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審決分類 審判    F16L
管理番号 1285450
審判番号 無効2012-400003  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-09-13 
確定日 2014-02-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第3138583号実用新案「管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成25年 3月 5日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10107号 平成25年10月17日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案は,平成19年10月26日に出願され,同年12月12日に実用新案権の設定登録がなされたもので(実用新案登録第3138583号),その後の所定期間内に第4年以後の登録料が納付されなかったため,平成22年12月12日に実用新案権が消滅したものである。
これに対し,請求人有限会社フォーラム(以下単に「請求人」という。)は,平成24年9月13日に本件無効審判を請求した。その後の手続の経緯は,以下のとおりである。
平成24年11月 2日 審判事件答弁書の提出
平成24年11月 2日 実用新案法第14条の2第1項の訂正
平成25年 1月 7日 審理事項通知書
平成25年 1月28日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成25年 2月12日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成25年 2月26日 口頭審理,審理終結
平成25年 3月 5日 一次審決(無効とする。)
平成25年 4月12日 審決取消訴訟の提起
(平成25年行(ケ)第10107号)
平成25年10月17日 判決言渡
(平成25年3月5日にした審決を取り消す)

第2 本件考案
本件実用新案の請求項1ないし3に係る考案は,実用新案法第14条の2第1項第2号の規定に基づき平成24年11月2日付けで訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認める(以下「本件考案1」ないし「本件考案3」という。)。
なお,平成24年11月2日付けの訂正は,実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とし,また,訂正される請求の範囲の記載と明細書の考案の詳細な説明の記載及び図面の記載とを整合させることを目的とするものであり,実用新案法第14条の2第2項第1号及び第3号を目的としたものである。また,当該訂正は,願書に添付した図面に記載した事項の範囲においてするものであり,実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないので,同法同条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
「【請求項1】
エルボカバーが,エルボ胴部(11)と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ結合部(12)とからなり,上記エルボ結合部は,結合受け板(121)と結合差込み板(122)とを有し,上記結合受け板は,先端部分を二つ折りに折り返して第1の結合板(121a)を形成し,折り返された該第1の結合板は,上記結合受け板の自由端に向って折り返して第2の結合板(121b)を形成し,該第2の結合板は,折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り曲げて係合片(121c)を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口(123)を形成したものであって,上記第2の結合板及び上記係合片は全域に亘って一定の横幅を有してこの横幅は上記第1の結合板よりも狭くなっており,上記結合差込み板の先端近傍に係止爪(124)を設け,上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入して上記エルボ結合部を結合することを特徴とする管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー。
【請求項2】
結合差込み板(122)に形成した係止爪(124)は,複数列が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー。
【請求項3】
結合差込み板(122)に形成した係止爪(124)は,1列に3個が形成されたものが3列形成されていることを特徴とする請求項2に記載の管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー。」

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は,「登録第3138583号実用新案についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており,審判請求書及び平成25年1月28日付け口頭審理陳述要領書によれば,請求人が主張する無効理由は,以下のとおりのものと認める。
「請求項1?3に係る考案は,甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり,また,本件実用新案の考案者と甲第1号証の特許出願に係る発明の発明者とは同一の者ではなく,更に,本件実用新案に係る実用新案登録出願時における出願人と甲第1号証の特許出願の出願人とは同一の者ではない。したがって,請求項1?3に係る考案は,実用新案法第3条の2の規定により,実用新案登録を受けることができないものであり,実用新案法第37条第1項第2号に該当し,本件実用新案登録は無効とすべきものである。」
請求人が提出した証拠方法は,下記のとおりである。
甲第1号証;特開2008-95747号公報
甲第2号証;実願平2-107659号(実開平4-64692号)の
マイクロフィルム
甲第3号証;知財高裁平成19年(行ケ)第10282号の判決文

2.被請求人の主張
被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めており,審判事件答弁書及び平成25年2月12日付け口頭審理陳述要領書において,請求人が主張する無効理由に理由はないと主張している。
被請求人が提出した証拠方法は,下記のとおりである。
乙第1号証;知財高裁平成22年(行ケ)第10064号の判決文
乙第2号証;知財高裁平成23年(行ケ)第10313号の判決文

第4 当審の判断
1.先願の明細書等に記載された事項
甲第1号証によれば,本件実用新案の出願日よりも前の特許出願であって,本件実用新案の出願よりも後に出願公開がされた特願2006-275665号の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書等」という。)には,以下の事項が記載されている。
・「【0001】
本発明は,管体及び管体表面を被覆する断熱材を保護するための保護カバーに関し,特に,管体の屈曲部分を保護する管体の屈曲部保護カバーに関するものである。」
・「【0006】
しかしながら,ここで,この雄雌構造を採用してなる係合部53において,雌係合部は,雄係合部を差し込むための対向構造に形成されるため,この雌係合部において厚みが生じることは避けられず,内径カバー体52の内面から管体へ近接する方向へ突設する突出部55を形成することとなっていた。しかも,この突出部55は,図8に示すように,内径カバー体52の板幅と略同一幅で突出していたため,装着時に保護カバー100から管体50が延出される開口部56の内径に影響を及ぼし,この屈曲部保護カバー100を管体50へ装着する際に,この突出部55が,管体50の内径面,図8においては管体50を被覆する断熱材60の内径面に干渉して,装着を妨げてしまうという問題が生じていた。」
・「【0011】
本発明は,斯かる事情に鑑みてなされたものであって,管体に装着する際に係合接続させる係合部が管体の屈曲部内径に干渉することを防止して,装着性を向上させた管体の屈曲部保護カバーを提供する。」
・「【0021】
本実施形態に係る管体の屈曲部保護カバー10(以下,単に屈曲部保護カバー10ともいう。)は,図1?図4に示すように,管体5の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体1と,管体の屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体2とを一体に連接して構成している。」
・「【0024】
内径カバー体2は,管体の屈曲部内径に対応する部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して形成した第1の内径カバー体2aと,第2の内径カバー体2bとを備えており,それぞれの対向する端部を,係合部3において互いに係合接続自在であるように構成している。
【0025】
本屈曲部保護カバー10を管体5の屈曲部へ装着する際には,2つの内径カバー体2a,2bで管体5の屈曲部を外径側から挟み込むよう覆って,管体5を屈曲部保護カバー10内に収容すると共に,管体5の屈曲部内径において,内径カバー体2の係合部3を係合させて取り付けるようにしている。本屈曲部保護カバー10は,この係合部3に特徴を有しており,この係合部3については以下に詳説する。」
・「【0028】
図6(a)(b)に示すように,係合部3は,一方の端部を他方の端部内に差し込んで係合する構成である,所謂雄雌構造に形成しており,第1の内径カバー体2aの端部に設けられた雌係合部3aと,第2の内径カバー体2bの端部に設けられた雄係合部3bとから構成している。
【0029】
雌係合部3aは,その内部に雄係合部3bを差込可能な対面構造に構成しており,この対面構造は,第1の内径カバー体2aの端部に三つの折曲部を形成して構成すると共に,この対面構造を第1の内径カバー体2aの内面側に設けた構成としている。
【0030】
この雌係合部3aは,第1の内径カバー体2aの端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部7と,この一次折曲部7からの延長部分を中途で外方へ折返して,同一次折曲部7と対面させて形成した二次折曲部8と,この二次折曲部8からの延長部分を内方へ折曲して形成した三次折曲部である係合受歯9とを備えており,二次折曲部8と一次折曲部7との対面部には,後述する雄係合部3bが挿入される略V字状溝部11を形成している。
【0031】
また雌係合部3aは,これら3つの折曲部7?9において,一次折曲部7から二次折曲部8を経て三次折曲部9に向かうに従い,その幅を漸次幅狭となるように形成している。すなわち,図6(a)に示すように,雌係合部3aの幅方向において,一次折曲部7の側端縁を,内径カバー体2aの側端縁と略テーパー状に対向させて内方へ位置させると共に,二次折曲部8の側端縁を,一次折曲部7の側端縁と略テーパー状に対向させてさらに内方に位置させるように構成して,内径カバー体2aの雌係合部3aに形成される厚みを,雌係合部3aの中央部から側端縁に向かって漸次的に薄くなるように構成している。
【0032】
すなわち,図6に示すように,雌係合部3aにおいて,一次折曲部7の板幅L1と,二次折曲部8の板幅L2と,三次折曲部である係合受歯9の板幅L3を,L1>L2>L3となるように形成して,係合部3において板幅L3の部分を最も厚くなるように構成すると共にその厚みが両側縁に向かい漸次薄くなるように構成している。
【0033】
この雌係合部3aの略V字状溝部11内に挿入して係合される雄係合部3bは,図6(a)(b)に示すように,第2の内径カバー体2bの端部近傍に,雌係合部3aの係合受歯9に係合される複数個の係合歯19を備えて形成している。この係合歯19は,第2の内径カバー体2bの外面側から内面側に向かって突出する凸状体であって,第2の内径カバー体2bの端部近傍に,3列3段に整列させて設けている。」
・「【0039】
雄係合部3bを雌係合部3aに係合させる際は,雄係合部3bを,雌係合部3aの一次折曲部7と二次折曲部8との間に形成した略V字状溝部内へ挿入し,係合受歯9が係合歯19を乗り越えた状態となるまで差し込んで係合させる。このように係合させた係合部3には,屈曲部保護カバー10自身の弾性力や外力が加わることにより,両内径カバー体2a,2bが互いに離隔する方向への力が加えられるが,第2の内径カバー体2bにおいて,3段に整列させた係合歯19のうちいずれかの段における係合歯19の端辺18aに,雌係合部3aの係合受歯9が突き当たって係止されることで,内径カバー体2a,2bが互いに離隔する方向へ移動することを防止して,確実に係合できるようにしている。」
・「【0047】
図5は,屈曲部保護カバー10を,管体5の屈曲部に装着した一実施例を示す説明図である。なお,図5においては管体5の周面に断熱材6を被覆し,この断熱材6の上から屈曲部保護カバー10を装着した状態を示している。なお,以下,断熱材6を被覆した管体5を,単に管体5ということもある。」
・「【0050】
ここで,係合部3は,その側縁部を可及的に薄くすると共に,突出部15を可及的に小さくして形成している。具体的には,係合部3は,その側端縁から内側方向へ略45度の角度をなして漸次的に厚みを形成する構成としている。従って,管体5を内装する際に,係合部3が管体5の内径面に干渉することが無く,管体5の内径面を係合部3の側端縁部に密着させた状態で内装することができる。」

上記記載事項及び図面の記載によれば,先願明細書等には,次の発明が記載されているといえる(以下「先願発明」という。)。
「断熱材を被覆した管体の屈曲部の外径周面を覆う外径カバー体1と,該屈曲部の内径周面を覆う内径カバー体2とを一体に連接して構成した管体の屈曲部保護カバーであって,内径カバー体2は,管体の屈曲部内径に対応する部分を管体周面と交差する方向に分離離隔して形成した第1の内径カバー体2aと第2の内径カバー体2bからなり,第1の内径カバー体2aと第2の内径カバー体2bの端部にそれぞれ設けられた雌係合部3aと雄係合部3bによって,互いに係合接続自在に構成され,雌係合部3aは,第1の内径カバー体2aの端部を内方へ折曲して形成した一次折曲部7,一次折曲部7の延長部分を外方へ折返して形成した二次折曲部8及び二次折曲部8の延長部分を内方へ折曲して形成した係合受歯9を備え,一次折曲部7から二次折曲部8を経て係合受歯9に向かうにしたがって漸次幅狭となっており,雄係合部3bは,3列3段に整列した係合歯19を備え,雌係合部3aの一次折曲部7と二次折曲部8との間に形成したV字状溝部内へ雄係合部3bを挿入し,係合受歯9が係合歯19を乗り越えた状態となるまで差し込んで係合させるようにした管体の屈曲部保護カバー。」

2.対比・判断
(1)本件考案1について
本件考案1と先願発明とを対比する。
先願発明の「屈曲部保護カバー」,「外径カバー体1」,「内径カバー体2」,「第1の内径カバー体2a」,「第2の内径カバー体2b」,「一次折曲部7」,「二次折曲部8」,「係合受歯9」,「V字状溝部」,「係合歯19」,「管体」,「断熱材」は,それぞれ本件考案1の「エルボカバー」,「エルボ胴部(11)」,「エルボ結合部(12)」,「結合受け板(121)」,「結合差込み板(122)」,「第1の結合板(121a)」,「第2の結合板(121b)」,「係合片(121c)」,「結合差込み口(123)」,「係止爪(124)」,「管」,「保温材」に相当する。
したがって,本件考案1と先願発明は,本件考案1の表記にしたがえば,
「エルボカバーが,エルボ胴部と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ結合部とからなり,上記エルボ結合部は,結合受け板と結合差込み板とを有し,上記結合受け板は,先端部分を二つ折りに折り返して第1の結合板を形成し,折り返された該第1の結合板は,上記結合受け板の自由端に向って折り返して第2の結合板を形成し,該第2の結合板は,折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り曲げて係合片を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口を形成したものであって,上記結合差込み板の先端近傍に係止爪を設け,上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入して上記エルボ結合部を結合することを特徴とする管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー。」
の点で一致し,次の点で一応相違する。

[相違点]
本件考案1では,第2の結合板及び係合片は,全域に亘って一定の横幅を有し,この横幅は第1の結合板よりも狭くなっているのに対して,先願発明では,二次折曲部8と係合受歯9は,一次折曲部7よりも幅が狭いものではあるが,一定の横幅を有するものではなく,二次折曲部8から係合受歯9に向けて漸次幅狭となっている点。

そこで,本件考案1と先願発明の同一性について,すなわち,上記相違点が実質的な相違点といえるか否かについて検討する。

(ア)本件明細書等の記載
平成24年11月2日付けで訂正された本件実用新案に係る明細書及び図面(以下,「本件明細書等」という。)には,次の記載がある。
「【考案が解決しようとする課題】【0009】本考案が解決しようとする課題は、エルボ結合部が折り畳み形成された結合受部とこれに結合差込部を差し込んで両者を結合するものにおいて、エルボカバーを管の屈曲部分に装着した時に、直管部分との間に段差又は隙間が生じないようにしたエルボカバーを提供することである。」
「【課題を解決するための手段】【0010】解決手段の第1は、エルボカバーが、エルボ胴部と該エルボ胴部の開口端に結合したエルボ結合部とからなり、上記エルボ結合部は、結合受け板と結合差込み板とを有し、上記結合受け板は、先端部分を二つ折りに折り返して第1の結合板を形成し、折り返された該第1の結合板は、上記結合受け板の自由端に向って折り返して第2の結合板を形成し、該第2の結合板は、折り返し部が上記第1の結合板に向うように折り曲げて係合片を形成して当該第1の結合板との間に結合差込み口を形成したものであって、上記第2の結合板及び上記係合片は上記第1の結合板よりも横幅を狭く形成し、上記結合差込み板の先端近傍に係止爪を設け、上記結合受け板の結合差込み口に上記結合差込み板を挿入して上記エルボ結合部を結合することを特徴とするものである。」
「【考案の効果】【0013】請求項1は、エルボカバーのエルボ結合部が、結合受け板と結合差込み板とを有し、上記結合受け板は部材を折り曲げて結合差込み口を形成し、上記結合差込み板は上記結合受け板に設けた係止片と係合させる係合爪を設けたものであって、上記係止片を設けた第2の結合板の横幅を上記第1の結合板よりも狭く形成したものであるから、エルボカバーを管の屈曲部分に装着した時、上記結合受け板の第1及び第2の結合板の両端部が直管カバーに隙間なく当接され、従来技術の問題点であった結合部と直管カバーとの間に段差あるいは隙間が生じることが解消でき、エルボカバーの内部に雨水が浸入することが防止できるものである。」
「【考案を実施するための最良の形態】・・・・・【0018】上記エルボ結合部12は、結合受け板121と結合差込み板122とからなり、結合受け板121は、二つ折りに折り返した第1の結合板121aを形成するとともに、該第1の結合板121aは、先端に向って折り返して第2の結合板121bを形成し、さらに、第2の結合板121bは、折り返し部が上記第1の結合板121aに向うように折り曲げて係合片121cを形成し、これにより第1の結合板121aとの間に結合差込み口123を形成したものである。ここで、第2の結合板121b及び係合片121cは、全域に亘って一定の横幅を有してこの横幅は上記第1の結合板121aよりも狭くなっており、この点が本考案の主題となるものである(図3参照)。即ち、図3に示すように、第2の結合板121bの左側の縁121dと、第2の結合板121bの右側の縁121eとは、平行に延びている。また、図5に示すように、係合片121cは、第2の結合板121bと同じ横幅を有している。したがって、第2の結合板121b及び係合片121cは、全域に亘って一定の横幅を有している。そして、図3に示すように、この横幅は第1の結合板121aよりも狭くなっている。【0019】上記結合差込み板122は、上記結合受け板121の結合差込み口123に挿入して当該結合受け板121と結合するものであって、横幅を第1の結合板121aと略同一に形成するとともに、先端近傍に複数列の係止爪124が設けられている。なお、当該係止爪124は1列に3個が形成されたものが3列形成されている。ここで、係止爪124は、線状に切断したのち一方の板材を上方に突出させることにより係合面とこれに繋がる傾斜面を形成したものであって、結合差込み板122を結合差込み口123に差し込む時は自由であるが、引き抜き方向には係止爪124の係合面が係合片121cと係合して結合差込み板122の脱出が阻止され、両者の結合が保持されるものとなる。」
「【0022】エルボカバー10は、管1の口径ならびに管に被覆した保温材2の厚さによって大きさを選択するものであって、エルボ結合部12を結合した状態で、図5に示すように結合受け板121の第1及び第2の結合板121a,121bの両端部が直管カバー3に隙間なく当接し、従来技術の問題点であった結合部と直管カバーとの間に段差あるいは隙間が生じることが解消できたのである。」

(イ)本件考案1の認定
本件実用新案の実用新案登録請求の範囲並びに本件明細書等の図1,図3及び図4と上記(ア)の認定によれば,本件考案1は,(a)エルボカバーを管の屈曲部分に装着した時に直管部分との間に段差又は隙間が生じないようにするために,(b-1)エルボ結合部の結合受け板については2度の折り返しにより第1の結合板と第2の結合板と係合片とを形成し,第2の結合板及び係合片は全域にわたって一定の横幅を有し,かつ,その横幅が第1の結合板よりも狭く形成し,(b-2)エルボ結合部の結合差込み板については,先端に係止爪を設けたものであり,(c)第2の結合板及び係合片が第1の結合板よりも横幅を狭く形成したことから,エルボカバーを管の屈曲部に装着した時に,第1の結合板と第2の結合板との両端が直管カバーに隙間なく当接することができるとしたものということができる。

(ウ)周知技術の認定
請求人は,本件考案1における「第2の結合板及び係合片は,全域に亘って一定の横幅を有し」との構成は,先願発明と同じ,エルボカバーの技術分野に属する周知技術であるとして,甲第2号証を提出している。
そこで,検討するに,甲第2号証には,次の記載がある。
「・・・・・〔産業上の利用分野〕この考案は,給湯管等の配管の屈曲部を被覆するエルボに係り,繋ぎ作業を改善できる配管カバー用エルボに関するものである。〔従来の技術〕・・・・・配管カバー用エルボの繋ぎ側部分24,26は,最初,ほぼ真っ直に延びており,・・・・・配管カバー用エルボを被してから,・・・・・相互に繋ぎ合わせられる。すなわち,繋ぎ側部分24,26は,掴み工具等により端部を折り返され,折り返し部において相互に引っ掛けあわされている。〔考案が解決しようとする課題〕・・・・・作業者が,工具を使用して,繋ぎ側部分24,26の端部を曲げる必要があり,煩雑であるとともに,配管カバー用エルボの取付位置が壁や他の構造物に近接しているときは,それらに邪魔されて,工具を適切な位置で操作することができず,作業能率が低下する。請求項1の考案の目的は,工具を省略して配管カバー用エルボを周方向へワンタッチで繋ぎ合わせることができるようにして,作業能率を改善することである。・・・・・〔課題を解決するための手段〕・・・・・配管カバー用エルボ(16)は,板金から成り,2個の端部を周方向へ繋がれて,配管屈曲部を被覆する。・・・・・配管カバー用エルボ(16)では,一方の端部は,拡開自在な嵌入溝(28)を形成するように折り曲げられるとともに,端縁(30)を嵌入溝(28)の奥の方へ折り返されている。また,他方の端部は,嵌入溝(28)へ嵌入されて引き抜き方向へは端縁(30)との当接により変位を阻まれる凸部(32)を備えている。・・・・・〔実施例〕・・・・・繋ぎ側部分24,26は,配管カバー用エルボ16の周方向における外側湾曲部18の端部に一端側を固定される板金から成り,それら板金は繋ぎ合わせ前の状態ではほぼ真っ直ぐに延びている。・・・・・繋ぎ側部分24は,端部において3回折り返されて,嵌入溝28を形成する。・・・・・〔考案の効果〕・・・・・配管カバー用エルボによる被覆作業では工具や工具による加工を必要とせず,嵌入のみでワンタッチで繋ぎ合わせることができるので,作業能率が向上する。・・・・・」
また,甲第2号証の第1図及び第2図には,実施例として,本件考案1の第1の結合板,第2の係合板及び係合片に相当する「繋ぎ側部分24の端部において3回折り返された」部分がすべて同一幅であることが看て取れる。
上記認定によれば,甲第2号証に係る考案は,繋ぎ側部分の一方に嵌入溝をあらかじめ形成しておくことによって,配管カバー用エルボによる配管の被覆作業時において,嵌入溝を形成するための折り曲げ作業を不要とすることにあり,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であることを看て取ることはできるものの,繋ぎ側部分の端部の幅を部分ごとに変えて各々を一定の横幅とすることについては何ら開示されておらず,その示唆もない。
したがって,「エルボカバーのエルボ結合部を一定の横幅とすること」が周知技術であるとしても,それは本件考案1における第1の結合板,第2の結合板及び係合片の各々が一定の横幅であることに相応するにすぎない。

(エ)周知技術の適用
以上のとおり,甲第2号証から認められる周知技術が,繋ぎ側部分の端部がすべて同一の横幅で一定であるという事項にとどまる以上,当該周知事項が,第2の結合板及び係合片だけを第1の結合板とは異なる(狭い)一定の横幅にするといった事項に及ぶものとはいえない。
そうすると,当該周知技術は,本件考案1とは直接の関連性がないものであって,これを先願発明に適用しても本件考案1と実質的に同一となるものではない。
なお,請求人が周知技術の例示として挙げたのは甲第2号証のみであり,本件証拠上も,第2の結合板及び係合片に相当する部分のみを一定の横幅にする周知技術の存在を認めるに足りる証拠はない。

(オ)まとめ
以上のとおりであるから,上記相違点は実質的な相違点であるといえる。

(2)本件考案2及び本件考案3について
先願発明の雄係合部3bは,3列3段に整列した係合歯19を備えるから,先願発明は,本件考案2における「結合差込み板に形成した係止爪は,複数列が形成されている」との要件及び本件考案3における「結合差込み板に形成した係止爪は,1列に3個が形成されたものが3列形成されている」との要件を備える。
したがって,本件考案2と先願発明との相違点及び本件考案3と先願発明との相違点は,いずれも,本件考案1と先願発明との相違点と同じである。
そして,前記「(1)」に記載したとおり,この相違点は,実質的な相違点であるといえる。

3.小括
以上のとおり,本件考案1ないし本件考案3は,本件実用新案の出願日よりも前の特許出願であって,本件実用新案の出願よりも後に出願公開がされた特願2006-275665号の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲または図面に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって,本件考案1ないし本件考案3は,実用新案法第3条の2の規定に違反して実用新案登録がされたものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件考案に係る実用新案登録を無効とすることはできない。
そして,審判に関する費用については,実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-12-18 
結審通知日 2013-12-20 
審決日 2014-01-07 
出願番号 実願2007-8250(U2007-8250) 
審決分類 U 1 114・ 161- YA (F16L)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 平田 信勝
山口 直
登録日 2007-12-12 
登録番号 実用新案登録第3138583号(U3138583) 
考案の名称 管の表面に被覆した保温材を保護するエルボカバー  
代理人 市川 泰央  
代理人 保立 浩一  
代理人 中山 清  
復代理人 大坪 勤  
代理人 松尾 憲一郎  

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