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審決分類 審判 全部無効   G11B
管理番号 1172388
審判番号 無効2004-80173  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-04 
確定日 2008-02-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第2530916号実用新案「磁気テープ装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 登録第2530916号の実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
1.手続の経緯
本件登録第2530916号実用新案の請求項1に係る考案についての出願は、平成4年6月12日に実用新案登録出願され、平成9年1月10日にその考案について実用新案の設定登録がなされたものである。
これに対し、平成16年10月4日付けで大宇電子ジャパン株式会社(以下、「請求人」という。)より実用新案登録無効審判の請求がなされ、平成16年12月24日付けで被請求人船井電機株式会社(以下、「被請求人」という。)より審判事件答弁書が提出された。

2.本件考案
本件登録第2530916号実用新案の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、登録査定時の明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A) 記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体を、プリント配線基板を底部に装備した装置筐体内に配置し、
(B) 上記装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部に、上記デッキ本体のシャーシの後部を取付け、支持するように構成した磁気テープ装置において、
(C) 上記装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、上記デッキ取付け部を配置、形成した
(D) ことを特徴とする磁気テープ装置。」
(なお、符号は当審で便宜上付した。)

3.審判請求人の主張

〔3-1〕無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下の証拠方法を提出するとともに、本件の請求項1に係る考案は、
(無効理由1)
実用新案登録第2530916号(以下、「本件実用新案登録」という)は、実用新案登録請求の範囲の記載が、平成2年法律第30号附則改正昭和34年法律第123号実用新案法(以下、「実用新案法」という)第5条5項1号及び2号に規定する要件を満たさないにもかかわらず看過されて登録されたものであるから、同法第37条1項3号の規定に該当し、無効である旨、
(無効理由2)
本件実用新案登録は、実用新案登録請求の範囲請求項1に係る考案(以下、「本件登録実用新案」という)が甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載の考案であるにもかかわらず看過され、実用新案法第3条1項3号の規定に違反してなされたものであり、あるいは少なくとも甲第2号証及び甲第3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるにもかかわらず看過され、同法同条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第37条1項1号の規定に該当し、無効である旨、
また、本件実用新案登録は、本件登録実用新案が甲第3号証及び甲第4号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるにもかかわらず看過され、実用新案法第3条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第37条1項1号の規定に該当し、無効である旨、主張する。

< 証拠方法 >
甲第1号証 :実用新案登録第2530916号公報
甲第2号証 :大韓民国特許庁発行の公開実用新案公報・公開番号
91-3347
甲第3号証 :特開平2-230592号公報
甲第4号証 :特開昭61-122990号公報
甲第5号証 :広辞苑第5版
甲第6号証 :特許庁編 特許・実用新案 審査基準 第1部明細書
第1章 明細書の記載要件1頁から6頁
甲第7号証 :マグローヒル科学技術用語大辞典改定第3版1731頁
甲第8号証 :JIS工業用語大辞典第5版2158頁
甲第9号証 :平成16年(ワ)第12975号 実用新案権侵害行為差し止
め等請求事件 原告(本審判の被請求人、以下同じ)訴状
甲第10号証 :平成16年(ワ)第12975号 実用新案権侵害行為差し止め
等請求事件 平成16年7月14日提出の被告(本審判の
請求人、以下同じ)答弁書及び証拠説明書
甲第11号証 :平成16年(ワ)第12975号 実用新案権侵害行為差し止め
等請求事件 平成16年8月27日提出の被告準備書面
(1)及び証拠説明書

〔3-2〕具体的無効理由
請求人は、審判請求書において、具体的に本件実用新案登録を無効にすべき理由を、概要以下のとおり主張する。

(1)本件登録実用新案
本件登録実用新案は、登録査定時の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記「2.」を参照。)。

(2)実用新案法第5条第第5項第2号違反について
本件実用新案登録公報(甲第1号証)において従来技術として記載されている図4には、デッキ取付け部1Dが、装置筐体1のシャーシ底部1Aから起立し、バックパネル部1Cから寸法Aだけ離れた位置に形成されている態様が図示されている。しかし、この「寸法A」について、「上記デッキ取付け部1Dは、寸法Aで示すように、バックパネル部1Cから可成り離れている」(甲第1号証・2頁左欄10行目から12行目)と記載されているだけで具体的な離隔寸法に関する記載は一切ない。すると、デッキ取付け部とバックパネル部との間の寸法がどの程度であれば「デッキ取付け部はバックパネル部に近接して配置,形成した」といえ、どの程度であれば「可成り離れている」といえるのか、全く不明である。
「近接」とは、「近くにあること。近づくこと。接近。」(甲第5号証:広辞苑第5版732頁)の意味であり、少なくとも二種以上の部材が連続形成されて連なり続く1個の部材となる態様でないことはわかるものの、二種の対象物間の距離を他の少なくとも二種の対象物間の距離と比較した場合に、いずれの距離がより短いかを示す相対的な意味を有するものであって、絶対的な意味を持たない曖昧な用語である。例えば、AとBとの距離が30cmであり、AとCとの距離が1cmである場合はもちろん、AとDとの距離が10cmである場合にも、C及びDの両者はBよりもAに近接している、といえる。しかし、全長が30cmであるのに対して、距離10cmは全長の1/3であり、距離1cmは全長の1/30である。この場合に、本件明細書の請求項1の記載によれば、全長の1/3であるDも全長の1/30であるCも共にBよりも「近接」していることになる。このように、本件実用新案登録出願前に存在していた全ての磁気テープ装置におけるデッキ取付け部とバックパネル部との間の寸法と比較した場合に、少しでも寸法が短縮されていれば「近接」といえることになり、登録実用新案の技術的範囲は無限に広がることになってしまい、考案の技術的範囲の外延を特定することができない。このように当業者たる第三者においても予測できない権利範囲を付与することは、「産業の発達に寄与することを目的とする」法目的(実用新案法第1条)に反するものであって許されるべきではない。
本件登録査定時の請求項1の記載は、まさしく比較の基準、程度が必要であるべき「近接」なる表現を何らの基準、程度も示さずに用いているものであって、考案の構成に欠くことができない事項が不明瞭になる場合に該当する。
したがって、本件実用新案登録請求の範囲請求項1の「デッキ取付け部はバックパネル部に近接して配置、形成した」という記載は、比較の基準、程度が不明瞭な表現を用いた表現があり、その結果、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項が不明瞭になるから、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したとはいえず、実用新案法第5条5項2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件実用新案登録は、実用新案法第37条1項3号の規定により無効とすべきである。

(3)実用新案法第5条第5項第1号違反について
上記「(1) 本件登録実用新案」の項において説明したように、本件実用新案登録においては、構成要件「デッキ取付け部はバックパネル部に近接して配置、形成した」ことを必須の構成要件とする。
ところで、「近接」とは「近くにあること。近づくこと。接近。」(甲第5号証:広辞苑第5版732頁)の意味であり、近接関係にある二種以上の部材が連続形成されて1個の部材となる態様を意味しないことは、上記(2)において既に述べたとおりである。
しかし、本件実用新案登録公報の「考案の詳細な説明」中の「実施例」には、「デッキ取付け部1Dは、上記シャーシ底部1Aに連続して立ち上がるバックパネル部1Cに近接して、特に、この実施例では、上記バックパネル部1Cに連続して形成されている」(甲第1号証・2頁右欄18行目から 22行目)と記載されており、第一権利添付図面中図1及び図2によれば、バックパネル部1Cとデッキ取付け部1Dとシャーシ底部1Aとが連続して形成された一体化構造であることが示されている(甲第1号証・3頁図1及び図2)。ここで、「連続」とは「つらなりつづくこと。つらねつづけること。」の意味であり(甲第5号証:広辞苑第5版 2839頁)、「形成」とは「形ができ上がること。形づくること。」の意味である(甲第5号証:広辞苑第5版820頁)。「一体」とは、「一つのからだ。同一体。一つになって分けられない関係にあること。」の意味である(甲第5号証:広辞苑第5版167頁)。これらのことから、本件明細書の実施例に示されている「デッキ取付け部1Dは,……バックパネル部1Cに連続して形成されている」とは、デッキ取付け部とバックパネル部とが『つらなり続いて形づくられている』ことになり、換言すれば、一つになって分けられない関係にある一体化構造ということになる。
また、この実施例の他には、本件実用新案登録公報には、本件登録実用新案に対応する実施例の記載はない。
したがって、本件実用新案登録公報において、実用新案登録を受けようとする考案は考案の詳細な説明において具体的に記載されておらず、そこでの考案の詳細な説明において示された実施例は、考案自体と全く齟齬、矛盾するものとすらいえ、実用新案法第5条5項1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件実用新案登録は、実用新案法第37条1項3号の規定により無効とすべきである。

(4)実用新案法第3条1項3号及び2項違反について
<甲第2号証>(大韓民国特許庁発行の公開実用新案公報・公開番号
91-3347)
i) 甲第2号証の記載
本件実用新案登録の出願日である平成4年(1992年)6月12日以前の1991年2月27日に公開された甲第2号証(大韓民国特許庁発行の公開実用新案公報・公開番号91-3347)第1図(同公報記載の分解斜視図)には、「メーンデッキ(3)をキャビネット(1)内に配置し、キャビネット(1)を構成する下部キャビネットから起立したボス(2)に、メーンデッキ(3)のシャーシの後部を取付け、支持するように構成したVTR装置において、キャビネット(1)のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、ボス(2)を配置、形成したVTR装置」が記載されている。ここで、ボスとは、「鋳物またはプラスチックの突起物、強度を増すか、組み立てを容易にするか、締具を備えたりするもの」(甲第7号証:マグローヒル科学技術用語大辞典改定第3版1731頁)、「成形品の面に設けた機能本位の突起部分」(甲第8号証:JIS工業用語大辞典第5版2158頁)のことである。
ii) 本件登録実用新案と甲第2号証記載の考案との対比
甲第2号証の第1図と本件実用新案公報第2530916号(甲第1号証)の図1とを比較すれば、甲第2号証の「メーンデッキ(3)」は本件登録実用新案の「デッキ本体」に、甲第2号証の「キャビネット(1)」は本件登録実用新案の「装置筐体」に、甲第2号証の「下部キャビネット」は本件登録実用新案の「シャーシ底部」に、並びに甲第2号証の「VTR装置」は本件登録実用新案の「磁気テープ装置」に相当することは明白である。そして、VTR装置において、「メーンデッキ」が「記録及び/または再生部をシャーシ内に取り組む」ものであること、及び「キャビネット」が「プリント配線基板を底部に装備する」ものであることもまた明白である(必要であれば甲第3号証参照)。よって、本件登録実用新案の構成要件(A)(B)は、既に甲第2号証に全て記載されている。
再び、甲第2号証の第1図を参照すれば、ボス(2)は、キャビネット(1)を構成する下部キャビネットから起立しており、メーンデッキ(3)をキャビネットに取付け、支持するものであり、キャビネット(1)を構成するバックパネル部(及びサイドパネル部)に近接して配置、形成されたものであることが明確に示されている。甲第2号証において、ボス(2)のバックパネル部からの離隔の程度は正確に記載されていないが、本件登録実用新案の構成要件(C)においても、「バックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成した」と記載されているだけで、その近接の程度は不明である以上、甲第2号証に記載のボス(2及び符号なしの同様の部材(以下、単に「2」という))もバックパネル部に近接して配置、形成されたものであって、本件登録実用新案のデッキ取付け部と何ら異なるところはないといえる。また、本件実用新案登録公報には、「デッキ本体を収納するのに必要な最小の奥行になるように、装置筐体を大幅に短縮化し、これによって、シャーシ底部から起立するデッキ取付け部をシャーシのバックパネル部に近接した位置に形成する」(甲第1号証・2頁24行目から27行目:段落0004)と記載されている。本件登録実用新案において「近接」の意味は明らかではないが、この記載から、装置筐体がデッキ本体を収納するのに必要な最小の奥行となるようにデッキ取付け部をバックパネル部に近接して配置すると解釈すれば、甲第2号証においても、メーンデッキ(3)はキャビネット(1)のバックパネル部、サイドパネル部及びフロントパネル部によって画定される面積とほぼ一致する面積を有するように記載されており(甲第2号証・第1図から第3図)、キャビネット(1)がメーンデッキ(3)を収納するのに必要な最小の奥行となるようにボス(2)はバックパネル部に近接して配置されているのであるから、甲第2号証に記載のボス(2)は本件登録実用新案のデッキ取付け部と同一である。よって、本件登録実用新案の構成要件(C)は、甲第2号証に記載されている。
以上のように、甲第2号証には、『記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(3)を、プリント配線基板を底部に装備した装置筐体(1)内に配置し、上記装置筐体(1)を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付部(2)に、上記デッキ本体(3)のシャーシの後部を取付け、支持するように構成した磁気テープ装置において,上記装置筐体(1)のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、上記デッキ取付け部(1)を配置、形成した磁気テープ装置』が開示されている。
iii) まとめ
したがって、本件登録実用新案は、その実用新案登録出願(平成4年(1992年)6月12日、甲第1号証)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第2号証:公開日は1991年2月27日)に記載された考案であるから、実用新案法第3条1項3号の規定に違反して登録されたものであり、あるいは少なくとも甲第2号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をなすことができたものであるから、同法同条2項の規定に違反して登録されたものであり、同法第37条1項1号の規定により無効にすべきである。

<甲第3号証>(特開平2-230592号公報、平成2年(1990年)9月12 日公開)
i) 甲第3号証の記載
甲第3号証には、甲第3号証の発明による磁気記録再生装置の分解組立図を示す第1図において、配線基板3及び4が、テープメカニズム2を載置するメカブラケット1の下部に位置づけられており、配線基板4はロワーケース6のすぐ上に配設されていることが示されている(甲第3号証5頁第1図)。また、同第1図及び同3頁左下欄12行から14行には、ロワーケース6のねじ穴6aを直立に上方向に貫通するねじ8と、メカブラケット1の後部に位置するボス1eとを締め付け固定することが記載されている。甲第3号証第1図には、リアケースが記載されていないが、同第3図にはリアケース25がアッパーケース5及びロワーケース6の後縁部に沿うて取り付けられていることがわかる。したがって、アッパーケース5及びロワーケース6のねじ穴5a及び6aが設けられている側に近接する後部位置に、リアケース25が取り付けられることは容易に理解できる。
ii) 本件登録実用新案と甲第3号証記載の考案との対比
以上のように、甲第3号証には、『記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカブラケット1)を,プリント配線基板(配線基板4)を底部に装備した装置筐体(ロワーケース6、アッパーケース5、フロントケース7、リアケース25)内に配置し、上記装置筐体を構成するシャーシ底部(ロワーケース6)から起立するデッキ取付け部(ロワーケース6に設けられたねじ穴6a及びねじ穴6aを貫通するねじ8)に、上記デッキ本体(メカブラケット1)のシャーシの後部(ボスle)を取付け、支持するように構成した磁気テープ装置において、上記装置筐体(ロワーケース6、アッパーケース5、フロントケース7、リアケース25)のシャーシ後部を構成するバックパネル部(リアケース25)に近接して、上記デッキ取付け部(ボス1e、ねじ穴6a及びねじ8)を配置、形成した磁気テープ装置』が開示されている。甲第3号証記載の考案の構成は、本件登録実用新案の構成と何ら異なるところはない。
iii) まとめ
したがって、本件登録実用新案は、その実用新案登録出願(平成4年(1992年)6月12日、甲第1号証)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第3号証:公開日は1990年9月12日)に記載された考案であるから、実用新案法第3条1項3号の規定に違反して登録されたものであり、あるいは少なくとも甲第3号証に記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をなすことができた
ものであるから、同法同条2項の規定に違反して登録されたものであり、同法第37条1項1号の規定により無効にすべきである。

<甲第4号証>(特開昭61-122990号公報、昭和61(1986年)年6月10 日公開)
i) 甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の構成を有する磁気記録再生装置が記載されている。
(イ) 甲第4号証の第7図及び第8図の説明として、「従来の一般的なVTRのシャーシ構造を第7図、第8図に概略的に示す。図において、1はプラスチック等で一体成形されたシャーシ枠体、2はメカデッキで、これは取付穴3aを有する取付部3を備え、上記シャーシ枠体1に設けられた保持ボス4にネジ5aで螺着されている。・・・(略)・・・第3基板ユニット8はメカデッキ2の下方において、・・・(略)・・・シャーシ枠体1に回動自在に取り付けられ、他端はネジ5c によりボス1cに螺着されている。」との記載がある(甲第4号証・2頁左上欄3行目から19行目)。
(ロ) 甲第4号証の第1図の説明として、「第1図は、この発明の一実施形態を概略的に示す斜視図である。・・・(略)・・・11はプラスチック等で一体成形されたシャーシ枠体で、天面が開放された箱状となっている。12はメカデッキで,従来例と同じく取付穴13aを有する取付部13 を備えている。シャーシ枠体11の前部にはメカデッキ12 の前部を保持するための第1保持部14が設けられており、これはシャーシ枠体11の底面11aにボス状に一体形成されており、シャーシ枠体の略中央部には、メカデッキ12の後部を保持するための第2保持部15が形成されている。・・・(略)・・・メカデッキ12はその前部を第1保持部14に、・・・(略)・・・固着されている。」との記載がある(甲第4号証・2頁右下欄11行目から3頁左上欄12行目)。
(ハ) 甲第4号証の第5図には、第2の保持部の変形例が記載されており、「第2の保持部25はシャーシ枠体11に設けられたボス11dにネジ16cで固着されている。この保持部25はより高い剛性が要求される場合有利である。」との記載がある(甲第4号証・3頁右下欄8行目から11行目)。また、同公報には、「メカデッキ12 は・・・(略)・・・後部を第2保持部15の固定用ボス15aにネジ16aにより固着されている」(甲第4号証・3頁左上欄10行目から12行目)と記載されている。これらの記載及び甲第4号証の第5図から、第2の保持部25はシャーシ枠体11と一体成形されているものではなく、固定用ボス5a及びネジ16a を介してメカデッキ12の後部に固着されていることがわかる。すなわち、第2の保持部25はメカデッキ12の後部を構成する一部と見ることができる。メカデッキ12の後部を構成する第2の保持部25は,シャーシ枠体11に設けられたボス1ld にネジ16cで固着されるのであるから、ボス1ld はメカデッキ12 の後部(第2の保持部25)をシャーシ枠体1に取り付けるデッキ取付け部といえる。つまり,甲第4号証第5図には、メカデッキ後部(第2の保持部25)をシャーシ枠体11に取付けるデッキ取付け部が、シャーシ枠体を構成するバックパネルに近接する位置で側壁に形成されているとの記載がなされている。
(ニ) 甲第4号証の第1図の説明として、さらに「17はほとんどの主要回路部品が搭載された主基板ユニットで、・・・(略)・・・主基板ユニット17がシャーシ枠体11 に装着されている」との記載がある(甲第4号証・2頁右下欄13行目から3頁右上欄13行目)。
(ホ) また、甲第4号証の第6図には、他の実施例の側面断面図が示されており、その説明として、「メカデッキ12はシャーシ枠体11に対して所定の角度で前傾して保持されている。23はカセット自動装填装置で、これは前傾したメカデッキ12 にカセットテープ24を装填するための機構を有し、・・・(略)・・・メカデッキ12 の録画、再生部26部分」との記載がある(甲第4号証・3頁右下欄13行目から4頁左上欄3行目)。
(ヘ) 以上のように、甲第4号証には、甲第4号証に示された特許出願の出願時である昭和59年(1984年)11月19 日以前の従来技術として『記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ2)を、プリント配線基板(基板ユニット8)を底部に装備した装置筐体(シャーシ枠体1)内に配置し、上記装置筐体(シャーシ枠体1)を構成するシャーシ底部(シャーシ枠体の底面1a)から起立したデッキ取付部(保持ボス4)に、上記デッキ本体(メカデッキ2)のシャーシの前方側部(取付部3)を取付け、支持するように構成した磁気テープ装置において、上記装置筐体(シャーシ枠体1)の前部及び側部に近接して、上記デッキ取付け部(保持ボス4)を配置、形成した磁気テープ装置』が知られていたことが開示されている。
(ト)さらに、甲第4号証には、『記録及び/または再生部(26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ 12)を、プリント配線基板(主基板ユニット17)を底部に装備した装置筐体(シャーシ枠体11)内に配置し、上記装置筐体(シャーシ枠体11)を構成するシャーシ底部(シャーシ枠体の底面11a)から起立したデッキ取付部(第1保持部14及びボス11d)に、上記デッキ本体(メカデッキ12)のシャーシの前方側部及び後部(取付部13及び第2保持部25)を取付け、支持するように構成した磁気テープ装置において、上記装置筐体(シャーシ枠体11)の前部及び側部と一体に、上記デッキ取付け部(第1保持部14及びボス11d)を配置、形成した磁気テープ装置』が開示されている。

ii) 甲第4号証記載の発明と本件登録実用新案との対比
甲第4号証記載の発明と本件登録実用新案とを対比すると、本件登録実用新案においては「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成している」のに対して、甲第4号証においては「装置筐体(シャーシ枠体1又は11)の前部及び側部と一体に、デッキ取付部(保持ボス4又は第1保持部14及びボス11d)を配置、形成している」点でのみ異なる。
しかし、甲第4号証の「産業上の利用分野」には「この発明は、磁気記録再生装置(以下、VTRと記す)のシャーシ構造、特にその組立性、・・・コンパクト化を達成できるようにしたVTRのシャーシ構造に関する」(甲第4号証・1頁右下欄16行目から20行目)と記載されていることからも明らかなように、家庭用テレビ・ビデオ・オーディオ機器などの分野において、装置全体を小型化することが常に求められる技術的課題の一つである事実に照らせば、限られた装置筐体の内部を有効に利用するために、装置筐体内におけるデッキ本体の配置を装置筐体の中央ではなく、側壁もしくは後壁に近接させると考えるのは当業者にとってごく自然な発想であるといえる。そして、デッキ本体を装置筐体の側壁又は後壁に近接して配置するために、当然にその保持部を装置筐体の側壁又は後壁に対してより近接した位置に配置して形成することは当業者の技術常識であり、単なる設計的事項にすぎない。例えば、甲第3号証(特開平2-230592号公報、平成2年(1990年)9月12 日公開)には、記録媒体再生装置において、テープメカニズム(記録/再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体に相当)の固定脚(デッキ取付部に相当)をリアケース(バックパネルに相当)に近接して配置、形成したメカブラケットが記載されている。甲第3号証の第3図には、メカブラケットの分解斜視図が示されており、その説明として、「テープメカニズム21を取り付けたメカブラケット22を、その固定脚22aによってロワーケース23に取付け、この後、アッパーケース24、リアーケース25、およびコ字状のフロントケース26を取り付けている」との記載がある(甲第3号証・4頁右上欄11行目から16行目)。そして、同第3図には、ロワーケース23 に対して固定脚22aで取り付けられたメカブラケット22(シャーシ)に載置されたテープメカニズム21が示されている。メカブラケット22すなわちテープメカニズム 21を取り付けるための固定脚22aは、フロントケース26及びリアケース25 に近接した位置に設けられている。このように、重量のあるデッキ本体を装置筐体を構成するシャーシ底面から浮床形式で取り付けるために、取付脚を装置筐体を構成する周囲の壁面に近接して配置、形成することは、周知技術である。
したがって、甲第4号証に記載の「装置筐体(シャーシ枠体1又は11)の前壁及び側壁に一体にされたデッキ取付け部(保持ボス4又は第1保持部14及びボス11d)」の代わりに、甲第3号証に記載の「バックパネル部(リアケース25)に近接して配置、形成されたデッキ取付け部(固定脚22a)」を用いて、第一権利の構成要件「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成した」に想到することは当業者にはきわめて容易なことである。

iii) 本件登録実用新案の効果について
一方、本件登録実用新案の作用効果においても、その考案の特徴はにわかには看て取ることができない。
本件登録実用新案においては、デッキ取付け部をバックパネル部に近接して配置、形成したことによる作用として、「デッキ取付け部が,上記シャーシ底部に起立して、形成されているにも拘わらず、上下の振動を外部から受けても、そのシャーシ底部にかかる曲げ応力による影響を避けることができ、上記シャーシの厚さを補わなくても、装置筐体に対してデッキ本体を支持固定した状態での剛性を十分に確保することができる」(甲第1号証・2頁左欄44行目から49行目)と記載されている。しかし、デッキ取付け部の位置が装置筐体の壁面に近接するほど、デッキ取付け部にかかるデッキ本体の負荷を装置筐体の壁面の剛性の助けを借りて支持できることは、当然の帰結であり、当業者にはきわめて容易に想到し得る作用に過ぎない。
このことは、甲第4号証において,デッキ取付部(ボス11d)をシャーシの側部と一体化して形成し、デッキ本体のシャーシの後部(第2保持部25)を取り付ける態様(甲第4号証・第5図)の場合に、「より高い剛性が要求される場合有利である。」(甲第4号証・3頁右下欄10行目から11行目)と記載されていることからも明らかである。
また、デッキ取付け部にかかるデッキ本体の負荷によるシャーシ底部の曲げ応力を回避するために最も好ましい態様が、デッキ取付部を装置筐体の壁面と一体形成することであることも当業者には自明の理である。甲第4号証に記載の保持部14及び11dも前壁及び側壁から離れていないので同様の作用効果を奏することは明白である。
以上のように、本件登録実用新案と本件実用新案登録出願前に公開されていた公報である甲第4号証記載の考案との相違点は、単に当業者の設計的事項にすぎず、その作用効果も当業者の予測範囲を超えるものではなく、周知の作用効果に過ぎない。よって、デッキ本体の装置筐体側保持部を装置筐体のバツクパネルに近接して配置することは、当業者にとっては、本件実用新案登録出願前においても、何らの困難性のないものであったというべきである。
したがって、本件実用新案登録は、当業者が実用新案登録出願(平成4年(1992年)6月12日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第4号証[公開日:昭和61年(1986年)6月10日]及び甲第3号証[公開日:平成2年(1992年)9月12日])に記載された考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条2項の規定に違反して登録されたものであり、同法第37条1項1号の規定により無効とすべきである。

4.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、概要以下のとおり答弁している。

〔4-1〕答弁の概要
被請求人は、以下の証拠方法を提出するとともに、請求人が主張する無効理由1?2は、いずれも合理的な根拠を欠き、本件審判請求は成り立たないものである旨、主張する。

<証拠方法>
乙第1号証:実用新案登録第2571891号公報
乙第2号証:日本弁理士会研修所編『基本テキスト特許・実用新案法( 第三版)』167頁から170頁
乙第3号証:ZENITH社VTR装置(型番:VRD205)の写真

〔4-2〕答弁の具体的理由

(1)本件登録実用新案について
i) 本件登録実用新案の背景及び技術課題について
本件登録実用新案は、本件明細書段落[0003]に記載されているように、「シャーシの厚さを補わなくても、振動に対して十分な剛性を確保し、必要部品などに、上記振動に基く機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供」 (甲第1号証2頁左欄27行目から31行目)することを課題とするものである。
ここで、「振動に基く必要部品などに対する機械的損傷」として最も深刻なものが、装置筐体底部に装備されたプリント配線基板が破損する、いわゆる「基板割れ」である。この「基板割れ」は、特に、一枚のプリント配線基板上に通常の電子部品に加えて、スイッチング電源トランスを含む電源ユニットをも実装した、 いわゆる「一枚基板」を使用したときに発生するものである。
被請求人は、本件実用新案の出願時である1992年頃、世界に先立って、上記「一枚基板」の技術開発を開始している。このことは当業者であれば当然知っている事実であり、また、被請求人が1992年1月10日に出願した一枚基板に係る考案(実願平4-4159)が実用新案登録を受けている(実用新案登録第2571891号)ことからも裏付けられる(乙第1号証)。
被請求人が、上記「一枚基板」の技術を開発するより以前においては、電源ユニットに関しては、弁当箱状に周囲を金属で囲った電源基板にスイッチング電源トランスを搭載する技術が採用されていた。この「電源基板」は、通常の電子部品を実装する基板とは別の、かなり小さな基板であるため、上記のような「基板割れ」の問題が発生することがなかった。
本件考案の背景においては、「一枚基板」を採用することで、省スペース化、コスト削減、配線の簡略化等を図ることができる一方で、大きな基板に重いスイッチングトランスを載せるため、「基板割れ」が生じやすくなるという問題点が生じていた。なお、本件登録実用新案において、上記「一枚基板」を採用していることは、本件明細書の段落[0007]の「プリント配線基板5に組み込まれたスイッチ回路及び上記プリント配線基板5の上に取り付けたパルス・トランス6」という記載、並びに図1及び図2から、当業者であれば当然に理解できることである。
本件登録実用新案は、「一枚基板」を採用しつつも、シャーシの厚さを補うことなく、振動に対して十分な剛性を確保し、「基板割れ」を含む、必要部品に対する機械的損傷を与えないようなこ工夫した磁気テープ装置を提供することを技術課題とするものである。

ii) 本件登録実用新案の構成について
本件登録実用新案の技術的範囲は請求項1の記載に基づき、次の各構成要件に分説できる(省略。上記「2.」を参照。)。

iii) 本件登録実用新案の作用効果について
本件登録実用新案によれば、本件明細書段落[0010]に記載されているように、「シャーシの厚さを補わなくても、振動に対して十分な剛性を確保し、必要部品などに、上記振動に基く機械的損傷を与えないという実用上の効果を得ることが出来る」(甲第1号証2頁右欄44行目から47行目)と共に、一枚基板の技術を前提としているため、これによる省スペース化、コスト削減、配線の簡略化等の効果をも、同時に得ることができる。
なお、請求人は、「甲第4号証において、デッキ取付け部(ボス11d)をシャーシの側部と一体化して形成し、デッキ本体のシャーシの後部(第2保持部25)を取り付ける態様(甲第4号証・第5図)の場合に、「より高い剛性が要求される場合有利である。」(甲第4号証・3頁右下欄10行目から11行目)と記載されている。」(審判請求書20頁15行目から19行目)と主張する。
しかしながら、甲第4号証の3頁右下欄10行目から11行目に記載された「より高い剛性が要求される場合に有利である」という作用は、ボス11dの形成位置若しくは態様による作用ではなく、保持部25を「鋼板をプレス加工にて横断面コ字状の棒状体に形成した」(甲第4号証3頁左下欄6行目から7行目)ことによる作用であることが、甲第4号証の記載から明らかであり、上記請求人の主張は明らかに失当なものである。
したがって、かかる失当な主張を根拠とした「デッキ取付け部の位置が装置筐体の壁面に近接するほど、デッキ取付け部にかかるデッキ本体の負荷を装置筐体の壁面の剛性を借りて支持できることは、当然の帰結であり、当業者にはきわめて容易に想到し得る作用に過ぎない。」(審判請求書20頁11行目から14行目) とする請求人の主張は、合理的な根拠を欠く失当なものである。
また、請求人は、「甲第4号証に記載の保持部14及び11dも前壁及び側壁から離れていないので同様の作用効果を奏することは自明である。」(審判請求書20頁22行目から24行目)と主張する。
しかしながら、甲第4号証の保持部が前壁から離れていない場所に配置されているのは、カセット挿入口が装置筐体の前方に形成されているという、磁気記録再生装置一般が有する構造によるものであって、「装置筐体の剛性を確保する」という技術的思想によるものではない。 また、ボス11dのうち一方は側壁から離れていないが、他方は明らかに側壁、後壁のいずれからも離れており、本件明細書の「従来技術」のデッキ取付け部と 同様、シャーシ底部に曲げ応力が発生した時、デッキ本体の慣性質量で、相当の振幅動作を受けることが自明である。
したがって、甲第4号証に記載の保持部14及び11dによっても本件登録実用新案と同様の作用効果を奏する旨の請求人の主張は失当であり、本件登録実用新案の出願時において「デッキ取付け部にかかるデッキ本体の負荷によるシャーシ底部の曲げ応力を回避するために最も好ましい態様が、デッキ取付部を装置筐 体の壁面と一体形成することであることも当業者には自明の理」(審判請求書20頁20行目から22行目)であったことを示す根拠とはなり得ない。

(2)無効理由1について(その1)
請求人は、甲第5号証(広辞苑第5版)に記載された「近接」という用語の定義を引用し、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された「近接」という用語は、「少なくとも二種以上の部材が連続形成されて連なり続く1個の部材となる態様でないことはわかるものの、二種の対象物間の距離を他の少なくとも二種の対象物間の距離と比較した場合に、いずれの距離がより短いかを示す相対的な意味を有するものであって、絶対的な意味を持たない曖昧な用語である」(審判請求書9頁24行目から28行目)から、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「比較の基準、程度が不明瞭な表現を用いた表現があり、その結果、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したとはいえず、実用新案法第5条5項2号に規定する要件を満たしていない」(同11頁4行目から9行目)と主張する。
しかしながら、特許出願あるいは実用新案登録出願の明細書においては、広辞苑第5版(甲第5号証)のような一般の国語辞典の記載によって判断すべきでない用語がしばしば使用されることが知られている。これらのものは、「技術的思想の創作」(特許法2条1項、実用新案法2条1項)という無体物たる発明若しくは考案を、明細書中で文章で表現するために、便宜上慣用される用語で、「明細書用語」等と称されるものである。例えば、日本弁理士会研修所編『基本テキスト特許・実用新案法(第三版)』167頁から170頁(乙第2号証)には、これら「明細書用語」の例とその意味が挙げられている。上記乙第2号証中では、「近接」という用語の意味は、「部材がお互いに近く接していること」と定義されている(乙第2号証168頁)。この定義によれば、「近接」という用語が比較の基準程度を必要としなし、絶対的な意味を持つものであることは明らかである。
したがって、実用新案登録請求の範囲に記載された字句の解釈については、一般の国語辞典(例えば甲第5号証)の定義のみに基いてその意味を解釈すべきではなく、「考案の詳細な説明」欄の記載を参酌し、その考案の技術的思想に背馳しないよう合理的に解釈すべきものである。
本件登録実用新案は、「シャーシ底部から起立するデッキ取付け部をシャーシのバックパネル部に近接した位置に形成することにより、シャーシの厚さを補わなくても、振動に対して十分な剛性を確保し、必要部品などに、上記振動に基く機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供(甲第1号証2頁左欄25行目から30行目;段落[0004])することを目的とするものである。また、かかる目的を達成するために、バックパネル部に近接してデッキ取付け部を形成することにより、「デッキ取付け部1Dが、バック・パネル部1Cから離れていないため、上記シャーシ底部1Aの曲げ応力による振幅の小さい位置にあり、また、上記バック・パネル部1Cの剛性の助けを借り、十分な強度を確保している」(甲第1号証2頁右欄29行目から32行目;段落[0009])という作用効果を得ている。
このような本件登録実用新案の技術的思想に沿って考えれば、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「近接」という用語の意味は、上記作用効果が得られるように、「デッキ取付け部1Dが、バックパネル部1Cの近くに接していること、又はバックパネル部1Cから離れていないこと」と解され、例えば上記乙第2号証に定義されているような絶対的な意味に解釈することが、明らかに妥当である。
したがって、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「近接」という用語は、比較の基準、程度を必要としない絶対的な意味を持つ用語であることが明らかであって、甲第5号証に記載された「近接」という用語の定義を唯一正しい定義であるかの如く引用し、これのみに基いて実用新案登録請求の範囲に記載された字句の解釈を行っている請求人の主張は、明らかに失当である。
以上のように、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとは言えないとする請求人の主張には、合理的な根拠は存しない。

(3)無効理由1について(その2)
請求人は、甲第5号証(広辞苑第5版)に記載された「近接」という用語の定義を引用し、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された「近接」という用語は、「二種以上の部材が連続形成されて1個の部材となる態様を意味しない」(審判請求書11頁16行目から17行目)ので、本件明細書の考案の詳細な説明の「バックパネル部1Cとデッキ取付け部1Dとシャーシ底部1Aとが連続して形成された一体化構造」(同頁24行目から25行目)を示す実施例は、「考案自体と全く齟齬、矛盾すらするものといえ、実用新案法第5条5項1号に規定する要件を満たしていない」(同12頁12行目から14行目)と主張する。
しかしながら、本件明細書の考案の詳細な説明の実施例に記載の、「バックパネル部1Cとデッキ取付け部1Dとが連続して形成された一体化構造」において、バックパネル部1Cとデッキ取付け部1Dとは、たとえ物理的に一体に形成されているとしても、依然として、それぞれ別の機能を有しているのであるから、「二種以上の部材」であることは明らかである。
また、本件明細書の考案の詳細な説明の実施例においては、「上記デッキ取付け部1Dは、上記シャーシ底部1Aに連続して立ち上がるバックパネル部1Cに近接して、特に、この実施例では、上記バックパネル部1Cに連続して形成されている。」(甲第1号証2頁右欄18行目から22行目)と記載され、「近接」の中に「連続形成」が含まれることが明確に開示されている。
実用新案法6条で準用する特許法70条2項が規定された平成6年以前においても、実用新案登録請求の範囲に記載された用語につき、考案の詳細な説明等にその意味するところ、あるいは定義が記載されているときは、それらを参酌して登録実用新案の技術的範囲の解釈認定を行うべきであることは言うまでもない。しかしながら、請求人は、ここでも甲第5号証に記載された「近接」という用語の定義を唯一正しい定義であるかの如く引用し、これのみに基いて本件登録実用新案の技術的範囲を解釈を行うことで、「実施例が考案自体と全く齟齬、矛盾すらする」旨の主張を行っている。かかる請求人の主張は、本来の登録実用新案の技術的範囲の解釈とは完全に乖離した手法によるものであり、根拠のないきわめて失当なものであることは言うまでもない。
以上のように、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、実用新案登録を受けようとする考案が、考案の詳細な説明に記載したものとは言えないとする請求人の主張には、合理的な根拠は存しない。

(4)無効理由2について
請求人は、本件明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る考案は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された考案であるか、または甲第2号証ないし甲第4号証に記載された考案(若しくは発明)に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条1項3号若しくは同条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないものであると主張する(審判請求書14頁22行目から28行目、15頁28行目から16頁5行目及び20行目26行目から21頁8行目参照)。
しかしながら、上記請求人の主張は,以下に述べるとおり明らかに失当な主張である。

i) 本件登録実用新案と甲第2号証に記載された考案(以下、「引用例1」という。)との対比
(イ) 技術課題の相違点
本件登録実用新案は、上記「(1) i)」において述べた通り、「一枚基板」を採用しつつも、シャーシの厚さを補うことなく、振動に対して十分な剛性を確保し、「基板割れ」を含む、必要部品に対する機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供することを技術課題とするものである。
一方、引用例1は、「デッキの振動及び衝撃を緩和すると共に、デッキの荷重を分散して支持することができる受け具を付け加えて、VTRの機能向上を図ることを目的とするもの」(甲第2号証和訳明細書2頁19行目から22行目)である。
このように、両者の技術課題は一見類似しているようにも見えるが、上記「(1)i)」において述べたように、「一枚基板」の技術は被請求人が1992年頃、世界に先立って開発したものであり、引用例1の出願時である1989年3月には、未だ存在していない技術である。したがって、引用例1においては、「基板割れ」を防止するという課題そのものがそもそも予定されていない。
また、甲第2号証に示される「VTR」は、明細書及び図面の記載から、どの部分からカセットが挿入されるのか明らかでなく、かつ、いずれの面が前面で、いずれの面が後面であるか、全く不明である。したがって、「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成」することにより、上記目的を達成する本件考案とは、そもそも技術的思想を全く異にするものであって、本件登録実用新案の新規性進歩性を否定する引例としては不適切なものであることは自明である。

(ロ) 構成の相違点
上記のように、甲第2号証に示される「VTR」はどの面が前面であるか不明であるが、以下では、甲第2号証第1図中の手前側長手面(操作部、表示部らしきものを有する面)を前面と仮定した上で、その構成面における相違点を述べる。
(a) 引用例1には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しない点
甲第2号証には、プリント配線基板に関して、開示も示唆も一切されていない。
したがって、引用例1には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しないことは明らかである。
なお、請求人は、「「キャビネット」が「プリント配線基板を底部に装備する」ものであることもまた自明である」(審判請求書13頁11行目から13行目)と主張するが、例えば乙第3号証(ZENITH社製VTR装置(型番:VRD205)の写真)に示すように、プリント配線基板を天板部に有するVTR装置も存在するから、明らかに失当な主張である。
(b) 引用例1には,本件登録実用新案の構成要件(B)が存しない。
引用例1の明細書及び図面の記載からは、「装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部」が開示されているか否か明確ではない。
引用例1の明細書の記載からは、「突出部(5)」及び「ボス(2)」が、本件明細書の「デッキ取付け部」に該当すると考えられるが、突出部(5)は「メインデッキ(3)の底面から突出される」ものであって「シャーシ底部から起立」しているものでないことは明白である。また、「ボス(2)」が「シャーシ底部から起立」しているかどうか、明細書及び図面の記載からは特定できない。
また、甲第2号証には、「デッキ本体のシャーシの後部を取付け、支持する」構成が開示されていない。
添付図面(甲第2号証の第1図に説明の便宜上符号を追加した図)を参照すると、デッキ本体のシャーシの略中央前方部が、突出部(5)、緩衝用支え台(7)及びねじ(8)によって取付け,支持されていること、並びに同シャーシの側部が部材(イ)及びねじ(4)によって取付け、支持されていることが把握できるが、同シャーシの後部は、明らかに取付け、支持されていない。
(c) 引用例1には、本件登録実用新案の構成要件(C)が存しない。
甲第2号証の実用新案登録請求の範囲には「VTRのキャビネット(1)上に形成されたボス(2)にメインデッキ(3)を結合するにおいて、ボス(2)にメインデッキ(3)をねじ(4)で結合し、… 」と記載されている。この記載と添付図面とを比較すると、キャビネット(1)及びメインデッキ(3)の形状、並びにねじ(4)及びねじ(4)から引かれた一点鎖線の位置関係から、添付図面の符号(イ)が付された部材が、本来の「ボス(2)」に該当することは自明であり、引用例(1)の第1図において符号(2)が付された部材は、ねじ(4)で結合される部材ではないから、明らかに誤記であることが把握できる。また、少なくとも符号(2)を付された部材が本件明細書の「デッキ取付け部」に該当しないことは自明である。
ここで、部材(イ)は、「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックバネル部」から明らかに「離れている」から、甲第2号証には、「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、上記デッキ取付け部を配置、形成した」構成が開示されていないことは明らかである。
また、甲第2号証の第1図は斜視図であり、符号(2)が付された部材あるいは部材(イ)がバックパネル部に近く接しているかどうか、すなわち「近接」しているか否かを特定できるものではなく、明細書中にもこれを特定できるような記載は存在しない。
この点については、「甲第2号証において、ボス(2)のバックパネル部からの離隔の程度は正確に記載されていない」(審判請求書13頁19行目から20行目)というように、請求人も認めている。
なお、請求人は「本件登録実用新案の構成要件(B)においても、「バックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成した」と記載されているだけで、その近接の程度は不明である以上、甲第2号証に記載のボス(2及び符号なしの同様の部材(以下、単に「2」という))もバックパネル部に近接して配置、形成されたものであって、本件登録実用新案のデッキ取付け部と何ら異なるところはないといえる。」(審判請求書13頁21行目から26行目)と主張する。
しかしながら、上記(2)及び(3)で述べたとおり、本件明細書で用いられている「近接」という用語は、「デッキ取付け部1Dが、バックパネル部1Cの近くに接していること、又はバックパネル部1Cから離れていないこと(「連続形成」を含む)」という意味に解されるべきであるから、上記請求人の主張は明らかに失当である。
また、請求人は、本件明細書段落[0004]の2頁左欄24行目から27行目の「デッキ本体を収納するのに必要な最小の奥行になるように、・・・バックパネル部に近接した位置に形成する」という記載を引用した上で、「この記載から、装置筐体がデッキ本体を収納するのに必要な奥行となるようにデッキ取付け部をバックパネル部に近接して配置すると解釈すれば、・・・甲第2号証に記載のボス(2)は本件登録実用新案のデッキ取付け部と同一である。よって本件登録実用新案の構成要件(B)は、甲第2号証に記載されている。」と主張する。
しかしながら、「シャーシの厚さを補わなくても、振動に対して十分な剛性を確保し、必要部品などに、上記振動に基く機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供」(甲第1号証左欄27行目から30行目;[0004])することが本件登録実用新案の主たる技術課題であることに鑑みれば、上記請求人の解釈及び主張が、失当なものであることは言うまでもない。

(ハ) 作用効果の相違点
上記構成上の相違から、上記「(1) iii)」において述べたような本件登録実用新案に特有の効果を、引用例1からは期待し得ないことは、極めて明らかである。

(ニ) まとめ
以上のように,本件登録実用新案と引用例1とでは、技術課題、構成及び作用効果のいずれの側面からも明らかに異なったものであり、技術的思想が根本的に異なっている。
したがって、本件登録実用新案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第2号証)に記載された考案である旨の請求人の主張、及び少なくとも甲第2号証に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨の請求人の主張は、いずれも失当なものである。

ii) 本件登録実用新案と甲第3号証に記載された発明(以下、「引用例2」という。)との対比
(イ) 技術課題の相違点
本件登録実用新案は、上記「(1) ii)」において述べた通り、「一枚基板」を採用しつつも、シャーシの厚さを補うことなく、振動に対して十分な剛性を確保し、「基板割れ」を含む、必要部品に対する機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供することを技術課題とするものである。
一方、引用例2の技術課題は、「テープメカニズムおよび配線基板を一括して容易に取付けることができ、取付作業の作業工数を低減し、作業の容易化に貢献し得るような,優れたメカブラケットを提供すること」(甲第3号証2頁右上欄14行目から17行目)である。
このように、両者の技術課題は全く異なるものである。

(ロ) 構成の相違点
上記技術課題の相違から、両者には、その構成面においても次のような相違点がある。
(a) 引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しない。
請求人は、甲第3号証に記載の「メカブラケット1」が本件明細書に記載の「デッキ本体」に相当するという前提で主張を行っている(審判請求書15頁16行目及び同頁20行目参照)が、合理的な根拠を欠いた前提である。すなわち、「メカブラケット1」は、例えば甲第3号証の3頁左下欄18行目から同頁右下欄2行目までに「メカブラケット1の両面にテープメカニズム2と第1、第2の配線基板とを取付け、一体化された内部構造物をケースに取付ける形となる」と記載されていることから明らかなように、引用例2に特有の「一体化された内部構造物」を作り出すための構成であって、本件明細書に記載の「デッキ本体」とは、全く別のものである。
したがって甲第3号証には、「記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体」が開示されているとは言えない。
請求人は、甲第3号証に記載の「配線基板4」が本件明細書に記載の「プリント配線基板」に相当するという前提で主張を行っている(審判請求書15頁16行目参照)が、合理的な根拠を欠いた前提である。すなわち、本件明細書の「プリント配線基板」は、スイッチ回路及びパルス・トランスを取付けた所謂「一枚基板」であるが、この「一枚基板」の技術は、上記「(1) i)」において述べたように、被請求人が1992年頃、世界に先立って開発したものであり、引用例2の出願時である19 89年3月には、未だ存在していない技術である。一方、甲第3号証の「配線基板4」については、これにスイッチトランス及びパルス・トランスを取付けた旨の開示は一切なく、本件明細書の「プリント配線基板」とは明らかに異なるものである。
したがって、甲第3号証には、「スイッチ回路及びパルス・トランスを取付けたプリント配線基板」が開示されているとは言えない。
また、請求人は、「配線基板4はロワーケース6のすぐ上に配設されていることが示されている(甲第3号証5頁第1図)。」と主張するが、以下に述べるとおり明らかに失当な主張である。
すなわち、「メカブラケット1の下に、第1の配線基板3をねじ8によって締付け固定し、この後、第2の配線基板4をねじ8によって締付け固定する」(甲第3号証3頁左下欄1行目から3行目)という記載から明らかなように、配線基板4は、メカブラケット1の下面に固定されるものである。一方、「メカブラケット1の後部には、上下各2箇所(下方は図示せず)にアッパーケース6およびロワーケース6を取付けるためのボス1eがそれぞれ垂直に設けられている」(同頁左上欄9行目から12行目)という記載から明らかなように、ロワーケース6は、メカブラケット1の下方にボス1eを介して取付けられるものである。
ここで、甲第3号証の第1図において「下方のボス1e」は図示されておらず、かつ、甲第3号証には、配線基板4及びロワーケース6の取付け位置に関する他の記載はないのであるから、配線基板4とロワーケース6との位置関係を特定する方法はない筈である。にもかかわらず、「配線基板4はロワーケース6のすぐ上に配設されている」とする請求人の主張は、根拠を欠く失当なものである。
したがって、甲第3号証には、「プリント配線基板を底部に装備した装置筐体」が開示されているとは言えない。
以上より、引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しないことは明らかである。

(b) 引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(B)が存しない。
請求人は、甲第3号証に記載の「ボス1e、ロワーケース6に設けられたねじ穴6a及びねじ穴6aを貫通するねじ8」が本件明細書に記載の「デッキ取付け部」に相当するという前提で主張を行っている(審判請求書15頁19行目から20行目及び同頁24行目参照)が、合理的な根拠を欠いた前提である。すなわち、上記(a)において述べたように、甲第3号証の「メカブラケット1」は、本件明細書の「デッキ本体」に相当するものではないから、メカブラケット1を取り付けるための「ボス1e、ロワーケース6に設けられたねじ穴6a及びねじ穴6aを貫通するねじ8」が本件明細書の「デッキ取付け部」に相当するものではないこともまた自明である。
また、仮にこれらが「デッキ取付け部」に相当するとしても、これらが「シャーシ底部から起立した」ものではないことは、極めて明確である。
したがって、甲第3号証には、「装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部」が開示されているとは言えない。
請求人は、甲第3号証に記載の「ボス1e」が本件明細書の「デッキ本体のシャーシの後部」に相当するという前提で主張を行っている(審判請求書15頁20行目から21行目参照)が、合理的な根拠を欠いた前提である。
すなわち、上記(a)において述べたように、甲第3号証の「メカブラケット1」は、本件明細書の「デッキ本体」に相当するものではないから、「ボス1e」が「デッキ本体のシャーシの後部」に相当しないこともまた、自ずと明らかである。
したがって、甲第3号証には、「デッキ本体の後部を取付け、支持する」構成が開示されているとは言えない。
以上より、引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(B)が存しないことは明らかである。

(c) 引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(C)が存しない。
上記(b)において述べたように、甲第3号証に記載の「ボス1e、ロワーケース6に設けられたねじ穴6a及びねじ穴6aを貫通するねじ8」が本件明細書に記載の「デッキ取付け部」に相当するという前提自体が、そもそも誤ったものであるから、引用例1に本件登録実用新案の構成要件(C)が存しないことは、説明を要しないほどに明確であるが、仮に「ボス1e、ロワーケース6に設けられたねじ穴6a及びねじ穴6aを貫通するねじ8」が本件明細書に記載の「デッキ取付け部」に相当したとしても、以下の理由により、引用例2には、本件登録実用新案の構成要件(C)が存しないことは明らかである。
請求人は、甲第3号証の第3図に示される「リアケース25」が本件明細書の「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部」に相当するという前提に基き(審判請求書15頁22行目から23行目参照)、「甲第3号証第1図には、リアケースが記載されていないが、同第3図にはリアケース2 5がアッパーケース5及びロワーケース6の後縁部に沿って取り付けられていることがわかる。」(同頁10行目から11行目)と主張する。
しかしながら、甲第3号証においては、「第3図はこのような実施例(メカブラケットが自立できる形状とした場合の実施例)を示す図であり、…」(4頁右上欄11行目から12行目)という記載があるのみで、第1図と第3図との関連性が必ずしも明確ではない。「リアケース25」が本件明細書の「バックパネル部」に相当するという前提の根拠、並びに、何故「リアケース25がアッパーケース5及びロワーケース6の後縁部に沿って取り付けられることがわかる」(審判請求書15頁10行目から11行目)のか、その根拠は全く不明である。
また、上記で述べた請求人の前提及び主張を仮に認めたとしても、甲第3号証の第1図から明らかなように、「ねじ穴6a」は、ロワーケース6の後縁部から「離れた」位置に配置されており、リアケース25とボス2e、ねじ穴6a及びねじ8とは「近接」しない。

(ハ) 作用効果の相違点
上記構成上の相違から、上記「(1) ii)」において述べたような本件登録実用新案に特有の効果を、引用例2からは期待し得ないことは、極めて明らかである。

(ニ) まとめ
以上のように、本件登録実用新案と引用例2とでは、技術課題、構成及び作用効果のいずれの側面からも明らかに異なったものであり、技術的思想を根本的に異にするものである。
したがって、本件登録実用新案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された考案である旨の請求人の主張、及び少なくとも甲第3号証に記載の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨の請求人の主張は、いずれも失当なものである。

ii) 本件登録実用新案と甲第4号証に記載された発明(以下、「引用例3」という。)との対比
(イ) 技術課題の相違点
本件登録実用新案は、上記「(1)iii)」において述べた通り、「一枚基板」を採用しつつも、シャーシの厚さを補うことなく、振動に対して十分な剛性を確保 し、「基板割れ」を含む、必要部品に対する機械的損傷を与えないように工夫した磁気テープ装置を提供することを技術課題とするものである。
一方、引用例3の技術課題は、「組立性、サービス性を向上でき、低コストでコンパクトな磁気記録再生装置のシャーシ構造を提供すること」(甲第4号証2頁右上欄14行目から17行目)である。
このように、両者の技術課題は全く異なるものである。

(ロ) 構成の相違点
上記技術課題の相違から、両者には、その構成面においても次のような相違点がある。
(a) 引用例3には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しない。
請求人は、甲第4号証に記載の「基板ユニット8」及び「主基板ユニット17」が本件明細書に記載の「プリント配線基板」に相当するという前提で主張を行っている(審判請求書15頁16行目参照)が、合理的な根拠を欠いた前提である。すなわち、本件明細書の「プリント配線基板」は、スイッチ回路及びパルス・トランスを取付けた所謂「一枚基板」であるが、この「一枚基板」の技術は、上記「(1) i)」において述べたように、被請求人が1992年頃、世界に先立って開発したものであり、引用例3の出願時である1984年11月には,未だ存在していない技術である。一方、甲第4号証の「基板ユニット8」及び「主基板ユニット17」については、これらにスイッチトランス及びパルス・トランスを取付けた旨の開示は一切なく、本件明細書の「プリント配線基板」とは明らかに異なるものである。
したがって、甲第4号証には、「スイッチ回路及びパルス・トランスを取付けたプリント配線基板」が開示されているとは言えず、引用例3には、本件登録実用新案の構成要件(A)が存しないことは明らかである。

(b) 引用例3には、本件登録実用新案の構成要件(C)が存しない。
甲第4号証においては、装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置している点が開示されていないことは、請求人も認めている通りである(審判請求書18頁21行目から25行目参照)。
したがって、引用例3には、本件登録実用新案の構成要件(C)が存しないことは、明らかである。
尚、請求人は、「甲第4号証に記載の「装置筐体(シャーシ枠体1又は11)の前壁及び側壁に一体にされたデッキ取付け部(保持ボス4又は第1保持部14及びボス11d)の代わりに、甲第3号証に記載の「バックパネル部(リアケース25)に近接して配置、形成されたデッキ取付け部(固定脚22 a)」を用いて、第一権利(被請求人代理人注:「本件登録実用新案」の誤記であると思われる。)の構成要件「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、デッキ取付け部を配置、形成した」に想到することは当業者にはきわめて容易なことである。」(審判請求書19頁24行目から20頁1行目)と主張する。しかしながら、以下に述べるように、請求人のこの主張は極めて失当なものである。
上記したように、甲第3号証に記載の「メカブラケット」は、本件明細書に記載の「デッキ本体」とは全く別のものである。したがって、「メカブラケット22」をロワーケース23に取付けるための「固定脚22a」が、本件明細書に記載の「デッキ取付け部」に相当しないこともまた、自明であると言わざるを得ない。
また、仮に「固定脚22a」が本件明細書に記載の「デッキ取付け部」に相当するとしても、甲第3号証の第3図を見ると、固定脚22aは、ロワーケース23の後縁部から明らかに「離れた」位置に配置されており、リアケース25を取り付けたとしても、これと固定脚22aとは「近接」しない。

(c)「デッキ取付け部をバックパネル部に近接させた」構成は、「デッキ取付け部を装置億体の側壁及び前壁に近接させた」構成から当業者がきわめて容易に想到することができたものではない。
甲第4号証には、第5図に示されるボス11d及び第1保持部14のように「デッキ取付け部を装置筐体の側壁及び前壁に近接させた」構成が開示されている。しかしながら、本件登録実用新案の「デッキ取付け部をバックパネル部に近接させた」構成は、以下に述べるように、甲第4号証に開示された上記構成から当業者がきわめて容易に想到できたものではない。
甲第4号証の第5図に示される第1保持部14が装置筐体の前壁に近接しているのは、カセット挿入口が装置筐体の前方に形成されているという、磁気記録再生装置一般が有する構造によるものであって、「装置筐体の剛性を確保する」という技術的思想によるものではない。
甲第4号証の第5図に示されるボス11dのうち、一方は側壁に近接しているが、他方は明らかに側壁にも後壁にも近接しておらず、シャーシ底部にかかる曲げ応力の影響を回避することはできない。また、デッキ取付け部を一方の側壁だけに近接させた場合、同図に示されるように、カセット挿入口は左右いずれかに偏って設けざるを得ないという新たな問題点が生ずる。
さらに、このような問題点を解消するために、仮に、デッキ取付け部を両側の側壁に近接させた場合、デッキ本体の大型化とこれに伴う装置の重量増加、空間利用効率の低下等の弊害が避けられないことは明らかである。
本件登録実用新案においては、デッキ取付け部を後面(バックパネル部)に近接させたことによって、特段の作用効果を奏するのである。以上に述べたとおり、本件登録実用新案の「デッキ取付け部をバックパネル部に近接させた」構成は、デッキ取付け部を装置筐体の側壁及び前壁に近接させた構成から、当業者がきわめて容易に想到することができたものとは、決して言えない。

(ハ) 作用効果の相違点
上記構成上の相違から、上記「(1) iii)」において述べたような本件登録実用新案に特有の効果を、引用例3からは期待し得ないことは、極めて明らかである。
(ニ) まとめ
以上のように、本件登録実用新案と引用例3とでは、技術課題、構成及び作用効果のいずれの側面からも明らかに異なったものであり、技術的思想を根本的に異にするものである。
したがって、本件登録実用新案は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲第4号証及び甲第3号証)に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨の請求人の主張は、失当なものである。

iv) 結び
以上のとおりであるから、本件登録実用新案は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された考案であるか、または甲第2号証ないし甲第4号証に記載された考案(若しくは発明)に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものである旨の請求人の主張には、合理的な根拠は存しない。

5.当審の判断

【実用新案法第3条第2項違反について】
(1)本件考案
本件登録第2530916号実用新案の請求項1に係る考案(以下、「本件考案」という。)は、登録査定時の明細書の請求項1に記載されたとおりのものである(上記「2.」を参照。)。

(2)引用例
[引用例1(甲第4号証、特開昭61-122990号公報)]
請求人が提出した、本願出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開昭61-122990号公報。以下、「引用例1」という。)は、磁気記録再生装置のシャーシ構造に関するもので、図面とともに次の技術事項が記載されている。
(i)「〔産業上の利用分野〕
この発明は磁気記録再生装置(以下、VTRと記す)のシャーシ構造、特にその組立性、サービス性を向上でき、かつ低コスト化、コンパクト化を達成できるようにしたVTRのシャーシ構造に関するものである。」(第1頁右下欄第15?20行)
(ii)「一般的なVTRのシャーシ構造を第7図、第8図に概略的に示す。図において、1はプラスチック等で一体形成されたシャーシ枠体、2はメカデッキで、これは取付け穴3aを有する取付部3を備え、上記シャーシ枠体1に設けられた保持ボス4にネジ5aで螺着されている。
6、7、8は各々第1基板ユニット、第2基板ユニット、第3基板ユニットであり、上記第1基板ユニット6はメカデッキ2の側部のボス1aに上部からネジ5bで螺着されており、第2基板ユニット7は上記第1基板ユニット6の上部において、ヒンジ部材9により、その一端がシャーシ枠体1に回動自在に取付けられ、他端はボス1bにネジ5cにより螺着されている。また、上記第3基板ユニット8はメカデッキ2の下方において、その一端がヒンジ部材9によりシャーシ枠体1に回動自在に取付けられ、他端はネジ5cによりボス1cに螺着されている。」(第2頁左上欄第2?19行)
(iii)「第1図はこの発明の一実施例を概略的に示す斜視図であり、第2図はその断面図である。図において、11はプラスチック等で一体成形されたシャーシ枠体で、天面が開放された箱状となっている。12はメカデッキで、従来例と同じく取付穴13aを有する取付部13を備えている。
上記シャーシ枠体11の前部にはメカデッキ12の前部を保持するための第1保持部14が設けられており、これはシャーシ枠体11の底面11aにボス状に一体形成されており、また上記シャーシ枠体11の略中央部には、メカデッキ12の後部を保持するための第2保持部15が形成されている。この第2保持部15は平面L字状のもので、その縦辺部15dの先端、横辺部15cはそれぞれシャーシ枠体11の側面11e、底面11aに一体形成され、これにより上記縦辺部15dはシャーシ枠体11の底面11aに対してアーチ状になっており、また該縦辺部15dには固定用ボス15aと仮止め穴15bが形成されている。このようにしてメカデッキ12はその前部を第1保持部14に、後部を第2保持部15の固定用ボス15aにネジ16aにより固着されている。
17はほとんどの主要回路部品が搭載された主基板ユニットで、1枚の基板、あるいは複数の基板を結合して形成されたものである。18は外部接続端子板で、これは上記主基板ユニット17と電気的及び機械的に結合されている。19、20はシャーシ枠体11に一体に成形された基板支持台、基板ガイドで両者の間を主基板ユニット17が摺動可能となっている。また21は補強板で、これは主基板ユニット17の両サイドにプラスチックリベット22等により固定されている。
次に作用効果について第2図ないし第4図を用いて説明する。主基板ユニット17は通常の状態では第2図に示すように基板支持台19と、基板ガイド20の間にシャーシ枠体11の後部からシャーシ枠体11の底面11aと第2支持部15の縦辺部15dとの間を通って摺動挿入され、シャーシ枠体11の後面に設けられた取付ボス11bにネジ16bにより外部接続端子18の取付穴18a部分が固着されており、このようにして主基板ユニット17がシャーシ枠体11に装着されている。」(第2頁右下欄第11行?第3頁右上欄第13行)
(iv)「第5図は上記実施例の第2の保持部15の変形例を示すもので、この保持部25は鋼板をプレス加工にて横断面コ字状の棒状体に形成したもので、この第2保持部25はシャーシ枠体11に設けられたボス11dにネジ16cで固着されている。この保持部25はより高い剛性が要求される場合有利である。
第6図は、本発明の他の実施例を示す側面断面図であり、図において、メカデッキ12はシャーシ枠体11に対して所定の角度で前傾して保持されている。23はカセット自動装填装置で、これは前傾したメカデッキ12にカセットテープ24を装填するための機構を有し、カセットテープ24は水平方向に挿入案内された後、同じく前傾して装填される。この構造は、メカデッキ12の下部のスペースを大きくでき、そのため主基板ユニット17上に比較的背の高い部品を配置したい時に有効であり、またメカデッキ12の録画、再生部26部分は、・・・」(第3頁右下欄第5行?第4頁左上欄第3行)

ここで、引用例1におけるメカデッキ2、12は、記録/再生部をシャーシ内に組み込んだものであることは明らかである。また、引用例1の磁気記録再生装置は、メカデッキ2、12を基板ユニット8、17を底部に備えたシャーシ枠体1、11内に配置するものである。

以上より、上記摘記事項及び図面の記載を総合勘案すれば、引用例1には、次の考案が記載されているものと認める。

「記録/再生部をシャーシ内に組み込んだメカデッキ2、12を、基板ユニット8、17を底部に装備したシャーシ枠体1、11内に配置し、上記シャーシ枠体1、11を構成するシャーシ底面にボス状に一体形成されて設けられた保持部4、14でメカデッキ2、12の前部を保持し、シャーシ枠体1、11の底面にそれぞれ一体形成された保持部4(第7図)、15(第1図)でメカデッキ2、12の後部を保持するように構成した磁気記録再生装置において、
上記シャーシ枠体1、11の略中央部(第7図ではシャーシ枠体の中央より外部接続端子板側寄り)にメカデッキ2、12の後部を保持する上記保持部4、15を配置、形成した磁気記録再生装置。」

[引用例2(甲第2号証、大韓民国特許庁・公開実用新案公報91-3347)]
同じく請求人が提出した本願出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(大韓民国特許庁・公開実用新案公報91-3347、以下、「引用例2」という。)は、VTRの緩衝デッキ支え台に関するもので、図面とともに次の技術事項が記載乃至開示されている。
(i)「本考案は、VTRにおいて下部キャビネット上に設置されたメーンデッキの受け具に関するものであり、特にはデッキの振動及び衝撃を防止することによりVTRの機能を向上させることができるVTRの緩衝用のデッキ受け具を提供するためのものである。」(実用新案の詳細な説明)
(ii)「本考案は、こうした従来のデッキの固定装置が持っていた問題点を解決してデッキの振動及び衝撃を緩和すると共に、デッキの荷重を分散して支持することができる受け具を付け加えて、VTRの機能向上を図ることを目的とするものであり、・・・」(実用新案の詳細な説明)
(iii)「VTRのキャビネット(1)上に形成されたボス(2)にメーンデッキ(3)を結合するにおいて、ボス(2)にメーンデッキ(3)をネジ(4)で結合させると共に、メーンデッキ(3)の底面に突出する突出部(5)を形成して、突出部(5)の底面にネジ(8)で固定された緩衝用の受け具(7)がパネル(9)に形成されたホール(10)を通じて外部に露出されたことを特徴とするVTRの緩衝用のデッキ受け具。」(請求の範囲)

[引用例3(甲第3号証、特開平2-230592号公報)]
同じく請求人が提出した本願出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平2-230592号公報、以下、「引用例3」という。)は、記録媒体再生装置のメカブラケットに関するもので、図面とともに次の技術事項が記載されている。
(i)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、記録媒体再生装置において、そのケース内に記録媒体駆動機構と配線基板とを固定するためのメカブラケットに関するものである。」(第1頁左下欄第15?18行)
(ii)「本実施例の組立ては次のようにして行う。
まず、メカブラケット1の上にテープメカニズム2を載せ、メカブラケット1の垂直面1aによって、ガイド、位置決めし、この状態で両部品をねじ8によって締付け固定する。
次に、メカブラケット1の下に、第1の配線基板3をねじ8によって締付け固定し、この後、第2の配線基板4をねじ8によって締付け固定する。そして、くし差しタイプの接続ピン9で第1、第2の配線基板を貫通することにより、両基板を電気的に接続する。
このようにして一体化した内部構造物を、矢印A方向へスライドして、フロントケース7に固定する。この場合、フロントケース7の固定爪7aをメカブラケット1の角穴1fに挿入して、両者を仮固定する。この後、アッパーケース5およびロワーケース6を上下より被せ、各ケース5、6の外面から、ねじ8によってケース5、6とメカブラケット1のボス1eとを締付け固定する。」(第3頁右上欄第15行?同頁左下欄第14行)
(iii)「第3図は、このような実施例を示す図であり、テープメカニズム21を取付けたメカブラケット22を、その固定脚22aによってロワーケース23に取付け、この後、アッパーケース24、リアケース25、およびコ字状のフロントケース26を取付けている。」(第4頁右上欄第11?16行)

(3)対比
本件考案と引用例1に記載された考案とを対比する。
引用例1に記載された考案は、磁気記録再生装置(VTR)のシャーシ構造に関するものであり、この「磁気記録再生装置」は、本件考案の「磁気テープ装置」とその対象は同じである。
引用例1に記載された考案における「シャーシ枠体1、11」は、本件考案における「装置筐体のシャーシ」のことである。
引用例1に記載された考案における「メカデッキ2、12」は、記録/再生部をシャーシ内に組み込んだものであるから、本件考案における「デッキ本体」に相当する。
引用例1に記載された考案における「基板ユニット8、17」は、1枚あるいは複数の基板を結合して形成された回路部品が搭載された基板であり(引用例の摘記事項(ii)、(iii)を参照。)、本件考案における「プリント配線基板」に相当する。
引用例1の磁気記録再生装置(磁気テープ装置)は、図面からも明らかなように、本件考案と同様、メカデッキ2、12(デッキ本体)を基板ユニット8、17(プリント配線基板)を底部に備えた装置筐体内に配置するものである。
引用例1に記載された考案における「メカデッキの後部を保持する保持部4、15」は、シャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)の底面に一体形成される(保持部15については、その一部をなす「横辺部15c」は底面11aと一体形成されている)、すなわち「シャーシ底部から起立」して形成され、メカデッキ12(デッキ本体)の後部を取付保持するものであるから、その限りで上記「保持部4、15」は本件考案における「デッキ取付け部」に相当する。

そうすると、本件考案と引用例1に記載された考案とは、次の点で一致する。
<一致点>
「記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体を、プリント配線基板を底部に装着した装置筐体内に配置し、
上記装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部に、上記デッキ本体のシャーシの後部を取付け、支持するように構成した
磁気テープ装置。」

そして、次の点で相違する。
<相違点>
「デッキ取付部」に関し、本願発明においては、「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して、上記デッキ取付け部を配置、形成した」ものであるのに対し、引用例1に記載された考案においては、このことが特には示されていない点。

(4)判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例1に記載された考案は、メカデッキ2、12(デッキ本体)の後部を保持するための保持部4、15(デッキ取付け部)はシャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)の略中央部に形成されるものであるが、上記「保持部4」(デッキ取付部)はシャーシ1(装置筐体のシャーシ)中央部よりシャーシ後部を構成する外部接続端子板側(すなわち「装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル側」)にやや寄って一体形成されていることが図面(第7、8図)よりみてとれる。また、上記「保持部15」(デッキ取付け部)の一部をなす「横辺部15c」は、シャーシ枠体11の底面11aに一体形成されるものであり(引用例の摘記事項(iii)を参照。)、この「横辺部15c」は、シャーシ枠体11(装置筐体のシャーシ)の中央部より側面の側に寄って(近接して)設けられ、メカデッキ12(デッキ本体)の側部を保持していることが明らかである(第1図を参照。)。
一方、装置筐体内の各部品の配置は、該筐体内の限られた空間をできるだけ有効に活用するために、特段の理由がなければ各部品同士、各部品とシャーシ壁部との間隔を空けることなく近接して配置した方がよいことは明らかである。そして、装置筐体全体の重量バランスをとり、剛性を高めようとする場合、比較的重量のあるメカデッキ2、12(デッキ本体)のシャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)への取付け位置をできるだけシャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)壁面に近接して取付ければよいことも機械的にみてその構造上明らかなことである。
また、引用例2の第1図を参照すると、ボス2は、下部キャビネット(「シャーシ底部」に相当)から起立しており、メインデッキ3(「デッキ本体」に相当)をキャビネット1(「シャーシ」に相当)に取付け、支持するものであり、キャビネット1(シャーシ)を構成するバックパネル部及びサイドパネル部に近接して配置、形成されているものであることは明らかである。
さらに、引用例3の第3図に記載のものは、リアケース25(「バックパネル部」に相当)がアッパーケース24、ロワーケース23の後縁部に沿って取り付けられているものであるから、引用例3の第1図に記載のものにおいても、アッパーケース5、ロワーケース6の後端部にリアケース(バックパネル部)が取付けられるものであり、その場合、アッパーケース5及びロワーケース6のねじ孔5a及び6aが設けられている側に近接する後部位置にリアケース(バックパネル部)が取付けられることは明らかである。
したがって、引用例1に記載された考案においても、シャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)内の空間を有効に活用してメカデッキ2、12(デッキ本体)を配置するとともにシャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)全体の重量バランスをとり、剛性をさらに高めるために、シャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)の略中央部に形成されたメカデッキ2、12(デッキ本体)の後部を保持する「保持部4、15」(デッキ取付け部)を、引用例2、及び引用例3に記載されたもののように、単にシャーシ枠体1、11(装置筐体のシャーシ)の中央部よりさらに後部側寄りの位置、すなわち装置筐体のシャーシ後部に近接して配置、形成することは当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。

そして、本件考案が奏する効果も引用例1乃至3から当業者が十分に予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

なお、被請求人は、答弁書中で、本件登録実用新案は、一枚のプリント配線基板上に通常の電子部品に加えて、スイッチング電源トランスを含む電源ユニットをも実装した、いわゆる「一枚基板」を使用したときに発生する「基板割れ」の問題を解決するものである旨主張するが、上記「一枚基板」については、本件の出願当初の明細書には何ら記載されておらず、また、実用新案登録請求の範囲の請求項1には、単に「プリント配線基板」とあるのみで、被請求人が主張するような「一枚基板」であるかどうか明らかとはいえないので、被請求人の「一枚基板」に関する上記主張は採用することができない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件考案は、引用例1(甲第4号証)に記載された考案、及び、引用例2(甲第2号証)、引用例3(甲第3号証)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、本件考案に係る実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであるから、本件審判請求人が主張する他の無効理由を検討するまでもなく、同法第37条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2005-05-13 
結審通知日 2005-05-19 
審決日 2005-06-09 
出願番号 実願平4-47209 
審決分類 U 1 113・ 121- Z (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 相馬 多美子  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 山田 洋一
江畠 博
登録日 1997-01-10 
登録番号 実用新案登録第2530916号(U2530916) 
考案の名称 磁気テープ装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 矢部 耕三  
代理人 牧野 利秋  
代理人 大塚 就彦  
代理人 本多 泰介  
代理人 安江 邦治  
代理人 佐久間 幸司  
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