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審決分類 審判    B01F
管理番号 1327940
審判番号 無効2015-400005  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-09 
確定日 2017-05-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第3190824号実用新案「気体溶解装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
審理の全趣旨から見て、請求人は、登録第3190824号実用新案の請求項1ないし8に係る考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求めている。


第2.手続の経緯
主な手続の経緯を示す。
平成26年 3月12日 本件実用新案登録出願
平成26年 4月30日 設定登録(実用新案登録第3190824号)
平成27年 8月26日付け 訂正書
平成27年 9月 9日付け 審判請求書
平成27年10月16日付け 手続補正書(請求人、審判請求書)
平成27年11月26日付け 答弁書
平成27年12月25日付け 審理事項通知
平成28年 1月22日付け 請求人及び被請求人・口頭審理陳述要領書
平成28年 2月 4日付け 審理事項通知(2)
平成28年 2月24日付け 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成28年 2月24日付け 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成28年 3月 7日 口頭審理


第3.本件考案
本件の請求項1ないし8に係る考案(以下、「本件考案1」ないし「本件考案8」という。)は、平成27年8月26日付け訂正書に添付された実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、本件考案1ないし8は以下のとおりである。

《本件考案1》
気体を発生する気体発生機構と、
前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構と、
前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構と、
前記液体が細管を流れることで降圧する降圧機構と、を有し、
前記細管の内径が、1.0mmより大きく5.0mm以下であり、
前記気体が水素であり、前記気体発生機構が、水素発生機構であることを特徴とする
気体溶解装置。
《本件考案2》
前記水素発生機構が、電気分解により水素を発生させるものである
請求項1記載の気体溶解装置。
《本件考案3》
前記気体が水素であり、水素の前記液体中の濃度が7℃で1.5ppmより大きい
請求項2記載の気体溶解装置。
《本件考案4》
前記気体発生機構と、前記加圧型気体溶解機構とを制御するコントロール機構を有する
請求項3記載の気体溶解装置。
《本件考案5》
前記コントロール機構により、前記気体発生機構と前記加圧型気体溶解機構の稼働時間が5?60分間であり、かつ前記稼働時間の1?5倍の停止時間で、前記気体発生機構と前記加圧型気体溶解機構を制御する
請求項4記載の気体溶解装置。
《本件考案6》
前記加圧型気体溶解機構が、ダイヤフラムポンプである
請求項5記載の気体溶解装置。
《本件考案7》
前記溶存機構を2個以上有する
請求項6記載の気体溶解装置。
《本件考案8》
前記気体発生機構が、イオン交換機構を有する
請求項7記載の気体溶解装置。


第4.当事者の主張及び証拠方法
以下において、甲第2号証、乙第1号証等を甲2、乙1等といい、甲2等に記載された考案を甲2考案等といい、平成27年10月16日付け手続補正書(請求人、審判請求書)を補正書といい、平成28年 1月22日付け口頭審理陳述要領書、平成28年 2月24日付け口頭審理陳述要領書を要領書、要領書(2)といい、第1回口頭審理調書を調書という。

1.請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
請求人は、本件考案1ないし8は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、以下に示す理由により、無効とすべきものであると主張している。(補正書で補正された審判請求書7(4)、請求人要領書(2)6.第1.(4))
ア.本件考案1は、甲2考案(主たる証拠)及び甲3考案(従たる証拠)から、きわめて容易。
イ.本件考案2は、甲2考案及び甲3考案から、きわめて容易。(電気分解槽は甲2に記載されている。)
ウ.本件考案3は、甲2考案及び甲3考案から、きわめて容易。(水素濃度は甲2に記載されている。)
エ.本件考案4は、甲2考案及び甲3考案から、きわめて容易。(コントロール機構を設けることは容易。)
オ.本件考案5は、甲2考案及び甲3考案から、きわめて容易。(稼働時間、停止時間の設定は適宜設定し得る事項である。)
カ.本件考案6は、甲2考案、甲3考案及び甲6、甲7に例示される周知技術から、きわめて容易。
キ.本件考案7は、甲2考案、甲3考案並びに甲8、甲9に例示される周知技術及び甲6、甲7に例示される周知技術から、きわめて容易。
ク.本件考案8は、甲2考案、甲3考案並びに甲4、甲5に例示される周知技術及び甲6?甲9に例示される周知技術から、きわめて容易。

(2)証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲1:本件考案に関する実用新案技術評価書(平成27年7月6日作成)
甲2:特開2010-115594号公報
甲3:特開2008-188574号公報
甲4:特開平11-244677号公報
甲5:特開2014-14815号公報
甲6:特許第5216996号公報
甲7:特開2012-578号公報
甲8:特開昭61-227823号公報
甲9:特開平3-146123号公報

(3)主張の要点
請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
以下において、行数は、空行を含まない。
なお、請求人要領書の6頁16行ないし11頁末行、14頁11行ないし13行および14頁下から3行ないし15頁3行に記載の主張は撤回されている。(請求人要領書(2)6.第1.(1))
また、請求人要領書の12頁1行ないし14頁10行の主張は、上記無効理由と実質的に同じ主張と解することに異論はない。(請求人要領書(2)6.第1.(3))

ア.本件考案1について
(ア)甲2考案、甲3考案、本件発明1との対比について
a.甲2の[特許請求の範囲]の[請求項1]、段落[0024]?[0051]の記載によれば、甲2には「水を電気分解して水素ガスを発生させる電解槽と,該発生した水素ガスを水と混合しながら送液する加圧ポンプと,水に対する水素ガスの溶解度を高める加圧溶解タンクと,該水素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構と,を有する微細気泡発生装置」の考案が記載されている。(補正書6頁15行ないし14頁1行)
b.甲3の[特許請求の範囲]の[請求項1]、段落[0052]?[0054]の記載によれば、甲3には「加圧溶解部から気体溶解液を送り出す流路の一部として設けられた減圧部を備える気体溶解装置であって,減圧部を内径2?50mm程度の流路として形成する気体溶解装置」の考案が記載されている。(補正書14頁2行ないし15頁14行)
c.甲2考案における絞り機構と、甲3考案における減圧部とは、「減圧」という作用のために設けられた点において共通し、同様の機能を有するものである。また、甲2には、絞り機構は単なる流路面積を絞ったものでも良いとの記載がある(段落0041)。したがって、甲2考案の絞り機構を、甲3考案と同様に内径2?50mm程度の管路として形成させること、更には、これと大差がない本件考案1の内径1.0mmより大きく5.0mm以下の細管として形成することは、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たことである。更に,本件考案1の「かかる範囲とすることで、特開平8-89771号公報記載の技術のように、降圧するために複数本の細管を設置する必要がなく、降圧することが出来る」という効果は、甲2考案、甲3考案(特に甲3の段落[0054]の記載を参照)から予測しうる範囲内のものであり、格別の作用効果を奏するものとはいえない。したがって、本件考案1は,甲2考案及び甲3考案に基づき、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。(補正書18頁21行ないし20頁1行)
d.本件考案1は、甲2考案から、微細気泡発生装置として機能するための要件である「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を除外して、甲2考案の「気体を発生する気体発生機構」と、「前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構」と、「前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構」と、「前記液体を降圧する降圧機構」とを備えた「装置」の部分のみを取り出したにすぎず、甲2考案に比し、特段の作用効果を奏するものではない。(請求人要領書(2)6.第3.1.(4)7))
(イ)甲2考案の気体について
a.甲2の電解槽において、水を電気分解して水素ガスを発生させ、加圧ポンプによって、加圧下で水素ガスを水に溶解して、混合液を送液し、加圧溶解タンクにおいて、水に対する水素ガスの溶解度が高められ、絞り機構によって、水素ガスが溶解した圧力水が減圧されていることは事実であり、甲2考案において、本件考案1と同様の現象が起こっていることは理論的に自明なことである。このように、甲2考案において、本件考案1と同様の現象が起こっている以上、甲2考案が「微細気泡発生方法」、「微細気泡発生装置」、「還元水」であるのに対し、本件考案1が「気体溶解装置」であるからといって、甲2考案が本件考案1のすべての構成要件を備えているということを否定することはできない。(請求人要領書6.第一.D.(6)ないし(8))
b.水素を水に溶解させた水素水が周知であることは、本件実用新案登録公報の段落[0006]ないし[0010]の記載から明らかであり、甲2考案において、気体として水素ガスを選択することは、当業者にとってきわめて容易なことに過ぎない。(請求人要領書(2)6.第3.1.(4)1))
c.水素水の製造という技術分野の当業者は、水素水を製造するにあたって、甲2考案から、水素ガスと水の混合液を加圧しながら、送液する加圧ポンプおよび「水に対する水素ガスの溶解度を高める加圧溶解タンク」を用いることによって、水素水を製造することができるという知見を得ることができる。(請求人要領書(2)6.第3.1.(4)4))
d.甲2考案から、「加圧ポンプ」及び「加圧溶解タンク」を用いることによって水素水を製造できるという知見を得ることができる理由は、当業者であれば水素水に関する文献を調査し甲2に接し、甲2に接すれば、加圧溶解部分に注目するのが自然だからである。目的、効果は無関係である。(調書 請求人欄3)
(ウ)甲2考案の低圧の受水槽について
a.本件考案1にかかる気体溶解装置には、降圧機構である細管5を備え、図2の実施態様においては、細管5はウォーターサーバー100に収容された水の内部に延びており、図2には、ウォーターサーバー100に収容された水の内部に水素の気泡が発生していることが図示されている。ここで、ウォーターサーバー100は大気に開放されており、溶存機構4内の圧力よりも低圧であることは疑いがない。よって、甲2考案にかかる「微細気泡発生装置」が「加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を備えていることをもって、本件考案1と差異があるとは到底いえない。(請求人要領書6.第一.D.(9)、請求人要領書(2)6.第3.1.(4)5))
b.本件実用新案登録の請求項1はウォーターサーバー100を要件とはしておらず、細管5がウォーターサーバー100に収容された水の内部に延びていることも要件としてはいないが、「考案を実施するための形態」には最も好ましい実施の形態(アメリカ特許法でいうベスト・モード)を記載するのが我が国の実務上の慣行であり、「考案を実施するための形態」に記載された装置は引用文献に記載された装置と同じ構成を有しているが、請求項に記載された装置は「考案を実施するための形態」に記載された装置の構成の一部を備えていないから、引用文献に記載された装置とはその構成を異にしていると解することはきわめて奇異である。(請求人要領書(2)6.第3.1.(4)6))
c.当業者であれば水素水に関する文献を調査し甲2に接し、甲2に接すれば、加圧溶解部分に注目するのが自然だからである。目的、効果は無関係である。甲2考案から、「低圧の受水槽」を除外することできる点についても、同様である。(調書 請求人欄3)
(エ)甲2考案の絞り機構について
a.甲2の図1および図2には、絞り機構6を受水槽7が管によって接続されていることが図示されている。したがって、本件考案1は、単に、受水槽7に接続する管として、内径が1.0mmより大きく5.0mm以下の細管を選択したものに過ぎず、そのような細管を用いることは、当業者が日常的になし得る設計事項にすぎない。(請求人要領書6.第一.D.(10))
b.甲2考案は、酸素ガス、水素ガスおよび水の混合液を加圧して、酸素ガスと水素ガスを水に溶解させるものであり、甲3考案は、加圧された液体に水素などの気体を溶解させるものであり、同じ技術分野に属するものであるから、水素水の製造という技術分野の当業者にとって、甲2考案と甲3考案を組み合わせることは日常的な業務活動に過ぎず、きわめて容易になし得ることである。
甲3考案においては、降圧機構を構成する減圧部4は、加圧溶解部3の出口部に接続され、気体が過飽和状態で溶解されている気体溶解液の圧力を大気圧まで減圧する一つの流路で形成されており、甲3の図4(c)には、内径が徐々に小さくなる1本の細管によって形成された減圧部4が例示されており(段落[0046])、さらに、甲3の段落[0053]には、「減圧部4を例えば内径2?50mm程度の比較的大きい流路として形成することができる」と記載されており、甲3考案の降圧機構を構成する減圧部4の細管の内径は、2ないし5mmの範囲で重複している。
したがって、甲2考案に甲3考案を組み合わせ、気体として水素ガスを採用し、「降圧機構」として、甲3考案の減圧部4を採用すれば、請求項1に記載された構成を有する本件考案1が得られるから、本件考案1は、甲2考案と甲3考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものである。(請求人要領書(2)6.第3.1.(6))
c.甲2の「絞り機構」と甲3の「減圧部」とを置換し得る理由は、いずれも減圧手段という点で共通しているからである。(調書 請求人欄4)

イ.本件考案2について
本件考案2における「水素発生機構が,電気分解により水素を発生させる」との点は,甲2考案における「水を電気分解して水素ガスを発生させる電解槽」に相当する。したがって、本件考案2は、本件考案1と同様に、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書20頁2行ないし9行)

ウ.本件考案3について
甲2の段落[0045]ないし[0048]には、実施例として、微細気泡発生装置Aで約30分間の循環処理を行ったところ、溶存水素率2ppmであり,約45分間の循環処理を行ったところ、溶存水素率3ppmであり、その後、停止状態で30分放置した後の溶存水素率は約2ppmであり、さらに停止状態で約12時間放置したところ、溶存水素率は約1ppmであったことが記載されている。したがって、本件考案3がいう水素濃度に関わる部分は,甲2の実施例にほぼ包含されているものであるから,本件考案3は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たものである。(補正書20頁10行ないし21行)

エ.本件考案4について
甲2考案において循環処理を行うにあたり、電解槽と加圧ポンプとを制御させることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。したがって、本件考案4は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書20頁22行ないし21頁2行)

オ.本件考案5について
装置の停止時間を何時間にするか、どのように定めるかは、必要とする溶存水素率に応じて、当業者が適宜設定し得る事項にすぎない。したがって、本件考案5は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書21頁3行ないし10行)

カ.本件考案6について
液体に気体を溶存させるための加圧手段としてダイヤフラムポンプを用いることは,例えば,甲6の段落[0084]や、甲7の段落[0025]にあるように周知技術である。このように、甲2考案において、加圧ポンプにダイヤフラムポンプを用いることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことであるから、本件考案6は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書21頁11行ないし20行)

キ.本件考案7について
液体に気体を溶存させるために加圧溶解タンクを複数設けることは,例えば甲8の2頁左上欄3ないし7行や、甲9の2頁右上欄4ないし7行にあるように周知技術である。このように、甲2考案において、加圧溶解タンクを複数設けることは当業者がきわめて容易に想到し得たことであるから、本件考案7は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書21頁21行ないし22頁4行)

ク.本件考案8について
水を電気分解して水素ガスを発生させる場合に、電気分解する水をイオン交換機構で処理して不純物を除去することは、例えば,甲4の段落[0020]や、甲5の段落[0043]ないし[0045]にあるように、周知技術である。また、甲2の段落[0026]には,電解槽1には外部から水,好ましくは蒸留水や脱イオン水が適宜補給されるとの記載がある。このように、甲2考案において、電解槽1にイオン交換機構を設けることは当業者がきわめて容易に想到し得たことであるから、本件考案8は、甲2考案及び甲3考案に基づき当業者がきわめて容易に想到し得たといえるものである。(補正書22頁5行ないし18行)

2.被請求人の主張
(1)主張の要旨
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たないと主張している。

(2)証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、被請求人要領書(2)に添付された参考文献1、2は、乙1、2とされた。(調書 被請求人欄1)
乙1:特開2003-247659号公報
乙2:特開2011-103814号公報

(3)主張の要点
被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
ア.本件考案1について
(ア)本件考案1の「気体溶解装置」と甲2の「微細気泡発生装置」について
a.甲2の「微細気泡発生装置」は、「微細気泡を発生させガスの溶解を促進させるとともに、発生ガスの微細気泡をそのまま利用することで、微細気泡の持つ浮上促進や気液洗浄効果を引き出そうとするもの」(段落[0014]を参照)であり、気体を液体に溶存させずに微細気泡を発生させる装置である。これについて、段落[0007]では、公知の装置を「液中に高濃度の水素を溶解させることを主眼にしているため、気泡を積極的に発生させ利用するものではない。」と述べて、「微細気泡発生装置」が「気体溶解装置」と明確に異なることを宣言している。
他方、本件考案は、上記した「気体溶解装置」の1種であり、「気体を過飽和の状態で液体に溶解させ、かかる過飽和の状態を安定に維持でき、さらにウォーターサーバー等へ容易に取付けることができる気体溶解装置」に関し、気体を液体に溶存させて過飽和の水素水を供給する装置である(本件明細書段落[0023]及び[0034]を参照)。
つまり、本件考案の「気体溶解装置」と甲2の「微細気泡発生装置」とは全く目的の異なる装置である。
審判請求人は、甲2を主引例として甲3をこれに組合わせて本件考案の進歩性有無の判断を試みているが、本件考案と全く目的の異なる装置に関する甲2を主引例とすることは不適当である。(答弁書5頁14行ないし33行)
b.甲2の段落[0014]では、「本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、電気分解により発生した酸素ガスおよび水素ガスを混合使用し、微細気泡を発生させガスの溶解を促進させるとともに、発生ガスの微細気泡をそのまま利用することで、微細気泡の持つ浮上促進や気液洗浄効果を引き出そうとするものである。」と述べている。そして、甲2の図1等を参照すると、受水槽7で発生ガスの微細気泡を得ているのだから、受水槽は甲2考案の必須の構成要素である。
他方、本件考案1は、気体溶解装置から降圧機構で大気中に水素水を取り出すものであり、受水槽は有さない。しかも、「気体を過飽和の状態で液体に溶解させ、かかる過飽和の状態を安定に維持」(本件明細書段落[0015]等を参照)する観点では、気泡の発生が溶解する気体の抜けることを意味し、受水槽のように大気圧下に水素を含む水素水、特に、過飽和に水素を含む水素水を置くことはむしろ避けるべきである。
以上のことからも、微細気泡の発生の有無で目的が異なる装置における相違点の変更が容易であるはずはない。(被請求人要領書3頁下から7行ないし4頁8行)
c.本件考案の要旨認定にあたっては、目的、効果が考慮されるべきである。(調書 被請求人欄2)
d.先行技術の調査、理解にあたっては、目的、効果も考慮するはずである。(調書 被請求人欄3)
(イ)本件考案1の「降圧機構」と甲2の「絞り機構」について
a.本件考案は気体を液体に溶存させて過飽和の水素水を供給するようにその前段に「降圧機構」を与えたものである。他方、甲2では、気体を液体に溶存させずに微細気泡として発生させた液体を受水槽に得るようにその前段に「絞り機構」を与えている。「降圧機構」と「絞り機構」とは、気体の溶存の点で全く真逆の液体を得ることを目的としてその前段に与えられているのだから、両者は機能を全く異にするものである。
ここで、本件考案1の「前記液体が細管を流れることで降圧する降圧機構」は、「気体が過飽和で溶存している液体が、細管中を流れて降圧することで、気体を過飽和の状態で液体に溶解させ、さらに過飽和の状態を安定に維持することができる」もの(本件明細書段落[0025]を参照)、つまり、気体を液体に溶存させたまま気泡を発生させずに降圧させるのである。具体的には、「前記細管の内径が、1.0mmより大きく5.0mm以下」である細管である。
他方、甲2の「絞り機構」は、「該加圧溶解タンク内で加圧溶解したものを急減圧する絞り機構を通して低圧容器側に送り出すことで水素ガスならびに酸素ガスの微細気泡を発生させる」(段落[0020]を参照)もの、つまり、気体を液体に溶存させずに微細気泡として発生させるよう急減圧させるのである。具体的には、オリフィスやノズルを利用するもの(段落[0030]及び[0031]を参照)や、「複雑な機構でなくとも、単にバルブを閉止に近い状態で使用するとか、オリフィスを挿入するとかの単なる流路面積を絞ったものでも良く」(段落[0041]を参照)と述べ、本件考案1の細管とは異なる。なお、段落[0041]の記載は、バルブやオリフィスで流路面積を局所的に絞ることを述べているにすぎず、管の流路面積を長手方向に亘って絞るような、細管の内径を減じることを述べていない。(答弁書5頁35行ないし6頁22行)
b.甲2の図1からみて、水を入れた加圧溶解タンク5及び受水槽7を管路で接続すると、圧力差で水は加圧溶解タンク5から受水槽7へと流れる。そして受水槽7では大気圧下で水に溶解しきれない水素及び酸素がヘンリーの法則に従って水の表面から大気中に抜けようとする。このとき、仮に、水に溶解している水素及び/又は酸素が水中に気泡を発生させるなら、気泡内では当該気体だけが存在するのだからその分圧は高くなる。すると、ヘンリーの法則に従って、気体は液体に戻ってしまうことになる。つまり、管路又は受水槽の水に何らかの揺籃を与えて気泡を形成するように気液の平衡状態を崩さない限り、気泡は発生しづらいものである。
この点、甲2考案では、管路を絞り機構6として、タービン翼型ノズル(段落[0031]を参照)や、オリフィス(段落[0041]を参照)などを加えて、水に溶解した気体の気泡を形成するような気液の平衡状態を崩す揺籃としての乱流を与える機構としている。
他方、本件考案1は、気体溶解装置から降圧機構で大気中に水素を溶解した水を取り出すのであり、降圧機構の出口で大気中に水素が抜けてしまう。これを防止すべく、降圧機構の出口における上記したような揺籃を防止するような降圧機構を設けたものである。
以上のことからも、本件考案1及び甲2考案の「降圧機構」は、機能を全く異にするものであり、互いに容易であるはずはない。(被請求人要領書4頁10行ないし末行)
c.甲2考案の「絞り機構」はキャビテーションを与える機構、他方、本件考案1の「降圧機構」はキャビテーションを抑制する機構である。つまり、互いに機能を逆にする全く異なる機構である。
ところで、キャビテーションの発生については、例えば、乙1の段落[0008]において、「弁座32bの段差のところに渦が発生する。このキャビテーション(流水の断面や向きが変化する場所の近くで空洞部ができて渦を起こす現象。この渦が振動や騒音の原因となる)が起因する高周波の騒音が逆止弁15から発生することがある。」と述べられており、「流水の断面や向きが変化する場所」を与えることで気泡となる空洞部を形成できるのである。また、乙2の段落[0017]では、「液体が、不連続的に径が大きくなる流路を通過すると、流れの垂直方向に速度分布が発生し、乱流による剥離現象が起こる。剥離域は、局所的に低圧となり、溶存気体が一時的に析出する(キャビテーションの発生)」と述べられており、ここでも流路に変形を与えることで気泡となる空洞部を形成できるとしている。このような、キャビテーションを発生させる管路(流路)は、甲2の段落[0041]に述べられたような管路を局所的に絞ったものが典型的なのである。
一方、本件考案1の「降圧機構」はキャビテーションを抑制する機構であることから、逆に管路を局所的に絞ることなく、ストレート管路としている。かかる点において、甲2考案の「絞り機構」と本件考案1の「降圧機構」とは、形状を異にする。
更に、管路の内径に関しては、本件明細書の段落[0010]や[0017]で述べたように、特開平8-89771号公報(特許文献7)に開示のキャピラリー管のように、内径を小さくすることでキャビテーションを抑制できるのであるが、本件考案1に関し、液体を保持する溶存機構を設けて液体を流すことで内径をより大きくできることを見いだしている。少なくとも、このような降圧機構の管路の内径をより大きくし得ることを甲2は述べていないし、上記したように機構も全く異なるのだから、これを示唆しないことも明らかである。(被請求人要領書(2)3頁4行ないし31行)
(ウ)本件考案1の「降圧機構」と甲3の「減圧部」について
甲3の「減圧部」について、その段落[0038]の記載からみて、気体を液体に溶存させたまま気泡を発生させずに降圧させるものであるとしている点で、本件考案1の「降圧機構」に一致する。
ところで、甲3の段落[0052]の記載は、甲3の「減圧部」が気体溶解液を連続的に供給される上で機能することを述べている。これは、甲3の段落0048]において安定した流れに対して適用されるDarcy-Weisbach式に言及していることからもわかる。その上で、段落[0053]では、「減圧部4を例えば内径2?50mm程度の比較的大きい流路として形成する」としている。
他方、本件考案1では、液体を貯留する溶存機構を設けており、液体を連続的に降圧機構に供給して該降圧機構を機能させることを意図していない。このことは、液体を連続的に降圧機構に供給することに反するような、本件考案5や本件考案7を見ても明らかである。この点において、甲3の「減圧部」と本件考案1の「降圧機構」とは異なる。
なお、溶存機構を設けて液体を流す場合、「降圧機構」において終始安定した流れを得られるわけではないから、例えば、甲3で言及されるDarcy-Weisbach式が適用できない。その一方で、降圧機構で過飽和の状態を安定に維持した水素水であるほど粘性を高め管摩擦係数を大きくするように調整できるから、Darcy-Weisbach式は適用できないものの、傾向としてみると、管径を大きくできる。このことから、本件明細書の段落[0010]や[0017]で述べた特許文献7の細いキャピラリ管を用いることなく、降圧機構を与えることが可能である。本件考案1では、かかる条件の下で、細管の内径を1.0mmより大きく5.0mm以下としている。
すると、本件考案1の細管の内径範囲は、甲3の減圧部の2?50mm程度とした内径範囲とは根拠が異なるし、甲3の減圧部の内径範囲として開示された範囲に本件考案の内径範囲が包含されておらず、しかも重なる範囲(1.0mm?2mm)が同開示の内径範囲(2?50mm程度)の10%以下に過ぎないから、甲3は要件「前記細管の内径が、1.0mmより大きく5.0mm以下であり」を開示しない。(答弁書6頁25行ないし7頁28行)
(エ)甲2の「絞り機構」と甲3の「減圧部」について
a.甲2の「絞り機構」は、その段落[0020]に、加圧溶解タンク内で加圧溶解した圧力水を気泡を発生させるよう急減圧するものであることが述べられている。他方、甲3の「減圧部」は、その段落[0038]に気泡を発生させないよう急激な圧力低下を防止するものであることが述べられている。つまり、甲2の「絞り機構」と甲3の「減圧部」とは、目的を異にするばかりかこれを逆にし、これらの機能が互いに逆なのである。
ゆえに、仮に、甲2と甲3とを組み合わせるにしても、目的及び機能を互いに逆にする甲2の「絞り機構」と甲3の「減圧部」とを互いに置換して本件考案を認定することは不適当である。(答弁書7頁36行ないし8頁9行)
b.甲2の「絞り機構」と甲3の「減圧部」とは、目的、効果が異なる。(調書 被請求人欄4)

イ.甲4ないし9及び本件考案2ないし8について
甲4及び甲5はイオン交換機構について、甲6及び甲7はダイヤフラムポンプについて、甲8及び甲9は加圧溶解タンクを複数設けることについての周知技術を示す文献であり、本件考案1の認定には無関係である。つまり、本件考案1についての上記判断に影響を与えるものではない。
また、追加の要件を与えた本件考案2ないし8についても、甲2ないし9を知り得た、いわゆる当業者といえども容易に想到し得るものではない。(答弁書8頁11行ないし17行)


第5.当審の判断
1.甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(1)甲2の記載事項及び甲2考案
本件実用新案登録の出願前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
ア.「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解質を含む電解槽と、
前記電解槽から発生した前記水素ガスと前記酸素ガスとを吸引して水と混合しながら送液する加圧ポンプと、
前記加圧ポンプからの送液を受水すると共に、加圧して水に対する前記水素ガスと前記酸素ガスとの溶解度を高める加圧溶解タンクと、
前記加圧溶解タンク内で前記水素ガスと前記酸素ガスとが溶解した圧力水を急減圧する絞り機構と、
前記絞り機構からの送液を受水すると共に、圧力を開放して水に前記水素ガスと前記酸素ガスとが混合した微細気泡を発生させるための前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の容器と、
を有することを特徴とした微細気泡発生装置。」([特許請求の範囲][請求項3])
イ.「本発明は、水素ガスおよび酸素ガスを含有した微細気泡発生方法、微細気泡発生装置およびそれにより製造される還元水に関するものである。」(段落[0001])
ウ.「しかしながら、従来の、水素還元水の製法においては水素の高圧ガスボンベを別途必要とするものや、電気分解による場合には得られるガスのうち水素ガスのみを使用する方法であるために分離が必要である。
・・・
また、液中に高濃度の水素を溶解させることを主眼にしているため、気泡を積極的に発生させ利用するものではない。」(段落[0006]ないし[0007])
エ.「本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、電気分解により発生した酸素ガスおよび水素ガスを混合使用し、微細気泡を発生させガスの溶解を促進させるとともに、発生ガスの微細気泡をそのまま利用することで、微細気泡の持つ浮上促進や気液洗浄効果を引き出そうとするものである。」(段落[0014])
オ.「本発明によれば、電解質溶液を電気分解し、水素ガスおよび酸素ガスを発生させ、混合ガスとして加圧ポンプの吸水側で吸引し、加圧溶解タンクに送液し、該加圧溶解タンク内で加圧溶解したものを急減圧する絞り機構を通して低圧容器側に送り出すことで水素ガスならびに酸素ガスの微細気泡を発生させることが出来る。」(段落[0020])
カ.「図1において、1は水を電気分解して水素ガス(H_(2))と酸素ガス(O_(2))とを発生させる電解質を含む電解槽であり、本実施形態では、例えば、DC12V程度の直流電圧が印加される陰極1a側に水素ガス2が発生し、陽極1b側に酸素ガス3が発生する。・・・
・・・
一方、加圧ポンプ4、加圧溶解タンク5、絞り機構6、容器となる受水槽7が順次直列に配管されて循環水路8を構成しており、電解槽1から発生した水素ガス2と酸素ガス3とは、それぞれ加圧ポンプ4の上流側に接続された吸引管9a,9bを介して加圧ポンプ4により循環水路8内を流通する水の流速により負圧が発生して吸引され、該循環水路8内を流通する水と混合しながら加圧溶解タンク5内に送液される。なお、吸引管9a,9bは個別に循環水路8内に吸引されることに限定するものではなく、吸引管9a,9bを合流させて一つにして循環水路8内に吸引することも可能である。」(段落[0026]ないし[0027])
キ.「加圧溶解タンク5は、加圧ポンプ4からの送液を受水すると共に、受水した水素ガス2と酸素ガス3とを加圧して水に対する該水素ガス2と酸素ガス3との溶解度を高めるものである。本実施形態では、例えば0.4MPa程度に加圧し、水に水素ガス2と酸素ガス3とを大気圧のときよりも加圧圧力に応じた溶解度に高めた状態に溶け込ませる。」(段落[0028])
ク.「加圧溶解タンク5により水に対する水素ガス2と酸素ガス3との溶解度を高められた圧力水5aは、絞り機構6に送液され、該絞り機構6により加圧溶解タンク5内で水素ガス2と酸素ガス3とが溶解した圧力水5aを急減圧する。
・・・
絞り機構6の一例としては、特許文献6(特開2007-216149号公報)の図2及び図3に記載されたように、管状のノズル本体と、該ノズル本体の一端に隙間をもって取り付けられた円板状の気泡微細化促進拡散部材と、ノズル本体の内部に設けられたオリフィスとを有して構成することが出来る。
・・・
また、絞り機構6の他の例としては、特許文献7(特許第4019154号公報)の図1及び図2に記載されたように、円柱状の本体の前方を半球状に成形し、該本体の外周面の長手方向に複数の翼をそれらの後方が湾曲するように設け、背面に噴射孔を設けた翼体を有するタービン翼型ノズルを円筒状のパイプ内に収容し、該パイプの先端部にテーパー状に成形した縮流部に管状の渦崩壊部を連接した構成とすることも出来る。」(段落[0029]ないし[0031])
ケ.「絞り機構6の下流側には加圧溶解タンク5内の圧力よりも低圧の容器となる受水槽7が接続されており、該受水槽7は絞り機構6からの送液を受水すると共に、加圧溶解タンク5内で加圧された圧力が絞り機構6で急減圧され、これを更に大気圧に開放して水中に水素ガス2と酸素ガス3とが混合した微細気泡10を発生させるための容器である。なお、図1、図2においては受水槽7を大気圧としたが、加圧容器よりも低圧であれば大気圧に限定するものではない。」(段落[0032])
コ.「上記の如く構成された微細気泡発生装置Aにより容器となる受水槽7内に製造される微細気泡10を含有した還元水11は、酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential;ORP)が-100mV以下の酸素ガス3と水素ガス2とを含有した還元水11を得ることが出来る。」(段落[0033])
サ.「図1に示す微細気泡発生装置Aにおいて、受水槽7内の水に微細気泡10を発生する方法は、電解質を含む電解槽1で水を電気分解して水素ガス2と酸素ガス3とを発生させ、該発生した水素ガス2と酸素ガス3とを吸引して水と混合しながら加圧ポンプ4で加圧溶解タンク5に送液し、該加圧溶解タンク5内で加圧して水に対する水素ガス2と酸素ガス3との溶解度を高めた後、水素ガス2と酸素ガス3とが溶解した圧力水5aを絞り機構6を通して急減圧した後、加圧溶解タンク5内の圧力よりも低圧の容器となる受水槽7において大気圧力に開放することで、受水槽7内の水に水素ガス2と酸素ガス3とが混合した微細気泡10を発生させることが出来る。
・・・
即ち、電解質を含む水の電解槽1と、原水を送液する加圧ポンプ4と、送液された水を貯留する加圧溶解タンク5と、該加圧溶解タンク5からの水をより低圧に開放する絞り機構6と、低圧に開放された水を受ける受水槽7を有し、電解槽1で発生した水素ガス2と酸素ガス3を加圧ポンプ4の吸引側に導入し、水素ガス2及び酸素ガス3と、循環水路8を循環する処理水の混合液を加圧しながら加圧溶解タンク5へ送液し、該加圧溶解タンク5の加圧下で処理水に水素ガス2及び酸素ガス3を大気圧のときよりも加圧圧力に応じた溶解度に高めた後、絞り機構6を通して加圧溶解タンク5内の圧力よりも低圧の受水槽7内に放出することで微細気泡10を発生させるとともに還元水11を得ることが出来る。」(段落[0039]ないし[0040])
シ.「以下に具体的な実施例について説明する。電解槽1内の電解質として水に対する重量%が約3%の苛性ソーダ(NaOH;水酸化ナトリウム)とし、電解槽1の容量が約4リットル、陰極1aと陽極1bとの間に印加する直流電圧12V、電流5A、このとき水素ガス2と酸素ガス3との混合ガス発生量として0.046リットル/分(酸素ガス3と水素ガス2との体積比率は2:1)、加圧ポンプ4の送液量が9リットル/分、加圧溶解タンク5の容積が10リットル、該加圧溶解タンク5内の圧力が0.4MPa、受水槽7の水として脱気水(溶存酸素約0ppm)を使用し、水温18℃、水量約25リットルを循環水路8内で循環処理した。また、絞り機構6としてバルブの閉止に近い状態で使用した。
・・・
受水槽7内で発生する微細気泡10はデジタルカメラとレンズ系を組み合わせて撮影し、パーソナルコンピュータの画面上で約100倍に拡大し、肉眼で読み取れる範囲の大きさの気泡直径を計測したところ、微細気泡10の直径の平均気泡径が約32μmを得た。
・・・
図1に示す微細気泡発生装置Aで約30分間の循環処理を行ったところ、酸化還元電位が約-150mV、溶存水素率2ppm、溶存酸素率12ppmであった。・・・
・・・
更に、同微細気泡発生装置Aで約45分まで循環処理を延長(約15分延長)したところ、酸化還元電位が約-150mV、溶存水素率3ppm、溶存酸素率15ppmであった。
・・・
循環ポンプ4を止め、受水槽7中の視認できる微細気泡10は数分で消失するが、さらに停止状態で30分放置した後に酸化還元電位を測定したところ、約-100mVであった。このときの溶存水素率は約2ppm、溶存酸素率は約15ppmであった。
・・・
その後、さらに停止状態で約12時間放置したところ、酸化還元電位は約-30mVとなった。このときの溶存水素率は約1ppm、溶存酸素率は約10ppmであった。」(段落[0043]ないし[0048])
ス.「従来から気泡を利用した洗浄が種々提案されているが、空気の気泡が主なもので酸化還元電位としては酸化(プラス)側であった。還元(マイナス)側の酸化還元電位の気泡混じりの水が得られたことから、還元力を必要とする洗浄の場合に効果が大きく、かつ気泡を含むことからより大きな洗浄力が期待される。」(段落[0049])
セ.「前記第1実施形態の電解槽1では、図1に示すように、陰極1aと陽極1bとの間に隔膜1cを設けたが、本実施形態では、図2に示すように、電解質を含む電解槽1において、陰極1aと陽極1bとの間の隔膜1cを除去して該隔膜1cを使用しないで電解槽1内で水を電気分解して発生した水素ガス2と酸素ガス3とを該電解槽1内で直接混合し、その混合ガスを吸引管9を介して循環水路8の加圧ポンプ4の上流側に吸引し、該循環水路8内を循環する水と混合しながら加圧溶解タンク5内に送液するように構成したものである。
・・・
このような構成によれば、電解槽1内で水素ガス2と酸素ガス3とを混合ガスとすることができ、隔膜1cを不要とした上、ガス毎の吸引管9a,9bを別々に設ける必要がなく構成が簡単に出来る。他の構成は前記第1実施形態と同様に構成され、同様の効果を得ることが出来る。」(段落[0051]ないし[0052])

上記の記載事項を、本件考案1に照らして整理すると、甲2には次の甲2考案が記載されている。
なお、甲2考案の認定について当事者間に争いはない。(請求人要領書(2)6.第3.1.(2)、被請求人要領書3頁15行ないし16行)
《甲2考案》
水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽と、
前記発生した水素ガスと酸素ガスと水との混合液を加圧しながら送液する加圧ポンプと、
水に対する前記水素ガスと酸素ガスの溶解度を高める加圧溶解タンクと、
前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構と、
前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽と、
を有する微細気泡発生装置。

(2)甲3の記載事項及び甲3考案
同じく甲3には、以下の事項が記載されている。
ア.「液体を圧送する加圧部と、液体に気体を注入する気体注入部と、気体を注入された液体が加圧部で圧送されることによる加圧で液体に気体を溶解させる加圧溶解部と、加圧溶解部で気体を溶解させた気体溶解液の圧力を、気体溶解液の流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧する減圧部とを備え、加圧部、気体注入部、加圧溶解部の各部を連続的に運転させて、減圧部に気体溶解液を連続的に供給し、減圧部の流出側から気泡の発生のない気体溶解液を連続的に吐出させるようにして成ることを特徴とする気体溶解装置。」([特許請求の範囲][請求項1])
イ.「本発明は、気体を高濃度で溶解した気体溶解液を得るために用いられる気体溶解装置に関するものである。」(段落[0001])
ウ.「酸素、オゾン、二酸化炭素、アルゴン等の気体を水などの液体に高濃度に溶解させた気体溶解液は、各種の分野に利用されている。例えば、環境分野では、池や貯水池等の閉鎖水域の浄化、下水処理、土壌浄化、産業排水浄化などに、農林水産分野では、溶液栽培、農業水、農業廃水処理などに、食品分野では、食品加工水、食品洗浄水、腐敗防止などに、製造産業分野では、部品洗浄などに、家庭用では酸素水として飲料、美容用などに利用されている。」(段落[0002])
エ.「本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、大きなタンクを必要とすることなく効率良く気体を溶解させることができると共に、また異物が混入しても詰まるようなことなく気体溶解液の減圧を行なうことができ、気泡の発生を防止して安定した高濃度の気体溶解液を得ることができる気体溶解装置を提供することを目的とするものである。」(段落[0011])
オ.「この発明によれば、加圧によって液体に気体を溶解させるため、効率良く気体を溶解させることができると共に、加圧溶解部3を容積の大きなタンクで形成するような必要がなく、装置規模を小さくすることが可能になるものである。また気体を溶解した気体溶解液を減圧部4で減圧するため、気体溶解液に気泡が発生することを防止して安定した高濃度の気体溶解液を得ることができ、キャビテーションが生じることを防ぐことができるものである。そしてこの減圧部4は気体溶解液の圧力を流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧するものであるため、細い流路などで形成する必要なく比較的太い流路などで形成することができるものであり、異物が混入しても詰まるようなことなく気体溶解液の減圧を行なうことができるものである。さらにこのような減圧部4を設けることによって、減圧部4を流れる気体溶解液のレイノルズ数が臨界レイノルズ数(Re=2320)より小さなレイノズル数である層流状態だけではなく、臨界レイノルズ数より大きなレイノルズ数である乱流状態でも対応することが可能になるものである。」(段落[0013])
カ.「この気体溶解装置にあって、ポンプで形成される加圧部1を連続運転することによって、気体注入部2、加圧溶解部3を連続的に運転させて、減圧部4に気体溶解液を連続的に供給するようにすることができるものであり、減圧部4の流出側である吐出口31から気泡の発生のない気体溶解液を連続的に吐出させることができるものである。
・・・
また、減圧部4は加圧溶解部3から気体溶解液を送り出す流路6の一部として設けられており、そしてこの減圧部4は気体溶解液の圧力を流入側から流出側に向かって順次大気圧まで減圧するものであるため、減圧部4を例えば内径2?50mm程度の比較的大きい流路として形成することができるものであり、異物が混入しても減圧部4内が詰まるようなことがないものである。さらにこのような構成の減圧部4を設けることによって、減圧部4を流れる気体溶解液のレイノルズ数が臨界レイノルズ数(Re=2320)より小さなレイノズル数である層流状態だけではなく、臨界レイノルズ数より大きなレイノルズ数である乱流状態でも対応することが可能になるものである。
・・・
さらに、減圧部4をこのように内径の大きな流路として形成することによって、気体溶解液の供給量を多くすることができ、減圧部4を一つの流路のみで形成することが可能になるものであり、装置構成を簡単なものに形成することができるものである。」(段落[0052]ないし[0054])

上記の記載事項を、本件考案1に照らして整理すると、甲3には次の甲3考案が記載されている。
《甲3考案》
加圧溶解部から気体溶解液を送り出す流路の一部として設けられた減圧部を備える気体溶解装置であって、減圧部を内径2?50mm程度の流路として形成する気体溶解装置。

(3)甲4の記載事項
同じく甲4には、以下の事項が記載されている。
「本発明において、超純水とは、工業用水、上水、井水、河川水、湖沼水等の原水を凝集沈殿、ろ過、凝集ろ過、活性炭処理等の前処理装置で処理することにより、原水中の粗大な懸濁物質、有機物等を除去し、次いでイオン交換装置、逆浸透膜装置等の脱塩装置を主体とする一次純水製造装置で処理することにより、微粒子、コロイド物質、有機物、金属イオン、陰イオン等の不純物の大部分を除去し・・・残留する微粒子、コロイド物質、有機物、金属イオン、陰イオン等の不純物を可及的に除去した高純度純水を指し・・・
水供給管18より超純水を供給し、流入管8を介して電解装置1に超純水を流入し、ここで水の電気分解を行う。水の電気分解により陰極7側に水素ガスが生じる。陰極室5より流出するのは水素ガスと水との気液混合物であり、この気液混合物は流出管9を経て気液分離器11に流入する。」(段落[0020]?[0022])

(4)甲5の記載事項
同じく甲5には、以下の事項が記載されている。
「従って、浄水がイオン交換樹脂フィルター210を通過する過程で浄水中に含まれていたミネラル成分のうち、カルシウムイオン/マグネシウムイオン/ナトリウムイオンなどの陽イオンはイオン交換樹脂フィルターの陽イオン交換樹脂に捉えられ、浄水中のミネラル成分のうち、硫酸イオン及び塩素イオンなどの陰イオンはイオン交換樹脂フィルター210の陰イオン交換樹脂に捉えられる。・・・
そして、ミネラル成分が除去された蒸溜水は第2水槽50に供給され、内部の電気分解装置60を通過しながら、水素気体と酸素気体が形成される。このような蒸溜水の電気分解過程で、ミネラル成分をなすイオンにより分離膜61/陽極板64/陰極板65などが詰まったり損傷したりすることを効果的に防止できる。」(段落[0043]ないし[0044])

(5)甲6の記載事項
同じく甲6には、以下の事項が記載されている。
ア.「液体を送給する配管と、
この配管の中途部に設けて前記液体を所定の流量で下流側に送給する流量調整部と、
この流量調整部の下流側における前記配管の中途部に設けて前記液体に接する停留した空洞を形成する空洞形成部と、
前記空洞内を加圧または減圧する加減圧部と、
を備え、
前記加減圧部で前記空洞内を減圧した場合に前記液体を脱気し、前記加減圧部で前記空洞内に気体を送給して加圧した場合に前記液体に前記気体を溶解させる脱気・溶解装置であって、
前記空洞形成部には、流路内に設けて前記液体の流通面積を絞る遮蔽体により狭小とした第1の流路と、この第1の流路の流通面積よりも大きい流通面積とした第2の流路と、この第2の流路の流通面積よりは小さく、前記第1の流路の流通面積よりは大きい流通面積とした第3の流路を上流側からこの順で設けて、前記液体の送給にともなって前記第2の流路部分に空洞を形成するとともに、
前記空洞形成部には、前記空洞に連通させた貫通孔を設けて、この貫通孔を介して前記空洞内を加圧または減圧することを特徴とする脱気・溶解装置。」([特許請求の範囲][請求項1])
イ.「・・・例えば液体に空気を溶存させるのであれば単なるダイヤフラムポンプなどのポンプを加圧手段として用いてもよい。」(段落[0084])

(6)甲7の記載事項
同じく甲7には、以下の事項が記載されている。
ア.「この高濃度オゾン水製造装置は、オゾンガス発生部(1)と、オゾンガス発生部(1)で発生したオゾンガスを濃縮するオゾンガス濃縮部(2)と、オゾンガス濃縮部(2)で濃縮した濃縮オゾンガスを所定の圧力まで加圧する濃縮オゾンガス加圧部(3)と、濃縮オゾンガス加圧部(3)で所定圧まで加圧された高圧濃縮オゾンガスを純水中に溶解させるオゾンガス溶解部(4)と、オゾンガス発生部(1)、オゾンガス濃縮部(2)、濃縮オゾンガス加圧部(3)、オゾンガス溶解部(4)での操作を制御する制御部(5)とで構成されている。
・・・
オゾンガス濃縮部(2)と濃縮オゾン供給路(11)で連通接続されている濃縮オゾンガス加圧部(3)は、ステンレス鋼製の昇圧ポンプ(12)を有しており・・・」(段落[0021]ないし[0024])
イ.「昇圧ポンプ(12)としては、加圧圧縮時での油分影響をなくすために、ダイヤフラムポンプが好ましく、ダイヤフラム膜をフッ素樹脂やステンレス鋼で形成したものがより好ましい。」(段落[0025])

(7)甲8の記載事項
同じく甲8には、以下の事項が記載されている。
「図中(1)は圧力タンクであり、下方に液体供給ライン(2)を配設し、これを介してガスを吸収すべき液体(3)を仕込む。連続してガスを高濃度に溶存する液を得るために圧力タンクは2個ないしそれ以上配置する。」(2頁左上欄3行ないし7行)

(8)甲9の記載事項
同じく甲9には、以下の事項が記載されている。
「請求項2の発明は、渦流ポンプ1の吐出側に、オゾンガスが水に溶解するのに必要とする時間は加圧状態で滞留させるとともにその圧力を高圧から段階的に漸減させる複数の加圧溶解漕7,8を設けたものである。」(2頁右上欄4行ないし8行)


2.本件考案1について
(1)本件考案1と甲2考案との対比
甲2考案の「水素ガスと酸素ガス」と本件考案1の「(水素である)「気体」」とは、「気体」という限りにおいて一致する。
甲2考案の「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽」と本件考案1の「(水素発生機構である)「気体を発生する気体発生機構」」とは、「気体を発生する気体発生機構」という限りにおいて一致する。
甲2考案の「加圧ポンプ」は、「水素ガスと酸素ガスと水との混合液を加圧しながら送液する」ものであるから、送液される混合液では、水素ガスと酸素ガスとが水に溶解されていると解される。
ゆえに、甲2考案の「前記発生した水素ガスと酸素ガスと水との混合液を加圧しながら送液する加圧ポンプ」と本件考案1の「(水素ガスである)前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構」とは、「前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構」という限りにおいて一致する。
甲2の記載(特に、上記1.(1)キ.及びク.を参照)からみて、甲2考案の「加圧溶解タンク」の内部に存在する「圧力水」は、水素ガス2と酸素ガス3とが溶解したものである。
ゆえに、甲2考案の「水に対する前記水素ガスと酸素ガスの溶解度を高める加圧溶解タンク」と、本件考案1の「(水素である)前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構」とは、「前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構」という限りにおいて一致する。
甲2考案の「絞り機構」は、「水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水」を「減圧」、すなわち、「降圧」するものである。
ゆえに、甲2考案の「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」と、本件考案1の「前記液体が(その内径が、1.0mmより大きく5.0mm以下である)細管を流れることで降圧する降圧機構」とは、「前記液体を降圧する降圧機構」という限りにおいて一致する。
そして、甲2考案の「微細気泡発生装置」と、本件考案1の「気体溶解装置」は、いずれも「装置」といえるものである。
してみると、本件考案1と甲2考案との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
気体を発生する気体発生機構と、
前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構と、
前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構と、
前記液体を降圧する降圧機構と、を有する、
装置。

《相違点1》
「気体」、「気体発生機構」、「装置」が、本件考案1では、「水素ガス」、「水素発生機構」、「気体溶解装置」であるのに対し、甲2考案では、「水素ガスと酸素ガス」、「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽」、「微細気泡発生装置」であって、「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を有する点。
《相違点2》
「降圧機構」が、本件考案1では、「前記液体が細管を流れることで降圧する降圧機構」であって、「前記細管の内径が、1.0mmより大きく5.0mm以下」であるのに対し、甲2考案では、「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」である点。

なお、本件考案1と甲2考案との対比、一致点、相違点の認定について当事者間に争いはない。(調書 請求人欄2、被請求人要領書3頁15行ないし16行)

(2)本件考案1と甲2考案との相違点の検討
《相違点1》 について
刊行物に記載された考案の認定は、(i)何に関するものであるか、(ii)解決すべき技術的課題は何か、(iii)その技術的課題を解決する構成は何か、(iv)その構成によりどのような作用効果が奏されるかといったことを、当該刊行物全体に記載された事項に基づき理解し、行われるべきものである。
甲2には、上記1.(1)ア?スに摘記したように、「水素ガスと酸素ガス」を用いた「微細気泡発生装置」に関する技術が一貫して説明されている。
すなわち、甲2には、(i)水素ガスおよび酸素ガスを含有した微細気泡発生方法、微細気泡発生装置およびそれにより製造される還元水に関するものであり(上記1.(1)イを参照)、(ii)従来の水素還元水の製法においては、電気分解による場合には得られるガスのうち水素ガスのみを使用する方法であるために分離が必要であったこと、液中に高濃度の水素を溶解させることを主眼にしているため、気泡を積極的に発生させ利用するものではなかったこと(上記1.(1)ウを参照)を踏まえ、電気分解により発生した酸素ガスおよび水素ガスを混合使用し、微細気泡を発生させガスの溶解を促進させるとともに、発生ガスの微細気泡をそのまま利用することで、微細気泡の持つ浮上促進や気液洗浄効果を引き出すことを解決すべき技術的課題としたものであること(上記1.(1)エを参照)が記載されている。
また、甲2には、(iii)甲2考案の構成(上記1.(1)の《甲2考案》を参照)により、(iv)水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させ、該発生した水素ガスと酸素ガスとを吸引して水と混合しながら加圧ポンプで加圧溶解タンクに送液し、該加圧溶解タンク内で加圧して水に対する水素ガスと酸素ガスとの溶解度を高めた後、水素ガスと酸素ガスとが溶解した圧力水を絞り機構を通して急減圧した後、加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の容器となる受水槽において大気圧力に開放することで、受水槽内の水に水素ガスと酸素ガスとが混合した微細気泡を発生させることができること(上記1.(1)サを参照)、還元(マイナス)側の酸化還元電位の気泡混じりの水が得られたことから、還元力を必要とする洗浄の場合に効果が大きく、かつ気泡を含むことからより大きな洗浄力が期待されること(上記1.(1)スを参照)が記載されている。
してみると、甲2考案において、「水素ガスと酸素ガス」、「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽」、「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」、「微細気泡発生装置」は、いずれも上記技術的課題を解決するための必須の構成要件であることが明らかである。
他方、本件考案1は、「気体を過飽和の状態で液体に溶解させ、かかる過飽和の状態を安定に維持でき、さらにウォーターサーバー等へ容易に取付けることができる気体溶解装置を提供すること」を解決すべき技術的課題とし(本件の明細書の段落[0015]を参照)、本件考案1の構成(第3.の《本件考案1》を参照)により、これを解決したものであり、甲2考案とは、解決すべき技術的課題が異なるとともに、その構成も、上記2.(1)に掲げた《相違点1》、《相違点2》で異なるものである。
そして、甲2考案における「水素ガスと酸素ガス」、「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽」を、「水素ガス」、「水素発生機構」に置換し、さらに、「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を省略して、甲2考案の「微細気泡発生装置」を「気体溶解装置」とするべき動機付けを、甲2、甲3や甲4?甲9からは見いだせない。
しかも、上記「置換」し、「省略」することは、上記技術的課題を解決できなくなることを意味するから、上記「置換」し、「省略」することには、阻害要因があるというべきである。
したがって、甲2考案における「水素ガスと酸素ガス」、「水を電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させる電解槽」を、「水素ガス」、「水素発生機構」に置換し、さらに、「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を省略することにより、甲2考案の「微細気泡発生装置」を「気体溶解装置」とすることは、当業者がきわめて容易になし得たこととはいえない。

請求人は、上記「置換」し、「省略」することがきわめて容易といえることについて、上記第4.1.(3)アに示した種々の主張をなしている。
しかしながら、上記第4.1.(3)ア(ア)dについて、請求人は、「甲2考案から、微細気泡発生装置として機能するための要件である「前記加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を除外して、甲2考案の「気体を発生する気体発生機構」と、「前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構」と、「前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構」と、「前記液体を降圧する降圧機構」とを備えた「装置」の部分のみを取り出す」ことができる具体的理由を述べていない。
また、上記第4.1.(3)ア(イ)bについて、仮に「水素を水に溶解させた水素水が周知である」としても、請求人は、上記阻害要因があるにもかかわらず、「水素ガスと酸素ガス」を「水素ガス」に「置換」すべき動機付けがあることを説明していない。
さらに、上記第4.1.(3)ア(イ)c、d及び(ウ)cについて、仮に「当業者であれば水素水に関する文献を調査し甲2に接し、甲2に接すれば、加圧溶解部分に注目するのが自然だから」としても、請求人は、「目的、効果は無関係である」とする具体的理由を述べていない。
そして、上記第4.1.(3)ア(ウ)a及びbについて、請求人も述べているとおり、本件考案1は、ウォーターサーバー100や、細管5がウォーターサーバー100に収容された水の内部に延びていることを要件としてはいないところ、本件考案1の実施例と甲2考案との同一性、類似性を検討したとしても、甲2考案から「加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」を省略できる理由にはならない。
しかも、本件考案の明細書には、ウォーターサーバー100が微細気泡を発生させる場所であるとは一切説明されておらず、本件の[図2]に泡らしきものが記載されているからといって、ウォーターサーバー100と甲2考案の「加圧溶解タンク内の圧力よりも低圧の受水槽」とが同じ機能を有するものと考えることは不適切であるから、本件考案1の実施例と甲2考案とは同一であるともいえない。
したがって、上記第4.1.(3)アに示した請求人の主張のいずれからも《相違点1》の判断を覆すに足る根拠をみいだせない。

《相違点2》について
甲2考案における「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」は、水素ガスならびに酸素ガスの微細気泡を発生させるために、加圧溶解タンク内で加圧溶解したものを急減圧する機能を有するものであり(上記1.(1)オ、ク、ケ、サを参照)、上記「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」も、甲2考案の上記技術的課題を解決するための必須の構成要件であることが明らかである。
一方、甲3考案における「減圧部」の機能について、甲3には、「気体溶解液に気泡が発生することを防止して安定した高濃度の気体溶解液を得ることができ、キャビテーションが生じることを防ぐことができるものである。」(上記1.(2)オを参照)と説明されている。
このように、甲2考案における「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」と、甲3考案における「減圧部」とは、その機能が明らかに異なっており、また、甲2考案の「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」を甲3考案の「減圧部」に置換するべき動機付けを、甲2、甲3や甲4?甲9から見いだすことができない。
しかも、上記「置換」することは、上記技術的課題を解決できなくなることを意味するから、上記「置換」することには、阻害要因があるというべきである。
したがって、甲2考案の「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」を甲3考案の「減圧部」に置換することは、当業者がきわめて容易になし得たこととはいえない。

請求人は、上記「置換」することがきわめて容易といえることについて、上記第4.1.(3)ア(エ)に示した種々の主張をなしている。
しかしながら、上記第4.1.(3)ア(エ)aについて、請求人は、「受水槽7に接続する管として、内径が1.0mmより大きく5.0mm以下の細管を選択」するべき動機付け等の具体的理由を述べていない。
また、上記第4.1.(3)ア(エ)bについて、甲2考案と甲3考案とが同じ技術分野に属するものであり、本件考案1の降圧機構の細管の内径と甲3考案の減圧部4の細管の内径とが2ないし5mmの範囲で重複するものであるとしても、これらのことは、上記阻害要因があるにもかかわらず、甲2考案の「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」を甲3考案の「減圧部」に置換すべき動機付けにはならない。
さらに、上記第4.1.(3)ア(エ)cついて、甲2考案の「前記水素ガスと酸素ガスが溶解した圧力水を減圧する絞り機構」と、甲3考案における「減圧部」とは、上記したように、その機能が明らかに異なっているから、いずれも減圧手段という点で共通していることを理由に、置換可能であるとはいえない。
したがって、上記第4.1.(3)ア(エ)に示した請求人の主張のいずれからも《相違点2》の判断を覆すに足る根拠をみいだせない。

(3)小活
以上述べてきたとおり、本件考案1は、甲2考案、甲3考案に基づき、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえず、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものとすることはできない。

3.本件考案2ないし8について
本件考案2ないし8は、いずれも直接又は間接的に本件考案1を引用して考案を特定しており、上記相違点に係る本件考案1の構成を備えている。
したがって、本件考案2ないし8は、上記2.(2)で述べたことと同様の理由により、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえず、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものとすることはできない。

第6.むすび
以上のとおり、本件考案1ないし8は、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては無効とすることはできないから、本件考案1ないし8についての審判の請求は成り立たない。
審判費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-04-05 
結審通知日 2016-04-07 
審決日 2016-04-20 
出願番号 実願2014-1248(U2014-1248) 
審決分類 U 1 114・ 121- Y (B01F)
最終処分 不成立    
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 井上 茂夫
渡邊 豊英
登録日 2014-04-30 
登録番号 実用新案登録第3190824号(U3190824) 
考案の名称 気体溶解装置  
復代理人 牧 哲郎  
代理人 細矢 眞史  
代理人 特許業務法人むつきパートナーズ  
復代理人 大石 皓一  

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