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審決分類 審判 全部申し立て   F16B
審判 全部申し立て   F16B
管理番号 1048663
異議申立番号 異議1999-70386  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-03 
確定日 2001-10-19 
異議申立件数
事件の表示 登録第2578058号「クリップ」の請求項1ないし3に係る実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2578058号の請求項1及び2に係る実用新案登録を取り消す。 同請求項3に係る実用新案登録を維持する。
理由 I.手続の経緯
実用新案登録第2578058号(平成4年12月25日出願、平成10年5月22日実用新案権の設定登録。)の請求項1ないし3に係る考案(以下、それぞれ、「本件考案1ないし3」という。)についての実用新案登録は、平岡 良子(以下、「申立人」という。)より実用新案登録異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成11年8月3日に訂正請求がなされ、平成13年5月8日に訂正拒絶の理由が通知されたものである。


II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
本件の実用新案登録に係る願書に添付した明細書(以下、「登録明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載について、請求項1の記載に「グロメットフランジに近い位置から」を挿入し、下記のとおりに訂正する。
【請求項1】
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンフランジがグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンフランジがグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンフランジがグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には、グロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪が形成され、ピン軸部には該係止爪を受ける係止溝が形成され、前記第3連結位置において前記係止爪に係止する係止溝は、ピン軸部がグロメット軸部からそれ以上引抜かれないように係止爪先端を該係止溝に規制する形状に形成され、該係止溝に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止爪は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
ピン軸部の係止溝は、軸部先端側の第1の係止溝と、ピンフランジに近い第2の係止溝とから成り、前記第1及び第3連結位置では、前記係止爪が第1係止溝に係止しており、前記第2連結位置では、係止爪が第2係止溝に係止し、前記第1係止溝が係止爪先端を規制する形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
ピン軸部の係止溝は、軸部先端側の第1の係止溝と、該第1係止溝に隣接する第2の係止溝とから成り、グロメット軸部には、フランジ付近の前記係止爪すなわち第1係止爪に加えて、軸部先端側に第2の係止爪が形成されており、前記第1連結位置では第1係止溝に第1係止爪が係止しており、前記第2連結位置では第1係止溝に第2係止爪が係止しており、前記第3連結位置では第2係止溝に第1係止爪が係止し、前記第2係止溝が第1係止爪先端を規制する形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
(2)訂正事項b
登録明細書の考案の詳細な説明の欄の段落番号【0005】に、「グロメット軸部内面には半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪が形成され、」とある記載を「グロメット軸部内面には、グロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪が形成され、」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、登録明細書の考案の詳細な説明の欄の段落番号【0009】及び【0014】に実質的に記載されていた事項を付加したものであるから、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項bは、訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に実用新案登録請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.独立実用新案登録要件の判断
(1)訂正明細書の請求項1ないし3に係る考案
訂正明細書の請求項1ないし3に係る考案(以下、それぞれ、「訂正考案1ないし3」という。)は、訂正明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのもの(訂正事項a参照。)である。
(2)引用する刊行物
イ.刊行物1:実公平1-43532号公報(以下、「引用例1」という。)
ロ.刊行物2:特開昭50-107365公報(以下、「引用例2」という。)
(3)引用例に記載された考案
イ.引用例1について
引用例1には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案1」という。)が記載されていると認めることができる。
「雄部材2と雌部材11で構成され、雌部材11の係止脚20を連結すべき複数のパネル等の板状部材26,27の取付孔26a,27aに挿入し、その雌部材11の係止脚20の挿入孔14及びそれに続く部分に雄部材2の係止軸4を挿入して係止脚20を拡径し、この係止脚20の拡径した部分と雌部材11の基板12とによって板状部材26,27を相互に連結する留め具1において、
雄部材2と雌部材11は、係止軸4が係止脚20に挿入されて係止軸4が係止脚20を拡径しない状態で頭部3が基板12から離れている第1連結位置と、係止軸4が係止脚20に挿入されて係止軸4が係止脚20を拡径し且つ雄部材2の頭部3が雌部材11の基板12に接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、係止軸4が係止脚20に挿入されているが雄部材2の頭部3が雌部材11の基板12から離れた状態に係止軸4を係止脚20から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、係止脚20内面には、雌部材11の基板12に近い位置から半径方向内方に延びる係止突起25が形成され、係止軸4には該係止突起25を受ける係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間が形成され、前記第3連結位置において前記係止突起25に係止する係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間は、頭部3をつかみ引き抜くと雄部材2と雌部材11とは分離することなく一体に取外すことができる形状に形成され、該係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間に第3連結位置において係止する係止脚20の係止突起25は、雌部材11の基板12の付近であって且つ前記第2連結位置において雌部材11の基板12近傍と板状部材26,27の雌部材11の基板12と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている留め具1。」
また、同時に、引用例1には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案1′」という。)が記載されていると認めることができる。
「引用考案1において、係止軸4の係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間等の凹部は、係止軸4先端側の第1の係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間と、雄部材2の頭部3に近い第2の係止部7の水平な係止面8とその上方空間とから成り、前記第1及び第3連結位置では、前記係止突起25が第1の係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間に係止しており、前記第2連結位置では、係止突起25が第2の係止部7の水平な係止面8とその上方空間に係止し、前記第1の係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間が係止突起25先端を規制する形状に形成されている留め具1。」
ロ.引用例2について
引用例2には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案2」という。)が記載されていると認めることができる。
「膨脹プランジャ2とはと目1で構成され、はと目1の軸部6を連結すべき部材24、25の孔26、27に挿入し、そのはと目1の向い合う壁7で仕切られた空間を有する軸部6に膨脹プランジャ2の柄16を挿入して軸部6を拡径し、この拡径軸部部分とはと目1の相補的な頭部3とによって部材24、25を相互に連結する結合装置において、
膨脹プランジャ2とはと目1は、柄16がはと目の軸部6に挿入されて柄16がはと目の軸部6を拡径しない状態で握り頭部14が相補的な頭部3から離れている第1連結位置と、柄16がはと目の軸部6に挿入されて柄16がはと目の軸部6を拡径し且つ握り頭部14が相補的な頭部3に接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、柄16がはと目の軸部6に挿入されているが握り頭部14が相補的な頭部3から離れた状態に柄16をはと目の軸部6から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、はと目の軸部6内面には、相補的な頭部3に近い位置から半径方向内方に延びるストッパ片13が形成され、柄16には該ストッパ片13を受けるストッパ片13に対応した凹部が形成され、前記第3連結位置において前記ストッパ片13に係止するストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19は、柄16がはと目の軸部6からそれ以上引抜かれないようにストッパ片13先端を該ストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19に規制する形状に形成され、該ストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19に第3連結位置において係止するはと目の軸部6のストッパ片13は、相補的な頭部3の付近であって且つ前記第2連結位置において相補的な頭部3と部材24、25の相補的な頭部3と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている結合装置。」
また、同時に、引用例2には、その記載全体からみて、次のような考案(以下、「引用考案3」という。)が記載されていると認めることができる。
「引用考案2において、柄16の係止溝は、柄16先端側の第1の保持凹部21と、該第1の保持凹部21と少し離れた位置に設けられた第2のストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19とから成り、はと目の軸部6には、相補的な頭部3付近の前記ストッパ片13すなわち第1のストッパ片13に加えて、軸部6先端側に第2の係止に寄与する末端部が形成されており、前記第1連結位置では、第1のストッパ片13と、第1の保持凹部21及び第2の係止に寄与する末端部とはいずれとも規制関係にない状態であり、前記第3連結位置では第2のストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19に第1のストッパ片13が係止し、前記第2のストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19が第1のストッパ片13先端を規制する形状に形成されている結合装置。」
さらに、引用例2には、その説明箇所の記載を参酌して第25?30図をみると、「はと目の軸部6内面には、その係止面が相補的な頭部3に近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びるストッパ片13が形成され、柄16には該ストッパ片13を受けるストッパ片13に対応した凹部が形成されていること」(以下、「別の係止機構A」という。)が記載されていると看取できる。
なお、引用例2には、その説明箇所の記載を参酌して第10図、第22図及び第28図をみると、「はと目の軸部6のストッパ片13は、相補的な頭部3の付近であって且つ前記第2連結位置において相補的な頭部3と部材24、25の相補的な頭部3と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されていること」が記載されていると看取できる。
(4)訂正考案1と引用考案1の対比及び判断
訂正考案1と引用考案1を対比すると、引用考案1の「雄部材2」は、訂正考案1の「ピン」に相当し、同様に、「雌部材11」は「グロメット」に、「係止脚20」は「グロメット軸部」に、「板状部材26,27」は「複数のパネル等の被取付部材」に、「取付孔26a,27a」は「穴」に、「係止脚20の挿入孔14及びそれに続く部分」は「中空軸部」に、「係止軸4」は「ピン軸部」に、「係止脚20の拡径した部分」は「拡径軸部部分」に、「雌部材11の基板12」は「グロメットフランジ」に、「留め具1」は「クリップ」に、「雄部材2の頭部3」は「ピンフランジ」に、それぞれ相当すると認められる。
また、引用考案1の「係止突起25」と訂正考案1の「係止爪」は、「係止用突状部」の限度で一致し、同様に、「係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間」と「係止溝」は、「係止用凹部」の限度で一致し、「頭部3をつかみ引き抜くと雄部材2と雌部材11とは分離することなく一体に取外すことができる形状」と「係止爪先端を係止溝に規制する形状」は、「ピンの引き上げによってグロメットも一緒に被取付部材から引き抜くことができるような形状」の限度で一致していると認められる。
してみると、訂正考案1と引用考案1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンフランジがグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンフランジがグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンフランジがグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には、グロメットフランジに近い位置から半径方向内方に延びる係止用突状部が形成され、ピン軸部には該係止用突状部を受ける係止用凹部が形成され、前記第3連結位置において前記係止用突状部に係止する係止用凹部は、ピンの引き上げによってグロメットも一緒に被取付部材から引き抜くことができるような形状に形成され、該係止用凹部に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止用突状部は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置において略グロメットフランジの位置と被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されているクリップ。
<相違点>
イ.係止用突状部について、訂正考案1では、「グロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪」となっているのに対し、引用考案1では、「グロメットフランジ(雌部材11の基板12)に近い位置から半径方向内方に延びる係止突起25」となっている点(以下、「相違点イ」という。)。
ロ.係止用凹部について、訂正考案1では、「係止溝」としているのに対し、引用考案1では、「係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間」としている点(以下、「相違点ロ」という。)。
ハ.係止用突状部の高さ位置について、訂正考案1では、「グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている」となっているのに対し、引用考案1では、「グロメットフランジ(雌部材11の基板12)の付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジ(雌部材11の基板12)近傍と被取付部材(板状部材26,27)のグロメットフランジ(雌部材11の基板12)と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている」となっている点(以下、「相違点ハ」という。)。
次いで、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イについて
係止爪は、係わり合って止める機能を有する仕掛けの突状物を指すものと解されるが係止の解除のために撓む支点を何処にするかなどと元来関わりのない技術用語であって、このような限度において、訂正考案1の「係止爪」と引用考案1の「係止突起25」との間に有意の差異はない。また、その係止面の傾斜角度は、必要な係止の強さや材質等を考慮して適宜実施されるべきものであって、従来より多様なものがある。
そして、係止をより確実にするための態様として鉤形のものが従来より広く採用されているものであって、係止爪の係止面をグロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びるようにすることは、例えば、従来周知の引用例2の上記「別の係止機構A」に照らせば、当業者が適宜実施できる程度の設計的事項にすぎない。
してみると、相違点イに係る訂正考案1の構成は、引用考案1の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
ロ.相違点ロについて
係止用凹部を溝状にすることは、従来周知の技術的事項にすぎない。
してみると、相違点ロに係る訂正考案1の構成は、引用考案1の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
ハ.相違点ハについて
引用例1の第10図の記載の限りでは、係止用突状部の係止面の高さ位置は、グロメットフランジ下面より下にあると看取できるものの、実施例のヒンジの位置からみて、グロメットフランジ下面位置より高くすることも低くすることも可能であると解されるから、同図から直ちに「係止用突状部の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」とまで看取できないかもしれないが、引用考案1において「係止用突状部全体の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」ようにすることができない特段の事情があるともいえず、また、訂正考案に係る出願より15年以上も前に頒布されて従来周知の引用例2の第10図、第22図及び第28図から、「はと目の軸部6のストッパ片13は、相補的な肩部3の付近であって且つ前記第2連結位置において相補的な肩部3と部材24、25の相補的な肩部3と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されていること」が看取できるので、このようなことは、従来周知の技術的事項と認められる。
そして、「係止用突状部の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」ようにすることにより生じる効果も、当業者の予測を超えるほど格別なものとまでいえない。
してみると、相違点ハに係る訂正考案1の構成は、引用考案1に記載された考案及び引用例2に記載されるような従来周知の考案に基いて、当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
したがって、訂正考案1は、引用例1に記載された考案及び引用例2に記載されるような従来周知の考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるので、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない考案である。
(5)訂正考案1と引用考案2の対比及び判断
訂正考案1と引用考案2を対比すると、引用考案2の「膨脹プランジャ2」は、訂正考案1の「ピン」に相当し、同様に、「はと目1」は「グロメット」に、「はと目の軸部6」は「グロメット軸部」に、「部材24、25」は「複数のパネル等の被取付部材」に、「孔26、27」は「穴」に、「向い合う壁7で仕切られた空間を有する軸部6」は「中空軸部」に、「柄16」は「ピン軸部」に、「相補的な頭部3」は「グロメットフランジ」に、「結合装置」は「クリップ」に、「ストッパ片13」は「係止爪」は「ストッパ片13に対応した凹部」に、「第3連結位置においてストッパ片13に係止するストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19」は「第3連結位置において係止爪に係止する係止溝」に、それぞれ相当すると認められる。
また、引用考案2の「握り頭部14」と訂正考案1の「ピンフランジ」は、「ピンの操作用頭部」の限度で一致している。
してみると、訂正考案1と引用考案2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンの操作用頭部がグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンの操作用頭部がグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンの操作用頭部がグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には、グロメットフランジに近い位置から半径方向内方に延びる係止爪が形成され、ピン軸部には該係止爪を受ける係止溝が形成され、前記第3連結位置において前記係止爪に係止する係止溝は、ピン軸部がグロメット軸部からそれ以上引抜かれないように係止爪先端を該係止溝に規制する形状に形成され、該係止溝に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止爪は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されているクリップ。
<相違点>
ニ.ピンの操作用頭部の態様について、訂正考案1では、「ピンフランジ」となっているのに対し、引用考案2では、「握り頭部14」となっている点(以下、「相違点ニ」という。)。
ホ.係止用突状部について、訂正考案1では、「グロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪」となっているのに対し、引用考案2では、「グロメットフランジに近い位置から半径方向内方に延びる係止爪(ストッパ片13)」となっている点(以下、「相違点ホ」という。)。
次いで、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
ニ.相違点ニについて
引用考案1は、前示のとおり、訂正考案1の「ピンフランジ」に相当する「雄部材2の頭部3」を具備するクリップに係る考案であり、そして、引用考案2において、引用考案1の「ピンフランジ」の技術思想を採用できない特段の事情があるとも認められない。
してみると、相違点ニに係る訂正考案1の構成は、引用考案2に引用考案1の「ピンフランジ」の技術思想を採用し、当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
ホ.相違点ホについて
係止爪の係止面をグロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びるようにすることは、引用例2の前記「別の係止機構A」に照らせば、当業者が適宜実施できる程度の設計的事項にすぎない。
してみると、相違点ホに係る訂正考案1の構成は、引用考案2の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
したがって、訂正考案1は、引用例1及び引用例2に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるので、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができない考案である。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第15条の規定による改正後の特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第2項の規定により準用され、同附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。


III.実用新案登録異議の申立について
1.申立ての理由の概要
申立人は、下記の甲第1、2号証を提示して、本件考案1、2は、甲第1号証に記載された考案であり、又は該考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第1項第3号の規定又は同法第3条第2項の規定により拒絶されるものであるから、また、本件考案3は、甲第2号証に記載された考案であり、又は該考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により拒絶されるものであるから、本件考案1ないし3に係る実用新案登録は、いずれも、取り消されるべき旨主張している。
(1)甲第1号証:実公平1-43532号公報(「引用例1」と同じ。)
(2)甲第2号証:特開昭50-107365公報(「引用例2」と同じ。)

2.本件考案1ないし3
本件考案1ないし3は、訂正が認められないものであるから、本件の実用新案登録に係る願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンフランジがグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンフランジがグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンフランジがグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪が形成され、ピン軸部には該係止爪を受ける係止溝が形成され、前記第3連結位置において前記係止爪に係止する係止溝は、ピン軸部がグロメット軸部からそれ以上引抜かれないように係止爪先端を該係止溝に規制する形状に形成され、該係止溝に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止爪は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されていることを特徴とするクリップ。
【請求項2】
ピン軸部の係止溝は、軸部先端側の第1の係止溝と、ピンフランジに近い第2の係止溝とから成り、前記第1及び第3連結位置では、前記係止爪が第1係止溝に係止しており、前記第2連結位置では、係止爪が第2係止溝に係止し、前記第1係止溝が係止爪先端を規制する形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
ピン軸部の係止溝は、軸部先端側の第1の係止溝と、該第1係止溝に隣接する第2の係止溝とから成り、グロメット軸部には、フランジ付近の前記係止爪すなわち第1係止爪に加えて、軸部先端側に第2の係止爪が形成されており、前記第1連結位置では第1係止溝に第1係止爪が係止しており、前記第2連結位置では第1係止溝に第2係止爪が係止しており、前記第3連結位置では第2係止溝に第1係止爪が係止し、前記第2係止溝が第1係止爪先端を規制する形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。

3.通知した取消しの理由の概要
(1)本件考案1、2について
本件考案1、2は、引用例1に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により違反してるから、本件考案1、2に係る実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してなされたものである。
(2)本件考案3について
本件考案3は、引用例2に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により違反してるから、本件考案3に係る実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してなされたものである。

4.引用例に記載された考案
(1)引用例1
引用例1には、引用考案1が記載されていると認めることができる。
(2)引用例2
引用例2には、引用考案2、3及び別の係止機構Aが記載されていると認めることができる。

5.本件考案と引用考案の対比及び判断
(1)本件考案1と引用考案1の対比及び判断
本件考案1と引用考案3を対比すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンフランジがグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンフランジがグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンフランジがグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には半径方向内方に延びる係止用突状部が形成され、ピン軸部には該係止用突状部を受ける係止用凹部が形成され、前記第3連結位置において前記係止用突状部に係止する係止用凹部は、ピンの引き上げによってグロメットも一緒に被取付部材から引き抜くことができるような形状に形成され、該係止用凹部に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止用突状部は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置において略グロメットフランジの位置と被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されているクリップ。
<相違点>
イ′.係止用突状部について、本件考案1では、「半径方向内方且つ軸部先端方向に延びる係止爪」となっているのに対し、引用考案1では、「半径方向内方に延びる係止突起25」となっている点(以下、「相違点イ′」という。)。
ロ′.係止用凹部について、本件考案1では、「係止溝」としているのに対し、引用考案1では、「係止ブロック6の水平な係止面とその上方空間」としていると点(以下、「相違点ロ′」という。)。
ハ′.係止用突状部の高さ位置について、本件考案1では、「グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている」となっているのに対し、引用考案1では、「グロメットフランジ(雌部材11の基板12)の付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジ(雌部材11の基板12)近傍と被取付部材(板状部材26,27)のグロメットフランジ(雌部材11の基板12)と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されている」となっている点(以下、「相違点ハ′」という。)。
次いで、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
イ.相違点イ′について
係止爪は、係わり合って止める機能を有する仕掛けの突状物を指すものと解されるが係止の解除のために撓む支点を何処にするかなどと元来関わりのない技術用語であって、このような限度において、本件考案1の「係止爪」と引用考案1の「係止突起25」との間に有意の差異はない。また、その係止面の傾斜角度は、必要な係止の強さや材質等を考慮して適宜実施されるべきものであって、従来より多様なものがある。
そして、係止をより確実にするための態様として鉤形のものが従来より広く採用されているものであって、係止爪の係止面をグロメットフランジに近い位置から半径方向内方且つ軸部先端方向に延びるようにすることは、例えば、従来周知の引用例2の上記「別の係止機構A」に照らせば、当業者が適宜実施できる程度の設計的事項にすぎない。
してみると、相違点イ′に係る本件考案1の構成は、引用考案1の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
ロ.相違点ロ′について
係止用凹部を溝状にすることは、従来周知に技術的事項にすぎない。
してみると、相違点ロ′に係る本件考案1の構成は、引用考案1の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
ハ.相違点ハ′について
引用例1の第10図の記載の限りでは、係止用突状部の係止面の高さ位置は、グロメットフランジ下面より下にあると看取できるものの、実施例のヒンジの位置からみて、グロメットフランジ下面位置より高くすることも低くすることも可能であると解されるから、同図から直ちに「係止用突状部の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」とまで看取できないかもしれないが、引用考案1において「係止用突状部全体の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」ようにすることができない特段の事情があるともいえず、また、本件考案に係る出願より15年以上も前に頒布されて従来周知の引用例2の第10図、第22図及び第28図から、「はと目の軸部6のストッパ片13は、相補的な肩部3の付近であって且つ前記第2連結位置において相補的な肩部3と部材24、25の相補的な肩部3と反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されていること」が看取できるので、このようなことは、従来周知の技術的事項と認められる。
そして、「係止用突状部の高さ位置がグロメットフランジ下面位置より低い」ようにすることにより生じる効果も、当業者の予測を超えるほど格別なものとまでいえない。
してみると、相違点ハ′に係る本件考案1の構成は、引用考案1の実施に際し、引用例2に記載されるような従来周知の技術的事項を適用して当業者がきわめて容易に想到できたものというべきである。
したがって、本件考案1は、引用例1に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により違反しているから、本件考案1に係る実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してなされたものである。
(2)本件考案2と引用考案1′の対比及び判断
本件考案2と引用考案1′を対比すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンフランジがグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンフランジがグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンフランジがグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には半径方向内方に延びる係止用突状部が形成され、ピン軸部には該係止用突状部を受ける係止用凹部が形成され、前記第3連結位置において前記係止用突状部に係止する係止用凹部は、ピンの引き上げによってグロメットも一緒に被取付部材から引き抜くことができるような形状に形成され、該係止用凹部に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止用突状部は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置において略グロメットフランジの位置と被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されているクリップにおいて、
ピン軸部の係止用凹部は、軸部先端側の第1の係止用凹部と、ピンフランジに近い第2の係止用凹部とから成り、前記第1及び第3連結位置では、前記係止用突状部が第1の係止用凹部に係止しており、前記第2連結位置では、係止用突状部が第2の係止用凹部に係止し、前記第1の係止用凹部が係止用突状部先端を規制する形状に形成されているクリップ。
<相違点>
本件考案1と引用考案1の対比における相違点イ′?ハ′と同じ。
次いで、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
本件考案1と引用考案1を対比して検討したのと同じ理由により、相違点イ′?ハ′は、いずれも格別なものではない。
したがって、本件考案2は、引用例1に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであって、実用新案法第3条第2項の規定により違反しているから、本件考案2に係る実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してなされたものである。
(3)本件考案3と引用考案3の対比及び判断
本件考案3と引用考案3を対比すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
ピンとグロメットで構成され、グロメットの軸部を連結すべき複数のパネル等の被取付部材の穴に挿入し、そのグロメットの中空軸部にピンの軸部を挿入してグロメット軸部を拡径し、この拡径軸部部分とグロメットのフランジとによって被取付部材を相互に連結するクリップにおいて、
ピンとグロメットは、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径しない状態でピンの操作用頭部がグロメットフランジから離れている第1連結位置と、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されてピン軸部がグロメット軸部を拡径し且つピンの操作用頭部がグロメットフランジに接面する第2連結位置と、該第2連結位置から、ピン軸部がグロメット軸部に挿入されているがピンの操作用頭部がグロメットフランジから離れた状態にピン軸部をグロメット軸部から引抜いた第3連結位置とをとり、前記3つの連結位置をとるため、グロメット軸部内面には、グロメットフランジに近い位置から半径方向内方に延びる係止爪が形成され、ピン軸部には該係止爪を受ける係止溝が形成され、前記第3連結位置において前記係止爪に係止する係止溝は、ピン軸部がグロメット軸部からそれ以上引抜かれないように係止爪先端を該係止溝に規制する形状に形成され、該係止溝に第3連結位置において係止するグロメット軸部の係止爪は、グロメットフランジの付近であって且つ前記第2連結位置においてグロメットフランジと被取付部材のグロメットフランジと反対側の面との間の高さ位置にあるように形成されているクリップにおいて、
ピン軸部の係止溝等の係止凹部は、軸部先端側の第1の係止凹部と、該第1係止凹部と異なる第2の係止溝とから成り、グロメット軸部には、フランジ付近の前記係止爪すなわち第1係止爪に加えて、軸部先端側に第2の係止に寄与する末端部が形成されており、前記第2連結位置では第1係止凹部に第2の係止に寄与する末端部が係止しており、前記第3連結位置では第2の係止溝に第1係止爪が係止し、前記第2係止溝が第1係止爪先端を規制する形状に形成されているクリップ。
<相違点>
訂正考案1と引用考案2との対比における相違点ニ、ホと実質的に同じ相違点(以下、「相違点ニ′、ホ′」という。)に加えて、以下の点で相違する。
ヘ.第2の係止機構について、本件考案3では、「ピン軸部の係止溝は、軸部先端側の第1の係止溝と、該第1係止溝に隣接する第2の係止溝とから成り、グロメット軸部には、フランジ付近の前記係止爪すなわち第1係止爪に加えて、軸部先端側に第2の係止爪が形成されており」となっているのに対し、引用考案3では、「ピン軸部(柄16)の係止溝は、ピン軸部(柄16)先端側の第1の保持凹部21と、該第1の保持凹部21と少し離れた位置に設けられた第2のストッパ肩20及びその上部の掛金凹部19とから成り、グロメット軸部(はと目の軸部6)には、相補的な頭部3付近の前記ストッパ片13すなわち第1のストッパ片13に加えて、軸部(軸部6)先端側に第2の係止に寄与する末端部が形成されており」となっている点(以下、「相違点ヘ」という。)。
ト.第1連結位置の係止関係について、本件考案3では、「第1連結位置では第1係止溝に第1係止爪が係止しており、前記第2連結位置では第1係止溝に第2係止爪が係止しており」となっているのに対し、引用考案3では、「第1連結位置では、第1のストッパ片13と、第1の保持凹部21及び第2の係止に寄与する末端部とはいずれとも規制関係にない状態であり」となっている点(以下、「相違点ト」という。)。
次いで、この相違点について検討する。
<相違点の検討>
相違点ニ′、ホ′については、訂正考案1と引用考案2を対比して検討したのと同じ理由により、いずれも格別なものではない。
ヘ.相違点ヘについて
係止機構として、係止爪と係止溝の組合せが従来周知であって、引用考案3における第1の係止機構が実質的に係止爪と係止溝の組合せによるものであって、かつ、引用考案3における第2の係止機構を係止爪と係止溝の組合せにすることによって、格別不都合が生じるものではない以上、相違点ヘに係る本件考案3の構成は、引用考案3の実施に際し、当業者が必要に応じ適宜実施できたものというべきである。
ト.相違点トについて
引用考案3において、本件考案3のように、「第1連結位置では第1係止溝に第1係止爪が係止し、第2連結位置では第1係止溝に第2係止爪が係止」できるように構成を変更する(以下、「特定の変更」という。)には、例えば、引用例2の第8図の状態において、ストッパ片13が係止できるようにする別のストッパ肩(ストッパ肩20と異なる)を設け、さらに、この別のストッパ肩(ストッパ肩20と異なる)が第10図の状態において「第2の係止に寄与する末端部」と係止関係になるようにしなければならない。
しかしながら、引用例2の第1図の状態において「もろい接続部23」を構成して、はと目の軸部6(グロメット軸部)を拡径する前に、別の態様で膨脹プランジャ2(ピン)とはと目1(グロメット)の係止関係ができているので、少なくとも、引用考案3自体において、上記のような特定の変更を行う動機がないといわざるを得ない。なお、引用例2の第1図又は第12図の状態を引用考案3の第1連結位置とすると、他の構成の関係が引用考案3の構成と整合しなくなるので、この状態を引用考案3の第1連結位置とすることができない。
また、相違点トに係る本件考案3の構成単独においても、公知であるとか周知である等の事情も見当たらないので、上記のような特定の変更を行う動機があるということができない。
さらに、相違点トに係る本件考案3の構成を採用することによって格別の作用効果が生じるものではないとする根拠も見当たらない。
してみると、相違点トに係る本件考案3の構成は、当業者がきわめて容易に想到できたものとすることができないで、この相違点トは、格別なものというべきである。
したがって、本件考案3は、引用例2(甲第2号証)に記載された考案でないばかりか、該考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものでもなく、実用新案法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定により拒絶されるものでない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件考案1及び2は、いずれも、本件の出願の前に頒布された刊行物に記載された考案明に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができた考案であって、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないので、本件考案1及び2について実用新案登録は、いずれも、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものと認める。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第3条第2項の規定により、本件考案1及び2について実用新案登録を取り消す。
また、本件考案3について実用新案登録は、実用新案登録異議の申立ての理由によっては取り消すことができないばかりでなく、他にそれを取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2001-08-31 
出願番号 実願平4-88908 
審決分類 U 1 651・ 121- ZE (F16B)
U 1 651・ 113- ZE (F16B)
最終処分 一部取消    
前審関与審査官 山下 喜代治  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 氏原 康宏
清田 栄章
登録日 1998-05-22 
登録番号 実用新案登録第2578058号(U2578058) 
権利者 ポップリベット・ファスナー株式会社
東京都千代田区紀尾井町3番6号
考案の名称 クリップ  
代理人 今城 俊夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 竹内 英人  
代理人 箱田 篤  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 西島 孝喜  

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