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審決分類 審判 全部無効   B42F
管理番号 1139402
審判番号 無効2005-80336  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2006-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-25 
確定日 2006-06-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第2505934号実用新案「バインダ構造」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.手続きの経緯・本件考案
本件登録第2505934号実用新案(以下、「本件考案」という。)に係る出願は、平成3年4月9日に実用新案登録出願され、平成8年5月16日に設定登録されたものであって、本件考案は、明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「上方に湾曲する本体枠と、この本体枠の内部に配設され互いに係合部を以て当接された一対の作動板と、この作動板に設けられた複数の綴環と、前記作動板の長手方向両端に取り付けられる開閉レバーとを備えたバインダにおいて、前記開閉レバーは、下方へ向く端部支持脚を両端に有して内側に湾曲する支持部と、この支持部の中央から下方に向けて突出する首部と、この首部を水平方向に圧し曲げて成る水平部と、この水平部と前記首部の交差部分に形成される段部と、前記水平部を上方へ圧し曲げて成る把手部とでJ字形に成形され、また前記作動板の長手方向両端近傍における両側縁に切欠溝を形成するとともに、前記作動板の長手方向両端における中央にはその切欠溝に挟まれる溝孔を形成し、前記切欠溝に開閉レバーにおける支持部の端部支持脚が係合され、また前記溝孔には開閉レバーの首部が係合され、更に開閉レバーを起立状態にしたときには支持部の底面が作動板に密着し且つ頂部が本体枠における内面の頂部に当接して前記綴環の開放を抑止するようにしたことを特徴とするバインダ構造。」

2.請求人の主張
審判請求人は、甲第1号証(=実公平2-11184号公報)及び甲第2号証(=実公昭52-30982号公報)を提出して、本件考案は、本件考案の出願前に、当業者が甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効にすべきであると主張している。

3.甲各号証
上記甲第1号証及び甲第2号証には、本件考案に関連する事項として以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証
ア.「金属製薄板で形成した枠体1の中に一対の跳ね板2,2′を対向する側縁に設けた係合爪3,3′を係合せしめて介装し、枠体1の弾性力を利用して跳ね板2,2′の係合縁4,4′を枠体1内で操作レバー5,5′により上下向きにスナツプ運動せしめ、跳ね板2,2′の面上に固定され枠体1上に突出している複数対の半割の綴環6,6′を上記のスナツプ運動により開閉させる構造のリングバインダー本体7に於て、操作レバー5,5′をほぼ逆さ7の字形状を呈するように形成して長い方の垂直部8を指当部分9とし、また水平部10と短い方の垂直部11との連続個所の両側に一対の深い切込12,12′を設けて同個所を首部分13とし、この首部分13を跳ね板2,2′の係合縁4,4′の端部寄り個所を切欠いて設けた開孔14に嵌着することによつて操作レバー5,5′をリングバインダー本体7に、短い方の垂直部11が跳ね板2,2′の上面と枠体1の下面の間に、水平部10が跳ね板2,2′の下面に、指当部分9がリングバインダー本体7の両端より外に夫々突出した状態として起伏自在に取付け、更に上記の深い切込12,12′に於て水平部10側の切縁を操作レバー5,5′の倒伏時にハの字形状を呈する押上用傾斜縁16,16′とし、同じく短い方の垂直部11側の切縁を操作レバー5,5′の起立時に逆ハの字形状を呈する押下用傾斜縁17,17′とし、また短い方の垂直部11の左右両側個所を内方に彎曲させて同左右両側個所を押下脚部18,18′を形成し、操作レバー5,5′を倒伏した時には上記の押上用傾斜縁16,16′の内端個所が両跳ね板2,2′の係合縁4,4′部を上方に、押下脚部18,18′が両跳ね板2,2′の外側縁20,20′部を下方に夫々同時に押圧して両跳ね板2,2′を上方にスナツプ運動するようにし、同じく起立した時には上記の押下用傾斜縁17,17′の内端個所が両跳ね板2,2′の係合縁4,4′部を下方に、短い方の垂直部11の頂縁21が枠体1の下面を上方に夫々同時に押圧して両跳ね板2,2′を下方にスナツプ運動するようにして成るリングバインダー。」(実用新案登録請求の範囲)
イ.「本考案においては操作レバーにおける短い方の垂直部の左右両側個所を内方に彎曲させて同左右両側個所に押下脚部を形成し、操作レバーを倒伏した時にはその切込における押上作用部が両跳ね板の係合縁部を上方に、また押下脚部が両跳ね板の外側縁部を下方に夫々同時に押圧して両跳ね板を上方にスナツプ運動するようにし、同じく起立した時には上記切込における押下作用部が両跳ね板の係合縁部を下方に、また短い方の垂直部の頂縁が枠体の下方に夫々同時に押圧して両跳ね板を下方にスナツプ運動するようにしたので跳ね板の上方へのスナツプ作用時には操作レバーの同跳ね板への作用点が2ケ所となり、また同じく下方へのスナツプ作用時には短い方の垂直部の頂縁と枠体下面との接合点がレバーの押下作用部の押下力を助勢するので跳ね板の上下何れの方向へのスナツプ作用も力のロスを伴うことなく軽快に行うことができ」(2頁4欄38行?3頁5欄11行)
ウ.第2図から、短い方の垂直部11に形成される押下脚部18,18′と水平部に形成される押上用傾斜縁16,16′は、首部分13を挟んでそれぞれ逆ハの字状とハの字状をしていることが看取できる。
エ.第3、5及び7図から、枠体1が上方に湾曲していること、跳ね板2,2′が、枠体1の両側縁部に設けられた折り曲げ部の内部の接触部を支点として、側面視逆ハの字形状からハの字形に揺動すること、操作レバー5,5′の短い垂直部11の左右両側個所を内方に湾曲させて形成した押下脚部18,18′が跳ね板2,2′の幅方向のほぼ真ん中に当接することが看取できる。
オ.第4、6及び8図から、操作レバー5,5′は、リングバインダーの表紙の背部と当接する、長い方の垂直部8と水平部10との接続部分を支点として、起立及び倒伏可能であることが看取できる。
以上の記載を対比のためにまとめると、上記甲第1号証には以下の考案が記載されている。
「上方に湾曲する枠体1と、この枠体1の内部に配設され互いに係合縁4,4′を以て当接された一対の跳ね板2,2′と、この跳ね板2,2′に設けられた複数の綴環6,6′と、前記跳ね板2,2′の長手方向両端に取り付けられる操作レバー5,5′とを備えたリングバインダーにおいて、前記操作レバー5,5′は、左右両側個所を内方に彎曲させて同左右両側個所を押下脚部18,18′を形成した短い方の垂直部11と、この支持部の中央から下方に向けて突出する首部分13と、この首部分13を水平方向に圧し曲げて成る水平部10と、前記水平部10を上方へ圧し曲げて成る長い方の垂直部8である指当部分9とでほぼ逆さ7の字形状を呈するように形成され、また前記跳ね板2,2′長手方向両端における中央には開孔14を形成され、前記開口14には操作レバー5,5′の首部分13が係合され、操作レバー5,5′は、長い方の垂直部8と水平部10との接続部分と該接続部分が当接するリングバインダーの表紙の背部とにより構成される支点により、起立及び倒伏可能であり、操作レバー5,5′を倒伏状態にしたときには、水平部10のハの字状の押上用傾斜縁16,16′の内端個所が両跳ね板2,2′の係合縁4,4′部を上方に、押下脚部18,18′が両跳ね板2,2′の外側縁20,20′部を下方に夫々同時に押圧して、操作レバー5,5′を起立状態にしたときには短い方の垂直部11の逆ハの字状の押下用傾斜縁17,17′が両跳ね板2,2′の係合縁4,4′部を下方に、短い方の垂直部11の頂縁21が枠体1の内面の頂部を上方に夫々同時に押圧して前記綴環6,6′の開放を抑止するようにしたリングバインダー。」(以下、「甲1考案」という。)

(2)甲第2号証
ア.「ケース部材1と、該部材のポケット部分8,8に係合する部分を支点として上下向きスナップ運動可能なようにケース部材1内に収容され高弾性を具えた丁番板2,3および該丁番上に一端を固定して設けられた複数の半環状金具2′,3′、ならびに前記金具2′,3′を開閉してルーズリーフ用紙の綴じ込みと取外しを行えるように形成された作動レバー4とより成るルーズリーフ・バインダにおいて、作動レバー4が(イ)丁番板2,3に設け切欠き孔21の中に嵌合して丁番板2,3を上下向きにスナップ運動させるように形成した逆T形突出部分23と半環状金具2′,3′を閉じるように丁番板2,3下向きに突出させるときに丁番板2,3を押さえるように形成された脚部分24とを具えたボディ部分13と(ロ)ボディ部分13に連続して形成された丁番板2,3を容易に上向きに押し上げて突出させて半環状金具2′,3′を閉じた状態から開らいた状態に転換させるための引金部分12とより成り、かつ、前記のボディ部分13の上端部16の表面の主部分16aがケース部材1のクラウン部分内面に緊密に係合して丁番板2,3を下向きに押し下げるために引金部分12をケース部材と直角をなすように押し上げたときに容易に水平位置に引金部分12が復帰してルーズリーフ用紙が半環状金具2,3から脱け出すのを防止し得るように改良した安全固定装置付きルーズリーフ・バインダ」(実用新案登録請求の範囲)
イ.「ケース部材1の断面形状は、アーチ状のクラウン部と、該部に連続する左右の縁部7を内側に曲げ込んで形成した丁番板収容用のポケット部分8とより成る一種のアーチ状をなしているが、前記ポケット部分8は各丁番板2,3の縦方向外側端部の嵌合部分であるとともに、上下運動時の支点部分にもなる部分である。また丁番板2,3の縦方向内側端部は、丁番板上下向きスナップ運動時においても常時全長にわたつて密接して外れないように、第3図に図示の如き複数の半円形突起部6bを前記各丁番板内側側端部の適当な部分に設け、一方の丁番板の突起部6bが他方の丁番板の内側端部の上に乗り上げ得るように形成する。」(2頁4欄5?17行)
ウ.「作動レバー4は、作動部分11と引金部分12とより成り、ケース部材1の両端部に設けてある。作動部分11を形成するボデイ部分13の上端部分16の形状はアーチ状でケース部材1のクラウン部分の内側に密接させ得るように形成されており、また、ボデイ部分13と引金部分12とは図示の如く並行するように階段状に連続して直角に曲げ成形されており、従って、上端部分16とボデイ部分13とは接続部15で互いに直角をなすように接続されていることになる。」(2頁4欄41行?3頁5欄7行)
エ.「ボデイ部分13の下端部には脚部分14が設けてあるが、該部分の先端部分14aは引金部分12に向かって上向に曲げてあり、第3図に図示の如く、丁番板2,3の外側端部に設けた切欠き部分18に係合し、脚部分14とボデイ部分13の下端部との間のコーナー部分14bが切欠き部分18と接触して作動レバー4の支点を構成する」(3頁5欄22?29行)
オ.「ボデイ部分13の下端部中央には丁番板引掛け用の逆T形突出部分23が設けてあり、該部分23の根元部分20が丁番板2,3内側端部隣接面に沿って形成された1対の切欠き孔21の中に嵌合し、切欠き孔21の外に突出した逆T形突出部分23の内肩部分が、作動レバーの倒れ位置において丁番板2,3の下面と係合して、丁番板表面がケース部材1の内面と近接する位置まで持ち上げ得るように形成されているものとする。また、第7図に図示の如く、ボディ部分13の下端部には、先端部分を若干上向きに曲げた1対の脚部分24を設け、丁番板2,3の上面と接触する点を作動レバー支点とするように形成する。次に、作動レバー4の作用を第6,6a両図について説明する。図示の位置、すなわち、作動レバー倒れ位置においては、1対の半環状金具2′,3′は相互に開き、ボディ部分13は丁番板2,3とケース部材1との間に挟まれて水平姿勢を保っており、既述の用紙の綴孔に自在に半環状金具を通すことができる。用紙を綴じ終れば、引き金部分12を第7図の位置、すなわち、大約45°前後の傾角となるまで引き起こすと、ボディ部分13の上端部分16がケース部材1の中にすべりながら押し込まれ、脚部分24の先端部前面が丁番板2,3の表面に接触し、この接触面が作動レバーの支点になる。」(3頁5欄30?6欄11行)
カ.「ボディ部分13の上端部16の表面の主部分(第4図の点線括弧部分)16aが、概要既述の如くケース部材1の内面に緊密に係合し、その他の部分16bはケース部材1の内面に軽く接触し、また脚部分24の先端部が丁番板2,3の表面に緊密に係合するように形成してあるので、丁番板は下向きに突出状態になり、従って半環状金具2′,3′が閉じることになる。」(3頁6欄33?41行)
キ.「半環状金具2′,3′を開くには、引金部分12の先端付近で手指で、第7b図の状態から第7a図および第7図の状態に、次いで第6図の状態になるまで外向きに押し下げると、丁番板2,3が上向きに突出する状態になり、従って、半環状金具が開けることになる。この時の支点位置や各係合部分の状態は、半環状金具を閉じる場合とほぼ同様である」(4頁8欄1?8行)
以上の記載を対比のためにまとめると、上記甲第2号証には以下の考案が記載されている。
「アーチ状のケース部材1と、このケース部材1の内部に配設され互いに半円形突起部6bをもつ内側側端部を以て当接された一対の丁番板2,3と、この丁番板2,3に設けられた複数の半環状金具2′,3′と、前記丁番板2,3の長手方向両端に取り付けられる作動レバー4とを備えたルーズリーフ・バインダにおいて、前記作動レバー4は、中央から下方に向けて突出する根元部分20をもつ逆T形突出部分23と下方へ向く脚部分14を両端に有して内側に湾曲するボデイ部分13により形成される作動部分11と引金部分12とよりなり、ボデイ部分13と引金部分12とは並行するように、ボデイ部分の上端部分16に接続される接続部15を介して階段状に連続して直角に曲げ成形されており、ボデイ部分13の下端部の脚部分14の先端部分14aは引金部分12に向かって上向に曲げてあり、丁番板2,3の外側端部に設けた切欠き部分18に係合し、脚部分14とボデイ部分13の下端部との間のコーナー部分14bが切欠き部分18と接触して作動レバー4の支点を構成する共に、前記丁番板2,3の長手方向両端における中央にはその切欠き部分18に挟まれる切欠き孔21の中に、作動レバー4におけるボデイ部分13の下端部中央に設けられた逆T形突出部分23の根元部分20が嵌合し、切欠き孔21の外に突出した逆T形突出部分23の内肩部分が、作動レバー4の倒れ位置において丁番板2,3の下面と係合して、丁番板表面がケース部材1の内面と近接する位置まで持ち上げ得るように形成され、更に作動レバー4の引金部分12を起立状態にしたときにはボデイ部分13の下端部に設けられた脚部分24が作動板に密着し且つボデイ部分13の上端部16の表面の主部分16aがケース部材1における内面の頂部に当接して前記半環状金具2′,3′の開放を抑止するようにしたルーズリーフ・バインダ。」(以下、「甲2考案」という。)

4.当審の判断
(1)進歩性の検討1
先ず、本件考案が上記甲1考案を出発点として当業者がきわめて容易に考案できるか否かについて検討する。
本件考案と上記甲1考案とを対比する。
甲1考案の「枠体1」、「係合縁4,4′」、「跳ね板2,2′」「綴環6,6′」、「ほぼ逆さ7の字形状を呈するように成形された操作レバー5,5′」、「短い方の垂直部11」、「首部分13」、「水平部10」、「水平部10の逆ハの字状の押上用傾斜縁16,16′」、「長い方の垂直部8である指当部分9」、「開孔14」、「短い方の垂直部11のハの字状の押下用傾斜縁17,17′」及び「リングバインダー」は、それらの配置関係及び機能からみて、本件考案の「本体枠」、「係合部」、「作動板」、「綴環」、「J字形に成形された開閉レバー」、「支持部」、「首部」、「水平部」、「段部」、「把手部」、「溝孔」、「支持部の底面」及び「バインダ構造」に相当している。
また、甲1考案の「短い方の垂直部11」と本件考案の「支持部」とは内側に(すなわち本体枠あるいは作動板の長手方向中央側に)湾曲する点で共通している。
さらに、甲1考案の「水平部10の逆ハの字状の押上用傾斜縁16,16′」と本件考案の「水平部と首部の交差部分に形成される段部」とは、水平部の端縁である、作動板の係合部を押し上げる部分である点で共通している。
そうすると、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「上方に湾曲する本体枠と、この本体枠の内部に配設され互いに係合部を以て当接された一対の作動板と、この作動板に設けられた複数の綴環と、前記作動板の長手方向両端に取り付けられる開閉レバーとを備えたバインダにおいて、前記開閉レバーは、内側に湾曲する支持部と、この支持部の中央から下方に向けて突出する首部と、この首部を水平方向に圧し曲げて成る水平部と、この水平部の端縁である作動板の係合部を押し上げる部分と、前記水平部を上方へ圧し曲げて成る把手部とでJ字形に成形され、また前記作動板の長手方向両端における中央には溝孔を形成し、前記溝孔には開閉レバーの首部が係合され、更に開閉レバーを起立状態にしたときには支持部の底面が作動板に密着し且つ頂部が本体枠における内面の頂部に当接して前記綴環の開放を抑止するようにしたバインダ構造。」
[相違点]
A.本件考案では、開閉レバーの支持部が、下方へ向く端部支持脚を両端に有していると共に作動板の長手方向両端近傍における両側縁に切欠溝を形成し、前記切欠溝に前記端部支持脚が係合される構成を具備しているのに対して、甲1考案ではかかる構成を具備していない点、
B.開閉レバーの水平部の端縁である作動板の係合部を押し上げる部分が、本件考案では、水平部と首部の交差部分に形成される段部であるのに対して、甲1考案では、首部分(首部)から拡がるハの字状の押上用傾斜縁16,16′である点。
[相違点の判断]
相違点Aについて、
甲2考案は、1対の丁番板2,3(本件考案の作動板に相当、以下、同様に本件考案の相当する構成を括弧内に示す。)を側面からみて、逆ハの字形からハの字形に動作させるための作動レバー4(開閉レバー)の作動部分11を形成するボデイ部分13(支持部)が、下方へ向く脚部分14(端部支持脚)両端に有していると共に丁番板2,3(作動板)の長手方向両端近傍における両側縁に切欠き部分18(切欠溝)を形成し、前記切欠き部分18(切欠溝)に前記下方へ向く脚部分14(端部支持脚)が前記切欠き部分18(切欠溝)に係合させる構成(以下、「支持脚係合構成」という。)を備えていると認められる。
そこで、甲2考案の前記支持脚係合構成を甲1考案に採用することを当業者がきわめて容易に想到し得るか否かについてさらに検討する。
甲2考案の支持脚係合構成は、上記3.(2)エ.から、下方へ向く脚部分14(端部支持脚)と1対の丁番板2,3の両外側縁形成された切欠き部分18(切欠溝)とで作動レバー4(開閉レバー)の回動支点(不動点)を構成するために採用されたものであることが明らかである。
ところで、甲1考案における操作レバー5,5′(開閉レバー)の支点(不動点)は、長い方の垂直部8と水平部10との接続部分と該接続部分が当接するリングバインダーの表紙の背部とにより構成されるものであり(上記3(1)オ.参照)、すなわち、甲1考案は、操作レバー5,5′(開閉レバー)の支点(不動点)は既に存在しており、甲1考案に上記甲2考案の支持脚係合構成を採用することは、操作レバー5,5′(開閉レバー)の支点(不動点)位置を、バインダ構造の表紙の背部から1対の跳ね板2,2′(作動板)両外側縁部分に変更することに他ならない。別の言い方をすれば、操作レバー5,5′(開閉レバー)の支点(不動点)位置を、バインダ構造の表紙の背部部分としたまま甲2考案の支持脚係合構成を採用することはできない。
しかも、甲1考案における操作レバー5,5′(開閉レバー)の各構成部分及び枠体1(本体枠)等は、操作レバー5,5′(開閉レバー)の支点の構成に合わせて寸法や形状が規定されているものであって、甲1考案に、上記甲2考案の支持脚係合構成を採用することは、上記支点の変更と共に操作レバー5,5′(開閉レバー)の各構成部分及び枠体1(本体枠)等の寸法や形状の変更を余儀なくするものでもあり、したがって、甲1考案に甲2考案の支持脚係合構成を単に組み合わせることにより、本件考案の構成が得られるものでもない。
したがって、上記相違点Aに係る構成は、甲1考案と甲2考案に基づいてあるいは甲1考案と甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者がきわめて容易に想起できるものとすることができない。
相違点Bについて、
開閉レバーの水平部の端縁である作動板の係合部を押し上げる部分が、水平部と首部の交差部分に形成される段部であるか首部から拡がるハの字状の傾斜縁であるか否かで、その作用効果に格別差異があるわけでないから、上記相違点Bに係る構成は、作動板との接触の際の摩擦抵抗の大きさや摩耗等を勘案して当業者が適宜決定する設計事項の範囲を超えるものでない。

(2)進歩性の検討2
次に、本件考案が上記甲2考案を出発点として当業者がきわめて容易に考案できるか否かについて検討する。
本件考案と上記甲2考案とを対比する。
甲2考案の「アーチ状のケース部材1」、「半円形突起部6bをもつ内側側端部」、「丁番板2,3」、「半環状金具2′,3′」、「作動レバー4」、「作動部分11を形成するボデイ部分13」、「引金部分12」、「脚部分14」、「切欠き部分18」、「切欠き孔21」、「逆T形突出部分23の根元部分20」、「逆T形突出部分23の内肩部分」、「ボデイ部分13の下端部に設けられた脚部分24」、「ボデイ部分13の上端部分16の表面の主部分16a」及び「ルーズリーフ・バインダ」は、それらの配置関係と機能からみて、本件考案の「上方に湾曲する本体枠」、「係合部」、「作動板」、「綴環」、「開閉レバー」、「支持部」、「把手部」、「端部支持脚」、「切欠溝」、「首部」、「段部」、「支持部の底面」、「支持部の頂部」及び「バインダ構造」に相当している。
また、甲2考案の「逆T形突出部分23の内肩部分」と本件考案の「段部」とは、作動板の係合部を押し上げる部分である点で共通している。
そうすると、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「上方に湾曲する本体枠と、この本体枠の内部に配設され互いに係合部を以て当接された一対の作動板と、この作動板に設けられた複数の綴環と、前記作動板の長手方向両端に取り付けられる開閉レバーとを備えたバインダにおいて、前記開閉レバーは、下方へ向く端部支持脚を両端に有して内側に湾曲する支持部と、この支持部の中央から下方に向けて突出する首部と、作動板の係合部を押し上げる部分と、把手部と成形され、また前記作動板の長手方向両端近傍における両側縁に切欠溝を形成するとともに、前記作動板の長手方向両端における中央にはその切欠溝に挟まれる溝孔を形成し、前記切欠溝に開閉レバーにおける支持部の端部支持脚が係合され、また前記溝孔には開閉レバーの首部が係合され、更に開閉レバーを起立状態にしたときには支持部の底面が作動板に密着し且つ頂部が本体枠における内面の頂部に当接して前記綴環の開放を抑止するバインダ構造。」
[相違点]
開閉レバーにおける支持部と把手部の接続態様が、本件考案では、支持部から突出する首部を水平に圧し曲げて成る水平部を上方に圧し曲げて把手部を形成するのに対して、甲2考案では、ボデイ部分13の上端部分16の表面の主部分16a(支持部の頂部)に直角に接続される接続部15を介してボデイ部分13(支持部)と並行するように階段状に連続して直角に曲げて引金部分12(把手部)を形成している点、
[相違点の判断]
当該相違点は、一見すると、開閉レバーにおける支持部と把手部の接続態様を見る限り、把手部を支持部の頂部に接続させるか、支持部の首から形成される作動板の係合部を押し上げる部分に接続させるかの違いにすぎないように見えるが、甲2考案において、引金部分12(把手部)の接続位置を、ボデイ部分13の上端部分16の表面の主部分16a(支持部の頂部)から逆T形突出部分23の内肩部分(押し上げる部分)に変更することは、甲2考案の逆T形突出部分23の内肩部分とバインダ構造の表紙の背部との間に、引金部分12と水平接続部(引金部分12と逆T形突出部分23の内肩部分とを接続する部分)とから成る部分が起伏できる隙間があってはじめて許される変更であり、甲2考案には、甲2号証の図面を見る限り、このような隙間が存在していない。
また、把手部を支持部の押し上げる部分に接続するように構成した開閉レバーの支点を1対の作動板の外側縁上に設けることについて、甲第1号証には何らの記載も示唆もなく(甲1考案の開閉レバーの支点は、上述したように、リングバインダーの表紙の背部上に設けられるものである。)、また、本件考案の出願当時、当該技術分野において周知なものでもない。
ゆえに、甲2考案において上記相違点に係る構成に変更することは、本件考案の出願前に、当業者がきわめて容易に想起できたこととはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件考案は、本件考案の出願前に、甲1考案及び甲2考案のいずれを出発点としても当業者がきわめて容易に考案することができたものといえず、結局、甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから、当業者がきわめて容易に考案することができたものとすることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件実用新案登録を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-04-11 
結審通知日 2006-04-13 
審決日 2006-04-26 
出願番号 実願平3-23019 
審決分類 U 1 113・ 121- Y (B42F)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 三輪 学尾崎 俊彦  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 藤井 勲
藤井 靖子
登録日 1996-05-16 
登録番号 実用新案登録第2505934号(U2505934) 
考案の名称 バインダ構造  
代理人 羽鳥 亘  
代理人 中村 希望  

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