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審決分類 審判 全部申し立て   F21V
審判 全部申し立て   F21V
審判 全部申し立て   F21V
管理番号 1018571
異議申立番号 異議1999-70295  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 実用新案決定公報 
発行日 2001-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-25 
確定日 2000-07-19 
異議申立件数
事件の表示 登録第2577174号「天井直付型照明器具」の実用新案登録に対する実用新案登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。   
結論 登録第2577174号の実用新案登録を維持する。
理由 1. 本件は、実用新案登録第2577174号(実願平4-606号出願)に関し、その【請求項1】に係る考案につき受けた実用新案登録の取り消しを請求して提起された実用新案登録異議申立事件に存する。
2. 本件の手続き経緯の概要は、以下のとおりである。
1) 出 願 日 :平成4年1月10日
2) 登 録 日 :平成10年5月8日
3) 公 報 :平成10年7月23日実用新案登録公報発行
4) 異 議 :平成11年1月25日実用新案登録異議申立人松下電 工株式会社より、実用新案登録異議申立書を提出
5) 取消の理由 :平成11年4月16日当審より取消理由を通知
6) 意 見 書 :平成11年6月28日実用新案権者より異議意見書の 提出
3. 本件の実用新案登録請求の範囲【請求項1】に係る考案は、以下のとおりである。
「【請求項1】 器具本体のほぼ中央部に形成した開口部から天井面に固定された引掛シーリングボデイを器具本体の下方に露呈させて器具本体の上面側を天井面に対設させ、前記引掛シーリングボデイの下面側に引掛シーリングキャップを配設し、この引掛シーリングキャップに器具本体を支持するようにした天井直付型照明器具において、前記引掛シーリングキャップの側面に係止溝を設け、前記器具本体下面の前記係止溝の対向位置に爪ボックスを配設し、この爪ボックス内に前記係止溝に係止される係止爪を装着し、この係止爪を、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部と係止部後方から一体的に爪ボックス下面に形成したスライド用の窓孔を介して爪ボックス外の下方に導出された係止解除部とを有したL字状又はT字状片で構成してなり、常時は、爪ボックス内に配設された弾性バネにより係止部を前方に突出させ、所要時には、手操作によって係止解除部を爪ボックスの後方に向けてスライド移動して係止部先端を爪ボックス内に退去させるようにしたことを特徴とする天井直付型照明器具。」
4. これに対して、異議申立人は、以下の旨主張する趣意と捉えられる。
[「【本件実用新案登録に係る考案】は、
A:器具本体のほぼ中央部に形成した開ロ部から天井面に固定された引掛シーリングボデイを器具本体の下方に露呈させて器具本体の上面側を天井面に対設させ、
B:前記引掛シーリングボデイの下面側に引掛シーリングキャップを配設し、
C:この引掛シーリングキャップに器具本体を支持するようにした天井直付型照明器具において、
D:前記引掛シーリングキャップの側面に係止溝を設け、
E:前記器具本体下面の前記係止溝の対向位置に爪ボックスを配設し、
F:この爪ボックス内に前記係止溝に係止される係止爪を装着し、
G:この係止爪を、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部と係止部後方から一体的に爪ボックス下面に形成したスライド用の窓孔を介して爪ボックス外の下方に導出された係止解除部とを有したL字状又はT字状片で構成してなり、
H:常時は、爪ボックス内に配設された弾性バネにより係止部を前方に突出させ、
I:所要時には、手操作によって係止解除部を爪ボックスの後方に向けてスライド移動して係止部先端を爪ボックス内に退去させるようにしたことを特徴とする
J:天井直付型照明器具。」
である。
1) 甲第1号証による取り消し理由(実用新案法第3条の2の規定による取消理由)
甲第1号証には、右本件考案の「A+B+C+D+E+F+G+H+I+Jの構成」が開示されており、構成及びその目的、効果において実質同一であり、本件考案は甲第1号証に記載された考案と同一である。
以上のように、本件考案は、その出願の日前に出願された特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、当該実用新案登録出願と甲第1号証とは、出願人または発明者(考案者)が同一でもないので、実用新案法第3条の2の規定により、本件考案につき、実用新案登録を受けることができないものであり、同法附則第9条第2項で準用する特許法第113条第1項第2号の規定により、受けた登録につき取り消すべきものである。
2) 甲第2号証(甲第3号証?甲第7号証含む)並びに甲第8号証?甲第10号証による取消理由(実用新案法第3条第1項第1号により、若しくは、同条第2項の規定による取消理由)
イ) 主位的理由:甲第2号証には本件考案の「A+B+C+D+E+F+G’+H+I’十J」の構成が開示されており、構成及びその目的、効果において実質同一であり、本件考案は甲第2号証で公然知られた考案と実質的に同一である。
以上のように、本件考案は、その出願前公知の甲第2号証と実質的に同一であり、その出願前に公然知られた考案であると言わざるを得ず、実用新案法第3条第1項の規定により、本件考案につき、実用新案登録を受けることができないものであるところ、同法附則第9条第2項で準用する特許法第113条第1項第2号の規定により、受けた登録につき、取り消すべきものである。
ロ) 予備的理由:仮に、両者が同一でないとしても、甲第8号証、甲第9号証には本件考案の「G‘+H‘+I‘」の構成が開示されており、甲第10号証には本件考案の「G”+I”」の構成が開示されており、甲第2号証に甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証で周知の構成を適用して本件考案を考案することはその考案の属する技術分野における通常の知識を有する者がきわめて容易になしうる程度のことにすぎない。
従って、仮に両者が同一でないとしても、甲第2号証に甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証で周知の構成を適用して本件考案を推考することはその考案の属する技術分野における通常の知識を有する者がきわめて容易になしうる程度のことにすぎないものである。それゆえ、実用新案法第3条第2項の規定により、本件考案につき実用新案登録を受けることができないものであるところ、同法附則第9条第2項で準用する特許法第113条第1項第2号の規定により、受けた登録につき、取り消すべきものである。
3) 実用新案法第5条第5項(特許法第113条第1項第4号)違背による取り消し理由
【理由の要点】
「係止溝に係止される係止爪」に関する記載が当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない。
・先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部を有する係止爪と、どのような形状を有する係止溝とが係止するのかを特定する記載がなく不明瞭。
・どのような先端部の形状を有する係止部と、どのような形状を有する係止溝とが係止するのかを特定する記載がなく不明瞭。]
5. 異議申立人は、右第1)、第2)の主張を、裏付けるべく、以下のとおりの証拠を提出する。
(1) 甲第1号証: 特願平3-66868号の願書に添付された明細書および図面;「特開平4-212276号公報」(以下、「引用例」という。)
(2) 甲第2号証: 物件(松下電工株式会社製 照明器具 品番HAZ9827T 製造年月日1991年3月29日)
(3) 甲第3号証: 甲第2号証に係る照明器具の図面
(4) 甲第4号証: ナショナル照明器具カタログNo.照E-205 1991年2月5日発行「新商品3・4月発売 インテリア照明器具」松下電工株式会社発行(第11?12ページ)
(5) 甲第5号証: 1991年3月20日付日刊工業新聞 第12面
(6) 甲第6号証: 1991年3月22日付電気新聞 第12面
(7) 甲第7号証: ナショナル照明器具カタログNo.照E-209 1991年7月1日発行「新商品8・9月発売インテリア照明器具」松下電工株式会社発行(第3?4ページ)
(8) 甲第8号証: 実願昭62-142380号の願書に添付された明細書および図面(実開昭64-46906号公報)のマイクロフィルム
(9) 甲第9号証: 昭和45年10月30日 日刊工業新聞社発行「機構設計データブック」(第54?55ページ)
(10) 第10号証: 実願平1-20077号(実開平2-111009号)のマイクロフィルム
6. 異議申立人の提出した甲第1号証刊行物(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が、図面とともに記載されている。
イ) 「【請求項1】天井側に配備され、照明器具への給電部を有する取付具と、照明器具側に備えられ、取付具に天井方向への移動で凹凸嵌合するとともに給電部に接続する受電部を有する被取付具とからなり、凹凸嵌合部位内に弾性付勢されて突出する被係止部を取付具、被取付具のいずれか一方に設けるとともに他方に被係止部を係止する係止部を設け、且つ被係止部を設けた一方に弾性付勢に抗して被係止部を後退させ、係止部との係止を解除する操作部を設けたことを特徴とする照明器具の取付装置。」(特許請求の範囲請求項1の記載)
ロ) 「【実施例】以下本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
本実施例は図1?図4に示すように、天井1に通常固定されている引掛シーリングローゼット2に取付けられる引掛シーリングプラグ3aを上面に有する中間アダプタ型の取付具3に対してと照明器具5に一体に設けた被取付具4を介して照明器具5を取付ける構成を備える。
【0025】取付具3は、コードペンダント型の照明器具のつり下げに供せられる公知のものと異なり、この取付具3は照明器具5の略中央上面に上端が開口し、下端が照明器具5の略中央下面に開口した被取付具4の貫通孔4aの内部に挿入される。そして、取付具3の側面に設けた給電部3bに照明器具5の被取付具4側の受電部4bが下方から接続されるとともに、取付具3の側面に設けた係止部3c(取付具3の対向する2つの側面にそれぞれ設けられる)に被取付具4側からスプリング4cによって弾性付勢されて横方向に突出する被係止部4dが係止される。
【0026】さらに、被係止部4dを前記弾性に抗して後退させて係止部3cとの係止を解除できる操作部4eを設けている。」(公報第4頁右欄第27行?47行目)
ハ) 「ボディ38の中心には上下に貫通する透孔41を設け、この透孔41に下方から挿通した照明器具用丸打ちコード40を上面側の受電部4bの端子ねじ42に接続し、受電部4bで受電された電源を照明器具側に丸打ちコード40を通じて通電することができるようになっている。またボディ38の両側部内には前記被係止部4dと操作部4eとを一体に形成している逆L状部材を収納する空所39を設けており、この逆L状部材をスプリング4cで横方向に弾性付勢して横片で形成される被係止部4dを前記窓孔39より外部に突出させ、また縦片からなる操作部4eの先端を空所43の下端開口より被取付具4の下面より突出させている。
【0053】従って被取付具4の下面より突出した両側の操作部4eを外側からボディ38の中央側方向へ指でつまむと、スプリング4cの弾性付勢に航して被係止部4dをボディ38の窓孔39内に没入させることができ、また指を離すと被係止部4dが窓孔37から外部に突出して元に戻るのである。而して本実施例では取付具3の凹部32内に下方から被取付具4を嵌合し始めると係止部3cが先端上面のテーパ面が凹部32の開口縁で押されて被係止部4dがスプリング4cの弾性付勢に抗してボディ38の中央側方向に移動して窓孔39内に没入し、この状態で更に被取付具4を凹部32内に嵌合すると、受電部4bの先端が差込み口33に挿入され、ケース3d内の給電部3bに接続される。そして被取付具4の上端が凹部32内の天井面に当たる位置まで被取付具4が嵌合されると、窓孔39の位置と係止部3cの位置とが一致し、被係止部4dはスプリング4cの弾性付勢で窓孔39より飛び出して係止部3cに係止することになり、取付具3に被取付具4が固定される。
【0054】 この状態で照明器具を丸打ちコード40により吊り下げることができるのである。外すときには被取付具4を取付具3より外すときには操作部4eをボディ38の中央側に指で押せば、被係止部4dが係止部3cより離脱し、この状態で被取付具4を凹部32より引き抜けばよいのである。」(公報第8頁左欄第5行?40行目) ニ) 「そこで本実施例では、図31に示すように取付具3を嵌合する凹部たる貫通孔4aの断面形状を円形にし、その内周面に環状溝からなる係止部44を設けている。(本実施例では高さの違う引掛シーリングローゼット2に対応するために上下2段に設けている)。一方取付具3は図33に示すように外形を前記貫通孔4aの断面に対応するように円柱状に形成され、その両側面より係止部44に係止する被係止部45を横方向に突出している。この被係止部45は図34に示すように取付具3のケース3d内に出没自在に設けられ、常時は内部に設けたスプリング46で突出方向に弾性付勢されている。また被係止部45の下面には操作部47の上端が固定されている。操作部47は取付具3の下面より突出しており、指でケース3dの中央部側に押されると、スプリング46の弾性付勢に抗して被係止部45をケース3d内に没入させることができるようになっている。」(公報第8頁右欄第3行?18行目)
7. 異議申立人の提出した甲第2号証物件
異議申立人の提出した前記甲第2号証に係る物件は、照明器具物件を検証の目的として提出したものと捉えられる(以下、「甲2照明器具物件」という。)。
甲2照明器具物件は、前記引用例に記載の第1実施例に記載されたものと軌を一にする構成の「天井直付き型照明器具」を、体現しているものと捉えられる{構成部分の逐一の比較検討は、しない(後述の引用例記載の構成部分の対比・判断過程で行う審案事項と同趣旨なので、重複の弊を避けるため割愛する)。}。
8. 対比・判断
引用例(就中、本引用例の基本的な技術内容を実現する「第1実施例」のもの。以下同じ。)に記載された「シーリングローゼット」、「取付具3」及び「天井に直接固定する照明器具」は、その機能と構成に徴し、本件【請求項1】に係る考案(以下、「本件考案」という。)の「引掛シーリングボデイ」、「引掛シーリングキャップ」及び「天井直付型照明器具」に、相当することは明らかであり、この照明器具も、該器具本体のほぼ中央に形成した開口部(引用例に記載の「貫通孔」が、相当)から天井面に固定された引掛シーリングボデイを器具本体の下方に露呈させて器具本体の上面側を対設させ、前記引掛シーリングボデイの下面側に引掛シーリングキャップを配設し、この引掛シーリングキャップに器具本体を支持するようにした天井直付型照明器具であることは、その記載と図示(第1?3図において示される態様)の内容に徴し、明らかに是認されるところである。
また、引用例に記載の「係止部3c」は溝状を呈してシーリングキャップに付されており、且つ引用例の「被係止部4d」は係止突状をなして器具本体側に存するから、それぞれ、本件考案の「係止溝」及び「係止爪」を、実現しているというべきである。むろん、引用例に記載の係止爪も、図示の態様(第1,3、4図)から、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部を有することは明らかであり、この係止爪も、本体において横方向に摺動するものであり、かかる横移動に資する空間部は、まさに本件考案の「爪ボックス」を実現しているというべきである。
さらに、引用例に記載の「スプリング4c」は、本件考案の爪ボックス内に配設された「弾性バネ」に相当しており、引用例に記載の「操作部4e」は、本件考案の「係止解除部」に、相当するものである。
以上のとおりであるから、引用例には、本件考案との対応において技術的要件事項を抽出すると、以下の記載がされているというべきである。
「器具本体のほぼ中央部に形成した開口部から天井面に固定された引掛シーリングボデイを器具本体の下方に露呈させて器具本体の上面側を天井面に対設させ、前記引掛シーリングボデイの下面側に引掛シーリングキャップを配設し、この引掛シーリングキャップに器具本体を支持するようにした天井直付型照明器具において、前記引掛シーリングキャップの側面に係止溝を設け、前記器具本体下面の前記係止溝の対向位置に爪ボックスを配設し、この爪ボックス内に前記係止溝に係止される係止爪を装着し、この係止爪を、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部と、係止部後方からスライドさせる係止解除部を有して構成し、常時は、爪ボックス内に配設された弾性バネにより係止部を前方に突出させ、所要時には、手操作によって係止解除部を爪ボックスの後方に向けてスライド移動して係止部先端を爪ボックス内に退去させるようにした天井直付型照明器具。」
本件考案と引用例に記載の考案(以下、「引用考案」という。)とを比較すると、
本件考案の係止爪は、L字状又はT字状であるのに対して、引用考案の係止爪では、左様な構成を欠如している点、
において、相違している。
ところで、引用例の第15実施例においては、係止爪がL字状を呈したものが、開示されている(図29の係止部4dと係止解除部4eとでL字状を為している態様が、垣間見られる。)。
しかしながら、このL字状係止爪が、直ちに、前記本件考案の係止爪にそのまま置換した構成は、開示の限りではないというべきである。
けだし、引用考案の係止爪を第15実施例のものの如きL字状のものを以て供用する旨の記述的契機は、引用例には一切見いだされないこと、
また、第15実施例のものは、そもそも、本件考案が構成要件として具有する引掛シーリングボデイを具備していず、ために、直接シーリングキャップ自体を天井に固定し、配線もシーリングキャップ内で、給受電(部材3b、4b)する態様のもの{シーリングキャップ自体にはシーリングボデイより受電するための鈎型の受電部(例.プラグ刃3h)は全く持っていない}であって、基本的構造を異にし彼此流用可能のものではないというべきであること、
が、根拠付けとして考えられるからである。
さらに、引用例の第16実施例のもの(図32?33)は、シーリングボデイは存するものの、係止爪は、シーリングキャップ自体に備えられたものであり、さらに係止爪の係止部は、先端に上方側が突出する傾斜断面形状となっており、本件考案と構成が大幅に懸隔しているところ、第15実施例につき審案した結論が、本実施例についても、基本的に当てはまるものといってしかるべきである。
9. [判断]
上記のとおりであるから、引用例には、本件考案と同一の考案が開示されているとはいえず、本件考案は、実用新案法第3条の2の規定の要件を充足しないものである。
それ故、この点における異議申立人の主張は、採用することができない。
10. 次に、甲2照明器具物件(甲第3号証?甲第7号証含む)並びに甲第8号証?甲第10号証に基づく取り消し理由につき審案する。
1) 主たる理由
申立人は、本件考案は、甲2照明器具物件と同一であるから、実用新案法第3条第1項第1号に該当している旨主張する。
ところで、甲2照明器具物件は、前記のとおり前掲引用例に開示された引用考案と同様の構成のものと捉えられる。
すなわち、甲2照明器具物件は、
「器具本体のほぼ中央部に形成した開口部から天井面に固定された引掛シーリングボデイを器具本体の下方に露呈させて器具本体の上面側を天井面に対設させ、前記引掛シーリングボデイの下面側に引掛シーリングキャップを配設し、この引掛シーリングキャップに器具本体を支持するようにした天井直付型照明器具において、前記引掛シーリングキャップの側面に係止溝を設け、前記器具本体下面の前記係止溝の対向位置に爪ボックスを配設し、この爪ボックス内に前記係止溝に係止される係止爪を装着し、この係止爪を、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部と、係止部後方からスライドさせる係止解除部を有して構成し、常時は、爪ボックス内に配設された弾性バネにより係止部を前方に突出させ、所要時には、手操作によって係止解除部を爪ボックスの後方に向けてスライド移動して係止部先端を爪ボックス内に退去させるようにした天井直付型照明器具。」
であると捉えられる。
したがって、甲2照明器具物件は、その係止爪は、係止部と係止解除部とでL字状又はT字状片で構成したという構成部分を欠如しているところ、本件考案と同一の構成を具備しているとは解せられず、他の要件を審案するまでもなく、実用新案法第3条第1項第1号に該当しないものというべきである。
2) 予備的請求について
上記のとおり、主たる理由を以ては、本件考案についての登録を取り消すことができないものであるところ、予備的に求めている実用新案法第3条第2項の規定に基づく取り消し理由につき審案することとする。
ところで、実用新案法第3条第2項の規定を充足するためには、甲2照明器具物件が、この出願前公然知られたことを要する。
以下、審案する。
イ) この出願前であるか否か
異議申立人は、甲第2号証に貼られた表示紙の「製造年月日910329」なる記載から、1991年3月29日(平成3年3月29日)に製造されて、この出願前公然知られたという口吻のようであるが、そもそも右製造年月日の記載は、私人の作成した表示であって且つ信頼を措くに相当ではないと思料されるものであるから、その主張は、採用することができない。
ロ) 次に、公然知られたか否か
公然とは、不特定又は多数の知り得る状況下におかれたことを意味する。
製造年月日が仮に本件出願前という要件を充足するとしても、製造が直ちに不特定多数の人間の知り得べき状況下におかれたことを含意せず、製造年月日を以て公知性の要件を充足するものと捉えることはできないというべきである。
甲2照明器具物件においては、当該製造年月日自体が、措信出来ないところ、なおさら、この出願前公然知られたを充足するに至らないという外はない{甲第3号証の1?6は、甲2照明器具物件に係る設計図面とされているが、この図面の記載事項(例.生産終了年月)も、私人の作成した文書にして、信頼を措くにほど遠いと目されるものであるところ、この出願前公知の証明にはならないというべきである。}。
3) 他の証拠について
次に、甲第4号証の商品カタログに審及するに、甲2照明器具物件と同一の品番と目される「HAZ9827T」が記載されているが、品番が同じであっても、爾後の事情の変更に対応し設計変更されることもあり得ることを勘案するとカタログの品番と設計図若しくは物件に開示の品番が同じであることの一事で以て構成が全く同じであるという保証は存しないというべきである。
さらに、本件甲第4号証の記載では、単にカタログに掲載されたというだけであり、甲2照明器具物件が、イ)日本国内で、ロ)公然と、ニ)知られた、という要件事実を悉く包括していることの証明には、当然にはなり得ないものというべきである(甲第7号証のカタログにつき、亦同様である。)。
また、甲第5?6号証には、天井直付き型照明器具(シーリングライト)に関する記載が存するも、該照明器具の具体的構成は開示されていず、いかなる構成要件を具有する照明装置であるのか解らないところ、本件考案の登録の取り消し理由を構成するには足りない。
またさらに、甲第8号証、第9号証、第10号証の各刊行物に記載のものは弾性バネ付きT型(L型)解除部を有するラッチによる係止具に関する考案であり(但し第10号証のものには、バネは見いだされない。)、何れもこの出願前人口に膾炙された技術事項ではある。
しかしながら、これらの係止具は、飽くまでも、甲2照明器具物件が、この出願前公然知られた考案であることを前提として、その公知の照明器具の係止爪の具体的な構成として、係止部とそれと一体的に下方に導出する係止解除部とを有するL字状又はT字状片で構成したことが、きわめて容易に推考することを得たか否かの判断に資するためのものである。
ところで、右甲2照明器具物件は、この出願前、日本国内において、公然知られたことを証明するものは未だ、見いだされない。
したがって、如何に弾性バネ付きT字状若しくはL字状係止解除部付き係止爪が、普通に知悉された技術事項であることを証しても、本件考案をきわめて容易に推考することを得たか否かの判断のための前提を欠如しているから、これ等を以て本件考案の登録を取り消すための証拠として援用するには不適切というべきである(因みに、仮に甲2照明器具物件が、この出願前日本国内において公然知られた考案であると措定しても、右甲2照明器具物件の係止具に、T字状若しくはL字状の係止爪を採択し且つ相応に適用せしめることに必然予測可能性が存したというには、飛躍があるというべきである。)。
以上のとおりであるから、この予備的取り消し理由のくだりにおける異議申立人の主張は採用することができない。
11. 最後に、実用新案法第5条第5項違背による取り消し理由につき審案する。
異議申立人は、具体的に以下のとおり主張する。
『1.「係止溝に係止される係止爪」とあるが、先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部に対して係止する係止溝を、どのように特定すると前記課題を解決できるのか、という記載が無く、不明瞭であり理解できない。
2.「先端に下方側が突出する傾斜断面形状の係止部」とあるが、断面形状以外の形状、特に係止部の先端部と、該先端部に対して係止する係止溝の形状とを、どのように特定すると、前記課題を解決できるのかという記載が無く、不明瞭であり理解できない。』
しかし、本件考案の係止溝と係止部の態様は、本件明細書の記載及び図面(【図1?2】)の態様に徴しほぼ明らかに捉えられるものというべきであり、傾斜断面形状の係止部が、それと相対応する形状の係止溝に係着する如く係止するものであって、係止部の先端形状や溝の断面形状を具体的詳細に記述しなくても、当業者の技術レベルを以て十分本件考案を実施することができる程度のものといって妨げない。
したがって、明細書の記載が不明瞭で理解することが出来ないものにはあたらないものというべきである。
よって、異議申立人の主張する不明瞭の廉は、何等存しない。
以上のとおりであるから、異議申立人の本件考案に係る登録を取り消すという主張は、全て理由ががない。
なお、外に、本件考案に関して受けた登録を取り消すべき理由を、発見しない。
12. 結語
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2000-05-23 
出願番号 実願平4-606 
審決分類 U 1 651・ 111- Y (F21V)
U 1 651・ 161- Y (F21V)
U 1 651・ 121- Y (F21V)
最終処分 維持    
前審関与審査官 山岸 利治  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 藤原 稲治郎
長崎 洋一
登録日 1998-05-08 
登録番号 実用新案登録第2577174号(U2577174) 
権利者 エヌイーシーライティング株式会社
東京都港区芝五丁目33番1号
考案の名称 天井直付型照明器具  
代理人 佐藤 成示  
代理人 安藤 淳二  
代理人 井澤 眞樹子  
代理人 川瀬 幹夫  

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