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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A47J
管理番号 1116228
審判番号 審判1998-35313  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2005-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-07-13 
確定日 2001-02-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の登録第2149189号実用新案「製パン機におけるこね容器の取手構造」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.手続の経緯
1)登録第2149189号の請求項1に係る実用新案は、平成3年3月4日に出願され、平成8年1月24日に出願公告された(実公平8-1710号)。そして、平成8年4月24日に登録異議申立てがあった後、平成8年12月3日付けで手続補正書が提出され、平成9年11月28日に設定登録された。
2)これに対して、この実用新案登録についてエムケー精工株式会社より実用新案登録無効審判の請求がなされ、請求人は、下記の甲第1?6号証を提出し、本件考案は、甲第1?6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができず、本件登録は、無効とすべきである旨主張している。
甲第1号証 特開平1-207017号公報
甲第2号証 実願昭63-54005号(実開平1-1576324号)
のマイクロフィルム
甲第3号証 特開平2-102615号公報
甲第4号証 実公昭62-35730号公報
甲第5号証 実願昭54-177504号(実開昭56-93199号)
のマイクロフィルム
甲第6号証 特開平2-228918号公報
また、本件考案について出願公告後になされた平成8年12月3日付けの手続補正は、公告公報に記載の実用新案登録請求の範囲を実質的に変更するものであり、登録考案は、実用新案法第9条で準用する特許法第42条の規定により、その補正がされなかった実用新案登録出願について登録されたものとみなされるべきである旨主張している。
3)被請求人船井電機株式会社は、平成10年11月9日付けで答弁書とともに訂正請求書を提出した。その後、当審において訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内である平成12年1月11日に訂正拒絶理由通知に対して手続補正書の提出がなされた。そして、さらに、当審において訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内に意見書が提出された。
2.訂正の適否について
1)平成8年12月3日付けの手続補正について
上記手続補正は、a.公告時の明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1において、「切起こし部は所定幅に成形する」を付加し、b.公告時の明細書の考案の詳細な説明中、「また、切起こし部(15)の幅は、取手(17)を持ってこね容器(11)を回転し、製パン機本体とのバヨネット結合を嵌めたり、外したりしたときでも、加わる力によって破損することがないように、所定の幅に設定する。」(【0012】)との記載を付加し、c.同考案の詳細な説明中、「また、ユーザは、取手を持ってこね容器を回転する操作により、こね容器の製パン機本体への着脱を行うことができる。」(【0023】)との記載を付加することを含むものである。
公告時の明細書に記載された「上記構造のこね容器および取手では、軸受板の取付けに多くの工程を有すると共に、その分手間がかかる上に部品コストがかかるという欠点がある。この考案は上記欠点を解消しようとするものである。」(段落【0005】【発明が解決しようとする課題】)との記載及び「以上のように、この考案に係るこね容器の取手構造では、軸受板、リベットなどの別部品が必要でなくコスト安くできると共に、製造時の工程が少なくて済む。」(段落【0023】【考案の効果】)との記載からみて、上記付加された事項は、上記補正前の請求項に記載された事項によって構成される考案全体を通じての技術課題として説明されておらず、この補正により追加された目的は、補正前の考案の具体的な目的の範囲を逸脱している。
したがって、上記補正によって、実用新案登録請求の範囲は、減縮されてはいるが、実質的に変更されている。
以上のとおり、この手続補正は、旧実用新案法第13条で準用する旧特許法第64条第2項の規定でさらに準用する特許法第126条第2項の規定に違反するものであるから、旧実用新案法第9条で準用する旧特許法第42条の規定により、この補正がされなかった実用新案登録出願について登録がされたものとみなされる。
2)訂正の内容
イ.訂正請求に対する補正について
被請求人が求めている平成12年1月11日付けの補正の内容は、訂正請求書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲を「製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、該こね容器の上端フランジ部の一部を略山形に切起こして空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させると共に、前記切起こし部の幅が、取手をもってバヨネット結合を着脱する回動力で破損しない所定幅であることを特徴とする製パン機におけるこね容器の取手構造。」から「その底部の設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、該こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に切起こして空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させたことを特徴とする製パン機におけるこね容器の取手構造。」と補正するとともに、この補正に対応して、訂正請求書の「4.訂正の理由」のうち、「訂正の目的」の欄と「訂正の内容」の欄の記載を補正することにある。
上記補正は、実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載中、「製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、」を「その底部の設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、」と限定するとともに、「前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり」この構成を付加し、「切起こし部の幅が、取手をもってバヨネット結合を着脱する回動力で破損しない所定幅である」を「幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、」と補正するものであって、この実用新案登録請求の範囲における補正は、実用新案登録請求の範囲の減縮又は、明瞭でない記載の釈明に相当する。そして、考案の詳細な説明において、段落【0006】の「製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、」を
「その底部の設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、」と限定するとともに、「前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり」との構成を付加し、「切起こし部の幅が、取手をもってバヨネット結合を着脱する回動力で破損しない所定幅である」を「幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、」と補正し、併せて、段落【0012】中の「また、切起こし部(15)の幅は、取手(17)を持ってこね容器(11)を回転し、製パン機本体とのバヨネット結合を嵌めたり、外したりしたときでも、加わる力によって破損することがないように所定の幅に設定する。」を削除し、段落【0023】中の「また、ユーザは、取手を持ってこね容器を回転する操作により、こね容器の製パン機本体への着脱を行うことができる。」を削除するものである。この考案の詳細な説明の補正は、上記実用新案登録請求の範囲の補正に伴って明瞭でなくなった記載を明瞭にし、併せて、出願公告時の明細書と比べて不明瞭となった記載を明瞭なものとしたものである。
よって、上記補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではないので、これを採用する。
ロ.訂正の内容
上記2.1)でみたとおり、本件登録は、公告時の明細書に記載の考案を対象とするものであるから、被請求人が求めている訂正の内容は、次の訂正事項a?cを内容とするものとなる。
a.実用新案登録請求の範囲の請求項1中の「製パン機本体に対して取外し自在になったこね容器において」を「その底部に設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、」と訂正する。
b.実用新案登録請求の範囲の請求項1中の「その上端フランジ部の一部を略山形に切起こして空所を形成すると共に、」を「該こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に切起こして空所を形成し、」に訂正する。
c.考案の詳細な説明の、段落番号【0006】中の「製パン機本体に対して取外し自在になったこね容器において」を「その底部に設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、」に、又、「その上端フランジ部の一部を略山形に切起こして空所を形成すると共に、」を「該こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に切起こして空所を形成し、」に訂正する。
3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項a.は、こね容器と製パン機本体との関係を、その底部に設けた係止部をバヨネット結合で取外し自在にするものであると具体的に限定すると共に、その係止部がリベット固定によりこね容器本体に固定してあると限定したものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮に相当する。
訂正事項b.は、フランジ部に切起こしを形成する態様を、こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成しと限定すると共に、この幅広部の形状について、約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れと限定したものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮に相当する。
訂正事項c.は、上記訂正事項a.及びb.の訂正に伴って明瞭でなくなった考案の詳細な説明の記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正事項は、いずれも登録明細書の記載に基づくものであり、しかも、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4)独立実用新案登録要件について
イ.訂正明細書に記載された考案
訂正明細書の請求項1に係る考案は、平成12年1月11日付けの手続補正書により補正された実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「2.2)イ.」参照)。
ロ.引用刊行物記載の考案
請求人が甲第2号証として提出し、当審においてなされた訂正拒絶理由通知でも引用した、本件の出願前に頒布された刊行物である実願昭63-54005号(実開平1-157632号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、「加熱室内に着脱可能に装着されるパンケースを備え、このパンケース内に収納したパン生地材料を混練した後に焼き上げるようにした・・・パン製造機」(実用新案登録請求の範囲)が、その実施例を示す図面とともに記載されており、「4は内ケース2内にバヨネット機構5を介して着脱可能に装着された上面開放型のパンケース」(第5頁第15?16行)との記載、「尚、パンケース4には、・・・その上端部に金属材料を折曲したハンドル17が設けられている。」(第7頁第18行?第8頁第2行)との記載がある。そして、第2図の記載からみて、パンケースの底部に取付けられたバヨネット機構の係止部は、リベットにより固定されていることが窺える。
また、請求人が甲第3号証として提出した本件出願前に頒布された刊行物である特開平2-102615号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「パン製造機」が記載され、「調理室(3)内に上面開口した角筒型のパン容器(6)を着脱自在に設けている。このパン容器(6)の外底面には受台(5)と係脱する係合部(7)を形成する」(第2頁左下欄第3?6行)との記載、「(15)はパン容器(6)の上面開口部に設けられる回動自在な取手である。」(第2頁左下欄第11?12行)との記載がある。そして、第2図からは、パン容器(6)の上面にフランジ部が形成され、該フランジ部に設けられた略山形の空所に取手の両端が挿通されている構成が窺える。
さらに、請求人が甲第4号証として提出した本件出願前に頒布された刊行物である実公昭62-35730号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「流し台等の排水部」が記載され、「ステンレス製の外筒体6の・・・上縁部7の内周下縁に環状段部14に下方を内方に折曲すると共に数個の切起片15、15を設けた断面L字状でステンレス製の支持縁16を取付け、且つ切起片15,15に係止されると共に支持縁16に載置される外方係止縁17を設け、多数の小孔18を穿設したステンレス製のごみ取り籠体19」(実用新案登録請求の範囲)の記載、「又ごみ取り籠体19の外方係止縁17には相対した切起こし環部40,40を設け、該切起こし環部40,40に回動自在に挿入する挿入片41,41を両端に備えたステンレス製の把持針金体42を取付けると共に外方係止縁17には切起片15,15が挿通される挿通切欠部43,43を備え、ごみ取り籠体19を回動することにより外方係止縁17の係止縁17の係止部45が係止され排水時のごみ取り籠体19の浮上が防止されるものである。」(第2頁左欄第15?24行)との記載がある。そして、第3図の記載からみて、切起こし環部40は、フランジ状の外方係止縁17の端縁に沿って一本の切込を形成し、端縁と切込の間を略山形に起こしたものであることが窺える。
ハ.対比・判断
訂正明細書の請求項1に記載された考案(前者)と刊行物1記載の考案(後者)とを対比検討する。
後者における「内ケース」、「パンケース」、「ハンドル」は、それぞれ前者の「製パン機本体」、「こね容器」、「取手」に相当している。
そして、後者の「バヨネット機構を介して着脱可能に装着」した点は、前者の「バヨネット結合で取外し自在になった」ことと同義であるから、両者は、その底部の設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在に結合されるこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、該こね容器の上端部に取手を設けた製パン機におけるこね容器の取手構造の点で一致し、
a.前者が、こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に略山形の空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させたものとしているのに対し、後者には該構成についての記載が無い点、
b.前者が、フランジ部に設けた幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に起こして空所を形成しているのに対して、後者が該構成を具備していない点で両者は相違している。.
そこで、まず、上記相違点a.について検討する。
上記刊行物2には、こね容器(「パン容器」として記載されている。)の上端フランジ部に略山形の空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させたものが記載されている。しかし、フランジの一部に幅広部を形成した点についての記載は無い。
次に、上記相違点b.について検討する。
上記刊行物3には、容器の上端に設けたフランジ部(「外方係止縁」として記載されている。)に切込みを入れ、該切込みを略山形に起こして空所を形成し、該空所に取手(「把持針金体」として記載されている。)の両端を挿通係合させたものが記載されている。
しかし、上記切込みは、1本の切込みであって、平行な2本の切込みを入れたものではない。
上記相違点を併せ考えると、こね容器のフランジの一部に幅広部を形成し、該幅広部に平行な2本の切込みを入れた点については、上記刊行物1乃至3のいずれにも記載がなく、示唆もない。そして、上記訂正明細書に記載された考案は、明細書記載の効果を奏するものである。
なお、請求人は、平成12年9月22日付けの口頭審理陳述要領書において、甲第7?甲第13号証を提示し、フランジに幅広部を形成することは、技術常識であり、平行な2本の切込みの間隔を約5ミリとすることは設計的な事項であるから、訂正明細書の請求項1に記載の考案は、刊行物1?3記載のものからきわめて容易に考案をすることができたものである旨主張している。
しかし、上記甲第7?13号証のいずれの証拠にも、フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に2本の平行な切込みを入れた構成は記載されておらず、示唆もない。してみると、上記構成は、上記刊行物の記載から当業者がきわめて容易に想到しえたものとはいえず、上記請求人の主張は、採用できない。
ニ.むすび
したがって、上記訂正は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有するとされ、前記附則第4条第2項の規定によって読み替えられる旧実用新案法第40条第5項の規定により準用する同法第39条第2項及び第3項の規定に適合するので、この訂正を認める。
3.本件考案に対する判断
1)本件考案
本件実用新案登録第2149189号の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、訂正明細書の請求項1に記載されたとおりのものである。
2)請求人の主張
これに対して、請求人は、上記1.2)の甲第1?6号証を提出し、本件考案は、甲第1?6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができず、本件登録は、無効とすべきである旨主張している。また、請求人は、口頭審理において、甲第7?13号証を提示し、フランジ部の一部に幅広部を形成することがきわめて容易になしえたことである旨主張している。
3)被請求人の主張
被請求人は、意見書及び平成12年10月18日付け上申書において、訂正明細書の請求項1に係る考案は、甲第1?12号証に記載された事項から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない旨主張している。
4)引用刊行物記載の事項
請求人の提出した甲第2?4号証は、刊行物1?3にそれぞれ対応するものであって、甲第2?4号証には、上記2.4)で記載した事項が記載されている。
甲第1号証には、「調理器」に関し、「さて、6は矩形状をなす製パン容器(以下単に容器と称する)で、これは内枠2内にバヨネット機構7を介して着脱可能に配置されている。尚、上記バヨネット機構7は、容器6の外底部に固着されたバヨネット爪部材7aと、内枠2側に設けられたバヨネット受け部材7bとより成る。」(公報第2頁左下欄第19行?右下欄第4行)との記載がある。
甲第5号証には、「たばこ用灰皿」が記載され、「本体1の角フランジ2の左右の中央部にそれぞれ刻み込まれた2条の小さい切り込み6と角フランジ2の裏面からプレスで打ち出した取手押え5との間に取手13両端部のかぎ部15を差し込み取手13を起伏自由としている。」(第2頁第5?10行)との記載が図面とともに示されている。
また、甲第6号証には、「パン製造機」に関して、「回動自在な把手を具備したパン容器」が製パン機本体に対して着脱自在となっていること、また、パン容器には、フランジ部が形成され、把手がフランジ部に取付けられていることが図面と共に示されている。
5)対比・判断
上記甲第2?4号証及び甲第7?12号証に、フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に2本の平行な切込みを入れた構成がないことは、既に上記2.4)で検討したとおりである。
また、上記甲第5号証には、フランジ部に2本の切り込みを入れた構成が記載されているが、該切り込みは、たばこ用灰皿を移動するための取手を支持するために設けられているものと解されるところ、これを製パン機本体にバヨネット結合で取り外し自在に結合されるこね容器の取手の取付け構造に採用することが、当業者にとってきわめて容易に想到しえたものとは認められない。
さらに、甲第1及び甲第6号証においても上記構成は、記載されていない。
したがって、本件考案は、甲第1?6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
発明の名称 (54)【考案の名称】
製パン機におけるこね容器の取手構造
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】その底部に設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在になったこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、該こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に起こして空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させたことを特徴とする製パン機におけるこね容器の取手構造。
【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は製パン機におけるこね容器に関し、詳しくはその取手構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
製パン機には、ヒータと回転軸を内部に備えた室を有し、この室内にこね容器を収納取付けた後、この容器を貫いて突出した上記回転軸にこね羽根を取付けてこのこね羽根を回転し、投入した製パン材料(小麦粉、イースト等)をこの容器内でこね上げ、さらに適当時間発酵の後、上記ヒータで加熱して焼上げるようになっているものがある。
【0003】
そして、焼上がったパンを取出す際には、上記こね容器ごと製パン機本体への係着を外して持上げ、その後、こね容器から焼上がったパンを取出すようになっている。
上記のようにこね容器は製パン機本体に対し取付け、取外しするが、このような操作の便宜のためにこね容器には逆U字状に曲げたワイヤー等からなる取手が取付けてある。
【0004】
この取手はワイヤー両端のL字状屈曲部を、図6示のような、こね容器(1)のフランジ部(2)に固定した軸受板(3)に挿通して取付けてある。
この軸受板(3)は逆T字状の側面形状を有し、フランジ部(2)に形成したスリット(4)を通してその軸受部を上方へ立設し、下部の水平部をフランジ部(2)にリベット(5)止めしてある。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
上記構造のこね容器および取手では、軸受板の取付けに多くの工程を要すると共に、その分手間がかかる上に部品コストがかかるという欠点がある。
この考案は上記欠点を解消しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この考案は、その底部に設けた係止部を製パン機本体に対してバヨネット結合で取外し自在になったこね容器において、前記係止部はリベット固定によりこね容器本体に固定してあり、該こね容器の上端フランジ部の一部に幅広部を形成し、該幅広部に約5ミリ間隔で平行な2本の切込みを入れ、該切込みの間を略山形に起こして空所を形成し、該空所に取手の両端を挿通係合させたものである。
【0007】
【実施例】
図3にこの考案に係るこね容器(6)を備える製パン機(7)の全体斜視図を示す。
この実施例の製パン機(7)は蓋(8)によって開閉されるこね容器(6)の収納室(9)を有し、この室内にはヒータ(図示せず)とこね羽根の回転軸(図示せず)とを有している。(10)は蓋開閉用の取手部である。
【0008】
こね容器の本体(11)は図1に示したように、上部の開口縁をフランジ部(12)に形成したアルミ製円筒であり、この本体(11)の下面に前記収納室(9)内への取付け用係止部(13)がリベット固定してある。この係止部(13)は収納室(9)側の取付部(図示せず)にバヨネット結合する。
もちろん、本体下面には上記こね羽根の回転軸が貫通する穴(14)があけてある。
【0009】
そして、上記フランジ部(12)を含み、係止部(13)を除いた本体の略円筒形状はプレス成型によりー体成型されるが、フランジ部(12)の一部には次に詳述する略山形の切起こし部(15)が形成され、この切起こし部(15)によって形成される空所(16)に逆U字ワイヤー状の取手(17)が取付けられるようになっている。
【0010】
すなわち、環状フランジ部(12)のうちの幅広部(12a)(この実施例では約10ミリ)に、その幅のほぼ半分を占める程度の間隔(約5ミリ)で2本の平行な切込み(18)が形成され、この切込み(18)間を下方よりプレスして山形に隆起させてある。
したがって、空所(16)もこの例では山形となるが、この形状は半円形、長円形等種々変形が可能である。
【0011】
取手(17)はそのL字状屈曲部(17a)が上記空所(16)にちようど進入しうる程度の太さのばね鋼材からなり、適度な弾性と剛性を有する。
【0012】
適度な剛性とは、この取手(17)を立てた図1示の状態で取手(17)を手で把持して、こね容器(6)を時計まわり、反時計まわりのいずれかへ回転させれば、前記係止部(13)が収納室(9)内の係止部にバヨネット嵌合しうる、あるいはその嵌合が外れうる程度の剛性である。つまり、こね容器(6)の着脱を行うために、この取手(17)を持って力を加えた程度では容易に塑性変形しない程度の弾性と剛性を有するばね剛材である。
【0013】
また、この逆U字状取手(17)は、これを図1示の直立させたままの状態で収納室(9)内に挿入し、係着すれば、その後蓋(8)を閉じる際には、取手(17)の上端が蓋(8)の内面(8a)に衝突して蓋(8)の完全な閉塞が妨げられるような高さ(h)としてある。
【0014】
すなわち、上記のような高さ(h)とすることにより、取手(17)の直立したままの状態は、蓋(8)を閉じる際に必ず使用者の気づくところとなり、取手(17)を直立したままの状態でパン焼き工程を開始してしまうことから起きる次のトラブルを回避することができる。
【0015】
つまり、発酵工程、焼成工程の際にこね容器(6)内を上昇して膨張するパンは、その上部がこね容器(6)のフランジ部(12)を越えて上昇する場合があるが、その際取手(17)が直立したままであると、パンが取手(17)に喰い込んでしまうトラブルが発生するおそれがあり、この場合には焼上がったパンのこね容器からの取出しが困難になる。
【0016】
いずれにしても、以上の構成のこね容器(11)および取手(17)では、取手(17)の逆U字状下端の間隔(d)を両側の切起こし部(15)間の間隔よりも若干大としておき、取手(17)の両端を手で把持してその弾性に抗して上記間隔(d)をせばめた状態でL字状屈曲部(17a)を前記空所(16)に挿入して、取手(17)をこね容器本体(11)に取付ける。
【0017】
こね容器本体(11)に取付けられた取手(17)はそのばね性によって、L字状屈曲部(17a)の空所(16)内への突入が外れることがなく、前述の通り前記収納室(9)に入れた状態で使用者が取手(17)をひねってこね容器(6)の製パン機本体(7)への係合を係脱することができる.
【0018】
なお、上記実施例では、切起こし部(15)形成のための切込み(18)は平行直線としていたが、容器内側の切込み(18)を次のような波形とすることにより、取手(17)のL字状屈曲部(17a)に、取手(17)の角度により異った安定性を与え、取手(17)の角度を特定の位置に保持させることができる。
【0019】
すなわち、図4に示したように、一方の切込みを中央(18a)がへこみ、その両側(18b)が膨んで、さらに両端(18c)がへこんだ波形とすることにより、この切込み(18)をプレスで隆起させ図5に示す形状となるようにすれば、この波形に適度な圧力で当接する取手(17)のL字状屈曲部(17a)は、上記中央(18a)と両端(18b)で安定し、中央の両側(18b)は不安定となる。
【0020】
つまり、取手(17)は図1示のような直立状態と、左右いずれかの水平に倒れた状態とで、それぞれ安定となり、その中間の角度では不安定となるので、持運び時などの取手使用時には取手が安定して直立し使いやすく、その他の取手不使用時には直立した取手をわずかに倒すだけでL字状屈曲部(17a)が前記両側(18b)の膨み部を越えた時点で、取手(17)は自動的に完全に水平に倒れた安定位置まで倒れるので、前述した焼上がったパンに取手(17)が食い込むなどといったトラブルを未然に防止しうる。
【0021】
さらに、取手(17)の高さ(h)は前述の通り、蓋(8)を閉じる際にそれが直立しておれば、その上端が蓋(8)の内面に衝突する高さとしてあるが、蓋(8)の内面(8a)を傾斜面としておけば、蓋(8)が取手(17)上端に当たることによって取手(17)に横方向の力を与えるようにでき、この横方向の力によって取手(17)を自動的に直立状態から左右いずれかへ倒させることができる。
【0022】
この場合にも、前述の通り切起こし部(15)の一方の切込みを波形としておけば、直立から一方へ倒れかけた取手(17)はスムーズに完全に水平に倒れた状態となる。
【0023】
【考案の効果】
以上のように、この考案に係るこね容器の取手構造では、軸受板、リベットなどの別部品が必要でなくコスト安くできると共に、製造時の工程が少くて済む。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この考案に係るこね容器の全体斜視図。
【図2】
取手の取付部を示す拡大斜視図。
【図3】
製パン機全体を示す斜視図。
【図4】
他の実施例における切起こし部の切込みを示す展開図。
【図5】
同じく他の実施例における取手取付部を示す拡大斜視図。
【図6】
従来のこね容器における取手取付部の斜視図。
【符号の説明】
(6)こね容器
(7)製パン機本体
(11)こね容器本体
(12)フランジ部
(15)切起こし部
(16)左所
(17)取手
(18)切込み
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2000-11-30 
結審通知日 2000-12-15 
審決日 2000-12-26 
出願番号 実願平3-10986 
審決分類 U 1 112・ 121- YA (A47J)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 岡本 昌直
滝本 静雄
登録日 1997-11-28 
登録番号 実用新案登録第2149189号(U2149189) 
考案の名称 製パン機におけるこね容器の取手構造  
代理人 河野 登夫  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 湯田 浩一  
代理人 河野 登夫  
代理人 塩野入 章夫  
代理人 竹本 松司  
代理人 魚住 高博  

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