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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) E04F
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04F
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04F
管理番号 1108030
審判番号 無効2000-35274  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2005-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-18 
確定日 2004-12-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第2048015号「木質防振床材」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成13年 4月10日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第0233号平成15年 1月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 登録第2048015号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
本件実用新案登録第2048015号は、出願日が昭和60年12月27日である特願昭60-298268号を平成1年3月24日に実用新案登録出願に変更したものであって、平成7年1月23日に設定の登録がなされ、その後、松下電工株式会社 外4名 より無効審判の請求があり(その後、1名取り下げ)、特許庁において無効2000-35274号事件として審理され、平成13年4月10日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。
その後、これに対する審決取消の訴えが審判請求人等によりなされ、東京高等裁判所において平成13年(行ケ)第233号事件として審理され、平成15年1月30日に「特許庁が無効2000-35274号事件について平成13年4月10日にした審決を取り消す。」との判決が言い渡され、当該判決は確定した。
その後、平成15年4月30日に審判被請求人より上申書が提出され、さらに当審より審判被請求人に対して平成15年6月2日付けで審尋書が送付され、平成15年7月1日にそれに対する回答書が提出された。

2.請求人が主張する無効理由の概略
(1)不適法な変更出願
次の(2)、(3)の無効理由の前提として、本件登録実用新案は、「可撓性薄板が仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄め」であるとの構成を付加したこと等によって、原特許出願に係る発明との同一性を欠くものとなったので、不適法な変更出願であり出願日の遡及は認められないものである。
(2)実用新案法第3条第1項違反
本件登録実用新案は、甲第5号証(特開昭63-241264号公報)、甲第6号証(「GBRC」、財団法人日本建築総合研究所、第50号(1988年4月)、第67頁?81頁)、甲第7号証(「電工技術」vol.35,No.4,pp43-52、昭62)のいずれかに記載された考案であり、本件実用新案登録は実用新案法第3条第1項第3号に該当する考案に対してされたものである。
(3)実用新案法第3条第2項違反
本件登録実用新案は、甲第5号証乃至甲第8号証(特開昭62-156471号公報)記載の考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであり、本件実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。

3.確定判決
上記判決において、変更出願が適法であったか否かについて、次のように判示された。(なお、判決の中で甲号証は裁判事件における証拠を指す。)
『1 「可撓性薄板が仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」であるとの構成の付加に基づく主張について
(1) 原告らは,本件出願につき,当初明細書に記載のなかった,可撓性薄板の厚さと仕上板及び木質床化粧板の厚さとの関係,を本件実用新案登録請求の範囲に加入したことにより,当初発明と本件考案との同一性が失われたから,本件出願の出願日が本件原特許出願の日まで遡及することはない,と主張する。
特許出願人は,その特許出願を実用新案登録出願に変更することができ,出願変更があったときは,その実用新案登録出願は,その特許出願の時にしたものとみなす,とされている(平成5年法律第26号による改正前の実用新案法8条)。このように出願変更による実用新案登録出願の出願日が特許出願の日まで遡及するとされたのは,原特許出願に係る発明と,変更出願に係る考案との間に同一性があることを前提として,このような場合には,第三者に不測の損害を与えるおそれがないと考えられたためである。原特許出願に係る発明と変更出願に係る考案との間に同一性が認められない場合には,上記前提を欠き,第三者に不測の損害を与えることになるから,原特許出願の出願時への出願日の遡及は認められない,と解すべきである。
(2) 可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板の厚さについての本件明細書及び当初明細書の記載
ア 本件明細書には,可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板の厚さにつき,次の記載がある(甲第4号証)。本件明細書には,これらの記載以外に,可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板の各厚さについての記載はない。
○1(以下、○1,○2はそれぞれ丸数字のことである。) 「任意の緩衝板上において,貫通あるいは半貫通のスリツトが所定間隔で設けられた仕上板上に,合成樹脂シート等よりなり,仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が,順次,積層貼着され,所定の形状,寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材」(実用新案登録請求の範囲)
○2 「第5図は,緩衝板1の厚さが10mmの場合の例で,第6図は緩衝板1の厚さが25mmの場合の例である。その他の仕様は第5図,第6図共通で仕上板3の厚さ9mmの合板上に,貫通パラレル型のスリツト4を,幅1mmで100mm間隔で設刻し,仕上板3の弾性ある可撓性合成樹脂シート5の厚さを1mm木質床化粧板6の厚さを6mmとした。」(実施例・甲第4号証3頁6欄40行?4頁7欄3行)
イ 当初明細書には次の記載がある(甲第5号証)。当初明細書には,これらの記載以外に,可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板の各厚さについての記載はない。
○1 「1.建造物の床基台11上に無機質繊維板或いは弾性ある樹脂板等よりなる所定の厚さの緩衝板1を敷設し,その上に貫通或いは半貫通のスリット4を所定の間隔に設置した合板,パーティクルボード等よりなる仕上板3を密設し,更にその表面にアスファルト紙,樹脂シート等の可撓性薄板5を貼着したことを特徴とする乾式防振床。
2.主な繊維方向を横方向にそろえて作った無機質繊維板或いは弾性ある樹脂板等よりなる所定の厚さの緩衝板1の端部或いは継目に,主な繊維方向が縦方向の無機質繊維製の細帯片2或いは端部細帯片7を密実に挿入した緩衝板1を建造物の床基台11上に敷設し,その上に貫通或いは半貫通のスリット4を所定の間隔に設置した合板,パーティクルボード等よりなる仕上板」(特許請求の範囲)
○2 「第4図は緩衝板1の厚さ10mmの場合の例で,第5図は緩衝板1の厚さ25mmの場合の例である。その他の仕様は第4図,第5図共通で仕上板3の厚さ9mmの合板上に,スリット4は貫通パラレル型で幅1mmを100mm間隔で設刻し,仕上板3上の可撓性樹脂シート5は厚さ1mmであった。」(実施例・甲第5号証3頁左上欄下から2行?右上欄5行)
(3) (2)イで認定したとおり,当初明細書の特許請求の範囲には,可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板の厚さについての記載はない。
当初明細書の発明の詳細な説明中には,実施例として,乾式防振床の各層の厚さについて仕上板9mm,可撓性樹脂シート(可撓性薄板)1mm(第4図,第5図共通の説明),緩衝板10mm(第4図の説明),25mm(第5図の説明)との具体的な数値が記載されているものの,木質床化粧板の厚さについての数値の記載はなく,各層の厚さについての一般的な説明も,各層の厚さの関係についての説明もない。
上記実施例に記載された厚さ9mmの仕上板と厚さ1mmの可撓性薄板との関係についてみると,事実としては,可撓性薄板は仕上板より「多分に薄目」である,と一応はいうことができる。しかしながら,上記実施例中の「9mmの仕上板と1mmの可撓性薄板」は,当該実施例におけるそれぞれの層の厚さを単に事実として表しているにすぎず,それ自体からは,相互の厚さの関係が有する技術的意味は何も出てこない。したがって,「9mmの仕上板と1mmの可撓性薄板」の相互の厚さの関係については,仕上板が可撓性薄板の5倍以上の厚さであるという関係,仕上板と可撓性薄板のいずれの層も10mm以下の厚さであるという関係,仕上板と可撓性薄板の合計の厚さが10mmであるという関係,さらには,相互の厚さ同士の間には特別の関連はないといういわば無関係という関係など,幾通りもの関係が想定できるのであって,「可撓性薄板は仕上板より多分に薄目」であるという関係は,その中の一つにすぎない。
このように,幾通りもの関係が想定できる場合,それらの関係の中から一つを選ぶことは,二つの層の厚さの関係という新たな考案の構成を付加することとなるから,本件出願において,実用新案登録請求の範囲に「可撓性薄板が仕上板より多分に薄目」との構成を付加したことは,その構成が,当業者にとって自明な構成であるとか,本件考案にとって技術的に無意味な構成であることが明らかであるといった特段の事情が認められない限り,当初発明と本件考案との同一性を失わせる,というべきである。
このように,実施例において,それぞれの厚さが具体的に示されている可撓性薄板と仕上板についてさえ,実用新案登録請求の範囲にその関係を新たに追加することは,当初発明と本件考案との同一性を失わせるものであるから,実施例において,その厚さが記載されていない木質床化粧板と可撓性薄板との厚さの関係を新たに追加することは,上記特段の事情が認められない限り,当然に,当初発明と本件考案との同一性を失わせることになる,というべきである。
(4) そこで,上記特段の事情の有無についてみる。
「可撓性薄板が仕上板より多分に薄目」という構成が,当初明細書の記載から,当業者にとって自明であることは,本件全証拠によっても認めることができない。
審決は,「当初明細書に記載された「乾式防振床」は床基台上に緩衝板を敷設し,その上に仕上げ板を密設し,更にその表面に可撓性薄板を貼着したものであって,明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載において「最上層には通常,床化粧板6が施されているが,本発明による防振床の床衝撃音(固体衝撃音)防止性能が卓越しているため,木質系の硬質化粧板の使用も可能である。」・・・とあるように,本件考案の解決すべき課題である「床衝撃音の吸収性能の向上」は専ら「乾式防振床」の構造によるものであり,そのことは本件考案においても変わるものではないから,本件考案が可撓性薄板と最上層の木質床化粧板の厚さの関係について構成に欠くことができない事項としたからといって,当初明細書および図面に記載された発明と本件考案の同一性が実質的に失われるとはいえない。」(審決書4頁16行?27行)と述べている。
審決は,可撓性薄板と木質床化粧板等との厚さの関係は,本件考案の課題の解決にとって無意味であるとの前提に立って,上記関係についての構成は無意味な構成であって,上記特段の事情が認められる旨を述べていると解することができる。
当初発明は,「建造物内における種々の生活行為に伴って派生する床衝撃音(固体振動音)を吸収,遮断せしめる乾式防振床」に関する発明であり(甲第5号証1頁右欄6行?8行参照),本件考案は,「木質床化粧板を床表面に貼つた建造物内における種々の生活行為に伴つて派生する床衝撃音(固体振動音)を吸振,遮断せしめる木質防振床材」に関する考案であって(甲第4号証1頁1欄11行?14行),両者は,床衝撃音の吸収性能を向上させる,という限りにおいては,解決すべき課題を共通にしているということができる。
しかしながら,床衝撃音の吸収性能を向上させる,という抽象的な形でみた限度では課題を共通にしているといっても,それをより具体的な形でみた場合には,両者の課題が異なり,それに伴って,可撓性薄板と木質床化粧板等との厚さの関係が重要な意味を持つに至ることも,少なくとも一般論としては,十分あり得るところである。そして,本件出願の出願過程にかんがみると,本件考案と当初発明とでは,同じ床衝撃音の吸収性能の向上といっても,具体的に解決すべき課題を異にし,本件考案において,可撓性薄板と仕上板及び木質床化粧板との厚さの関係は,この具体的な課題の解決にとって不可欠な構成であるというべきである。すなわち,次のとおりである。
証拠(甲第6,第7号証,第17ないし第22号証,第23号証の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件考案の出願過程について,次の事実が認められる。
ア 特許庁は,平成2年6月1日,本件出願につき,本件考案は,引用例(1)(実願昭58-76587号(実開昭59-181156号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲第17号証))及び引用例(2)(特公昭56-23509号公報)に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから,実用新案法3条2項に該当し,実用新案登録を受けることができない,との拒絶理由通知(甲第19号証)をし,同年11月16日,本件出願につき,「本願考案における「合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板」も,その材質,厚さ等について格別の限定はなされていないものであるから」,引用例(1)における「「ゴム製マット」は本願考案における「合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板」に相当するものと認められる」,「可撓性薄板の厚さを1mm程度とする点に格別の意義があるものとも認められない」として,拒絶査定(甲第18号証)をした。
イ 被告ドムスは,平成3年1月10日付けで,上記拒絶査定に対する不服の審判(平成3年審判第632号)を請求した上,同年2月9日付け手続補正書(甲第20号証)により,実用新案登録請求の範囲について,可撓性薄板の厚さを,「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」と限定する構成を付加する補正を行った。
被告ドムスは,上記審判手続において提出した平成3年3月5日付け理由補充書(甲第6号証)において,本件考案と引用例(1)とを対比し,「引用例(1),第2図示の構成は,合板フロアー10の下面に緩衝板として厚さ5?30mmのゴム製マット7を配し,さらにその下層に弾性脚体4が下面に並設された下地板の床パネル3を配する構成である。これは合板フロアー10と緩衝板としてのゴム製マット7の組合わせと,下地板の床パネル3と緩衝体としての弾性脚体4の組合わせを施工現場で順次重ねることによって,合板フロアーと緩衝板の組合わせを二重にした構成であって,この引用例(1)の考案の詳細な説明にもあるように・・・上部の合板フロアー10とゴム製マット7の組合わせによって,音の衝撃を一旦,緩和し,残りの衝撃を下部の床パネル3と弾性脚体4で減衰させるという作用効果を意図したものである。
本件出願の考案は最上層の木質床化粧板6の下面に,厚さ1mm程度の可撓性薄板5を配したものであり,この可撓性薄板は引用例(1)の考案のようにゴム製マット7の緩衝材としての作用および効果を意図して採用したものではない。」(甲第6号証10頁18行?11頁17行),「本件出願の考案においては,引用例(1)の厚さの5?30mmのゴム製マット7,すなわち“厚手の緩衝マット”ではないところの,厚さ1mm程度の薄手のシートすなわち可撓性薄板5を,木質床化粧板6とスリット4を切刻した仕上板3との間に貼着挿入し,それら両者の音響的一体化を遮断したものであり,それは木質床化粧板6の[の木材]とは,物質成分の明かに異なった可撓性薄板5の挿入により[境界面において振動の媒体となる物質を変化させると,衝撃振動が遮断されるという原理によって]衝撃振動の遮断を達成したものである。もし本件出願の考案における可撓性薄板5が必要以上に厚く,引用例(1)のように緩衝力のある厚い(厚さ5?30mmとその実施例が挙げられている)緩衝板であるとすると,上部からの衝撃加振に際して仕上板3にリバウンド(跳ね返り)によって,異成分による衝撃振動の遮断量を上回る振動増幅が生じ,衝撃時の発音量が増大することとなる。」(甲第6号証12頁4行?13頁3行)と主張した。
被告ドムスは,平成3年11月1日付け「早期審理に関する事情説明書」(甲第7号証)において,本件考案につき,「床面最上層に木質床化粧板6の硬質板を配置するとともに,その下部に配置する仕上板3および最上層の木質床化粧板6よりも多分に薄目の可撓性薄板5,その厚さは1mm程度であるが,それをこのように薄くすることによって,上部からの衝撃加振に際して,木質床化粧板6がリバウンドによって振動増幅することはなく,有効に振動遮断するとともに,床面の安定性,剛性感が得られる。」(甲第7号証36頁6行?14行)と主張した。
ウ 特許庁審判長は,被告ドムスの上記主張につき,平成4年4月28日付け尋問書(甲第21号証)により,同被告に対し,「可撓性薄板の代りに緩衝力のある厚い緩衝板を用いた場合には,リバウンドによって衝撃振動を上回る振動増幅が仕上板に生ずる旨の主張の論拠を客観的に証明することが必要である。(刊行物の引用,実験データ等によること)」等として,この点についての回答を求めた。
これに対し,被告ドムスは,厚さ5mmのゴム板と厚さ1mmの可撓性薄板とを使用したリバウンドによる振動増幅による発音量の増大に関する実験結果(前者は,後者に比べ波形振幅の増大と発音量の増加が認められるとするもの。)等を記載した平成4年7月10日付回答書(甲第22号証)を,特許庁審判長に提出した。
上に認定した事実によれば,本件出願の過程で,被告ドムスは,本件考案において,可撓性薄板が引用例(1)のように必要以上に厚いと,上部からの衝撃加振に際して仕上板3にリバウンド(跳ね返り)によって,異成分による衝撃振動の遮断量を上回る振動増幅が生じ,衝撃時の発音量が増大することとなるため,これを防止することによって,床衝撃音の吸収性能の向上を図るという課題があること,この課題を解決するためには,可撓性薄板が「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」であるという構成要件が不可欠であって,可撓性薄板の厚さを限定しない,単なる「乾式防振床」の構造によっては,上記課題の解決は図れない旨を主張し,その主張の裏付けとなる実験結果を提出していたものであるということができる。このように,本件考案において,可撓性薄板が仕上板及び最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目である,との構成は,床衝撃音(固体振動音)の吸振,遮断のうち,リバウンドによる衝撃振動の増幅の抑制を図るうえで,不可欠の構成であるというべきである。
被告らは,「床衝撃音の吸収性能の向上」という効果は,原特許出願にかかる乾式防振床の構成によって奏せられる効果であって,本件考案の「可撓性薄板が仕上板及び木質化粧板よりも多分に薄目」という構成によって初めて解決されたものではない,と主張する。しかしながら,本件考案によって奏せられる床衝撃音の吸収性能の向上には,リバウンドによる衝撃振動の増幅の抑制という当初発明にはなかった課題の克服が加わっている点において,当初発明によって奏せられるとされる床衝撃音の吸収性能の向上とは内容が異なり,上記課題は本件考案の可撓性薄板が「仕上板および木質化粧板よりも多分に薄目」という構成によって解決されたものであることは,上に述べたところから明らかである。被告らの主張は採用することができない(被告らの上記主張は,仮に,純粋に技術的には正しいものであったとしても(このことは,出願過程においてなされた上記主張が虚偽であることを意味する。),本件出願の出願過程において被告ドムスが自ら主張した内容と相反する主張であることが明らかであり,出願過程においてなされた上記のような主張によって拒絶を免れてなされた登録につき,後になって,これを維持するため,先になされた主張を全く否定するこのような主張をすること自体,著しく信義に反するものという以外になく,許されないというべきである。)
上に述べたところによれば,審決が,本件考案の解決すべき課題である「床衝撃音の吸収性能の向上」は専ら「乾式防振床」の構造によるもので,可撓性薄板の厚さに関する構成は本件考案の課題解決にとって本質的なものではない,としたことは誤りであり,この誤った判断を前提として,「本件考案が可撓性薄板と最上層の木質床化粧板の厚さの関係について構成に欠くことができない事項としたからといって,当初明細書および図面に記載された発明と本件考案の同一性が実質的に失われるとはいえない」(審決書4頁25行?27行)とした審決の判断は,誤りであるというべきである。
他に,上記特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
(5) 被告らは,本件考案の「床衝撃音の吸収性能の向上」という効果が「可撓性薄板が仕上板および木質床化粧板より多分に薄目」である,という要件が加わって初めて解決された,との原告らの主張は,本件無効審判請求における無効理由として主張されていなかったものであるから,本件訴訟の審理範囲に含まれず,本件訴訟において主張することは許されない,と主張する。
しかしながら,原告らの上記主張は,実用新案登録請求の範囲に,可撓性薄板が「仕上板および木質床化粧板より多分に薄目」との構成が加えられたため,当初発明と本件考案との同一性が失われたことにより,本件出願の出願日の本件原特許出願の出願日への遡及を認めることができない,との原告らの無効審判請求手続における主張(乙第1号証5ないし7頁)に関連するものであることは明らかであり,上記主張につき,審決が,本件考案の解決すべき課題である「床衝撃音の吸収性能の向上」は専ら「乾式防振床」の構造によるもので,可撓性薄板の厚さに関する構成は本件考案の課題解決にとって本質的なものではないから,本件考案の実用新案登録請求の範囲に可撓性薄板と最上層の木質床化粧板の厚さの関係についての構成を加えたとしても,当初明細書および図面に記載された発明と本件考案の同一性が実質的に失われるとはいえないと判断したことにつき,これを争うものであるから,本件訴訟の審理範囲に含まれることは,明らかである。被告らの主張は採用することができない。
2 1で述べたところによれば,審決は,本件考案と当初発明との同一性についての認定判断を誤った結果,本件出願の出願日につき本件原特許出願の出願日まで遡及する,との誤った認定判断をしたものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。』

4.当審の判断
(1)出願日の遡及について
確定判決が判示するように、本件登録実用新案に係る出願が、原特許出願の時にしたものとみなすことはできず、本件登録実用新案の出願日は出願の変更が行われた平成1年3月24日である。
ところで、上の 1.手続の経緯 において述べたように、当審は審判被請求人に対して、本件登録実用新案に係る出願が適法な変更出願となるために更なる訂正の用意があるか、また本件登録実用新案がいわゆる新規性進歩性を有する考案かについて更なる主張があるかの審尋を行った。
平成15年7月1日付の回答書によると、審判被請求人は
訂正の用意について、実用新案登録請求の範囲に
「任意の緩衝板上において、貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に、合成樹脂シート等よりなり、仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が、順次、積層貼着され、所定の形状、寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。」
とあるのを、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、
「任意の緩衝板上において、貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に、合成樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が、順次、積層貼着され、所定の形状、寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。」(以下、「訂正案」という。)
と訂正する用意がある旨回答するとともに、
本件登録実用新案のいわゆる新規性進歩性については先に提出した平成12年8月28日付審判答弁書の主張を援用すると回答している。
そこで上記訂正案について検討すると、「合成樹脂シート等よりなり、仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」を「合成樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板」とする訂正は、可撓性薄板についてその厚さを1mmと限定してはいるが、可撓性薄板が仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目であるという相対的な関係の限定を外すものであり、これによって仕上板および最上層の木質床化粧板は、その厚さが可撓性薄板と同等の厚さのものまで含むものとなり、この訂正案は実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また上記実用新案登録請求の範囲の訂正が、誤記の訂正や明りょうでない記載の釈明を目的とするものではないから、上記訂正案は平成5年法附則第4条第2項において読み替えられた平成5年法改正前の実用新案法第40条第2項ただし書きに規定する訂正の要件を満たすものではなく、本件無効審判の中で訂正の機会を与える必要はない。

(2)実用新案法第3条第1項違反について
本件考案が実用新案法第3条第1項の規定に違反するかについては、次の(3)で述べるように本件考案は実用新案法第3条第2項の規定により特許を受けることができないので、検討するまでもない。

(3)実用新案法第3条第2項違反について
(3-1)本件考案
本件実用新案登録に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、次のとおりのものである。
「任意の緩衝板上において、貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に、合成樹脂シート等よりなり、仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が、順次、積層貼着され、所定の形状、寸法に一体化されたことを特徴とする木質防振床材。」

(3-2)引用刊行物記載の考案
これに対して審判請求人が無効理由に引用した甲第8号証(特開昭62-156471号公報、原特許出願の公開公報)、甲第5号証(特開昭63-241264号公報)には次のような考案が記載されている。

[甲第8号証]
ア)1はグラスウール、ロックウール等の無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝板であって、床基台11の上に密実に敷設され、その壁際は主な繊維方向が縦方向の端部細帯片7を介して壁基台9及び均し層8と接している。
そして緩衝板1の上には貫通或いは半貫通のスリット4を有する仕上板3が密設されている。スリット4は幅が1mmから2mm程度、スリット4の間隔は100mmから300mmが標準で、緩衝板1の厚さと仕上板3の厚さによって最適の寸法を定める。またスリット4の形状は第3図aの如く貫通或いは半貫パラレル型でもb図の如くVカット型或いはC図の如くダブルVカット型でも床衝撃音防止性能には変化がない。更にスリット4を有する仕上板3の表面には床衝撃による仕上板3のスリット4間の各細長い板がバラバラに振動するのをおさえるため、アスファルト紙、樹脂シート等の可撓性薄板5が貼着されている。
尚、仕上板3の表裏には予め可撓性薄板5と緩衝板1を密着しておくことも可能である。
最上層には通常、床化粧板6が施されているが、本発明による防振床の床衝撃音(固体衝撃音)防止性能が卓越しているため、木質系の硬質化粧板の使用も可能である。(第2頁右上欄第6行?左下欄第10行参照)
イ)第4図は緩衝板1の厚さ10mmの場合の例で、第5図は緩衝板1の厚さ25mmの場合の例である。その他の仕様は第4図、第5図共通で仕上板3の厚さ9mmの合板上に、スリット4は貫通パラレル型では幅1mmを100mm間隔で設刻し、仕上板3上の可撓性樹脂シート5は厚さ1mmであった。(第3頁左上欄第19行?右上欄第5行参照)

以上の記載を対比のためにまとめると、甲第8号証には次のような考案が図面と共に記載されている。
「無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝板上において、貫通あるいは半貫通のスリットが100mmから300mmの間隔で設けられた厚さ9mmの仕上板上に、樹脂シート等よりなる厚さ1mmの可撓性薄板を介在させて木質系の化粧板を、順次、積層貼着され一体化された防振床。」

[甲第5号証]
ウ)木質化粧板1の裏面に軟質シート2を積層一体化すると共に軟質シート2の裏面に基板3を積層一体化させて木質板4が形成されている。木質板4の基板3には切溝8を設けられており、基板3の裏面にゴムシート5が貼着されて木質床材Aが構成されている。(第2頁右上欄第7行?同欄第12行参照)
エ)木質床材Aには長手方向の一側に嵌合突部15が突設してあり、他側に嵌合凹部16が凹設してある。しかして、木質床材Aは、第3図に示すように建物のコンクリートスラブのようなコンクリート面7上に接着剤6を介して直接貼着して敷設される。(第3頁右下欄第2行?同欄第8行参照)

以上の記載をまとめると、甲第5号証には次のような考案が図面と共に記載されている。
「ゴムシート5上に、切溝8が所定間隔で設けられた基板3、軟質シート、木質化粧板を順次、積層貼着し、所定の形状、寸法に一体化した木質床板A。」

(3-3)対比・判断
本件考案を甲第8号証記載の考案と対比すると、
a.甲第8号証記載の考案の「無機質繊維材で構成された所定の厚さを有する緩衝」、「スリットが100mmから300mmの間隔で設けられた」、「樹脂シート等の可撓性薄板5」、「木質系の硬質化粧板」は、それぞれ本件考案の「任意の緩衝板」、「スリットが所定間隔で設けられた」、「合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板」、「木質床化粧板」に相当し、
b.甲第8号証記載の考案も、緩衝板上に、スリットが設けられた仕上板、可撓性薄板、木質床化粧板を順次、貼着され一体化されて床を構成する材料であるから、全体として本件考案と同様に「木質防振床材」ということができ、
以上のことから、両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
任意の緩衝板上において、貫通あるいは半貫通のスリットが所定間隔で設けられた仕上板上に、合成樹脂シート等よりなる可撓性薄板を介在させて木質床化粧板が、順次、積層貼着され一体化された木質防振床材。
(相違点)
(1)可撓性薄板の厚さに関して、本件考案では「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目」であるのに対して、甲第8号証記載の考案は、仕上板3の厚さが9mmで可撓性薄板厚さが1mmとあるが木質化粧板の厚さについては言及されていない点
(2)木質防振床材が、本件考案では所定の形状、寸法に一体化された床材であるのに対して、甲第8号証記載の考案では特に所定の形状、寸法に一体化されているとは言及していない点
(相違点の検討)
相違点(1)について検討する。
まず、本件考案における「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」については、本件考案が記載された明細書の対応する考案の詳細な説明によると、仕上板および最上層の木質床化粧板と可撓性薄板との厚さの関係について、仕上板が9mm、木質化粧板が6mm、可撓性合成樹脂シートが1mmとされている。そしてそれ以外に厚さの関係について説明する記載はない。
このことから本件考案の「仕上板および最上層の木質床化粧板よりも多分に薄目の可撓性薄板」は、仕上板が9mmで木質化粧板が6mmのとき、可撓性薄板が1mmの厚さ関係を含むものとして規定されているということができる。
そうすると甲第8号証記載の考案も可撓性薄板と仕上板の厚さの関係については同じ寸法関係が記載されているから、可撓性薄板が仕上板より多分に薄めである点で本件考案と相違するものではない。
次に、可撓性薄板と木質化粧板との厚さの関係について検討する。
甲第8号証には木質化粧板の厚さについて具体的な寸法の記載はない。
しかし、木質化粧板は化粧板であることからみて仕上板3や緩衝板1に比べて厚くする理由はないし、また甲第8号証の第1図と第2図にはともに、床化粧板6が、仕上板3よりは薄く、可撓性薄板5より厚くしたものが図示されていることからみて、仕上板を9mmとし可撓性薄板を1mmとしたとき、床化粧板の厚さを6mm程度に設定することは当業者ならば普通に考えつくことであるから、可撓性薄板を本件考案でいうところの木質化粧板よりも多分に薄めと設定することは、当業者がきわめて容易に考えつくことができたことである。
相違点(2)について検討する。
甲第5号証に、ゴムシート上に、切溝が所定間隔で設けられた基板、軟質シート、木質化粧板を順次、積層貼着し、所定の形状、寸法に一体化した木質床板が記載されており、ここで「ゴムシート」、「切溝」、「基板」、「軟質シート」、「木質化粧板」、「木質床板」は、それぞれ本件考案の「緩衝板」、「貫通のスリット」、「仕上板」、「可撓性薄板」、「木質床化粧板」、「木質防振床材」に相当するから、木質防振床材を所定の形状、寸法を有する床材として構成することは公知技術であり、上記相違点(2)は当業者がきわめて容易に考えつくことができた構成の変更である。

(3-4)むすび
以上のことから、本件考案は甲第8号証および甲第5号証記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないから、本件実用新案登録は実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-03-14 
結審通知日 2001-03-27 
審決日 2001-04-10 
出願番号 実願平1-33755 
審決分類 U 1 112・ 113- Z (E04F)
U 1 112・ 121- Z (E04F)
U 1 112・ 121- Z (E04F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 下村 周三伊藤 哲夫服部 秀男  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 田中 弘満
矢沢 清純
登録日 1995-01-23 
登録番号 実用新案登録第2048015号(U2048015) 
考案の名称 木質防振床材  
代理人 西澤 利夫  
代理人 松永 善蔵  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  
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