との間に隙間が形成されることを意味しており、本件訂正考案における地表水と共に侵入した砂塵の排出構造と同様の構成(ただし、本件訂正考案では砂塵排出用の傾斜面からなる隙間は凹部11が形成された1箇処のみである)が示されている。しかも、同(イ)に摘記した部分には、蓋本体の環状脚部底面と蓋受枠上面との間に設けられた隙間によって、地表水と共に流入した砂塵をマンホール内に排除できるとする、本件訂正考案の上記相違点3に係る構成からもたらされる作用効果と同じ作用効果が示されている。
また、引用例13、14(甲第17、18号証)にも引用例12と同様に、砂塵排出用の隙間が複数箇所存し、同様の作用効果を奏する。
したがって、本件訂正考案と上記引用例12ないし引用例14に記載されたものとが唯一異なる点である隙間を1箇所形成する点は、単なる設計事項にすぎない。
しかしながら、引用例12の案内溝7は、実施例において、マンホールの本体1のフタの受面5に4箇所設けられており、マンホールの本体1とフタ2とがはまり合ったすき間11に砂やゴミ等が侵入しても、雨水によって環状溝6に流れ込み案内溝7を介してマンホールの穴内に流れ落ちるという作用効果を奏する(案内溝が傾斜しておればより流れ落ちやすくなると考えられる)ものの、フタ2の側面には突起は形成されていないことから、本件訂正考案のように、「蓋本体を開放する際には、突起体の先端をもって凹部の底部に溜まった土砂等が蓋受枠内に掻き落とされるため、凹部内に堆積物を生じることがなく、蓋本体の開閉が常にスムーズに行える」という作用効果を奏し得ないものである。
したがって、本件訂正考案の相違点3に係る構成を単なる設計事項とすることはできない。
このことは、引用例13、14についても同様である。
よって、請求人の主張は採用できない。

(3)この項のまとめ
以上のように、本件訂正考案は、引用例1?引用例14に記載されたものが有しない構成(相違点3に係る構成)を有し、そのことによって上記(ウ)(i)に記載した格別の作用効果を奏することから、本件訂正考案は、請求人の提出した引用例1?引用例14に記載されたものに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできず、実用新案法第3条第2項に該当しないものである。

6 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正考案の実用新案登録を無効とすることはできない。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-09-07 
結審通知日 2001-09-12 
審決日 2001-09-26 
出願番号 実願平1-135861 
審決分類 U 1 112・ 121- Y (E02D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山田 忠夫
木原 裕
登録日 1996-01-26 
登録番号 実用新案登録第2099411号(U2099411) 
考案の名称 地表埋設用蓋付枠  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 大中 実  
代理人 植木 久一  
代理人 薬丸 誠一  
代理人 小谷 悦司  
代理人 藤本 昇  
代理人 鈴木 活人  
代理人 岩田 徳哉  

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