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審決分類 |
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない F15B 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F15B 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない F15B 審判 全部無効 発明同一 無効としない F15B 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効としない F15B |
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管理番号 | 1104563 |
審判番号 | 審判1996-17661 |
総通号数 | 59 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2004-11-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1996-10-17 |
確定日 | 2004-10-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2035182号「圧流体シリンダ」の実用新案登録無効審判事件についてされた平成13年 1月 9日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第78号平成14年 5月 9日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件実用新案登録第2035182号考案(以下、「本件考案」という。)についての出願は、昭和60年11月6日に出願され、平成4年12月10日に出願公告(実公平4-52482号公報;以下、「本件公報」という。)され、平成6年10月6日にその考案について実用新案権の設定登録がされたものである。 (2)請求人(エスエムシー株式会社)は、平成8年10月17日に本件考案の実用新案登録の無効の審判を請求した。(甲第1乃至4号証提出。) (3)被請求人(豊和工業株式会社)は、平成9年2月14日に審判事件答弁書を提出した。(乙第1乃至5号証提出。) (4)請求人は、平成9年3月24日に審判請求理由補充書を提出した。(甲第5号証提出。) (5)請求人は、平成9年11月13日に口頭審理陳述要領書を提出した。(甲第6乃至8号証提出。) (6)平成9年11月13日に口頭審理が行われ、口頭審理調書が作成された。 (7)被請求人は、平成9年12月24日に審判事件第2答弁書を提出した。 (8)被請求人は、平成10年3月13日に審判事件第3答弁書を提出した。 (9)平成10年4月7日に「登録第2035182号実用新案の登録を無効とする。」旨の審決がなされた。 (10)被請求人は、平成10年5月13日に東京高等裁判所に審決取消訴訟[平成10年(行ケ)第141号]を提起した。 (11)被請求人は、平成10年6月10日に明細書の訂正をすることについての審判(平成10年審判第39041号)を請求した。 (12)平成11年3月9日に「登録第2035182号実用新案の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」旨の審決(以下、「訂正審決」という。)がなされ、これが平成11年3月17日に確定した。(平成11年9月22日に、該審決の確定について請求人に対して通知がなされた。) (13)東京高等裁判所は、平成11年6月24日に「特許庁が平成8年審判第17661号事件について平成10年4月7日にした審決を取り消す。」旨判決した。 (14)請求人は、平成11年12月6日に審判理由補充書を提出した。(甲第9乃至14号証提出。) (15)被請求人は、平成12年5月1日に審判事件答弁書を提出した。 (16)請求人は、平成12年8月31日に審判事件弁駁書を提出した。(甲第15乃至22号証提出。) (17)平成13年1月9日に「登録第2035182号実用新案の登録を無効とする。」旨の審決がなされた。 (18)被請求人は、平成13年2月23日に東京高等裁判所に審決取消訴訟[平成13年(行ケ)第78号]を提起した。 (19)東京高等裁判所は、平成14年5月9日に「特許庁が平成8年審判第17661号事件について平成13年1月9日にした審決を取り消す。」旨判決した。 (20)請求人は、平成14年12月17日に審判請求理由補充書を提出した。(甲第23乃至27号証提出。) (21)被請求人は、平成15年3月20日に第5答弁書を提出した。(乙第6乃至10号証提出。) 2.確定した訂正審決(甲第9号証参照)において認容された訂正事項 該訂正審決は、審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認めるものであって、その訂正事項は、以下のとおりである。 (あ)原明細書の実用新案登録請求の範囲第1項の記載「両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、」(本件公報第1欄第7?9行)を「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」と訂正する。 (い)原明細書の実用新案登録請求の範囲第1項の記載「案内レールには、前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」(本件公報第1欄第9?11行)を、「案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」と訂正する。 (う)原明細書の第4頁第18?20行の記載「バレル1Aのスリット4を挟んだ両側の側壁9、9aの一方のみに案内レール10を取付け、」(本件公報第3欄第18?20行)を「バレル1Aのスリットを挟んだ両側の側壁9、9aの一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベース11を一体に突設し、そのベース11の上に棒状の案内レール10を一体に突設し、」と訂正する。 (え)原明細書の第7頁第12?13行の記載「バレルと一体に構成された案内レールにより、」(本件公報第4欄第25?26行)を、「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上に一体に突設された棒状の案内レールによって案内するようにしたので、」と訂正する。 (お)原明細書の第7頁第13?17行の記載「また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」(本件公報第4欄第29?31行)及び「また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何等支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」(本件公報第4欄第32?35行)を、「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁に突設したベース上に棒状の案内レールを一体に突設しているので、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」及び「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを突設し、その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えているので、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」と訂正する。 (か)原明細書の第7頁第2?10行の記載「尚上記実施例において案内レール10は、バレル1Aの側壁9に突設したベース11上に取付けられているが、バレル1Aとは別個に設けたベース11に案内レール10を取付け、適宜の取付具によってバレル1Aに一体的に取付けてもよい。」(本件公報第4欄第19?23行)を削除する。 3.本件考案 本件考案の要旨は、上記訂正明細書のとおり訂正された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲第1項に記載されたとおりのものと認められるところ、その構成要件を分説すると、下記のとおりとなる。(以下、それぞれの構成要件をその符号に従い「構成要件A」のようにいう。) 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E ことを特徴とする圧流体シリンダ。」 4.請求人の主張 請求人は、「実用新案登録第2035182号の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として以下のように主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:特開昭60-172711号公報 甲第2号証:特開昭60-234106号公報 甲第3号証:特開昭58-214015号公報 甲第4号証:欧州公開特許公報第0157892A1号 甲第5号証:THK株式会社発行のパンフレット 甲第6号証:特許第2512356号公報 甲第7号証:特許第2512356号に対する 被請求人からの異議申立書 甲第8号証:特開昭58-163819号公報 甲第9号証:平成10年審判第39041号審決書 甲第10号証:平成10年審判第39041号審判請求書 甲第11号証:平成10年審判第39041号に添付の訂正明細書 甲第12号証:岩波書店発行「広辞苑」 甲第13号証:DE2908605号A1公報 甲第14号証:株式会社フジテクノシステム発行 「アクチュエータ実用辞典」 甲第15号証:平成8年(行ケ)第222号判決 甲第16号証:平成10年10月1日付訂正拒絶理由通知書 甲第17号証:平成11年2月8日付訂正拒絶理由通知書 甲第18号証:平成10年12月7日付手続補正書に 添付の全文訂正明細書 甲第19号証:平成11年2月8日付手続補正書に 添付の全文訂正明細書 甲第20号証:平成8年審判第17661号事件の 平成9年11月13日付口頭審理調書 甲第21号証:特許第2512356号異議申立書 (甲第7号証に同じ) 甲第22号証:特開昭58-163819号公報 (甲第8号証に同じ) 甲第23号証:平成13年(ワ)第8214号 特許権侵害差止等請求事件判決文 甲第24号証:特公昭51-28793号公報 甲第25号証:特開昭59-137608号公報 甲第26号証:特開昭58-50302号公報 甲第27号証:特開昭62-88866号公報 ≪主張1≫ 請求人は、平成8年10月17日付け審判請求書等において、概略以下のとおり主張した。なお、当該主張は、訂正審決において認容された訂正の後の考案を対象としてなされたものではなく、出願公告時の考案を対象としてなされたものであり、その実用新案登録請求の範囲第1項の記載は、その構成要件を分説して記載すると、下記のとおりとなる。 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連結されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 B′バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、 C′その案内レールには、前記スリットの幅方向の両側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E ことを特徴とする圧流体シリンダ。」 (1)本件考案は、甲第1号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。 記 甲第1号証記載の考案は、本件考案と同様、ロッドレスシリンダに関するものであり、甲第1号証記載の「ケーシング11」,「縦スリット20」,「力取出し突起18」は、それぞれ構成要件Aの「バレル」,「軸方向に設けられたスリット」、「該スリットより先端が突出し、かつバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバー」に対応する。また、甲第1号証記載の「帯状シール22,23」は、構成要件Aの「スリットを密封するスチールバンド」に対応する。従って、構成要件Aは甲第1号証に明確に示されている。 次に、甲第1号証の第1図ないし第3図からも明らかな通り、甲第1号証では、縦スリット20を挟んだ両側の側壁の一方のみにピストン14と平行に移動するピストン16、あるいは補助ピストン39が設けられる。ピストン16および補助ピストン39は、第2内室13を形成する円形状の凹部に沿って案内される。この案内機能を達成する凹部は、前記ピストン14の軸芯と平行でかつバレルに対応するケーシング11と一体的に設けられている。従って、甲第1号証には、本件考案の構成要件B′が明確に示されている。 また、甲第1号証の第2図に示される第2内室13を形成する断面円弧状の案内面、あるいは第3図に示される補助ピストン39を構成する円形状の部分30、30の外周部に対面する円弧状の内室13の側面が前記構成要件B′と共に構成要件C′と同一の機能を達成する。従って、前記円弧状の内室13の側面がこの構成要件C′の軸芯と平行な案内面に対応することは明らかである。 さらに、甲第1号証において、その第2図に示される第2内室13を形成する円弧状の壁面に対しピストン16はその円弧状の形状に合わせた円弧状の案内面を有する。従って、甲第1号証のピストン16は、本件考案の構成要件Dの案内子に対応する案内機能を営むことは明らかである。一方、甲第1号証の第3図に示される変形例においては、案内ピストン39は円形状の部分30、30を有し、これらの円形状の部分30、30は内室13の円弧状の壁面に対応する形状を有している。従って、この第3図に示される案内ピストン39も明らかに本件考案の構成要件Dに対応している。 以上の通り、本件考案の特徴とする構成要件AないしEは、全てこの甲第1号証に示されている。しかも、その効果も、甲第1号証のものでは、ピストンとその突起が変形しない中央の隔壁に沿って正確に案内され、それによって、縦スリットが圧力の作用を受けて少し拡がっても、突起が側方へ移動することはなく、正確に案内されると示される如く、本件考案の効果と実質的に同一である。 (2)本件考案は、昭和60年4月8日付で出願され、昭和60年11月20日付で公開されたものの願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第2号証)に記載された発明と同一であるから、実用新案法第3条の2の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。 記 甲第2号証に記載された発明は、直線伝動装置に関するものであって、いわゆるロッドレスシリンダに係わるものであるところ、甲第2号証記載の「筒状部材1」,「スリット10」,「ピストン4」,「荷重伝達要素11」,「シール要素27,30」は、それぞれ本件考案の構成要件Aの「バレル」,「スリット」,「遊動ピストン」,「ドライバー」,「スチールバンド」に対応する。従って、構成要件Aは、甲第2号証に明確に示されている。 次に、本件考案の構成要件B′は、甲第2号証に示されている「案内レール45」に対応する。すなわち、この案内レール45はバレルに対応する筒状部材1に形成されているスリット10を挟んだ両側の側壁の一方のみにかつピストン4の軸芯と平行に、さらにバレルに対応する前記筒状部材に固着されている。従って、甲第2号証には、当該構成要件B′が明確に示されている。 また、甲第2号証の第6図から明らかな通り、案内レール45の両側にピストン4の軸芯と平行な案内面が垂直な面として示されている。従って、構成要件C′も甲第2号証に明確に示されている。 さらに、甲第2号証では、ドライバーに対応する荷重伝達要素11に対しては、カバーフード40を介して案内子に対応する移動要素45aが連結されている。カバーフード40は、この場合、本件考案の連結板14に対応している。そして、このカバーフード40には、案内要素170が連結されている。してみれば、本件考案の構成要件Dは甲第2号証に明確に示されている。 したがって、全体として、本件考案の構成要件A乃至Eは、甲第2号証に示されている。 (3)本件考案は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された考案に基いて当業者が極めて容易に想到することができるものであり、従って、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。 記 甲第3号証は、モータ14によってねじ軸5を回転せしめ、これに螺合される送りねじ体4に連結されているケーシング1aを移動させるものである。この場合、ケーシング1aは、ベアリングプレート6、ボール24またはローラを介してトラックレール10aにより案内される。そして、甲第3号証の第11図および第12図を参照して、「ねじ軸5はトラックレール10aの一方の側方に平行して設けられ、従って、モータ14、・・・もトラックレール10aの一方の側方に、該トラックレール10aに固着され、ケーシング1aの本体2aの送りねじ体4aの位置も、本体2aの一側に偏して設けられている。」との記載がある。この場合、前記ねじ軸5に代えて、ピストンを用いることが当業者であるならば極めて容易に想到できる。すなわち、甲第4号証には、その第3図から明らかな通り、ピストンを構成する筒状部50の移動に際してスピンドルとスピンドルナットが用いられている構造のものが開示されている。従って、甲第3号証に示されているモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4a等を甲第1号証に示されるケーシング11、第1内室12、ピストン14、縦スリット20、帯状シール22,23等から構成されるロッドレスシリンダに置き換えることが可能である。 (4)本件考案は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された考案に基いて当業者が極めて容易に想到することができるものであり、従って、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきである。 記 甲第3号証の第11図および第12図に示されているモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4a等に代えて、甲第4号証の第1図または第2図に示されているロッドレスシリンダを採用することができる。甲第4号証の明細書第12頁第25行?第13頁第20行およびその第3図には、圧力媒体によって移動するピストンに代替して、ねじ軸からなるスピンドルとスピンドルナットを採用した構造のものが開示されている。してみれば、甲第3号証の第11図および第12図のねじ軸5、送りねじ体4aに代えて、甲第4号証の第1図、第2図に示されるロッドレスシリンダを採用することは、当業者であるならば極めて容易に想到することができ、その作用効果もまた本件考案と同一である。 (5)本件考案は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に基いて当業者が極めて容易に想到することができるものであり、従って、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。 (6)本件考案は、実用新案登録請求の範囲第2項の記載を考慮しても、甲第3号証と、甲第1号証及び甲第4号証のいずれかに基づいて当業者をして極めて容易に想到することができるものであり、従って、実用新案法第3条第2項の規定に該当し、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。(請求人の主張全体からみてこのように解釈できる。) (7)本件考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載は、その必須の構成要件を規定しておらず、実用新案法第5条第4項の規定に違背することから、本件考案の実用新案登録は、同法第37条第1項の規定により無効とされるべきものである。 記 本件考案では、構成要件Dとして、案内子を前記ドライバーに設けたことを特徴事項の一つとして挙げている。しかしながら、本件考案のその好適な実施例においては、ドライバー3に対して、直接、案内子13は設けられていない。すなわち、ドライバー3と案内子13とは連結板14を介して連結されているのであり、本件考案の構成要件Dの如く直接ドライバー3を案内子13に設ける構成のものは何ら開示されていない。ここで、実用新案法が保護の対象とする考案が物品の形状、構造、組み合わせに係るものである以上、連結板14は、ドライバー3と案内子13とを結び付けるための必須の構成要件である。しかしながら、本件考案では、連結板をその必須の構成要件には含めていない。実用新案法第5条第4項は、実用新案登録請求の範囲には考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないと規定しているが、本件考案では、前記のように必須の構成要件である連結板の存在を限定していない。 ≪主張2≫ 請求人は、平成11年12月6日付け審判理由補充書及び平成12年8月31日付け審判事件弁駁書において、概略以下のとおり主張した。 訂正審決で認容された訂正事項(あ)乃至(か)は、下記する理由により、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第39条第1項ただし書き若しくは第2項の規定に適合しない。 したがって、本件考案の実用新案登録は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第37条第1項第二の二号の規定により無効とすべきものである。 記 (1)訂正事項(あ)について、 「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、」との訂正において、「一方の側壁から下方に延びる側壁」とは如何なる部位を指示するか明らかでない。さらにその「側壁の下方部にベースを一体に突設し、」という構造については前記「下方に延びる側壁」が明らかでなく、その上にさらに「その側壁の下方部」が如何なる部分を指称するか本件公報の考案の詳細な説明および第2図を参照しても明確な開示あるいは示唆がない。従って、この記載は明らかに実用新案登録請求の範囲の形式的な減縮的変更であるかに見えるが、実質的変更である。すなわち、訂正によって新たに実用新案登録請求の範囲に盛り込まれた構成は訂正前の明細書に開示されていたものではない。前記文言「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁」と一つの文節中に「側壁」が三つ現れている。そして、第1番目の「側壁」と第2番目の「側壁」は、指示語「その一方」があることから両者が同一であることは明確に把握できる。しかしながら、第3番目の「側壁」が第1番目の「側壁」と同一か否かについては何らの指示語もなく冠詞もないことから明らかでない。 「棒状の案内レール」との訂正において、この文言「棒状」は訂正前の本件公報に開示されている実用新案登録請求の範囲、考案の詳細な説明、図面の簡単な説明および第1図?第4図において何ら開示され、あるいは当業者をして理解することが可能な程度に示唆されているものではない。一方、本件考案との関係では断面形状台形状をなす案内レール10以外にこの文言「棒状」に対応する構成は何ら開示がない。すなわち、「棒状」について、願書に添付した明細書あるいは図面に明確に示されていない以上、そして、「棒状」について種々の形状が考えられる以上、今後、この「棒状」について本件実用新案権の技術的範囲の解釈が区々に分かれる可能性があり、原明細書の記載に徴して一義的に構成が定まるほどに明瞭でない。従って、案内レールが棒状であることを理解するためには、願書に添付の明細書および図面から一義的に定まる断面形状台形状をなす以外にこの棒状の文言を理解し得ない。そうであるならば、寧ろ、「棒状」の文言よりも「断面形状台形状をなす案内レール」とすることが、実質上、実用新案登録請求の範囲を拡張または変更する訂正でないことの要件を満たすことになろう。 「案内レールをバレルと一体に設け」とあるを、「案内レールを一体に突設し、」と訂正し、バレルとの関係を遮断した。すなわち、案内レールがバレルと一体に設けられているという訂正前の構成に対して、今回の訂正は側壁の一方のみに案内レールを一体に突設するように訂正したものである。しかしながら、両側の側壁の一方のみに案内レールを一体に突設することと、案内レールをバレルと一体に設けることとは全く異なる構成である。従って、訂正審決の前記認容に反して、この訂正は実用新案登録請求の範囲を実質的に変更するものに他ならない。 (2)訂正事項(い)について、 訂正審決書が認定するように、「該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。」(本件公報第3欄第30行?第32行)との記載が認められるものの、「スリットの幅方向の両外側」とは如何なる部位を指すのか、本件訂正前の明細書から窺うことはできない。確かなことは、案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられていることであり、両外側とは、この両側の弧状の案内面12のことを言うならばまだしも、両外側の構成自体を原明細書から確認することはできない。従って、訂正事項(い)は、実質上、実用新案登録請求の範囲を変更するものに他ならない。 (3)訂正事項(う)について、 訂正事項(う)は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものではなく、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でもない。 (4)訂正事項(え)について 訂正事項(あ)(い)は、前記のとおり、その訂正が認められるべきでなく、このため、訂正事項(え)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 本件公報によれば、訂正前の本件考案の効果の欄には「バレルと一体に構成された案内レールによりドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用しても、ドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行い得る。」との記載がある。すなわち、「バレルと一体に構成された案内レール」が必須の構成要件であり、バレルと案内レールとが一体に構成されることが「ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用しても、ドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行ない得る」という前記効果を奏するために必要不可欠な構成といえよう。従って、この限りにおいて、被請求人が認識するように、バレルに対する案内レールの構成は決して不明瞭ではなく、敢えて訂正する必要もない。 側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースに突設された棒状の案内レールによってドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行い得るという内容に変更し、訂正前の本件公報に記載の効果を奏するための構成、すなわち、バレルと一体に構成された案内レールによって前記効果が奏せられるものではないとした。これは、本件考案の効果の実質的変更である。この点からも、被請求人が主張するように考案の構成を明瞭にしたものでもない。 (5)訂正事項(お)について 訂正事項(あ)(い)は、前記のとおり、その訂正が認められるべきでなく、このため、訂正事項(お)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 本件考案によれば、本件公報に記載のとおり、「バレルと一体に構成された案内レールにより」という構成によって本件考案の効果が奏せられることは明示されている。しかしながら、それ以外の構成によって考案の効果が生ずるとする記載、あるいは示唆は全く存在しない。結局、前記「小型化でき、狭い場所であっても容易に取り付けが可能である。」という効果を奏するために、「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールをバレルと一体に突設した」ことは明らかに原明細書の記載から逸脱したものであって訂正が認容される範囲外のものである。 また、本件公報の考案の効果の欄を渉猟すれば明らかなとおり、バレルと一体に構成された案内レールによってドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となるのであり、少なくとも、側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを設けたこと、そして、その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えていることが、前記「ドライバーの支承なき案内および最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる」効果を奏する記載は全く存在することなく、さらに示唆さえもない。従って、明りょうでない記載の釈明に該当するものではない。 (6)訂正事項(か)について 訂正事項(あ)(い)は、前記のとおり、その訂正が認められるべきでなく、このため、訂正事項(か)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。 ≪主張3≫ 請求人は、平成11年12月6日付け審判理由補充書及び平成12年8月31日付け弁駁書において、概略以下のとおり主張した。 本件考案は、下記する理由により、実用新案法第39条第3項の規定に適合しない。 したがって、本件考案の実用新案登録は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第37条第1項第二の二号の規定により無効とすべきものである。 (1)本件考案は、甲第4号証及び甲第1号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。 記 訂正が認容された本件考案の新たな構成要件である「その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上に」、「その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を備え、」により、格別の作用効果を奏するものではない。してみれば、本件考案の前記新たな構成要件は単なる設計変更事項に過ぎない。 従って、訂正前の考案が、平成10年4月7日付け審決において、甲第4号証と甲第1号証によって無効とされるならば訂正後の本件考案もまた当然に無効とされるべきである。 なお、甲第4号証記載の「代替する実施形態」については次のように解釈するべきである。外部案内システムがスライダ46と案内要素170の課題を引き受けることを考慮すれば、案内要素170はスライダ46に連結され、当該スライダ46は案内レール15に係合する構成が第2図に示されているとおりである。従って、この案内要素170、スライダ46が前記案内レール15に沿って案内作用を営むものであり、この案内要素170、46の案内作用たる課題を前記外部案内システム45、可動要素45aが代替して解決することを意味しよう。従って、被請求人の主張するように、少なくとも2本の案内レールで案内要素を案内することを必須の構成要件とすることは、特に、前記代替する実施形態で考慮する必要性は全くない。 (2)本件考案は、甲第1号証、甲第4号証及び甲第13号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。 記 甲第13号証には、訂正後の実用新案登録請求の範囲第1項の構成要件である「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみにピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設した」構造が開示されていることは明らかである。確かに、この甲第13号証には訂正審決で認容された本件考案の「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設」した構成を開示してはいない。しかしながら、既に指摘したとおり、訂正前と訂正後の本件考案の効果が実質的に同一であり、この「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設」したということから格別の作用効果を奏するものではなく、従って、前記新たに限定された構成要件も単なる設計変更事項の域を出ないものである。さらに、前記「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設」することが、「バレル」から「棒状の案内レール」を突設し、「バレル」と「棒状の案内レール」とを平行且つ離間して配置する構成を意図したものであるならば、その構成は正に甲第13号証に明確に示された構成と同一である。換言すれば、「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベース」を突設してそのベース上に棒状の案内レールを設けるか、甲第13号証に示されるように連結板を介して「ガイドレール」を設けるかは単なる設計変更事項に過ぎない。 一方、甲第4号証に、訂正された考案が特徴とするバレルのスリットを挟んだ両側の側壁の下方に延びる側壁の下方部にピストンの軸芯と平行な案内レール15,15が設けられていること、そして、甲第13号証にバレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみにピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設した構造のものが開示されていること、そして、甲第13号証のガイドレールもその両外側に夫々案内面を有することを併せ鑑みれば、訂正後の実用新案登録請求の範囲第1項で特定される考案もまた、当業者をしてきわめて容易に想到できるものに他ならないとも言える。 (3)本件考案は、甲第13号証、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。 記 甲第3号証に示されているモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aと甲第4号証に示されている第1図のロッドレスシリンダは、甲第3号証と甲第4号証は共に直線運動を行なうものであることから機能上同一であり、従って、当業者をして互いに置換可能である。 甲第4号証の第1図には、シリンダ本体を構成する筒状部材1の側壁の下方部を断面スカート状に広げてベース形状として一体に突設し、そのベースの一部がピストンの軸芯と平行な案内面15として構成されていることが開示されている。しかも、シリンダ本体から離間して配設された棒状の案内レールは、甲第13号証において既に開示されているとおりである。 (4)本件考案は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第13号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。 記 すでに述べたとおり、本件考案の基本的構成、すなわち、ロッドレスシリンダと案内レールとを平行且つ互いに離間しながら一体的に組みつける構成のものは甲第13号証に開示されている。そして、甲第3号証にはモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aとケーシング1aとを平行且つ互いに離間しながら一体的に組みつける構成のものが開示されている。さらに、甲第4号証にはロッドレスシリンダの駆動源に代えてスピンドルおよびスピンドルナットを用いることができる開示がある。逆に言えば、モータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aに代えて駆動源としてロッドレスシリンダを用いることができる示唆がある。さらにまた、甲第1号証では本件考案の課題が既に解決済であることが開示されている。 ≪主張4≫ 請求人は、平成14年12月17日付け審判請求理由補充書において、概略以下のとおり主張した。 本件考案は甲第27号証の願書に最初に添付した明細書および図面に記載された発明と同一であり、また本件考案と甲第27号証の発明者または出願人が同一であるとはいえないし、しかも本件において特段の事情があるとも認められないから、本件考案は実用新案法第3条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第1号の無効理由を有することが明らかである。 記 甲第27号証は、発明「機械式直線駆動装置」を開示する。甲第27号証の第2図から明らかな通り、該甲第27号証の「異形管1」,「縦スリット3」は、本件考案の構成要件Aの「バレル」,「軸方向のスリット」に対応する。 甲第27号証の「異形管1の縦スリット3から下方に延在する円弧状の両側の側壁」は、本件考案の構成要件Bの「スリットを挟んだ両側の側壁」に対応する。甲第27号証の「異形管1」の「縦スリット3の下方の右側の側壁のみ」にはこの「側壁から下方に延びる側壁の下方部」に本件考案の構成要件Bの「ベース」に対応する「台座部31」が一体的に突設されている(甲第27号証の第2図)。そしてこの「台座部31」に前記構成要件Bで規定される「棒状の案内レール」に対応する「案内棒34」が突設されており、この「案内レール34」に横断面C形状の「スライダ35」が係合している構造が示されている。 甲第27号証において、前記「案内棒34」は、その第2図の断面図から明らかな通り、縦スリット3の幅方向の両側に軸線8と平行な案内面を有し、その上面に物差37が嵌合している。この案内面はスライダ35の図示しない直線受座に係合して縦移動自在に案内する。これは、本件考案の構成要件Cである「その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え」に対応する。 さらに、甲第27号証の明細書および図面には、これらの案内面に案内される案内面を有する案内子、すなわち、「スライダ35」が伝動部材16に連結された連接部材36に設けられる構造が示されている。この構造は、本件考案の構成要件Dの「これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた」ことに対応する。 以上のとおり、甲第27号証は、構成要件B,C,Dを明確に示している。もっとも、甲第27号証は、電動機10の回転駆動によってウオーム7が回転駆動するものであり、構成要件Aが圧流体によって駆動されるピストンを採用しているのと異なっているが、構成要件Aは、周知技術(甲第1、4、24、25、26号証)を採用したにすぎないから、何ら特徴となる構成を有せず、本件考案の作用効果も周知技術と甲第27号証の構造から当然に生ずるから、本件考案と甲第27号証記載の発明は、実質的に同一というべきである。 ≪主張5≫ 請求人は、平成12年8月31日付け弁駁書において、概略以下のとおり主張した。 記 本件考案は2回の訂正拒絶理由通知書(甲第16号証および甲第17号証)を受けた。そしてこれらの訂正拒絶理由通知書に応じて、被請求人は意見書に付随して全文訂正明細書(甲第18号証、甲第19号証)をそれぞれ提出した。従って、訂正審判において、全文訂正明細書はその審判請求時のもの(甲第11号証)、第1回訂正拒絶理由通知書に応答して提出された甲第18号証、第2回訂正拒絶理由通知書に応答して提出された甲第19号証の都合3件ある。しかしながら、前記2つの全文訂正明細書(甲第18号証および甲第19号証)の訂正内容は訂正請求書および甲第11号証の要旨を変更するものであり、これらの訂正は東京高等裁判所の平成11年6月3日付け判決(平成8年(行ケ)第222号)(甲第15号証)の趣旨に違背し、当然に訂正無効とされるべきものである。その結果、本件考案では訂正自体なかったこととして取り扱われるべきものとなり、そうであるならば出願公告時の実用新案登録請求の範囲の考案が本件審判の対象となり、しかもその考案は甲第4号証と甲第1号証によって無効と判断されるに至っている。従って、本件考案に係る訂正審決は無効とされるべきである。 5.被請求人の主張 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の≪主張1?4≫に対して以下のように反論している。 <証拠方法> 乙第1号証:特開昭59-137608号公報 乙第2号証:米国特許第4519297号明細書 乙第3号証:実施許諾製品カタログ 乙第4号証:請求人製品カタログ 乙第5号証:侵害行為差止等請求事件の答弁書 乙第6号証:平成13年(行ケ)第78号 審決取消請求事件被告第1準備書面 乙第7号証:平成13年(行ケ)第78号 審決取消請求事件判決 乙第8号証:平成8年(ワ)第2964号 実用新案権侵害行為差止等請求事件判決 乙第9号証:特開昭59-197318号公報 乙第10号証:特公昭63-41652号公報 ≪請求人の主張1に対して≫ 被請求人は、平成9年2月14日付け審判事件答弁書等において、概略以下のとおり主張した。 (1)本件考案は、甲第1号証に記載の技術と実質的に同一ではなく、その技術思想を異にするものであり、実用新案法第3条第1項(第3号)に該当するものではなく、無効にされるべきものではない。 記 甲第1号証に記載の技術は、側壁が内圧によって変形する場合の問題点を解消する為に、2つの内室の隔壁(中間壁45)の厚みを大きくし、その隔壁の両側によって2つのピストンの片側面を夫々案内するものであるから、隔壁の厚み寸法を大きくすることによって必然的にケーシングの大型化を招くものであり、またケーシング11の材料に弾力があるので隔壁(中間壁)が一方の内室の圧力によって他方の内室側へ或程度変形移動することは避けられず、その結果他方の内室のピストンの摺動抵抗が大きくなって円滑な案内ができなくなるものである。 それに対して、本件考案は、バレル両側の側壁の一方に左右両側に案内面を備えた案内レールを設け、その案内レールの両側の案内面によって案内子を案内するようにしたものであり、バレル側壁の厚さ寸法をその側壁が内圧によって変形する程度に小さくして小型化する場合でも、一方の側壁に設けた案内レールの両側の案内面によって案内子を円滑に案内できるようにしたものであり、甲第1号証に記載の技術とはその構成及び作用効果を異にするものである。 (2)本件考案は、甲第2号証に記載の技術と同一と言えるものではなく、全く異なるものであり、実用新案法第3条の2の規定によって登録を受けることができないものではなく、無効にされるべきものではない。 記 甲第2号証に記載の技術は、スリット両側に配置された案内トラックによってスリット両側で案内要素を案内したり、スリットの一方側に配設された外部案内機構と他方側に配設された案内要素によってスリット両側で案内要素を案内する技術であり、その特徴部分は、荷重受け部材に不均一な荷重が作用しないようにベアリングを介して荷重受け部材と案内要素を回転自在に連結する点にあることは明らかである。 それに対して、本件考案は、バレルの側壁が内圧によって変形する場合でも装置を大型化することなく円滑に案内できるように、バレルの一方の側壁に左右両側に案内面を備えた案内レールを設けてスリットの片側で案内するようにしたものであり、甲第2号証に記載の技術とはその目的、構成及び作用効果を異にするものである。 (3)本件考案は、甲第1号証と甲第3号証とを併せ鑑みても、当業者をしてきわめて容易に想到することができたものではなく、実用新案法第3条第2項の規定によって登録を受けることができないものではなく、無効にされるべきものではない。 記 甲第3号証に記載の技術は、高精度位置決めが可能な「テーブル用直線運動ころがり軸受ユニット」に関するもので、本件考案が対象としているスリット付シリンダに関するものではないし、圧流体シリンダに関するものでもなく、対象分野を異にするものである。 甲第3号証に記載の技術は、ねじ軸が回転することによって送りねじ体即ちケーシングを正確に移動させるようにしたものであり、本件考案のように、バレル側壁が内圧によって変形するものではないし、その変形があっても円滑に案内できるようにしたものでもなく、当然にバレル両側の一方に案内レールを設けるものでもなく、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にするものである。 また、甲第1号証に記載の技術は、2つの内室の隔壁の厚みを変形しないように大きくし、その隔壁の両側によって2つのピストンの片側面を案内するようにしたもので、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にするものである。 (4)本件考案は、甲第4号証と甲第3号証とを併せ鑑みても、当業者をしてきわめて容易に想到することができたものではなく、実用新案法第3条第2項の規定によって登録を受けることができないものではなく、無効にされるべきものではない。 記 甲第4号証に記載の技術は、スリットの両側に設けた案内レールによって案内するものであり、本件考案のように、バレル側壁が内圧によって変形しても円滑に案内できるようにするものではないし、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方に案内レールを設けるものでもなく、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にするものである。甲第4号証の記載から、本件考案の課題を想起させることは、決して有りえないことである。 甲第3号証に記載の技術は、ねじ軸が回転することによって送りねじ体即ちケーシングを移動させるようにしたものであり、本件考案のように、バレル側壁が内圧によって変形しても円滑に案内できるようにするものではないし、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方に案内レールを設けるものでもなく、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にするものである。 なお、甲第3号証には、モータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aをスリット付ロッドレスシリンダに代えることを示唆する記載はどこにもなく、しかもねじ軸により正確に送るものであるからモータ14、ねじ軸5、送りねじ体4aをスリット付ロッドレスシリンダに代えることなど予想だにしないことである。 (5)本件考案は、甲第1号証と甲第3号証および甲第4号証をどのように組み合わせても当業者が極めて容易に想到することができたものではなく、充分に登録要件を備えたものである。 (6)本件考案2は本件考案に従属するものであるから、本件考案が無効とされるべきものでない以上、本件考案も無効とされるべきものでないことは明白である。 (7)本件考案は、実用新案法第5条第4項の規定に違背してなされたものではなく、同法第37条第1項第3号により無効にされるべきものではない。 記 実用新案登録請求の範囲に特定する本件考案は技術思想であって種々の具体例が想定されるものであるから、本件考案において、案内子を連結板を介して設けるものに限定しなければならない理由はなく、側方に張り出すように形成したドライバーに直接設けることも自由であるから、単に「案内子をドライバーに設ける」と表現しているものであることは明白であり、何ら実用新案法第5条第4項の規定に違反するものではない。 本件考案では、「案内子をドライバーに設ける」の実施例の一つとして、「連結板」を介するものを示しているものであり、実用新案法に違反するものでないことは明白である。 ≪請求人の主張2に対して≫ 被請求人は、平成12年5月1日付け審判事件答弁書及び平成15年3月20日付け第5答弁書において、概略以下のとおり主張した。 訂正審決で認容された訂正事項(あ)乃至(か)は、下記する理由により、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第39条第1項ただし書き若しくは第2項の規定に適合する。 記 (1)訂正事項(あ)について、 訂正事項(あ)は、実用新案登録請求の範囲第1項に記載の要件「両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、」を「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」と訂正し、案内レールの設置位置を一方の側壁の下方部に突設したベースの上に特定すると共に、案内レールを棒状のものに特定し、かつ案内レールをベースの上にバレルと一体に突設することに特定するものである。そして、バレルにおける「側壁の下方部」が側壁の下端部近くであることを特定するために、「側壁の下方部」を修飾する用語として「その一方の側壁から下方に延びる」を加入し、バレルの壁が「一方の側壁から下方に延びる」ところであること(バレルの側壁はバレル孔の側方に位置し、下壁はバレル孔の下方に位置し、側壁の下端部近くでバレル壁が側壁から下方に延びている)を特定したものである。 「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し」の記載の本質が、「一方の側壁の下方部にベースを一体に突設すること」にあり、「一方の側壁から下方に延びる」が「側壁の下方部」を修飾する用語であることは、訂正後の「考案の効果」で「両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを突設し」と記載していることや、第1図や第2図に「一方のみの側壁の下方部にベースを突設してそのベース上に棒状の案内レールを突設し」た構成が開示されていることからみても容易に理解できる。 「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し」た構成は、訂正前の明細書に実施例の説明として、「第1図及び第2図において11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで」(本件公報第3欄第26?28行)と記載され、第1図及び第2図に、「一方のみの側壁9の下方部にベース11を一体に突設すること」及び「ベース11が突設されている側壁の下方部はバレル壁がその一方の側壁から下方に延びているところであること」が当業者にとって明確に図示されているから、本件実用新案権の訂正前の明細書に開示されている事項である。 側壁の下方部にベースを突設することや、そのベースの上に案内レールを一体に突設することや、案内レールが棒状のものであることは、本件公報第3欄第26?30行に「11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に設けられ、」と記載されていることや第2図の記載から明白である。また、側壁の下方部に突設したベースの上に案内レールを突設することによって、バレルがふくれて側壁が拡がっても、ドライバーを傾倒させることなく正確に直線作動させることができる効果を奏することは、明細書に記載されている。 訂正審判請求書(甲第10号証)に、「訂正(あ)」の訂正の原因として、「訂正(あ)は、・・・と訂正し、案内レールの設置位置を一方の側壁の下方部に突設したベースの上に特定すると共に、案内レールを棒状のものに特定し、かつ案内レールをベースの上にバレルと一体に突設することに特定するものである。」と記載されている。 よって、訂正事項(あ)は、「実用新案登録請求の範囲の減縮」に該当するものである。また、案内レールを側壁の下方部に突設したベースの上に突設することや案内レールが棒状のものであることは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていることであるから、訂正事項(あ)は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 請求人は、「『案内レールをバレルと一体に設け、』とあるを、『案内レールを一体に突設し、』と訂正し、バレルとの関係を遮断した。」と主張しているが、訂正では、「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」と訂正し、バレルの一方の側壁に一体に突設したベースの上に案内レールを一体に突設してバレルとの関係が維持されているから、請求人の主張は失当である。また、「両側の側壁の一方のみに案内レールを一体に突設することと、案内レールをバレルと一体に設けることとは全く異なる構成である。」と主張しているが、訂正内容「バレルの一方の側壁に一体に突設したベースの上に案内レールを一体に突設すること」は訂正前の「バレルの一方の側壁に案内レールをバレルと一体に設けること」を具体化して減縮したものであるから、構成としては減縮により具体化されているが、全く異なるものではなく、請求人のこの主張も失当である。 (2)訂正事項(い)について、 「スリットの幅方向の両外側」が、バレルのスリットの幅方向即ち本件公報の第2図において左右方向に位置する両外側を意味し、案内レールの左右外側を意味することは、当業者にとってきわめて明白である。側壁に突設された案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を備えることは、公告公報第3欄26?32行に「11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ、該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。」と記載されていることや第2図の記載から明白である。よって、訂正事項(い)は、「実用新案登録請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」に該当し、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)訂正事項(う)について、 訂正事項(う)は、実用新案登録請求の範囲第1項の記載を訂正したことに伴い、明細書の「問題点を解決するための手段」の項目の記載を、訂正後の実用新案登録請求の範囲第1項の記載に一致するように訂正するものである。 (4)訂正事項(え)について、 訂正事項(え)は、明細書の「考案の効果」の欄に、「ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行ない得る。」との効果を奏するための構成として、「バレルと一体に構成された案内レールにより、」と記載されているが、この記載ではバレルに対する案内レールの構成が不明瞭であるので、訂正事項(あ)にて訂正した案内レールの構成を加入し、「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上に一体に突設された棒状の案内レールによって案内するようにしたので、」と訂正し、横から負荷を受けてもドライバーが傾倒することなく正確な直線運動を行なう為の構成を明瞭にするものである。よって、訂正事項(え)は、「明瞭でない記載の釈明」に該当するものである。 (5)訂正事項(お)について、 訂正事項(お)は、明細書の「考案の効果」の欄に、「また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、狭い場所であっても容易に取付けが可能である。」との効果を奏するための構成の記載が省略されていて不明瞭であるので、その効果を奏するための構成を加入し、その際、訂正事項(あ)によって実用新案登録請求の範囲第1項を「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールをバレルと一体に突設し、」と訂正したことに伴い、訂正後のその構成を加入して効果の記載を明瞭にしたものである。即ち、考案の効果の記載「また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」を、「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁に突設したベース上に棒状の案内レールを一体に突設しているので、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」と訂正するもので、明細書の考案の効果の記載を明瞭にするものである。 さらに、訂正事項(お)は、明細書の「考案の効果」の欄に、「また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」との効果を奏するための構成の記載が省略されていて不明瞭であるので、その効果を奏するための構成を加入するものである。即ち、考案の効果の記載「また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」を「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを突設し、その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えているので、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」と訂正するもので、明細書の考案の効果の記載を明瞭にするものである。 よって、訂正事項(お)は、「明瞭でない記載の釈明」に該当するものである。 (6)訂正事項(か)について、 訂正事項(か)は、原明細書の第7頁第2?10行(本件公報第4欄第19?23行)の記載を削除するもので、実用新案登録請求の範囲第1項の記載を訂正事項(あ)で減縮したことに伴ない、請求の範囲に含まれなくなった技術的事項を削除して明瞭にしたものである。 ≪請求人の主張3に対して≫ 被請求人は、平成12年5月1日付け審判事件答弁書及び平成15年3月20日付け第5答弁書において、概略以下のとおり主張した。 本件考案は、下記する理由により、実用新案法第39条第3項の規定に適合する。 記 <甲第4号証について> 甲第4号証の考案は、後述のように、スリットを挟んだ両方の側壁に案内レールを設ける技術を示すものと確信するが、万歩譲って、スリットを挟んだ両方の側壁の一方のみに案内レールを突設するものを示すとしても、その構成は、一方の側壁の上端面に案内レールを固着しているもので、バレルの側壁がピストン移動用の内圧によって外側へ変形されると、案内子を正確に直線運動できなくなるし、ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用すると、側壁が軸芯と直角方向に弾性変形して案内子を正確に直線移動できなくなる問題があるから、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にする。 甲第4号証に記載の「代替する実施形態」の意味は、メインクレームの記載、明細書の発明の詳細な説明の記載及びその発明の実施形態の記載から、「スリットを挟んだ両側の側壁に夫々案内レールを突設するもの」と理解すべきである。「代替する実施形態」における「その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。」の記載は、特許発明の実施形態の説明であるから、「スリットの一方側の側壁に外部案内システム45を備え、他方側の側壁にスライダ46で案内される案内要素170を備え、外部案内システム45の可動部材45aを案内部材170に限定的に移動可能に接続する場合、他方側の側壁に外部案内システム45を備えてその45に部材46、170の任務を引き受けさせることで、スライダ46および案内部材170を省略した実施形態も考えられる」ことを意味する。 <甲第1号証について> 甲第1号証の考案は、スリットを挟んだ一方の側壁(隔壁)に別の外側壁を対向状に突設し、その隔壁と外側壁との相対する対向面によって案内面を構成するもので、本件考案のように、一方の側壁の下方部に突設したベース上に案内レールを設けてその案内レールの両外側に案内面を備えるものではなく、本件考案とは、構成を異にする。甲第1号証の「筒型内室13」や「案内内壁」は、本件考案の「案内レール」や「案内面」とはその構成及び作用効果を異にし、本件考案の「案内レール」や「案内面」に相当するとは言えない。 <甲第13号証について> 甲第13号証の考案は、本件考案の明細書で従来の技術として揚げている第4図と同様に案内子をガイドロッドによって案内するもので、本件考案のようにバレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部にベースを突設するものではないし、そのベース上に棒状の案内レールを突設するものでもなく、また、ガイドロッドをバレルと別個に設ける関係上装置が大型になる問題(案内レールがバレルの剛性を利用できないのでガイドロッドを太くする必要がある)があり、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にする。 <甲第3号証について> 甲第3号証の考案は、特許請求の範囲に「ケーシングには、送りねじ体が装着され、前記送りねじ体に螺合されるねじ軸が両端において前記トラックレール端に回動自在に支承されている」と記載されていることから明白なように、ねじ軸が回転することによって送りねじ体を正確に移動させるものであり、本件考案のように、バレル側壁が内圧によって変形するものでないし、当然のことながらバレルの一方のみの側壁の下方部にベースを一体に突設するものでもないし、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設するものでもなく、本件考案とはその目的、構成及び作用効果を異にするもので、本件考案の課題を想起させることはない。 以上のことを前提として、 (1)本件考案の訂正は、「両側の側壁の一方のみに、ピストンの軸芯と平行な案内レールをバレルと一体に設け、」を「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」と訂正し、本件考案の構成を甲第4号証や甲第1号証の考案と異ならせると共に、減縮に基づく本件考案の効果を明瞭にし、その効果は甲第4号証や甲第1号証の考案では成し得ない格別な効果である。よって、本件考案は、甲第4号証及び甲第1号証に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではない。 (2)甲第13号証の考案は、本件考案とは目的、構成及び作用効果を異にし、本件考案の目的、構成及び作用効果を示唆するものでもないから、本件考案は、前記甲第1号証と甲第4号証に甲第13号証を併せ鑑みたとしても、当業者をしてこれらの記載からきわめて容易に想到することができるものではない。 (3)甲第13号証と甲第4号証と甲第3号証の何れにも本件考案の目的、構成及び作用効果について示唆する記載がないし、これらを組み合わせることについて示唆する記載もないから、本件考案は、当業者であっても甲第13号証と甲第4号証と甲第3号証からきわめて容易に想到することができるものではない。 (4)甲第1号証の考案は、一方の内室の内面によって案内子を案内したり、2つの内室間の隔壁の両側面で夫々のピストンを案内するもので、前者のものは、他方の内室の内圧によって隔壁が外側へ変形すると前記内室の案内子が円滑に作動しなくなり、後者のものは、隔壁の厚みを大きくする必要があって装置幅が大きくなる問題があり、本件考案の目的、構成及び作用効果について示唆するものでないし、これを甲第13号証と甲第3号証甲第4号証に組み合わせることについて示唆する記載もなく、本件考案は、当業者であっても甲第1号証と甲第13号証と甲第3号証と甲第4号証からきわめて容易に想到することができたものではない。 ≪請求人の主張4に対して≫ 被請求人は、平成15年3月20日付け第5答弁書において、概略以下のとおり主張した。 本件考案は、下記する理由により、甲第27号証記載の発明と同一とはいえない。 記 甲第27号証記載の発明は、「機械式直線駆動装置」に関する先願発明であり、本件考案のような「圧流体シリンダ」に関するものでなく、本件考案とは対象技術を異にしている。 甲第27号証記載の発明は、1個の軸上で複数個の伝動部材を互いに独立させることは基本的に不可能である従来技術の欠点を解決するものであり、本件考案とは、その目的、構成及び作用効果を異にしている。 甲第27号証には、本件考案の構成要件Bについては何ら開示も示唆もされていない。 甲第27号証記載の発明は、本件考案のようにバレルが押し広げられてスリットが広がるおそれはなく、したがって、解決すべき課題が共通でない。 6.当審の判断 <甲第1乃至4号証、甲第13号証、甲第27号証記載事項> (1)甲第1号証(特開昭60-172711号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「第1図は、圧力媒体シリンダ構造体のケーシング11の正面図である。ケーシング11は長手方向に延びる2つの筒形内室12,13を備えている。図示の実施例の場合、内室の横断面は円形であるか、他の形でもよい。内室12の中には、ピストン14が挿入されている。・・・ピストンのこの摺動により、ピストンに連結された装置を動かすことができる。」(第4頁左下欄第4?19行) イ.「第2図から判るように、ピストン14と補助ピストン16はそれぞれ1個の突起18,19を備えている。この両突起はケーシング11のそれぞれ1つの縦スリット20,21を通って外側へ突出ている。同様に第1図から判るように、縦スリット20の内室12の側と、縦スリット20のケーシング11外面側はそれぞれ1つの帯状シール22,23によってシールされている。この帯状シールは上側のピストン14において内室12を圧密にシールする。補助ピストン16用縦スリット21はその外側が同様に帯状シール24によってシールされている。この帯状シール24はガイド内へのゴミの侵入を防止する。両突起18,19は互に平行にかつケーシング11の外面25に対して垂直に延びている。両突起18,19は連結板26によって相互に固定連結されている。この場合、連結板26は突起に取付けたスペーサ部材27に、ねじ28によってねじ止めされている。」(第4頁右下欄第9行?第5頁左上欄第7行) ウ.「補助ピストン16は、ピストン14用内室12の領域で構造体を拡げないようにする。更に、両ピストンと連結板26を相対的に動かないように配置することによって、突起18に作用する横向きの力はすべて受止められる。従って、横向きの力を縦スリット20,21の長手縁部によって受止める必要がない。」(第5頁左上欄第14行?同頁右上欄第1行) エ.「第3図には補助ピストンの変形実施例が示されている。この補助ピストン39は横断面が円セグメント状の2つの部分30を有する。この部分の横断面は円の半分以下にわたって延び、かつ筒形の中央部分31によって相互に連結されている。このピストン39は第2図の補助ピストン16と同じ目的を達成する。なぜなら、内室13の内壁に沿って補助ピストンが案内されるからである。更に、このピストンは、縦方向に見てその両側に空気クッションが形成されないという利点がある。」(第5頁右上欄第2?12行) オ.「例えば第6図の右側の内室に圧力が加えられると、ケーシング11の材料に弾力があるので、内室がやや拡大する。内室がケーシング11の外面25・・・の近くに設けられ、中間壁45が硬いので、右側の内室の拡大はケーシング11の右側の縁領域48においてのみ行われる。従って、右側の内室13の左半部は変形しないで円形のままであり、一方、内室13の右半部は外側へ拡大している。・・・ピストン36は内室13の左半部のところで、内室13が変形しない場合と全く同様に案内される。しかし、ピストン36がやや拡大した内室13部分へ向かって右側へずれることはない。・・・この移動は中間壁45によって回避される。それによって、両内室が拡大した場合にもピストン36はピストン14と同様にその標準位置にあり、正確に案内される。」(第6頁左上欄第6行?同頁右上欄第8行) カ.「両内室の横断面を同じにする必要はない。例えば横断面積または形状が異なるようにしてもよい。」(第3頁右上欄第18?20行) キ.「2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられ、かつ中央の隔壁によって相互に分離され、両ピストンの力取出し突起が互いに平行に延び、かつ連結板にねじ止めされ、・・・この構造により、ピストンとその力取出し突起が変形不可能な中央の隔壁に沿って正確に案内される。それによって、縦スリットが圧力の作用にによって少し拡がっても、力取出し突起は側方移動不可能である。縦スリットの拡大は、隔壁とは反対の縦スリットの側でのみ発生する。」(第3頁左上欄第13行?同頁右上欄第7行) ク.「本発明の実施態様では、両ピストンが圧力媒体のためのシールを備えている。それによって、第2のピストンを収容するシリンダの内室の中でも該ピストンに圧力を加えることができる。従って、平行に延びる両内室の中で等しい圧力が発生するので、中央の隔壁は片側から横向きの力を受けない。よって、隔壁が変形したり、横へ移動することがないので、本発明の圧力媒体シリンダの、圧力とは全く無関係の案内特性が得られる。これによって更に、片側からのせん断モーメントが発生せず、」(第3頁左下欄第18行?同頁右上欄第8行) (2)甲第2号証(特開昭60-234106号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「この装置には円筒状の筒状部材1が設けられ、・・・荷重受け要素として作用するピストン4は、シリンダ空間2内に縦方向に案内され、・・・上記の筒状部材1にはその上面に縦方向のスリット10が形成され、上記チューブ5と一体に形成されたリブ状の荷重伝達要素11がこのスリットを貫通して外方に突出している。」(第5頁左上欄第15行?同頁右上欄第18行) イ.「荷重伝達要素11の両側において、縦方向のスリット10は可撓性のシール要素27によってシールされ、・・・この合成樹脂製のシール要素27はリブ28を備え、このリブはスリット10を貫通して突出し、シール要素30の縦方向溝30に嵌合し、」(第6頁左上欄第5?12行) ウ.「第2図のものは、案内要素170がヨーク形のつる状をなし、この案内要素には円板形のベアリング部220が設けられ、・・・このベアリング18およびシール要素30はベアリング部220を超え、カバーフード40によってカバーされ、このカバーは荷重受け要素11に接続され、またこのカバーの幅は上記のシール要素およびスリット10の幅より大きい。また、上記スリット10の近傍の平坦で平滑な面41には・・・表示される。また、上記案内要素170の反対側には、たとえば補強帯45がスリット10に沿ってこの筒状部材1に設けられ、この筒状部材1が長尺の場合にこの曲りを防止する。また、略ヨーク形のスライダ46が筒状部材1の2個の下部案内トラック15の間に縦方向に移動自在に案内されており、また案内要素170に接続されている。そして、このスライダ46に被動側の要素が接続されている。」(第6頁右上欄第20行?同頁右下欄第7行) エ.「また、別の実施例では、この筒状部材1に外部案内機構が設けられ、このシリンダ空間2の軸13の方向の案内をなす。この外部案内機構は第2,6図中45で示し、補強帯45が案内レールとして使用され、これらの間には移動要素45aが設けられ、この移動要素はボール形のニップルを備え、荷重受け要素11または案内要素170に所定量だけ移動自在に結合されている。また、外部案内機構が筒状部材1に直接取付けられ、図に45で示すだけでなくこの筒状部材に固定されたレール要素に外部案内機構が取付けられていてもよく、また第2,6図に示す補強帯すなわち案内機構とは別の位置に配置してもよい。」(第7頁左上欄第5?19行) オ.「第3図に示す直線伝動装置は第1図のものと略同様のものである。この図中、対応する部分には同符号を付してその説明を省略する。第1図に示すものは、荷重受け要素にピストンが設けられ、その両端面に流体圧が作用するが、この第3図のものは荷重受け要素がスピンドルナットであり、このナットは筒状部50内に収容され、シリンダ空間2内に同心に収容された螺条を有するスピンドル500に螺合している。このスピンドルは蓋3に回転自在に支持され、図示はされていないが、モータ等の駆動機構に接続されている。」(第6頁右下欄第8?19行) カ.「縦方向のスリット(10)を備えた細長状の筒状部材(1)と;上記筒状部材(1)内に縦方向に摺動自在に設けられた荷重受け要素および荷重伝達要素(4、11)と;細長状の筒状部材の端部と荷重受け要素(4)の間に上記スリットを閉塞するように配置された可撓性の細長状のシール要素(30、27)を備え、このシール要素は上記荷重受け要素がこの筒状部材内で縦方向に移動自在であるとともにこの荷重受け要素が縦方向に移動した場合にその背後の部分で上記スリットを閉塞するように再び嵌合するものであり;上記細長状の筒状部材に対応して案内要素(45)が設けられ;この案内要素上を往復動自在に案内要素(45a)が案内され;また、上記荷重受け要素および荷重伝達要素(4)を案内要素に筒状部材の縦方向に移動自在に接続し荷重を上記荷重受け要素(4)に伝達する手段(18)を備えたものにおいて、案内手段は外部案内機構に形成され、この外部案内機構は上記筒状部材(1)に対応してそのシリンダ軸(13)と平行に配置され、またこの外部案内機構は上記荷重伝達要素または案内要素(17,170)に所定量だけ移動自在に接続された案内要素(45a)を備えていることを特徴とする直線伝動装置。」(特許請求の範囲第19項) キ.「本発明は、荷重伝達要素または案内要素に不均一または過大な荷重が作用した場合あるいは特に案内部材や筒状部材の製造誤差によって、筒状部材内に収容されている荷重受け部材に不均一な荷重が作用するのを防止することができ、しかも高精度の仕上等を必要としない直線伝動装置を提供することを目的とする。」(第3頁右下欄第16行?第4頁左上欄第2行) (3)甲第3号証(特開昭58-214015号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「第11図,第12図に示すごとく、本実施例においては幅の広いトラックレール10aの両側面の長手方向にそれぞれ軌道条列30が設けられ、・・・前記相対峙する各軌道条列30,37間に多数の転動体(ボール24またはローラ)が介装される構成は第1の実施例と同様である。本実施例においては、ねじ軸5はトラックレール10aの一方の側方に平行して設けられ、従ってモータ14、ブラケット32a,33aも、トラックレール10aの一方の側方に、該トラックレール10aに固着され、ケーシング1aの本体2aの送りねじ体4aの位置も、本体2aの一側に偏して設けられている。・・・幅広のトラックレール10,10aの両側面に軌道条列が設けられている構成であるため、トラックレール10,10aが単一のものでありながら走行中のケーシング1,1aの揺動を生ずることがなく、また前記トラックレール10,10aはその下面全体で取付体へ直接取付けられているため、前記ケーシング1,1aの移動に際し、荷重による撓みを生ずることがなく、運行中の精度の低下が極めて少なく、しかも全体として単純な形状であるため、加工が容易で組立累積誤差が少ないため、高精度で走行所要動力が少なく、モータも小型で充分である安価な直線運動装置を得ることが可能となったものである。」(第4頁左下欄第12行?第5頁右下欄第1行) イ.「前記ケーシングには、送りねじ体が装着され、前記送りねじ体に螺合されるねじ軸が両端において前記トラックレール端に回動自在に支承されていることを特徴とするテーブル用直線運動ころがり軸受ユニット。」(第1頁左下欄第16行?同頁右上欄第2行) (4)甲第4号証(欧州公開特許公報第0157892A1号)には、次の事項が記載されている。 ア.「直線伝動装置の第3図に示す実施形態は、基本要素において第1図のそれに対応する。ここでも同じ要素には同じ参照符号を付し、特に説明しない。しかし第1図の実施形態では荷重受け要素はピストン4の形態で形成され二つのピストン部6の前面表面に圧力媒体が作用することにより縦方向に移動可能であるが、第3図の装置では荷重受け要素はスピンドルナットであり、このスピンドルナットは筒状部50内に収容され500で示唆する同心でシリンダ穴2を通るねじスピンドルと協動する。ねじスピンドル500は、両側を端部要素またはふた3内に回転可能に支承される。このねじスピンドルは、ここには図示しない動力源、例えば電気モータと結合するため使用される。」(第12頁第25行?第13頁第20行;甲第4号証訳文第8頁第22行?第9頁第1行) イ.「本発明は、縦方向にスリットを有し端側を閉塞した筒状部材を有する直線伝動装置に関し、その筒状部材内に軸方向に駆動される荷重受け要素を縦方向に移動可能に設置し、筒状部材の縦方向スリットを荷重受け要素の両側で内部に設置した可撓性のシール帯によりシールし、このシール帯を縦方向のスリットを通って外側に突き出し荷重受け要素と接続した荷重伝達要素の下を通して設置し、場合によってこのシール帯に筒状部材の外面に設置し同様に端側を固定した可撓性のカバー帯を配置し、このカバー帯が縦方向スリットを介してシール帯と共働する保持機構を有し、その際、荷重伝達要素は筒状部材の一部を囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され、平行案内部の案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される直線伝動装置に関する。」(甲第4号証訳文第3頁第3?13行) ウ.「荷重伝達要素は筒状部材を部分的に囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され、平行案内部の案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」(甲第4号証訳文第10頁の請求の範囲の1の第6?9行) エ.「筒状部材1の外面に、12で示した、シリンダ穴2の軸13を有する中心面の上側と下側で縦スリット10を通る垂直の中心面14の両側に、各一対ずつ配置した案内レール15、16を配置する。・・・縦方向スリット10の両側に延びる二つの案内レール16でつる状の案内要素17が縦方向に移動可能に支承され、・・・接続される。」(甲第4号証訳文第6頁第12?18行) オ.「代替する実施例では・・・外部案内システムは、例えば図2の45では補強板の代わりに設置でき、その際・・・スライダなどの方法で形成できる。45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。」(甲第4号証訳文第9頁第6?12行) カ.「本発明の課題は、一般に、荷重伝達要素または案内要素の不均一または過度の荷重、または特に案内部と筒状部材の製造公差のもたらす、筒状部材内に設置する荷重受け要素の不均一な荷重を防止するために、最初に挙げたような直線伝動装置を高価な構造対策なしに改善することである。」(甲第4号証訳文第3頁第26?29行) キ.「荷重受け要素を少なくとも一つの支承部で案内要素と限定的に可動に結合することを特徴とする。この支承部は特に案内要素と荷重伝達要素間に設置でき、好ましい実施形態では筒状部材の外側にある。」(甲第4号証訳文第4頁第1?4行) (5)甲第13号証(DE2908605号A1公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「この新しい空気式リニアユニットは、ピストンロッドの無いシリンダ(1)と、ボールガイドを有して前記シリンダに平行に配置される一つまたは複数のガイドレール(2)を備え、前記ガイドレールは、前記シリンダに固着されて水平方向及び鉛直方向に発生する力および運動量を吸収し、キャリッジ(3)はピストンブラケット(4)に接続されて更なる直線方向、回転方向及び他の移動あるいは操作荷重を吸収する。この空気式リニアユニットの本質的な利点は、ピストンロッドの無いシリンダを使用することにより素早く大きな直線的変位が設置スペースを節約して得られる点にある。シリンダがガイドレールに連結され、キャリッジがシリンダのボールガイドおよびピストンブラケットに連結されることにより、ユニット構成に応じたコンパクトなリニアガイドの動作が得られる。ガイドレールを使用することにより、平行な案内および終端位置に関する高い再現精度が得られ、大きな力および運動量が移動可能である。」(甲第13号証訳文第1頁第3?16行) イ.「この新しいユニットは、スペースを節約しより速い移動スピードを実現できる。」(甲第13号証訳文第1頁第19?20行) ウ.「キャリッジ(3)を担持するガイドレール(2)は一対の連結板によってピストンロッドの無いシリンダ(1)に離間し且つこのシリンダ(1)と一体化されている。」(図面) (6)甲第27号証(特開昭62-88866号公報)には、次の事項が記載されている。 ア.「縦スリットを有し、末端側が軸受フランジで閉鎖された形状安定な異形管の中にウオームが支承され、ウオームナットによって管の長手方向に駆動される伝動部材が上記の縦スリットを貫いて異形管から外へ突出し、この長手方向直線運動を発生する動力源が配属されて成るウオームギヤに沿って、被駆動伝動部材の限られた直線運動を発生するための機械式直線駆動装置」(第1頁左下欄第5?13行) イ.「伝動部材の縦運動が被駆動ウオームによって強制的に行われるから、1個の軸上で複数個の伝動部材を互いに独立に運動させることは基本的に不可能である。また伝動部材の直線運動速度の変更は、ウオームの回転数を適当に調整することによってしか行えない。」(第2頁右下欄第1?7行) ウ.「上述の直線駆動装置と比較して拡張された使用範囲を長所とし、しかもそれによって場所の必要が大幅に増加せず、又は被駆動部分の位置ぎめ又は運動の精度が阻害されない機械式直線駆動装置を提供することである。」(第3頁左上欄第4?9行) エ.「ウオームナットが回転自在かつ軸方向移動不能に伝動部材に支承され、また伝動部材に連接された動力源が、伝動部材に配属されたギヤを介してウオームナットと連結されることを特徴とする。」(第3頁左上欄第11?15行) オ.「機械式直線駆動装置は、例えばアルミニウムを押出し成形した異形管1を有する。異形管1は円柱形の縦穴2を具備し、片側に縦穴2に通じる軸平行の縦スリット3が形成されている。縦スリット3は平行の側面によって画定される。縦スリット3は平坦な面4に開口する。・・・縦穴2の中にその軸線8と同心にウオーム7が配設され、その両端が2個の軸受フランジに支承される。軸受フランジの1つは参照番号9で示されており、2個の軸受フランジが異形管1の相対する端面に取付けられている。・・・ウオーム7が軸受フランジ9に回転自在に支承され、一方の軸受フランジ9に取付けられた電動機10に一端が連結されるように構成してもよい。この電動機10はウオーム7のための独自の動力源をなす。ウオーム7上に二つ割ウオームナット11が取付けられ、ウオームナット11の2つの部材11a,11bは、ウオームナット11の駆動部材をなすブッシュ状中間片12の両側にある。・・・該連結部材15は縦スリット3を貫いて突出し、縦スリット3の中で側面を拘束される。腹板状連結部材15と、ウオーム7を取囲むケース13は共同で伝動部材16を構成する。・・・伝動部材16の連結部材15の軸受部17には、はす歯平歯車18が回転自在に支承されているとともに、駆動軸19に回転不能に固着され、その歯が中間片12の同じくはす歯として形成された外歯20とかみ合っている。こうして構成されるマイター歯車は、駆動軸19の回転運動を縦スリット3に沿った伝動部材16の対応する直線運動に変換することができる。」(第4頁右上欄第10行?第5頁左上欄第10行) カ.「異形管1は台座部31の上に据付けられている。台座部31は止ねじ32によってベッドに螺着され、角柱状断面形状の締付け棒33を有する。締付け棒33は異形管1の縦案内6に係合し、異形管1を固定する。・・・案内棒34はスライダ35のための案内路をなす。スライダ35は横断面がおおむねC形であり、詳しく図示しない直線受座により案内棒34の上で縦移動自在に案内される。スライダ35は連接部材36を介して伝動部材16に固着される。・・・代案としてスライダ35又は伝動部材16に別の機械部材を連結し、上述の直線駆動装置からこれに縦運動を付与することもできる。この縦運動は、・・・駆動モータ10とウオーム7を介して発生することができる。」(第5頁左下欄第6行?同頁右下欄第7行) ≪請求人の主張2について≫ まず、請求人の≪主張2≫について検討する。 (1)「訂正事項(あ)」について、 (1-1)訂正後の登録請求の範囲における「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し」の文言から読み取ることのできる技術的意義を検討するに、訂正後の文言中、第1番目の「側壁」と第2番目の「側壁」は、指示語「その一方」があることからして、同一のものである。次に、「一方の側壁から」の「から」が出発点を示す助詞であるものと解されるので、「一方の側壁から下方に延びる側壁」と分節を区切った場合、第3番目の「側壁」は、例えば「一方の側壁から発して最終的に到達する他の側壁」とも解することができるところ、この「他の側壁」が何の側壁であるのかは、登録請求の範囲の記載によっては明らかではない。側壁とは何らかの構造物の側面の壁であると解されるが、第1番目の「側壁」と第2番目の「側壁」は、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方の側壁であるから、「他の側壁」がバレルの側壁であるということ自体は明瞭であるものの、登録請求の範囲にはバレルの下方に位置する構造物についての記載はない。バレルの下方に構造物が存在していないのならば、そこに側壁が存在することはあり得ず、「他の側壁」が何の側壁なのかは、登録請求の範囲の記載からは不明である。結局、登録請求の範囲の記載自体から、「一方の側壁から下方に延びる側壁」と文言を区分した場合の側壁がどのような側壁を意味しているのかを一義的に読み取ることはできない。 そこで、本件明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載をみるに、甲第19号証によれば、訂正明細書における実施例の説明として、「第1図及び第2図において11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ、該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。」(第3頁第6?第9行)との記載があることが認められ(この記載部分は訂正前のものと変わりがない。本件公報参照。)、第1図及び第2図(本件公報参照。)には、バレル1Aの左側の側壁9のほぼ下半分に、バレル1Aのほぼ全長にわたるようにベース11が一体に突設されている様子が示されていることが認められる。他方において、訂正明細書及び図面に、バレル1Aの下方に他の構造物を設けることや、バレル1Aの左側の側壁9の下方に他の側壁を設けることの記載及び図示は認められない。そうすると、明細書の考案の詳細な説明及び図面の参酌結果によっても、「一方の側壁から下方に延びる側壁」が、バレル1Aの左側の側壁9以外の他の側壁を意味していると解することはできない。 一方、被請求人主張のとおり、「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し」を、「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、」、「その一方の側壁から下方に延びる」、「側壁の下方部に」、「ベースを一体に突設し」と区分してみると、「その一方の側壁から下方に延びる」が「側壁の下方部」を修飾し、「側壁の下方部」が一方の側壁から下方に壁が延びているところの側壁下方部の部位を示していると解することも、文理解釈上成り立つものである。そして、このような解釈も、訂正明細書の考案の詳細な説明及び図面とも矛盾するものではない。したがって、「一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部」をもって、バレル1Aの左側の側壁9と解すべきものであるとする被請求人の主張は理由がある。 また、訂正審判請求書に、訂正事項(あ)について、「案内レールの設置位置を一方の側壁の下方部に突設したベースの上に特定すると共に、案内レールを棒状のものに特定し、かつ案内レールをベースの上に一体に突設することに特定するものである」(第5頁第23?25行)と記載されていることが認められる。そして同請求書第5頁第12?16行の記載によれば、「上記実施例において案内レール10は、バレル1Aの側壁9に突設したベース11上に取付けられているが、バレル1Aとは別個に設けたベース11に案内レール10を取付け、適宜の取付具によってバレル1Aに一体的に取付けても良い。」との文章を削除する訂正の請求もされていることが認められるので、当該訂正は、案内レール10の設置位置を「バレル1Aの左側の側壁9に突設したベース11上に取付ける」実施例に限定したものと解される。甲第20号証(本件無効審判事件の口頭審理調書)添付の図によっても、上記認定判断は左右されない。 (1-2)案内レールが棒状のものであることは、本件公報第3欄第26?30行に「11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ、」と記載されていることや、第1図、第2図の記載から明白である。 また、本件公報第3欄第39?42行に「尚案内レール10と案内子13との構成は上記に限定されるものでなく、市販のスライディングユニット等より適宜に選択使用することも可である。」と記載されていることからみて、本件考案において、棒状の案内レール10は案内子13を案内する機能を有するものであれば足り、その断面形状が台形状であることに拘らないことが自明のことであることからみても、該棒状の案内レールは、訂正前の明細書及び図面に記載されていたと解すべきである。 (1-3)側壁の下方部にベースを突設することや、そのベースの上に案内レールを一体に突設することは、本件公報第3欄第26?30行に「11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に設けられ、」と記載されていることや、第2図の記載から明白である。 請求人は、「『案内レールをバレルと一体に設け、』とあるを、『案内レールを一体に突設し、』と訂正し、バレルとの関係を遮断した。」と主張しているが、訂正事項(あ)では、「両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」と訂正し、バレルの一方の側壁に一体に突設したベースの上に案内レールを一体に突設してバレルとの関係が維持されているから、請求人の主張は失当である。また、請求人は、「両側の側壁の一方のみに案内レールを一体に突設することと、案内レールをバレルと一体に設けることとは全く異なる構成である。」と主張しているが、訂正後の「バレルの一方の側壁に一体に突設したベースの上に案内レールを一体に突設すること」は訂正前の「バレルの一方の側壁に案内レールをバレルと一体に設けること」に含まれる1つの態様に限定したものであって、全く異なる(変更を加える)ものではなく、請求人のこの主張も失当である。 (1-4)以上のとおり、訂正事項(あ)は、訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (2)訂正事項(い)について、 「スリットの幅方向の両外側」が、バレルのスリットの幅方向即ち本件公報の第2図において左右方向に位置する両外側を意味し、案内レールの左右両外側を意味することは、当業者にとってきわめて明白である。 棒状の案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を備えることは、本件公報第3欄第26?32行に「11は、バレル1Aの左側の側壁9にバレル1Aの略全長に亘る如くに突設したベースで、該ベース11上には、断面形状台形状をなす案内レール10がピストン2の軸芯と平行に取付けられ、該案内レール10の両側の斜面には弧状の案内面12が設けられている。」と記載されていることや、第2図の記載から明白である。 よって、訂正事項(い)は、訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (3)訂正事項(う)について、 訂正事項(う)は、実用新案登録請求の範囲第1項の記載を訂正したことに伴い、明細書の「問題点を解決するための手段」の項目の記載を、訂正後の実用新案登録請求の範囲第1項の記載内容に整合させるもので、明細書の「問題点を解決するための手段」の項目を明瞭にしたものである。 よって、訂正事項(う)は、訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (4)訂正事項(え)について、 訂正事項(え)は、訂正事項(あ)で実用新案登録請求の範囲第1項を訂正したことに伴ない、明細書の「考案の効果」の欄に記載した効果の要因である「バレルと一体に構成された案内レールにより、」の構成の記載を、「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上に一体に突設された棒状の案内レールによって案内するようにしたので、」と訂正して実用新案登録請求の範囲第1項の訂正に対応させ、横から負荷を受けてもドライバーが傾倒することなく正確な直線運動を行なう為の構成を明瞭にしたものである。 よって、訂正事項(え)は、訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (5)訂正事項(お)について、 (5-1)訂正事項(お)は、明細書の「考案の効果」の欄に、「また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、狭い場所であっても容易に取付けが可能である。」との効果の要因の記載が省略されていて不明瞭であるので、訂正事項(あ)で実用新案登録請求の範囲第1項を訂正したことに伴い、その効果の要因として訂正事項(あ)の構成を加入して明瞭にしたものである。 即ち、訂正事項(お)は、考案の効果の記載である「また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」を、「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁に突設したベース上に棒状の案内レールを一体に突設しているので、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、」と訂正したもので、考案の効果の記載を明瞭にしたものである。 (5-2)訂正事項(お)は、明細書の「考案の効果」の欄に、「また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」との効果の要因の記載が省略されていて不明瞭であるので、訂正事項(あ)(い)で実用新案登録請求の範囲第1項を訂正したことに伴い、その効果の要因として訂正事項(あ)(い)の構成を加入したものである。 即ち、考案の効果の記載である「また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」を「また、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみの側壁の下方部に突設したベース上に棒状の案内レールを突設し、その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えているので、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」と訂正したもので、考案の効果の記載を明瞭にしたものである。 (5-3)よって、訂正事項(お)は訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (6)訂正事項(か)について、 訂正事項(か)は、原明細書の第7頁第2?10行(本件公報第4欄第19?23行)の記載を削除するもので、実用新案登録請求の範囲第1項の記載を訂正事項(あ)で減縮したことに伴ない、請求の範囲に含まれなくなった技術的事項を削除して明瞭にしたものである。 よって、訂正事項(か)は訂正審決の認定のとおり適法なものである。 (7)むすび 以上のとおり、訂正審決に係る訂正事項(あ)乃至(か)は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第39条第1項ただし書き若しくは第2項の規定に適合する。 したがって、本件考案の実用新案登録は、請求人の上記《主張2》の理由によっては、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第37条第1項第二の二号の規定により無効とすることはできない。 ≪請求人の主張1、3、4について≫ 請求人の≪主張1≫≪主張3≫≪主張4≫について検討する。 (1)甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第13号証記載の各考案について、本件考案と対比し検討する。 (1-1)甲第1号証記載の考案について、 上記甲第1号証記載事項ア.?ク.によると、甲第1号証には、 「a 片側のケーシング11の側壁に軸方向に縦スリット20を有し、該縦スリット20より片側のケーシング11内のピストン14に連設された力取出し突起18の先端が突出し、縦スリット20は帯状シール22,23にて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 b 片側のケーシング11の縦スリット20を挟んだ両側のうち一方の側のみに、変形不可能な中央の隔壁を介して、ピストン14の軸芯と平行な筒形内室13を設け、 c その筒形内室13には、前記縦スリット20の幅方向の両内側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 d これらの案内面に案内される案内面を有するピストン16,36,39を前記力取出し突起18に設けた e 圧流体シリンダ。」 の考案が記載されていると認められる。 本件考案と甲第1号証記載の考案とを対比すると、甲第1号証記載の考案の「片側のケーシング11」は、その機能からみて、本件考案の「バレル」に相当し、以下同様にして、「縦スリット20」は「スリット」に、「ピストン14」は「遊動ピストン」に、「力取出し突起18」は「ドライバー」に、「帯状シール22,23」は「スチールバンド」に、「ピストン16,36,39」は「案内子」に、それぞれ相当するから、両者は、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E 圧流体シリンダ。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 るのに対して、 甲第1号証記載の考案においては、 「b バレルのスリットを挟んだ両側のうち一方の側のみに、変形不可能な中央の隔壁を介して、ピストンの軸芯と平行な案内部材を設け、 c その案内子を内接して案内する案内部材には、前記スリットの幅方向の両内側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 る点で相違する。 そこで、上記相違点について、さらに検討する。 本件考案の構成要件B、Cの技術的意義は、本件考案に係る願書に添付された明細書(以下、「登録明細書」という。)の記載「本願は以上において詳記したように、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上に一体に突設された棒状の案内レールによって案内するようにしたので、ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行い得る。また、…一方のみの側壁に突設したベース上に棒状の案内レールを一体に突設しているので、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、狭い場所であっても容易に取付けが可能である。また、…その案内レールのスリット幅方向の両外側に案内面を夫々備えているので、圧流体の供給よってバレルがふくれてもドライバーを何ら支承なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。」及び技術常識(一端が固定されるとともに他端が自由端である部材が傾動する場合、自由端程移動距離が大きいこと)からみて、「圧流体の供給よってバレルがふくれても、そのバレルのふくらみによる影響が最も少なく、しかも、結果としてバレルと一体に案内レールを設ける態様を特定するものであって、構成要件B、Cにより、ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行い得て、また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、狭い場所であっても容易に取付けることを可能にし、また、圧流体の供給よってバレルがふくれてもドライバーを何ら支承なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送を可能とすること。」と解される。 これに対し、甲第1号証記載の考案の構成b、cの技術的意義は、甲第1号証の記載「上記記載事項キ.」、「共通の1個のケーシングを用いたので、ケーシングの剛性がきわめて良好である。従って、ケーシング自体のひずみが小さくなる。…更に、案内装置全体がケーシングの中にありかつ縦スリットからだけしかアクセスすることができないので、…案内装置が汚れる危険がない。」(第3頁右上欄第16行?同頁左下欄第15行)からみて、「2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられることを前提として、縦スリットが圧力の作用によって少し拡がっても、その拡がりによる影響をなくし、しかも、案内装置が汚れない態様を特定するものであって、構成b、cと他の構成により、ケーシングの剛性をきわめて良好にし、また、力取出し突起の側方移動を不可能にし、また、案内装置が汚れる危険をなくすること。」と解される。 したがって、甲第1号証記載の考案は、本件考案の構成要件B、Cを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件B、Cを示唆するものともいえない。 (1-2)甲第3号証記載の考案について、 上記甲第3号証記載事項ア.イ.によると、甲第3号証には、 「a モータ14によってねじ軸5を回転せしめ、該ねじ軸5に螺合される送りねじ体4aに連設されたケーシング1aを移動させるテーブル用直線運動装置において、 b ねじ軸5を挟んだ両側のうち一方の側のみに、ねじ軸5の軸芯と平行なトラックレール10aを設け、 c そのトラックレール10aには、前記ねじ軸5の幅方向の両外側に前記軸芯と平行な軌道条列30を夫々備え、 d これらの軌道条列30,30に案内される軌道条列37,37を有するベアリングプレート6を前記ケーシング1aに設けた e テーブル用直線運動装置。」 の考案が記載されていると認められる。 本件考案と甲第3号証記載の考案とを対比すると、甲第3号証記載の考案の「ケーシング1a」は、その機能からみて、本件考案の「ドライバー」に相当し、以下同様にして、「トラックレール10a」は「案内レール」に、「軌道条列30,30」は「(案内レールの)案内面」に、「軌道条列37,37」は「(案内子の)案内面」に、「ベアリングプレート6」は「案内子」に、それぞれ相当するから、また、甲第3号証記載の考案の「テーブル用直線運動装置」,「ねじ軸5,送りねじ体4a」,「ねじ軸5を挟んだ両側」,「ねじ軸5の幅方向」と本件考案の「ロッドレスシリンダ(圧流体シリンダ)」,「遊動ピストン」,「スリットを挟んだ両側」,「スリットの幅方向」とは、「往復動駆動装置」,「駆動部分」,「駆動部分を挟んだ両側」,「駆動部分の幅方向」という上位概念で共通するから、両者は、 「A″往復動駆動装置において、 B″駆動部分を挟んだ両側のうち一方の側のみに、駆動部分の軸芯と平行な案内レールを設け、 C″その案内レールには、前記駆動部分の幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E″往復動駆動装置。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、 E 圧流体シリンダ。」 であるのに対して、 甲第3号証記載の考案においては、 「a モータ14によってねじ軸5を回転せしめ、該ねじ軸5に螺合される送りねじ体4aに連設されたドライバーを移動させるテーブル用直線運動装置において、 b ねじ軸5を挟んだ両側のうち一方の側のみに、ねじ軸5の軸芯と平行な案内レールを設け、 e テーブル用直線運動装置。」 である点で相違する。 そこで、上記相違点について、さらに検討する。 甲第3号証記載の考案は、高精度位置決めが可能な「テーブル用直線運動装置」に関するもので、本件考案が対象としているスリット付ロッドレスシリンダに関するものでないし、また圧流体シリンダに関するものでもなく、本件考案とは対象分野を異にしている。また、甲第3号証記載の考案は、特許請求の範囲に「ケーシングには、送りねじ体が装着され、前記送りねじ体に螺合されるねじ軸が両端において前記トラックレール端に回動自在に支承されている」(上記記載事項イ.)と記載されていることから明白なように、ねじ軸が回転することによって送りねじ体を正確に移動させるものであり、本件考案のように、バレル側壁が内圧によって変形するものでないし、当然のことながらバレルの一方のみの側壁の下方部にベースを一体に突設するものでもない。 したがって、甲第3号証記載の考案は、本件考案の構成要件A、Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件A、Bを示唆するものともいえない。 (1-3)甲第4号証記載の考案について、 上記甲第4号証記載事項ア.?キ.によると、甲第4号証には、 「a 筒状部材1の側壁に軸方向に縦スリット10を有し、該縦スリット10より筒状部材1内の荷重受け要素4に連設された荷重伝達要素11の先端が突出し、縦スリット10は可撓性のシール帯27,30にて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 b 筒状部材1の縦スリット10を挟んだ両側の側壁に、荷重受け要素4の軸芯と平行な案内レール15,15、16,16を設け、 c その案内レール15,15、16,16には、前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 d これらの案内面に案内される案内面を有する案内要素17,170、スライダ46を前記荷重伝達要素11に設けた e 圧流体シリンダ。」 の考案が記載されていると認められ、さらに<代替する実施形態>として、「代替する実施例では・・・外部案内システムは、例えば図2の45では補強板の代わりに設置でき、その際・・・スライダなどの方法で形成できる。45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。」(上記記載事項オ.)と記載されている。 本件考案と甲第4号証記載の考案とを対比すると、甲第4号証記載の考案の「筒状部材1」は、その機能からみて、本件考案の「バレル」に相当し、以下同様にして、「縦スリット10」は「スリット」に、「荷重受け要素4」は「遊動ピストン」に、「荷重伝達要素11」は「ドライバー」に、「可撓性のシール帯27,30」は「スチールバンド」に、「案内レール15,15、16,16」は「案内レール」に、「案内要素17,170、スライダ46」は「案内子」に、それぞれに相当するから、両者は、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E 圧流体シリンダ。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 るのに対して、 甲第4号証記載の考案においては、 「b バレルのスリットを挟んだ両側の側壁に、ピストンの軸芯と平行な案内レールを直接設け、 c その案内レールには、前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 る点で相違する。 そこで、上記相違点について、上記<代替する実施形態>を含めて、さらに検討する。 甲第4号証には、その構成として、「本発明は、・・・荷重伝達要素は筒状部材の一部を囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され、平行案内部の案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される直線伝動装置に関する。」(上記記載事項イ.)、「荷重伝達要素は筒状部材を部分的に囲むつる状の案内要素により外側案内部の少なくとも二本の平行な案内レール上を縦方向に案内され、平行案内部の案内レールが縦方向のスリットの両側で直接筒状部材の外面に設置される」(上記記載事項ウ.)、「筒状部材1の外面に、12で示した、シリンダ穴2の軸13を有する中心面の上側と下側で縦スリット10を通る垂直の中心面14の両側に、各一対ずつ配置した案内レール15、16を配置する。・・・縦方向スリット10の両側に延びる二つの案内レール16でつる状の案内要素17が縦方向に移動可能に支承され、・・・接続される。」(上記記載事項エ.)と、その課題として、「一般に、荷重伝達要素または案内要素の不均一または過度の荷重、または特に案内部と筒状部材の製造公差のもたらす、筒状部材内に設置する荷重受け要素の不均一な荷重を防止するために、最初に挙げたような直線伝動装置を高価な構造対策なしに改善することである。」(上記記載事項カ.)と記載されている。そして、上記課題を解決するため、「荷重受け要素を少なくとも一つの支承部で案内要素と限定的に可動に結合することを特徴とする。この支承部は特に案内要素と荷重伝達要素間に設置でき、好ましい実施形態では筒状部材の外側にある。」(上記記載事項キ.)と記載されている。 これらの記載によれば、甲第4号証記載のものは、案内レールが直接筒状部材の外面に設置され、不均一または過度の荷重が生じないように荷重受け要素と案内要素とを結合させる支承部の構造にその特徴があると理解できる。そして、その実施例(第1図乃至第3図)では、いずれも、筒状部材1そのものの周囲4カ所に案内レール15,15、16,16を設けているものである。 この点について、請求人は、甲第4号証記載の<代替する実施形態>について、『外部案内システムがスライダ46と案内要素170の課題を引き受けることを考慮すれば、案内要素170はスライダ46に連結され、当該スライダ46は案内レール15に係合する構成が第2図に示されているとおりである。従って、この案内要素170、スライダ46が前記案内レール15に沿って案内作用を営むものであり、この案内要素170、46の案内作用たる課題を前記外部案内システム45、可動要素45aが代替して解決することを意味しよう。従って、被請求人の主張するように、少なくとも2本の案内レールで案内要素を案内することを必須の構成要件とすることは、特に、前記代替する実施形態で考慮する必要性は全くない。』(平成12年8月31日付け審判事件弁駁書第32頁第16?24行)旨主張するところ、確かに、甲第4号証訳文には「代替する実施形態では筒状部材2に外部案内システムを配置し、シリンダ穴2の軸13に平行に整列することもできる。それら外部案内システムは、例えば、第2図の45では補強板の代わりに設置でき、その際ボールブッシュのようなスライダなどの方法で形成できる、45aで示唆する可動要素を荷重伝達要素11または案内要素170と好ましくは限定的に可動に接続する。その場合、45の外部案内システムが要素46、170の課題を引き受けるので、スライダ46と案内要素170のない実施形態も可能である。」(上記記載事項オ.)と記載されており、スライダ46(案内レール15を含む。)と案内要素170に代えて、補強板45の位置に、可動要素45aなどから構成されボールブッシュのようなスライダなどの方法で形成できる外部案内システムを設置する技術が示されている。 しかしながら、甲第4号証には、上記外部案内システムについて、軸芯と平行に整列するとあるのみであって、その具体的構成の記載がなく、むしろ、スライダはボールブッシュ等において両側の側壁に設けることを示しているとも解し得ること、少なくとも、筒状部材の圧力が高まることに対して片持ちでその変位による影響を回避する点について、甲第4号証に何らの記載もなく、かえって、特許請求の範囲には明確にスリットの両側に案内レールを設置すると記載されていることに照らせば、可動要素45aなどからなる外部案内システムについてもスリットの両側に設置することを前提としていると理解するのが合理的である。また、前記実施例を示す第2図は、第1図及び第3図と同様、その一部を省略した図面であると考えられることから、案内要素170を省略した場合に外部案内システム45若しくは可動要素45aが筒状部材の一方のみに設置される構成を示しているとはいえない。 これに対して、本件考案は、構成要件B、Cを具備することにより、特に構成要件Bを具備することにより、圧流体の供給によってスリットがスリットを挟んだ両側に広がることを前提としつつ、すなわち1つのピストンのみを使用し、当然横向きの力を相殺できずに側壁が変形することを前提としつつ、それでも案内子を円滑かつ正確に案内できるようにするものである。 したがって、甲第1号証記載の考案、若しくは甲第1号証記載の<代替する実施形態>は、本件考案の構成要件Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件Bを示唆するものともいえない。 なお、上記したように、<代替する実施形態>は、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、案内レールを設けるものではないが、たとい、そのようなものであったとしても、本件考案のように、一方のみの側壁の下方部にベースを一体に突設した構成でないし、そのベース上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設したものでもないから、本件考案の構成要件Bとは大きく異なっている。 (1-4)甲第13号証記載の考案について、 上記甲第13号証記載事項ア.?ウ.によると、甲第13号証には、 「a シリンダ(1)の側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりシリンダ(1)内のピストンに連設されたピストンブラケット(4)の先端が突出するようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 b シリンダ(1)の両端部に連結板が設けられ、その一対の連結板にピストンの軸芯と平行な棒状のガイドレール(2)の両端部が連結され、 c そのガイドレール(2)には、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 d これらの案内面に案内される案内面を有するキャリッジ(3)を前記ピストンブラケット(4)に設けた e 圧流体シリンダ。」 の考案が記載されていると認められる。 本件考案と甲第1号証記載の考案とを対比すると、甲第1号証記載の考案の「シリンダ(1)」は、その機能からみて、本件考案の「バレル」に相当し、以下同様にして、「ピストン」は「遊動ピストン」に、「ピストンブラケット(4)」は「ドライバー」に、「ガイドレール(2)」は「案内レール」に、「キャリッジ(3)」は「案内子」に、それぞれ相当するから、また、スリットを可撓性シール帯で密封すること、可撓性シール帯をスチールバンドで形成することは、当該技術分野において普通のことであるから、両者は、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E 圧流体シリンダ。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」 ているのに対して、 甲第1号証記載の考案においては、 「b バレルの両端部に連結板が設けられ、その一対の連結板にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールの両端部が連結され、」 る点で相違する。 そこで、上記相違点について、さらに検討する。 請求人は、甲第13号証記載の考案は、構成要件Bを示している旨主張するところ、甲第13号証翻訳文には、「この新しい空気式リニアユニットは、ピストンロッドの無いシリンダ(1)と、ボールガイドを有して前記シリンダに平行に配置される一つまたは複数のガイドレール(2)を備え、前記ガイドレールは、前記シリンダに固着されて水平方向及び鉛直方向に発生する力および運動量を吸収し、キャリッジ(3)は、ピストンブラケット(4)に連結されて更なる直線方向、回転方向及び他の移動あるいは操作荷重を吸収する。この空気式リニアユニットの本質的な利点は、ピストンロッドの無いシリンダを使用することにより素早く大きな直線的変位が設置スペースを節約して得られる点にある。シリンダがガイドレールに連結され、キャリッジがシリンダのボールガイドおよびピストンブラケットに連結されることにより、ユニット構成に応じたコンパクトなリニアガイドの動作が得られる。ガイドレールを使用することにより、平行な案内および終端位置に関する高い再現精度が得られ、大きな力および運動量が移動可能である。」(上記記載事項ア.)と記載されており、この記載によれば、甲第13号証記載の考案は、ボールガイド及びキャリッジを有する一つ又は複数のガイドレールを備える空気式リニアガイドユニットに関するもので、ガイドレールは、シリンダに平行に配置されたシャフトであり、端部においてシリンダに連結され、キャリッジは、ガイドレール上のボールガイドにガイドされてシリンダのピストンブラケットにより移動するように、ボールガイド及びピストンブラケットに結合される構成を採ることを特徴としていると認められる。 したがって、甲第13号証記載の考案は、正に本件考案が解決すべき課題とした装置が大型になる欠点を有する従来技術の範疇に入り、本件考案の構成要件Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件Bを示唆するものともいえない。 (2)請求人の≪主張1≫の(1)について これは、本件考案は、甲第1号証に記載された考案であるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 上記(1-1)において検討したように、甲第1号証記載の考案は、本件考案の構成要件B、Cを具備しないで、構成b、cを具備する点で本件考案と相違し、しかも、本件考案の構成要件B、C及び構成b、cは、その技術的意義は、全く異にするものである。 してみると、本件考案は、甲第1号証に記載された考案ということができないので、実用新案法第3条第1項第3号に該当するということができない。 したがって、請求人の≪主張1≫の(1)の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 (3)請求人の≪主張1≫の(3)、(5)及び≪主張3≫の(1)、(2)、(4)について これらは、いずれも、本件考案は、甲第1号証記載の考案に他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 まず、甲第1号証記載の考案に甲3号証記載の考案の技術思想を適用することについて検討する。 第一に、仮に、甲第1号証記載の考案の構成b、cに代えて、甲3号証記載の考案の構成b、cを適用できたとしても、甲3号証記載の考案の構成cが該甲3号証記載の考案の構成bを前提とするものであって、該構成b、cは、本件考案の構成要件B、Cと異なるから、本件考案に至らない。 第二に、甲3号証記載の考案は、本件考案のように圧流体の供給よってバレルがふくれるようなものと別異のねじ軸の回転による往復運動駆動装置であるから、本件考案のように圧流体の供給よってバレルがふくれることによる課題を解決するための手段でないことが明らかであって、このようなねじ軸の回転による往復運動駆動装置からこのような課題を解決するための手段を求める動機も生じない。 第三に、仮に、甲第1号証記載の考案の構成b、cに代えて、甲3号証記載の考案の構成b、cを適用する動機が生じたとしても、甲第1号証記載の考案の構成b、cの技術的意義「2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられることを前提として、縦スリットが圧力の作用によって少し拡がっても、その拡がりによる影響をなくし、しかも、案内装置が汚れない態様を特定するものであって、構成b、cと他の構成により、ケーシングの剛性をきわめて良好にし、また、力取出し突起の側方移動を不可能にし、また、案内装置が汚れる危険をなくすること。」からみて、このような技術的意義を有する構成b、cを、甲3号証記載の考案の構成b、cに置換すると、甲第1号証記載の考案の構成b、cの技術的意義の特徴「2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられること、縦スリットが圧力の作用によって少し拡がる恐れがあること、ケーシングの剛性がきわめて良好であること、案内装置が汚れる危険がないこと」の全てが消失してしまう。 してみると、甲第1号証記載の考案に甲3号証記載の考案の技術思想を適用する動機がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 また、甲第1号証記載の考案に甲3号証記載の考案の技術思想を適用することを前提として、さらに、他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することも、同様の理由により、そのような適用の動機がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 次いで、甲第1号証記載の考案に甲4号証記載の考案の技術思想を適用することについて検討する。 第一に、仮に、甲第1号証記載の考案の構成b、cに代えて、甲4号証記載の考案の構成b、cを適用できたとしても、甲4号証記載の考案の構成cが該甲4号証記載の考案の構成bを前提とするものであって、該構成b、cは、本件考案の構成要件B、Cと異なるから、本件考案に至らない。 第二に、甲4号証記載の考案が、案内レールが直接筒状部材の外面に配置され、不均一または過度の荷重が生じないよう荷重受け要素と案内要素とを結合させる支承部の構造を特徴とするものであることは、前示のとおりであって、縦スリット10の両側の側壁に外周を案内面とする案内レール15,15、16,16を直接設けることからなる甲4号証記載の考案のb、cの技術思想を、縦スリット20の片側の側壁に内周を案内面とする案内部材を設けることからなる甲第1号証記載の考案に適用することに合理性がない。 また、甲第1号証記載の考案の構成b、cの技術的意義からみて、このような技術的意義を有する構成b、cを、甲4号証記載の考案の構成b、cに置換すると、甲第1号証記載の考案の構成b、cの技術的意義の特徴の殆ど「2つの内室と2個のピストンが共通のケーシングの中に並べて設けられること、ケーシングの剛性がきわめて良好であること、案内装置が汚れる危険がないこと」が消失してしまう。 してみると、甲第1号証記載の考案に甲4号証記載の考案の技術思想を適用する合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 また、甲第1号証記載の考案に甲4号証記載の考案の技術思想を適用することを前提として、さらに、他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することも、同様の理由により、そのような適用の合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 さらに、甲第4号証記載の考案に甲1号証記載の考案の技術思想を適用することも、同様の理由により、合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 したがって、請求人の≪主張1≫の(3)、(5)及び≪主張3≫の(1)、(2)、(4)の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 (4)請求人の≪主張1≫の(4)、(6)について これらは、いずれも、本件考案は、甲第3号証記載の考案に他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 まず、甲第3号証記載の考案に甲第4号証記載の考案又は甲4号証に記載された技術思想を適用することについて検討する。 第一に、上記(1-2)において検討したように、甲第3号証記載の考案は、本件考案の構成要件A、B、Eを具備しないで、構成a、b、eを具備する点で本件考案と相違する一方で、その技術的意義は本件考案の構成要件C、Dのそれと明らかに異なるものの、本件考案の構成要件C、Dと同様の構成を具備している。 また、上記(1-3)において検討したように、甲第4号証記載の考案は、本件考案の構成要件B、Cを具備しないで、構成b、cを具備する点で本件考案と相違するが、本件考案の構成要件A、D、Eに相当する構成を具備している。 確かに、甲第4号証には、上記認定の甲第4号証記載の考案とは別に、該甲第4号証記載の考案における構成aの荷重受け要素4を圧流体で駆動することに代えて、ねじスピンドル500で駆動することができることが示されている。 しかしながら、このねじスピンドル500で駆動する態様の記載は、案内レールが直接筒状部材の外面に配置され、不均一または過度の荷重が生じないよう荷重受け要素と案内要素とを結合させる支承部の構造を特徴として、縦スリット10の両側の側壁に外周を案内面とする案内レール15,15、16,16を直接設けることからなる甲4号証記載の考案における構成aの荷重受け要素4を圧流体で駆動することに代えて、ねじスピンドル500で駆動することができることを示すものであるから、たとい、このような記載が、甲第4号証記載の考案の技術思想を甲第3号証に記載されるようなねじ駆動型のテーブル直線運動装置への適用を示唆するものであったとしても、案内レールが直接筒状部材の外面に配置され、不均一または過度の荷重が生じないよう荷重受け要素と案内要素とを結合させる支承部の構造を特徴としない甲第3号証記載の考案にまで適用ができることを示唆するものではない。 また、甲第4号証記載の考案は、その課題(上記記載事項カ.)からみて、その課題達成のために各構成a?cが密接不可分のものと解される。 このような甲第4号証記載の考案から、本件考案の構成要件A、D、Eに相当する構成a、d、eのみを抽出して、これを甲第4号証記載の考案の他の構成b、cと別異の構成を具備する甲第3号証記載の考案に適用することは、当業者にとって、きわめて容易であるということができず、むしろ、このような適用を妨げる事情があるというべきである。 第二に、仮に、甲第3号証記載の考案の構成a、eに代えて、甲第4号証記載の考案における本件考案の構成要件A、Eと同様な構成a、eを組み合わせても、本件考案の構成要件Bに相当する構成が不足するために、本件考案に至らない。 第三に、甲第3号証記載の考案の構成a、eに代えて、甲第4号証記載の考案における本件考案の構成要件A、Eと同様な構成a、eを組み合わせ、さらに、圧流体シリンダ及びトラックレールとそれらが設置されるXテーブル、ベーステーブル又は基板とを一体化しても、それらの関係が本件考案の構成要件Bのようにバレルの一方のみの側壁の下方部にベースを突設し、そのベースの上に案内レールを一体に突設したことにならないし、当然のことながら、その技術的意義も本件考案の構成要件Bのそれと異なることは、明らかである。 してみると、甲第3号証記載の考案に甲4号証記載の考案又は甲4号証に記載された技術思想を適用する合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 また、甲第3号証記載の考案に甲4号証記載の考案又は甲4号証に記載された技術思想を適用することを前提として、さらに、他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することも、同様の理由により、そのような適用の合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 次いで、甲第3号証記載の考案に甲第1号証記載の考案の技術思想を適用することについて検討する。 第一に、上記(1-2)において検討したように、甲第3号証記載の考案は、本件考案の構成要件A、B、Eを具備しないで、構成a、b、eを具備する点で本件考案と相違する一方で、その技術的意義は本件考案の構成要件C、Dのそれと明らかに異なるものの、本件考案の構成要件C、Dと同様の構成を具備している。 また、上記(1-1)において検討したように、甲第1号証記載の考案は、本件考案の構成要件B、Cを具備しないで、構成b、cを具備する点で本件考案と相違し、しかも、本件考案の構成要件B、C及び構成b、cは、その技術的意義は、全く別異のものであるが、本件考案の構成要件A、D、Eに相当する構成を具備している。 確かに、甲第4号証には、上記認定の甲第4号証記載の考案とは別に、該甲第4号証記載の考案における構成aの荷重受け要素4を圧流体で駆動することに代えて、ねじスピンドル500で駆動することができることが示されている。 しかしながら、このねじスピンドル500で駆動する態様の記載は、案内レールが直接筒状部材の外面に配置され、不均一または過度の荷重が生じないよう荷重受け要素と案内要素とを結合させる支承部の構造を特徴として、縦スリット10の両側の側壁に外周を案内面とする案内レール15,15、16,16を直接設けることからなる甲4号証記載の考案における構成aの荷重受け要素4を圧流体で駆動することに代えて、ねじスピンドル500で駆動することができることを示すものであって、どのような場合でも、ねじ駆動型のテーブル直線運動装置と圧流体シリンダの置換容易性を示すものとまでいえない。 また、甲第1号証記載の考案は、その構成b、cの技術的意義からみて、各構成a?cが密接不可分のものと解される。 このような甲第1号証記載の考案から、本件考案の構成要件A、D、Eに相当する構成a、d、eのみを抽出して、これを甲第1号証記載の考案の他の構成b、cと別異の構成を具備する甲第3号証記載の考案に適用することは、当業者にとって、きわめて容易であるということができず、むしろ、このような適用を妨げる事情があるというべきである。 第二に、仮に、本件考案の構成要件Bの技術的意義と別異の何らかの必要性(この点は不明である)により、甲第3号証記載の考案の構成a、eに代えて、甲第1号証記載の考案における本件考案の構成要件A、Eと同様な構成a、eを組み合わせても、本件考案の構成要件Bに相当する構成が不足するために、本件考案に至らない。 第三に、甲第3号証記載の考案の構成a、eに代えて、甲第1号証記載の考案における本件考案の構成要件A、Eと同様な構成a、eを組み合わせ、さらに、何らかの必要性(この点は不明である)により、圧流体シリンダ及びトラックレールとそれらが設置されるXテーブル、ベーステーブル又は基板とを一体化しても、それらの関係が本件考案の構成要件Bのようにバレルの一方のみの側壁の下方部にベースを突設し、そのベースの上に案内レールを一体に突設したことにならないし、当然のことながら、その技術的意義も本件考案の構成要件Bのそれと異なることは、明らかである。 してみると、甲第3号証記載の考案に甲1号証記載の考案の技術思想を適用する合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 また、甲第3号証記載の考案に甲1号証記載の考案の技術思想を適用することを前提として、さらに、他の甲号証記載の考案の技術思想を適用することも、同様の理由により、そのような適用の合理性がないばかりか、このような適用を妨げる特段の事情があるというべきである。 したがって、請求人の≪主張1≫の(4)、(6)の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 (5)請求人の≪主張3≫の(3)について これは、本件考案は、甲第13号証記載の考案に甲第3号証記載の考案及び甲第4号証記載の考案の技術思想を適用することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 第一に、上記(1-4)において検討したように、甲第13号証記載の考案は、本件考案の構成要件Bを具備しないで、構成bを具備する点で本件考案と相違する一方で、本件考案の構成要件A、C、D、Eと同様の構成を具備している。 そして、上記(1-2)において検討したように、甲第3号証記載の考案は、本件考案の構成要件A、B、Eを具備しないで、構成a、b、eを具備する点で本件考案と相違する一方で、その技術的意義は本件考案の構成要件C、Dのそれと明らかに異なるものの、本件考案の構成要件C、Dと同様の構成を具備している。 また、上記(1-3)において検討したように、甲第4号証記載の考案は、本件考案の構成要件B、Cを具備しないで、構成b、cを具備する点で本件考案と相違するが、本件考案の構成要件A、D、Eに相当する構成を具備している。 そうすると、甲第13号証記載の考案、甲第3号証記載の考案及び甲第4号証記載の考案の各構成をどのように組み合わせても、本件考案の構成要件Bに相当する構成が不足するために、本件考案に至らない。 第二に、甲第13号証記載の考案、甲第3号証記載の考案及び甲第4号証記載の考案のそれぞれの構成bの技術的意義と本件考案の構成要件Bの技術的意義とが異なることは、明らかである。 他に本件考案の構成要件Bを当業者が容易に想到することができるとするに足りる根拠も見当たらない。 してみると、本件考案は、甲第13号証記載の考案に甲第3号証記載の考案及び甲第4号証記載の考案の技術思想を適用することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるということができない。 したがって、請求人の≪主張3≫の(3)の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 (6)請求人の≪主張1≫の(2)及び≪主張4≫について これは、本件考案は、甲第2号証記載の発明及び甲第27号証記載の発明と同一であるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 (6-1)甲第2号証記載の発明について、 上記甲第2号証記載事項ア.?キ.によると、甲第2号証には、 「a 筒状部材1の側壁に軸方向に縦方向スリット10を有し、該縦方向スリット10より筒状部材1内の荷重受け要素4に連設された荷重伝達要素11の先端が突出し、縦方向スリット10はシール要素27,30にて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 b 筒状部材1の縦方向スリット10を挟んだ両側の側壁に、荷重受け要素4の軸芯と平行な案内トラック要素15,15、16,16を設け、 c その案内トラック要素15,15、16,16には、前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 d これらの案内面に案内される案内面を有する案内要素17,170、スライダ46を前記荷重伝達要素11に設けた e 圧流体シリンダ。」 の発明が記載され、さらに、<別の実施例>として、「また、別の実施例では、この筒状部材1に外部案内機構が設けられ、このシリンダ空間2の軸13の方向の案内をなす。この外部案内機構は第2,6図中45で示し、補強帯45が案内レールとして使用され、これらの間には移動要素45aが設けられ、この移動要素はボール形のニップルを備え、荷重受け要素11または案内要素170に所定量だけ移動自在に結合されている。また、外部案内機構が筒状部材1に直接取付けられ、図に45で示すだけでなくこの筒状部材に固定されたレール要素に外部案内機構が取付けられていてもよく、また第2,6図に示す補強帯すなわち案内機構とは別の位置に配置してもよい。」(上記記載事項エ.)との記載がある。 本件考案と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明の「筒状部材1」は、その機能からみて、本件考案の「バレル」に相当し、以下同様にして、「縦方向スリット10」は「スリット」に、「荷重受け要素4」は「遊動ピストン」に、「荷重伝達要素11」は「ドライバー」に、「シール要素27,30」は「スチールバンド」に、「案内トラック要素15,15、16,16」は「案内レール」に、「案内要素17,170、スライダ46」は「案内子」に、それぞれ相当するから、両者は、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E 圧流体シリンダ。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 るのに対して、 甲第2号証記載の発明においては、 「b バレルのスリットを挟んだ両側の側壁に、ピストンの軸芯と平行な案内レールを設け、 c その案内レールには、前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、」 る点で相違する。 そこで、上記相違点について、上記<別の実施例>を含めて、さらに検討する。 甲第2号証において、<別の実施例>として記載される第2、6図には、スリット10を挟んで一方側に配設されている外部案内機構45と、他方側に配設されている案内要素170とが記載されており、スリット10を挟んで一方側にのみ外部案内機構45を配設することについては記載されていないし、示唆もされていない。 甲第2号証記載のものは、荷重伝達要素又は案内要素に不均一または過大な荷重が作用した場合に荷重受け部材に不均一な荷重が作用するのを防止することを目的とし、第1図、第3図、第4図及び第5図につる状の案内要素17がスリット10の両側に配置された2個の案内トラック16に移動自在に支持されているものが示され、第2図、第6図にはスリットの一方側に外部案内機構45が配設され他方側に案内要素170が配設されているものが示されていると認められ、一方側の外部案内機構(補強帯45)のみを単独で使用することが示されているとは認められない。 なお、上記したように、<別の実施例>は、バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに、案内レールを設けるものではないが、喩えそのようなものであったとしても、本件考案のように、一方のみの側壁の下方部にベースを一体に突設した構成でないし、そのベース上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設したものでもないから、本件考案の構成要件Bとは大きく異なっている。 さらに、本件考案の構成要件Bは、本件考案の特徴部分であると解され、かつ、特有の技術的意義を有することは前示のとおりであるところ、請求人が提示した証拠によっては、このような本件考案の構成要件Bが課題解決のための具体化手段における微差であるとすることができない。 そうすると、甲第2号証記載の発明は、本件考案の構成要件Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件Bを示唆するものともいえない。 (6-2)甲第27号証記載の発明について、 上記甲第27号証記載事項ア.?カ.によると、甲第27号証には、 「a 異形管1の側壁に軸方向に縦スリット3を有し、該縦スリット3より異形管1内のウオーム7に螺合したウオームナット11に連設された伝動部材16の先端が突出し、縦スリット3は弾性カバーベルト24にて密封されるようになっている機械式直線駆動装置において、 b 異形管1の縦スリット3を挟んだ両側の側壁には、その両側の側壁から下方に延びる側壁の下方部に設けた縦案内6,6に締付け棒33,33を有する台座部31を係合して一体的に設け、その台座部31の上にウオーム7の軸芯と平行な棒状の案内棒34を一体に設け、もって異形管1の縦スリット3を挟んだ両側のうち一方の側のみに案内棒34を設けるものであり、 c その案内棒34には、前記縦スリット3の幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 d これらの案内面に案内される案内面を有するスライダ35を前記伝動部材16に設けた e 機械式直線駆動装置。」 の発明が記載されていると認められる。 本件考案と甲第27号証記載の発明とを対比すると、甲第27号証記載の発明の「異形管1」は、その機能からみて、本件考案の「バレル」に相当し、以下同様にして、「縦スリット3」は「スリット」に、「伝動部材16」は「ドライバー」に、「弾性カバーベルト24」は「スチールバンド」に、「台座部31」は「ベース」に、「案内棒34」は「案内レール」に、「スライダ35」は「案内子」に、それぞれ相当するから、また、甲第27号証記載の発明の「機械式直線駆動装置」,「ウオーム7,ウオームナット11」と本件考案の「ロッドレスシリンダ(圧流体シリンダ)」,「遊動ピストン」とは、「往復動駆動装置」,「駆動部分」という上位概念で共通するから、両者は、 「A″バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の駆動部分に連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている往復動駆動装置において、 B″バレルのスリットを挟んだ両側のうち一方の側のみに、駆動部分の軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に設け、 C その案内レールには、前記スリットの幅方向の両外側に前記軸芯と平行な案内面を夫々備え、 D これらの案内面に案内される案内面を有する案内子を前記ドライバーに設けた E″往復動駆動装置。」 の点で一致し、 本件考案においては、 「A バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内の遊動ピストンに連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている所謂ロッドレスシリンダにおいて、 B バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設した、」 E 圧流体シリンダ。」 であるのに対して、 甲第27号証記載の発明においては、 「a バレルの側壁に軸方向にスリットを有し、該スリットよりバレル内のウオーム7に螺合したウオームナット11に連設されたドライバーの先端が突出し、スリットはスチールバンドにて密封されるようになっている機械式直線駆動装置において、 b バレルのスリットを挟んだ両側の側壁には、その両側の側壁から下方に延びる側壁の下方部に設けた縦案内6,6に締付け棒33,33を有するベースを係合して一体に設け、そのベースの上にウオーム7の軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に設け、もってバレルのスリットを挟んだ両側のうち一方の側のみに案内レールを設けるものであり、 e 機械式直線駆動装置。」 である点で相違する。 そこで、上記相違点について、さらに検討する。 甲第27号証記載の発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載のように、「縦スリットを有し、末端側が軸受フランジで閉鎖された形状安定な異形管の中にウオームが支承され、ウオームナットによって管の長手方向に駆動される伝動部材が上記の縦スリットを貫いて異形管から外へ突出し、この長手方向直線運動を発生する動力源が配属されて成るウオームギヤに沿って、被駆動伝動部材の限られた直線運動を発生するための機械式直線駆動装置」(上記記載事項ア.)に関するものであり、本件考案のような圧流体シリンダに関するものでなく、本件考案とは対象技術を異にしている。また、甲第27号証には、従来装置が「伝動部材の縦運動が被駆動ウオームによって強制的に行われるから、1個の軸上で複数個の伝動部材を互いに独立させることは基本的に不可能である。また伝動部材の直線運動速度の変更は、ウオームの回転数を適当に調整することによってしか行えない」(上記記載事項イ.)欠点を有していたので、「上述の直線駆動装置と比較して拡張された使用範囲を長所とし、しかもそれによって場所の必要が大幅に増加せず、又は被駆動部分の位置ぎめ又は運動の精度が阻害されない機械式直線駆動装置を提供す」(上記記載事項ウ.)べく、「ウオームナットが回転自在かつ軸方向移動不能に伝動部材に支承され、また伝動部材に連接された動力源が、伝動部材に配属されたギヤを介してウオームナットと連結される」(上記記載事項エ.)構成を採った旨記載されており、本件考案とは、その目的、構成及び作用効果を異にしている。すなわち、甲第27号証記載の発明は、本件考案のようにバレル内部に圧流体を供給することによって動力源とし、これによって駆動するピストンの運動をバレル外部に設けられた案内子に伝えて移動させる装置に関するものではなく、異形管の外部に設けられた電動機を動力源とし、これを異形管の中に支承されたウオームに伝動して駆動させる装置に関するものであるから、技術分野を全く異にし、またバレルが押し広げられてスリットが広がるおそれもあり得ないから、解決すべき課題も共通でないことが明らかである。 してみると、甲第27号証に記載された発明の構成a、eを本件考案の構成要件A、Eのように置換した場合、甲第27号証に記載された発明は、該発明の課題を解決することができない別異の発明になってしまうことが明らかであるから、このような相違点を課題解決のための具体化手段における微差であるとすることができない。 さらに、甲第27号証には、明細書に「異形管は台座部31の上に据付けられている。台座部31は止ねじ32によってベッドに螺着され、角柱状断面形状の締付け棒33を有する。締付け棒33は異形管1の縦案内6に係合し、異形管1を固定する。」(上記記載事項カ.)と記載され、また、図2に、異形管1が台座部31の幅方向中間部上面に締付け棒33を用いて据付けられているものが記載されているが、本件考案の構成要件Bである「バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみには、その一方の側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に突設し、そのベースの上にピストンの軸芯と平行な棒状の案内レールを一体に突設し、」については何ら開示も示唆もされていない。 そうすると、甲第27号証記載の発明は、本件考案の構成要件A、Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件A、Bを示唆するものともいえない。 (6-3)以上のとおり、甲第2号証記載の発明は、本件考案の構成要件Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件Bを示唆するものともいえない。また、甲第27号証記載の発明は、本件考案の構成要件A、Bを具備しないばかりでなく、本件考案の構成要件A、Bを示唆するものともいえない。 そして、本件考案は、上記構成要件Bを具備することにより、「ドライバーの移動途中にピストンの軸芯と直角方向の負荷が作用してもドライバーは傾倒することなく正確な直線運動を行ない得る。また、従来のように案内レールをバレルと別個に設けたものに比べて小型化でき、狭い場所であっても容易に取付けが可能である。また、圧流体の供給によってバレルがふくれてもドライバーを何ら支障なく案内でき、最小の摺動抵抗で高精度の移送が可能となる。更に、センサスイッチ等の制御部材は従来と同様に支障なく取付けることができる。」という明細書記載の効果を生じるものである。 また、本件考案は、上記構成要件Bを具備することにより、側壁がスリット幅方向へ傾倒する場合でも、案内レールの移動や両案内面間の距離変動を防止でき、側壁の下方部に突設したベース上の案内レールの案内面により正確に直線案内できるという効果も生じるものと解される。 してみると、本件考案は、甲第2号証記載の発明及び甲第27号証記載の発明と同一であるということができない。 したがって、請求人の≪主張1≫の(2)及び≪主張4≫の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 すなわち、本件考案は、実用新案法第39条第3項の規定に適合し、本件考案の実用新案登録は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第37条第1項第二の二号の規定により無効とすることはできない。 また、本件考案は、独立登録要件を有するのであるから、実用新案法第3条の2の規定に該当せず、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすることもできない。 (7)請求人の≪主張1≫の(7)について これは、本件考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が不備であるということを根拠とするものである。 そこで、以下、これが妥当か否かについて検討する。 本件考案の実用新案登録請求の範囲第1項には、「案内子を前記ドライバーに設けた」と記載されているが、案内子をドライバーにどのように設けるかについては具体的に特定されていない。しかしながら、案内子をドライバーに連結する方法は、その当時としても多種多様な手段が考えられ(実施例に示すように、連結板を介してドライバーに連結する構成、側方に張り出すように形成したドライバーに直接連結する構成等。)、かつどのような手段を採用したとしても、スリット部分の摺動抵抗の増大化防止という本件考案の本来の課題が消滅するものでもないし、本件考案の課題に対する解決手段の作用効果が無効化するものでもないから、案内子をドライバーに設ける具体的構成は、本件考案の構成に欠くことができない事項に当たるとは認められない。 してみると、本件考案に係る明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が不備であるということができない。 したがって、請求人の≪主張1≫の(7)の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 ≪請求人の主張5について≫ 請求人の≪主張5≫について検討する。 特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えるものとされる実用新案法第37条第1項第二の二号の規定によれば、「その実用新案登録の願書に添付した明細書又は図面の訂正が第39条第1項ただし書、第2項若しくは第3項の規定に違反してされたとき」その実用新案登録を無効にすることができる旨規定している。 しかしながら、請求人の主張は、当該無効理由に該当するものでなく、採用し得ない。 したがって、請求人の≪主張5≫の理由によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることができない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、実用新案法第41条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1998-03-12 |
結審通知日 | 1998-03-24 |
審決日 | 1998-04-07 |
出願番号 | 実願昭60-171528 |
審決分類 |
U
1
112・
831-
Y
(F15B)
U 1 112・ 121- Y (F15B) U 1 112・ 532- Y (F15B) U 1 112・ 113- Y (F15B) U 1 112・ 161- Y (F15B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 美実、大槻 清寿 |
特許庁審判長 |
西野 健二 |
特許庁審判官 |
石原 正博 舟木 進 清田 栄章 鈴木 充 |
登録日 | 1994-10-06 |
登録番号 | 実用新案登録第2035182号(U2035182) |
考案の名称 | 圧流体シリンダ |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 佐藤 一雄 |
代理人 | 神谷 巖 |
代理人 | 千葉 剛宏 |
代理人 | 前島 旭 |