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審決分類 審判    A47G
審判    A47G
管理番号 1163822
審判番号 無効2007-400002  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-03-09 
確定日 2007-08-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第3121169号実用新案「急須」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3121169号の請求項1?4に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 〔1〕手続の経緯
本件実用新案登録第3121169号に係る考案は、平成18年2月14日に実用新案登録出願されたものであって、平成18年4月5日に設定の登録がなされたものである。
これに対し、本件の請求項1ないし4に係る考案について、平成19年3月9日に請求人株式会社まるふくより実用新案登録無効審判の請求がなされ、被請求人株式会社とこ販に期間を指定して答弁の機会を与えたところ、何ら応答がなされなかった。

〔2〕本件考案
本件の請求項1ないし4に係る考案(以下、それぞれ「本件考案1」ないし「本件考案4」という。)は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】茶葉及び湯水が収容される収容空間を備え上部には第1の開口が形成され側壁部には第2の開口が形成された急須本体と、この第1の開口を閉塞する蓋体と、上記急須本体の側壁部の上端側より内側に突出し上面に上記蓋体が載置されるとともに内周では上記開口を形成する蓋載置部と、上記急須本体に基端が固定され内部は該急須本体と上記第2の開口を介して連通してなり先端からお茶を排出する注ぎ口とを備え、
上記蓋載置部には切欠きが形成され、この切欠きが形成された部位では、上記急須本体の側壁部の上部が急須本体の上部とされていることを特徴とする急須。
【請求項2】前記切欠きは、前記急須本体に対して前記注ぎ口の形成位置とは反対側に形成されてなることを特徴とする請求項1記載の急須。
【請求項3】前円形状の底板部と、この底板部の外周から起立してなる側壁部とを備え、上記底板部は中心が皿状に凹んでなるとともに、上記側壁部は底板部側から中途部にかけて徐々に拡径し、該中途部から上方にかけては徐々に縮径されてなり、該急須本体の内部はほぼドーム型とされてなることを特徴とする請求項1又は2記載の急須。
【請求項4】前記第2の開口は、フッ素樹脂がコーティングされた茶漉し網により閉塞されてなることを特徴とする請求項1,2又は3記載の急須。」

〔3〕審判請求人の主張
審判請求人は、実用新案登録第3121169号の請求項1ないし4に係る考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、概略次のとおり主張する。

1.無効理由1
本件の請求項1、2に係る考案は、甲第1号証に記載された考案と同一であるので、実用新案法第3条第1項第3号に該当し登録を受けることができないものであって、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、本件の請求項1、2に係る考案の実用新案登録を無効にすべきものである。
2.無効理由2
本件の請求項1、2に係る考案は、甲第2号証に記載された考案と同一であるので、実用新案法第3条第1項第3号に該当し登録を受けることができないものであって、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、本件の請求項1、2に係る考案の実用新案登録を無効にすべきものである。
3.無効理由3
本件の請求項3、4に係る考案は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明(考案)に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができないものであって、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、本件の請求項3、4に係る考案の実用新案登録を無効にすべきものである。
4.無効理由4
本件の請求項3に係る考案は、実用新案登録を受けようとする考案が明確ではないので、実用新案法第5条第6項第2号の要件を満たさず、実用新案法第37条第1項第4号に該当し、本件の請求項3に係る考案の実用新案登録を無効にすべきものである。

そして、審判請求人は証拠方法として次の甲第1号証?甲第10号証を提出している。
甲第1号証 実願昭49-58230号(実開昭50-147788号)のマイクロフィルム
甲第2号証 実願昭58-64494号(実開昭59-169781号)のマイクロフィルム
甲第3号証 実願昭54-20635号(実開昭55-120369号)のマイクロフィルム
甲第4号証 特開平8-266386号公報
甲第5号証 登録第870395号意匠公報
甲第6号証 登録第1174269号意匠公報
甲第7号証 特開平7-100068号公報
甲第8号証 特開平10-80363号公報
甲第9号証 実用新案技術評価書
甲第10号証 実用新案技術評価請求書及びその手続補足書

〔4〕被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出せず反論をしていない。

〔5〕当審の判断
1.無効理由1について
i)甲第1号証の記載事項
甲第1号証[実願昭49-58230号(実開昭50-147788号)のマイクロフィルム]には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア)「この考案は、上面開口部の内周縁部に蓋着用の段部を具えた土瓶の構造に関する。尚、この考案において、土瓶とは普通一般の土瓶のほか、急須やポットなどを含めてこれを総称したものである。」(第1頁第10行?第14行)
イ)「即ち、1は陶製急須の本体で、2は上面開口部であり、3は上記開口部の内周縁部に、内側方に向けて突成されている蓋着用の段部である。そして、上記段部3は一連の無端段部になっていないで、注口4の設けられている本体1側面と反対の側面に当面する適当な部分が無段部5になっている。尚、図面に示す6は蓋体を、同じく7は把手を表わしたものである。」(第3頁第4行?第12行)
ウ)「そして又、無段部5は一連の段部3の一部分を切除した状態で設けられる」(第4頁第7行?第8行)
エ)「以上のような構造の急須とすると、この急須はその本体が、段部3の設けられている該本体上面開口部内周縁部の適当な部分が、無段部5になっているので、この本体1を洗浄する場合に、上記無段部5を利用することにより、茶がらなどは頗る簡易にこれを本体外に流出することができるようになり、従前の不便は解消される。又、無段部5を注口4の設けられている本体側面と反対の側面に当面する部分に設けたことにより、把手7を介して行なわれる本体内茶がらの流出が頗る至便となる。」(第3頁第13行?第4頁第6行)
オ)第1図、第2図には、円形状の底面と、この底面の外周から起立してなる側面とを備えた急須の本体1が開示され、側面は底面側から中途部にかけて徐々に拡径し、該中途部から上方にかけては徐々に縮径して、本体1の内部がほぼドーム型となっていること、及び、本体1に注口4の基部が固定されると共に、開口を介して注口内部が内部空間に連通していることが開示されている。また、段部3が、開口部の内周縁部に、内側方に向けて突出し、その上部に蓋体6が載置されていることが開示されている。

また、急須は、お茶を淹れるための器具であって、内部に茶葉及び湯水を収容する内部空間を備えるとともに、注口4よりお茶を排出するようになっているものであることは技術常識に照らして明らかである。
そこで、これら記載事項及び図示内容を総合し、本件考案の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の考案(以下、「甲1考案」という)が記載されている。

「茶葉及び湯水が収容される内部空間を備え上部には上面開口部2が形成され側面には開口が形成された急須本体1と、この上面開口部2を閉塞する蓋体6と、上記急須本体1の側面の上端側より内側に突出し上部に上記蓋体6が載置されるとともに内周では上記開口部2を形成する段部3と、上記急須本体に基端が固定され内部は該急須本体と上記開口を介して連通してなり先端からお茶を排出する注口4とを備え、
上記段部3には無段部5が形成され、この無段部5が形成された部位では、上記急須本体1の側面の上部が急須本体1の上部とされている急須。」

ii)対比・判断
a)本件考案1について
本件考案1と甲1考案とを対比すると、その構造または機能からみて、甲1考案の「内部空間」は本件考案1の「収容空間」に、「上面開口部2」は「第1の開口」に相当し、以下同様に、「開口」は「第2の開口」に、「蓋体6」は「蓋体」に、「急須本体1」は「急須本体」に、「側面」は「側壁部」に、「段部3」は「蓋載置部」に、「注口4」は「注ぎ口」に、「無段部5」は「切欠き」に、それぞれ相当する。
してみると、両者は、
「茶葉及び湯水が収容される収容空間を備え上部には第1の開口が形成され側壁部には第2の開口が形成された急須本体と、この第1の開口を閉塞する蓋体と、上記急須本体の側壁部の上端側より内側に突出し上面に上記蓋体が載置されるとともに内周では上記開口を形成する蓋載置部と、上記急須本体に基端が固定され内部は該急須本体と上記第2の開口を介して連通してなり先端からお茶を排出する注ぎ口とを備え、
上記蓋載置部には切欠きが形成され、この切欠きが形成された部位では、上記急須本体の側壁部の上部が急須本体の上部とされている急須。」
である点で一致し、両者の間に相違点はない。
したがって、本件考案1は、甲第1号証に記載された考案であるので、実用新案法第3条第1項第3号に該当し実用新案登録を受けることができないものである。

b)本件考案2について
本件考案2は、本件考案1を特定する事項に、さらに「前記切欠きは、前記急須本体に対して前記注ぎ口の形成位置とは反対側に形成されてなること」との事項を付加したものである。
本件考案1と甲1考案との対比は、上記ii)a)のとおりである。
そこで、該付加事項を、甲第1号証に記載されたものと対比すると、甲第1号証の上記記載エ)には、「・・・又、無段部5を注口4の設けられている本体側面と反対の側面に当面する部分に設けたことにより、把手7を介して行なわれる本体内茶がらの流出が頗る至便となる。」と記載されている。
そして、甲第1号証に記載された「無段部5」、「注口4」は、それぞれ本件考案の「切欠き」、「注ぎ口」に相当することは上述のとおりであるので、甲第1号証には、切欠きを急須本体に対し注ぎ口と反対側に設けることが記載されているといえる。
したがって、該付加事項も甲第1号証に記載された事項であるので、本件考案2は、甲第1号証に記載された考案であって、実用新案法第3条第1項第3号に該当し実用新案登録を受けることができないものである。

2.無効理由3について
無効理由3は、「本件考案3、4は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された考案に基づいて当業者が容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができないものであって、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、本件考案3、4に係る実用新案登録を無効にすべきものである。」というものである。

a)本件考案3について
本件考案3は、本件考案1を特定する事項に、さらに「前円形状の底板部と、この底板部の外周から起立してなる側壁部とを備え、上記底板部は中心が皿状に凹んでなるとともに、上記側壁部は底板部側から中途部にかけて徐々に拡径し、該中途部から上方にかけては徐々に縮径されてなり、該急須本体の内部はほぼドーム型とされてなること」との事項を付加したものである。
そこで、本件考案3と甲1考案とを比較すると、両者は次の相違点1で相違する。
相違点1
本件考案3は、前円形状の底板部と、この底板部の外周から起立してなる側壁部とを備え、上記底板部は中心が皿状に凹んでなるとともに、上記側壁部は底板部側から中途部にかけて徐々に拡径し、該中途部から上方にかけては徐々に縮径されてなり、該急須本体の内部はほぼドーム型とされているのに対し、甲1考案は、そのようになっていない点。

そこで、上記相違点1について検討すると、甲第3号証[実願昭54-20635号(実開昭55-120369号)のマイクロフィルム]の第1,2図に、底面の中心が皿状に凹み、本体の内部がほぼドーム型となっている急須1が開示され、甲第4号証(特開平8-266386号公報)の第1,6図に、底面の中心が皿状に凹み、本体の内部がほぼドーム型となっている急須1が開示されているように、本体の内部がほぼドーム型となっているとともに底面(底板部)の中心を皿状に凹ませた急須は周知であると認められる。
一方、甲第1号証にも、第1図、第2図に、円形状の底面と、この底面の外周から起立してなる側面とを備えた急須の本体1が開示されるとともに、側面は底面側から中途部にかけて徐々に拡径し、該中途部から上方にかけては徐々に縮径して、本体1の内部がほぼドーム型となっていることが開示されている[上記図面開示事項オ)参照]ので、該周知技術を甲1考案に適用し、相違点1に係る本件考案3の特定事項のようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。
したがって、本件考案3は、甲1考案及び上記周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

b)本件考案4について
本件考案4は、本件考案1を特定する事項に、さらに「前記第2の開口は、フッ素樹脂がコーティングされた茶漉し網により閉塞されてなること」との事項を付加したものである。
そこで、本件考案4と甲1考案を比較すると、両者は次の相違点2で相違する。
相違点2
本件考案4は、第2の開口が、フッ素樹脂がコーティングされた茶漉し網により閉塞されているのに対し、甲1考案は、その事項に欠ける点。

そこで、上記相違点2について検討すると、一般に注ぎ口につながる第2の開口を茶こしにより閉塞した急須自体は周知(例えば、甲第1号証の第2図には、茶こしと認められる構造が開示されており、甲第3号証にも、ろ過部6が記載されている)であるが、その茶こしに関して、甲第7号証(特開平7-100068号公報)には、次の記載がある。
「これに対して、茶こし網8は、図1及び図2に示すように、針金9を編んで構成された円形状をなす茶こし網本体10の表面をフッ素樹脂の被覆層11により覆った構成となっている。この場合、この茶こし網8は、ステンレス製の針金9を編んで構成されたシート状の網から円形のものを打ち抜くことにより茶こし網本体10を多数個形成し、この後、各茶こし網本体10をフッ素樹脂により被覆することによって製造している。従って、被覆層11は、各針金9の端部9aの表面も覆った状態となっている。」(【0012】段落)
また、甲第8号証(特開平10-80363号公報)には、次の記載がある。
「急須本体2内に着脱可能に装着される茶こし8は、図1及び図2に示すように、針金9を編んで構成された円形状をなす網から成る茶こし本体10の表面を、後述する被覆層11により覆った構成となっている。この場合、茶こし本体10は、ステンレス製の針金9を編んで構成されたシート状の網から打ち抜くことによって形成されている。上記被覆層11は、フッ素樹脂と、動植物や土壌に有用とされる有用微生物群とを含んだ構成となっている。」(【0012】?【0013】段落)
してみると、上記記載より、フッ素樹脂がコーティングされた茶漉し網は周知であると認められるので、これを甲1考案に適用して、相違点2に係る本件考案4の特定事項のようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。
したがって、本件考案4は、甲1考案及び上記周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

〔6〕むすび
以上のとおりであるから、本件考案1、2は甲第1号証に記載された考案であるので、本件考案1、2に係る実用新案登録は同法第3条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件考案3、4は、甲第1号証に記載された考案及び周知技術に基づき当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので、本件考案3、4に係る実用新案登録は、同法第3条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件考案1ないし4に係る実用新案登録は、請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく、いずれも同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、同法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-06-15 
結審通知日 2007-06-20 
審決日 2007-07-03 
出願番号 実願2006-953(U2006-953) 
審決分類 U 1 114・ 121- Z (A47G)
U 1 114・ 113- Z (A47G)
最終処分 成立    
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 鏡 宣宏
川本 真裕
登録日 2006-04-05 
登録番号 実用新案登録第3121169号(U3121169) 
考案の名称 急須  
代理人 長屋 直樹  

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