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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない E01F |
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管理番号 | 1028268 |
審判番号 | 審判1999-35423 |
総通号数 | 16 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2001-04-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-08-12 |
確定日 | 2000-08-21 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2550975号実用新案「落石防止装置」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 経緯 本件実用新案登録第2550975号は、平成3年11月11日に出願され、平成9年6月20日に設定登録され、その後、川崎鐵網株式会社、川鉄建材株式会社、宮嶋雄二より実用新案登録異議の申立てがなされ、平成11年異議第71838号事件として審理され、平成10年11月6日に訂正請求がなされ、平成10年12月10日に訂正を認めるとともに実用新案登録を維持する異議の決定がなされ、その決定は確定した。その後、平成11年8月12日に川崎鐵網株式会社より無効審判の請求(本件審判の請求)があり、平成11年11月29日付けで被請求人より答弁書とともに訂正請求書が提出され、平成12年3月7日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出されたものである。 第2 無効審判請求人の無効理由の概要 請求人は、審判請求書において、本件実用新案登録の請求項1に記載された考案は、その出願前日本国内において公然実施された甲第4号証に示す考案と同一であるか、又は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載され又は甲第4号証に示す公然実施された考案から当業者であればきわめて容易に考案できたものであって、実用新案法第3条第1項第2号又は同条第2項に該当し無効とすべきであると主張し、甲第1号証ないし甲第4号証の1を提示しているが、平成12年3月7日付審判事件弁駁書の「6 理由」の(1)において、甲第4号証及び甲第4号証の1を取り下げており、同書3頁の(3)において、「甲第1号証?甲第3号証に記載された考案から当業者であればきわめて容易に考案できたものであり、実用新案法第3条第2項に該当し・・・無効とすべきものである。」と主張していることから、甲第4号証及び甲第4号証の1に基づく無効理由の主張を取り下げたものと解され、したがって、請求人の無効理由の主張は、本件実用新案登録の請求項1に記載された考案は、その出願前日本国内において頒布された甲第1号証ないし甲第3号証に記載された考案から当業者であればきわめて容易に考案できたものであって、実用新案法第3条第2項に該当し無効とすべきであるものと解される。 第3 訂正請求書の訂正事項 平成11年11月29日付け訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。 1.訂正事項a 【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】の 「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結し、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」を、 「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」 と訂正する。 2.訂正事項b 明細書(登録公報1頁2欄7行)の段落番号【0003】の「落下の勢い抑制しながら」を「落下の勢いを抑制しながら」と訂正する。 3.訂正事項c 明細書(登録公報2頁3欄13行)の段落番号【0007】の「風化がが進み」を「風化が進み」と訂正する。 4.訂正事項d 明細書(登録公報2頁3欄30行ないし37行)の段落番号【0010】の「【課題を解決するための手段】この考案はこのような目的を達成するために、・・・係止するようにしたものである。」を「【課題を解決するための手段】この考案はこのような目的を達成するために、立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止するようにしたものである。」と訂正する。 5.訂正事項e 明細書(登録公報2頁4欄19行及び21行)の段落番号【0015】の「凝固材」を「凝固剤」と訂正する。 第4 訂正の適否 1.訂正事項aは実用新案登録請求の範囲の減縮を、同b、c、eは誤記の訂正を、同dは実用新案登録請求の範囲を訂正したことによって生じる明細書の不都合を解消するための訂正であって、明りょうでない記載の釈明をそれぞれ目的とするものであって、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であって、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張しまたは変更するものでもない。 2.訂正事項aのいわゆる独立実用新案登録要件について 2-1.まず実用新案法第3条第2項の要件について検討する (1)本件訂正考案の認定 本件実用新案登録に係る考案は上記のように訂正が請求され、その実用新案登録請求の範囲の請求項1に係る考案は次のとおりである(以下、本件訂正考案という。)。 「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」 (2)証拠及びその記載事項 請求人が提示した本件考案の出願前に日本国内において頒布したと認められる甲各号証には次の記載が認められる。 (2-1)甲第1号証(「落石対策便覧」昭和58年7月25日、社団法人日本道路協会発行) 50頁9行には「斜面に植生がある場合、落石阻止に果たす役割が大きい。」と記載され、50頁13行ないし15行には、「斜面の状況が裸地であるか苔や草によって被覆されているか、立木がどの程度はえているかなど、植生状況について調べる。ひんぱんに落石が生じる斜面は、裸地であったり、立木の倒壊や根曲り、樹幹の損傷などがみられる・・」と記載され、124頁3行ないし6行には、「4-10ワイヤーロープ掛工 ワイヤーロープ掛工は根固め工の一種と考えられ、浮石や転石が滑動や転落しないように格子状にしたワイヤーロープや数本のロープ等を用いて直接浮石などの基部を覆ったり、掛けたりして斜面上に固定させる工法である。」と記載され、さらに304頁には写真7-7として、ワイヤーロープ掛工の施工写真が、305頁の図7-7には、ワイヤーロープ掛工の平面図及び横断面が記載され、この図7-7には、格子状に張られた補助ロープおよび縁ロープからなるワイヤーロープ、ワイヤーロープの交差部を締結したクロスクリップ、ワイヤーロープを傾斜面に沿うように係止するため斜面に打ち込まれたアンカーボルトが記載されている。 (2-2)甲第2号証(「落石防止防護工法」三上善蔵著、昭和59年12月20日、理工図書株式会社発行) 4頁19行ないし5頁2行には、「(4)立木など植生の影響 一般に立木など植生の地表被覆物は、地表面を保護し表土の浸食による流失を防ぎ、地表面の激しい温度変化をやわらげ凍結融解作用を緩和してくれる。・・・このように立木は、その根系によって落石の発生を防止し、その樹幹をもって落石を受け止めまたは落下エネルギーを減殺するなどの働きをする・・」と記載され、66頁5行ないし10行には「(1)落石防止林 森林が落石防止に有効に機能することはよく知られているところである。その効用を列挙すると次のようである。1)表面浸食の防止 転石型の落石の主誘因である水による岩石基部の浸食に対し、樹冠、樹幹、樹根、落葉、落枝によって斜面を保護し、落石の発生を防止する。」と記載されている。 (2-3)甲第3号証(実願昭55-165260号(実開昭57-91849号)のマイクロフィルム) 1頁17行ないし18行には「この考案は交差して張設されたロープの交差部を締着するクロスクリップに関する。」と記載され、2頁20行ないし3頁4行には「図中1は法面で、この法面1にそれぞれ定着アンカー2…を介して上下および左右方向に複数本のロープ3 …が張設されている。そして各ロープ3…の交差部がクロスクリップ4により締着されている。」と記載され、3頁11行ないし13行には「上記クロスクリップ4は、第3図ないし第4図に示すように、それぞれ楕円形をなす受座金8と押座金9とを備えてなる。」と記載され、4頁7行ないし12行には「ルーフボルト15は、押座金9および受座金8を貫通してその一端側が受座金8の外面側に大きく延出し、その延出部分をアンカー部18となし、このアンカー部18が法面1の地盤中に埋め込まれている。」と記載され、5頁6行ないし13行には「また、ルーフボルト15の一端側はアンカー部18として法面1の地盤中に埋め込まれており、このためロープ3、3の交差部は受座金8および押座金9と一体に法面1の定位置に係止される。このようにロープ3、3はその相互のずれ動きが防止されるとともに、交差部全体が確実に法面1に係止され・・」と記載されている。 (3)対比、判断 本件訂正考案と甲各号証に記載されたものとを比較すると、甲各号証には、本件訂正考案の構成要件の一部である「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設」する構成(以下、本件訂正考案の特定構成Aという。)に関して記載がなく、また、この構成を示唆する記載もない。また、甲第1号証及び甲第2号証には「ワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止」する構成(以下、本件訂正考案の特定構成Bという。)に関して記載がなく、この構成を示唆する記載もない。 すなわち、甲第1号証には、ワイヤーロープ掛工として、浮石や転石が滑動や転落しないように格子状にしたワイヤーロープや数本のロープ等を用いて直接浮石などの基部を覆ったり、掛けたりして斜面上に固定させる工法が記載されているものの、格子状にしたワイヤーロープは、主に浮石を直接覆うものであって、本件訂正考案の特定構成Aのように「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設」するものではない。また、甲第1号証に記載されたワイヤーロープ掛工は、ワイヤロープの交差部にはアンカーは設けられておらず、本件訂正考案の特定構成Bのように「ワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止」するものでもない。つまり、甲第1号証には、本件訂正考案の特定構成A及びBについては何ら記載されていない。 甲第2号証には、立ち木や森林が落石防止に有効である旨の記載が認められるにすぎず、本件訂正考案の特定構成A及びBについては何ら記載されていない。 甲第3号証には、交差して張設されたロープの交差部を締着するクロスクリップにおいて、クロスクリップの受座金8と押座金9を貫通するルーフボルト15の一端側をアンカー部18として法面1の地盤中に埋め込ませることにより、ロープ3、3の交差部を受座金8および押座金9と一体に法面1の定位置に係止させ、ロープ3、3の相互のずれ動きを防止し、交差部全体を確実に法面1に係止させる構成が記載されているものの、立ち木に関する記載は認められず、少なくとも上記本件訂正考案の特定構成Aについては何ら記載されていない。 そして、本件訂正考案は上記の本件訂正考案の特定構成A及びBとしたことによって、明細書に記載された「落石の発生源である浮き石自体の初期始動をその浮き石の上に縦横に張設したワイヤロープにより抑えることができ、したがって落石エネルギーが発生せず、傾斜面が安定し、落石自体の発生を長期に亘って防止することができる。そして浮き石を押さえ付けるワイヤロープは、傾斜面に成育している立ち木の間を縫って縦横に張設するものであるから、その立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要で、傾斜面に何ら人工的な手を加えることなく、自然の状態を保ったまま施工でき、したがって立ち木による自然環境の保全と傾斜面の強化をそのまま活用でき、傾斜面の安定化をより一層確実に達成して落石の発生を未然に防止でき、また立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要であるから施工コストが大幅に低減する。」(段落番号0011及び0012)、「浮き石の初期始動を抑えて落石の発生を確実に防止することができるとともに、立ち木の伐採を要することがないから、施工が簡易でかつ傾斜面を自然な状態に保て、環境破壊や美観の低下を招くことがない利点がある。」(段落番号0020)という作用効果を奏することが期待できるものである。 したがって、本件訂正考案は、請求人の提示した甲各号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案できたものとすることはできず、本件訂正考案は実用新案法第3条第2項に該当するとすることはできない。 (4)請求人の主張について 請求人は、(1)甲第1号証には、本件訂正考案の、「ワイヤーロープを立ち木の間を縫いながら浮石の上を通る状態に縦横に張設」している構成の記載はないが、50頁9行には「斜面に植生がある場合、落石阻止に果たす役割が大きい。」と記載され、50頁13行ないし15行には、「斜面の状況が裸地であるか苔や草によって被覆されているか、立木がどの程度はえているかなど、植生状況について調べる。ひんぱんに落石が生じる斜面は、裸地であったり、立木の倒壊や根曲がり、樹幹の損傷などがみられる・・」と記載されていること等から、当該構成は甲第1号証や甲第2号証に示唆されている旨(請求書8頁15行ないし9頁6行)、(2)甲第1号証の305頁の写真7-8には、傾斜面のほぼ全体に格子状に張られた補助ロープおよび縁ロープからなるワイヤーロープを掛け渡している状態が記載されている旨(請求書5頁18行ないし20行)主張する。 しかしながら、(1)については、甲第1号証に記載されたものには、立木等の植生状況を調べる旨の記載が、また、甲第2号証には立ち木や森林が落石防止に有効である旨の記載が認められるにすぎず、ワイヤーロープを立木の間を縫いながら縦横に張設する旨の記載やそのことを示唆する記載は認められない。また、(2)については、写真7-8についてはどのような状態を示しているのかの説明がなく、浮石と思われる石の上にネットが掛けられていること、及び写真の上方に立木が認められるものの、該ネットと立ち木との関係は不明であって、ワイヤーロープが立木の間を縫いながら縦横に張設されているとは認められない。 請求人の主張はいずれも採用できない。 2-2.また、本件訂正考案には、他にその出願の際独立して実用新案登録を受けることができない理由も発見できない。 3.したがって、平成11年11月29日付けでした訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第4条第2項の規定により読み替えられる同法による改正前の実用新案法第40条第2項ただし書き、及び同条第5項の規定により準用する同実用新案法第39条第2項及び第3項に規定する要件を充足するので、適法なものと認められる。 第5 請求人が主張する無効の理由について 本件実用新案登録に係る考案は、上記訂正請求により訂正された実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのもの(本件訂正考案)と認められ、本件訂正考案は、上記「第4」の「2」の「2-1」の項に記載したとおり、請求人の提示した甲第1号証ないし甲第3号証に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。 よって、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできない。 第6 まとめ 以上のように、本件審判の請求は成り立たない。また、審判費用の負担については、実用新案法第41条の規定により準用し、特許法第169条第2項の規定によりさらに準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【考案の名称】 落石防止装置 (57)【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。 【考案の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この考案は、落石が発生し易い道路沿いなどの傾斜面に設ける落石防止装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、傾斜面における落石の発生を防止する工法として、その傾斜面の全体を金網で覆い、このような金網で落石の発生を防止するようにしたものが知られている。 【0003】 この金網を用いる落石防止装置は、傾斜面の全体を金網で覆い、その傾斜面に露出している比較的小さな岩石が崩落したときに、その岩石が傾斜面から大きく飛び跳ねながら落下することがないように、金網でその落下の勢いを抑制しながら傾斜面の下端部にまで誘導するようにしたものである。 【0004】 【考案が解決しようとする課題】 すなわち、従来の金網を用いる落石防止装置は、傾斜面に露出している岩石自体の崩落を防止するというよりも、岩石が崩落したときの動的なエネルギーを吸収して災害への発展をくい止めるようにしたものである。 【0005】 しかしながら、傾斜面に浮き石として巨大な岩石が露出するような場合、単に金網で覆う手段では、その初期始動を抑えることがほとんど困難で、一旦その巨大な岩石が崩落したときには、金網が容易に破壊して不測の大惨事に発展する恐れがある。 【0006】 また、傾斜面の全体に金網を拡げて覆う手段では、その施工に先だって傾斜面の上の立ち木(自然林、植林)の伐採、さらにその傾斜面の地ならし等人工的だ処置を施さなければならない。 【0007】 元来、傾斜面に林立する自然林や植林等による立ち木は、自然環境を保全するとともに、その傾斜面を雨水等に対して強化する治山の上重要な要素であり、このような傾斜面の立ち木を伐採してしまえば治山上大きな不利益となり、風化が進み、また併せてその人工的な処置により自然環境が破壊してしまう。 【0008】 さらに施工面においても、立ち木の伐採およびその伐採後の傾斜面の地ならし等により多大な労力と時間を要し、コストが大幅に高騰してしまう。そして施工後には、傾斜面の全体が金網で覆われるため、この傾斜面に新たに植林を施そうとしても、その金網が邪魔となってほとんどその実施が困難であり、またその傾斜面から自然林が成育しようとしても、その成育が金網により妨げられてしまう。 【0009】 この考案はこのような点に着目してなされたもので、その目的とするところは、傾斜面に何ら人工的な処置を加えることなく、自然の状態を保ったまま、その傾斜面に点在する浮き石を強固に押さえ付けてその崩落を長期に亘って防止することができる落石防止装置を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】 この考案はこのような目的を達成するために、立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤローブの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止するようにしたものである。 【0011】 【作用】 このような落石防止装置においては、落石の発生源である浮き石自体の初期始動をその浮き石の上に縦横に張設したワイヤロープにより抑えることができ、したがって落石エネルギーが発生せず、傾斜面が安定し、落石自体の発生を長期に亘って防止することができる。 【0012】 そして浮き石を押さえ付けるワイヤロープは、傾斜面に成育している立ち木の間を縫って縦横に張設するものであるから、その立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要で、傾斜面に何ら人工的な手を加えることなく、自然の状態、を保ったまま施工でき、したがって立ち木による自然環境の保全と傾斜面の強化をそのまま活用でき、傾斜面の安定化をより一層確実に達成して落石の発生を未然に防止でき、また立ち木の伐採や傾斜面の地ならし等が不要であるから施工コストが大幅に低減する。 【0013】 【実施例】 以下、この考案の一実施例について図面を参照して説明する。 図中1は例えば山間部における道路沿いの傾斜面で、この傾斜面1に立ち木2…とともに、落石の発生源である浮き石3…が点在している。 【0014】 このような傾斜面1の上に、多数本のワイヤロープ4…が立ち木2…の間を縫って縦横に張設され、これらワイヤロープ4…により浮き石3…が押させ付げられている。各ワイヤロープ4…の各交差部はクロスクリップ5…で締着されているとともに、適宜箇所の各交差部がアンカー6…を介して傾斜面1にほぼ密着してその傾斜面1の起伏に沿うように係止されている。 【0015】 前記アンカー6の施工にあたっては、例えば傾斜面1に深さ0.5?1.5m、直径5?15cmの穴を掘り、この穴内に図2に示すように、モルタル、セメントなどの凝固剤7が充填された円筒形のプラスチック容器8を挿入し、このプラスチック容器8内にアンカー6を差し込み、これを前記凝固剤7により固めて固定する。またワイヤロープ4…の端末は、傾斜面1に設けたアンカー9…に係止されている。このアンカー9は前述と同様の施工方法により前記アンカー6よりも強固に傾斜面1に設ける。 【0016】 このような落石防止装置においては、落石の発生源である浮き石3の初期始動がワイヤロープ4…により抑えられ、したがって落石エネルギーが発生せず、傾斜面1が安定し、落石自体の発生が長期に亘って確実に防止される。 【0017】 そして立ち木2…を伐採する必要がなく、このため施工作業が簡易で施工コストが低減するとともに、立ち木2…をそのまま残せるから、環境破壊を招かず、自然保護の点で有益であり、また立ち木2…によりワイヤロープ4…がある程度隠されるから外観も良好に保つことができる。 【0018】 また、立ち木2…を伐採せずにそのまま傾斜面1に林立させておくものであるから、予想を上回る地殻変動等で浮き石3…が僅かにずれ動くようなことがあっても、その浮き石3…を支持しているワイヤロープ4…が立ち木2…に引っ掛かって浮き石3…に対する抑止効果をほぼそのまま維持することができる。 【0019】 このような落石防止装置においては、その施工が簡易でかつその撤去も容易であるから、例えば切取り法面の下方に道路や構造物を構築する際にその法面に仮設として設置するような使用形態を採ることもできる。 【0020】 【考案の効果】 以上述べたようにこの考案によれば、浮き石の初期始動を抑えて落石の発生を確実に防止することができるとともに、立ち木伐採を要することがないから、施工が簡易でかつ傾斜面を自然な状態に保て、環境破壊や美観の低下を招くことがない利点がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】 この考案の一実施例による落石防止装置の平面図。 【図2】 その落石防止装置の一部の断面図。 【符号の説明】 1…傾斜面 2…立ち木 3…浮き石 4…ワイヤロープ 5…クロスクリップ 6…アンカー 9…アンカー |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1.訂正事項a 【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】の 「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結し、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」を、 「立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止してなる落石防止装置。」 と訂正する。 2.訂正事項b 明細書(登録公報1頁2欄7行)の段落番号【0003】の「落下の勢い抑制しながら」を「落下の勢いを抑制しながら」と訂正する。 3.訂正事項C 明細書(登録公報2頁3欄13行)の段落番号【0007】の「風化がが進み」を「風化が進み」と訂正する。 4.訂正事項d 明細書(登録公報2頁3欄30行ないし37行)の段落番号【0010】の「【課題を解決するための手段】この考案はこのような目的を達成するために、・・・係止するようにしたものである。」を「【課題を解決するための手段】この考案はこのような目的を達成するために、立ち木が林立し、かつ多数の浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木の間を縫いながら前記浮き石の上を通る状態に縦横に張設し、これらワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結するとともに、これらワイヤロープの交差部が前記点在する浮き石間で傾斜面に密着するように、前記傾斜面上のワイヤロープの交差部にアンカーを打ち込み、これらアンカーで前記ワイヤロープを前記傾斜面の起伏に沿う状態に係止するようにしたものである。」と訂正する。 5.訂正事項e 明細書(登録公報2頁4欄19行及び21行)の段落番号【0015】の「凝固材」を「凝固剤」と訂正する。 |
審理終結日 | 2000-05-26 |
結審通知日 | 2000-06-09 |
審決日 | 2000-06-20 |
出願番号 | 実願平3-92043 |
審決分類 |
U
1
112・
121-
YA
(E01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森口 良子 |
特許庁審判長 |
田中 弘満 |
特許庁審判官 |
鈴木 公子 宮崎 恭 |
登録日 | 1997-06-20 |
登録番号 | 実用新案登録第2550975号(U2550975) |
考案の名称 | 落石防止装置 |
代理人 | 加藤 久 |
代理人 | 坪井 淳 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 河井 将次 |
代理人 | 坪井 淳 |
代理人 | 河井 将次 |