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審決分類 審判    A61H
管理番号 1359614
審判番号 無効2017-400003  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2020-02-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第3149092号実用新案「振動器」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件実用新案登録第3149092号は、平成20年12月25日に出願された実願2008-9069号に係り、平成21年2月18日にその請求項1ないし3に係る考案について実用新案権の設定登録がなされた。
そしてその後、請求人アルインコ株式会社から本件無効審判が請求されたものである。本件無効審判請求以後の経緯は以下のとおりである。

平成29年 9月28日 審判請求書の提出
(無効2017-400003号)
平成29年12月21日 答弁書の提出
平成30年 1月31日付け 審理事項通知書
平成30年 3月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成30年 3月 9日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成30年 3月13日付け 審理事項通知書(2)
平成30年 3月23日 口頭審理陳述要領書(2)の提出
(被請求人より)
平成30年 3月23日 第1回口頭審理
平成30年 4月 6日 上申書の提出(被請求人より)
平成30年 4月 9日 上申書の提出(請求人より)

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、実用新案法の条文を使用する際に「実用新案法」という表記を省略することがある。

第2 本件登録実用新案
本件登録実用新案は、本件実用新案登録の願書に添付した実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本件登録考案1」などという。また、これらをまとめて単に「本件考案」ということがある。)
なお、「A:」等の構成要件の分説は、請求人の審判請求書(以下、単に「請求書」ということがある。)によるものであるが、妥当と認められるのでこれに準じた。

「【請求項1】
A: 支持面に設置するための底座体と、上面に手足を置くための上板とを備え、該上板の下面の中央部に幅方向に沿って中心軸が配設され、該中心軸は、前記底座体の上面中央部の両側に設置された第一8字形リンクロッドと第二8字形リンクロッドにより支持され、
B:前記底座体の前部に回動自在に設置された第一駆動ホイールが第一モータに連結され、前記第一駆動ホイールに第一偏心軸の入力端部が固定されると共に、前記第一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して前記上板の前部に連結され、
C:前記底座体の後部に回動自在に設置された第二駆動ホイールが第二モータに連結され、第二駆動ホイールに第二偏心軸の入力端部が固定されると共に、第二偏心軸の出力端部はリンクロッドを介して前記中心軸に連結された
D:ことを特徴とする、振動器。
【請求項2】
前記上板の上面に脚載せパッドまたは手載せパッドを設置したことを特徴とする、請求項1に記載の振動器。
【請求項3】
前記上板1の周縁から下方向に延びるカバーを設け、該カバーにより前記上板より下方の部材を遮蔽してあることを特徴とする、請求項1に記載の振動器。」

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人の主張する請求の趣旨は、本件登録考案1ないし3に係る考案についての実用新案登録を無効とする、との審決を求めるものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証 本件第3149092号実用新案登録原簿謄本の写し
(以下、写しである旨の表記は省略する)
甲第2号証 本件の登録実用新案第3149092号公報
甲第3号証 工業所有権情報・研修館J-Plat Patにおける本件経過情報の
出願情報)
なお、以下において、甲第1号証などを単に甲1などということがある。

(1)証拠方法の提出時期
上記甲1ないし甲3は、いずれも請求書に添付されたものである。
(2)証拠の成立性等
上記甲1ないし甲3の証拠の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「被請求人」欄2)。

3 請求の理由の要点
請求の理由は、請求書の記載及びその後の口頭審理陳述要領書等請求人の主張の全趣旨を踏まえ、その要点は以下のとおりである。
(無効理由1)
本件登録考案1は、板の上下振動と左右振動を行わせる振動器の考案であるにもかかわらず、請求項1には、上下と左右の「振動方向」を特定する記載がない。従って、請求項1の記載は、考案の詳細な説明に記載されていない考案までも包含しており、実用新案法第5条第6項第1号及び第2号の規定に違反し、本件登録考案1に係る登録は、同法37条第1項第4号の規定に該当して無効とすべきものである。

(無効理由2)
本件登録考案1は、考案の課題を解決することができない技術的構成が含まれており、実用新案法第5条第6項第1号及び第2号の規定に違反し、本件登録考案1に係る登録は、同法37条第1項第4号の規定に該当して無効とすべきものである。

(無効理由3)
従属形式請求項に係る本件登録考案2及び3は、本件登録考案1の記載不備をそのまま含んでおり、実用新案法第5条第6項第1号及び第2号の規定に違反し、本件登録考案2及び3に係る登録は、同法37条第1項第4号の規定に該当して無効とすべきものである。

4 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)主に無効理由1について
(ア)本件考案は、上下振動と左右振動のうち、単一方向の振動と複数方向の振動を可能にすることに考案の課題と考案の作用効果があるにもかかわらず、請求項1には末尾に「振動器」と記載されているだけで、それ以外に「振動」の文字は全く記載されていないのであり、振動の発生手段を特定する事項も、振動の方向を特定する事項も、一切記載されておらず、全く不明瞭かつ不明確である。(請求書第7ページ上段付近)

(イ)本件考案は、例えば「前記第一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して前記上板の前部を上下動させるように連結され」のように記載されるべきであり、その記載方法の如何に関わらず、少なくとも、「上下動」に関する技術的構成が記載されていなければならず、これが考案を特定するために必要不可欠な特定事項である。(請求人口頭審理陳述要領書第2ページ下段付近)

(ウ)本件考案は、例えば「第二偏心軸の出力端部はリンクロッドを介して前記中心軸を前後動させるように連結され」のように記載されるべきであり、その記載方法の如何に関わらず、少なくとも、「前後動」に関する技術的構成が記載されていなければならず、これが考案を特定するために必要不可欠な特定事項である。(請求人口頭審理陳述要領書第3ページ下段付近)

(2)主に無効理由2について
(ア)請求項1には、全文を通じて、第三8字形リンクロッドにより上板を上下振動させるものであることは全く記載されていない。このため、構成要件Bにおける「前記第一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して前記上板の前部に連結され」の記載には、例えば、下図の【図1A】に示す技術的構成と【図1B】に示す技術的構成の両方が包含されている。つまり、下図に示す2つの技術的構成は、何れも、構成要件Bに記載されているとおりの「第一偏心軸の出力端部は第三8字形リンクロッドを介して上板の前部に連結されている」ものに外ならない。

図示のように、仮に、【図1A】に示す技術的構成のものであれば上板を上下振動させることが可能であるが、【図1B】に示す技術的構成のものは、上板を上下振動させることが不可能である。
そうすると、本件考案が本件実用新案登録の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された考案の課題を解決し、考案の作用効果を奏するためには、【図1A】に示すような技術的構成でなければならず、【図1B】に示す技術的構成であってはならないところ、請求項1の構成要件Bの記載は、両方を含んでおり、【図1A】に示すような技術的構成であることを特定するための事項が全く記載されていないのであるから、結局、考案が不明確であり、実用新案法第5条第6項第2号に規定された明確性の要件を欠如している。
そして、請求項1の構成要件Bに含まれている【図1B】に示す技術的構成は、当然のことながら、考案の詳細な説明には記載されていないものであるから、結局、請求項1に記載された考案は、本件明細書によってサポートされていないのであり、同法同条同項第1号に規定されたサポート要件を欠如している(請求書第7ページ末行?第9ページ上段付近)。

(イ)構成要件Cの記載は「前記底座体の後部に回動自在に設置された第二駆動ホイールが第二モータに連結され、第二駆動ホイールに第二偏心軸の入力端部が固定されると共に、第二偏心軸の出力端部はリンクロッドを介して前記中心軸に連結された」である。そして、請求項1には、全文を通じて、リンクロッドにより上板を左右振動させるものであることは全く記載されていない。このため、構成要件Cにおける「第二偏心軸の出力端部はリンクロッドを介して前記中心軸に連結された」の記載には、例えば、下図の【図2A】に示す技術的構成と【図2B】に示す技術的構成の両方が包含されている。つまり、下図に示す2つの技術的構成は、何れも、構成要件Cに記載されている通りの「第二偏心軸の出力端部はリンクロッドを介して中心軸に連結された」ものに外ならない。

図示のように、仮に、【図2A】に示す技術的構成のものであれば上板を左右振動させることが可能であるが、【図2B】に示す技術的構成のものは、上板を左右振動させることが不可能である。
そうすると、本件考案が本件明細書に記載された考案の課題を解決し、考案の作用効果を奏するためには、【図2A】に示すような技術的構成でなければならず、【図2B】に示す技術的構成であってはならないところ、請求項1の構成要件Cの記載は、両方を含んでおり、【図2A】に示すような技術的構成であることを特定するための事項が全く記載されていないのであるから、結局、考案が不明確であり、実用新案法第5条第6項第2号に規定された明確性の要件を欠如している。
そして、請求項1の構成要件Cに含まれている【図2B】に示す技術的構は、当然のことながら、考案の詳細な説明には記載されていないものであるから、結局、請求項1に記載された考案は、本件明細書によってサポートされていないのであり、同法同条同項第1号に規定されたサポート要件を欠如している。(請求書第9ページ上段付近?第10ページ中段付近)

(ウ)審判請求書に記載した請求人の主張を補充すると、上述のように、構成要件Bは、【図1A】と【図1B】の両方の構成を含み、構成要件Cは、【図2A】と【図2B】の両方の構成を含んでいるから、請求項1の記載には、以下に示す【図3】のような振動器や、【図4】のような振動器が含まれている。
【図3】は、構成要件Bを【図1A】、構成要件Cを【図2B】に基づいて構成した振動器を示している。上図のように、第一偏心軸が上板の前部を下動したとき第二偏心軸が中心軸のアームを上動させ、反対に、下図のように、第一偏心軸が上板の前部を上動したとき第二偏心軸が中心軸のアームを下動させる。従って、2個のモータを同時に駆動することにより、上板の上下振動を行うが、前後振動は行うことができない。

【図4】は、構成要件Bを【図1B】、構成要件Cを【図2A】に基づいて構成した振動器を示している。上図のように、第一偏心軸が上板の前部を図示左方向に移動したとき第二偏心軸が中心軸のアームを同方向に移動させ、反対に、下図のように、第一偏心軸が上板の前部を図示右方向に移動したとき第二偏心軸が中心軸のアームを同方向に移動させ、2個のモータを同時に駆動することにより、上板の前後振動を行うが、上下振動は行うことができない。(請求人口頭審理陳述要領書第4ページ上段付近?第5ページ上段付近)


(エ)最高裁判例(リパーゼ事件、最高裁平成3年3月8日判決)は、拒絶査定不服審判の審決取消事件における発明の新規性進歩性を審理するための前提条件とされる発明の要旨認定に関する事案であるが、実用新案の登録要件である登録請求の範囲の記載要件(第5条第6項第1号及び第2号)に関する本件無効審判においても、何ら異なるところはなく、「請求の範囲の記載を越えて、考案の詳細な説明や図面にだけ記載されたところの構成要素を付加してはならないとの理論」が適用されるべきことは言うまでもない。(請求書第6ページ下段付近?第7ページ上段付近)

第4 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対して、被請求人は、請求人主張の各無効理由はいずれも理由がなく、本件審判の請求は成り立たないとの審決を求め、証拠方法として乙第1号証?乙第4号証を提出している。

乙第1号証 「ウィキペディア『クランク(機械要素)』」の写し
(以下、写しである旨の表記は省略する)
乙第2号証 「基礎から学ぶ機構学」(株式会社オーム社 鈴木健司、
森田寿郎著 平成22年12月24日 第1版第8刷発行)
乙第3号証 平成20年(行ケ)第10107号審決取消請求事件判決文
乙第4号証 本件実用新案登録【図1】【図2】及び請求人提出図面
【図3】【図4】の説明図面
なお、上記証拠方法の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「請求人」欄2)。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(ア)リパーゼ最高裁判決、平成20年高裁判決(知財高裁平成20年(行ケ)第10107号)、及び「特許審査基準2.2.2 第36条第6項第2号(3)」に基づけば、本件実用新案登録の請求項の記載を理解する場合には、実用新案登録請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、実用新案登録請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。(答弁書第11ページ中段付近)

(イ)本来、【図1B】、【図2B】に示す「上下振動を発生させない技術的構成」は、「複数方向の振動を発生させる振動器を提供する」という本件登録実用新案の課題(【0003】)を逸脱しており、技術的常識を考慮した場合、【図1B】、【図2B】の技術的構成は本件実用新案登録に係る考案の範囲外の事態である。また、課題と共に考案を構成する要素である効果を参照した場合、【0006】において、「上下振動を発生させる」点は明確に記載されている。その結果、請求項1の構成要件Bは「上下方向の振動を発生させる構成」として理解されるべきである。
従って、上下振動を発生させるためには、当然に【図1A】、【図2A】に示す技術的構成であることが技術常識からして前提であり、特に、【図1A】、【図2A】に示す技術的構成であることを特定するための事項を請求項に記載する必要性はない。その結果、当然のことながら【図1B】、【図2B】のような「上下振動を発生させない技術的構成」は請求項1記載の考案の構成要件Bには含まれていない。(答弁書13ページ下段付近、答弁書17ページ下段付近)

第5 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1及び無効理由2について
無効理由1及び無効理由2は、密接に関連することから併せて検討することとする。
(1)判断基準
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)10042号参照。)
この判断基準は、実用新案法第5条第6項第1号のサポート要件の判断基準にも当然あてはまる。

明確性要件の判断について
特許法36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。(例えば、知財高裁平成20年(行ケ)第10107号、同平成29年(行ケ)第10138号等参照。)
このことは、実用新案法第5条6項2号明確性要件の判断にも当然あてはまる。

(2)本件登録考案1におけるサポート要件(実用新案法第5条第6項第1号)について
ア 本件考案の課題
本件考案の課題に関連する本件明細書の考案の詳細な説明の記載として以下のものがある。
「【背景技術】
【0002】
美容健康用の振動器は、非常に人気のある運動器械または健康器械の1つであって、人体手足の振動を通して全身を振動させ、人体の疲労を緩和したり、経脈を通じさせたり、美容に利用したりする。・・・
・・・しかしながら、市販されている美容装置は往々にして上下振動や左右振動(前後振動)など単一方向の振動しか発生せず、多様な美容上のニーズを満たすことはできない。」
「【考案が解決しようとする課題】
【0003】
本考案が解決しようとする課題は、複数方向の振動を発生させ、様々なニーズに応じた美容効果を達することができる振動器を提供することにある。」
これらの記載に鑑みれば、本件考案の課題は、“上下振動や左右振動(前後振動)など単一方向の振動のみならず、複数方向の振動を発生させることができる振動器を提供すること”であると解される。

イ 本件明細書及び図面の記載
本件明細書及び図面には、図1及び図2とともに、本件登録考案1の特に構成要件B及び構成要件Cに関連する次の記載がある。

「【0010】
本考案の振動器は、以下三種類の異なる振動を発生させることができる。
(1)上下振動:第一モータ91を作動させて、第二モータ92を停止させる。すると、第一モータ91が第一ドライブベルト11を動かして第一駆動ホイール61を回転させ、第一駆動ホイール61がこれに固定された第一偏心軸71を回転させ、第一偏心軸71が回転時に第三8字形リンクロッド83を動かす。
第三8字形リンクロッド83は上板1の下面前部に連結されており、上板1の下面中央部に設けた中心軸2は、停止した第二偏心軸72に連結されたリンクロッド3により、前後の移動が牽制されるため、第三8字形リンクロッド83によって上板1には上下方向の振動が発生する。」
「【0011】
(2)前後振動:第二モータ92を作動させて、第一モータ91を停止させる。すると、第二モータ92が第二ドライブベルト12を動かして第二駆動ホイール62を回転させ、第二駆動ホイール62がこれに固定された第二偏心軸72を回転させ、第二偏心軸72が回転時にリンクロッド3を動かす。
リンクロッド3は上板1に設けた中心軸2に連結されており、上板1は、停止した第一偏心軸71に連結された第三8字形リンクロッド83により上下の移動が牽制されるため、上板1には前後方向の振動が発生する。」
「【0012】
(3)上下、前後に往復する弧形運動:第一モータ91と第二モータ92を同時に作動させることにより、第一偏心軸71及び第二偏心軸72をそれぞれ回転させ、上板1を上下方向と前後方向に同時に移動させて、両者を複合した弧形の振動を発生させることができる。・・・」


ウ 本件実用新案登録請求の範囲の記載
そして、上記イで指摘した明細書及び図面に記載の機構学的な作用を実現するために必要な機械要素として、実用新案登録請求の範囲の請求項1には、「底座体」、「上板」、「中心軸」、「第一8字形リンクロッド」、「第二8字形リンクロッド」、「第一駆動ホイール」、「第一モータ」、「第一偏心軸」、「第一偏心軸の入力端部」、「第一偏心軸の出力端部」、「第三8字形リンクロッド」、「第二駆動ホイール」、「第二モータ」、「第二偏心軸の入力端部」、「第二偏心軸の出力端部」、「リンクロッド」及び「振動器」が記載されており、各機械要素の接続連結関係又は固定関係等も記載されている。

エ アないしウのまとめ
(ア)上記イにて指摘した本件明細書及び図面の記載によれば、当業者は、機構学上の技術常識に照らし、上記ウにて指摘した実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載によって、本件考案の振動器が、単一方向の振動のみならず、上下振動及び左右振動の複数方向の振動を発生させることができることを理解できるものと認められる。
よって、当業者は、考案の詳細な説明の記載に基づき、本件登録考案1に係る請求項1に記載のとおりの各機械要素の接続連結関係又は固定関係によって、上記アにて指摘した本件考案の課題を解決できると認識することができるといえる。
(イ)また、実用新案登録請求の範囲の請求項1に列挙された「底座体」等の各機械要素とその接続連結関係又は固定関係が考案の詳細な説明又は図面に記載されているものであることは明らかである。

オ 請求人の主張について
請求人は、サポート要件(第5条第6項第1号)違反に関し、上記第3の4にて指摘したように、特に、(i)本件登録考案1は、「上下動」に関する技術的構成が特定されていない(すなわち、「上下動させるように連結され」などと記載すべきである。)、(ii)本件登録考案1は、「前後動」に関する技術的構成が特定されていない、(すなわち、「前後動させるように連結され」などと記載すべきである。)、(iii)本件登録考案1には、上板を上下振動させることが不可能な請求書記載の【図1B】の技術的構成が含まれてしまう、(iv)本件登録考案1には、上板を左右(前後)振動させることが不可能な請求書記載の【図2B】の技術的構成が含まれてしまう、と主張しているところ、これらにつき検討する。

(ア)主張(i)及び(iii)について
請求人の主張(i)と(iii)とは関連しており、要は、本件登録考案1は、「上下動」に関する技術的構成を特定すべきであるのに特定していないので、【図1B】の技術的構成が含まれてしまう、ということである。
これにつき検討するに、まず、実用新案登録請求の範囲の文言を形式的に捉えて、文言解釈上含み得る構成が考案の詳細な説明に記載されていなければ直ちにサポート要件違反となるものではなく、考案の課題にも照らして、技術常識上考え難い構成は、文言上形式的に請求の範囲に入り得るとしても、サポート要件の検討対象としないと解すべきである。
これを本件登録考案1についてみると、請求人の指摘する【図1B】の技術的構成は、実用的な振動器の構造としてあまりに不自然であり、「上下振動」(を含む)「複数方向の振動を発生させる」という本件考案の課題(上記ア)に照らせば、技術常識上当然に本件登録考案1に含まれないと解すべきものである。
また、本件考案の課題は、当業者は、考案の詳細な説明の記載に基づき、本件登録考案1に係る請求項1に記載のとおりの各機械要素の接続連結関係又は固定関係によって、上記アにて指摘した本件考案の課題を解決できると認識することができることは上記エにて説示したとおりであり、請求人の主張(i)のように「上下動させるように連結され」などと記載すべきとまではいえない。
よって、請求人の上記主張(i)及び(iii)は採用することができない。

(イ)主張(ii)及び(iv)について
請求人の主張(ii)と(iv)とは関連しており、要は、本件登録考案1は、「前後動」に関する技術的構成を特定すべきであるのに特定していないので、【図2B】の技術的構成が含まれてしまう、ということである。
これにつき検討するに、請求人の指摘する【図2B】の技術的構成は、実用的な振動器の構造としてあまりに不自然であり、「左右振動」(を含む)「複数方向の振動を発生させる」という本件考案の課題(上記ア)に照らせば、技術常識上当然に本件登録考案1に含まれないと解すべきものである。
また、当業者は、考案の詳細な説明の記載に基づき、本件登録考案1に係る請求項1に記載のとおりの各機械要素の接続連結関係又は固定関係によって、上記アにて指摘した本件考案の課題を解決できると認識することができることは上記エにて説示したとおりであり、請求人の主張(ii)のように「前後動させるように連結され」などと記載すべきとまではいえない。
よって、請求人の上記主張(ii)及び(iv)も採用することができない。

カ 小括
以上によれば、本件請求項1の記載は、実用新案法第5条第6項第1号に規定されたサポート要件に違反するものではない。

(3)本件登録考案1における明確性要件(実用新案法第5条第6項第2号)について

ア 請求人の主張について
請求人は、明確性要件(第5条第6項第2号)違反に関し、上記第3の4にて指摘したように、特に、(i)本件登録考案1は、「上下動」に関する技術的構成が特定されていない(すなわち、「上下動させるように連結され」などと記載すべきである。)、(ii)本件登録考案1は、「前後動」に関する技術的構成が特定されていない、(すなわち、「前後動させるように連結され」などと記載すべきである。)、(iii)本件登録考案1には、【図1A】に示すような技術的構成であることを特定するための事項が全く記載されていないため、上板を上下振動させることが不可能な請求書記載の【図1B】の技術的構成が含まれてしまう、(iv)本件登録考案1には、【図2A】に示すような技術的構成であることを特定するための事項が全く記載されていないため、上板を左右(前後)振動させることが不可能な請求書記載の【図2B】の技術的構成が含まれてしまう、と主張しているところ、これらにつき検討する。

(ア)主張(i)及び(iii)について
請求人の主張(i)と(iii)とは関連しており、要は、本件登録考案1は、「上下動」に関する技術的構成を特定すべきであるのに特定していないので、【図1B】の技術的構成が含まれてしまい不明確になる、ということである。
これにつき検討するに、まず、実用新案登録請求の範囲の文言を形式的に捉えて、文言解釈上含み得る構成があり、それが実現不可能な構成であれば直ちに明確性要件違反となるものではなく、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として実用新案登録請求の範囲の文言を合理的に解釈して、技術常識上考え難い構成は実質的には請求の範囲外のものと解すべきである。 これを本件登録考案1についてみると、請求人の指摘する【図1B】の技術的構成は、実用的な振動器の構造としてあまりに不自然であり、当業者の技術常識からして本件登録考案1に含まれないと解すべきものである。
また、請求人の主張(i)のように「上下動させるように連結され」などと記載せずとも、技術的常識を基礎とすれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
よって、請求人の上記主張(i)及び(iii)は採用することができない。

(イ)主張(ii)及び(iv)について
請求人の主張(ii)と(iv)とは関連しており、要は、本件登録考案1は、「前後動」に関する技術的構成を特定すべきであるのに特定していないので、【図2B】の技術的構成が含まれてしまい不明確になる、ということである。
これにつき検討するに、請求人の指摘する【図2B】の技術的構成は、実用的な振動器の構造としてあまりに不自然であり、当業者の技術常識からして本件登録考案1に含まれないと解すべきものである。
また、請求人の主張(ii)のように「前後動させるように連結され」などと記載せずとも、技術的常識を基礎とすれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
よって、請求人の上記主張(ii)及び(iv)も採用することができない。

イ 以上によれば、本件請求項1の記載は、実用新案法第5条第6項第2号に規定された明確性要件に違反するものではない。

(4)小括
よって、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2には理由がない。

2 無効理由3について
本件登録考案2及び3は、いずれも本件登録考案1を直接引用するものであるところ、本件登録考案1が、本件考案の課題を解決できると認識することができるものであり、また、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないことは、上記1で検討したとおりである。そして請求人は、本件登録考案2及び3については、その引用する本件登録考案1がサポート要件違反及び不明確であるとの理由以外を主張していない。
よって、本件請求項2及び3の記載も実用新案法第5条第6項第1号に規定されたサポート要件に違反するものではなく、実用新案法第5条第6項第2号に規定された明確性要件に違反するものでもないから、無効理由3にも理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件登録考案1ないし3についての実用新案登録を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、実用新案法第41条において準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2018-05-02 
結審通知日 2018-05-08 
審決日 2018-05-22 
出願番号 実願2008-9069(U2008-9069) 
審決分類 U 1 114・ 537- Y (A61H)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 長屋 陽二郎
関谷 一夫
登録日 2009-02-18 
登録番号 実用新案登録第3149092号(U3149092) 
考案の名称 振動器  
代理人 木村 高明  
復代理人 宮尾 雅文  
代理人 中野 収二  
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