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審決分類 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない B42D
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない B42D
管理番号 1251517
審判番号 訂正2010-390090  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2010-08-30 
確定日 2012-01-26 
事件の表示 実用新案登録第2150603号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本件審判の手続の経緯
平成22年 8月30日 審判請求
平成22年 9月13日 上申書
平成22年10月 7日 訂正拒絶理由通知
平成22年10月 8日 上申書
平成22年10月25日 意見書
平成22年11月15日 上申書

2 請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、実用新案登録第2150603号(以下「本件考案」という。平成8年2月21日実用新案出願公告(実公平8-5827号))について、明細書及び図面を審判請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおり訂正することを求めるものであり、次の訂正事項からなる。
訂正事項a:明細書の【実用新案登録請求の範囲】に記載されている「…電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり、…」という事項を「…電話機に差し込む方向を指示するためのへこみ部からなる指示部を設けてなり、…」と訂正する。
訂正事項b:明細書の【考案の詳細な説明】における【0005】【問題点を解決するための手段】に記載されている「…電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とする。」という事項を「…電話に差し込む方向を指示するためのへこみ部からなる差込方向の指示部を設けたことを特徴とする。」と訂正する。
(下線部は、審判請求書の記載と本件公告公報及び訂正明細書の記載と整合しないが、本件公告公報及び訂正明細書に整合させて記載した。以下同様。)
訂正事項c:明細書の【考案の詳細な説明】における【0006】【作用】に記載されている「この考案によれば、カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成る押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、…」という事項を「この考案によれば、カード本体の一部にカードの電話機に差し込む方向を指示するためにくぼみから成るへこみ部である差込方向の指示部を設けたから、…」と訂正する。
訂正事項d:明細書の【考案の詳細な説明】における【0008】に記載されている「…この指示部2はカード本体1の一部に押形部5を形成して、これを指示部2とした。…」という事項を「…この指示部2はカード本体1の一部にへこみ部5を形成して、これを指示部2とした。」と訂正する。
訂正事項e:明細書の【考案の詳細な説明】における【0009】に記載されている「…又、上述の如く、指示部2がカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれて配置されているのでカード本体の電話機への差し込み方向を知ることができると共にカード本体1の表裏を確認することができる。」という事項の次に「尚、第1図に示した実施例はカード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向へ向けたへこみ部5を形成したもの、第2図に示した実施例はカード本体の平面的な中心方向へ向けたへこみ部5を形成したものである。また、第3図及び第4図に示す実施例は前記第2図に示した実施例と同様にカード本体の平面的な中心方向へ向けたへこみ部5を形成したものであるが、へこみ部5である指示部2がカード本体1の厚み(カード本体の表面から裏面までの距離)を越えて、即ち、カード本体の表面から裏面を越えて形成きれたものである。尚、本考案における指示部2はへこみ部5であれば本考案の作用・効果を奏することは明らかであり、へこみ部の形成手段として、例えば押形を用いて押圧する方法、削る方法、研磨する方法、薬品や熱などにより溶解や収縮する方法など周知の各種の形成方法が用いられるがいずれの方法を用いても形成されたへこみ部について人間の指先の触覚により判別出る程度のへこみ部5が形成されればよいことから、形成手段の別による作用・効果上の違いはなく、形成手段は問わない。」を追加する。
訂正事項f:明細書の【考案の詳細な説明】における【0010】【考案の効果】に記載されている「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぼみの押形部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ、…」という事項を「この考案に係るテレホンカードは、カード本体の一部に、電話機に差し込む方向を指示するためにカード本体に形成されたくぽみのへこみ部からなる差込方向の指示部を設けたから、押形部からなる指示部は手で触れることにより容易に確認することができ、…」と訂正する。
訂正事項g:明細書の【図面の簡単な説明】における【図1】の次行に
「【図2】本考案の異なる実施の一例を示す平面図である。
【図3】本考案の異なる実施の一例を示す平面図である。
【図4】図3の右側面図である。」を追加する。
訂正事項h:明細書の【符号の説明】における「5…押形部」という事項を「3…へこみ部」と訂正する。
訂正事項i:図面について第2図、第3図及び第4図を追加する。

3 訂正拒絶理由の概要
平成22年10月7日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は、次の通りである。
本件訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、または変更するものであるから、平成5年改正法附則第4条第2項(後に、平成15年法律第47号附則第12条第1号の規定により改正され、平成16年法律第120号附則第6条第1項の規定により改正された)により読み替えられた実用新案法第39条第4項の規定に適合しないから、本件訂正は、認められない。

4 本件原出願及び本件出願の経緯
本件考案は、実願昭59-134611号(以下「本件原出願」といい、原出願に係る考案を「原考案」という。)が公告された後に、本件原出願を親出願として、分割出願されたものである。そこで、本件原出願及び本件出願の主な経緯を以下に記載する。
(ア)本件原出願の経緯
a 原考案は、昭和59年9月5日、実用新案登録出願された。
原考案の出願当初明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄には、
「電話機に差し込むことより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために切欠部、穴部或は押形部などからなる表裏並びに差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」と記載され、「考案の詳細な説明」欄の[実施例]において、指示部の構成として、切欠部を形成する例が第1図に、穴部を形成する例が第2図に、押形部を形成する例が第3図に、それぞれ示されていた。
b 上記出願に対して、平成2年8月8日付けで、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないとの拒絶理由通知が発せられ、引用例として、「実願昭56-48368号(実開昭57-161131号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム」が示された。
この引用例の「実用新案登録請求の範囲」欄には、「表面に磁気記録欄を有するカードの特定された一部に切取線により区分されて切離可能とした切除部を形成してなる磁気カード。」と記載され、「考案の詳細な説明」欄には、「磁気カード1は、矩形状をなし、・・・上記磁気カード1の特定された一部には切除部3が切離可能に設けられている。」(第3頁第5?10行)と記載され、実施例において、切除部をカードの下端一隅に三角形状に設けた例が第1図及び第2図に、下端一隅に四角形状に設けた例が第3図に、さらに磁気カードの下方部において一側方に片寄った位置に円形状に形成した例が第4図に、それぞれ示されている。
c 本件原出願の出願人は、平成2年11月13日、「意見書に代える手続補正書」を提出し、その中で明細書を全文訂正し、図面中、第1図、第2図を削除し、第3図とあるのを第1図と補正した。その結果、補正後の実用新案登録請求の範囲の記載は、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード。」とされ、また、「考案の詳細な説明」欄において、第1図、第2図に関する記載が削除された。
d 本件原出願は、平成3年4月2日付けで、拒絶査定を受けた。なお、この拒絶査定の備考欄で、「方向の指示のための表示を行う事は磁気カードの分野では従来周知の技術である。(特開昭55-43669号公報参照)」と指摘された。
e これに対して、本件原出願の出願人は、平成3年5月23日付け審判請求書を提出し、拒絶査定の取消を求めた。本件原出願の出願人は、その理由として、「本願考案は、・・・特に、『カードの差し込む方向を指示するために押形部からなる差込方向の指示部を設けてなるテレホンカード』を必須の要件としております。これに対し、上述の拒絶理由通知書において引用された実開昭57-161131号および拒絶査定謄本において引用された上述の特開昭55-43669号公報のいずれにも本願考案の上述の必須要件、とりわけ、押形部について開示しておりません。・・・又、本願考案の指示部は押形部から成っております。これは上述の引用例の切除部や矢印と違って、目の悪い人でも差込方向を容易に感知できるという利点を有します。」と述べた。
f 本件原出願については、平成5年6月24日、実用新案登録出願公告がされた。
g なお、これに対しては、実用新案登録異議申立がされたが、本件原出願の出願人は、平成6年5月24日付けで、手続補正書及び実用新案登録異議答弁書を提出し、同年11月21日、上記異議申立てにつき、「本件登録異議の申立ては、理由がないものとする。」との決定がなされた。
また、同日付けで、原考案につき、拒絶査定を取り消し、実用新案登録をすべきものとする審決がなされた。
h 原考案は、上述のとおりの手続を経て、平成7年4月20日、実用新案登録された。

(イ)本件出願の経緯
a 平成6年5月24日、本件原出願を親出願として、本件考案に係る分割出願(本件出願)がされた(実願平6-5675号)。
平成8年2月21日、本件考案に係る出願公告がされた(実公平8-5827号公報)。その「実用新案登録請求の範囲」の記載は、以下のとおりである。
「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり、該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、且つ、該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際、目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。」
b 上記出願公告後、実用新案登録異議申立がされ、平成9年12月25日、同申立について「異議理由あり」とする異議決定がされ、同日、本件出願に対する拒絶査定がされた。次いで、この拒絶査定に対する不服の審判が請求され(審判平10-2419号)、平成10年3月12日付けで、考案の詳細な説明の【従来の技術】の欄の補正がなされ、平成11年10月14日付けで、本件出願に対する拒絶理由通知がされた。同通知の中で、拒絶理由の1つとして、本件考案の実用新案登録請求の範囲の「該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」が、いかなる構成を意味するのか不明瞭であり、実用新案法第5条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないことが指摘された。
c 平成11年10月28日、本件考案の出願人である請求人他2名は、上記拒絶理由通知に対する手続補正書及び意見書を提出した。
上記意見書には、「『カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる』の文言中の『内方向』の意は、図1に示すような平面図におけるカード本体の内方向、つまり平面的なカードの中心方向を意味する場合と、テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合とが考えられます。このため、上下面から厚み中心部に向かう方向を意味する場合を明瞭にするために手続補正書で図2及び図3を補充し、平面的なカードの中心方向を意味する場合を明瞭にするために図4乃至図6を補充致しました。・・・図面で追加した例は、いずれも出願当時の押し型の技術によって形成可能なものです。」との記載がある。
また、手続補正書において、図1を変更し、図2ないし図6を追加し、指示部として「穴」(図3)、「一部が切除された押形部で成る切欠形状」(図4)、「押形部で成る長形若しくは楕円状の切欠形状」(図5)さらに「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)を設けた例を追加し、考案の詳細な説明につき、段落【0007】の【問題点を解決するための手段】欄、段落【0008】の【作用】欄、段落【0014】の【考案の効果】欄に各記載の「押形部」を「切欠形状又は穴形状の押形部」とする旨の補正をした。なお、「押形部で成る複数の山型状の切欠を連続させて成る切欠形状」(図6)の例は、平成11年12月6日付け手続補正書で削除された。
d 上記平成11年10月28日付け及び平成11年12月6日付手続補正に対して、平成12年1月26日付けで、補正の却下の決定がなされ、その理由として、本件考案における「押形部」は「材料に押し型によって圧力を加えて成形した形状部」を意味し、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる指示部」の形状に穴形状及び切欠形状を含むものとする補正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものであるから許されない旨の指摘がなされるとともに、同日付けで、拒絶査定に対する不服の審判事件について「原査定を取り消す。本願の考案は、実用新案登録すべきものとする。」との審決がなされた。

5 判断
訂正審判においては、明細書及び図面の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならないものであり、請求人は、本件訂正は、不明りょうな記載の釈明である旨主張しているから、その判断に当たり、まず、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された考案を解釈する。

(ア)訂正前の本件考案の解釈
(1)本件訂正前の実用新案登録請求の範囲
本件訂正前の実用新案登録請求の範囲を記載すると以下のとおりである。
「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、このカード本体の一部に、電話に差し込む方向を指示するための押形部からなる指示部を設けてなり、該指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいると共にカード本体の直交する2つの中心軸線の夫々から一側にずれてカード本体に配置されており、且つ、該指示部は目の不自由な者がカード本体を電話機に差し込む際、目の不自由な者の指がふれる位置に配置されていることを特徴とするテレホンカード。」

本件訂正前の考案の「指示部」は、「カード本体の一部に、・・・押形部からなる」及び「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」構成を備えているものとして特定されている。

(2)「カード本体の一部に、・・・押形部からなる」について
本件訂正前の考案の詳細な説明の項には、「押形部」についての定義は記載されていない。そこで、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の有する通常の意味について検討する。
「広辞苑」によれば、「押形(押型)」とは、「材料に圧力を加えて成形するのに用いる器具。」を意味することが認められるから、「カード本体の一部に、・・・押形部からなる」とは、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる」構成を意味すると解釈できる。
上記4(イ)cに記載の「図面で追加した例は、いずれも出願当時の押し型の技術によって形成可能なものです。」という出願人の指摘もこれを裏付けている。

(3)「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」について
出願人が平成11年10月28日付け意見書において指摘する(上記4(イ)c参照。)ように、一般的には、上記「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」は、(I)テレホンカードを平面的にみて、カードの中心方向にくぼんでいる形状と、(II)テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状の2通りに解される。
しかし、本件考案は、前記のとおり、本件原出願に係る当初明細書が補正され、出願公告がされた後に、本件原出願から分割出願されたものである。このように原出願に係る当初明細書が分割出願前に補正され、出願公告されている場合には、分割出願に係る考案は、原出願に係る願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「当初明細書」という。)及び補正後の公告時の願書に添付された明細書及び図面(以下「公告明細書」という。)の双方に記載されている考案であることを要するものというべきである。
原出願の公告明細書において、テレホンカードに対して「指示部」がどの方向にくぼんでいるかについての記載は、図1のテレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向にくぼんでいる形状を示す記載以外にない。
そうすると、本件考案の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」は、原出願の公告明細書の第1図に基づき、テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状と解さざるを得ない。

(イ)訂正事項についての判断
(1)上記(ア)の解釈を前提にすれば、訂正事項aは、「押形部」を「へこみ部」に訂正し、形状で特定する表現に変更し、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる」構成以外の構成、即ち、カード本体の一部を削って形成されてなるへこみ部からなる構成、カードの一部を研磨して形成されてなるへこみ部からなる構成等を含むものとなるから、訂正事項aは、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものといわざるを得ない。

なお、請求人は、本件審判請求書で「本願考案において、『指示部』について『押形部』とされているが、『押形部』の語は広辞苑などによると、『材料に圧力を加えて成形する器具』であり、その部といっても、どのようなものかきわめて不明瞭な記載である。」(第4頁第1?3行)と述べている。
本件訂正前の考案の「押形部」が「材料に圧力を加えて成形する器具部」を意味するのであれば、その範囲で訂正しなくてはならないところ、「押形部」を「へこみ部」と訂正することは、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものといわざるを得ない。
また、請求人は、「最高判昭56.6.30速報77号1941」(「昭和54年(オ)第336号」のことと推察する。)を挙げ、「考案の構成要件中に方法的記載が認められるのは最終的なものを特定するのに必要な場合だけであり、・・・本来実用新案法においては認められていない方法的記載を取り除くことであるとともに・・・形成手段は要件ではなく・・・本訂正は実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張したり、変更したりするものではない」(第4頁第第11行?第5頁第8行)と主張するが、上記最高裁判決は、製造方法は考案の構成たり得ないものであるから、考案の技術的範囲は物品の形状等において判断すべきものであることを判示しているのであって、製造方法等により形状や構成が特定される場合においても、製造方法等による構成の差異を考慮に入れてはならないと判示しているものではない。
本件考案は、指示部について「カード本体の一部に、・・・押形部からなる」という限定を付すことにより、指示部が「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる」構成であることを特定しているのであって、カード本体の一部を削って形成されてなるへこみ部からなる構成、カードの一部を研磨して形成されてなるへこみ部からなる構成等とは、構成が異なることは明らかであるから、請求人の主張を採用することができない。

(2)訂正事項bないし訂正事項f及び訂正事項hは、訂正事項aに伴うものであるから、上記訂正事項aが認められない以上、認めることができない。

(3)訂正事項e、訂正事項g及び訂正事項iは、本件訂正前の実用新案登録請求の範囲の「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」という記載の意味を、テレホンカードを平面的にみて、カードの中心方向にくぼんでいる形状も含むようにするものであり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものといわざるを得ない。

(4)なお、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ部」と解釈し、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を(I)テレホンカードを平面的にみて、カードの中心方向にくぼんでいる形状と、(II)テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状の両方を含んでいるものと解釈すると、本件原出願の出願前の刊行物である実願昭56-7267号(実開昭57-122088号)のマイクロフィルム、実願昭56-7268号(実開昭57-122065号)のマイクロフィルム(図面から、電話への差し込み方向後方であってカード本体の一側部からくぼんでいる形状が形成されたテレホンカードを看取できる。)の図面に記載のようにテレホンカードの本体の一側部からくぼんでいる形状が形成されていれば、本件考案と同様に、テレホンカードの外周縁に指でふれることで挿入方向が判別可能なことは明らかであり、即ち、訂正前の本件考案と同じ構成を有するテレホンカードが上記刊行物には記載されていることになり、訂正前の本件考案が無効理由を内在していることになるから、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「押形部」を「へこみ部」と解釈し、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる」を(I)テレホンカードを平面的にみて、カードの中心方向にくぼんでいる形状と、(II)テレホンカードを側面からみて、上下面から厚み中心部方向(表裏方向)にくぼんでいる形状の両方を含んでいるものと解釈することは到底できない。

6 請求人の主張について
(ア)平成12年1月26日付け審決について
請求人は、平成22年10月8日付け上申書第4頁16行?第5頁下から第3行、平成22年10月25日付け意見書第3頁下から第5行?第5頁第4行、平成22年11月15日付け上申書第4頁第3?11行等で、平成12年1月26日付け審決において、「カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんで形成される指示部」という文言には、「カード本体の外周縁からカード本体の平面的なカードの中心方向にくぼんで形成される指示部」と「カード本体の外周縁からカード本体のテレホンカードを側面からみて上下面から厚み方向にくぼんで形成される指示部」とが含まれていると認定しているから、本件審判においても、同様に認められるべき旨主張しているが、請求人が指摘する平成12年1月26日付け審決には、次のように記載されている。
「実用新案登録請求の範囲の『指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる』に対応する記載は、明細書中の『実施例』の『この指示部は、図1に示す如くカード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんで形成されている』(実用新案公報の段落[0008])及び図1の記載だけであり、図1には、テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向に押形部を形成したものが記載されている。
このことから、上記『指示部は、カード本体の外周縁からカード本体の内方向にくぼんでいる』の記載は、図1に示すような形状のものとして構成を特定することができるから、その記載が不明瞭であって構成が特定できないとはいえず、本願が明細書及び図面の記載が実用新案法第5条第4及び5項に規定する要件を満たしていないとはいえない。」(下線部は、審決で付した。以下、同じ。)
平成12年1月26日付け審決は、テレホンカードを側面からみて上下面から厚み中心部に向かう方向に押形部を形成したものとして構成を特定することができると判断しているのであって、請求人が主張する2方向にくぼんで形成される指示部を認めているものではない。

(イ)本件出願を親出願として、分割出願がされた実願平11-9646号(以下「孫出願」という。実用新案登録第2607899号、平成22年4月2日登録)について
請求人は、平成22年9月13日付け上申書第4頁第1?13行、平成22年10月8日付け上申書第5頁下から第2行?第6頁第10行、平成22年10月25日付け意見書第5頁第5?17行、平成22年11月15日付け上申書第4頁第12?24行等で、孫出願で「カード内方向」について「カード本体を側面からみてカード本体の上下面から厚み中心方向へ向けて形成されている場合と、カード本体の平面的な中心方向へ向けて形成されている場合とがある」という補正が認められ、登録されているから、本件審判においても、同様に認められるべき旨主張しているが、請求人が指摘する孫出願において、上記補正が認められて登録されたとしても、別事件である孫出願の審査経緯が本件の判断を左右するものではない。

(ウ)「押形部」を「へこみ部」と訂正することについて
請求人は、平成22年10月25日付け意見書第5頁下から第7行?第6頁下から第6行で、本考案の目的並びに作用・効果はカード本体に形成されたへこみ部を指で触って差し込み方向を確認することであり、へこみ部であればこの要件を満足するものであり、形成方法が違っても指で触ってへこみ部を確認することができるから、「押形部」を「へこみ部」と訂正する訂正事項は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない旨主張している。
しかしながら、本考案の目的並びに作用・効果を奏する構成のものは、種々存在するところ、本件考案は、実用新案登録請求の範囲に記載のように「カード本体の一部に、・・・押形部からなる」という特定が付されている構成のものに限定されている。
本件考案は、上記記載により、本件原出願の出願当初明細書に記載された「切欠部、穴部或は押形部などからなる・・・指示部」から、切欠部でもなく、穴部でもない「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる」構成の指示部であると特定されているのであって、カード本体の材料の一部に圧力を加えると、圧力が加えられたカード本体の材料の一部は、元の位置から移動し、カード本体から突出したり、周辺のカード本体の材料に影響を与え、カード本体には、何らかの変形を生じることになる。
一方、カード本体の一部を削ったり、カードの一部を研磨してへこみ部を形成すること、即ち、材料を除去することによりへこみ部を形成した場合は、カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された場合に生じるような変形が生じることはない。
したがって、「カード本体の材料の一部に圧力を加えて成形された部分からなる」構成と、その他の形成方法によって形成された構成とは構成が異なることは明らかであるから、請求人の主張を採用することはできない。

(エ)上記5(イ)(4)に記載された公知文献の反論について
請求人は、平成22年10月25日付け意見書第6頁下から第5?第7頁第20行、平成22年11月15日付け上申書第2頁第7行?第4頁第2行等で、上記公知文献に記載されているものは、本考案のへこみ部ではなく切欠部であり、切欠部については原出願における明細書等の手続補正により削除しており、本件考案が公知の考案と同一ではない旨、「押形部」を「へこみ部」と解釈したとしても、単に、「へこみ部」の形成方法の限定を削除しただけである旨主張している。
しかしながら、本件訂正事項a及び訂正事項eは、「へこみ部」と形状で特定し、形成手段は問わないものとしようとする訂正であるから、本件訂正が実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることは、請求人の主張からしても明白である。

(オ)過去の判例について
請求人は、平成22年10月25日付け意見書第8頁第2?12行で、東京高裁59.1.30無体集16巻1号41頁(審決注:昭和57年(行ケ)第145号)を挙げ、明細書の記載により形状や構造が認識できれば図面が記載されていなくとも考案について記載されていると認定されており、少なくとも一方の実施例が記載されている本件では当然に2方向が認められるべきである旨主張しているが、前記判決は、合金発明について分割による新たな特許出願が原明細書に記載されているか否かを判断するに当たり、明細書の発明の詳細な説明の項に、発明と認めるに足る技術事項の記載があるのに、それに関する実施例の記載がないからといって、原出願に発明としての記載がないとすることはできない旨判示しているものであって、本件考案と前記判決とは技術分野が異なり、しかも、本件は、原出願の公告明細書において、くぼみの方向についての技術事項は図1の記載を除いて何等開示されておらず、前記判決とは、前提が異なるから、前記判決があるからといって、請求人の主張を採用することはできない。

(カ)「押形部」以外に「へこみ部」があるとの主張について
請求人は、平成22年10月8日付け上申書第2頁第14?20行で、原出願の平成6年5月24日付け手続補正により、「電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードにおいて、該カード本体に、カードの表裏の確認並びに電話機に差し込む方向を指示するための指示部を設け、該指示部は、該カード本体の一部に形成された押形部から成り、該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成ることを特徴とする、テレホンカード。」と、補正されたことから、原出願には「押形部」以外に「へこみ部」があることが認められた旨主張している。
しかしながら、上記補正書と同日付けで提出された実用新案異議申立人、株式会社トーキンに対する実用新案登録異議答弁書及び実用新案異議申立人、日本電信電話公社に対する実用新案登録異議答弁書に本件原出願の出願人が「尚、この補正、即ち、『押形部がカード本体の一部を押圧して形成されたへこみ部から成る』という補正は、『押形部』という言葉の社会通念上の意味、即ち押圧して形づくられた部分という意味並びに本願の図面の記載に照らし、『押形部』を更に明確に限定したものであって」と記載し、実用新案異議申立人、元橋完之に対する実用新案登録異議答弁書に、「出願人は、かかる異議申立理由に対して、別途同時提出の手続補正書によって、この『押形部』の記載を、『該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成る』の記載に補正して、この押形部の意味を明確に限定致しました。」と記載しているように、原出願の平成6年5月24日付け手続補正による「該押形部は、カード本体を押圧して形成されたへこみ部から成る」は、「押形部」の意味を明確にするとともに限定したものであって、原出願において「押形部」以外に「へこみ部」があることが認められたものではなく、請求人の主張は、採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本件審判の請求は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、または変更するものであるから、平成5年改正法附則第4条第2項(後に、平成15年法律第47号附則第12条第1号の規定により改正され、平成16年法律第120号附則第6条第1項の規定により改正された)により読み替えられた実用新案法第39条第4項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-12-13 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-27 
出願番号 実願平6-5675 
審決分類 U 1 41・ 855- Z (B42D)
U 1 41・ 854- Z (B42D)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 星野 浩一
菅野 芳男
登録日 2000-03-17 
登録番号 実用新案登録第2150603号(U2150603) 
考案の名称 テレホンカード  

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