• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A63F
管理番号 1101293
審判番号 無効2000-35664  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-08 
確定日 2003-05-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第2578564号実用新案「プリペイドカード処理装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 実用新案登録第2578564号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 【1】手続の経緯
本件実用新案登録第2578564号「プリペイドカード処理装置」は、平成3年1月16日に実願平3ー4732号として実用新案登録出願され、平成10年5月29日にその考案について実用新案の設定登録(請求項の数1)がなされたものである。
これに対して、平成12年12月8日に請求人日本ゲームカード株式会社より、本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案の登録を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成13年5月2日付で被請求人(実用新案権者)高砂電器産業株式会社より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書とともに訂正請求書が提出され、また本件審判請求人より平成13年8月17日付上申書及び平成13年12月21日付弁駁書が提出され、さらに平成14年2月7日に口頭審理が行われるとともに同日付で訂正拒絶理由の通知がなされ、その後、平成14年2月22日付で被請求人(実用新案権者)より意見書及び上申書が提出されたものである。

【2】訂正の適否について
(2-1)訂正の要旨
実用新案登録請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のように訂正するものである。
(訂正事項)
a.明細書の「実用新案登録請求の範囲」の請求項1について、「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部」(実用新案登録第2578564号公報(以下、「本件実用新案登録公報」という。)第1頁第2欄1?5行)を、「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カ一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部」に訂正する。
b.明細書の段落0005について、「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部」(本件実用新案登録公報第2頁第4欄9?14行)を、「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カ一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部」に訂正する。
c.明細書の段落0020について、「図6は、この考案の他の実施例にかかるメダル貸出機2の外観を示している。」(本件実用新案登録公報第3頁第6欄31?32行)を、「図6は、他の実施例にかかるメダル貸出機2の外観を示している。」に訂正する。
(2-2)判断
実用新案登録請求の範囲についての訂正事項は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とし、また詳細な説明の欄についての訂正事項は、前記実用新案登録請求の範囲の訂正に対応した明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、かつ実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
すなわち、本件明細書における第1の実施例は、貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすときデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし、カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とするものであり、例えば図面の図8及び段落【0024】?【0029】に記載されているように、カード発行(ST13)は行われるがデータ送信は行われないフロー(ST11?ST14)へ移行させているので、これを実用新案登録請求の範囲において「貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすときデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし」と表現し、一方、データ送信については、ステップST1でカードが投入されたときのみステップST7で行われるので、これを実用新案登録請求の範囲において「カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とする」と表現したものと認められる。(なお、訂正前(登録査定時)には、詳細な説明の欄における第1、第2の実施例の構成を包含する考案として、「データ送信部は貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすときにも動作可能となる」としていたものを、訂正請求によって、第2の実施例の構成を排除する考案となすために、「貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすときデータ送信部を動作可能とせずカード発行部を動作可能とし、カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とする」という記載に訂正されたもの、すなわち、訂正請求によって第1の実施例のみを「実用新案登録請求の範囲」に含むようにした(被請求人・実用新案権者も平成14年2月22日付意見書第2頁第17?18行において自認する)ものである。)
以上のとおりであって、前記訂正は、実用新案法附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第40条第2項ただし書き及び同条第5項で準用する特許法第126条第2項乃至第3項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

【3】本件登録実用新案
訂正請求により訂正された本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、以下のとおりのものである。なお、段落符号A?Hは、便宜上付加した。
「A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、
B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、
F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、
G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、
H.前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部と
を備えて成るプリペイドカード処理装置。」

【4】審判請求人の主張
(4-1)無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下の証拠方法を提出するとともに、本件登録実用新案についての考案を無効とすべき理由について、要点、次のとおり主張している。
「本件請求項1に係る登録実用新案は、公知の刊行物である甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、同法第37条第1項第2号により無効とすべきである。」
[証拠方法]
(1)甲第1号証 特開昭63-168195号公報
(2)甲第2号証 特開昭63-102783号公報
(3)甲第3号証 特開昭63-122483号公報
(4)甲第4号証 実開昭52-164976号公報
(5)甲第5号証 特開昭63-294878号公報
(6)甲第6号証 特開昭63-24968号公報
(7)甲第7号証 平成7年審判第17199号の審判経過書類一式
(8)甲第8号証 実用新案登録第2592149号についての登録異議申立の審判経過一式
(9)甲第9号証 平成11年異議第73546号異議決定書写し
(10)甲第10号証 実用新案登録第2592149号の閉鎖原簿謄本
(11)甲第11号証 特公昭49-235号公報
(12)甲第12号証 特開昭52-80934号公報
(13)甲第13号証 特開昭52-143131号公報
(14)甲第14号証 特開昭53-19235号公報
(15)甲第15号証 特開昭61-143085号公報
(16)甲第16号証 特開昭62-60578号公報
(4-2)具体的理由の要点
本件審判請求人は、審判請求書等において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
(4-2-1)審判請求書において
(A)証拠の説明(審判請求書第4頁第3行?第21頁第17行)
「○2 証拠の説明
i)甲第1号証(特開昭63-168195号公報)
(a)技術分野の共通性
甲第1号証には、プリペイドカードの発行機をゲーム機に隣合わせて配備すると共に、ゲーム機本体にプリペイドカードの受付けおよび処理装置を設け、プリペイドカードの投入により所定の遊技媒体をゲーム機にセットするようにした遊技装置が開示されている。
これはゲーム機のプリペイドカード処理装置にプリペイドカードの発行機能と受付機能と隣接するゲーム機へのデータ送信機能とを具備させた本件登録実用新案の技術分野と共通する。
…(中略)…。
(e)以上より、甲第1号証には、本件考案の構成要件A)?H)のうち、カード発行機能に関する部分、すなわち、構成要件A),B),C),D)およびH)の制御部のうちカード発行制御にかかる技術が、開示されていると認められる。
ii)甲第2号証(特開昭63-102783号公報)
(a)技術分野の共通性
甲第2号証には、カード挿排口とカード読取装置と金額表示器を少なくとも有する球貸機能部をパチンコ機に対応して設け、カード挿排口にカードを挿入すると当該パチンコ機の球排出装置が作動して受皿に球を排出するようにしたパチンコ機のカード式球貸機構に関する技術が開示されており(第1頁左欄第18行?右欄第3行)、これはゲーム機のプリペイドカード処理装置にプリペイドカードの発行機能と受付機能と隣接するゲーム機へのデータ送信機能とを具備させた本件登録実用新案の技術分野と共通する。
…(中略)…。
(e)以上より、甲第2号証には、本件考案の構成要件A)?H)のうち、カード受付機能およびデータ送信機能に関する部分、すなわち、構成要件E),F),G)およびH)の制御部のうちデータ送信制御にかかる技術が、開示されていると認められる。
iii)甲第3号証(特開昭63-122483号公報)
(a)技術分野の関連性
甲第3号証には、遊技機に使用するカードを発行するカード貸機とカード処理機とを備える遊技機の管理装置に関する技術が開示されている。
これは、前述の本件考案の属する技術分野と、遊技機に使用するカードを発行する力一ド貸機を備える点、発行されたカードの情報を読み取って出力し、球貸しを行う点等において共通し、両技術分野は密接に関連する。
…(中略)…。
iv)甲第4号証(実開昭52-164976号公報)
(a)技術分野の関連性
甲第4号証には、パチンコ遊技機に関連的に硬貨投入口と、得点表示器と、カード発行機と、…を設けた(第7頁第10行?13行)パチンコ遊技機の制御装置に関する技術、およびパチンコ遊技機に近接した別の箇所に、カード投入口/払出口,読出/書込部,遊技終了ボタン、硬貨投入口,投入硬貨検知器、カード挿入検知器等が設けられたパチンコ遊技機の制御装置に関する技術が開示されている。
そして、上記の構成を採用することにより、迅速かつ安価に、パチンコ遊技機の台交換を行うことができる旨記載されており、本件考案と共通する課題が明示されている。したがって、本件考案の属する技術分野と密接に関連する技術分野であると認められる。
…(中略)…。
v)甲第5号証(特開昭63-294878号公報)
(a)技術分野の関連性
甲第5号証には、カード処理装置(カード受けユニット)とパチンコ機等の遊技具本体等より構成される遊技装置についての技術が開示されており、上記のカード処理装置と遊技機とが別体で構成され得る旨が示唆されている。
一方、本件考案も、ゲーム機と別体のプリペイドカード処理装置を有するものであり、機能・作用の共通性より、両者は密接に関連する技術分野に属するものと認められる。
…(中略)…。
vi)甲第6号証(特開昭63-24968号公報)
(a)技術分野の共通性
甲第6号証には、パチンコカードシステムにおいて、貸玉機構を含んだカード販売機に関する技術等が開示されている。
一方、本件考案は、ゲーム機のプリペイドカード処理装置にプリペイドカードの発行機能と受付機能と隣接するゲーム機へのデータ送信機能とを具備させた点に特徴を有するものであるため、両者は技術分野において共通するものと認められる。
…(中略)…。
vii)甲第7号証は、本件実用新案登録出願についての拒絶査定に対する審判(平成7年審判第17199号)の審判の経過書類一式である。
前記拒絶査定不服審判では、実用新案権者が審判請求書等で主張した事実が認められた結果、本件考案の登録が認められた。したがって、出願経過参酌の原則により、前記拒絶査定不服審判において実用新案権者が主張した事実は、本件考案の技術的範囲を確定するうえで参酌されるべきものである。
…(中略)…。」
(B)本件考案と証拠に記載された考案との対比・判断(審判請求書第21頁第18行?第24頁第15行)
「○3 本件考案と証拠に記載された考案との対比・判断
(a)本件考案と甲第1号証記載の考案との共通点
請求項1に係る考案と、甲第1号証に記載された考案とを対比すると、両者は、
近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、カード発行にかかる制御部
を備える点、言い換えれば、カード発行機能、すなわち、本件考案の構成要件A)?D)およびH)のカード発行にかかる制御部において一致する。
b)差異点
そして、両者の差異は、本件考案のプリペイドカード処理装置は上記の構成の他、○1プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口、○2前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器、○3前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部、○4前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部を備えているのに対して、
甲第1号証に記載の発明は、上記○1?○4の各構成を備えていない点にある。言い換えれば、甲第1号証に記載の発明は、カード受付機能およびデータ送信機能、すなわち本件考案の構成要件E)?G)及びH)のデータ送信にかかる制御部を備えない点で、本件考案と相違する。
(c)対比・検討
上記各相違点について検討を行うと、相違点のうち、本件考案の「カード投入口」は甲第2号証の「カード挿排口7」に該当し、本件考案の「カード読取器は甲第2号証の「カード読取装置11」に該当し、本件考案の「データ送信部」は前記○2 ii)c)で述べたように、甲第2号証に記載されており、また、本件考案の「制御部」のうちデータ送信の動作制御は、○2 ii)c)で述べたように、本件考案の構成要件E)?G)及びH)のデータ送信にかかる制御部は甲第2号証に記載されている。
そして、甲第1号証に記載されているカード発行機能を備えた台間機と、甲第2号証に記載されている台間機におけるカード式球貸機構とは、いずれも、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備される(台間機)である点で共通しており、また、明示こそされていないが両者が共通する課題を備えることは、当業者であれば明らかであることから、甲第2号証に記載された台間機におけるカード式球貸機構を甲第1号証のカード発行機能を備えた台間機に適用することは、当業者であれば、きわめて容易になしえたことである。
(d)適用の困難性の阻却事由
上記のように、甲第1号証記載の考案に甲第2号証記載の考案を適用することに困難性かないことは、甲第3号証ないし甲第5号証からも明らかである。
すなわち、甲第3号証には、前記○2 iii)で述べたように、本件考案と密接に関連する技術分野において、本件考案と略各同様の構成を備えるものが開示されており、また、甲第4号証には、パチンコ機と近接した箇所にカード発行機およびカード処理装置を配置する技術が開示されるとともに、本件考案と同一の効果を奏する旨が記載されている。加えて、甲第5号証には、パチンコ機と別体にカード処理装置が配置される技術が開示されており、本件考案の効果と同一の効果を奏する旨が示唆されている。
すなわち、本件考案の属する技術分野と密接に関連する技術分野においては、パチンコ機に近接するとともにパチンコ機から独立して、カード発行機またはカード処理装置を独立して配置する技術、並びにカード発行機およびカード処理装置を独立して配置する技術は、周知技術となっており技術常識を形成しているものと認定できるのである。
したがって、本件考案と密接に関連する技術分野における技術常識を参酌して、上記甲第1号証記載の考案に甲第2号証記載の考案を適用することには何らの困難性をも認められるものではない。
また、甲第6号証から、本件考案と共通する技術分野において、カード発行機能とカード処理機能とを一台にまとめることが公知の技術であることは明らかである。そして、カード発行機能とカード処理機能とを台間機にまとめる点に本件考案の技術的特徴があることは、甲第7号証の前述した意見書の第2頁第3行?14行等において、実用新案権者自身が自認している点である。
加えて、本件考案の効果として記載されているa.遊技者はプリペイドカードの購入や使用のために席を立つ必要がなくなり、客サービスを向上できる点、b.プリペイドカードの購入や使用をゲーム機と独立した装置で行うので、ゲーム機が入れ換えられた場合もデータを送信するための信号ラインの結合を行うだけですみ、ゲーム機のモデルチェンジに伴うコストが削減できる上、プリペイドカードに関する情報の流出が避けられる点およびc.プリペイドカード処理装置が故障した場合も、.ゲーム機の使用は可能であるため、営業収益を保持できる点についても、上記各発明の寄せ集め以上の効果を奏するものではなく.また上記共通する課題から予測できる程度のものにすぎず、本件考案独自の有利な効果を奏するものではない。
(e)以上より、甲第1号証に記載のカード発行機能を備えた台間機に、甲第2号証に記載のプリペイドカード処理機能を備えるように構成することは、当業者であればきわめて容易に推考できたことは明らかである。」
(C)むすび(審判請求書第26頁第24行?第27頁第8行)
「○5 むすび
以上のように、請求項1に係る考案は、公知の刊行物である甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
そして、この主張は、本件考案の分割出願である実用新案登録第2592149号についての異議申立における権利者の訂正に対する訂正拒絶理由における御庁のご判断を参酌しても、正当であることは明らかである。
以上のとおり、本件考案は、法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであるから、法第37条第1項第2号により無効とされるべきものである。」
(4-2-2)上申書において
「(1)本上申書は、平成12年12月8日付差出の審判請求書において添付した甲第8号証を補充し、前記審判請求書の主張の正当性の根拠をさらに敷衍するものである。」(上申書第1頁末5?3行)
(4-2-3)答弁書に対する弁駁書において
(A)弁駁の趣旨(弁駁書第2頁第14?末2行)
「平成13年5月2日付け提出の訂正請求書に記載の訂正は、拒絶されるべきものである(附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第41条で準用する特許法第165条)、
または、前記訂正請求書に添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の考案(以下、訂正明細書の考案という)は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して登録を受けることができないものであり、附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項の規定に適合せず、訂正は認めることはできない
との判断を求める。」
(B)弁駁の理由(弁駁書第2頁末行?第15頁末15行)
「(1)訂正請求の内容
平成13年5月2日付提出の訂正請求書に依ると、主な訂正事項は以下の訂正事項aである(なお、残余の訂正事項b及びcは整合をとるための訂正である)。また、アンダーラインを付した箇所は、前記訂正請求書で訂正された箇所である。
○1 訂正事項a
明細書の「実用新案登録請求の範囲」の請求項1について、
「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とし、前記力一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部」(実用新案登録第2578564号公報(以下、「本件実用新案登録公報」という。)第1頁第2欄1?5行)を、
「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記力一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部」
に訂正する。
○2 さらに、「請求の原因」(訂正請求書第3頁第6行に13行)として、
「上記訂正事項aは、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。すなわち、考案の詳細な説明には、2つの実施例が記載されており、元の実用新案登録請求の範囲に記載された考案は、これら2つの実施例を含む内容のものになっているところ、上記訂正事項aは、一方の実施例だけを選択し、他方の実施例を実用新案登録請求の範囲に記載された考案から除くようにしており、具体的には、図面の図8に示されている実施例に実用新案登録請求の範囲を限定したものである。」と記載されている。
(2)訂正が認められない理由
○1 理由1
…(中略)…。
v)したがって、前述の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではなく、拒絶されるべきものである(附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第41条で準用する特許法第165条)。
○2 理由2
i)訂正明細書の考案は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明並びに周知技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して登録を受けることができない。
したがって、前述の訂正は、附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項の規定に適合せず認められない。
ii)訂正明細書の考案の要旨を構成要件に分説すると以下のとおりである。
すなわち、
A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、
B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、
F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、
G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、
H.前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部と
を備えて成るプリペイドカード処理装置。
iii)甲第1号証及び甲第2号証記載の発明
訂正明細書の考案に対し、請求人が審判請求書で引用した特開昭63-168195号(甲第1号証)及び特開昭63-102783号(甲第2号証)には、プリペイドカード発行装置及び処理装置に関して、以下の記載があり、前記訂正明細書の考案の構成要件と以下のように対応する。
ア.「次に、第5図は本発明の実施例に係る持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置100の斜視図である。
追加購入装置100はその前面パネル101に、コインを投入するコイン投入口102と、紙幣を挿入する紙幣挿入口103と、投入された金額を表示する金額表示器104と,購入する持ち玉数に対応した金額を選択する金額選択スイッチ105と、釣銭を排出する釣銭排出口106が配設されるとともに、更に所望により電子カードを発行するカード発行口107、追加購入モードを選択する追加購入スイッチ108a、カードの新規購入モードを選択する新規購入スイッチ108b、運転中であることを示すパイロットランプ109が配設される。
又、コイン投入口102の裏側にはコイン選別器110が,紙幣挿入口103の裏側には紙幣識別器111が,釣銭排出口106の裏側には釣銭排出装置112が、カード発行口107の裏側にはカード発行装置113が各々配置される。」(甲第1号証の第5図および第3頁右下欄第9行?第4頁左上欄第8行)
前掲の引用箇所中、第5図に示された「パチンコ遊技機の間隙に配置された、カード発行機を兼用する追加購入装置」は、訂正明細書の考案の構成要件A)のプリペイドカード処理装置に該当し、「コイン投入口102」、「紙幣挿入口108」は、訂正明細書の考案の構成要件B)の貨幣投入口に該当し、また、「コイン選別器110」、「紙幣識別器111」は、訂正明細書の考案の構成要件C)の貨幣処理部に該当し、さらに、「カード発行口107」、「カード発行装置113」は、訂正明細書の考案の構成要件D)のカード発行部に該当する。
イ.「ここで追加購入装置100の動作を、第9図のフローチャートを参照してより詳細に説明する。
追加購入装置100において、制御装置114は、電源投入時より常時そのコイン選別器110及び紙幣識別器111の出力を監視している。そして、遊技客が追加購入表示灯19の点灯に促されて、又は、遊技中の任意のタイミングで、コイン投入口102にコインを投入してコイン選別器110が金額情報を発生し、又は紙幣挿入口103に紙幣挿入して紙幣識別器111が金額情報を発生すると、この投入された金額を金額表示器104に表示して、金額選択スイッチ105が押されるのを待つ。
遊技客が金額選択スイッチ105を押して購入金額を指定すると、金額選択スイッチ105は金額情報を制御装置114に加える。そして、制御装置114はコイン選別器110又は紙幣識別器111から加えられた金額情報から金額選択スイッチ105から加えられた金額情報を減じて釣銭金額を算出し、釣銭排出装置112を作動させて釣銭を排出する。
本実施例の追加購入装置100はカード発行機能を兼用しているので、制御装置114は追加購入装置108a又は新規購入スイッチ108bの何れかが押されることを待ち、新規購入スイッチ108bが押されると、カード発行装置113を作動させて、カード発行口107から電子カード20を発行する。」(甲第1号証の第9図および第7頁右下欄第8行?第8頁右上欄第15行)
前掲の引用箇所に依ると、このプリペイドカード処理装置は「紙幣識別器で判別された投入金額を金額表示器に表示し、投入金額が金額選択スイッチに表示された金額の条件を満たしている場合、かかる金額条件の金額選択スイッチが押下されることにより、制御装置に金額情報が読み込まれさらに、新規購入スイッチが押下されることによりカードを発行する」制御部を備えている。
したがって、上記制御部は、訂正明細書の考案の構成要件H)の制御部のうち、カード発行制御にかかる部分である「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とする」制御部に該当する。
ウ.「第1図に示す第1の実施例は、従来の球貸機と同様に、パチンコ機1aとパチンコ機1bとの間にパチンコ機1a用の球貸機能部2aとパチンコ機1b用の球貸機能部2bを隣り合せにして設け、…各球貸機能部2の電気的制御装置(図示せず)を対応するパチンコ機の球排出装置4の制御装置(図示せず)に電気的に接続するとともに、伝送路5を介して管理室内に設置してある中央管理装置(図示せず)に電気的に接続する。
球貸機能部2は、前面に上から球貸出中表示器8、カード挿排口7、金額表示器8、アラーム表示器9、金額選択操作部10を設け、内部にはカード読取装置11と上記電気的制御装置を設け、該電気的制御装置にカード読取装置11及び上記した球貸出中表示器6、金額表示器8、アラーム表示器9、金額選択操作部10等を電気的に接続してある。カード読取装置11は、第2図に示すように、搬送モータ12の駆動により作動するベルトコンベア等の搬送手段13の一端をカード挿排口7に、搬送手段13の他端をカードタンク14に臨ませ、搬送手段13の途中に情報読取部として磁気ヘッド15を設ける」(甲第2号証の第1図および第2頁左上欄第16行?同頁石上欄第19行)
前掲の引用箇所に係るカード式球貸機構は、訂正明細書の考案の構成要件A)のプリペイドカード処理装置に該当する。
また、「球貸機能部2」に設けられた「カード挿排ロ7」は、訂正明細書の考案の構成要件E)のカード投入口に該当する。また、「球貸機能部2」の内部に設けられた「カード読取装置11」は、訂正明細書の考案の構成要件F)のカード読取器に該当する。
エ.「カード21は、第3図に示すように、紙、又は合成樹脂等からなる薄い板状であり、裏面には長手方向のほぼ中央に磁気面等からなる情報書込部22を有し、該情報書込部22の上方にはカード発行年月日、発行時の金額を、情報書込部22の下方にはカードの挿入方向を示す矢印23と、減額目盛24を夫々表示してある。そして、このカード21の情報書込部22には、カード発行機(図示せず)において発行される際に、中央管理装置から送られたカード識別情報、発行年月日、遊技店識別情報等がカード発行機の磁気作用により書き込まれる。なお、遊技者がカード発行機に投入した貨幣の金額は、本実施例ではカードに書き込んだカード識別情報に対応させて中央管理装置の記憶部内に記憶されるように構成してある。したがって、遊技者がカード発行機に貨幣を投入し、所望する金額を選択釦等により選択すると、中央管理装置の記億装置内に当該選択した金額がカード識別情報とともに記憶され、カード発行機からは上記カード識別情報が書き込まれたカード21が排出される。」(甲第2号証の第2頁左下欄第6行?同頁右下欄第6行)
「なお、上記した実施例では、カード21に金額情報を記憶させないで中央管理装置にカード識別情報とともに記憶させることにより不正行為の発生の防止を図ったが、本発明は、これに限定されるものではなく、カード21の情報書込部22に、発行時に投入された金額、又は投入され,た金額と等価値の球数とを書き込み記憶するようにしてもよい。」(甲第2号証の第4頁右上欄第18行?同頁左下欄第5行)前掲の引用箇所に係るカードは、訂正明細書の考案の「カード発行部」から発行される「投入金額に応じた金額価値」が付加された「プリペイドカード」(構成要件D)の一部)に該当する。
オ.「金額選択操作部10を操作することにより所望する金額を選択すると、電気的制御装置が当該パチンコ機1の球排出装置4を作動して、遊技者が選択した金額に対応した数量の球を該パチンコ機1前面の受皿25に排出させる。」(甲第2号証の第3頁石上欄第2行?第7行)
「球排出装置4は、・・・ソレノイド28・・を備え、上記ソレノイド28・・を電気的制御装置に接続してある。電気的制御装置からの信号により、ソレノイド28が励磁すると、球ストッパ部29が樋27内の球流路から退いて樋27内の球が流下する・・・」(甲第2号証の第3頁左下欄第5行?第14行)
前掲の引用箇所に係るプリペイドカード処理装置には、カード読取器で読み取られた金額に対応した信号を、パチンコ機に設けられた球排出装置に送信するデータ送信部が設けられており、これは、訂正明細書の考案の構成要件G)のデータ送信部に該当する。
カ.「(電気的制御装置が)中央管理装置からそのカード21の残高を受信すると、電気的制御装置が金額表示器8にその金額を表示する。遊技者が金額表示器8の表示を確認し、金額選択操作部10を操作することにより所望する金額を選択すると」「電気的制御装置が・・球排出装置4を作動」(甲第2号証の第3頁左上欄第19行?右上欄第5行)
前掲の引用箇所に係るプリペイドカード処理装置には「カード誌取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が、金額表示器に表示され、その金額が、金額選択操作部10で選択されうる金額であるとき、その金額内の金額選択操作部10を操作すると、データ送信部を動作可能とする」制御部が設けられていることは明らかであり、これは、訂正の構成要件H)の制御部のうち、データ送信部の制御にかかる部分である「前記力一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする」制御部に該当する。
iv)すなわち、甲第1号証及び甲第2号証には、訂正明細書の考案の構成要件A)?H)のうち、A)?G)及びH)の制御部のうち「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とし、前記力一ド読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部」が開示されていると認められる。
v)以上より、訂正明細書の考案と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明との相違点は、カード発行制御において、所定金額を満たす場合はカードを発行することとして貨幣投入の後にデータ送信を行うという選択肢を排除した点およびデータ送信の制御において、データ送信をする条件をカード読取器で読み取った金額価値が所定条件を満たすときにのみとした点である。
なお、後段のデータ送信制御の訂正は、前述のとおり設定登録時の開示範囲内ではなく認められないが、万が一認められたとしても、考案の詳細な説明(前述の段落【0019】)によると、データを送信する条件である「金額価値が所定条件を満たすときにのみ」は、他の条件(例えば、押釦スイッチの押操作)もデータを送信する条件として許容し得ると考えられ、実質的に、実用新案登録請求の範囲を減縮するものではないと考える。
vi)そして、前述の訂正点、すなわち、パチンコ遊技システムにおいて、所定金額を満たす場合にカードを発行することは、次に示す各刊行物から明らかなように、周知の技術である。
ア.特公昭49-235号公報(甲第11号証)
特公昭49-235号公報記載の発明は、「カードを挿入して遊技する数字式パチンコ機等における遊技券たるカードを発売する遊技用カード販売装置に関し、未使用カードに穿孔するパンチの量もしくは形状を金額に応じ自在に変化させて穿孔し、かつ、その穿孔量(金額)が表示装置を通じて利用者に確認できるようにするとともにその穿孔量が集計記録できるようにしたことを特徴とするものである。」(甲第11号証の第1欄第17行?第24行)
したがって、この遊技用カード販売機は、金額を投入すると、その金額に応じ穿孔の量を変えたカードが発行される。また、遊技用カード販売装置の性質等を考慮すると、例えば1円単位でカードを発行することは考えられず、一定額以上の金額条件が必要なことは明白である。
イ.特開昭52-80934号公報(甲第12号証)
特開昭52-80934号公報記載の「カード発行器2」は、「遊戯者が硬貨の投入によりその金額に応じた所定数の球の実排出を受ける代わりに、所定数の価値あることを記録したカードの発行を受ける」(甲第12号証第2頁左下欄第1行?4行)ものである。
ウ.特開昭52-143131号公報(甲第13号証)
特開昭52-143131号公報に記載の「カード貸機」は「…硬貨投入孔CINとカード払出口COTとが設けられる。この複数のカード貸機CLI?CLnのそれぞれは、一定金額(例えば100円),硬貨投入に応じて予め定める持点(例えば35点)情報,有効期限情報(例えば1日だけ有効な日付),遊技場固有の店名コード情報および発行カード固有のカード番号情報をカードCDへ機械読出可能に記録(例えば磁気記録)して当該カードCDを発行する…」(甲第13号証第3頁右下欄第1行?9行)
したがって、このカード貸機は、所定金額条件(例えば100円)を満たす場合には、持点情報等が記録されたカードを発行する。
エ.特開昭53-19235号公報(甲第14号証)
特開昭53-19235号公報記載の「ゲームカード貸機」は、「ゲームカード貸機1にコイン投入口5とゲームカード6の搬出口7とが設けられいる。コイン投入口5にコインを投入すれば、ゲームカード6が搬出口7から搬出される。」(甲第14号証第2頁左上欄第16行?第20行)
オ.特開昭61-143085号公報(甲第15号証)
特開昭61-143085号公報記載の「玉貸システム」は、「発券手段を構成する発券機2a…を有している。該発券手段は、該発券機2aに規定の貨幣(例えば、千円札等)が投入されると所定の情報(例えば、店コード、発行日付、発券番号等)を磁気記録しかつ必要に応じて目視可能に印字した磁気カード玉貸券6を発行する。」(甲第15号証第3頁左上欄第5行?第13行)そして、「発券機2aの貨幣投入口に投入された千円札等の貨幣は、読み取り識別手段によって識別され、規定の貨幣であると識別された場合にはコンピュータ16へ発券番号を要求する。コンピュータ16では、発券番号を作成登録し、同時に許容玉貸使用回数、換言すれば玉貸使用残高をセット登録する。コンピュータ16から発券番号を受け取ったら、該発券機2aは、店コード、発行日付を付加し、所定の情報(店コード、日付、発券番号)を磁気記録及び印字して磁気カード玉貸券6を発行する。一方、投入貨幣が規定のものでないと識別された場合には当該貨幣は貨幣投入口からそのまま排出される。」(甲第15号証第3頁左下欄第10行?同頁右下欄第2行)
カ.特開昭62-60578号公報(甲第16号証)
特開昭62-60578号公報記載の「玉貸券発行機1」は、「紙幣が貨幣投入口2に投入されると、つぎのステップ2でこれを受け付けて貨幣判別機構3が作動して紙幣の真偽を判別する。つぎのステップ3で紙幣が真券(有効券)であると判断されると(ステップ3が”YES”)、つぎのステップ4で玉貸券発行機1が作動してその投入金額に応じた価値単位数を保有する1または2以上の玉貸券が玉貸券取出口5に放出されて玉貸券発行機における一連の動作が完了する。」(甲第16号証第4頁左下欄第18行?同頁右下欄第6行)
したがって、この玉貸券発行機は、所定金額(紙幣)が投入されるとその投入金額に応じた価値単位数を有する玉貸券(カード)が発行される。
vii)このように、パチンコ遊技システムにおいて、所定金額を満たす場合にカードを発行することは周知の技術である。そして、甲第2号証に記載の発明を甲第1号証に適用することに困難性がないことは、審判請求書(審判請求書第23頁?26頁)及び平成13年8月17日付提出の上申書において立証したとおりである。
viii)以上より、訂正明細書の考案は、前記甲第1号証及び甲第2号証記載の発明並びに周知技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して登録を受けることができないものである。
(3)むすび
以上のとおりであるから、前述の訂正は、いわゆる訂正拒絶理由に該当するとして拒絶されるべきものであるし(附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第41条で準用する特許法第165条)、また、たとえ拒絶されないとしても、附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項の規定に適合せず、認められないものである。」
(4-2-4)口頭審理(審判請求人口頭審理陳述要領書)において
平成14年2月7日口頭審理における陳述(「陳述要領書」のとおり陳述[調書])
(A)陳述要領書の要点
「平成13年5月2日付答弁書に対する反論
○2 答弁に対する反論
i)訂正請求書の訂正が認められない点について
答弁書と同日付の訂正請求書の訂正は、拒絶されるべきものである(附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第41条で準用する特許法第165条)、または、前記訂正請求書に添付された訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1の考案(以下、訂正明細書の考案という)は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録出願の際独立して登録を受けることができないものであり、附則(平成5年法律第26号)第4条で読み替えられた旧実用新案法第40条第5項で準用する同法第39条第3項の規定に適合せず、いずれにせよ、訂正は認められないものである。
この点は、請求人が提出した弁駁書(平成13年12月21日付提出)に、詳細に記載したとおりである。
ii)本件考案と甲第1号証及び甲第2号証との対比について
請求人は、審判請求書においては、本件考案は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものであり、いわゆる進歩性がないと主張しているのであって、前記各甲号証に基づき新規性がないと主張するのではない。従って、甲第1号証に本件考案の構成要素の全てが記載されている必要はなく、また甲第2号証についても同様である。従って、甲第1号証又は甲第2号証に構成要件の一部が記載していないとする被請求人の主張は、何ら意味をなさない主張である。
また、構成要件Hについても同様であり、そもそも構成要件Hは、カード発行部と動作制御とデータ送信部の動作制御とからなるものであって、それらが、それぞれ甲第1号証と甲第2号証とに記載されていたとしても、甲第1号証に甲第2号証を適用するのに困難性がない以上、前記甲号証から構成要件Hを容易に想到することができるのである。
iii)構成の困難性について
甲第1号証の追加購入装置は、被請求人のいうように、貨幣の投入により持ち玉の追加投入が行なえるように構成されただけのものではなく、追加購入装置に「カード発行機能」を兼用しているものである(甲第1号証第8頁左上欄第9行?第10行)。従って、被請求人の「経理の透明性を担保するために、現金による追加購入でなく、プリペイドカードの発行という点が着想として斬新であり、構成に困難性がある。」とする主張は失当である。
甲第3号証には、本件考案と密接に関連する技術分野において、本件考案と略同様の構成を備えるものが開示されており、また、甲第4号証には、パチンコ機と近接した箇所にカード発行機およびカード処理装置を配置する技術が開示されるとともに、本件考案と同一の効果を奏する旨が記載されている。加えて、甲第5号証には、パチンコ機と別体にカード処理装置が配置される技術が開示されており、本件考案の効果と同一の効果を奏する旨が示唆されている。
したがって、本件考案と密接に関連する技術分野における技術常識を参酌して、上記甲第1号証記載の考案に甲第2号証記載の考案を適用することには何らの困難性をも認められるものではなく、被請求人の甲第3号証?甲第6号証には一台の機械をもって、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対するゲーム機へのデータ送信とを行なうように構成する点について、記載も示唆もされていないとする主張は、請求人の主張の意味するところをはき違えた主張であり、認めることはできない。
vii)甲第7号証について
請求人が、甲第7号証に示される出願経過によって立証しようとしているのは、被請求人が自認している本件考案の技術的特徴、すなわち、本件発明の技術的な特徴部はカード発行機能とカード処理機能とを台間機にまとめている点にあることであって、容易推考性それ自体ではない。従って、被請求人の反論は的外れである。
さらに、本拒絶査定に対する審判で引用された引用例2(特開平1-94882号)と甲第2号証(特開昭63-102783号)とを同等の公知文献であるとして、拒絶査定の審判における判断を、本審判に結びつけようとすることは、到底認めることはできない。引用例2(特開平1-94882号)の制御ユニット(甲第2号証の球貸機能部に該当する)に関する記載(乙第2号証第4頁左上欄第1行?右下欄第2行)には、甲第2号証に記載された(甲第2号証第3頁左上欄第11行?同頁右下欄第3行)ようなカードを使用して球貸しを行なう貸出動作制御およカード読取器で読み取った信号をパチンコ機の球排出装置に送信するデータ送信部等は記載されておらず、引用例2(特開平1-94882号)と甲第2号証(特開昭63-102783号)とは、その記載内容は全く相違する。
従って、被請求人の主張は誤りである。
viii)甲第8号証について
甲第8号証の事件の対象は、本件実用新案登録出願の分割出願であり、本件考案とは上位(本件考案)ー下位(分割出願)の関係にあり、そこで示された判断は考慮するに値するものである。
さらに、甲第8号証のような異議事件は、職権主義を基調としており、当事者主義・弁論主義を採用する民事裁判手続とは相違するため、被請求人が十分に意見を述べているか否かとを問わず、対象となる特許の妥当性の判断が客観的に行なわれるのである。従って、十分に意見を述べないために、取り消されたとする被請求人の上記主張は失当である。」

【5】被請求人の主張
(5-1)答弁の概要
被請求人(特許権者)は、訂正請求書により特許請求の範囲を減縮するとともに、答弁書において「請求人の主張はいずれも理由の無いことが明らかであるから、本件特許発明は無効とすることはできない」とし、「本件の審判請求は成り立たない。」旨、答弁している。
(5-2)具体的理由の要点
被請求人(特許権者)は、答弁書等において、証拠方法として乙第1号証(特開平1-94882号公報)を提出し、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
(5-2-1)答弁書において
(A)請求人の主張の要点(答弁書第2頁第11?21行)
「(1)請求人の主張の要点
審判請求書における請求人の主張を要約すると、以下のとおりである。
○1 本件考案は、甲第1号証および甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができず、同法第37条第1項第2号により無効とすべきである。
○2 本件考案が甲第1号証および甲第2号証から容易に想到されるという事実は、甲第3号証?甲第6号証から認められる技術常識および甲第7号証に示される出願経過を参酌すれば一層明らかである。
○3 請求人の主張の正当性は、甲第8号証に示される分割出願についての異議事件での審判の判断によって立証される。」
(B)被請求人の主張(答弁書第2頁第22行?第10頁第17行)
「(2)被請求人の主張の要約
○1 本件考案の要旨は、本書と同日付けの訂正請求書で訂正した実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されているとおりである。本件考案は、甲第1号証および甲第2号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものではなく、請求人の主張は根拠がない。
○2 請求人が提出した甲第3号証?甲第6号証には、本件考案が特徴とする点は記載も示唆もされていない。従って、甲第3号証?甲第6号証から認められる技術常識および甲第7号証に示される本件考案の出願経過を参酌しても、本件考案が甲第1号証および甲第2号証からきわめて容易に想到されるものとすることはできない。
○3 甲第8号証は本件実用新案登録出願の分割出願に対する異議事件であって事案が異なる上に、その異議事件において被請求人は十分に意見を述べていないから、甲第8号証によって請求人の主張の正当性が立証されるものではない。
(3)本件考案の構成要件について
本件考案の要旨は、本書と同日付の訂正請求書で訂正した「実用新案登録請求の範囲」の請求項1に記載されている。この「実用新案登録請求の範囲」の記載に従って、本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。なお、アンダーラインを付した部分は、訂正請求書で訂正した部分である。
A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、
B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、
F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、
G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、
H.前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部とを備えて成るプリペイドカード処理装置。
(4)本件考案と甲第1号証および甲第2号証との対比
○1 本件考案と甲第1号証との対比について
甲第1号証に記載の追加購入装置は、貨幣による持ち玉の追加購入を可能としたもので、かかる機能に加えて、電子カードを発行する機能を具備している。ところが、発行された電子カードを受け付けて玉貸を行う処理は、追加購入装置では行われず、パチンコ遊技機で行われるので、甲第1号証の追加購入装置はプリペイドカード処理装置ではない。
本件考案のプリペイドカード処理装置は、プリペイドカードの発行機能とプリペイドカードの受付機能と隣接するゲーム機へのデータ送信機能とを備えた点に特徴があり、貨幣の投入に対してはプリペイドカードの発行が可能となり、プリペイドカードの投入に対してはデータ送信が可能となっている。ところが、甲第1号証に記載の追加購入装置では、貨幣の投入に対して電子カードの発行が可能となるものの、電子カードの投入を受け付ける機能もなければ、電子カードの投入を受け付けてデータ送信を行う機能もない。すなわち、甲第1号証に記載の追加購入装置は、本件考案の構成要件E,F,Gを備えていない。
これに加えて、本件考案のプリペイドカード処理装置では、プリペイドカードを用いなければデータ送信は可能とならないが、甲第1号証に記載の追加購入装置では、電子カードを用いずに、貨幣の投入によってパチンコ遊技機への持ち玉の追加購入(本件考案のデータ送信に相当する。)が可能となり、この点の両者の差異も本質的なものである。
本件考案のプリペイドカード処理装置では、制御部は、投入金額が所定の金額条件を満たすときデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし、プリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とするが(構成要件H)、甲第1号証の追加購入装置にはそのような機能はなく、本件考案の構成要件Hを備えていない。
この点に関して、請求人は、構成要件Hのうち、その前半部分のカード発行制御にかかる技術が甲第1号証に開示されている、と主張している(審判請求書7頁9?13行および21頁下から2行?22頁1行)。しかし、構成要件Hは全体でひとつの制御機能を示すものであり、このことは訂正請求書で訂正した「実用新案登録請求の範囲」の記載により一層明らかになっており、これを前半部分と後半部分とに分断し、その前半部分が甲第1号証に開示されているとするような請求人の主張は失当である。
○2 本件考案と甲第2号証との対比について
甲第2号証に記載の球貸機能部は、カードの受付に対して隣のパチンコ機への球貸を行う機能を有するものの、貨幣を受け付ける機能もなければ、貨幣の受付に対してカードの発行を可能とする機能もない。すなわち、甲第2号証に記載の球貸機能部は、本件考案の構成要件B,C,Dを備えていない。
さらに加えて、甲第2号証には、本件考案の構成要件Hについても記載がない。構成要件Hに関して、請求人は、構成要件Hのうち、その後半部分のデータ送信制御にかかる技術が甲第2号証に開示されている、と主張しているが(審判請求書11頁下から3行?12頁15行および22頁20?22行)、データ送信制御には構成要件Hの全体が関わっており、構成要件Hは全体でひとつの制御機能を示すものである。この構成要件Hを前半部分と後半部分とに分断し、構成要件Hの後半部分が甲第2号証に開示されているとするような請求人の主張は失当である。
結局のところ、構成要件Hは甲第1号証にも甲第2号証にも開示されていない。
○3 甲第1号証への甲第2号証の適用について
請求人は、審判請求書23頁2?4行において、「甲第2号証に記載された台間機におけるカード式球貸機構を甲第1号証のカード発行機能を備えた台間機に適用することは、当業者であれば、きわめて容易になしえたことである。」と主張し、その根拠として、第1に、甲第1号証のカード発行機能を備えた台間機と甲第2号証のカード式球貸機構とは近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備される台間機である点で共通していること、第2に、明示こそされていないが、両者が共通する課題を備えることは当業者であれば明らかであることを挙げている(審判請求書22頁下から4行?23頁1行)。
しかしながら、近接する特定のゲーム機を組にして前記ゲーム機から独立させて配備される台間機には種々のものがあり、その種類毎に機能も相違するから、「台間機」であるというだけで、どのような種類のものでも組み合わすことができるというものではない。
また、請求人は、甲第1号証に記載の追加購入装置と甲第2号証に記載のカード式球貸機構とは共通する課題を備えているというが、その共通する課題が何であるのか全く不明である。むしろ、甲第1号証に記載の発明が解決すべき課題と甲第2号証に記載の発明が解決すべき課題とは全く異なるものであって、請求人の主張は根拠がない。すなわち、甲第1号証に記載の追加購入装置は、現金を受け付けて処理する機能を備えていることが前提となっているのに対し、甲第2号証に記載のカード式球貸機構では、現金(硬貨)を用いないようにすることを発明が解決すべき課題としている。ちなみに、甲第2号証には、発明が解決しようとする問題点として、「上記した球貸機をパチンコ機間に配置すると、パチンコ機列内にベルトコンベア等の硬貨回収装置を設けなくてはならず、パチンコ機列の内部が複雑になるばかりでなく、硬貨の紛失、盗難のおそれがあった。」と記載され(1頁右欄15?19行)、また、発明の効果として、「以上説明したように本発明によれば、パチンコ機ダリ内に硬貨を回収するベルトコンベア等を設ける必要がないので、パチンコ機列内の構造が簡略化されるし、硬貨の紛失や盗難のおそれがない。」と記載されている(4頁左下欄12?15行)。
請求人は、甲第2号証に記載された台間機におけるカード式球貸機構を甲第1号証のカード発行機能を備えた台間機に適用することは、当業者であれば、きわめて容易になしえたことである、と主張するが、そのような主張は、本件考案を知った上での後知恵によるものであり、甲第1号証にも甲第2号証にも両者を組み合わせることの示唆はどこにも存在しない。
○4 構成の困難性について
本件考案における構成の困難性は、同じ一台の機械で、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対するゲーム機へのデータ送信とを行うようにした点にある。すなわち、組となるゲーム機へ単に貸出を行うだけであれば、貨幣の投入に対してゲーム機へ直接、データ送信を行えば済むところのものを、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなく、プリペイドカードをわざわざ発行し、そのプリペイドカード(他で発行されたプリペイドカードも含む。)を受け付けたときだけゲーム機へデータ送信を行うように構成しているのである。何故、現金により直接データ送信(貸出)を行わずに、プリペイドカードを用いるようにしたかといえば、経理の透明性を担保するためであり、現金による追加購入でなく、プリペイドカードの発行(追加発行も含む。)という点が着想として斬新であり、構成に困難性がある。
甲第1号証に記載の追加購入装置は、貨幣の投入により持ち玉の追加投入(玉貸)が行えるように構成されたものである。そのような現金による玉貸機能を特徴にもつ装置に、現金(硬貨回収機構)を用いないようにすることを発明の目的とした甲第2号証を組み合わせることは明らかに矛盾しており、電子カードによる玉貸機能を付加するようなことは常識的に考えられない。従って、甲第1号証に甲第2号証を適用することは当業者がきわめて容易になし得ることではない。
(5)甲第3号証?甲第6号証について
請求人は、甲第1号証記載の考案に甲第2号証記載の考案を適用することに困難性がないことは甲第3号証ないし甲第6号証から明らかであると主張するが、甲第3号証?甲第6号証は、請求人のそのような主張の根拠となるものではない。
甲第3号証は、カードを発行するカード貸機40とカードを受け付けるカード処理機30とが別個独立したものであり、1台の機械でカード発行、カード受付、データ送信を行うことを示唆する記載はない。
甲第4号証は、遊技終了時に残得点を記録したカードを発行するようにしたものであり、貨幣の投入に対してその投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するものではない。
甲第5号証は、カードを発行するカード発行機6とカードを受け付けるカード読み取り装置3とが別個独立したものであり、1台の機械でカード発行、カード受付、データ送信を行うことを示唆する記載はない。
甲第6号証は、カード販売機能を持つカード販売機に貨幣の投入に対して玉貸を行う機構を組み込んだものであり、カードの投入に対して玉貸を行うものではない。
以上のとおり、台の機械をもって、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対するゲーム機へのデータ送信とを行うように構成する点について、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされてない。
従って、甲第3号証?甲第6号証から認められる技術常識を参酌しても、甲第1号証と甲第2号証とから本件考案がきわめて容易に想到されるものであるということはできない。
(6)甲第7号証について
請求人は、本件考案の拒絶査定に対する審判(平成7年審判第17199号)において被請求人が主張した事実として平成7年3月10日付意見書の記載を引用しているが、同意見書は拒絶査定に対する審判の中で提出されたものではなく、審査の段階で提出されたものである。
請求人は、本件実用新案登録出願についての拒絶査定に対する審判の経過書類一式を甲第7号証として提出しているが、この甲第7号証に示される本件出願の経過を考慮しても、甲第1号証と甲第2号証とから本件考案がきわめて容易に想到し得るものとする事実は見出せない。
この拒絶査定に対する審判において着目すべきは、本件考案が引用例1の特開昭63-168195号公報と引用例2の特開平1-94882号公報(乙第1号証)との2つの公知例を踏まえて、その登録が認められたという点である。引用例1の特開昭63-168195号公報は、請求人が提出した甲第1号証そのものであり、引用例2の特開平1-94882号公報は請求人が提出した甲第2号証と同等の公知文献である。
審判の合議体は、引用例1に貨幣の投入に対してカードの発行を行う装置(追加投入装置)が記載され、引用例2にカードの投入に対してカードの受付および読取りを行う装置(制御ユニット)が記載されているものの、引用例1(甲第1号証)に記載のものに引用例2(甲第2号証と同等の公知文献)に記載のものを適用することには困難性があり、本件考案は引用例1と引用例2とから想到されるものでない、と判断し、本件考案は、引用例1および引用例2に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案できたものではない、との審決を行ったのである。
従って、甲第3号証?甲第6号証の記載に加えて、甲第7号証に示される本件出願の経過を参酌しても、甲第1号証と甲第2号証とから本件考案がきわめて容易に想到し得るものとすることはできない。
(7)甲第8号証について
請求人は、請求人の主張が正当であることを立証するために、本件実用新案登録出願の分割出願についての実用新案異議申立事件(平成11年異議第73546号)の審判の経過書類一式を甲第8号証として提出している。
しかしながら、この実用新案異議申立事件は実用新案登録第2592149号(本件実用新案登録出願の分割出願)に対するものであり、本件実用新案登録に対するものではない。
請求人は、この異議事件の中で平成12年9月26日付けの訂正拒絶理由通知書を引用し、審判の合議体は実用新案法第3条第2項を理由に拒絶されるべきであるとの判断を行った旨、指摘する。
しかしながら、被請求人は、実用新案登録第2592149号については本件実用新案と重複して保有する実際的意味がないので、訂正拒絶理由通知に対する意見書の提出を行っておらず、この異議事件では、被請求人は意見を十分述べていない。
本件考案が進歩性を有するか否かについては、既に述べたとおり、拒絶査定に対する審判において審判の合議体が審理を行って結論を出しており、この審判の結論は尊重されるべきである。
(8)むすび
本件考案は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して登録されたものでないことは上記したとおりであり、本件実用新案登録はなんら無効理由を有するものでない。」
(5-2-2)口頭審理(被請求人口頭審理陳述要領書)において
平成14年2月7日口頭審理における陳述(「陳述要領書」等のとおり陳述[調書])
(A)口頭審理調書
「甲第1号証及び甲第2号証に記載のものは、いずれも「玉貸装置」であることは認める。」
(B)陳述要領書の要点
・「(2)審判事件答弁書における被請求人の主張の要点
平成13年5月2日付の審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)における被請求人の主張を要約すると、以下のとおりである。
○1 訂正請求に関して
本件考案の構成要件Hの意味をより明確にするために、被請求人は、平成13年5月2日付の訂正請求書(以下「訂正請求書」という。)によって、構成要件Hをつぎのように減縮する訂正を行った。
「前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額要件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部」
なお、下線部は訂正請求によって付加された部分である。
○2 甲第1号証および甲第2号証に関して
甲第1号証において、発行された電子カードを受け付けて玉貸を行う処理はパチンコ遊技機で行われるので、甲第1号証の追加購入装置はプリペイドカード処理装置ではない。甲第1号証に記載の追加購入装置は本件考案の構成要件E,F,Gを、甲第2号証に記載の球貸機能部は本件考案の構成要件B,C,Dを、それぞれ備えていない。また、本件考案の構成要件Hは全体でひとつの制御機能を示すものであって、甲第1号証にも甲第2号証にも開示されていない(答弁書4頁7行?5頁20行)。
甲第1号証に記載の台間機と甲第2号証に記載のカード式球貸機構とは、機能や解決すべき課題が相違し、「台間機」であるというだけで、両者を組み合わせることができる、というものではない(答弁書6頁10行?7頁8行)。
本件考案は、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなくプリペイドカードを発行し、プリペイドカードを受け付けたときだけ組となるゲーム機へデータ送信を行うように構成されたものである。これに対して甲第1号証の追加購入装置は、貨幣の投入に対して持ち玉の追加が行えるように構成されたものである。そのような現金による球貸機能を特徴にもつ装置に、現金(硬貨回収装置)を用いないようにすることを発明の目的とした甲第2号証を組み合わせることは矛盾しており、甲第1号証に甲第2号証を適用することは当業者がきわめて容易になし得ることではない(答弁書7頁10?28行)。
○3 甲第3号証?甲第7号証に関して
一台の機械をもって、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対するゲーム機へのデータ送信とを行うように構成する点について、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも記載も示唆もされていない(答弁書8頁18?21行)。従って、甲第3号証?甲第6号証から認められる技術常識や甲第7号証に示された本件出願の経過を参酌しても、甲第1号証と甲第2号証とから本件考案がきわめて容易に想到されるものであるとはいえない(答弁書9頁21?23行)。
なお、甲第7号証に示された審判事件では、甲第1号証と、甲第2号証と同等の公知文献とから本件考案が想到されるものでない、と判断されている(答弁書9頁6?20行)。
○4 甲第8号証に関して
甲第8号証は本件実用新案登録出願の分割出願に対する異議事件に関するものであるが、その異議事件において被請求人は十分に意見を述べていないから、甲第8号証によって請求人の主張の正当性が立証されるものではない(答弁書10頁7?10行)。」
・「(4)弁駁書に対する反論と被請求人の主張の補完
上記したとおり、請求人は、訂正請求書に記載の訂正は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものでなく、また、訂正明細書の考案は、実用新案登録出願の際独立して登録を受けることができないものである、と主張するが、そのような主張は誤りである。以下に、弁駁書に対する被請求人の主張を述べ、併せて、答弁書で行った被請求人の主張を補完する。
○1 弁駁書に対する反論
訂正により減縮された制御部は、要するに、金銭の投入に対して組となるゲーム機にデータ送信を行うことなく必ずカードを発行するようにし、組となるゲーム機へのデータ送信は必ずカードを読み取って行うようにする、というものであり、本件実用新案登録公報中の図8に示されている実施例がこれに対応している。図8に示される実施例では、ST10で貨幣が投入されたとき、ST11へ進むので、データ送信を行うことなくカードが発行される(ST13)。すなわち、ST10以降のST11?14にはデータ送信のステップは存在せず、カード発行のステップのみが存在する。組となるゲーム機へのデータ送信は、ST1でカードが投入されてカードが読み取られたときにのみ、ST7で行われる。この図8に示される実施例の説明は、本件実用新案登録公報の段落【0024】?【0028】に記載されている。
以上のように、本件実用新案登録公報の図8および図8の説明箇所には、プリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とする制御部が開示されている。
この点に関して、請求人は、訂正によって減縮された制御部はプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信を行うものであるところ、図8の実施例では、金額条件の他に押釦スイッチ15の押操作を条件としてデータ送信を行っており、両者の記載は矛盾する、と主張する。しかしながら、この請求人の主張は明らかに誤りである。
すなわち、制御部は、プリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とするものであって、データ送信部を動作させる、というものではない。図8の実施例において、前記の金額条件を満たすとき、押釦スイッチ15の操作によって、送信(ST7)が行われるのであるから、金額条件を満たすとき、データ送信部は動作可能となっている。従って、実用新案登録請求の範囲の記載と実施例の記載との間になんら矛盾はない。
さらに、この点に関連して、請求人は、データ送信制御の訂正は、金額条件以外の条件(例えば押釦スイッチの押操作)もデータを送信する条件として許容し得ると考えられ、実質的に、実用新案登録請求の範囲を減縮するものでない、と述べているが(弁駁書12頁8?14行)、押釦スイッチ15の操作は「送信」のための条件であるとしても「データ送信部を動作可能とする」ための条件ではなく、請求人の主張は失当である。訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された考案は、金銭の投入に対して組となるゲーム機にデータ送信を行うことなく必ずカードを発行するという実施例と、金銭の投入に対して組となるゲーム機にデータ送信を行うことが可能となっている実施例とを含んでいたが、これを前者の実施例だけを含むように訂正したのであるから、その訂正が実用新案登録請求の範囲の減縮に当たることは明らかである。
つぎに、請求人は、甲第11号証?甲第16号証を新たな証拠として提出し、訂正明細書の考案は、甲第1号証及び甲第2号証の発明並びに甲第11号証?甲第16号証で明らな周知技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものである、と主張するが、この請求人の主張も、以下に詳述するように誤りである。
○2 本件考案と甲第1号証に記載の考案との対比
甲第1号証は「持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置」に関するものである。持ち玉記録式パチンコ遊技機は、遊技者が直接パチンコ球に触れることがなく、パチンコ球がパチンコ遊技機内でのみ循環する、いわゆる封入式パチンコ機である。遊技者は、持ち玉数が記録されたカードをカード発行機で購入し、各パチンコ遊技機毎に設けられたカード保持装置にカードを挿入してパチンコ遊技を行うようになっており、持ち玉数はパチンコ遊技の過程で増減し、遊技終了時に残存する持ち玉数がカードに記録される(甲第1号証2頁左上欄16行?同頁右上欄7行)。この持ち玉記録式パチンコ遊技機において、パチンコ遊技中に持ち玉数が0になったときは、遊技客は、再度カードを購入しなくても、パチンコ遊技機から離れることなく持ち玉を追加購入できる。すなわち、遊技者が追加購入装置に貨幣を投入すると、追加購入金額に相当する持ち玉数の情報がパチンコ遊技機に伝達されるので、遊技客はそのまま遊技を継続できる。
なお、甲第1号証に記載の追加購入装置は、カードの新規発行を行う機能も併せて有しており、遊技者は既存のカードの使用を継続して持ち玉の追加購入を行うか、新規カードを購入するかの選択ができる。もっとも、持ち玉記録式パチンコ遊技機では、たとえ持ち玉数が0になっても、既存のカードを継続して使用して持ち玉の追加購入ができるので、新規カードの発行を受ける必要はない。因みに、甲第1号証には、「本実施例では、追加購入装置100が電子カード20の新規発行能力をも有する例を示すが、追加購入装置100は基本的には持ち球数の追加購入を行うためのものであり…」と記載されている(甲第1号証4頁10?13行)。
請求人は、本件考案と甲第1号証に記載の考案とは共に近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置である点で一致すると主張するが(審判請求書22頁20行?23頁1行)、甲第1号証ではカードの受付および処理はパチンコ遊技機によって行われるから、甲第1号証の追加購入装置は本件考案のプリペイドカード処理装置に相当しない。
また、本件考案において、プリペイドカード処理装置が近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立して配備されるのは、ゲーム機の交換や故障に伴う不都合を解消するためであるが、甲第1号証では、パチンコ遊技機でカードが受け付けられて処理されるので、パチンコ遊技機が廃棄されたり再利用されたときにパチンコ遊技機からカードに関する情報が流出し、また、使用中にカード詰まりなどの故障が生じると、パチンコ遊技機の使用が不可能となる。従って、甲第1号証に記載の追加購入装置では、本件考案の技術課題は解消できない。
本件考案のプリペイドカード処理装置では、構成要件Hの制御部は、貨幣の投入金額が所定要件を満たすときデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし、読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とするものであるが、甲第1号証にはそのような制御機能を備えたプリペイドカード処理装置は示唆されていない。結局のところ、甲第1号証の追加購入装置は本件考案の構成要件A,E,F,G,Hを備えていない。
ところで、本件考案の構成要件Hは、訂正請求によってその意味が一層明確なものとなっている。すなわち、本件考案のプリペイドカード処理装置では、金銭の投入に対して組となるゲーム機にデータ送信を行うことなく必ずカードを発行するようにし、組となるゲーム機へのデータ送信は必ずカードを読み取って行うようにしている。
甲第1号証に記載の持ち玉記録式パチンコ遊技機では、追加購入装置に貨幣を投入すると、購入された持ち玉数のデータがパチンコ遊技機へ送信されてゲームが継続できるようになっており、これに加えて、選択的にカードを新規購入することもできるようになっている。これに対して本件考案では、貨幣を投入すると、ゲーム機へのデータ送信は行われず、必ずカードが発行されるようになっている。このように、本件考案では、貨幣の投入に対して必ずカードを発行するので、カード発行数と購入現金とが一致し、経理の透明性が確保できるという効果が得られる。
以上のように、甲第1号証は、持ち玉数がゼロになったときに遊技者が席を離れることなく遊技を継続できるようにするという点では本件考案と同じ技術課題を解決しようとするものであるが、甲第1号証に記載の持ち玉記録式パチンコ遊技機は、貨幣の投入によってそのまま遊技が継続され、遊技者が新規カードの購入を選択したときにのみ新規カードが発行されるのに対し、本件考案では、貨幣の投入に対しては必ずカードが発行されるもので、両者の差異は本質的なものである。
○3 本件考案と甲第2号証の考案との対比
甲第2号証は「パチンコ機のカード式球貸機構」に関するものである。従来、硬貨を投入して球貸しをする球貸機がパチンコ機とパチンコ機の間に設けられていたのに対し、甲第2号証では、硬貨を投入する球貸機を廃止し、カード式球貸機構をパチンコ機自体あるいはその近傍に配設し、球貸機能部の電気的制御装置を対応するパチンコ機の球排出装置の制御装置に接続して、カードによる球貸を行うようにしている。パチンコ機に近接した場所に貨幣(硬貨)による球貸機を配置することを止めたのは、そのような球貸機が設けられていると、パチンコ機列内にベルトコンベア等の硬貨回収装置を設けなければならず、パチンコ機列の内部が複雑になるばかりでなく、硬貨の紛失、盗難のおそれがあるためである。
この点について、甲第2号証の「発明が解決しようとする問題点」の欄および「発明の効果」の欄には次のように記載されている。
「(発明が解決しようとする問題点)
上記した球貸機をパチンコ機間に配置すると、パチンコ機列内にベルトコンベア等の硬貨回収装置を設けなくてはならず、パチンコ機列の内部が複雑になるばかりでなく、硬貨の紛失、盗難のおそれがあった。」(甲第2号証1頁右下欄14?19行)
「(発明の効果)
以上説明したように本発明によれば、パチンコ機列内に硬貨を回収するベルトコンベア等を設ける必要がないので、パチンコ機列内の構造が簡略化されるし、硬貨の紛失や盗難のおそれがない。また、本発明は、パチンコ機が有する球排出装置を作動して遊技球を受皿に排出するようにしたので、球貸用の球排出装置を別個に設ける必要がなくなり設備の合理化を図ることができるし、また借り出した球をその都度球貸機から受け皿に移し替える煩雑さを解消することができる。」(甲第2号証4頁左下欄11行?同頁右下欄1行)
甲第2号証に記載の球貸機能部には、本件考案の構成要件B,C,Dが存在しないほか、貨幣の投入金額が所定要件を満たすときデータ送信部は動作可能とせずカード発行部を動作可能とし、読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定条件を満たすときにのみデータ送信部を動作可能とする制御部(構成要件H)が存在しない。
○4 甲第2号証を甲第1号証に適用することについて
請求人は、甲第1号証に記載の台間機と甲第2号証に記載のカード式球貸機構とは、いずれも、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備される台間機である点で共通するから、甲第2号証に記載された台間機におけるカード式球貸機構を甲第1号証のカード発行機能を備えた台間機に適用することは、当業者であれば、きわめて容易になしえたことである、と主張する(審判請求書22頁23行?23頁4行)。
しかしながら、甲第1号証に記載の「台間機」は、玉貸を必要としない持ち玉記録式パチンコ遊技機に関わるものであり、貨幣を投入して持ち玉数を追加購入する追加購入装置であり、他方、甲第2号証に記載の「カード式球貸機構」は、球貸を必要とするパチンコ機に関わるものであり、パチンコ機の近傍で貨幣を投入して玉貸を行うことが、パチンコ機列の内部の複雑化、硬貨の紛失、盗難のおそれがあるとして、貨幣を扱わずに玉貸を行うためのものである。
従って、甲第2号証のカード式球貸機構と甲第1号証の追加購入装置とは機能や解決すべき課題が相容れないものであるから、これらを組み合わせることはできない。
本件考案は、ゲーム機と組となる、ゲーム機と独立したプリペイドカード処理装置がカードの発行機能を有することによって、プリペイドカードの残額がゼロになっても遊技客が遊技を継続でき、ゲーム機の交換やカード詰まりなどの故障に伴う不都合を解消できる、という特徴を有し、さらに加えて、現金の投入に対しては必ずカードを発行し、カードの投入、読み取りが行われた場合にのみゲーム機へデータ送信を行うことにより、遊技店における経理の透明性が増す、という特徴をも有するものである。
確かに、甲第1号証にはカードの残額がゼロになったときに遊技客が席を離れることがなく持ち玉の追加購入が可能な装置が記載されている。しかし、甲第1号証は本件実用新案の明細書中でも引用されている文献(特開昭63-168195号公報)であり、本件考案はこの技術課題を甲第1号証とは異なる構成、すなわちプリペイドカード処理装置にカードの発行機能を具備させるという構成によって解決するとともに、これ以外の課題をも併せて解決するものである。
本件考案は、近接するゲーム機と組になった前記ゲーム機と独立したプリペイドカード処理装置にカード発行機能を持たせることに特徴がある(構成要件A,B,C,D,H)。これに対し、甲第2号証に記載のカード式球貸機構は、近接するゲーム機と組になった前記ゲーム機と独立したプリペイドカード処理装置である、と言えないこともないが、甲第2号証のカード式球貸機構は、貨幣を取扱わないことにカード使用の目的があるプリペイドカード処理装置である。従って、甲第2号証に記載の考案には、貨幣の投入を受け付けてカードを発行する機能を持たせるという技術思想は全く存在しない。
甲第1号証の追加購入装置は、貨幣の投入に対して持ち玉数を既存のカードに記録するのが本来の機能であり、その前提として使用時には必ず既存のカードが使用可能状態でパチンコ遊技機に挿入されている。仮に議論のために、パチンコ遊技機と別体の追加購入装置がカードの挿入を受け付けるように構成されたと仮定すると、カードの持ち玉数がゼロになったとき、追加購入装置では貨幣の投入に対しては追加の持ち玉数を同装置に挿入されている既存のカードに書き込むことになるので、既存のカードが使用可能状態で挿入されていながら、新規にカードを発行する必要性は全くない。甲第1号証には、追加購入装置が新規カードの発行機能を併せもつことが記載されているが、追加購入装置がカードを受け付けて読み取る機能をも有するものと仮定した場合に、同装置が新規カード発行機能をも当然有する必要がある、とする技術的根拠は存在しない。
要するに、甲第1号証と甲第2号証とを組み合わせて本件考案を想到するというのは単なる後知識の主張であり、甲第1号証と甲第2号証とは各々単独でも、また両者を組み合わせても、プリペイドカード処理装置にカードの発行機能を持たせるという本件考案の特徴を示唆するものではない。
さらに、もし、貨幣を投入して組となるゲーム機での遊技を継続するだけであれば、貨幣の投入に対しゲーム機へ直接データ送信を行えば済むところ、本件考案は、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなく、必ずプリペイドカードを発行するように構成している。貨幣の投入に対して直ちに球貸のためのデータ送信を行わず、必ずプリペイドカードの発行を介在させることにより、遊技店における経理の透明性を確保できるのである。
以上のとおり、本件考案は甲第1号証と甲第2号証とからは決して想到されるものではない。
○5 甲第3号証?甲第6号証および甲第11号証?甲第16号証に関して
請求人は、審判請求書の中で、甲第1号証と甲第2号証の組み合わせに困難性がないことは甲第3号証?甲第6号証から明らかであると主張しているが、台の機械でもって、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対する受付およびゲーム機へのデータ送信とを行うようにしたものは甲第3号証?甲第6号証のいずれにも記載がない。従って、甲第3号証?甲第6号証の記載を考慮しても、甲第1号証と甲第2号証とから、本件考案がきわめて容易に推考されるものではない。
さらに、請求人は、弁駁書の中で、訂正明細書の考案と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明との相違点は、カード発行制御において、所定金額を満たす場合はカードを発行することとして貨幣投入の後にデータ送信を行うという選択肢を排除した点およびデータ送信の制御において、データ送信をする条件をカード読取器で読み取った金額価値が所定条件を満たすときにのみとした点であるが、パチンコ遊技システムにおいて、所定金額を満たす場合にカードを発行することは甲第11号証?甲第16号証から明らかなように周知の技術である、と主張している。
しかしながら、甲第11号証?甲第16号証に記載の各装置は、貨幣の投入に対して単にカードを発行する、というだけのものに過ぎず、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対する組となるゲーム機へのデータ送信とを行うようにしたものでないから、甲第11号証?甲第16号証には、貨幣の投入に対して組となるゲーム機にデータ送信を行うことなく必ずカードを発行するようにし、組となるゲーム機へのデータ送信は必ずカードを読み取って行うようにする、という技術は開示されていない。
従って、請求人が認めている訂正明細書の考案と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明との相違点、すなわち、カード発行制御において、所定金額を満たす場合はカードを発行することとして貨幣投入の後にデータ送信を行うという選択肢を排除した点およびデータ送信の制御において、データ送信をする条件をカード読取器で読み取った金額価値が所定条件を満たすときにのみとした点は、甲第11号証?甲第16号証のいずれにも開示も示唆もされていない。
○6 甲第8号証に関して
請求人は、本件実用新案の分割にかかる登録第2592149号実用新案に対し登録取消決定がなされたことから、同考案の上位概念である本件実用新案も同様に進歩性欠如の無効理由を有することは明らかである、と述べている。
しかし、被請求人は上記の分割にかかる実用新案を維持する意図はなかったので、上記実用新案の異議申立手続において、被請求人は意見書を提出していない。因みに、甲第9号証の異議の決定には、手続の経緯について、「…指定期間内に応答がなされなかったものである。」と記されている。特許庁の上記異議決定は、被請求人が答弁書および本書面で述べたような主張を述べることなくなされたものである。
また、本件実用新案に対して前記の訂正請求が行われており、訂正後の本件考案は上記分割にかかる実用新案の考案の上位概念ではない。
以上のとおり、甲第9号証の取消決定は、被請求人が本件で行った本件実用新案の無効理由の不存在の主張に対する特許庁の見解を示唆するものではない。」
(5-2-3)上申書(平成14年2月22日付)において
「(1)甲第1号証と甲第2号証とを組み合わせること、すなわち、甲第1号証に記載の追加購入装置に甲第2号証に記載のカード式球貸機構を適用すること、並びに甲第2号証に記載のカード式球貸機構に甲第1号証に記載の追加購入装置を適用することは、当業者にとって、きわめて容易になし得ることではない。
(2)甲第1号証には、隣接する持ち玉記録式パチンコ遊技機と組にしてパチンコ遊技機から独立した追加購入装置が記載されており、パチンコ遊技機にカードを挿入して遊技を行い、遊技中に特玉数がゼロになったとき、追加購入装置へ貨幣を投入して持ち玉の追加購入が行えるものである。この追加購入装置は、パチンコ遊技機に挿入されるカードの発行機能も併せ持っている。
甲第2号証には、隣接するパチンコ機と組にしてパチンコ機から独立したカード式球貸機構が記載されており、カード式球貸機構へカードを挿入してパチンコ機への球貸が行えるものである。
(3)甲第1号証に記載のものは、パチンコ遊技機でカードを受け付け、しかも、追加購入装置で持ち玉の追加購入が可能となっているから、この追加購入装置にわざわざカードを受け付けてパチンコ遊技機へ玉貸を行う機能を付加することは、球貸が2系統から行われることになって無意味であり、その必要性がない。従って、甲第1号証に記載の追加購入装置に甲第2号証に記載のカード式球貸機構を適用することは、当業者といえども、きわめて容易になし得ることではない。
(4)また、甲第2号証に記載のものは、本来、貨幣を用いずにカードによって玉貸が行えるように構成されたもであるから、このカード式球貸機構に貨幣を用いる必要がある持ち玉の追加購入機能やカード発行機能を付加する必然性は全くない。従って、甲第2号証に記載のカード式球貸機構に甲第1号証に記載の追加購入装置を適用することは、当業者といえども、きわめて容易になし得ることではない。
(5)以上、述べたように、甲第1号証に記載の追加購入装置に甲第2号証に記載のカード式球貸機構を適用することも、甲第2号証に記載のカード式球貸機構に甲第1号証に記載の追加購入装置を適用することも、当業者にとって、きわめて容易になし得ることではない。なお、その詳細な主張は、平成13年5月2日付の審判事件答弁書および平成14年2月7日付の口頭審理要領書で行ったとおりである。」

【6】当審の判断
(6-1)本件考案
本件考案は、当審における訂正請求により前記【2】のとおり訂正が認められ、その訂正された考案(本件考案)は、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された前記【3】記載のとおりである。
(6-2)各甲号証記載の事項
請求人が提出した各甲号証に記載された技術的事項は、以下のとおりである。
(6-2-1)甲第1号証:特開昭63-168195号公報
甲第1号証には、その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると、概要、以下のような技術的事項が記載されている。
(i)「ところで、この種の持ち玉記録式パチンコ遊技システムを採用した場合において、パチンコ遊技中に持ち玉数が0になると、遊技客は再度カードを購入した後に遊技を再開しなければならず、その都度遊技が中断されるという問題がある。…本発明はこの様な問題点に鑑みてなされたものであり、パチンコ遊技機から離れることなく持ち玉の追加購入を行うことができる様にした持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄9?19行)、
(ii)「第5図は本発明の実施例に係る持ち玉記録式パチンコ遊技機の追加購入装置100の斜視図である。…更に所望により電子カードを発行するカード発行口107、…が配設される。…コイン投入口102の裏側にはコイン選別器110が、紙幣挿入口103の裏側には紙幣識別器111が、釣銭排出口106の裏側には釣銭排出装置112が、カード発行口107の裏側にはカード発行装置113が各々配置される。」(第3頁右下欄9行?第4頁左上欄8行)、
(iii)「この追加購入装置100は島設備において連設されている各パチンコ遊技機1の間隙に配置される。」(第4頁左上欄20行?同頁右上欄2行)、
(iv)「本実施例の追加購入装置100はカード発行機能を兼用しているので、制御装置114は追加購入スイッチ108a又は新規購入スイッチ108bの何れかが押されることを待ち、新規購入スイッチ108bがおされると、カード発行装置113を作動させて、カード発行口107から電子カード20を発行する。尚、この時に発行された電子カード20には金額選択スイッチ105によって選択された金額に対応する持ち玉数が書き込まれることはいうまでもない。」(第8頁左上欄9?18行)、そしてこの「発行された電子カード20には金額選択スイッチ105によって選択された金額に対応する持ち玉数が書き込まれる」際には、投入金額が選択された金額条件を満たすか否かの判断を行う必要があり、当該判断がなされることは当業者に自明の技術的事項である。
(6-2-2)甲第2号証:特開昭63-102783号公報
甲第2号証には、その実施例及び図面第1図乃至第11図とこれに係わる記載を参酌すると、以下のような技術的事項の記載が認められる。
(i)「本発明は、カード挿排口とカード読取装置と金額表示器を少なくとも有する球貸機能部をパチンコ機に対応して設け、カード挿排口にカードを挿入すると当該パチンコ機の球排出装置が作動して受皿に球を排出するようにしたパチンコ機のカード式球貸機構に関するものである。」(第1頁左下欄18行?同頁右下欄3行)、
(ii)「第1図に示す第1の実施例は、従来の球貸機と同様に、パチンコ機1aとパチンコ機1bとの間にパチンコ機1a用の球貸機能部2aとパチンコ機1b用の球貸機能部2bを隣り合せにして設け、球貸機能部2aと球貸機能部2bとの境界部分に誤操作防止板3を突設し、各球貸機能部2の電気的制御装置(図示せず)に対応するパチンコ機の球排出装置4の制御装置(図示せず)に電気的に接続するとともに、伝送路5を介して管理室内に設置してある中央管理装置(図示せず)に電気的に接続する。」(第2頁左上欄16行?同頁右上欄6行)、
(iii)「球貸機能部2は、前面に上から球貸出中表示器6、カード挿排口7、金額表示器8、アラーム表示器9、金額選択操作部10を設け、内部にはカード読取装置11と上記電気的制御装置を設け、該電気的制御装置にカード読取装置11及び上記した球貸出中表示器6、金額表示器8、アラーム表示器9、金額選択操作部10等を電気的に接続してある。カード読取装置11は、第2図に示すように、搬送モータ12の駆動により作動するベルトコンベア等の搬送手段13の一端をカード挿排口7に、搬送手段13の他端をカードタンク14に臨ませ、搬送手段13の途中に情報読取部として磁気ヘッド15を設ける」(第2頁右上欄7?19行)、
(iv)「カード21は、第3図に示すように、紙、又は合成樹脂等からなる薄い板状であり、裏面には長手方向のほぼ中央に磁気面等からなる情報書込部22を有し、該情報書込部22の上方にはカード発行年月日、発行時の金額を、情報書込部22の下方にはカードの挿入方向を示す矢印23と、減額目盛24を夫々表示してある。そして、このカード21の情報書込部22には、カード発行機(図示せず)において発行される際に、中央管理装置から送られたカード識別情報、発行年月日、遊技店識別情報等がカード発行機の磁気作用により書き込まれる。なお、遊技者がカード発行機に投入した貨幣の金額は、本実施例ではカードに書き込んだカード識別情報に対応させて中央管理装置の記憶部内に記憶されるように構成してある。したがって、遊技者がカード発行機に貨幣を投入し、所望する金額を選択釦等により選択すると、中央管理装置の記憶装置内に当該選択した金額がカード識別情報とともに記憶され、カード発行機からは上記カード識別情報が書き込まれたカード21が排出される。」(第2頁左下欄6行?同頁右下欄6行)、
(v)「電気的制御装置は、中央管理装置からのデータ要求信号が当該パチンコ機1の自局アドレスと一致すると、自局アドレスにカード21のカード識別情報を付加して中央管理装置に送る。中央管理装置は、当該パチンコ機1からの信号を受信すると、記憶装置内のカード識別情報を検索し、一致した場合にはそのカード識別情報に対応した記憶内容、即ちそのカード21の残高を読み出して上記パチンコ機1に送る。中央管理装置からそのカード21の残高を受信すると、電気的制御装置が金額表示器8にその金額を表示する。遊技者が金額表示器8の表示を確認し、金額選択操作部10を操作することにより所望する金額を選択すると、電気的制御装置が当該パチンコ機1の球排出装置4を作動して、遊技者が選択した金額に対応した数量の球を該パチンコ機1前面の受皿25に排出させる。なお、第1図に示す実施例では、金額選択操作部10を金額別の押釦で構成し、遊技者が操作した押釦の金額に相当する数量の球が排出されるようにしたが、金額選択操作部10を1つの押釦で構成し、1回操作する毎に例えば200円分の球が排出され、この押釦を繰り返し操作することにより所望の金額分だけ球を借りるようにしてもよい。…この様にして遊技者の所望する金額分の球が受皿25に排出されると、これに伴って電気的制御装置の演算手段が作動し、排出した球に相当する金額を減算し、残高を金額表示器8に表示する。また、この残高は、中央管理装置に送られ、当該カード21のカード識別情報とともに記憶装置内に記憶される。」(第3頁左上欄11行?同頁左下欄4行)、
(vi)「なお、上記した実施例では、カード21に金額情報を記億させないで中央管理装置にカード識別情報とともに記憶させることにより不正行為の発生の防止を図ったが、本発明は、これに限定されるものではなく、カード21の情報書込部22に、発行時に投入された金額、又は投入された金額と等価値の球数とを書き込み記憶するようにしてもよい。」(第4頁右上欄18行?同頁左下欄5行)、
(vii)そして、上記(v)の「遊技者が金額表示器8の表示を確認し、金額選択操作部10を操作することにより所望する金額を選択すると、電気的制御装置が当該パチンコ機1の球排出装置4を作動して、遊技者が選択した金額に対応した数量の球を該パチンコ機1前面の受皿25に排出させる。」の記載、及び第7図のフローにおける購入SWがY(イエス)の判断に続く選択可能の判断がN(ノー)の場合は、作動回数設定はなされないとする記載によると、上記電気的制御装置は、カード読取装置(11)で読み取られたカード(21)の金額価値の範囲内で所定の金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わる球数量の信号を繰り返し送信する送信部と、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときには前記データ送信部を動作可能とする制御部とを備えていることは明らかである。
したがって、これら明細書及び図面の記載によれば、当該甲第2号証には、
「近接する特定のパチンコ機(1a、1b)と組にして前記パチンコ機(1a、1b)から独立させて配備される玉貸機能部(2a、2b)を有するパチンコ機のカード式球貸機構において、カード(21)の投入を受け付けるカード挿入口(7)と、前記カード挿入口(7)で受け付けられたカード(21)の金額又は球数の金額価値を読み取るカード読取装置(11)と、前記パチンコ機(1a、1b)へのデータ送信を指令する金額選択操作部(10)と、前記金額選択操作部(10)の操作があると、前記カード読取装置(11)で読み取られたカードの金額価値の範囲内でその金額価値に応じた数量の球を該パチンコ機(1a、1b)前面の受皿(25)に送信するデータ送信部と、前記カード読取装置(11)で読み取られたカード(21)の金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部を備えるパチンコ機のカード式球貸機構」が記載されていると認められる。
(6-2-3)本件考案の出願当時の技術水準及び周知技術について
(i)パチンコ等の遊技機の近傍にカード発行機及びカード処理機を設置することは本件出願当時の技術常識である。
これは、例えば、請求人が提出した特開昭63-122483号公報(甲第3号証)、実開昭52-164976号公報(甲第4号証)、特開昭63-294878号公報(甲第5号証)、特開昭63-24968号公報(甲第6号証)から明らかである。
殊に、特開昭63-122483号公報(甲第3号証)にあっては、遊技機の管理装置として、遊技機(20)の近傍に、カード処理機(30)とカード発行機(40)と制御部(50)を備え、貨幣及び紙幣の使用によるカード(10)の発行、カード(10)の貨幣価値の読取りによる貸球、及びゲームが行われるものが開示されている。
(ii)パチンコ遊技システムにおいて、所定金額を満たす場合にカードを発行することは周知の技術的事項である。
これは、例えば、請求人が提出した特公昭49-235号公報(甲第11号証)、特開昭52-80934号公報(甲第12号証)、特開昭52-143131号公報(甲第13号証)、特開昭53-19235号公報(甲第14号証)、特開昭61-143085号公報(甲第15号証)、特開昭62-60578号公報(甲第16号証)から明らかである。
(6-3)対比・判断
本件考案と甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案とを対比すると、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)における「パチンコ機(1a、1b)」「カード挿入口(7)」及び「カード読取装置(11)」は、それぞれ本件考案における「ゲーム機」「カード投入口」及び「カード読取器」に相当し、また、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)における「カード(21)」及び「カード式玉貸機構」は、カード(21)に情報書込部(22)を有して発行時の金額などが書き込まれて発行され、使用時などに読み取られるものであるから、本件考案における「プリペイドカード」及び「プリペイドカード処理装置」に相当するものと認められる。
したがって、両者は、以下のとおりの一致点及び相違点を有する。(なお、段落符号A?H’は、便宜上付加した。)
(一致点)
「A.近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、
E.プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、
F.前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、
G.前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、
H’.前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすとき前記データ送信部を動作可能とする制御部と
を備えて成るプリペイドカード処理装置。」
(相違点)
プリペイドカード処理装置として、
本件考案にあっては、
B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
を備え、
H’.制御部が、前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とするものである、のに対し、
甲第2号証にあっては、そのようなプリペイドカードの発行機構は備えておらず、そのための制御部を具備するものではない点、
(検討)
前記相違点について、以下検討する。
前記甲第1号証(特開昭63-168195号公報)には前記摘記したとおりの技術的事項が記載されており、これらの記載における「コイン投入口(102)、紙幣挿入口(103)」「紙幣識別器(111)」「電子カード」「カード発行装置(113)、カード発行口(107)」及び「制御装置(114)」は、それぞれ本件考案における「貨幣投入口」「貨幣処理部」「プリペイドカード」「カード発行部」及び「制御部」に対応させることができるから、この甲第1号証(特開昭63-168195号公報)には、プリペイドカードの発行機構と持ち玉の追加購入機構を備えた、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備される追加購入装置(100)が開示されており、その構成として、
B.貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
C.前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
D.投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
H’.制御部が、前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記カード発行部を動作可能とする、
ものが記載されていると認められる。(なお、被請求人は、甲第1号証(特開昭63-168195号公報)のものは、本件考案における構成要件A、E、F、G、Hを備えていない、すなわち構成要件B、C、Dの構成を開示するものと自認している[口頭審理陳述要領書]。)
そして、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案のカード式球貸機構(プリペイドカード処理装置)と甲第1号証(特開昭63-168195号公報)に記載された追加購入装置(100)は、いずれも近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備する球あるいはメダルの貸機構であり、貸球(貸メタル)装置として共通する技術(当事者間に争いがない[口頭審理調書]。)であり、また貨幣及び紙幣の使用によるカード(10)の発行とカード(10)の貨幣価値の読取りによる貸球及びゲームに係わる前記甲第3号証(特開昭63-122483号公報)等に見られる技術常識乃至周知技術を参酌すると、当業者においては甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案のプリペイドカード処理装置に甲第1号証(特開昭63-168195号公報)に記載された上記プリペイドカードの発行機構を併せ備えるようになすことに格別な困難性を要するものとは認められない。さらに、制御部について、一の装置の制御部に複数の制御機能を持たせることは自明の技術的事項であり、本件考案におけるように「貨幣」と「プリペイドカード」を一の装置として取り扱うように構成するにあたっては当該制御部に複数の制御機能(すなわち、「貨幣」と「プリペイドカード」に係わる制御機能)を併せて具備させることも当業者が当然考慮する技術的事項であり、また、本件考案における制御部が「投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、」となす技術的意義は、単に一方を「動作可能とせず」、すなわち、一方を動作させないものの他方は動作可能とするとの、排他的・選択的な動作を行わせることの趣旨(答弁書及び口頭審理陳述要領書)であって、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)と甲第1号証(特開昭63-168195号公報)との組み合わせに際し、制御部を排他的・選択的な動作の組み合わせとして構成することが出来ないなど、両者の組合せに技術的困難性があるものとは認められず、制御部の制御機能として当業者が適宜に定めうる設計上の事項と認められる。
してみると、本件考案の構成は、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案のプリペイドカード処理装置に甲第1号証(特開昭63-168195号公報)に記載されたプリペイドカードの発行機構を付加させることにより当業者がきわめて容易になしうるものと認められる。
また、本件考案が奏する作用効果も、甲第2号証(特開昭63-102783号公報)及び甲第1号証(特開昭63-168195号公報)に記載された考案のものが奏し得るそれぞれの事項に基づいて予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。
(6-4)被請求人の主張について
被請求人(実用新案権者)は、前記甲第2号証(特開昭63-102783号公報)に記載された考案のプリペイドカード処理装置に甲第1号証(特開昭63-168195号公報)に記載されたプリペイドカードの発行機構を併せ備えるようになすことに格別の困難性を有する旨、概要、以下のとおり主張している。
(i)答弁書において
・「本件考案における構成の困難性は、同じ一台の機械で、貨幣の投入に対するプリペイドカードの発行と、プリペイドカードの投入に対するゲーム機へのデータ送信とを行うようにした点にある。すなわち、組となるゲーム機へ単に貸出を行うだけであれば、貨幣の投入に対してゲーム機へ直接、データ送信を行えば済むところのものを、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなく、プリペイドカードをわざわざ発行し、そのプリペイドカード(他で発行されたプリペイドカードも含む。)を受け付けたときだけゲーム機へデータ送信を行うように構成しているのである。何故、現金により直接データ送信(貸出)を行わずに、プリペイドカードを用いるようにしたかといえば、経理の透明性を担保するためであり、現金による追加購入でなく、プリペイドカードの発行(追加発行も含む。)という点が着想として斬新であり、構成に困難性がある。
甲第1号証に記載の追加購入装置は、貨幣の投入により持ち玉の追加投入(玉貸)が行えるように構成されたものである。そのような現金による玉貸機能を特徴にもつ装置に、現金(硬貨回収機構)を用いないようにすることを発明の目的とした甲第2号証を組み合わせることは明らかに矛盾しており、電子カードによる玉貸機能を付加するようなことは常識的に考えられない。従って、甲第1号証に甲第2号証を適用することは当業者がきわめて容易になし得ることではない。」(第7頁第9?末行)
(ii)陳述要領書において
・「甲第1号証に記載の「台間機」は、玉貸を必要としない持ち玉記録式パチンコ遊技機に関わるものであり、貨幣を投入して持ち玉数を追加購入する追加購入装置であり、他方、甲第2号証に記載の「カード式球貸機構」は、球貸を必要とするパチンコ機に関わるものであり、パチンコ機の近傍で貨幣を投入して玉貸を行うことが、パチンコ機列の内部の複雑化、硬貨の紛失、盗難のおそれがあるとして、貨幣を扱わずに玉貸を行うためのものである。
従って、甲第2号証のカード式球貸機構と甲第1号証の追加購入装置とは機能や解決すべき課題が相容れないものであるから、これらを組み合わせることはできない。」(第13頁第13?22行)
・「甲第2号証に記載のカード式球貸機構は、近接するゲーム機と組になった前記ゲーム機と独立したプリペイドカード処理装置である、と言えないこともないが、甲第2号証のカード式球貸機構は、貨幣を取扱わないことにカード使用の目的があるプリペイドカード処理装置である。従って、甲第2号証に記載の考案には、貨幣の投入を受け付けてカードを発行する機能を持たせるという技術思想は全く存在しない。
甲第1号証の追加購入装置は、貨幣の投入に対して持ち玉数を既存のカードに記録するのが本来の機能であり、その前提として使用時には必ず既存のカードが使用可能状態でパチンコ遊技機に挿入されている。仮に議論のために、パチンコ遊技機と別体の追加購入装置がカードの挿入を受け付けるように構成されたと仮定すると、カードの持ち玉数がゼロになったとき、追加購入装置では貨幣の投入に対しては追加の持ち玉数を同装置に挿入されている既存のカードに書き込むことになるので、既存のカードが使用可能状態で挿入されていながら、新規にカードを発行する必要性は全くない。甲第1号証には、追加購入装置が新規カードの発行機能を併せもつことが記載されているが、追加購入装置がカードを受け付けて読み取る機能をも有するものと仮定した場合に、同装置が新規カード発行機能をも当然有する必要がある、とする技術的根拠は存在しない。
要するに、甲第1号証と甲第2号証とを組み合わせて本件考案を想到するというのは単なる後知識の主張であり、甲第1号証と甲第2号証とは各々単独でも、また両者を組み合わせても、プリペイドカード処理装置にカードの発行機能を持たせるという本件考案の特徴を示唆するものではない。
さらに、もし、貨幣を投入して組となるゲーム機での遊技を継続するだけであれば、貨幣の投入に対しゲーム機へ直接データ送信を行えば済むところ、本件考案は、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなく、必ずプリペイドカードを発行するように構成している。貨幣の投入に対して直ちに球貸のためのデータ送信を行わず、必ずプリペイドカードの発行を介在させることにより、遊技店における経理の透明性を確保できるのである。」(第14頁第12行?第15頁第14行)
(iii)上申書において
・「(3)甲第1号証に記載のものは、パチンコ遊技機でカードを受け付け、しかも、追加購入装置で持ち玉の追加購入が可能となっているから、この追加購入装置にわざわざカードを受け付けてパチンコ遊技機へ玉貸を行う機能を付加することは、球貸が2系統から行われることになって無意味であり、その必要性がない。従って、甲第1号証に記載の追加購入装置に甲第2号証に記載のカード式球貸機構を適用することは、当業者といえども、きわめて容易になし得ることではない。
(4)また、甲第2号証に記載のものは、本来、貨幣を用いずにカードによって玉貸が行えるように構成されたもであるから、このカード式球貸機構に貨幣を用いる必要がある持ち玉の追加購入機能やカード発行機能を付加する必然性は全くない。従って、甲第2号証に記載のカード式球貸機構に甲第1号証に記載の追加購入装置を適用することは、当業者といえども、きわめて容易になし得ることではない。」(第2頁第12?24行)
(検討)
しかしながら、上記主張について、前記したように甲第1号証記載のものと甲第2号証記載のものは共に貸球(貸メタル)装置として共通する技術であり、その貸球(貸メタル)の具体的構成は「現金(貨幣)」による貸球(貸メタル)と「プリペイドカード」による貸球(貸メタル)であって、「現金(貨幣)」及び「プリペイドカード」はいずれも所定の金額価値を有するものとして球(メタル)に交換され、ゲームを行うために使用されるものであるから、これらを組合せ或いは適用することに貸球(貸メタル)装置として何ら障碍はないものである。また、被請求人は甲第2号証のものが「現金(貨幣)」使用による不都合を解消することを目的とするものであることを両者の組合せに係る阻害要因として主張しているが、甲第2号証における「現金(貨幣)」使用の不都合は「硬貨」の取扱に係わるものであって全ての「現金(貨幣)」(例えば、紙幣のみ)を前提とする不都合に係るものではないこと、また本件考案においても「現金(貨幣)」を用いる(本件の実施例を参酌すると、「紙幣」のみの使用である。)ものであるから、この点についても組合せに係る阻害要因になるものとは認められない。さらに、データ送信について、「貨幣を投入して組となるゲーム機での遊技を継続するだけであれば、貨幣の投入に対しゲーム機へ直接データ送信を行えば済むところ、本件考案は、貨幣の投入に対してはデータ送信を行うことなく、必ずプリペイドカードを発行する」(陳述要領書)としているが、後記作用効果との関連性などを考慮しても、制御機能として送信指令用の押釦スイッチを必要とする構成、前記したような甲第3号証(特開昭63-122483号公報)に見られる構成、及び技術常識や周知技術を斟酌すると、これに係わる構成についても当業者が適宜に定める設計上の事項であると認められる。
そして、プリペイドカードの使用のみによるパチンコホールにおける経理に透明化を図れる等の作用効果は、カードを使用することを構成とする甲第2号証記載のものも奏し得ることであって、本件考案における格別なものとは認められない。
したがって、被請求人(実用新案権者)の当該主張はいずれも採用することができない。
(6-5)まとめ
以上のとおりであって、訂正された本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、訂正された本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものである。

【7】むすび
以上のとおりであるから、本件実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項によってさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
プリペイドカード処理装置
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、
貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、
前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、
投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、
プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、
前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、
前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、
前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部とを備えて成るプリペイドカード処理装置。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、スロットマシンに用いられるメダルやパチンコゲーム機に用いられるパチンコ玉を貸し出すための貸出機などに適用されるプリペイドカード処理装置に関連し、殊にこの考案は、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えばスロットマシンは、メダル投入口へメダルを投入することにより、毎回のゲームが開始される仕組みのゲーム機である。この種のメダルは、一定の金額(例えば100円)につき一定枚数(例えば5枚)が貸し出されるもので、通常は遊戯場の随所に設置されたメダル貸出機により貸出が行われている。従って遊戯者は、まずメダル貸出機でメダルの貸出を受けた後、いずれか機械を選択した上でゲームを楽しむことになる。
近年、この種メダル貸出機として、プリペイドカードを用いることが可能な機種が提案され、遊戯者は景品交換所で1枚以上のプリペイドカードを購入し、そのプリペイドカードをメダル貸出機のカード投入口へ投入することにより、メダルの貸出を受けている。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながらプリペイドカードを使い切ってしまった場合、遊戯者はその都度景品交換所へ足を運んでプリペイドカードを購入することが必要となる。このため遊戯者はスロットマシンとメダル貸出機と景品交換所との間を往復することになって煩雑であり、客サービスに欠けるという問題がある。
【0004】
上記の問題を解決するものとして、プリペイドカードの発行機をゲーム機に隣合わせて配備すると共に、ゲーム機本体にプリペイドカードの受付けおよび処理機構を設け、プリペイドカードの投入により所定の遊戯媒体をゲーム機にセットするようにしたものが存在する(特開昭63-168195号公報)。この構成によれば、遊戯者はプリペイドカードの購入のために席を立つ必要がないばかりでなく、購入したプリペイドカードをゲーム機に投入して直ちにゲームを行うことが可能となり、前記した煩雑さから解放される。
しかしながら、近年の遊戯場ではゲーム機のモデルチェンジが頻繁に行われるため、上記の構成の場合、新たに設置するゲーム機にも同様のプリペイドカードの処理機構を設ける必要が生じ、制作手数がかかり、コスト高となる。また取り換えられたゲーム機が廃棄されたり、再利用されたとき、そのゲーム機からプリペイドカードに関する情報が外部に流出して悪用される虞があり、管理を強化しなければならないという問題も生じる。さらに使用中にカード詰まりなどの故障が生じると、ゲーム機本体の使用も不可能となり、営業収益の損失につながるという問題もある。
この考案は、上記問題に着目してなされたもので、プリペイドカードの発行機能と受付機能と隣接するゲーム機へのデータ送信機能とを具備させることにより、客サービスの向上に加えて、ゲーム機の交換やカード詰まりなどの故障に伴う不都合を解消したプリペイドカード処理装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この考案は、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させて配備されるプリペイドカード処理装置において、貨幣の投入を受け付ける貨幣投入口と、前記貨幣投入口で受け付けられた貨幣を取り込んで投入金額を判別する貨幣処理部と、投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードを発行するカード発行部と、プリペイドカードの投入を受け付けるカード投入口と、前記カード投入口で受け付けられたプリペイドカードの金額価値を読み取るカード読取器と、前記カード読取器で読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータを前記ゲーム機へ送信するデータ送信部と、前記貨幣処理部で判別された投入金額が所定の金額条件を満たすとき前記データ送信部は動作可能とせず前記カード発行部を動作可能とし、前記カード読取器で読み取られたプリペイドカードの金額価値が所定の価値条件を満たすときにのみ前記データ送信部を動作可能とする制御部とを備えたものである。
【0006】
【作用】
貨幣投入口へ貨幣を投入すると、貨幣処理部は投入された貨幣を取り込んで金額を判別し、投入金額が所定の金額条件を満たすとき、その投入金額に応じた金額価値のプリペイドカードがカード発行部より発行される。一方、カード投入口へプリペイドカードを投入すると、カード読取器によりプリペイドカードの金額価値が読み取られ、その金額価値が所定の価値条件を満たすとき、読み取られた金額価値またはその金額価値に応じたゲーム実行可能回数に関わるデータがゲーム機へ送信される。
【0007】
【実施例】
図1は、遊戯場の設置台1上に、この考案が実施されたメダル貸出機2とスロットマシン3とを交互に整列配置した状況を示している。
各スロットマシン3は、3個のリール4a,4b,4cを持ち、機械の前面には図柄表示部5,メダル貸与枚数表示器6,メダル投入口7,始動レバー8,3個の停止釦スイッチ9,ゲーム釦スイッチ10,精算釦スイッチ11,メダル受け皿12などがそれぞれ配備されている。
【0008】
図柄表示部5は各リール4a,4b,4cの周面に設けられた図柄を所定の停止ラインに沿い整列して表示する部分であり、この図柄表示部5より内部の各リール4a,4b,4cの回転状況が透視できると共に、リール停止時、各リール周面の3駒分の図柄が確認できるようになっている。
【0009】
始動レバー8は3個のリールを一斉始動させるためのもの、3個の停止釦スイッチ9は対応するリールを個別に停止させるためのものである。メダル投入口7はメダルの投入を受け付ける部分であり、メダル受け皿12は精算時などにメダルの放出を受ける部分である。
【0010】
この実施例では、ゲームの開始に先立ち、手持ちの任意枚数のメダルを予め機械に投入するか、或いはメダル貸出機2からメダル枚数データを転送することにより機械にメダルを貸与しておき、毎回のゲームに際してゲーム釦スイッチ10を押操作することにより貸与メダルを消費してゲームを実行する方式(「クレジット方式」という)を採用している。従って前記ゲーム釦スイッチ10はゲームの実行に際して、メダルの消費枚数に応じた回数分だけ押操作されることになる。
【0011】
メダル貸与枚数表示器6は機械に貸与しているメダル枚数を表示し、精算釦スイッチ11は貸与したメダルを精算してそのメダルをメダル受け皿12へ放出させる。
【0012】
図2は、メダル貸出機2の外観を示しており、機械の前面には、カード投入口13,残金表示器14,送信指令用の押釦スイッチ15,カード放出口16,貨幣投入口17などがそれぞれ設けられている。
【0013】
カード投入口13はプリペイドカードの投入を受け付ける部分であり、このカード投入口13に対応する機械の内部にはカード処理部(図示せず)が設けられている。このカード処理部は、投入されたプリペイドカードを搬出入するためのカード搬送機構、プリペイドカードにエンコードされた金額価値を読み取るためのカード読取器18(図5に示す)などで構成される。
【0014】
残金表示器14はプリペイドカードの投入時の金額価値から消費された金額価値を差し引いた残りの値(残金)を表示する。送信指令用の押釦スイッチ15は一定の金額に相当するメダル枚数(例えば50枚分)データを特定(例えば左隣)のスロットマシン3へ送信することを指令するためのものである。なお、この送信データは金額データであってもよく、この場合はスロットマシン3の側で全額をメダル枚数に変換する。
【0015】
貨幣投入口17は紙幣の投入を受け付けるための部分、またカード放出口16は発行したプリペイドカードを放出するための部分である。この実施例では、所定金種の紙幣(例えば1000円紙幣)のみを受け付けて、所定の金額価値(1000円)のプリペイドカードを発行するようになっている。前記貨幣投入口17に対応する機械の内部には図4に例示する貨幣処理部19が、また前記カード放出口16に対応する機械の内部には図3に例示するカード発行部20が、それぞれ設けられている。
【0016】
図3に示すカード発行部20は、箱状をなすケース21と、このケース21の下面開口部に配備されるカード繰出機構22とで構成される。ケース21内には多数枚のプリペイドカード23が積層状態で収容され、この積層体上にはカードを下方へ付勢するための適当な重量の錘板24が配備される。前記カード繰出機構22は一対のローラ25,26間にベルト27を装着し、一方のローラにモータ(図示せず)を連繋して成る。プリペイドカードの積層体はベルト27上に支持され、このベルト27を矢印方向へ走行させると、最下位のプリペイドカードがカード放出口16へ繰り出される。
【0017】
図4に示す貨幣処理部19は、紙幣搬送機構28を有し、この紙幣搬送機構28は、一対のローラ29,30間にベルト31を装着し、一方のローラに図示しない駆動モータを連繋して成る。紙幣搬送路沿いには複数のガイドローラ32と、1000円紙幣を判別するための紙幣判別器33と、貨幣投入口17への紙幣の投入を検知する第1の光電センサ34と、紙幣判別器33への紙幣の到達を検知する第2の光電センサ35とが配備され、この紙幣搬送路の終端、すなわちベルト31の下方位置には紙幣収納空間36が設けられている。なお図中、37は扉であり、この扉37を開放することにより、この紙幣収納空間36に収納された紙幣の取出が可能である。
【0018】
図5は、メダル貸出機2の回路構成例を示すもので、マイクロコンピュータより成る制御部は、制御・演算の主体であるCPU38と、プログラムが格納されるROM39と、ワークエリアとしてのRAM40とを備えている。前記CPU38にはI/Oポート41,11を介して前記光電センサ34,35などのセンサ群42,送信指令用の押釦スイッチ15,残金表示器14,カード読取器18,紙幣判別器33,カード繰出機構22,紙幣搬送機構28,送信部43などが接続される。
【0019】
前記送信部43は、カード投入口13より投入されたプリペイドカードの金額価値が1000円以上のとき、または貨幣投入口17より投入された紙幣が1000円以上の紙幣であるとき、CPU38の制御の下に、前記送信指令用の押釦スイッチ15の押操作に応答して、1000円に相当するメダル枚数データを左隣のスロットマシン3の制御回路部へ送信する。
【0020】
図6は、他の実施例にかかるメダル貸出機2の外観を示している。この実施例は、前記実施例が1000円紙幣のみを受け付けかつ1000円のプリペイドカードのみを発行する構成であるのに対し、5000円紙幣や10000円紙幣も受け付け、また押釦スイッチによる選択操作に応じてプリペイドカードを発行せずに1000円に相当するメダル枚数データを転送したり、或いは預け金額に相当する金額価値のプリペイドカードを発行することを可能としたものである。
【0021】
この実施例では、図2に示す各構成に加えて、預け金額表示器44,カード発行用の押釦スイッチ45,転送指令用の押釦スイッチ46などが設けられている。預け金額表示器44は個々の時点の預け金額を表示する。カード発行用の押釦スイッチ45はプリペイドカードの発行を選択するためのもの、また転送指令用の押釦スイッチ46はプリペイドカードを発行せずに1000円に相当するメダル枚数データを転送することを選択するためのものである。
【0022】
図7は、図6に示す実施例のカード発行部20の構成例を示している。図中、21,22はケースおよびカード繰出機構であって、図3に示すものと同様の構成である。カード繰出方向にはカード放出口16に連通するカード搬送機構47が設けられ、そのカード搬送路沿いには預け金額に相当する金額価値をエンコードするための書込ヘッド48が配備されている。
【0023】
なお、図6に示す実施例で付加された構成、すなわちカード発行用の押釦スイッチ45,転送指令用の押釦スイッチ46,預け金額表示器44,カード搬送機構47,書き込みヘッド48は、図5においては、破線のブロックで示してある。
【0024】
図8は、図2の実施例におけるCPU38によるメダル貸出機2の制御手順を示す。
同図のステップ1(図中「ST1」で示す)において、CPU38はプリペイドカードがカード投入口13へ投入されたか否かを判別しており、その判定が「YES」であれば、つぎのステップ2で図示しないカード搬送機構を駆動させてプリペイドカードを取り込み、カード読取器18がそのカードの金額価値を判別する。
【0025】
その金額価値が1000円以上であれば、ステップ3の「残金ありか?」の判定が「YES」となり、CPU38はその金額をRAM40の所定の記憶エリアに記憶させると共に、残金表示器14に残金を表示させる。もしステップ3の判定が「NO」であれば、ステップ5へ進み、プリペイドカードをカード投入口13へ返却させる。
【0026】
ステップ6は、送信指令用の押釦スイッチ15が押されたか否かを判別しており、その判定が「YES」であれば、1000円に相当するメダル枚数データをRAM40の送信エリアに書き込み、その書込データを送信部43より左隣のスロットマシン3の制御回路部へ送信する(ステップ7)。つぎのステップ8ではCPU38はプリペイドカードの残金から1000円を差し引いて新たな金額価値(残金)を算出してRAM40に記憶させる。もし残金が1000円以上あれば、つぎのステップ9の判定は「YES」であり、ステップ4に戻って残金表示器14の表示内容を変更し、送信指令用の押釦スイッチ15の押操作に待機する。
【0027】
つぎにプリペイドカードが投入されずに1000円紙幣が貨幣投入口17へ投入された場合、ステップ1の判定が「NO」、ステップ10の判定が「YES」となり、CPU38はつぎのステップ11で紙幣搬送機構28を駆動させて紙幣を取り込み、紙幣判別器28がその紙幣の真偽や金種を判別する。
【0028】
もし1000円紙幣であれば、ステップ12の判定が「YES」となり、CPU38はカード発行部20のカード繰出機構22を駆動して、1000円のプリペイドカードをカード放出口16へ放出させる(ステップ13)。もし1000円以外の紙幣であれば、ステップ12の判定が「NO」であり、投入紙幣は貨幣投入口17へ返却させる。(ステップ14)。
【0029】
かくして遊戯者は、そのプリペイドカードをそのメダル貸出器2または他のメダル貸出器2のカード投入口13へ投入することにより、所望のスロットマシン3でゲームを開始することになる。
【0030】
図9および図10は、図6に示す実施例におけるCPU38による制御手順を示すが、プリペイドカードがカード投入口13へ投入された場合の制御手順(ステップ1?ステップ9)は図8と同様であり、ここではその説明は省略する。
【0031】
いま貨幣投入口17へ任意の紙幣が投入されると、ステップ10の判定が「YES」となり、CPU38はステップ11で紙幣搬送機構28を駆動させて紙幣を取り込み、紙幣判別器28がその紙幣の真偽や金種を判別する。
【0032】
もし投入紙幣が1000円紙幣、5000円紙幣、10000円紙幣のいずれかであれば、ステップ12の判定が「YES」となり、CPU38は預け金額表示器44にその金額を表示させるが、もしステップ12の判定が「NO」であれば、投入紙幣は貨幣投入口17へ返却される。(ステップ14)。
【0033】
つぎのステップ15はカード発行用の押釦スイッチ45が押されたか否か、ステップ18は転送指令用の押釦スイッチ46が押されたか否かを判別しており、もしステップ15が「NO」、ステップ18が「YES」であれば、CPU38はステップ19で1000円に相当するメダル枚数データをRAM40の送信エリアに転送し、つぎのステップ20で投入紙幣の金額より1000円を差し引いて預け金額を新たに算出し、その値をRAM20の所定エリアに記憶させる。
【0034】
つぎのステップ21は送信指令用の押釦スイッチ15が押されたか否かを判別しており、その判定が「YES」であれば、CPU38は1000円に相当するメダル枚数データを送信部43より特定のスロットマシン3の制御回路部へ送信する(ステップ22)。そして預け金額が存在する場合、つぎのステップ23が「YES」となり、ステップ13へ進み、CPU38は預け金額を預け金額表示器44に表示させてつぎの押釦操作に待機する。
【0035】
つぎにカード発行用の押釦スイッチ45が押されると、ステップ15が「YES」となり、CPU38はカード発行部20のカード繰出機構22を駆動させ、書込ヘッド48により預け金額に相当するプリペイドカードを発行させ、カード放出口16へ放出させる(ステップ16)。この場合はつぎのステップ17の「預け金ありか?」の判定は「NO」となる。
【0036】
もし紙幣投入直後にカード発行用の押釦スイッチ45が押されると、ステップ15からステップ16へ進み、この実施例ではCPU38はカード発行部20により1000円のプリペイドカードを発行させる。そして預け金が残っている場合は、ステップ17からステップ13へ戻るが、この段階で引続きカード発行用の押釦スイッチ45が押されると、CPU38は書込ヘッド48を駆動して預け金額に相当するプリペイドカードを発行させる(ステップ16)。なお紙幣投入直後にカード発行用の押釦スイッチ45が押されたとき、投入金額に相当するプリペイドカードを直ちに発行するように構成できることは勿論である。
【0037】
【考案の効果】
この考案は上記の如く、近接する特定のゲーム機と組にして前記ゲーム機から独立させてプリペイドカード処理装置を配備し、このプリペイドカード処理装置によりプリペイドカードの発行を行うとともに、発行されたプリペイドカードを受け付けてその金額価値またはそれに応じたゲーム実行可能回数に関わるデータをゲーム機に送信するようにしたから、遊戯者はプリペイドカードの購入や使用のために席を立つ必要がなくなり、客サービスを向上できる。
またプリペイドカードの購入や使用をゲーム機と独立した装置で行うので、ゲーム機が入れ換えられた場合もデータを送信するための信号ラインの結合を行うだけですみ、ゲーム機のモデルチェンジに伴うコストが削減できる上、プリペイドカードに関する情報の流出が避けられる。
さらにプリペイドカード処理装置が故障した場合も、ゲーム機の使用は可能であるため、営業収益を保持できるなど、幾多の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この考案が実施されたメダル貸出器の配置状況を示す正面図である。
【図2】
この考案が実施されたメダル貸出器の外観を示す正面図である。
【図3】
カード発行部の構成を示す断面図である。
【図4】
貨幣処理部の構成を示す説明図である。
【図5】
メダル貸出器の回路構成例を示すブロック図である。
【図6】
メダル貸出器の他の実施例を示す正面図である。
【図7】
図6の実施例におけるカード発行部の構成を示す説明図である。
【図8】
図2の実施例の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】
図6の実施例の制御手順を示すフローチャートである。
【図10】
図6の実施例の制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
2 メダル貸出器
13 カード投入口
15 送信指令用の押釦スイッチ
16 カード放出口
17 貨幣投入口
19 貨幣処理部
18 カード読取器
23 プリペイドカード
43 送信部
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2002-03-25 
結審通知日 2002-03-28 
審決日 2002-04-09 
出願番号 実願平3-4732 
審決分類 U 1 112・ 121- ZA (A63F)
最終処分 成立    
前審関与審査官 柴田 和雄  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 稲葉 和生
片岡 栄一
登録日 1998-05-29 
登録番号 実用新案登録第2578564号(U2578564) 
考案の名称 プリペイドカード処理装置  
代理人 河野 登夫  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 鈴木 由充  
代理人 鈴木 由充  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 河野 英仁  
代理人 中尾 真一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ