• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効とする。(申立て全部成立) B23K
審判 全部無効 産業上利用性 無効とする。(申立て全部成立) B23K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B23K
管理番号 1116230
審判番号 無効2003-35376  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2005-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-09-05 
確定日 2005-05-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第2564570号実用新案「溶接用エンドタブ」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第2564570号の請求項1?5に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 手続きの経緯
平成 3年 8月 2日 実用新案登録出願(実願平3-68761号)
同 9年11月28日 実用新案権の設定の登録
同 15年 9月 5日 請求人株式会社スノウチによる本件審判請求
同 年11月28日 被請求人栄豊物産株式会社による答弁書提出
同 16年 1月22日 審尋
同 年 2月 5日 被請求人による証人鈴木秀則の尋問申出書
及び尋問事項書提出
同 年 2月24日 被請求人による審尋についての回答書提出
同 年 2月26日 請求人による審尋についての回答書提出
同 年 3月15日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
同 日 被請求人による当事者長谷川和夫の尋問申出書
及び尋問事項書提出
同 年 3月15日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
同 年 3月19日 請求人による証人石橋力の尋問申出書
及び尋問事項書提出
同 年 3月25日 被請求人による上申書提出
同 年 3月29日 口頭審理及び証拠調べ
同 日 請求人による第2口頭審理陳述要領書提出
同 年 4月 1日 被請求人による第2上申書提出
同 年 4月 2日 請求人による上申書提出

第2 本件考案
本件の請求項1?5に係る考案(以下それぞれ「本件考案1」等という。)は、設定登録時の明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】少なくとも一方の母材に開先加工面が形成されていない母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に用いる耐火物製エンドタブにおいて、開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており、かつ、開先加工面を有しない母材側の非使用面が、開先底部レベルを越えて延長した抜け落ち防止用脚部を備えた形状であることを特徴とする裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。
【請求項2】 非使用面が堰部をなし、かつ、開先加工面を有しない母材側の堰部に、抜け落ち防止用脚部を除き、溶接使用面に続く傾斜面が形成されている請求項1に記載の裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。
【請求項3】 非使用面が溶接使用面と同一平面をなしている請求項1に記載の裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。
【請求項4】 溶接使用面が片面又は両面に形成されている請求項1、2又は3に記載の裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。
【請求項5】 アークロボット溶接に用いられるものである請求項1、2、3又は4に記載の裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ。
そして、本件考案1?5は、上記構成を具備することにより明細書段落【0024】記載の「エンドタブに抜け落ち防止用脚部を設けたので、同幅継手の溶接において、抜け落ちを効果的に防止することができる。特にアークロボット溶接に好適であるが、半自動溶接においても、従来のように隙間を埋める施工が不要となる。エンドタブは耐火物製であるので繰り返し使用ができ経済的である。」という作用効果を奏するものと認められる。

第3 請求人の主張及び提示した証拠方法
請求人は、下記の証拠方法を提示し、次の理由1?3により、本件考案1?5についての実用新案登録は無効とすべき旨主張している。
1 理由1,2
次のア?ウの点で「本件考案のエンドタブを、本件公報の図5(・・)のような突合せ継手に用いることは不可能」(審判請求書第4頁第25?26行)であるから、本件考案1?5は考案未完成であって、本件考案1?5は実用新案法第3条柱書に該当しないか、または、明細書及び図面の記載が不備であって、本件出願が実用新案法第5条第4項に規定する要件を満たしていないので、実用新案法第37条第1項第1号(理由1)又は第3号(理由2)に該当し、無効とすべきである。
ア 「本件公報の図4・図5に図式する構造体は、裏当金3を母材2の底部ルート部までさげて母材2の底部端面と線接触させて・・隙間を溶接長全線に亘って発生させている。このような溶接母材など構造力学上存在しない。」(審判請求書第3頁第18?24行)
イ 「本件考案のエンドタブを上記のような突き合わせ継ぎ手の溶接に用いる場合は、・・本件考案のエンドタブに設けた脚部が母材2底部の裏当金3に対して邪魔となり母材開先に対応するように当接することは不可能である。」(審判請求書第4頁第21?24行)
ウ 「傾斜面の存在によりアーク抜けや抜け落ちが生ずるとしているのに、請求項3は、この前提となる傾斜面の無いものについて権利を主張している。」(審判請求書第4頁第27?28行)

2 理由3
「本件出願日以前の’91年(平成3年)6月25日に、当時被請求人の社員であった石橋氏が北日本電極株式会社から依頼された依頼書に描かれていたエンドタブの形状を被請求人の社長であり、本件考案の考案者として公報に掲載されている長谷川和夫氏が見て、それを出願したものであり、真の考案者は甲第1号証にも記載されているように北川組の某者あるいはその者と上記石橋氏である」(審判請求書第5頁第6?10行)から、本件考案1?5についての実用新案登録は、いわゆる冒認出願に対してされたものであり、実用新案法第37条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。


[書証]
甲第1号証:平成3年6月25日受信ファクシミリ(栄豊物産株式会社宛)
甲第2号証:突合せ継手の構造及びその構造に本件考案1を用いた時の態様
を示す写真
甲第3号証:社団法人営繕協会編、「鉄骨工作標準 昭和57年版」、
株式会社建設出版センター、昭和57年5月28日印刷、
p.4
甲第4号証:社団法人公共建築協会編、
「建築鉄骨設計基準及び同解説 平成10年版」、第1版、
社団法人公共建築協会、平成11年3月25日、p.9
甲第5号証:社団法人日本建築学会編・著、
「建築工事標準仕様書 JASS 6 鉄骨工事」、
第7版第1刷、社団法人日本建築学会、
1996年2月20日、p.18-19
[人証]
証人:石橋力

第4 被請求人の主張及び提示する証拠方法
被請求人は、下記の証拠方法を提示し、次のとおり答弁して、本件考案1?5についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第1号又は第3号、並びに第4号に該当しない旨主張している。
1 理由1,2に対して
次のア?ウに指摘するとおり「図5?図9及びその説明に記載された本件考案の溶接用エンドタブの実施例に問題がなく、あり得ない実施例ではない。ただ、本願考案の溶接用エンドタブ等の使用方法を説明するための図面及び従来技術を説明するための図面の母材の図形に当業者が見れば自明な程度の不適切な記載が有っただけである」(答弁書第8頁第4?8行)から、本件考案1?5は考案未完成ではなく、明細書及び図面にも本件実用新案登録を無効にするほどの記載不備はない。
ア 乙第1号証(平成15年(ネ)第1901号の判決第8頁第12行?第9頁第8行参照)にもあるとおり「本件実用新案明細書の請求項1には、本件考案1の溶接用エンドタブが、いわゆる『突合せ継手』にのみ用いるものであることは記載されていない。」(答弁書第5頁第11?13行)
イ 乙第1号証(平成15年(ネ)第1901号の判決第10頁第1?19行参照)にもあるとおり「図4及び図5に記載されているような突合せ継手では、・・裏当金3を図4及び図5に記載されているように使用しないので、図4及び図5は適切でないこと、さらに図4及び図5において、裏当金3が母材の下に配置されていないのは、そのように配置できない理由があるためであること、すなわち、上記母材2には下方向に向けた延長部分があること(・・)は、当業者にとって自明のこと」(答弁書第5頁第17?24行)である。
ウ 本件考案1?5は「エンドタブに傾斜面4_(3)が存在することを前提とするものではない。」(答弁書第7頁第17?18行)

2 理由3に対して
次のア?ウの理由により「本件考案の溶接用エンドタブは、甲第1号証のファクシミリが送られてきた日より前から本件考案の考案者である長谷川和夫の発案に基づいて栄豊物産株式会社において開発に着手していたものである」(答弁書第8頁第17?19行)から、甲第1号証の存在に関わりなく、本件考案1?5の考案者は長谷川和夫である。
ア 甲第1号証に対し「既に開発を進めている」と回答。
乙第3号証陳述のとおり、日鐵商事溶材販売株式会社北海道営業所所長鈴木秀則が「甲第1号証のファックスを当時被請求人の営業課長である石橋課長に送ったこと、折り返し電話にて『既に(栄豊物産株式会社はこのようなタブ)開発を進めているので、御社の(提案)が最初ではありません。』と回答されたこと」を覚えている(答弁書第8頁第23?26行)。
イ 甲第1号証のファクシミリ受信後に、本件考案1?5の開発、出願手続に着手したのでは、本件出願日に間に合わない。
本件考案1?5についての出願人である栄豊物産株式会社は「アイデアが生まれてから特許、実用新案等の出願を弁理士に依頼するまでに少なくとも4か月、出願までに5か月程度、長い場合には全体で1年以上必要としていた」(答弁書第9頁第8?10行)から、「甲第1号証のファクシミリが送られてきた日から38日後に実用新案出願をすることができたのは、甲第1号証のファクシミリの到着以前から開発に着手していたからである。」(答弁書第9頁第14?18行)
「甲第1号証記載のタブの内容を知る前に本件考案の出願人である被請求人の社員が、本件考案の開発または出願の準備を進めていたことを裏付ける書証は、出願書類の原稿もないし、何故か甲第1号証の原本もない。甲第1号証記載のタブの内容を知る前から本件考案の開発を進めていたことは、証人により立証する。」(回答書第2頁第13?18行)
出願までに5か月程度かかることを裏付けるものについて「本件考案については、・・提出できるものがない。それ故、本件考案の前後に出願をした・・出願について存在するもの」(回答書第3頁第3?5行)を乙第4?7号証として提出する。
「石橋氏は、平成3年7月2日ごろ、・・製品形状(・・)の図面作成を行い、」(・・)と請求人は主張しているが、既に以前から元になる図面等があったからこそ、この様な適切な図面が短期間(ファクシミリが届いてから7日後)に作成ができたのである。」(口頭審理陳述要領書第5頁第24?29行)
ウ 長谷川和夫が考案者である。
乙第8号証に記載のとおり、本件考案1?5についての考案者である長谷川和夫は「本件考案の前後を通して溶接エンドタブ等に関する多くの特許、登録実用新案等の発明、考案等をし、これらの発明者、考案者等になっており、本件考案の考案者であることは容易に首肯できる。」(答弁書第9頁第19?22行)
本件考案1?5についての出願人である栄豊物産株式会社は「発明、考案等に社内の社員が加わっている場合には、共同発明者等(乙第8号証・・参照)として特許出願、実用新案出願・・をしており、・・また、発明、考案等に社外の人が加わっている場合には、共同発明者、共同考案者等とすると共に、その人が所属する会社等も共同出願人(乙第8号証・・参照)として特許出願、実用新案出願等をしており、他人の発明、考案等を冒認出願することはありえない。」(口頭審理陳述要領書第4頁第17?23行)
「請求人は、『本件考案の開発に長谷川氏が一切係わっていない。』(・・)と述べているが、栄豊物産株式会社は、会社組織であり、社長である長谷川和夫に決裁も無く、石橋氏個人一人が最終製品の形状まで決定し、製造することはできるはずがない。当然社長のアイデアや意見が入っており、仮に請求人が主張するように考案者でないとしても、本件考案の開発に長谷川氏が一切係わっていないと断言できないはずである。」(口頭審理陳述要領書第8頁第6?12行)
乙第12号証である「本件考案の試作品の金型を修正し、修正した形状のものの製品化を依頼した」石橋氏作成の書面のとおり、長谷川和夫は、本件考案の試作品を改良するため、外注先に指示を行っている(第2上申書第1頁第24?29行参照)。


[書証]
乙第1号証 :判決(平成15年(ネ)第1901号)
乙第2号証 :判決(平成11年(ワ)第19329号)の第1?7頁
乙第3号証 :日鐵商事溶材販売株式会社北海道営業所所長鈴木秀則の
陳述書
乙第4号証の1:平成1年11月30日付実用新案登録願及び添付書類
乙第4号証の2:実願平1-138877の出願番号通知
乙第4号証の3:平成1年7月14日付特許関係書類の送付書
乙第4号証の4:上記送付書に添付された明細書草案
乙第5号証の1:特開平4-200995号公報
(出願 平成2年11月30日)
乙第5号証の2:平成2年10月6日付特許関係書類の拝送書
乙第5号証の3:上記拝送書に添付された明細書案の修正
乙第5号証の4:平成2年8月17日受信ファクシミリ
(有限会社丸富硝子製作所宛)
乙第5号証の5:平成2年8月16日受信ファクシミリ
(有限会社丸富硝子製作所宛)
乙第5号証の6:平成2年6月11日付図面;9022
乙第6号証の1:特開平10-193180号公報
(出願 平成9年1月16日)
乙第6号証の2:平成8年12月25日付特許関係書類の拝送書
乙第6号証の3:平成8年11月15日受信ファクシミリ
(栄豊物産株式会社宛)
乙第6号証の4:平成8年10月30日付図面;FNK40
乙第7号証の1:平成13年11月12日付意匠登録願及び図面
乙第7号証の2:意願2001-33143の出願番号通知の受領書
乙第7号証の3:平成13年7月18日付図面;VY-32
乙第7号証の4:平成13年4月9日付図面;VY-55
乙第7号証の5:平成12年11月21日付図面;VY-32
(有限会社丸富硝子製作所宛)
乙第7号証の6:平成12年11月21日付図面;VY-32
(株式会社一鐵鐵工所宛)
乙第7号証の7:平成12年11月20日付図面(株式会社一鐵鐵工所宛)
乙第7号証の8:平成12年8月3日付図面(栄豊物産株式会社宛)
乙第8号証 :被請求人が出願した特許、実用新案、意匠の主なものの
リスト
乙第9号証 :昭和58年5月13日付の石橋力の書面
乙第10号証 :株式会社スノウチ取締役技術部長石橋力の陳述書
乙第11号証 :石橋力の履歴書
乙第12号証 :平成3年7月26日付書面(有限会社丸富硝子製作所宛)
[人証]
証人 :鈴木秀則
当事者:長谷川和夫

第5 当審の判断
1 理由1,2について
上記「第2 1」における請求人の考案未完成又は記載不備についての主張に対し、被請求人は上記「第3 1」の如く答弁している。そして、本件考案1?5は実施可能であって、設定登録時の図面の図4,5にある誤記が当業者にとって自明であるとする上記被請求人の答弁については妥当なものと認められるから、本件考案1?5は考案未完成であるとも、また、その明細書及び図面に、本件考案1?5を当業者がその実施をすることができないとするまでの記載不備があるともいうことができない。

2 理由3について
(1)実用新案法第37条第1項第4号に該当するか否かについて
争いのない事実及び証拠(甲第1号証)によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
・平成3年6月25日に、当時栄豊物産株式会社営業課長であった石橋力は、ロボット用フラックスタブの図面が記載された、当時北日本電極株式会社社員であった鈴木秀則が発信したファクシミリ(甲第1号証)を受領した。上記図面を作成したのは、北川組の社員である(甲第1号証、証人鈴木秀則及び証人石橋力の証人調書参照)。
・同日に、石橋力は栄豊物産株式会社社長の長谷川和夫に上記ファクシミリを見せた(証人石橋力の証人調書及び当事者長谷川和夫の本人調書参照)。
・平成3年8月2日に、栄豊物産株式会社は、長谷川和夫を考案者とする本件の実用新案登録出願をした。
・栄豊物産株式会社及び長谷川和夫は、上記ファクシミリに示されたロボット用フラックスタブについて、上記北川組の社員から実用新案登録を受ける権利を承継していない(第1回口頭審理調書「被請求人 4」参照)。

これらの事実を踏まえ、本件出願が実用新案法第37条第1項第4号に該当するか否かについて、以下検討する。
[本件考案1?5と上記ファクシミリに示された図面記載の考案との関係]
(i)上記ファクシミリに示された図面記載の考案
上記ファクシミリに示された図面には、ロボット用フラックスタブとして以下の形状のもの(以下「甲第1号証記載の考案」という。)が記載されているものと認められる。
ロボット用フラックスタブにおいて、開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており、かつ、開先加工面を有しない母材側の非使用面が、開先底部レベルを越えて延長した脚部を備えた形状である裏当金に載せて使用するロボット用フラックスタブ。
(ii)本件考案1?5と甲第1号証記載の考案との対比・判断
そこで、甲第1号証記載の考案と本件考案1とを対比すると、前者の「ロボット用フラックスタブ」は、その技術的意義からみて、後者の「耐火物製エンドタブ」及び「溶接用エンドタブ」に相当し、両者は「耐火物製エンドタブにおいて、開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており、かつ、開先加工面を有しない母材側の非使用面が、開先底部レベルを越えて延長した脚部を備えた形状である裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ」の構成で一致するから、上記甲第1号証記載の考案は、本件考案1における「溶接用エンドタブ」としての構成を全てすべて具備している。
また、甲第1号証の図面に記載された裏当金の配置からみて、前者が「少なくとも一方の母材に開先加工面が形成されていない母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に」も用い得ることは当業者にとって明らかで、かつその際に、その図面に記載された脚部によって「抜け落ちを効果的に防止することができる」との作用効果を奏することも、当業者であればその実施の態様から推察し得ることであるから、両者はその用途及び作用効果についても共通する。
さらに、本件考案1を引用する本件考案2?5の限定事項についてみても、当業者の技術常識を勘案すれば、甲第1号証の図面の記載から自明な事項であると認められる
そうすると、本件考案1?5と甲第1号証記載の考案とは、実質的に同一であると認められる。
[本件考案1?5の真の考案者]
上述したように、本件出願に考案者として掲げられている長谷川和夫が、本件考案1?5についての実用新案登録出願の1か月以上前に甲第1号証記載の考案を知っていたことを勘案すると、長谷川和夫が甲第1号証のファクシミリの内容を知る前に、別途独自に本件考案1?5を完成させていたとの事実がない限り、本件考案1?5についての真の考案者は上記北川組の社員であって、長谷川和夫ではないと云わざるを得ない。

ところで、被請求人は、甲第1号証のファクシミリ受信前に長谷川和夫が本件考案1?5について考案をし、栄豊物産株式会社において開発に着手していたと主張し、その根拠として、上記「第4 2 ア?ウ」の事項を挙げている。
そして、証拠調べにおいて当事者長谷川和夫は概略以下のように証言している(当事者長谷川和夫の本人調書参照)。
エ 「・・その年の・・桜が終わった時期・・、川崎重工野田工場・・訪問して、営業活動をした時に、現場の方々、・・セラミックタブについて、同幅のV型については若い人がやるとアーク抜けが起きると。その理由は、狭いところだし、溶接面を被ってやる瞬間に手元が狂うと。・・じゃあどうするかと言った時に、そのまま柱側の底に当たる堰を伸ばせばいいのではないかということで考えたわけです。帰りの電車の中です。」
オ 甲第1号証を示す。「(この書類を見たことがありますか。)ございます。・・ファックスはすぐそばにありますから、入ってくれば当然私に見せたと思いますし、私も見たと思います。同日に。・・(石橋さんに何らかの指示を与えましたか。)みんな、やはり同じことを考えるんだねと。誤解を受けるといけないから早く連絡して、うちが現在進めていることを説明したらどうですかという指示はしました。」
カ 「(具体的にあなたが脚部を付けたらいいのではないかという発想を思いついた際に、それを実現するために何らかの手段に出ていましたか。)実現するというのは、私どももメーカーの一部ですから、当然石橋さんに、こういうアイデアで、こうやって脚を出して、試作してやるから図面を作ってくださいという指示はさせました。・・脚部を付けたセラミックタブの図面を作りなさいということを言ったわけです。」
キ 「(改良したというような経緯はありますか)・・最初やったときに、ただ脚を出すだけですと、セラミックタブの柱側はテーパーが付いていますから、ちょうど裏当金のところに三角形の隙間が出来るわけです。・・あまりうまくいかないから、じゃあどうしようか、だったらテーパーを取らなければいいだろうということでテーパーを取らないようにして製品化して、早急に販売しましょうということは彼には言いました。」
ク 「(あるべき書類がなかったということですが、それについてあなたは、何故ないと思いますか。)・・青島氏が平成5年7月末に退職したと。石橋氏が平成6年1月末ですか。・・脚出しとかガス抜きを・・新たに作るために図面等を持ち出したと思います。」
ケ 「(第1回目の試作品の図面が出来上がったのはいつ頃ですか。)5月の連休明けだと思います。連休終わった後に私見ていますから。・・通常は図面が出来上がれば、その日に丸富にファックスで流します。ファックスで流したイコールいわゆる試作のスタートです。」
コ 「(出願の例えば控え等を、出願の代理業務をされた、・・中村事務所、・・も探されましたか。)はい。・・ないということでした。」
サ 「(本件の内容・・について、石橋さん、・・もしくは北川組の・・方から特許(当審注:実用新案登録)を受ける権利の承継、譲渡された・・事実はありますか。)そんなことはないです。」

以下被請求人の主張ア?ウについて検討する。
<ア について>
被請求人は、甲第1号証に対し「既に開発を進めている」と回答したことから、甲第1号証のファクシミリ受信前に本件考案1?5についての開発が行われていた旨主張している。
しかしながら、その回答自体はファクシミリ受信後のものであり、しかも、他にファクシミリ受信の時点で「既に開発を進めている」ことを示す証拠も一切示されていない以上、上記回答のみによって、本件考案1?5についての開発がファクシミリ受信前に行われていたと認めることはできない。
<イ について>
被請求人は、アイデアが生まれてから出願までに5か月程度必要であることから、甲第1号証のファクシミリ受信の日から38日以内に実用新案出願をすることはできない旨主張している。
しかしながら、仮に通常の出願に5か月以上かかっていたとしても、本件において出願に5か月以上かかっていたかどうかはまた別問題である。
そして、本件において「出願に5か月以上かかっていた」ことを示す証拠は一切ない。
また、ファクシミリに示される図面があれば、さほど時間を要さずに特許等の図面は作成できること、及び、乙第8号証の特許等のリストから栄豊物産株式会社が溶接用エンドタブ等の出願を数多く行っており、これらの出願について栄豊物産株式会社及び代理人とも慣れていたことを考えると、1か月強の期間があればその出願をすることは可能であるとも推定できる。
してみると、甲第1号証のファクシミリ受信の日から38日以内に実用新案出願をすることはできないとする被請求人の上記主張も採用することができない。
<ウ について>
被請求人は、長谷川和夫が発明者等となっている特許等のリストを示しているが、上記リストにおける特許等は「溶接エンドタブ等」についてのものであって、本件考案1?4についての一連の出願のリストではなく、また、甲第1号証のファクシミリ受信前に出願された、リストにおける特許等の内容についてみても、その中に本件考案1?5との関連を示すもの、例えば「抜け落ち防止用脚部」の構成、「抜け落ち防止」の課題等を示唆するものも認められず、仮に長谷川和夫がリストにおける特許等について発明等をしていたとしても、上記リストから、甲第1号証のファクシミリ受信前に長谷川和夫が本件考案1?5について考案をしていたとまでは云うことはできない。
また、栄豊物産株式会社では、共同発明者等がいる場合は通常記載していること、開発においては通常長谷川和夫のアイデアや意見が入ること、そして甲第1号証のファクシミリ受信後である乙第12号証において、長谷川和夫が本件考案1?5についての改良を指示していることがそれぞれ事実であったとしても、これらの事実は、甲第1号証のファクシミリ受信前に長谷川和夫が本件考案1?5について考案をしていたことに関するものではない。
してみると、上記いずれの理由も、甲第1号証のファクシミリ受信前に長谷川和夫が本件考案1?5について考案をしていたとする被請求人の主張を裏付けるものということができず、つまるところ、被請求人の主張を裏付けるものは当事者長谷川和夫の証言のみである。

そして、長谷川和夫は証拠調べにおいて、平成3年の「桜の終わった時期」に「川崎重工業野田工場」を訪問した「帰りの電車の中」で「柱側の底に当たる堰を伸ば」すことを考え、石橋力に「脚部を付けたセラミックタブの図面を作りなさい」と指示し、「5月の連休明け」に「第1回目の試作品の図面」を見たと証言している(上記長谷川和夫の証言内容エ、カ、ケを参照)。
しかしながら、長谷川和夫の上記証言内容を裏付ける証拠は一切示されていないこと、また、甲第1号証のファクシミリを受信した平成3年6月25日から試作サンプル依頼等を行い、乙第12号証にあるとおり平成3年7月26日に製品化を依頼したとしても期間的に説明が可能であり、上記証言通りでなくても何ら矛盾が生じないことを勘案すると、当事者である長谷川和夫の上記証言に、信憑性を認めることができない。
したがって、上記被請求人の主張する理由はいずれも採用できず、また、当事者長谷川和夫の証言にも信憑性が認められないから、甲第1号証のファクシミリ受信前に長谷川和夫が本件考案1?5について考案をしていたと認め得ない。
[実用新案登録を受ける権利の承継]
そして、上述したように、栄豊物産株式会社及び長谷川和夫は、甲第1号証記載の考案について、上記北川組の社員から実用新案登録を受ける権利を承継していない。
[むすび]
したがって、本件考案1?5についての実用新案登録は、考案者でない者であつてその考案について実用新案登録を受ける権利を承継しないものの実用新案登録出願に対してされたものであるということができる。

(2)実用新案法第11条第1項で準用する特許法第38条(共同出願)の規定違反について(実用新案法第37条第1項第1号に該当するか否かについて)
請求人は、第2口頭審理陳述要領書第3頁第1?3行で、「石橋氏は、本件考案につき自己の実用新案登録を受ける権利の持ち分を被請求人である栄豊物産株式会社に譲渡していない。したがって、本件特許は、実用新案登録を受ける権利を有していない者に与えられた特許であり、従って、無効となるべきである。」と述べている。上記内容を勘案すると、請求人の主張する「いわゆる冒認」は、実用新案法第11条第1項で準用する特許法第38条の共同出願に関する規定違反をも意味していると認められる。
そこで検討するに、仮に、本件考案1?5と甲第1号証記載の考案とが実質的に同一でないとしても、甲第1号証の考案は、少なくとも本件考案1?5のうち「耐火物製エンドタブにおいて、開先断面にほぼ対応する溶接使用面とその両面に非使用面を備えており、かつ、開先加工面を有しない母材側の非使用面が、開先底部レベルを越えて延長した脚部を備えた形状である裏当金に載せて使用する溶接用エンドタブ」との事項を備えている。
そうすると、甲第1号証のファクシミリに示された図面を作成した上記北川組の社員は、本件考案1?5についての考案者の一人、すなわち共同考案者であると云うべきである。
ところで、上述したように、栄豊物産株式会社及び長谷川和夫は、甲第1号証記載の考案について、上記北川組の社員から実用新案登録を受ける権利を承継していない。
したがって、本件出願は、本件考案1?5について実用新案登録を受ける権利が共有に係るものであるにも関わらず、共同によりその実用新案登録出願をしたものでないから、本件考案1?5についての実用新案登録は、実用新案法第11条第1項で準用する特許法第38条の規定に違反してなされたものであり、実用新案法第37条第1項第1号(上記理由1)に該当し、無効とすべきであるともいうことができる。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件考案1?5についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第4号又は同項第1号に該当し、無効とすべきものである。
よって、本件審判費用の負担については実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項においてさらに準用する民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-05-06 
結審通知日 2004-05-10 
審決日 2004-05-21 
出願番号 実願平3-68761 
審決分類 U 1 112・ 531- Z (B23K)
U 1 112・ 14- Z (B23K)
U 1 112・ 152- Z (B23K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 鈴木 孝幸
神崎 孝之
登録日 1997-11-28 
登録番号 実用新案登録第2564570号(U2564570) 
考案の名称 溶接用エンドタブ  
代理人 荒崎 勝美  
代理人 武田 正彦  
代理人 滝口 昌司  
代理人 川崎 仁  
代理人 中里 浩一  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ