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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1039453
審判番号 審判1999-14737  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案審決公報 
発行日 2001-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-09-14 
確定日 2001-05-09 
事件の表示 平成 5年実用新案登録願第 61867号「ボールねじの防音装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 5月12日出願公開、実開平 7- 25356]について、次のとおり審決する。   
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1.手続の経緯・本願考案
本願は、出願日が平成5年10月21日であつて、その請求項1に係る考案(以下、「本願考案」という。)は、平成11年6月8日付け及び平成11年10月12日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その登録請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】 外周にねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に套嵌され且つ内周にねじ溝を有するナットと、前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝に転動自在に嵌合する多数のボールと、一部が前記ナットの外周側に露出し且つ前記ボールを循環させるためのリターンチューブとを備えたボールねじにおいて、前記ナットと、該ナットの外周に嵌着されたスリーブとの間に、前記リターンチューブの露出部分側が前記スリーブの内周側に接触しないように該リターンチューブの前記露出部分を収容し且つ前記ナットの周方向の全体を取り囲む略環状の間隙を形成し、該間隙における前記ねじ軸の軸方向の両側に、前記ナットと前記スリーブとの間をシールするシール材を設け、前記間隙内に、前記リターンチューブの前記露出部分側を含む前記間隙の全体に充満するように防振媒体を入れたことを特徴とするボールねじの防音装置。

2.引用例
これに対し、原査定の拒絶理由において引用された実願平1-15480号(実開平2-107860号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、以下の技術的事項が記載されているものと認める。
ア.〔課題を解決するための手段〕そこで本考案は、チューブ押え部材をボール戻しチューブ全体を包囲するカバー部材で構成し、このカバー部材とボールねじナットとの間にゴム等の弾性体を挿入することにより上述の問題を解決した。即ち本考案は、ボールねじナットの外側部に露出したボール戻しチューブの全体をカバー部材で包囲、固定したボールねじ装置において、前記ボールねじナットの外側部と前記カバー部材との間にゴム様弾性体をはさみ込んで密着させたものである。〔作用〕このようにすると、前記カバー部材の締め付けによって前記ゴム様弾性体が前記ボール戻しチューブ全体に密着し、ボールの転動によりボール戻しチューブに生ずる振動が前記ゴム様弾性体の弾性により吸収されるとともに、前記カバー部材が前記ゴム様弾性体を介してボールねじナットの外側部に密着し、ボール戻しチューブが外気と完全に遮断されることになるので、ボールの転動に起因する音が外部へ伝播しない。(4頁9行?5頁9行)
イ.ボールねじナット1は外側部の一部が平坦に切り欠かれており、この切欠面5上にはそのほぼ対角方向にコ字形に形成されかつチューブ内をボールが通過可能とされたボール戻しチューブ2が配置されている。ボール戻しチューブ2の両端はナット1の切欠面5に設けられたチューブ挿込穴に挿し込まれ、ボール戻しチューブ内の内孔はナット1内の螺旋溝6に連通されている。ボールねじ軸12の外周部にもナット1の螺旋溝6に対応した螺旋溝13が形成されている。ボールねじ軸がナット1に挿入された状態で前記チューブ2を装着する前にナット1の切欠面5のチューブ挿込穴からこれらの螺旋溝およびボール戻しチューブ2内に多数個のボール7が詰め込まれ、次に所要数のボールを詰め込んだボール戻しチューブ2をかぶせて取り付ける。ボールねじ軸12とボールねじナット1の相対回転移動により、ボール7は軸12の螺旋溝とナット1の螺旋溝6に挟まれて該螺旋溝に沿って転動し、該溝のボール転動部分の一端からボール戻しチューブ2内にすくい上げられ、該チューブ2を通って螺旋溝6のボール転動部分の他端へ戻り、再循環する。(5頁18行?6頁19行)
ウ.ボール戻しチューブ2を弾性的に押さえ付けて制振するとともにボール戻しチューブの振動により発生する音が外部に漏れるのを低減させるために、可撓性の合成樹脂、軟質ゴム等の緩衝材、吸音材等から成る弾性体10を前記チューブ2に密着してかつ切欠面5から露出するチューブ全体を覆うように該切欠面5上にかぶせ、その上から三ケ月形カバー部材8を装着する。第1図に示すように三ヶ月形カバー部材8はナット1の外側部の切欠面5に丁度合致する大きさの底面8aを有し、また外面8bはナット1に装着したとき該ナット1の外側部と同じ曲率となるようなわん曲に形成され、かつカバー部材8をナット1の切欠面に装着するための取付ねじ用座ぐり穴9が形成されている。この座ぐり穴9に対応して前記弾性体10およびナット1の切欠面にそれぞれねじ挿通孔およびねじ穴が形成されている。カバー部材8の底面8aには、ナット切欠面5に配置されたボール戻しチューブ2に弾性体10を介して密着しかつ該チューブ2を包み込むのに充分な横断面U字形の溝部11が、該チューブ2の伸長方向に対応してほぼ対角方向に形成されている。このような三ヶ月形のカバー部材8によって弾性体10とともにナット1の切欠面5を蓋閉し、止めねじ4で締め付けたとき、ボール戻しチューブ2はカバー部材8の底面溝部11の位置で弾性体10に密着しかつ弾性的に押圧されて封じ込められ、同時にカバー部材底面8aとナット1の切欠面5との間には弾性体10の介在によって隙間が生じることがなく、チューブ2から発生する音、振動は弾性体10による吸振原理および密封効果が働いて吸収され、低騒音、低振動化が達成される。(7頁4行?8頁16行)
エ.第2図において、ボールねじナット1の内周面側にボール戻しチューブ2の一部が実線にて記載されていることからみて、ボール戻しチューブ2の一部が切欠面5より下方に位置すると解することができるので、ボール戻しチューブ2の一部がボールねじナット1の外周側に露出していることが看取できる。

以上の記載事項並びに明細書及び図面の全記載からみて、引用例には、以下の考案(以下、「引用考案」という。)が記載されているものと認める。
「外周に螺旋溝13を有するボールねじ軸12と、該ボールねじ軸に套嵌され且つ内周に螺旋溝6を有するボールねじナット1と、前記ボールねじ軸及び前記ボールねじナット1の前記螺旋溝13,6に転動自在に嵌合する多数のボール7と、一部が前記ボールねじナット1の外周側に露出し且つ前記ボール7を循環させるためのボール戻しチューブ2とを備えたボールねじ装置において、前記ボールねじナット1と、該ボールねじナット1の外側部にボール戻しチューブ2を包み込むのに充分な横断面U字型の底面溝部11が底面8aに形成されたカバー部材8との間に、前記ボール戻しチューブ2に密着してかつ切欠面5から露出するボール戻しチューブ2全体を覆うように、可撓性の合成樹脂、軟質ゴム等の緩衝材、吸音材等から成る弾性体10を設けたボールねじ装置のボール戻しチューブ2のカバー構造。」

3.対比
本願考案と引用考案を比較すると、引用考案の「螺旋溝13、6」は「ねじ溝」に相当し、以下同様に、「ボールねじ軸12」は「ねじ軸」に、「ボールねじナット1」は「ナット」に、「ボール7」は「ボール」に、「ボール戻しチューブ2」は「リターンチューブ」に、「ボールねじ装置」は「ボールねじ」に、「ボールねじ装置のボール戻しチューブ2のカバー構造」は「ボールねじの防音装置」に、それぞれ相当するものと認められるので、本願考案と引用考案には、下記のとおりの一致点及び相違点があるものと認められる。
[一致点]
外周にねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に套嵌され且つ内周にねじ溝を有するナットと、前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝に転動自在に嵌合する多数のボールと、一部が前記ナットの外周側に露出し且つ前記ボールを循環させるためのリターンチューブとを備えたボールねじにおいて、前記リターンチューブの露出部分を防振機能を有する部材で覆ったボールねじの防音装置
[相違点]
相違点1.防振機能を有する部材について、本願考案は、「防振媒体」となっているのに対し、引用考案は、「可撓性の合成樹脂、軟質ゴム等の緩衝材、吸音材等から成る弾性体」となっている点。
相違点2.防振機能を有する部材の設置態様について、本願考案は、「ナットと、該ナットの外周に嵌着されたスリーブとの間に、リターンチューブの露出部分側が前記スリーブの内周側に接触しないように該リターンチューブの前記露出部分を収容し且つ前記ナットの周方向の全体を取り囲む略環状の間隙を形成し、該間隙における前記ねじ軸の軸方向の両側に、前記ナットと前記スリーブとの間をシールするシール材を設け、前記間隙内に、前記リターンチューブの前記露出部分側を含む前記間隙の全体に充満するように防振媒体を入れた」のに対し、引用考案は、「ナットと、ナットの外側部にリターンチューブを包み込むのに充分な横断面U字型の底面溝部11が底面8aに形成されたカバー部材8との間に、前記リターンチューブに密着してかつ切欠面5から露出するチューブ全体を覆うように、可撓性の合成樹脂、軟質ゴム等の緩衝材、吸音材等からなる弾性体10を設けた」点。
4.判断
そこで上記相違点について検討する。
相違点1について
本願考案の防振媒体は、本願の明細書の段落【0027】における記載「防振媒体には、ニトリルゴム、その他の吸振性のある合成樹脂材料を用いても良い。合成樹脂材料を用いる場合、溶融状態で間隙18内に注入し、その後、硬化させても良い。」からみて、低騒音性グリース等のような流動性のあるものに限定されるものでなく、引用考案の「可撓性の合成樹脂、軟質ゴム等の緩衝材、吸音材等からなる弾性体」を含むものと解される。
そして、従来より、防振機能を有する部材として、流動性のあるものもないものも共に周知である。
してみると、この相違点1は、実質的な相違点ではない。
相違点2について
引用例の上記記載事項ア.、すなわち、「ボールねじナットの外側部に露出したボール戻しチューブの全体をカバー部材で包囲、・・・前記ボールねじナットの外側部と前記カバーとの間にゴム様弾性体を挟み込んで密着させた・・・このようにすると、・・・ボール戻しチューブに生ずる振動が前記ゴム様弾性体の弾性によって吸収されるとともに、・・・ボール戻しチューブが外気と完全に遮断されることになるので、ボールの転動に起因する音が外部に伝播しない。」は、ボールねじナットと、ボールねじナットの外側部に設けられたカバー部材との間に、防振機能を有する部材である防振媒体を、その間隙の全体に充満すること、及び、ボールねじナットとボールねじナットの外側部に設けられたカバー部材との間をシールする機能を有する部材を設けることを示唆していると解される。
そして、引用考案では、ボール戻しチューブとカバー部材との間に防振機能を有する部材である防振媒体が介在していると解されるから、引用考案は、本願考案の構成要件である「リターンチューブの露出部分側が前記スリーブの内周側に接触しないように該リターンチューブの前記露出部分を収容し」を実質的に具備していると認められる。
また、防振機能を有する部材である防振媒体を、装置の一部に対して設けるか、全体に対して設けるかは、当業者にとってその必要性に応じ適宜実施されていることであって(全体に対して設けた例、実願平1-17424号(実開平2-109053号)のマイクロフィルムフィルム、特開昭4-66795号公報、実公昭40-28369号公報参照)、引用考案において、防振機能を有する部材である防振媒体を、装置の全体に対して設けることを妨げる特段の事情も見当たらない。
してみると、相違点2に係る本願考案の構成要件は、引用考案に周知の技術を適用することにより当業者がきわめて容易に想到し得たものと認められる。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願考案は、引用考案及び周知の技術に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
よつて、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-02-27 
結審通知日 2001-03-09 
審決日 2001-03-22 
出願番号 実願平5-61867 
審決分類 U 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立    
前審関与審査官 長屋 陽二郎  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 秋月 均
和田 雄二
考案の名称 ボールねじの防音装置  
代理人 谷藤 孝司  

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