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審決分類 審判    A45D
審判    A45D
審判    A45D
管理番号 1362383
審判番号 無効2019-400001  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-02-08 
確定日 2020-04-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第3210054号実用新案「多機能ヘアアイロン」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。   
結論 実用新案登録第3210054号の請求項1?10に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1.手続の経緯
本件実用新案登録第3210054号の請求項1?10に係る考案(以下「本件考案1?10」という。また、これらをまとめて「本件考案」という。)についての出願(以下「本願」という。)は、平成29年2月9日に実用新案登録出願され、同年3月29日にその実用新案権の設定登録がされたものである。
これに対して、平成31年2月8日に請求人である株式会社I-neにより、本件考案1?10の実用新案登録について実用新案登録無効審判の請求がされ、平成31年4月16日付けで請求書副本を送達するとともに期間を定めて答弁書提出の機会を与えたが、被請求人からは応答がなかった。
その後、令和元年8月29日付けで、被請求人に対して、無効理由通知書を通知し、請求人に対して、職権審理結果通知書を通知したところ、被請求人及び請求人からは応答がなかった。
さらに、令和元年11月13日付けで、被請求人及び請求人に対して、書面審理通知書を通知した。

第2.本件考案
本件考案1?10は、実用新案登録請求の範囲の1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
上部毛髪挟持板、下部毛髪挟持板及び電源コードのコネクタを取り付けるための固定部を含み、上部毛髪挟持板の下端が回転可能に下部毛髪挟持板に取付けられる多機能ヘアアイロンであって、
前記上部毛髪挟持板の下端に、前記固定部に近い側にフランジが設けられ、前記固定部は、ハウジングとスライダを含み、前記ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記スライダが摺動可能に前記ハウジングに取付けられること、
前記上部毛髪挟持板が回転して前記下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、前記スライダを押してその一端を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項2】
請求項1に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記ハウジングは、お互いに係合可能な上側ハウジングと下側ハウジングを含み、前記下側ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記上側ハウジングと前記スライダが共に前記下側ハウジングに取付けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項3】
請求項2に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記スライダは、プッシュブロックとストップ板を含み、前記プッシュブロックが摺動可能に前記下側ハウジングに取付けられ、前記プッシュブロックは前記上部毛髪挟持板に近い側の端面が傾斜面であり、前記ストップ板は傾斜面に取付けられ、
前記上部毛髪挟持板を回転させて前記下部毛髪挟持板と押し合わせる時、前記プッシュブロックを押して、前記ストップ板を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項4】
請求項3に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記プッシュブロックには、複数の滑り止めリブが設けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載されている多機能ヘアアイロンであって、
挟持板の温度を調節するための温度調節器を備え、前記温度調節器は前記下部毛髪挟持板に取り付けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項6】
請求項5に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記温度調節器は、前記下部毛髪挟持板の内側に取り付けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項7】
請求項6に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記温度調節はダイヤルを回転することにより温度調節を行うことを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項8】
請求項5に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
マイナスイオン発生器を備え、前記マイナスイオン発生器は前記上部毛髪挟持板の内側に取り付けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項9】
請求項5に記載されている多機能ヘアアイロンであって、
前記電源コードのコネクタは、360度回転可能に前記ハウジングに取り付けられることを特徴とする多機能ヘアアイロン。
【請求項10】
請求項9に記載されている多機能ヘアアイロンであって、前記電源コードのコネクタと前記ハウジングとの間に、弾性ワッシャーが設置されることを特徴とする多機能ヘアアイロン。」

第3.請求人の主張
請求人は、実用新案登録第3210054号の実用新案登録請求の範囲の請求項1から10の各項に係る考案についての実用新案登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として次の甲第1号証?甲第36号証を提出している。
そして、請求人は、審判請求書の「7 (3)」において、無効審判請求の根拠として、本件考案は、甲第1号証?甲第5号証に示されるとおり、その出願前に少なくとも日本国において(i)公然知られたもの、(ii)公然実施されていたもの又は(iii)電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものに該当するから実用新案法第3条第1項第1号、同項第2号又は同項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張するとともに、本件考案は、甲第1号証?甲第8号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第30号証?甲第32号証及び甲第36号証に示される出願日前公知・公用のヘアアイロンに基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。
ここで、審判請求書の「7(4)」の「本件実用新案登録を無効にすべきである理由」における請求人の具体的な主張を検討すると、「7(4)ウ(ア)」において、「本件登録実用新案とSALONIAヘアアイロンとの対比」に関して、「本件請求項1に係る登録実用新案の「上部毛髪挟持板」・・・及び「スライダ」はそれぞれ、SALONIAヘアアイロンの「上部毛髪挟持板10」・・・及び「スライダ42」に該当し、同登録実用新案の上記各構成間の関係性は、SALONIAヘアアイロンの上記各構成間の関係性と全く同じである。」と記載され、新規性に関する主張がされているとみることができるものの、進歩性に関する具体的な主張は一切されていない。請求項2ないし10に係る考案に関しても同様である。
また、審判請求書の「7(4)ウ(イ)」において、「本件請求項1に係る登録実用新案の「上部毛髪挟持板」・・・及び「スライダ」はそれぞれ、Vidal Sassoonヘアアイロンの「上部毛髪挟持板110」・・・及び「ハウジング141」に該当し、同登録実用新案の上記各構成間の関係性は、Vidal Sassoonヘアアイロンの上記各構成間の関係性と全く同じである。」と記載され、新規性に関する主張がされているとみることができるものの、進歩性に関する具体的な主張は一切されていない。
そうすると、審判請求書における実質的な主張内容に鑑み、請求人の主張する無効理由は、以下のとおりのものと認められる。
<無効理由1>
本件考案は、甲第1号証?甲第29号証及び甲第36号証に示される「SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004S」と同一であるから、実用新案法第3条第1項第1号、同項第2号又は同項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである
<無効理由2>
本件考案は、甲第30号証?甲第35号証及び甲第36号証に示される「VidalSassoon ストレートアイロンVSI-1017/PJ」と同一であるから、実用新案法第3条第1項第1号、同項第2号又は同項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができないものであり、その実用新案登録は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきである

<証拠方法>
甲第1号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの写真集(撮影日:平成31年1月16日)
甲第2号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの動画データを格納したCD-R(撮影日:平成31年1月16日)
甲第3号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの動画データを格納したCD-R(撮影日:平成31年1月16日)
甲第4号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの動画データを格納したCD-R(撮影日:平成31年1月16日)
甲第5号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの取扱説明書
甲第6号証 Youtubeに公開された動画 <URL:https:/www.youtube.com/watch?v=mzG8S5kzdAg&t=67s>(平成27年8月25日公開)
甲第7号証 Youtubeに公開された動画<URL:https//www.youtube.com/watch?v=PTr_Mmekojk>(平成27年3月29日公開)
甲第8号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=9S8_hJ5zZr4>(平成29年1月3日公開)
甲第9号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=00Gs5RFRRgo>(平成26年3月26日公開)
甲第10号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=8kFJAiej3JM>(平成28年8月10日公開)
甲第11号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=_SxrB08yr0M>(平成29年1月18日公開)
甲第12号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=KwZ6Li00WHE>(平成29年1月12日公開)
甲第13号証 Youtubeに公開された動画<URL:https://www.youtube.com/watch?v=E6uiS6QzgmQ>(平成28年3月30日公開)
甲第14号証 株式会社PR TIMESのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000008505.html>
甲第15号証 株式会社PR TIMESのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://web.archive.org/web/20151118024201/https://prtimes.jp/main/html/rd/p/OOOOOOO10.000008505.html>
甲第16号証 楽天株式会社のウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.rakuten.ne.jp/gold/kobe-beauty-labo/pc/salo04.html>
甲第17号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B0096JYZMA>
甲第18号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B072FB9K8F>
甲第19号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amaon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B07D8MN7HR>
甲第20号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:http://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B077JK44QF>
甲第21号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B071X3FCNK>
甲第22号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/dp/B018VSBIBC/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1547620396&sr=8-1&keywords=サロニア+sl-004sw>
甲第23号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/SALONIA-サロニア‐ストレートアイロン-SL-004S-海外対応/product-reviews/B018VSBIBC/ref=cm_cr_getr_d_paging_btm_232?pageNumber=232>
甲第24号証 株式会社アイスタイルのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.cosme.net/product/product_id/10052602/top>
甲第25号証 楽天株式会社のウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL不明>
甲第26号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの <URL不明>
甲第27号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL不明>
甲第28号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL不明>
甲第29号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL不明>
甲第30号証 小泉成器株式会社製ヴィダルサスーン ストレートアイロンVSI-1017/PJの写真集(撮影日:平成31年1月16日)
甲第31号証 Vidal Sassoon ストレートアイロンVSI-1017/PJの動画データを格納したCD-R(撮影日:平成31年1月16日)
甲第32号証 Vidal SassoonストレートアイロンVSI-1017/PJの取扱説明書
甲第33号証 Amazon Services LLCのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.amazon.co.jp/ヴィダル-サスーン-ヘアアイロン-VSI-1017-PJ/dp/B01KNCGIEQ>
甲第34号証 楽天株式会社のウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://product.rakuten.co.jp/product/-/d36c2bb74ae3a22771b0b40fa9a879a8/>
甲第35号証 株式会社シスキーのウェブサイトの記事を紙媒体に印刷したもの<URL:https://www.e-trend.co.jp/items/1136441>
甲第36号証 SALONIA ダブルイオンストレートアイロンSL-004Sの現物

第4.被請求人の主張
被請求人は、上記第1.で述べたとおり、答弁書を提出しなかった。

第5.当審で通知した無効理由の概要
本件実用新案登録の請求項10に係る考案は、請求人が証拠方法として提出した甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであり、その登録実用新案は同法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

第6.甲号証及び引用考案
1.各甲号証
(1)甲第1号証
請求人が、平成31年1月16日に、「SALONIA ダブルイオンストレートアイロン SL-004S」に関して、写真を撮影し書面を作成した甲第1号証には、以下の事項が示されている。
ア.「1.包装箱の正面」及び「2.包装箱の背面」の写真には、「DOUBLE ION STRAIGHT IRON」の文字とともに、製品の斜視図が記載されていることが看取できる。

イ.「4.包装箱の底面」の写真には、右から2番目の欄の1-2行目に「DOUBLE ION STRAIGHT IRON SL-004S」の文字が看取できる。

ウ.「3.包装箱の天面」の写真には、左から3番目中段の枠内に「温度設定」との記載、及び、その下段に「ダイヤル式温度設定120℃?230℃高速加熱機能搭載!」との記載が看取できる。また、同写真から、右から2番目上段の枠内に、後述する「スライダ」と思われる部材に「閉←→開」との文字が付されると共に、その下の枠内に「開閉ロック」、さらにその下に「すっきり収納できる開閉ロック」との記載があり、「スライダ」がスライドすることにより開閉ロックがされることが理解できる。さらに、同写真には、右から3番目の上段の枠内に、後述する「電源コードのコネクタ」と思われる部材が示されるとともに、その下の枠内に「360度回転コード」、さらにその下に「セット中のコードのもつれを防ぎます。」との記載が看取できる。

エ.「8.開状態のストレートアイロン」及び「10.閉状態のストレートアイロン」の写真から、甲第1号証に示されるダブルイオンストレートアイロンは、符号10で示される「上部毛髪挟持板」、符号20で示される「下部毛髪挟持板」、符号30で示される「電源コードのコネクタ」、符号40で示される「固定部」を備えることが看取でき、また、固定部40は電源コードのコネクタ30を取り付けるためのものであることが看取できる。さらに、固定部40は符号41で示される「ハウジング」と符号42で示される「スライダ」から構成されることが看取できる。

オ.「9.開状態のストレートアイロンのプレートロック周辺」及び「13.上側ハウジング及びスライダの組立体を取り外した状態」の写真から、ハウジング41は、符号41aで示される「上側ハウジング」と符号41bで示される「下側ハウジング」を含み、上側ハウジング41aと下側ハウジング41bとはお互いに係合可能であることが看取できるとともに、下側ハウジング41bが下部毛髪挟持板20と一体に形成されていることが看取できる。

カ.「13.上側ハウジング及びスライダの組立体を取り外した状態」、「14.上側ハウジングおよびスライダの組立体におけるスライダのストップ板側」及び「15.上側ハウジングおよびスライダの組立体の側面」の写真から、スライダ42は、符号42aで示される「プッシュブロック」と符号42bで示される「ストップ板」を含むこと、上側ハウジング41aとスライダ42が共に下側ハウジング41bに取り付けられること、プッシュブロック42aは上部毛髪挟持板10に近い側の端面が傾斜面であり、ストップ板42bは該傾斜面に取付けられること、及び、プッシュブロック42aには、符号Rbで示される3本の「リブ」が設けられることが看取できる。

キ.「11.閉状態のストレートアイロンのプレートロック周辺」及び「13.上側ハウジング及びスライダの組立体を取り外した状態」の写真から、上部毛髪挟持板10の下端に、固定部40に近い側に、符号11で示される「フランジ」が看取でき、「11.閉状態のストレートアイロンのプレートロック周辺」の写真と「13.上側ハウジング及びスライダの組立体を取り外した状態」の写真とをあわせみれば、上部毛髪挟持板10と下部毛髪挟持板20とが閉状態のときに、スライダ42の一端にあるストップ板42bがフランジ11の下部に入り込んで当該フランジ11を押し上げる構造が看取できる。

(2)甲第5号証
「SALONIA ダブルイオンストレートアイロン SL-004S」の「取扱説明書」である甲第5号証には以下の事項が示されている。
ア.取扱説明書の表面左上欄の上から3-5行には、「Double Ion Straight Iron サロニア ダブルイオン ストレートアイロン SL-004S」の文字が看取できる。

イ.取扱説明書の裏面左欄上段には、「使い方」との見出しがあり、「1 電源を入れる 電源プラグをコンセントに差し込みます。温度調節ダイヤルを回すとカチッと音が鳴り電源が入ります。赤いランプが点滅します。2 温度設定をする 120℃?230℃まで設定が可能です。ダイヤルを回して、希望温度に設定すると赤ランプが点滅します。設定温度に到達すると点滅が止まり、青のランプが点灯します。」との記載がある。

ウ.取扱説明書の裏面左欄中段には、「各部分の名称と機能」との見出しがあり、ヘアアイロンの図と共に「電源/温度設定 ダイヤル式温度設定 120℃?230℃<<高速加熱機能搭載>>」、「マイナスイオン噴射口 チタニウムプレート+マイナスイオン噴射口のダブルでマイナスイオンを発生!!従来にないサラツヤ感に!」、「開閉ロック すっきり収納できる開閉ロック」及び「360度回転コード セット中のコードのもつれを防ぎます。」との記載がある。また、ヘアアイロンの図から、下部毛髪挟持板の内側に挟持板の温度を調節するためのダイヤル式の温度調節器があることが看取できる。

(3)甲第6号証
本件考案の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証の動画(平成27年8月2日公開)には、以下の事項が示されている。
ア.0:05?0:06
ヘアアイロンの包装箱の表面がアップで映し出され、包装箱表面には、製品の写真及び「SALONIA DOUBLE ION STRAIGHT IRON」の文字が看取できるとともに、出演者が「サロニアのダブルイオンストレートアイロンSL004S買ってみました。」と発言していることが聴取できる。

イ.1:44?1:49
ヘアアイロンの上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板との付け根近傍に指を当てている映像が映し出されており、ヘアアイロンの上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板が閉じた状態から、上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板との付け根近傍に設けられたスライダを指で摺動操作することにより、ロックが外れ、上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板とが開かれることが看取できるとともに、出演者が「ロックを外すと、こうやってパカッと開きます。」と発言していることが聴取できる。また、摺動操作されるスライダのプッシュブロックにはリブが設けられ、出演者がリブ部分に指を掛けて摺動操作していることが看取できる。

ウ.1:50?2:01
ヘアアイロンの電源オンから温度調節について説明がされているところ、下部毛髪挟持板の裏側のダイヤルが映し出され、ダイヤルを操作しながら、「内側にあって、オフから何度、何度って、ここのダイヤルで調節できるようになっているみたいです。」と発言していることが聴取できる。

(4)甲第8号証
本件考案の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証の動画(平成29年1月3日公開)には、以下の事項が示されている。
ア.0:50?0:58
ヘアアイロンの包装箱の底面がアップで映し出され、包装箱底面には、「SALONIA DOUBLE ION STRAIGHT IRON SL-004SC」の文字が看取できる。

イ.2:42?3:05
上部毛髪挟持板、下部毛髪挟持板、ハウジング及びスライダを含むヘアアイロンのロック機構について説明がされているところ、上部毛髪挟持板の下端が下部毛髪挟持板に対して回転可能に取り付けられており、これが回転することで上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板とが開閉すること、上部毛髪挟持板の下端に、ハウジング(固定部)に近い側にフランジが設けられており、上部毛髪挟持板が回転して下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、スライダを押してその一端をフランジの下にスライドさせ、フランジを押し上げることで上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板とが合わされた状態でロックされること、及び、スライダは、プッシュブロックとストップ板を含み、プッシュブロックが摺動可能に下側ハウジングに取付けられ、プッシュブロックを押すことで、ストップ板をフランジの下にスライドさせ、フランジを押し上げることで上部毛髪挟持板と下部毛髪挟持板とが合わされた状態でロックされることが看取できる。

ウ.5:05?5:20
ヘアアイロンにおけるイオンの出口について説明がされているところ、上部毛髪挟持板の裏側の孔が映し出され、孔を指さながら「ここら辺から出るらしいです、イオンですね。」と発言していることが聴取できることから、マイナスイオン発生器を備え、マイナスイオン発生器は上部毛髪挟持板の内側に取り付けられることが理解できる。

(5)甲第30号証
請求人が、平成31年1月16日に、「ヴィダルサスーン ストレートアイロンVSI-1017/PJ」に関して、写真を撮影し書面を作成した甲第30号証には、以下の事項が示されている。
ア.「【図1】(包装箱の正面の写真)」、「【図2】(包装箱の背面の写真)」及び「【図5】(包装箱の右側面の写真)」には、「VS Sassoon」及び「VSI-1017/PJ」の文字とともに、製品の斜視図が記載されていることが看取できる。

イ.「【図8】(開状態のストレートアイロンの写真)」及び「【図10】(閉状態のストレートアイロンの写真)」から、甲第30号証に示されるストレートアイロンは、「上部プレート」、「下部プレート」、「電源コードのコネクタ」、「固定部」を備えることが看取でき、また、固定部は電源コードのコネクタを取り付けるためのものであることが看取できる。さらに、固定部は黒色の「ハウジング」と灰色あるいは銀色の「プレートロック」から構成されることが看取できる。

ウ.「【図8】(開状態のストレートアイロンの写真)」から、上部プレートの下端が下部プレートに軸支されていることが看取でき、「【図8】(開状態のストレートアイロンの写真)」及び「【図10】(閉状態のストレートアイロンの写真」をあわせみると、上部プレートの下端が回転可能に下部プレートに取付けられることが看取できる。。

(6)甲32号証
「ヴィダルサスーン ストレートアイロンVSI-1017/PJ」の「取扱説明書」である甲第32号証には以下の事項が示されている。
ア.取扱説明書の表面左上部に「VSI-1017」の文字が看取でき、また、下部に「・・・ヴィダルサスーン・ストレートアイロンお買い上げ頂き、・・・」の記載が看取できる。

イ.第8ページ上欄に「各部のなまえ」、「VSI-1017」、「本体」の文字があり、製品のイラストとともに、「プレート」、「グリップ」、「プレートロック(LOCK/OPEN)」、「通電ランプ」、「電源スイッチ(ON/OFF)」、「電源プラグ」、「電源コード」の文字が看取できる。また、「プレートロックについて 上下プレートを閉じて、コンパクトに収納できるので持ち運びに便利です。プレートを閉じてからスライドさせてロックします。」との記載があることが看取できる。

(7)甲第34号証
楽天株式会社のウェブサイトにおいて「ヴィダルサスーン ストレートアイロン VSI-1017/PJ」の記事を紙媒体に印刷したものである甲第34号証には以下の事項が示されている。
ア.1ページ上部欄に、製品の斜視図が示されるとともに、「ヴィダルサスーン ストレートアイロン VSI-1017/PJ(1台)」と記載されていることが看取できる。また、同欄に「メーカー:小泉成器 発売日:2016年8月29日」と記載されていることが看取できる。

2.引用考案
(1)引用考案1ないし9について
上記1.(1)ないし(4)を総合すると、以下のことがいえる。
ア.上記1.(1)イ.、1.(2)ア.、1.(3)ア.及び1.(4)ア.から、甲第1号証で撮影されているヘアアイロン、甲第5号証の取扱説明書で説明されているヘアアイロン、甲第6号証の動画で紹介されているヘアアイロン、甲第8号証で紹介されているヘアアイロンは、全て同じ「SALONIA ダブルイオンストレートアイロン SL-004S」であることが理解できる。

イ.甲第6号証の公開日は平成27年8月2日であり、甲第8号証の公開日は平成29年1月3日であり、甲第1号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第8号証のヘアアイロンは同じ型式のヘアアイロンであるから、甲第1号証及び甲第5号証のヘアアイロンは、本件考案の出願前に公知であったことが理解できる。

ウ.引用考案1ないし9
そうすると、本件考案の出願前に以下の考案が公知であったといえる。
引用考案1
「上部毛髪挟持板、下部毛髪挟持板及び電源コードのコネクタを取り付けるための固定部を含み、上部毛髪挟持板の下端が回転可能に下部毛髪挟持板に取付けられるヘアアイロンであって、
前記上部毛髪挟持板の下端に、前記固定部に近い側にフランジが設けられ、前記固定部は、ハウジングとスライダを含み、前記ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記スライダが摺動可能に前記ハウジングに取付けられ、
前記上部毛髪挟持板が回転して前記下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、前記スライダを押してその一端を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げるヘアアイロン。」
引用考案2
「引用考案1のヘアアイロンであって、
前記ハウジングは、お互いに係合可能な上側ハウジングと下側ハウジングを含み、前記下側ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記上側ハウジングと前記スライダが共に前記下側ハウジングに取付けられるヘアアイロン。」
引用考案3
「引用考案2のヘアアイロンであって、
前記スライダは、プッシュブロックとストップ板を含み、前記プッシュブロックが摺動可能に前記下側ハウジングに取付けられ、前記プッシュブロックは前記上部毛髪挟持板に近い側の端面が傾斜面であり、前記ストップ板は傾斜面に取付けられ、
前記上部毛髪挟持板を回転させて前記下部毛髪挟持板と押し合わせる時、前記プッシュブロックを押して、前記ストップ板を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げるヘアアイロン。」
引用考案4
「引用考案3のヘアアイロンであって、
前記プッシュブロックには、複数のリブが設けられるヘアアイロン。」
引用考案5
「引用考案1乃至引用考案4のいずれか1つのヘアアイロンであって、
挟持板の温度を調節するための温度調節器を備え、前記温度調節器は前記下部毛髪挟持板に取り付けられるヘアアイロン。」
引用考案6
「引用考案5のヘアアイロンであって、
前記温度調節器は、前記下部毛髪挟持板の内側に取り付けられるヘアアイロン。」
引用考案7
「引用考案6のヘアアイロンであって、
前記温度調節はダイヤルを回転することにより温度調節を行うヘアアイロン。」
引用考案8
「引用考案5のヘアアイロンであって、
マイナスイオン発生器を備え、前記マイナスイオン発生器は前記上部毛髪挟持板の内側に取り付けられるヘアアイロン。」
引用考案9
「引用考案5のヘアアイロンであって、
前記電源コードのコネクタは、360度回転可能に前記ハウジングに取り付けられるヘアアイロン。」

(2)引用考案11について
上記1.(5)ないし(7)を総合すると、以下のことがいえる。
ア.上記1.(5)ア.、1.(6)ア.及び1.(7)ア.から、甲第30号証で撮影されているストレートアイロン、甲第32号証の取扱説明書で説明されているストレートアイロン、甲第34号証の記事で紹介されているストレートアイロンは、全て同じ「ヴィダルサスーン ストレートアイロン VSI-1017/PJ」であることが理解できる。

イ.上記1.(7)ア.から甲第34号証の記事で紹介されているストレートアイロンの発売日は2016年8月29日であるから、かかるストレートアイロンは、遅くとも、2016年8月29日には、その内容が公然知られる状況で実施をされたということができ、甲第30号証、甲第32号証及び甲第34号証のストレートアイロンは同じ型式のストレートアイロンであるから、甲第30号証及び甲第32号証のストレートアイロンは、本件考案の出願前に公然実施されたことが理解できる。

ウ.上記1.(5)イ.及び1.(6)から、プレートロックはスライド可能にハウジングに取付けられることが理解できる。

エ.引用考案11
そうすると、本件考案の出願前に以下の考案が公然実施されたといえる。
引用考案11
「上部プレート、下部プレート及び電源コードのコネクタを取り付けるための固定部を含み、上部プレートの下端が回転可能に下部プレートに取付けられるストレートアイロンであって、
前記固定部は、ハウジングとプレートロックを含み、前記プレートロックがスライド可能に前記ハウジングに取り付けられるストレートアイロン。」

第7.対比・判断
1.無効理由1について
(1)本件考案1について
本件考案1と引用考案1とを対比すると、引用考案1の「ヘアアイロン」は、本件考案1の「多機能ヘアアイロン」に相当する。
したがって、本件考案1と引用考案1とは、
「上部毛髪挟持板、下部毛髪挟持板及び電源コードのコネクタを取り付けるための固定部を含み、上部毛髪挟持板の下端が回転可能に下部毛髪挟持板に取付けられる多機能ヘアアイロンであって、
前記上部毛髪挟持板の下端に、前記固定部に近い側にフランジが設けられ、前記固定部は、ハウジングとスライダを含み、前記ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記スライダが摺動可能に前記ハウジングに取付けられること、
前記上部毛髪挟持板が回転して前記下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、前記スライダを押してその一端を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げる多機能ヘアアイロン。」
である点で一致し(以下「一致点1」という。)、相違点はない。。
したがって、本件考案1は、引用考案1であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(2)本件考案2について
本件考案2と引用考案2とを対比すると、上記一致点1に加えて、以下の点で一致し(以下、「一致点2」という。)、相違点はない。
「前記ハウジングは、お互いに係合可能な上側ハウジングと下側ハウジングを含み、前記下側ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記上側ハウジングと前記スライダが共に前記下側ハウジングに取付けられる」点。
したがって、本件考案2は、引用考案2であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(3)本件考案3について
本件考案3と引用考案3とを対比すると、上記一致点1及び一致点2に加えて、以下の点で一致し(以下、「一致点3」という。)、相違点はない。
「前記スライダは、プッシュブロックとストップ板を含み、前記プッシュブロックが摺動可能に前記下側ハウジングに取付けられ、前記プッシュブロックは前記上部毛髪挟持板に近い側の端面が傾斜面であり、前記ストップ板は傾斜面に取付けられ、
前記上部毛髪挟持板を回転させて前記下部毛髪挟持板と押し合わせる時、前記プッシュブロックを押して、前記ストップ板を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げる」点。
したがって、本件考案3は、引用考案3であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(4)本件考案4について
本件考案4と引用考案4とを対比すると、上記一致点1ないし一致点3で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件考案4においては、プッシュブロックには、複数の「滑り止め」リブが設けられるのに対し、
引用考案4においては、プッシュブロックに設けられるリブが滑り止めか否か不明である点。
上記相違点1について検討する。
上記「第6.1.(3)イ.」のとおり、プッシュブロックのリブ部分に指を掛けて摺動操作がされるものであるから、当該リブが滑り止めの機能を有することは当業者にとって明らかである。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
したがって、本件考案4は、引用考案4であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(5)本件考案5について
本件考案5と引用考案5とを対比すると、上記一致点1に加えて、以下の点で一致し(以下、「一致点5」という。)、相違点はない。
「挟持板の温度を調節するための温度調節器を備え、前記温度調節器は前記下部毛髪挟持板に取り付けられる」点。 したがって、本件考案5は、引用考案5であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(6)本件考案6について
本件考案6と引用考案6とを対比すると、上記一致点1及び一致点5に加えて、以下の点で一致し(以下、「一致点6」という。)、相違点はない。
「前記温度調節器は、前記下部毛髪挟持板の内側に取り付けられる」点。
したがって、本件考案6は、引用考案6であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(7)本件考案7について
本件考案7と引用考案7とを対比すると、上記一致点1、一致点5及び一致点6に加えて、以下の点で一致し、相違点はない。
「前記温度調節はダイヤルを回転することにより温度調節を行う」点。
したがって、本件考案7は、引用考案7であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(8)本件考案8について
本件考案8と引用考案8とを対比すると、上記一致点1及び一致点5に加えて、以下の点で一致し、相違点はない。
「マイナスイオン発生器を備え、前記マイナスイオン発生器は前記上部毛髪挟持板の内側に取り付けられる」点。
したがって、本件考案8は、引用考案8であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(9)本件考案9について
本件考案9と引用考案9とを対比すると、上記一致点1及び一致点5に加えて、以下の点で一致し(以下、「一致点9」という。)、相違点はない。
「前記電源コードのコネクタは、360度回転可能に前記ハウジングに取り付けられる」点。
したがって、本件考案9は、引用考案9であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当し、実用新案登録を受けることができない。

(10)本件考案10について
本件考案10と引用考案9とを対比すると、上記一致点1、一致点5及び一致点9で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件考案10が「電源コードのコネクタとハウジングとの間に、弾性ワッシャーが設置される」のに対し、引用考案9がかかる弾性ワッシャーが設置されるか否か不明である点。
そうすると、本件考案10と引用考案9とは、相違点2において相違する。
したがって、本件考案10は、引用考案9であるとはいえないから、実用新案法第3条第1項第1号に該当せず、また、同項第2号及び第3号に該当しないことは明らかである。

2.無効理由2について
(1)本件考案1について
本件考案1と引用考案11とを対比すると、引用考案11の「ストレートアイロン」は、本件考案1の「多機能ヘアアイロン」に相当し、以下、同様に、「上部プレート」は「上部毛髪挟持板」に、「下部プレート」は「下部毛髪挟持板」に、「プレートロック」は「スライダ」に、「スライド可能に」は「摺動可能に」に相当する。
したがって、本件考案1と引用考案11とは、
「上部毛髪挟持板、下部毛髪挟持板及び電源コードのコネクタを取り付けるための固定部を含み、上部毛髪挟持板の下端が回転可能に下部毛髪挟持板に取付けられる多機能ヘアアイロンであって、
前記固定部は、ハウジングとスライダを含み、前記スライダが摺動可能に前記ハウジングに取付けられるストレートアイロン。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件考案1においては、前記上部毛髪挟持板の下端に、前記固定部に近い側にフランジが設けられ、前記ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記上部毛髪挟持板が回転して前記下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、前記スライダを押してその一端を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げるのに対し、引用考案11においては、上部プレートにフランジが設けられているか不明であり、ハウジングが下部プレートと一体に形成されているか不明であり、上部プレートが回転して下部プレートに押し合わされるとき、プレートロックがどのように機能するものであるか不明である点。
そうすると、本件考案1と引用考案11とは、相違点3において相違する。
したがって、本件考案1は、本件考案1の出願前に公然実施された引用考案11であるとはいえないから、実用新案法第3条第1項第2号に該当せず、また、同項第1号及び第3号に該当しないことは明らかである。

なお、甲第31号証の動画において、表面に「VS」の文字が看取できるVidal Sassoonストレートアイロンと思われるストレートアイロンのプレートロックを摺動操作して、当該ストレートアイロンを閉状態にロックすることが看取できるが、かかる動画からは、上部プレートにフランジが設けられることやプレートロックがフランジの下にスライドされてフランジを押し上げていることまでは看取できず、そもそも、甲第31号証の動画におけるVidal Sassoonストレートアイロンが甲第30号証、甲第32号証及び甲第34号証の「ヴィダルサスーン ストレートアイロン VSI-1017/PJ」と同一のものであることを示す証拠はない。
また、甲第30号証ないし甲第35号証をみても、ヴィダルサスーン ストレートアイロン VSI-1017/PJにおいて、上部プレートにフランジが設けられ、ハウジングが下部プレートと一体に形成され、上部プレートが回転して下部プレートに押し合わされるとき、プレートロックがフランジの下にスライドされてフランジを押し上げていることが理解できる証拠は見当たらない。

(2)本件考案2ないし10について
本件考案2ないし10も、本件考案1の「前記上部毛髪挟持板の下端に、前記固定部に近い側にフランジが設けられ、前記ハウジングが前記下部毛髪挟持板と一体に形成され、前記上部毛髪挟持板が回転して前記下部毛髪挟持板に押し合わされるとき、前記スライダを押してその一端を前記フランジの下にスライドさせ、前記フランジを押し上げる」との考案特定事項を備えるものであるから、本件考案1と同様の理由により、引用考案11であるとはいえないから、実用新案法第3条第1項第2号に該当しない。

3.当審で通知した無効理由について
本件考案10について
上記1.(10)において示したように、本件考案10と引用考案9とを対比すると、上記一致点1、一致点5及び一致点9で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件考案10が「電源コードのコネクタとハウジングとの間に、弾性ワッシャーが設置される」のに対し、引用考案9がかかる弾性ワッシャーが設置されるか否か不明である点。

上記相違点2について検討する。
まず、本件考案10における「弾性ワッシャー」の技術的意義について検討すると、考案の詳細な説明の段落【0020】には、「使用者はヘアアイロンを使用する際、様々な姿勢をとるので、電源コードにはトルクが発生し、使用に不便が生じることを防止するために、電源コードのコネクタ30は、360度回転可能にハウジング41に取り付けられている。具体的には、電源コードのコネクタ30とハウジング41との間に、弾性ワッシャー43が設置されて、電源コードのコネクタ30が振動するのを回避できるとともに、ハウジング41の摩耗も低減できる。」との記載があり、かかる記載から、電源コードのコネクタ30はハウジング41に取り付けられており、コネクタ30がハウジング41に取り付けられる部分において、コネクタ30の回転に伴う振動を回避するために、コネクタとハウジングとの間に弾性ワッシャーが設けられることが理解できる。(なお、本件の図2には、上側ハウジングに掛かっているリング状の部材に弾性ワッシャーの符号である「43」が付されているが、かかる部材は、電源コードのコネクタとハウジングとの間に設置されておらず、請求項の記載及び考案の詳細な説明と矛盾しており、図2の符号「43」の記載は誤記と解される。)
そして、機械部品一般において、軸状あるいは筒状の部材が回転する際、振動が生じることは周知の課題であり、また、そのような部材において振動を防止するために弾性ワッシャーのようなリング状の弾性部材を設けることも周知技術であり、引用考案9においても、コネクタ30は、360度回転可能にハウジングに取り付けられるものであるから、回転の際振動を生じることは当業者が予測し得る課題であって、これを周知技術のように弾性部材を設けて振動を防止することは、当業者がきわめて容易になし得たことである。
したがって、本件考案10は、引用考案9及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易になし得たものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

第8.むすび
以上のとおり、本件考案1?9は、実用新案法第3条第1項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、本件考案1?9についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件考案10は、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、本件考案10についての実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定が準用する特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2019-11-28 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-16 
出願番号 実願2017-539(U2017-539) 
審決分類 U 1 114・ 111- Z (A45D)
U 1 114・ 112- Z (A45D)
U 1 114・ 121- Z (A45D)
最終処分 成立    
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 柿崎 拓
佐々木 芳枝
登録日 2017-03-29 
登録番号 実用新案登録第3210054号(U3210054) 
考案の名称 多機能ヘアアイロン  
代理人 中西 健  
代理人 北原 宏修  
代理人 特許業務法人コスモス国際特許商標事務所  
代理人 山内 聡  
代理人 伊藤 世子  

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