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審決分類 審判    A47J
管理番号 1249738
審判番号 無効2011-400003  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-03-18 
確定日 2011-12-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第3161431号実用新案「多機能ザル」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3161431号に係る実用新案についての出願は、出願日が平成20年6月2日(優先権主張平成19年6月20日)である特許出願(特願2008-169547号)の一部を平成22年5月17日に新たな特許出願(特願2010-113726号)とし、さらに、平成22年5月19日に実用新案登録出願(実願2010-3300号)に変更したものであって、平成22年7月7日に設定登録されたもの(請求項の数5)である。
そして、平成23年3月18日付けで、株式会社一興(以下「請求人」という。)より実用新案登録無効審判請求(請求項1ないし5)がなされ、平成23年5月19日付け答弁書、平成23年8月4日付け口頭審理陳述要領書(請求人)、平成23年9月1日付け口頭審理陳述要領書(被請求人)が提出された後、平成23年9月8日に第一回口頭審理が行われ、その後、平成23年9月15日付け上申書(被請求人)、平成23年9月21日付け上申書(請求人)が提出されたものである。
本件の出願は、優先権主張をするものであるが、その基礎となる平成19年6月20日の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状を有する」こと、「表面と裏面の防滑性が異なる」ことについて記載されていないので、適法な優先権主張の出願であるとは認められない。

第2 本件考案
本件登録実用新案第3161431号の請求項1?5に係る考案は、登録実用新案明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるものである(以下「本件考案1」?「本件考案5」という。)。

「【請求項1】
円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体であり、且つ、表面と裏面の防滑性が異なることを特徴とする多機能ザル。
【請求項2】
前記表面がシボ加工され、前記裏面が鏡面加工されることで表面と裏面に異なる防滑性が与えられていることを特徴とする請求項1に記載の多機能ザル。
【請求項3】
更に、前記側面部の厚さが0.7mm以上1.2mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多機能ザル。
【請求項4】
前記側面部の上部開口部が当該側面部よりも肉厚であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の多機能ザル。
【請求項5】
更に、前記側面部の縦方向に縦リブを設けたことを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の多機能ザル。」

第3 請求人の主張
これに対し、請求人は、概ね、審判請求書において、本件考案1?5は、甲第1号証?甲第13号証記載のものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、無効とすべきである旨主張し、平成23年8月4日付け口頭審理陳述要領書において、甲14?29号証を提出し、さらに、平成23年9月21日付け上申書において、甲第30号証?甲第33号証を提出し、本件考案1?5は、甲第1号証?甲第13号証と、甲第14号証?甲第29号証と、甲第30号証?甲第33号証により、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件考案1?5は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものであり、同法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきである旨主張している(審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書)。

甲第16号証?甲第18号証による主張は、第1回口頭審理における補正許否の決定により、許可しないものとなった。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2007-284245号公報
甲第2号証:特開平9-141783号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0096929号明細書
甲第4号証:米国特許出願公開第2007/0181489号明細書
甲第5号証:米国特許出願公開第2007/0251874号明細書
甲第6号証:実願昭47-141947号(実開昭49-97150号) のマイクロフィルム
甲第7号証:実用新案登録第3135609号公報
甲第8号証:特開2006-297811号公報
甲第9号証:特開2004-240946号公報
甲第10号証:特開2004-105457号公報
甲第11号証:実願昭56-63208号(実開昭57-173634号 )のマイクロフィルム
甲第12号証:特開2001-146223号公報
甲第13号証:特開2003-89137号公報
甲第14号証:シリコンの金型成形工程を示す図
甲第15号証:特許・実用新案審査基準第I部第1章明細書及び特許請求 の範囲の記載要件3.2.1実施可能要件の具体的運用
甲第16号証:pavani社カタログ(01/07)
甲第17号証:pavani社シリコンザル写真
甲第18号証:国際公開第2006/054168号
甲第19号証:最高裁昭和62年(行ツ)第3号判決
甲第20号証:ニンニク薄皮剥き表裏比較実験確認書
甲第21号証:きな粉節約表裏比較実験確認書
甲第22号証:三陽プレシジョン社製シリコンザルの商品パッケージ
甲第23号証:吉浦洋之、清高稔勝 シボ加工法による金型材のエッチン グ特性について、大分県工業試験場研究報告、昭和61年 度、p47-61
甲第24号証:特許・実用新案審査基準第II部第2章新規性進歩性2 .5(3)4 数値限定を伴った発明における考え方
甲第25号証:硬さの違いによるシリコンザルの保形性比較
甲第26号証:シリコンザルの開口肉厚部の有無による保形性比較
甲第27号証:水切り具の変形状態を示す図
甲第28号証:審査段階の引用文献の1つ(特開2007-50252号 公報)
甲第29号証:2010年5月17日付け意見書
甲第30号証:特許・実用新案審査基準 第II部 特許要件 第2章 新規性進歩性 1.5.1 請求項に係る発明の認定 p3?5
甲第31号証:特許第4625852号公報
甲第32号証:特願2008-169547号の面接記録
甲第33号証:きな粉をふりかけたシリコンザルを上下逆さまにした状態 を示す図

第4 甲各号証の記載
1.甲第1号証
請求人の提出した甲第1号証には、以下の記載がある。

a「【請求項1】
上部に開口部を持ちその下部に厨芥物等を溜める袋状の空間を持った水切り具にあって内側と外側とを反転できるような弾性体で構成されたことを特徴とする厨房及び食卓用の水切り具。
【請求項2】
前記弾性体にフッ素化合物又はシリコンを含んだものを用いたことを特徴とする請求項1記載の厨房及び食卓用の水切り具。」(特許請求の範囲)

b「以上の課題を解決する為に、本発明はごみかごの内側と外側とを反転できるようにゴム等の弾性体(以下ゴムと言う)で作り、更に角部を作らず底部を湾曲させて掃除をしやすいようにする。又ごみかごをごみ等が付着しにくい摩擦の少ないフッ素化合物又はシリコンを含んだゴムで作れば尚良い。
尚フッ素化合物やシリコンとあるが摩擦が小さい物質であればこれに限定しない。」(段落【0004】)

c「茶こし用の網、水切り用ボール、ザル等を同様に作れば上記ごみかごと同じ効果が得られる。」(段落【0005】)

d「【発明を実施するための最良の形態】
図1について説明する。
図1は流し台のシンク下部に装着して厨芥を分離する為の通水口を設けたごみかごである。このごみかごにフランジをもたせ全体をフッ素化合物を含んだゴムで作る。この時ごみかごの底部はなるべく湾曲状態にする。」(段落【0006】)

e「「実施形態の効果」
1:ゴムで作ってあるのでごみかごの内側と外側が反転出来る。つまり通常の状態で内側に溜まったごみを出した後外側を洗う。次に手で外側底部を上部開口部に押し上げて更に外に出す。ゴムだから内と外を反転して今までと同じ形状を保持することが出来る。これによって今まで内側だったものが外側に出てくる。
・・・
3:ゴムなので形状をどの様にも製作でき、底部を湾曲にしてあるので塵芥が分離し易く、角が無くなり洗い易い。」(段落【0007】)

以上の記載事項及び図面の内容を、本件考案1に倣って整理すると、甲第1号証には、
「湾曲した底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の通水口3を有すると共に、
手で内側と外側とを反転できるようにし得るシリコンを含んだゴムからなるものであり、
摩擦を小さいものとしたザル。」(以下「甲第1号証記載の考案」という。)が記載されている。

2.甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。
a「【従来技術および問題点】
シリコーン樹脂の加硫物層あるいはシリコーンゴム状の層を利用したシリコーン系滑り止めシートは、固定しやすく容易に剥離する特性を要求される電気、電子部品のスリップ防止としてよく利用されている。」(段落【0002】)
b「シリコーン樹脂層あるいはシリコーンゴム層は鏡面になり、前記シリコーン樹脂層あるいはシリコーンゴム層を滑り止めに使用するときに、相手側に密着してしまうと言う欠点があった。」(段落【0003】)

c「密着防止として表面に凹凸を付け、またコーティングにより製造可能なシボ付きシリコーンゴム製滑り止めシート及びその製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】)

d「本発明によれば、シボ付きの離型シートを使用してシリコーンゴム層を形成しているため、鏡面ではない、凹凸のある表面を有するシボ付きシリコーンゴム製滑り止めシートとすることができ、相手側と密着することがないという利点がある。」」(段落【0007】)

e「図2に示すように前記基材の反対面に粘着剤層5を介して表面平滑なシリコーンゴム層6を設けることもできる。」(段落【0009】)

以上の記載及び図2の記載から、甲第2号証には、
「基材3の表面に平滑なシリコーンゴム層6を設け、反対面に凹凸のシボ7を形成し、相手側と密着することがないシリコーンゴム製滑り止めシート。」(以下「甲第2号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

3.甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
a「1.A strainer, comprising a flexible, perforated membrane」(claim1.柔軟で孔の空いた薄膜21から成るストレーナ。当審仮訳。以下同様。)

b「【0003】Perforated strainers, also known in the food preparation art as colanders, are a conventional tool typically formed of a rigid, non-flexible material. A drawback of all rigid strainers and collanders is that their form requires a lot of storage space. The present invention provides a solution to that problem in the form of a strainer that employs a flexible, perforated membrane allowing it to axially collapse to a minimum size when not in use.」(【0003】孔の空いたストレーナは、調理用水切りボールとしても知られるが、一般に、柔軟性がなく、曲げ難い材料からなるものであった。このような柔軟性のないストレーナや水切りボールは、大きな収納スペースを必要とするという問題がある。本発明は、不使用時、孔の空いた薄膜を軸方向に折りたたんで最小寸法にできるようすることにより、この問題を解決するものである。)

c「【0017】A key feature of the invention is that membrane 12 is formed to be stable in both the storage and use configurations. This enables the user to select either configuration, which the membrane 12 will then statically hold indefinately until it is shifted to the other configuration.」(【0017】本発明の主要な特徴は、使用時、不使用時のいずれにおいても安定した形状を保持できることである。これにより、使用者は、他の形状に移るまで、薄膜12を、どちらかの形状に選択し、その状態で保つことができる。)

d「【0018】One example of the membrane 12 is formed of silicone rubber with a softness on the Shore A scale of about 25」(【0018】一例として、薄膜12は、ショアA硬度が約25のシリコンゴムで形成される。)

e「【0022】While the invention has been illustrated and described as embodied one type of strainer, it is not intended to be limited to the details shown, since it will be understood that various omissions, modifications, substitutions and changes in the forms and details of the device illustrated in its operation can be made by those skilled in the art without departing in any way from the spirit of the present invention.」(【0022】本発明について、一つのストレーナを用いて説明したが、その詳細がこれに限定されると意図したものではなく、本発明の趣旨を逸脱することなく、形状や詳細について、簡略化、修正、代用、変更を当業者によって行える。 )

f 図5からは、湾曲した底部の周縁部から側面部が延出した水切り容器状のものが看取できる。
そうすると、甲第3号証には、
「使用時において湾曲し、保存時において円形状である底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の孔を有すると共に、
軸方向に折り畳み可能なシリコンゴムからなる薄膜12と、これを支持する固いフレーム及びハンドルからなる水きりざる。」(以下「甲第3号証記載の考案」という。)が記載されている。

4.甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。
a「【0001】The present invention relates to improved or alternative devices useful for straining liquid from foodstuffs. More particularly the invention relates to strainers that are capable of collapsing for easy storage.」(【0001】 本発明は、食品から液を除くのに用いるものであり、特に、収納しやすいように、折りたためるザルに関する。)

b「【0018】・・・there are a number of contracted structuctural members(20) extending radially from thr center of the strainer.」(【0018】ザルの中心から放射状に延出する多くの収縮した構造部材20がある。)

c「【0020】A resilient material, such as silicon or a suitable thermoplastic rubber, is moulded into the appropriate shape,・・・The resulting strainer, while flexible enough to change shape easily,should be at its most stable configuration when in its "non use"contracted configuration.」(【0020】シリコンまたは適当な熱可塑性ゴムのような適当な弾性材料が、適当な形に形成される・・・ザルは、その形を変えられるが、使用しない時は、収縮し安定した形を取る。)

d 図4からは、「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状になり且つ複数の水切り孔を有するもの」が看取できる。

したがって、甲第4号証には、
「使用時に円形状の底部の周縁部から収縮した構造部材20が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
濾し部(構造部材)は変形し得るシリコンからなるザル。」(以下「甲第4号証記載の考案」という。)が記載されている。

5.甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。
a「【0016】・・・The straining device 100 comprises a collapsible container 102 having a plurality of apertures 104 formed therein. 」(【0016】・・・ザル100は、複数の開口104を有する折りたたみ可能な容器102からなる。)

b「【0016】・・・For example,the collapsible container 102 can be fabricated, in whole or in part, from a silicone,plastics,nylon,・・・or any other material sufficiently deformable and/or flexible to expand during use,for example in response to gravity and/or a weight of contents, and collapse into a thin form after use for storage and/or transport.」(【0016】・・・例えば、折りたたみ可能な容器102は、その全部又は一部がシリコーン、プラスチック、ナイロン・・・から作られる。使用時には十分に変形可能で、その自重や、内容物の重量により拡がり、収納、運搬時には薄い形状に折りたためる材料であればよい。)

c 第1図から、「略円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となる容器102」が把握できる。
そうすると、甲第5号証には、
「略円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の孔104を有すると共に、
全体を、変形し得るシリコンからなるものとした容器102。」(以下「甲第5号証記載の考案」という。)が記載されている。

6.甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。
a「この考案は稍軟質性の合成樹脂製より成型した主ざると副ざるとの二個のざる体をセツトにしてなる合成樹脂製ざるに関するもので、その目的とする所は、主ざると副ざるとが各々別個にざるとして使用できると共に一方のざるが着脱自在の被蓋として兼用できるようにしたものである。」(明細書1ページ8行?13行)

b「全体を軟質製の合成樹脂で成型したので軽量で破損がなく低廉に提供でき実益のある考案である。」(明細書5ページ5行?7行)

c 第1図から、円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてざる形状となり且つ水切小孔10を設けた構成が把握できる。

そうすると、甲第6号証には、
「使用時に円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ水切小孔10を有すると共に、
全体を軟質製の合成樹脂で成型した、被蓋として兼用できる合成樹脂製ざる。」(以下「甲第6号証記載の考案」という。)が記載されている。

7.甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。
a「本考案は、主としてシンクの排水口に使用される排水口用網の改良に関し、更に詳しくは、ゴミを手軽に廃棄できるのみならず、シンク内へ一気に水を流しても網本体が安易に浮き上がることのない有用な排水口用網に関する。」(段落【0001】)

b「前記網本体をシリコン等の軟性素材で椀状に成形するのが良い。」(段落【0007】)

c「また、網本体1は、シリコン等の軟性素材から成形されており、生ゴミが捨て易いように、換言すれば、網に溜まった少量の生ゴミでも手軽に網そのものが変形して手指で掴めるように柔らかく仕上げられている。」(段落【0014】)

以上の記載及び図面から、甲第7号証には、
「湾曲した有底状の網本体を備え全体として椀状となり且つ複数の透孔2を有すると共に、
手指で手軽に変形し得るシリコン等の軟性素材から成形されている排水口用網。」(以下「甲第7号証記載の考案」という。)
が記載されている。

8.甲第8号証
甲第8号証には、以下の記載がある。
a「【技術分野】
本発明は分割金型およびその表面処理方法に関し、詳しくは、熱可塑性エラストマー製品の成形に用いられる分割金型において、成形品の取り出しを容易にした分割金型およびその表面処理方法に関する。」(段落【0001】)

b「また、軟質樹脂の場合には、次の方法がよく用いられる。
(1)成形品を残したい側の分割型の表面を鏡面磨き仕上げとする。
(2)残したい側の分割型への成形品の接触表面積が大きくなるように配する。
このうち離型性の改良に係る技術としては、例えば、特許文献1に、成形開始直後および成形継続中における離型性を向上させ、安定した成形工程を得ることを目的として、成形型の成形素材と接触する表面に微細な凹凸処理を施した後、粒子状の樹脂材料によるブラスト処理を施す成形型の表面処理方法が記載されている。また、特許文献2には、成形品の離型性を向上させることで成形品の品質を向上することを目的として、コア型を用いるインジェクション成形用金型においてコア型の表面をブラスト処理する技術が記載されている。」(段落【0004】、【0005】)

以上の記載から、甲第8号証には、
「分割金型の表面処理方法であって、軟質樹脂の場合、成形品を残したい側の分割型の表面を鏡面磨き仕上げとすること。」(以下「甲第8号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

9.甲第9号証
甲第9号証には、以下の記載がある。
a「【請求項1】コンピュータのマウスを搭載するマウスパッドであって、凹凸を吸収する弾性層と、この弾性層の表面に形成され、マウスを滑らかに移動させるとともに、フィラーによりマウスのボールの回転を確保するフィラー含有樹脂コート層とを含んでなることを特徴とするマウスパッド。
【請求項2】 弾性層の裏面に、自着性の鏡面仕上げ層を備えてなる請求項1記載のマウスパッド。・・・
【請求項4】 弾性層の表面を凹凸にしてその十点平均粗さ(Rz)を1?30μmとし、この弾性層の表面とフィラー含有樹脂コート層とを一体化して凹凸に形成し、フィラー含有樹脂コート層におけるフィラーの平均粒径を0.5?9μmとした請求項1、2、又は3記載のマウスパッド。」(特許請求の範囲)

b「弾性層2は、図1に示すように、エラストマー等の所定の材料を使用して基本的には断面略板形に成形され、裏面には、机上に接触する鏡面仕上げ層3が一体化される。この弾性層2の材料としては、特に限定されるものではなく、例えばスポンジ、天然ゴム、各種の合成ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等があげられる。これらの中でも、耐候性、難燃性、接着性、圧縮特性、電気絶縁性等に優れる半透明又は黒色の着色シリコーンゴムが最適である。」(段落【0013】)

c「弾性層2の裏面には、20μm程度の厚さを有する透明の鏡面仕上げ層3が一体形成され、このツヤ加工された自着性の鏡面仕上げ層3が机上に密着し、滑り止め機能を発揮してマウス10の操作に資するよう機能する。また、弾性層2の表面4は、連続した凹凸にエンボス加工され、十点平均粗さ(Rz)が1?30μmの範囲、好ましくは3?5μmの範囲に設定される。」(段落【0015】)

d「弾性層2、鏡面仕上げ層3、及びフィラー含有樹脂コート層5が三層構造を成すのではなく、弾性層2、鏡面仕上げ層3、及びフィラー含有樹脂コート層5が一体化して単層を成す・・・」(段落【0020】)

以上の記載から、甲第9号証には、
「シリコーンゴム等の弾性層2の表面4を凹凸のエンボス加工とし、裏面に鏡面仕上げ層3を形成したマウスパッド。」(以下「甲第9号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

10.甲第10号証
甲第10号証には、以下の記載がある。
a「本発明によると、先ず本体の下面を履物類の当該部、つまり、足裏の土踏まずから五指付根までの全幅に相応する底板にあてがう。本体はシリコンゴムの特性と柔軟性並びに凹凸のない扁平な鏡面が前記底板の平面形状に沿って密接し不動のものとなる。」(段落【0009】)

b「さらに、本体表面の凹凸や浮き出し模様によって通気機能が生じ、足裏との密着を防ぎ、発汗に対して蒸発作用を促すとともに汚れが付着しにくく衛生面の保全に役立つ。」(段落【0013】)

以上の記載から、甲第10号証には、
「シリコンゴムの下面2を鏡面とし、上面3に凹凸を形成した履物用インソール。」(以下「甲第10号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

11.甲第11号証
甲第11号証には、以下の記載がある。
a「この考案は、取付ける流し台や部屋などの隅部を取付及び容器の形成要素として利用して取付けられ、未使用時には隅部にほとんど密着して場所を取らずに設置され、しかも折畳み、容器形成などの操作がほとんどワンタッチで出来るコーナー容器に関するものである。」(1ページ13行?18行)

b「この考案の基本的な構造を説明する。容器の前壁及び後壁は共に平らな四辺形板で、後壁は軟質シート、前壁は弾性部材からそれぞれなり、両壁は重ね合わされて両端が接合され、両壁下部と両端の下部からなる全周に底板を接合してある。」(3ページ3行?7行)

c「前壁(2)は一般に蝶番などに用いられる耐屈伸性と弾性のある合成樹脂材で作られた平らな板で、その上縁(20)と下縁(21)は第4図のように後壁(1)より突出している。」(10ページ7行?10行)

以上の記載及び図面から、甲第11号証には、
「軟質シート及び弾性部材から合成樹脂材からなる前後壁を、未使用時折畳み可能とした流し台や部屋などの隅部に設置されるコーナー容器。」(以下「甲第11号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

12.甲第12号証
甲第12号証には、以下の記載がある。
a「すなわち、本発明に係る弁当用容器10は、基本的には断熱性能の高い単一の発泡シートを真空または圧空成形によって形成したものであるが、この単一の発泡シートの発泡部分13を外側表面11側に偏在させることにより、収納物が直接触れることになる内側表面12に、十分な平滑性と、発泡部分13を存在させないことによる熱伝導性の確保と、耐熱変化性とを付与したのである。そして、外側表面11については、ここに発泡部分13を存在させることにより、電子レンジ等で加熱された収納物からの熱伝導を抑えるとともに、表面を粗にしたことにより滑りにくくしたものである。」(段落【0015】)

上記記載及び図面の記載から、甲第12号証には、
「内側表面12に、十分な平滑性を備え、外側表面11を粗にして滑りにくくした発泡シートからなる弁当用容器。」(以下「甲第12号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

13.甲第13号証
甲第13号証には、以下の記載がある。
a「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の如き従来のインジェクション成形用金型では、それによって成形された合成樹脂製容器5の離型性が悪く、離型時に、合成樹脂製容器5に破損箇所6ができたり、白化箇所7ができたりするという問題点があった。」(段落【0003】)

b「このようにコア型の表面がブラスト処理されていると、コア型の表面に小さな凹凸が存在するので、離型時に空気が入り易くなってコア型の離型がよくなり、破損箇所ができたり、白化箇所ができたりするのがなくなり、成形品の品質を向上させることができる。また、白化を防止するために必要であった冷却時間も短くでき、成形品のコストを低減することができる。」(段落【0007】)

以上から、甲第13号証には、
「コア型の離型性を良くするために、コア型の表面にブラスト処理をすること。」(以下「甲第13号証記載の技術事項」という。)が記載されている。

第5 被請求人の主張
被請求人は、本件考案1ないし本件考案5は、甲各号証記載のものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない旨主張し、平成23年9月15日付けの上申書において、「添付図1」を提出している。(答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書)

第6 当審の判断
1.本件考案1について
(1)無効とする理由1
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由1の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第1号証記載の考案と、甲第2号証記載の考案あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第1号証、同号証記載の考案
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第1号証、同号証記載の考案は、上記第4に記載のとおりである。

b 対比・判断
本件考案1と甲第1号証記載の考案とを対比すると、その機能からみて、後者の「通水口」は前者の「水きり孔」に相当し、同様に「シリコンを含んだゴム」は「シリコン」に、相当する。
また、甲第1号証記載の考案の「手で内側と外側とを反転できるようにし得る」と本件考案1の「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」とは、「外部からの操作により変形し得る」点で共通する。
そして、甲第1号証の「全体をフッ素化合物を含んだゴムで作る」(第4 1.d)「ゴムなので形状をどの様にも製作でき」(第4 1.e)との記載からみて、甲第1号証記載の考案も一体成型体であると理解できる。

そうすると、両者は、
「底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により変形し得るシリコンからなる一体成型体であるザル。」の点で一致し、次の点で相違する。
ア 本件考案1は、底部の形状が、円形状であるのに対し、甲第1号証記載の考案では、当該構成は不明である点。

イ 本件考案1では、歪み変形の態様につき、「全体が歪み変形し得る」のに対し、甲第1号証記載の考案では、当該構成が不明である点。

ウ 本件考案1は、「表面と裏面の防滑性が異なる」のに対し、甲第1号証記載の考案では、当該構成は不明な点。

エ 本件考案1は、ザルが「多機能ザル」であるのに対し、甲第1号証記載の考案では、当該構成は不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。

まず、相違点アについて検討する。
甲第1号証において、ザル以外の「ごみばこ」について、底部は、「なるべく湾曲状態にする」とある。
これをザルに適用する場合において、底部を円形状とすることに格別の困難性は、認められない。

次に、相違点ウについて検討する。
この点につき、請求人は、甲第2号証を挙げて、これを組み合わせれば、容易に構成すると主張している。
しかし、甲2号証記載の技術事項は、シートの密着を防止するとの観点から、シートに表面加工を施した技術である。
そして、甲第1号証記載の考案におけるシリコンに、甲第2号証記載の技術事項を適用しようとする動機付けとなるもの、又は示唆するものは見当たらない。
また、請求人は、甲第2号証記載の技術事項に代えて、甲第8号証?甲第10号証記載の技術事項を適用することを主張するので、以下検討する。
甲第8号証記載の技術事項は、分割金型の表面処理方法に関するものであるが、開示されているのは、離型性の向上を図るため、一方の表面仕上げを変えるというに止まる。
甲第9号証記載の技術事項は、マウスパッド、甲10号証記載の技術事項は履物用インソールと、本件考案1とは、技術分野を大きく異にするものであって、これらの技術事項を甲第1号証記載の考案に適用しようとすることがきわめて容易に想到し得たとはいえない。

また、この点につき、請求人は、当該構成は、シリコン成型品であれば当然に考えられるものであり、新規な構成要件を組み合わせた訳ではない旨主張する(口頭審理陳述要領書2ページ26行?5ページ4行)。

しかし、被請求人が主張し(平成23年9月15日付け上申書2ページ1行)、請求人も認めるとおり(平成23年9月21日付け上申書2ページ5?6行)、表面加工を、表面と裏面で同じものとするものも一般に知られている以上、シリコン成型品の表面と裏面の防滑性を異なることが、シリコン成型品であれば当然に考えられるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

さらに、甲第12号証記載の技術事項においても外側表面と内側表面との防滑性が異なるものが開示されていると主張する(審判請求書14ページ11?14行)が、当該事項は、シリコンを材料とするものではないし、技術分野も異なり、甲第1号証記載の考案に適用することが容易にできたものとはいえない。
なお、甲第13号証記載事項は、コア型の離型性に関するものであり、シリコン素材を使った金型成形品との記載はみられず、本件考案1との関連はみられない。さらに、甲第14号証に示すように、一般的に金型からシリコン成型品が残るように工夫する必要があるからといって、甲第1号証記載の考案において、当然にこのような工夫が施されているとはいえない。

そして、本件考案1は、明細書に記載の「表面に任意の防滑性があることにより、別な接触作業としてにんにくなどの薄皮剥きをすることができ、これにより、手に臭いをつきにくくした。」(段落【0016】)、「表面と裏面の棒滑性(「防滑性」の誤記。)を異なるものにすることにより、使用目的に応じて使い分けることができる。」(段落【0021】)、「また、表面処理を変えることで目的に応じて使い分けることが可能となる。」(段落【0037】)との効果を奏するものである。

この効果について、請求人は、相違点ウの構成では、技術的効果が得られない旨主張する(審判請求書14ページ28行?15ページ18行、口頭審理陳述要領書9ページ9行?12ページ19行、平成23年9月21日付け上申書6ページ10行?8ページ28行)ので検討する。
請求人は、表裏面で異なる表面処理を施した製品を用いた実験確認書(甲第20号証、甲第21号証、甲第33号証)を用いて、格別顕著な効果の差異が認められないと主張している。
しかし、上記実験確認書からは、押圧力等、どのような条件で実験が行われたか明確ではなく、客観性に欠けるものである。
また、専用実施権者の販売する商品に、表裏の防滑性が異なることが触れられていないこと(甲第22号証)と、本件考案1の効果の有無とは、両者の関係が特定できない以上、直接関係がないものである。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

さらに、相違点エについて検討する。
文言からみて、多機能ザルとは、少なくとも複数の機能を有するザルといえることは明らかである。
そして、本件明細書において、多機能とはどのような意味で用いられているか、参酌すると、段落【0004】において、「水きり機能を主体としたザルとしての機能しか果たさなかった。形状が大きいため収納空間をとり、収納効率を悪くしていた。・・・また、ネット状で巾着状に絞りこむものは、様々な操作が必要であり、取扱が難しかった。本考案は以上の欠点を解決するものである。」と【考案が解決しようとする課題】に示されている。

また、「本考案は、水切り機能以外の機能も複数有する。一つとして、その柔軟特性から収納した食材を手による操作によりザル本体1の内面を接触させて泥落とし、塩もみ等をすることが可能である。」(段落【0033】)、「また、表面処理を変えることで目的に応じて使い分けろと(「ること」の誤記と思われる。)が可能となる。」(段落【0037】)との記載がある。

してみると、「多機能ザル」とは、水きりというザル本来の機能以外の機能をも有するとの構成を意味し、「外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる」ものとし、「且つ、表面と裏面の防滑性が異なる」ものとすることにより、他の機能を具備するものと解することができる。

この点につき、請求人は、ここでいう多機能がどのような機能であるかは請求項の文言から読みとれない旨主張している(平成23年9月21日付け上申書8ページ末行?9ページ8行)。
しかし、前述のとおり、複数の考案特定事項を具備することにより、複数の機能を具備するものと理解することができる。

この観点から、甲第8号証?甲第10号証をみると、いずれも、このような構成を記載するものを示唆するものでもない。
さらに、請求人の提示した他の証拠をみると、甲第11号証記載の技術事項は、複数の部材を用いた成形体コーナー容器が変形可能であることを示したものにすぎず、一体成型体であるザルとは技術分野を異にし、第12号証記載の技術事項においても、シリコンを材料とするものではない。
いずれも当該相違点について、開示、又は示唆するものは見あたらない。
したがって、相違点イについて検討するまでもなく、本件考案1は、甲第1号証記載の考案と、甲第2号証記載の考案あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものということはできない。

(2)無効とする理由2
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由2の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第3号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第3号証、同号証記載の考案
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第3号証、同号証記載の考案は、上記第4に記載のとおりである。

b 対比・判断
本件考案1と甲3号証記載の考案とを対比すると、その機能からみて、後者の「薄膜12」は前者の「側面部」に相当し、同様に、「孔」は「水きり孔」に「軸方向に折り畳み可能な」は「変形し得る」に、「シリコンゴム」は「シリコン」に、それぞれ相当する。
また、甲第3号証記載の考案において、「使用時において湾曲し、保存時において円形状の底部」は、本件考案1の「円形状の底部」と共通する構成を具備するものである。
また、両者は、シリコンの側面部を有することで共通する。

したがって、両者は、
「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
変形し得るシリコンの側面部を有するザル。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点ア
本件考案1は、「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」ものであるのに対し、甲3号証記載の考案は、側面部は軸方向に折り畳み可能であるが、外部からの操作により全体が歪み変形し得るか否かは、不明である点。
相違点イ
本件考案1は、シリコンからなる一体成型体である(ザル)であるのに対し、甲3号証記載の考案は、側面部はシリコンからなるものであるが、ザルを構成する固い支持枠及びハンドルが一体成型体であるかは不明である点。
相違点ウ
本件考案1は、表面と裏面の防滑性が異なるものであるのに対し、甲第3号証記載の考案は、当該構成を具備するか不明である点。

相違点エ
本件考案1は、ザルを多機能ザルとしているのに対し、甲第3号証記載の考案は、当該構成を具備するか不明である点。

まず、相違点ア及びイについて検討する。
甲第3号証記載の考案は、固い支持フレーム(rigid support frame)を具備するものであるから、本件考案1の具備する、「外部からの操作により全体が歪み変形し得る」との構成は、支持フレームを除いたものにおいて具備するものとなる。
この点につき、請求人は、甲第3号証の請求項1のものは、ハンドルを含むものではない旨主張している。そして、実施例に記載された構成に限定されるものではないことを主張している。
そこで、この点についてみると、この発明の要部(key feature of the invention)は、薄膜12を使用時、不使用時において安定させることであるとの記載(【0017】)がある(「第4 3.c」)。
そして、簡略化、修正、代用、変更がなされるのは、当該発明の趣旨を逸脱しないことを前提とするものである(「第4 3.e」)。
してみると、固い支持フレーム、ハンドルを省略、修正できるのは、上記前提を踏まえたものでなければならず、請求人の主張は、採用できない。

相違点ウ、エについては、上記「(1)無効とする理由1」において検討したのと同様である。
したがって、本件考案1は、甲第3号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。

(3)無効とする理由3
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由3の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第4号証記載の考案と、甲第2号証記載の考案あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第4号証
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第4号証、甲第4号証記載の考案は、上記第4に記載のとおりである。

b 対比・判断
本件考案1と甲第4号証記載の考案とを対比すると、甲第4号証記載の考案の「収縮した構造部材20」は本件考案1の「側面部」に相当する。
したがって、両者は、
「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
変形し得るシリコンからなる成型体であるザル。」の点で一致し、次の点で相違する。

ア 本件考案1は、外部からの操作により全体が歪み変形し得る一体成型体であるのに対し甲第4号証記載の考案は、当該構成は不明である点。

イ 本件考案1は、表面と裏面の防滑性が異なるものであるのに、甲第4号証記載の考案は、当該構成は不明である点。

ウ 本件考案1は、多機能ザルであるのに対し、甲第4号証記載の考案は、当該構成は不明である点。

相違点アについてみると、甲第4号証記載の考案では、「使用時に、構造部材20が延出してザル形状となる」ことから、この時には、「歪み変形し得るシリコン」であるといえるが、使用しない時には、安定形状にあり、歪むかどうか明確ではない。

そして、相違点イ、ウについては、上記「(1)無効とする理由1」において検討したのと同様である。

したがって、本件考案1は、甲第4号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。

(4)無効とする理由4
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由4の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第5号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第5号証
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第5号証は、上記第4に記載のとおりである。

b 本件考案1と甲第5号証記載の考案とを対比すると、甲第5号証記載の考案の「孔104」は本件考案1の「水きり孔」に相当し、後者の「容器102」と前者の「多機能ザル」とは、「ザル」である点で共通する。
そして、甲第5号証記載の考案は、「全体を、変形し得るシリコンからなるもの」であるから、本件考案1の「外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体」に相当するといえる。

したがって、両者は、
「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコーンからなる一体成型体であるザル。」の点で一致し、
次の点で相違する。

ア 本件考案1は、「表面と裏面の防滑性が異なる」ものであるのに、甲第5号証記載の考案は、当該構成は不明である点。

イ 本件考案1は、「多機能ザル」であるのに対し、甲第5号証記載の考案は、当該構成は、不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点ア、イについては、上記「(1)無効とする理由1」において検討したのと同様である。
なお、甲第5号証に、一般的な他目的使用の示唆はある(【0004】)ものの、収納のために平たくすることを示すに止まるものである。

したがって、本件考案1は、甲第4号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。

(5)無効とする理由5
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由5の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第6号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第6号証
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第6号証は、上記第4に記載のとおりである。

b 本件考案1と甲第6号証記載の考案とを対比すると、
後者の「水切小孔10」は前者の「水きり孔」に相当する。そして、後者の「合成樹脂製ざる」と前者の「多機能ザル」は、ザルである点で共通する。
また、シリコンは、軟質性合成樹脂の一種である。
したがって、両者は、
「円形状の底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
軟質性の合成樹脂からなる一体成型体であるザル。」
の点で一致し、

ア 本件考案1は、外部からの操作により全体が歪み変形し得るシリコンからなる一体成型体であるのに対し、甲第6号証記載の考案は、軟質性の合成樹脂で成型したものである点。

イ 本件考案1は、表面と裏面の防滑性が異なるものであるのに対し、甲第6号証記載の考案は、当該構成は不明である点。

ウ 本件考案1は、多機能ザルであるのに対し、甲第6号証記載の考案は、被蓋として兼用できるザルである点。

そこで、上記相違点につき検討する。
まず、相違点イについてみると、上記「(1)無効とする理由1」において検討したのと同様である。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件考案1は、甲第6号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。

(6)無効とする理由6
請求人の主張する本件考案1を無効とする理由6の概要は、以下のとおりである。
本件考案1は、甲第7号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第10号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。

a 本件考案1および甲第7号証
本件考案1は、上記第2に記載のとおりであり、甲第7号証は、上記第4に記載のとおりである。

b 本件考案1と甲第7号証記載の考案とを対比すると、
後者の「透孔2」は、前者の「水きり孔」に相当し、後者の「全体として椀状」は、前者の「全体としてザル形状」に相当し、また、「側面部が延出して」なる構成を含むものと理解できる。
そして、後者の「排水口用網」と前者の「多機能ザル」とは、容器である点で共通する。
したがって、両者は、
「底部の周縁部から側面部が延出して全体としてザル形状となり且つ複数の水きり孔を有すると共に、
外部からの操作により変形し得るシリコンからなる一体成型体である容器。」の点で一致し、次の点で相違する。

ア 底部につき、本件考案1は、「円形状」であるのに対し、甲第7号証記載の考案は、「湾曲した」ものである点。

イ 本件考案1は、表面と裏面の防滑性が異なるのに対し、甲第7号証記載の考案は、当該構成を具備するか不明である点。

ウ 本件考案1は、容器が、多機能ザルであるのに対し、甲7号証記載の考案は、排水口用網である点。

相違点イについてみると、上記「(1)無効とする理由1」において検討したのと同様である。

相違点ウについて、甲第7号証には、「本考案の排水口用網は、・・・例えば、浴室、洗面台等の排水口に使用できる。」(段落【0020】)とあるように、ザルに関する記載または、ザルを示唆するものはない。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件考案1は、甲第7号証記載の考案と、甲第2号証記載の技術事項あるいは、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとはいえない。

(7)まとめ
以上のとおり、本件考案1は、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第7号証記載の考案及び甲第2号証、甲第8号証ないし甲第12号証記載の技術事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということはできない。

2.本件考案2ないし5について
本件考案2ないし5は、いずれも本件考案1あるいは本件考案1を引用する本件考案2ないし4を引用するものである。

そして、本件考案1は、上記のとおり、甲第1号証ないし甲第12号証記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないから、本件考案2ないし本件考案5も、甲第1号証ないし甲第12号証記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。

また、甲第13号証記載?甲第14号証についても既に検討し、甲第20号証?甲第22号証についても既に触れたとおりである(上記1.(1)b)。
そして、甲第25号証?甲第26号証は、従属項において追加された考案特定事項に関するものであり、甲第27号証は、対象物の性状が不明確な容器の変形状態を示したものであり、甲28号証、甲第29号証、甲第31号証、甲第32号証は、本件考案に係る出願とは別出願の審査過程における審査資料等であり、本件と直接に関連するものではない。

してみると、本件考案2ないし5は、当業者がこれらの記載により、きわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本件考案1ないし5は、甲第1号証ないし甲第15号証記載されたものに基づいて、また、甲第19号証ないし甲第33号証の記載により当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえないから、本件考案1?5は、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものとはいえない。

したがって、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案1ないし5の実用新案登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-10-21 
結審通知日 2011-10-27 
審決日 2011-11-08 
出願番号 実願2010-3300(U2010-3300) 
審決分類 U 1 114・ 121- Y (A47J)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 松下 聡
青木 良憲
登録日 2010-07-07 
登録番号 実用新案登録第3161431号(U3161431) 
考案の名称 多機能ザル  
代理人 松下 恵三  
代理人 野中 剛  

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