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審決分類 審判    G06F
管理番号 1102930
審判番号 無効2003-40006  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2004-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-09 
確定日 2004-07-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第3090068号実用新案「受信器を収納可能な無線入力装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3090068号の請求項1乃至2に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 【1】手続の経緯
本件実用新案登録第3090068号「受信器を収納可能な無線入力装置」は、平成14年5月17日(優先権主張2002年3月21日、台湾(TW))に実願2002ー2873号として出願され、平成14年9月4日にその考案について実用新案の設定登録(請求項の数8)がなされたものである。
これに対して、平成15年4月9日に請求人株式会社ケー・ジー・マークより、本件登録第3090068号実用新案の請求項1乃至2に係る考案についての登録を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成15年10月14日付けで被請求人(実用新案権者)派登科技股▲ふん▼有限公司より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書が提出されたものである。

【2】本件登録実用新案
無効が申し立てられた本件実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至2に係る考案は、設定登録時の請求項1乃至2に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 入力装置と受信器を具え、入力装置が上蓋と底蓋で組成されたケース内に基板、検出セット及び電池が収容されて組成され、受信器が入力装置より伝送された入力信号を受信できる、受信器を収納可能な無線入力装置において、
該入力装置が収容空間を具え、該収容空間に受信器を収容でき、且つ受信器が入力装置の収容空間に収納された後、位置決め機構により位置決め状態を形成することを特徴とする、受信器を収納可能な無線入力装置。
【請求項2】 請求項1に記載の受信器を収納可能な無線入力装置において、基板が電源スイッチを具えたことを特徴とする、受信器を収納可能な無線入力装置。」

【3】審判請求人の主張
(3-1)無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下の証拠方法を提出するとともに、本件請求項1及び請求項2に係る考案についての実用新案登録を無効とすべき理由について、要点、次のとおり主張している。
「本件請求項1及び請求項2に係る登録実用新案は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることのできないものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」
[証拠方法]
(1)甲第1号証 特開平5-100788号公報(平成5(1993)年4月23日公開)
(2)甲第2号証 登録実用新案第3072204号公報(平成12(2000)年10月6日発行)
(3)甲第3号証 特開平10-124250号公報(平成10(1998)年5月15日公開)
(4)甲第4号証 登録実用新案第3078665号公報(平成13(2001)年7月10日発行)
(5)甲第5号証 登録実用新案第3082807号公報(平成14(2002)年1月11日発行)

(3-2)具体的理由の要点
本件審判請求人は、審判請求書において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
「4)本件実用新案登録の考案と証拠に記載された考案との対比
本件実用新案登録の考案の請求項1と甲第1号証とに記載された考案を対比すると、両者は電源の電池を内蔵し、着脱自在の受信器を備えた無線入力装置(ワイヤレスマウス)に関するものである点で一致している。受信器を内蔵する接続コネクタをマウスに着脱自在に設けることが記載されているが、この接続コネクタを収容する入力装置の収容空間について明記されていない点で相異している。
しかし、この相違点は甲第2号証に開示されているように入力装置であるマウスに収容空間を設けること、この収容空間に接続コネクタを不便用時、携帯時にマウス本体内に収容することは本件実用新案登録の出願前から公知公用である。このように甲第1号証の接続コネクタ(受信器を有する)を収容する収容空間を甲第2号証に記載される入力装置に設けることは当業者が極めて容易に考案できたことである。
そうして本件実用新案登録の請求項1にかかわる考案の効果として入力装置が収容空間を具え、入力装置の不使用時に受信器をコンピュータより取り外し、収容空間内に収容でき、使用者にとって便利であるという効果も甲第1号証、甲第2号証の記載から予測できる程度のものにすぎない。
また、請求項2に係る考案について、「請求項1に記載の無線入力装置において基板が電源スイッチを具えたことを特徴とする」ものであるが、請求項1については上記の通りであり、このような無線入力装置の基板に電源スイッチを具えることは甲第3号証に記載されているように周知であり、当業者が必要に応じて任意に実施することができる単なる設計的な選択事項に過ぎない。そして請求項2に係る考案の効果としている入力装置の電源を不便用時に切断することにより使用コストを減らすことも前記周知のものと同じである。
更に、本件実用新案登録の請求項1と同様に無線入力装置であるマウス内に受信器を収容する収容空間を配置したものは上記甲第1号証以外にも多数の刊行物に記載されており周知技術である。例えば、甲第4号証の図22?図25の図面に明記されている。
本件実用新案登録の請求項1の無線マウス受信器と全く同一のものは甲第5号証に記載されており、このような受信器が本件実用新案登録の出願前から公知公用であり、このような受信器をマウス内に収容することは甲第2号証に記載される周知技術から当業者が極めて容易に実施し得た考案である。
5)本件登録実用新案第3090068号について特許庁において実用新案技術評価書が作成されている。この評価書によるとこの請求項1に記載されている考案は、「特開平5-10078号公報と登録実用新案第3072204号公報とにより進歩性が欠如するものである。」であると評価されている。また請求項2の考案は、「特開平5-10078号公報と登録実用新案第3072204号公報および特開平10124250号公報とにより進歩性が欠如するものである。」と評価されている。」(審判請求書第3頁第22行?第5頁第5行)

【4】被請求人(実用新案権者)の主張
(4-1)答弁の概要
被請求人(実用新案権者)は、答弁書において「本件審判の請求は成り立たない。」旨、答弁している。

(4-2)具体的理由の要点
被請求人(実用新案権者)は、答弁書において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
「(イ)甲第1号証(特開平5-100788号公報)に記載の発明は、マウスとコンピュータの間の無線伝送の技術に対するものであり、第2欄第30行から34行(段落0010)には「このコードレス化を達成するため、マウス本体7は従来装置のマウス本体1と異なり、図2に示すようにクリック釦81,8r,ロータリエンコーダ12とともに送信回路13a及び電源用の電池(図示せず)を内蔵する。」と記載されている。
上述のいわゆるクリック釦は電池用の導電手段(電池のプラス極とマイナス極の導電体)とされ、ロータリングはマウスが無線伝送する時の信号発射アンテナとされ、その技術手段は根本的に本件とは無関係である。ゆえに甲第1号証は無線マウスの発射、受信の配置を提示しているだけであり、本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう技術手段及びその達成しようとする目的においていずれも異なる。
(ロ)甲第2号証(実用新案登録第3072204号公報)には「マウス本体内の収納室(収容空間)は、機器に接続する先端のコネクタ部分を含めてコードを収納することができるので、携帯時に便利である。」と記載され、また、「開閉蓋の開閉に伴い、蓋が開くときに自動的にコード先端のコネクタ部が飛び出す構造にすることができる。」と記載されている。しかし有線マウス自体は接続線とその前端のコネクタを具備していなければ、コンピュータとの間で接続線とその前端のコネクタを介して電気的に接続することができない。有線マウスの電源はコンピュータより接続線とその前端のコネクタを介して直接供給されるため、有線マウスには電源供給の問題はなく、受信端と発射端の二種類の分離式部品を形成しえない。ゆえにこの甲第2号証は単純に接続線とコネクタ部分をマウス本体内部に収容したものであり、並びにマウス本体内部空間中にリール形態の機構設計を設けたものである。このような設計と本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう使用状態、技術手段及びその達成しようとする目的においていずれも異なる。
(ハ)甲第3号証(特開平10-124250号公報)には「電源スイッチ103のオン/オフ操作により、内蔵の電池から内部のすべての回路に供給される電源を制御する。」と記載されている。この説明及び第1図より明らかであるが、これはマウスの移動量により電池の電源を提供するかを決定し、ゆえに、光学マウスの未使用時にその電源を消耗する。ゆえに甲第3号証のような設計方式は受信器がコンピュータに接続された状態で使用されるものであり、並びに光学マウスが長時間操作者により移動させられない時に、光学マウスの電力を自動切断させる機能を発生させるものである。このような設計は本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう使用状態、技術手段及びその達成しようとする目的においていずれも異なる。図2の周知の技術中から分かるように、それは無線マウスのケースにスイッチが設けられて、無線マウスを不便用時にケース内部の電池電源を切断するが、ただしこのような方式には無線マウスの受信器収容部分は記載されていない。
(ニ)甲第4号証(実用新案登録第3078665号公報)の図22から図25に示されるマウスの模式図に受信器を収容したマウスが記載されている。しかし、それは中継装置を尚も具え、且つ受信器が無線マウスに結合される時、無線マウス内の電源を切断する機能を具備しておらず、無線マウス内に置かれた電池の節電部分に対しては役に立たない。
(ホ)甲第5号証(実用新案登録第3082807号公報)は被請求人による考案であり、それは受信器の構造設計に対するもので、且つ内容中にコンピュータと自由に接続或いは分離させられる無線マウス受信器の記載はない。ただしこの記載は無線マウスに受信器を収容することのみ詳細に記載され、且つ無線マウスに対して電力切断する特徴に対して詳細な記載はなされていない。その技術手段と本件とは全く関係がない。
(へ)技術評価書中に記載の「特開平5-100788号公報と登録実用新案第3072204号公報とにより進歩性が欠如するものである。」との部分に関して、本件は特に入力装置に収容空間を設け、且つこの収容空間中に基板上に設けた電源スイッチを設け、該収容空間に位置決め機構を利用して受信器を収納し、並びに受信器を入力装置の収容空間内に収納すると同時に電源スイッチの制御ボタンをトリガし、電池の電源を切断し、これにより受信器を入力装置の収容空間中に収納した後に同時に収納と電力切断の機能を具備するようにしたものである。ゆえに、本件の無線入力装置の受信器収容部分は甲第1号証及び甲第2号証に記載されているものの、受信器収納の過程で直接無線入力装置内の電源を切断することについては甲第1号証及び甲第2号証には記載されていない。
さらに、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証を単純に結合させたとしても、このような結合の後には無線マウスの受信器収容部分及びケース上のスイッチ部分が二つの単独の構造体となり、もし使用者が無線マウス中に受信器を収納後に、さらに無線マウスのケースのスイッチ部分に対して切り換える必要がある。使用者がスイッチ切り換えを忘れると、無線マウスは内部の電池電源を切断することができず、且つケース上のスイッチもまた無線マウスの外観を非常に悪くするほか、握持時に快適でなくなる。ゆえに、本件は受信器を収納する過程中に、直接無線入力装置内の電池電源を切断でき、使用上、明らかな便利性を具備し、並びにこのような収容空間中に電池電源を切断できる電源スイッチを設けた構造により、二種類の機能を共に有し、これは甲第1号証乃至甲第5号証を単純に結合させることにより形成される技術特徴ではない。且つ本件の設計は受信器が無線入力装置内に収納された後、直接電池電源を切断するもので、このような構造設計は、使用者が無線入力装置を携帯或いは使用しない時に、僅かに収納の動作を行なうだけで、収納と電力切断の二重の機能を達成するものであり、使用者が無線入力装置の電源を切り忘れる状況を絶対に発生させない。」(答弁書第1頁末17行?第3頁第8行)

【5】当審の判断
(5-1)本件考案
無効が申し立てられた請求項に係る考案は、登録査定時の実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至2に記載された前記【2】記載のとおりのものである。

(5-2)各甲号証記載の事項
請求人が提出した各甲号証に記載された技術的事項は、以下のとおりである。
(5-2-1)甲第1号証(特開平5-100788号公報)
甲第1号証は、コンピュータ装置等のポインティングデバイスとしての「バスマウス装置」に関するもので、その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると、概要、以下のような技術的事項が記載されている。
(i)「【請求項1】移動自在のマウス本体にクリック操作の情報及び移動情報を無線送信する送信回路を設け、コンピュータ装置等の本体装置のマウスコネクタに着脱自在に装着される接続コネクタに前記送信回路の送信情報を受信する受信回路を取付けたことを特徴とするバスマウス装置。」(特許請求の範囲、第1欄第2?6行)、
(ii)「【0008】【作用】
前記のように構成された本発明のバスマウス装置の場合、マウス本体の各情報は本体の送信回路から無線送信されて接続コネクタに取付けられた受信回路により受信され、受信された各情報がマウスコネクタを介して本体装置に取込まれる。
そのため、従来のマウス本体と接続コネクタとの間のケーブルを省いてバスマウス装置が形成される。」(段落【0008】、第2欄第10?17行)、
(iii)「【0009】【実施例】
実施例について、図1ないし図7を参照して説明する。
(第1の実施例)
まず、第1の実施例について、図1ないし図6を参照して説明する。
図1において、7は移動自在のマウス本体、8l,8rはマウス本体7の左,右のクリック釦、9はコネクタ部10がコンピュータ装置等の本体装置のマウスコネクタに着脱自在に装着される接続コネクタ、11は接続コネクタ9を本体装置に固定する固定用の2個のねじである。
そして、マウス本体7と接続コネクタ9とは従来装置のように有線結合されず、コードレス化されている。
【0010】このコードレス化を達成するため、マウス本体7は従来装置のマウス本体1と異なり図2に示すようにクリック釦8l,8r,ロータリエンコーダ12とともに送信回路13a及び電源用の電池(図示せず)を内蔵する。」(段落【0009】【0010】、第2欄第18?34行)、
(iv)「【0025】【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているため、以下に記載する効果を奏する。
マウス本体7に送信回路13a,13bを設け、接続コネクタ9,31に受信回路19,34を内蔵又は有線接続により取付け、マウス本体7のクリック操作の情報,移動情報を接続コネクタ9,31に無線送信してマウス本体7と接続コネクタ9,31との間をコードレス化したため、マウス本体7の移動,操作に伴う従来のケーブルのねじれや引っぱりが発生しなくなるとともに、マウス本体7の収納が接続コネクタ9,31をマウスコネクタから取外したりすることなく極めて簡単に行え、操作性,取扱性が著しく向上する。
しかも、コードレス化によりマウス本体7の周辺から目障りなケーブル(コード)が消え、作業環境が向上する。」(段落【0025】、第4欄第36?50行)
(5-2-2)甲第2号証(実用新案登録第3072204号公報)
甲第2号証は、「コード収納部付マウス」に関するもので、その実施例及び図面とこれに係わる記載を参酌すると、概要、以下のような技術的事項が記載されている。
(i)「マウス本体内の収納室に、機器に接続する先端のコネクタ部分を含めてコードを収納することができるので、携帯時に便利である。」(第6頁第21?23行)、
(ii)「開閉蓋の開閉に伴い、蓋が開くときに自動的にコード先端のコネクタ部が飛び出す構造にすることができる。」(第7頁第10?11行)、
(iii)「以上のように本考案のコード収納部付マウスは、マウスの内部にコード類の接続部及びコネクタ部を収納する収納室を設けることとしたため、コードの先端部分のコネクタや接続部が収納できる。従って、洋服のポケット等に入れて嵩張らず携帯することができ、コネクタが邪魔にならず、コードの傷みも防止することができる。しかも、コード部分のみならず、全体が収納できるからマウスの外観が優美である。
その上、コードが本体ケース内に巻取られるので、マウスの操作時にコードが邪魔にならず、また、余分なコードが乱雑となることなく見た目にもすっきりしたマウスを提供できるという効果がある。」(第11頁第17?25行)、
(iv)「コード収納室を弾性部材を設けて構成したのでコードを自動的にマウス本体内へ収納することができる
さらに、コードを細くしたので実用的な長さを確保しつつマウス本体の内部にコードの先端コネクタ部が収納可能となり持ち運びの際にコネクタ部が邪魔にならず携帯性に優れたマウスを提供することができるという効果がある。」(第11頁第27行?第12頁第2行)、
(5-2-3)甲第3号証(特開平10-124250号公報)
甲第3号証は、「ワイヤレスマウス」に関するもので、その従来技術と図面の図2に係わる記載を参酌すると、以下のような技術的事項が記載されている。
(i)「図2に示すように、電源スイッチ103が操作中に触れない位置に設けられ、この電源スイッチ103のオン/オフ操作により、内蔵の電池から内部のすべての回路に供給される電源を制御するため、操作者が電源スイッチ103を切るという操作をしない限り、多くの電力が消費され、電池の寿命が短くなる。」(第1欄第21?27行)、
(5-2-4)甲第4号証(実用新案登録第3078665号公報)
甲第4号証は、その第10頁図22?25に示されるマウスの模式図に受信器を収容したマウスが記載されている。
(5-2-5)甲第5号証(実用新案登録第3082807号公報)
甲第5号証は、「無線マウス受信器構造」に関するもので、その図面からノートパソコン(1)に着脱自在とした無線マウス受信器(3)が記載されている。

(5-3)対比・判断
(5-3-1)請求項1に係る考案について
本件請求項1に係る考案(以下「本件考案」という。)と前記甲第1号証(特開平5-100788号公報)に記載された考案とを対比すると、甲第1号証における「マウス本体(7)」「受信回路(19)を備えた接続コネクタ(9)」及び「コードレス化したバスマウス装置」は、それぞれ本件考案における「入力装置」「受信器」及び「無線入力装置」に相当する。そして、甲第1号証における「マウス本体(7)」は、「図2に示すようにクリック釦8l,8r,ロータリエンコーダ12とともに送信回路13a及び電源用の電池(図示せず)を内蔵する」(前掲摘示段落【0010】)ものであり、また、例えば、甲第3号証などのマウスのケース構造における当業者の技術常識によれば、この甲第1号証のマウス本体(7)においても、「上蓋と底蓋で組成されたケースを備え、該ケース内に基板、検出セット及び電池が組成されている」ことは明らかである。
したがって、両者は、以下のとおりの一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「入力装置と受信器を具え、入力装置が上蓋と底蓋で組成されたケース内に基板、検出セット及び電池が収容されて組成され、受信器が入力装置より伝送された入力信号を受信できる、無線入力装置。」
(相違点)
本件考案にあっては、無線入力装置が受信器を収納可能なものであつて、入力装置が収容空間を具え、該収容空間に受信器を収容でき、且つ受信器が入力装置の収容空間に収納された後、位置決め機構により位置決め状態を形成するものであるのに対して、甲第1号証にあっては、この構成を有しない点、
(検討)
前記相違点について検討すると、一般的に、入力装置側からコンピュータ側に信号を送る際、該信号の送受信を行う入力装置とコンピュータ装置(受信装置)の間を、無線で行うこと、或いは有線(コード)で行うことは周知慣用技術(甲第1?5号証)であり、該信号の送受信は、無線時にあっては「受信器」、有線(コード)時にあっては「コードとコネクタ」で行うものであり、いずれも当業者における技術常識である。そして、甲第2号証(実用新案登録第3072204号公報)には、この信号の送受信を有線(コード)で行うものではあるが、本件考案における受信器の対応する「コード(6)、接続部(7)、コネクタ(8)」を、「マウス本体(1)」に設けた本体ケース(2)の収納室(3)に収納可能とすること、及び該収納室(3)は「弾性部材を設けて構成」することで「コード(6)、接続部(7)、コネクタ(8)」が収納室(3)へ収納され、取り出し時に容易に取り出すことができるとの開示が認められ、またこの「弾性部材を設けて構成」することで該収納室(3)の「コード(6)、接続部(7)、コネクタ(8)」は取り出し時に「飛び出る」(段落【0012】)のであるから、該「コード(6)、接続部(7)、コネクタ(8)」は位置決め状態が形成されるものであることは当業者に自明の事項と認められる。さらに、甲第1号証及び甲第2号証に開示された技術的事項はいずれもマウスなどのコンピュータに用いる入出力装置であって技術分野が共通するのであるから、甲第2号証に開示されたマウス本体(1)に設けた本体ケース(2)の収納室(3)に収納可能とするような収容空間への収納に係わる技術的事項を参酌して、甲第1号証に収納空間を具える構成とすることができないとする特段の理由も見当たらない。
またこれにより奏する作用効果も、当業者が予測しうる程度のものであって、格別のものとは認められない。
したがって、本件考案のように構成することは前記甲第1号証乃至5号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
(被請求人の主張について)
被請求人(実用新案権者)は、「甲第1号証は無線マウスの発射、受信の配置を提示しているだけであり、本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう技術手段及びその達成しようとする目的においていずれも異なる。」(答弁書(イ)項)、また「この甲第2号証は単純に接続線とコネクタ部分をマウス本体内部に収容したものであり、並びにマウス本体内部空間中にリール形態の機構設計を設けたものである。このような設計と本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう使用状態、技術手段及びその達成しようとする目的においていずれも異なる。」(答弁書(ロ)項)、さらに「件の無線入力装置の受信器収容部分は甲第1号証及び甲第2号証に記載されているものの、受信器収納の過程で直接無線入力装置内の電源を切断することについては甲第1号証及び甲第2号証には記載されていない。」及び「本件の設計は受信器が無線入力装置内に収納された後、直接電池電源を切断するもので、このような構造設計は、使用者が無線入力装置を携帯或いは使用しない時に、僅かに収納の動作を行なうだけで、収納と電力切断の二重の機能を達成するものであり、使用者が無線入力装置の電源を切り忘れる状況を絶対に発生させない。」(答弁書(へ)項)等主張している。
しかしながら、被請求人が甲第1、2号証について主張する「本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう技術手段及びその達成しようとする目的」「本件の受信器が入力装置の収容空間に収納された後、同時に無線マウス内の電源の切断を行なう使用状態、技術手段及びその達成しようとする目的」など、すなわち「電池電源の切断」については、本件(請求項1乃至2に係る)考案の構成として請求項1(乃至2)に規定されておらず、該請求項1(乃至2)に係る考案とは無関係である。また、甲第2号証においては、「接続線とコネクタ部分」を本件考案の「受信器」と対比するものであって、信号の送受信としての技術的意義に格別の差異を有するものではなく、前記したように収容空間への収納に係わる技術的事項を参酌して本件考案のように構成することができないとする特段の理由も認められない。
したがって、被請求人の主張はいずれも採用することができない。

(5-3-2)請求項2に係る考案について
請求項2に係る考案は、前記【2】記載のとおり請求項1を引用するものであって、該請求項1の構成にさらに「基板が電源スイッチを具えた」構成を付加するものであり、該請求項2に係る考案と前記甲第1号証(特開平5-100788号公報)に記載された考案とを対比すると、両者は、前記請求項1における前記相違点を有すると共に、この付加された「基板が電源スイッチを具えた」構成を有する点で、さらに相違するものと認められる。
しかしながら、このさらに相違する付加された構成は、例えば前記甲第3号証に電源スイッチを備えるワイヤレスマウスが開示されており、電源スイッチをどの部分に設けるか、例えば基板や筐体などどのような部分に設けるかは設計上の事項であって当業者が適宜に定めうる技術的事項であるから、この電源スイッチを基板に具えるものとすることは当業者が極めて容易になしうるものと認められる。そして、前記したように請求項1に係る考案は、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、この請求項2に係る考案も同様に当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められる。

(5-4)まとめ
以上のとおりであって、本件実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至2に係る考案は、いずれも甲第1号証乃至5号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、本件実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものである。

【6】むすび
以上のとおりであるから、本件実用新案登録請求の範囲の請求項1乃至2に係る考案についての実用新案登録は、いずれも実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項によってさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-02-16 
結審通知日 2004-02-19 
審決日 2004-03-02 
出願番号 実願2002-2873(U2002-2873) 
審決分類 U 1 121・ 121- Z (G06F)
最終処分 成立    
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 治田 義孝
内田 正和
登録日 2002-09-04 
登録番号 実用新案登録第3090068号(U3090068) 
考案の名称 受信器を収納可能な無線入力装置  
代理人 湯田 浩一  
代理人 竹本 松司  
代理人 手島 直彦  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 魚住 高博  
代理人 小田 治親  

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