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審決分類 |
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) A47G |
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管理番号 | 1039460 |
審判番号 | 審判1999-35438 |
総通号数 | 19 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 実用新案審決公報 |
発行日 | 2001-07-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-08-19 |
確定日 | 2001-05-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2584460号実用新案「ハンガーフック」の実用新案登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 実用新案登録第2584460号の請求項1ないし請求項3に係る考案についての実用新案登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本件登録第2584460号実用新案は、平成5年6月30日に出願され、平成10年8月28日に設定 登録されたものである。 その後、平成11年8月19日付けで請求人シンコハンガー株式会社より無効審判の請求がなされ、平成12年2月9日付けで被請求人アイリスオーヤマ株式会社より答弁書の提出がなされ、平成12年6月23日付けで請求人シンコハンガー株式会社より弁駁書の提出がなされた。 平成12年11月28日付けで請求人および被請求人より口頭審理陳述要領書の提出がそれぞれなされ、同日、口頭審理と証拠調べが行なわれ、その後、審理を終結したものである。 2.本件考案 本件考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 ハンガーの本体が冷却固化する前に、前記本体に挿入され、取り付けられるハンガーフックにおいて、 先端部をテーパー状に成形された第1挿入部と、 該第1挿入部から続く円柱形の第2挿入部と、 該第2挿入部から続き、該第2挿入部より大径の段部が形成された第3挿入部とからなることを特徴としたハンガーフック。 【請求項2】 前記第3挿入部が、逆円錐台形で、前記ハンガーフックの直径より太い上底部と、前記ハンガーフックの直径よりも細い下底部とからなることを特徴とした請求項1記載のハンガーフック。 【請求項3】 前記第3挿入部を複数個、設けたことを特徴とした請求項1または2記載のハンガーフック。」 3.当事者の主張 【請求人の主張】 請求人は、下記甲第1号証ないし甲第13号証を提出し、本件の請求項1ないし請求項3に係る考案は、その出願前に日本国内において公然実施された考案と同一、あるいは、この考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第1項第2号または同条第2項の規定に違反するものであるから、実用新案法第37条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張している。 【証拠方法】 [書証] 甲第1号証:株式会社テクノフルタがイタリアのOMCG社製のコートハンガーフック製造機械を日本の松下オーエムシージー機械株式会社から購入した際の契約書の写し 甲第2号証:イタリアのOMCG社から日本の松下オーエムシージー社に送られたファックス文書 甲第3号証:コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-63610 甲第4号証:コートハンガーフックの下端部のねじ切り部分を示す詳細図 甲第5号証:コシオカ産業株式会社がイタリアのOMCG社製のコートハンガーフック製造機械を日本の松下オーエムシージー機械株式会社から購入した際の契約書の写し 甲第6号証:コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-89706 甲第7号証:コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-89707 甲第8号証:part no.275/1のねじ切りダイを示す図面 甲第9号証:コートハンガーフック下端部のねじ切り部分を形成するローリングダイを示す詳細図 甲第10号証:松下オーエムシージー機械株式会社の代表取締役、松下良一による証明書 甲第11号証:コシオカ産業株式会社の代表取締役、越岡元弘による証明書 甲第12号証:公開実用新案公報 昭和51-63834号 甲第13号証:公開実用新案公報 平成3-101272号 [人証] 越岡元弘 [追加] 甲第14号証:特開昭50-44050号公報 検甲第1号証:コートハンガーフック 1個 【被請求人の主張】 被請求人は、本件の請求項1ないし請求項3に係る考案がその出願前に日本国内において公然実施された考案と同一、あるいは、この考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものであるという請求人の主張は、根拠のないものであり、本件のこれらの考案は、実用新案法第3条第1項第2号または同条第2項の規定に違反するものではない。したがって、本件実用新案登録は無効とすべきものではない旨主張している。 4.当審の判断 (1)各証拠方法の概要 イ.甲第1号証について 請求人が、株式会社テクノフルタがイタリアのOMCG社製コートハンガーフック製造装置を日本の松下オーエムシージー機械株式会社から購入した際の契約書の写し(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第1号証には、「御契約書 NO.1025」の標記のもと、「下記の条件にて契約致します。」、「1988年6月16日」(参考:和暦では昭和63.6.16)との文言に続き、下記の記載が見受けられる。 すなわち、契約の一方の当事者たる「買主」としての「株式会社テクノフルタ」の記名と捺印、契約の他の当事者たる「売主」としての「松下オーエムシージー機械株式会社」の記名と捺印、売買契約の対象物を記載したと思われる欄に「OMCG社製 PGU-250/A型 コートハンガーホック製造機械」および同コートハンガーホック製造機械の種別を示すと思われる「・転造式ネジ切り装置付自動フオーミングマシン」の各記載、「備考」の欄に「1.図面番号:CK-63610(ハンガーホック・線径φ3.8mm)」、「2.製造能力:毎分100?110個」、「3.納入期日:1988年12月末日以内」(参考:和暦では昭和63.12月末日以内)およびその他の支払条件等の各記載をそれぞれ確認することができる。 ロ.甲第2号証について 請求人が、OMCG社から松下オーエムシージー社に送られたフアックス文書(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第2号証には、「OMCG」の標記のもと、日付けとしての「23rd June 1988」(参考:和暦では昭和63.6.23)、発信者を示すと思われる「FROM:OMCG S.P.A.」、受信者を示すと思われる「TO:MATUSITA OMCG」、用件の対象物を示すと思われる「One Machine Mod. 250/A complete with toolings for the production of clothes hanger hook」との文言に続き、下記の各記載が見受けられる。 すなわち、「A) Following the discussion in our offices Mr.K.Sawada will require to the client the modification of threading pitch from 2 mm.(as indicated in drawing CK 63610 and other sketches sent by fax) to 1.5 mm. Number of threadingrolls will be 7 and consequently threaded length will be 10.5 mm. All other dimension of the drawing remain unchanged.」 および、この英文の和訳と思われる 「A)我々のオフイスで話し合ったように 澤田さんは お客に ねじ切りのピッチを2mmから(ファックスで送った図面CK63610および その他のスケッチに示されているように)1.5mmにしてもらうように頼むと思います。ねじ切りのロール数は7で、また、ねじ切り部の長さも10.5mmです。図面のその他全ての寸法は変わりません。」 あるいは、その他の、船積み期限の変更等の各記載を確認することができる。 ハ.甲第3号証について 請求人が、コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-63610(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第3号証には、「CLOTHES HANGER HOOK」の標記のもと、図面番号を示すと思われる「Drawing No.CK 63610」、「コシオカ産業株式会社」の記名、「作図年月日 S.63.6.10」等の各記載とともに線材の径3.8φのコートハンガーフックの全体図を示すと思える図面の記載を確認することができる。 ニ.甲第4号証について 請求人が、コートハンガーフックの下端部のねじ切り部分を示す詳細図(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第4号証には、「OMCG s.p.a」の記名、「上記の図面通りで承認しました。越岡」の署名等を付した、何かの部品のねじ切り部分を示すと思われる図面を確認することができる。 そして、同図面からは、おおよそ 「先端部(同図面で右端部)をテーパー状に成形された部分と、該テーパー状に成形された部分から続く略平行な部分と、該略平行な部分から続き、複数の段部が形成された部分とからなる部品であって、前記複数の段部が形成された部分が複数個の略台形であり、前記部品の左端直径(φ3.8)よりも細い細径部(φ3.3)を有する部品」 の形状を読みとることができる。 ホ.甲第5号証について 請求人が、コシオカ産業株式会社がOMCG社製コートハンガーフック製造装置を松下オーエムシージー機械株式会社から購入した際の契約書の写し(後述する証人尋問の場で、原本を確認済み)であるとして提出した甲第5号証には、「御契約書 NO.1030」の標記のもと、「下記の条件にて契約致します。」、「1989年7月14日」(参考:和暦では平成1.7.14)との文言に続き、下記の各記載が見受けられる。 すなわち、契約の一方の当事者たる「買主」としての「コシオカ産業株式会社」の記名と捺印、契約の他の当事者たる「売主」としての「松下オーエムシージー機械株式会社」の記名と捺印、売買契約の対象物を記載したと思われる欄に「OMCG社製 PGU-250/A型 コートハンガーホック製造機械」および同コートハンガーホック製造機械の種別を示すと思われる「・転造式ネジ切り装置付自動フオーミングマシン」の各記載、「備考」の欄に「1.図面番号:(1)CK-89706(ハンガーホック・線径φ3.5mm) (2)CK-89707(ハンガーホック・線径φ4.0mm)」、「2.製造能力:2サイズ共に毎分100?110個」、「3.納入期日:1990年2月15日以内」(参考:和暦では平成2.2.15以内)、「9.追加条件:首下部分からネジ切り部分までの直線部分が85mmまで可能です。ネジ切りダイスは、3.5mmと3.8mmと4.0mmの併用タイプを使用します。」および支払条件等のその他の記載をそれぞれ確認することができる。 ト.甲第6号証について 請求人が、コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-89706(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第6号証には、図面番号を示すと思われる「Drawing No.CK-89706」、「コシオカ産業株式会社」の記名と捺印、日付けとして「1989.7.14」(参考:和暦では平成1.7.14.)および注釈と思われる「*It must be used the threading dies of KOSHIOKA 1st machine (3.8m/m,part no.0275/1) for threading part.」等の各記載を付した線径φ3.5のコートハンガーフックの全体図を示すと思われる図面の記載を確認することができる。 チ.甲第7号証について 請求人が、コートハンガーフックの全体図を示す図面CK-89707(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第7号証には、図面番号を示すと思われる「Drawing No.CK-89707」、「コシオカ産業株式会社」の記名と捺印、日付けとして「1989.7.14」(参考:和暦では平成1.7.14.)および注釈と思われる「*It must be used the threading dies of KOSHIOKA 1st machine (3.8m/m,part no.0275/1) for threading part.」等の各記載を付した線径φ4のコートハンガーフックの全体図を示すと思われる図面の記載を確認することができる。 リ.甲第8号証について 請求人が、part no.275/1のねじ切りダイを示す図面(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出した甲第8号証には、「THREADING DIE」の標記のもと、「OMCG」の記名、図面番号を示すと思われる「PART.:0275/1」の各記載等を付した、略直方体状の何かの部品を示すと思われる図面を確認することができる。 そして、同図面からは、前記直方体状の部品の表面に、おおよそ 「ピッチ1.5で断面が三角形状の複数個の山と、それに続く平坦部と、さらにその平坦部に続く昇り方向のテーパ状の平面」 を読みとることができる。 ヌ.甲第9号証について 請求人は、甲第9号証を、コートハンガーフック下端部のねじ切り部分を形成するローリングダイを示す詳細図(後述する証人尋問の場で、原本自体も写しであることを確認済み)であるとして提出したが、その後、口頭審理陳述要領書により同号証は「1台目のイタリアのOMCG社製PGU250/A型コートハンガーフック製造機械を購入する際の、ねじ切りピッチを1.5mmに変更する前のねじ部の図面である」と訂正された。 この甲第9号証には、「CLOTHES HANGER HOOK」および「ROLLING DIE.」の標記のもと、「Matsusita OMCG Machine Co., Ltd.」の記名、「TO:OMCG SPA.Italy」との各記載を付した、何かの部品のねじ切り部分を示すと思われる図面を確認することができる。 そして、同図面からは、おおよそ 「先端部(同図面で右端部)をテーパー状に成形された部分と、該テーパー状に成形された部分から続く略平行な部分と、該略平行な部分から続き、複数の段部が形成された部分とからなる部品であって、前記複数の段部が形成された部分が複数個の略台形であり、この略台形は、前記部品の左端直径(φ3.8)より大きく、前記略平行な部分よりも大きな一辺(4.3)と、前記部品の左端直径(φ3.8)よりも小さく、前記略平行な部分よりも小さな他辺(3.3)とを有する部品」 の形状を読みとることができる。 ル.甲第10号証について 請求人が、松下オーエムシージー機械株式会社の代表取締役、松下良一による証明書であるとして提出した甲第10号証には、「貴社は、添付資料1に示すコートハンガーフックを製造するイタリアのOMCG社製のPGU-250/A型コートハンガーホック製造機械を同社から購入され、添付資料2に示す1989年7月14日付契約書に基づき、この製造機械をコシオカ産業株式会社に販売された事実、及び、添付資料3は、その際貴社からイタリアのOMCG社宛に指示したコートハンガーフック下端部のローリングダイの形状である事実を御証明下さい。」という記載、および、このようなシンコーハンガー株式会社の依頼に対する、「以上のとおり相違ないことを証明致します。」、「平成11年5月26日」との記載、あるいは「松下オーエムシージー機械株式会社」の記名、捺印がなされている。(註:添付資料1はそれぞれ本件甲第6号証および甲第7号証と同一内容の図面の写し2枚、添付資料2は本件甲第5号証と同一内容の契約書の写し、添付資料3は本件甲第9号証と同一内容の図面の写し) ヲ.甲第11号証について 請求人が、コシオカ産業株式会社の代表取締役、越岡元弘による証明書であるとして提出した甲第11号証には、「貴社は、添付資料1に示すコートハンガーフックの製造を目的として、イタリアのOMCG社製のPGU-250/A型コートハンガーホック製造機械を、添付資料2に示す1989年7月14日付契約書に基づいて松下オーエムシージー機械株式会社から購入され、遅くとも1989年末迄にはこの製造機械により上記コートハンガーフックを製造され、このコートハンガーフックをシンコハンガー株式会社に販売されていた事実、及び、該コートハンガーフックの下端部の形状は、添付資料3に示す松下オーエムシージー機械株式会社からイタリアのOMCG社宛の指示図面記載の形状であった事実を御証明下さい。」とのシンコーハンガー株式会社の依頼に対し、「以上のとおり相違ないことを証明致します。」、「平成11年5月26日」との記載、あるいは「松下オーエムシージー機械株式会社」の記名、捺印がなされている。(註:添付資料1はそれぞれ本件甲第6号証および甲第7号証と同一内容の図面の写し2枚、添付資料2は本件甲第5号証と同一内容の契約書の写し、添付資料3は本件甲第9号証と同一内容の図面の写し) ワ.甲第12号証について 請求人が、甲第12号証として提出した実願昭49-135824号(実開昭51-63834号)のマイクロフイルムの写しには、 「ハンガー本体(1)の頂部に突出壁(2)を設け、この突出壁(2)の下方に膨出壁(3)を垂設する。この突出壁(2)と膨出壁(3)の略中央に掛環(4)の直径よりやや広く長孔(5)を穿設する。この長孔(5)の下方には掛環(4)の直径よりやや狭く細溝(6)を穿設する。掛環(4)の下方には数条溝を切欠いて段部(8)を形成し、その段部(8)の先端に尖鋭部(7)を設けて、前記突出壁(2)と膨出壁(3)が製作時においてかたまらないうちに掛環(4)の段部(8)及び尖鋭部(7)を長孔(5)及び細溝(6)内に廻動しながら挿入する。」(その明細書第1頁最下行?同第2頁第9行)ことが、図面とともに記載されている。 カ.甲第13号証について 請求人が、甲第13号証として提出した実願平2-9177号(実開平3-101272号)のマイクロフイルムの写しには、 「上記フック2は、ハンガー主体1の成形直後に、フック2の挿込み部3よりも若干小径に成形したボス5の挿込み孔6の表面が少し凝まって内部が軟い内に挿込み部3を押し入れ、更に周方向に回転することによって、挿込み部3の外形に沿ってボス4が冷却収縮した中で、抜け止めされ、かつ、回転自在に取り付けられている。」(その明細書第5頁第6?13行)ことが、図面とともに記載されている。 ヨ.人証について 平成12年11月28日、特許庁審判廷において行われた証人越岡元弘に対する本件証人尋問において、証人から得られた証言の概要は以下の通りである。 a.コシオカ産業株式会社によるコートハンガーフック製造機械の購入につ いての証言 証人は、コートハンガーフック製造機械の購入について、下記のとおり証言した。 ・購入した上記製造機械は、「イタリアのOMCG社が製造したPGU-2 50/A型」であること ・上記製造機械によるコートハンガフックの製造には「ダイス」を使用し、 「ダイスにシムをかまし」、コートハンガーフックの太さに合わせて「ダ イスの高さを調整」して製造すること ・上記製造機械の購入先は、一番最初に購入した機械(1号機)は「テクノ フルタ株式会社」からであり、「2号機は松下オーエムシージー機械株式 会社」からであること ・上記製造機械の購入契約の時期は、一番最初のテクノフルタ株式会社との 契約は「63年の6月」であり、松下オーエムシージー機械株式会社との 契約は「1989年7月14日」(参考:和暦では平成1.7.14.) であること ・上記製造機械の引き渡しの時期は、一番最初のテクノフルタ株式会社から の製造機械(1号機)が、「63年の12月頃」であり、松下オーエムシ ージー機械株式会社からの製造機械(2号機)は、「平成2年2月頃」で あること ・上記製造機械の引き渡しを受けたのは、いずれの製造機械も「大阪のうち の会社の八尾工場」であること b.コートハンガーフックについての証言 証人は、上記コートハンガーフック製造機械により製造され販売されたコートハンガーフックについて、それぞれ下記b-1ないしb-2のとおり証言した。 b-1.コートハンガーフックの形状についての証言 証人は、証人尋問の際、上記コートハンガーフックの図面(下図参照。)を手書きにより自ら作成するとともに、このコートハンガーフックの形状について、下記のとおり証言した。 《証人が、尋問の際、手書きにより作成した図面》 ・この手書きで作成した図面に記載されたフックの形状は、1号機で作った 形状であり、2号機で作った形状もこれと同じであること ・1号機および2号機で製造されたコートハンガーフックで相違するのは、 いずれも「フックの径(素材の径)」だけであり、それ以外の「ネジのピ ッチ」、「ネジ山の数」などは同じであること ・同図面はフックのネジの部分の図面であり、先端(同図面で左端)はテー パーになっていること ・同図面の左側にハンガー本体があるとすると、左端がテーパーになってい るので、ハンガー本体に開けられた穴にフックが入りやすくなること ・1号機および2号機で製造されたコートハンガーフックは、いずれも「ネ ジの部分の先端はテーパー」になっており、「先端から引き続いて、円柱 状の平行な部分」があり、この「円柱状の平行な部分」と「断面が台形の ネジ」を比べると、このネジの高い所は、「円柱状の平行な部分」よりも 太く、このネジの低い所は、「円柱状の平行な部分」よりも細いこと ・ネジの高い所は、コートハンガーフックの線材の直径より太く、ネジの低 い所はコートハンガーフックの線材の直径より細いこと ・「ネジの山の部分は7つ」、「ネジのピッチは1.5」であること b-2.コートハンガーフックの製造と販売についての証言 証人は、上記コートハンガーフックの製造と販売について、下記の通り証言した。 ・1号機によるコートハンガーフックの製造開始時期は、「昭和64年1月 15日過ぎ」であり、2号機による製造販売の開始時期は、「平成2年の 3月頃」であること ・製造機械の製造のスピードは、「分80から100個」であること ・製造されたコートハンガーフックの販売先は、「大阪のシンコーハンガー 株式会社」であること c.請求人の提出した甲各号証についての証言 証人は、請求人の提出した甲各号証に関連して、それぞれ下記のとおり証言した。 ・甲第1号証に関連しての証言 コシオカ産業株式会社は、イタリアのOMCG社製PGU-250/A型の1号機を、「テクノフルタへ注文した」こと この1号機は、イタリアのOMCG社と日本の松下オーエムシージー株式会社が提携しており、ここからテクノフルタを経由し、コシオカ産業株式会社に入って来たこと ・甲第3号証に関連しての証言 甲第3号証は、「私(越岡元弘)が書いたハンガーフックの図面」であって、「こういうフックを作れる機械を作ってくれ」という趣旨で、「松下オーエムシージーの澤田さんへ渡した」ものであること フックの図面の内容には、その後「一部変更」があり、ネジ切りピッチが変更になったこと ・甲第4号証に関連しての証言 甲第4号証は、証人尋問中に同証人が手書きで図面を書いた、フックの先端部分、の図面であること 甲第4号証の図面で右の方がテーパーになっていて、こちらの方が先端部分であること 甲第4号証の図面の左上に書いてある1.5という数字は、ネジの部分のピッチの数値であり、同号証はピッチ変更後の図面であること 甲第4号証の左下に記載された「上記図面通りで承認しました。越岡」の記載は、「この図面の通りのフックを作れる機械ということでいいだろう」と証人が承認したサインであること 前記のように、同証人が手書きで書いた図面においては、ハンガーフックの山ピッチは7段であり、被請求人は甲第4号証に山ピッチがもう1段記載されていると言うが、甲第4号証に記載された先端に一番近い山ピッチは、実際にネジを切ると出てこないので、通常は、はっきりしているものしか読まないから、やはり、ハンガーフックの山ピッチは7段であること ・甲第5号証に関連しての証言 甲第5号証は、「PGU-250/A型の2号機に関してコシオカ産業株式会社が直接松下オーエムシージー機械株式会社と契約した契約書」であること ・甲第6号証および甲第7号証に関連しての証言 甲第6号証および甲第7号証は、いずれも2号機を発注した際の図面であって、「松下オーエムシージー機械株式会社の澤田さんから」受け取ったものであること 甲第6号証および甲第7号証右下の「コシオカ産業株式会社」の印影は、いずれも「承認判」としての押印されたものであること ・甲第8号証に関連しての証言 甲第8号証は、「ねじ切りダイス」の図面であって、フックを製造する際使用する「ねじの部分を作る金型」の図面であること ・甲第9号証に関連しての証言 甲第9号証は、1号機を購入する際の図面であって、「(甲第9号証の図面は)当初私(越岡元弘)の書いた図面に合わせた形の図面」であること ・甲第11号証に関連しての証言 甲第11号証は証明願であり、証人は、この証明願を見て、証人自身が会社の印鑑を(証明印として)押したこと 甲第11号証の証明願に添付された添付資料3は、1号機を購入する際の図面であるが、(ピッチの変更があったので)、この図面とは違うものを作る製造機械を実際には買ったこと これに対し、甲第11号証の証明願では、2号機に関した図面として書かれてているが、この証言の方が正しいこと タ.追加して提出された甲第14号証および検甲第1号証について 請求人より追加して提出された甲第14号証および検甲第1号証は、いわゆる新たな証拠の提出にあたり、本件請求の要旨を変更するものに該当するので、特許法第131条第2項の規定により、同号証に関連する前記証人尋問の尋問結果も含めて、これを証拠として採用することはできない。 (2)本件考案の出願前に公然実施された考案 上述のとおり、請求人の提出した上記各証拠方法は、書証および人証ともに、立証しようとする内容について、格別、相互に矛盾する点は存在せず、また、その立証しようとする内容について、それを覆すほどの証拠または主張は、被請求人より提出されていない。 a.コートハンガーフックの製造販売 上記コートハンガーフックは、1号機によるものが、証人越岡元弘の証言によれば、昭和64年1月15日過ぎ頃から製造され、製造されたコートハンガーフックは、シンコーハンガー株式会社へ販売された。そして、このように昭和64年1月15日過ぎ頃から製造されたコートハンガーフックが、4年以上も後に販売されるとは通常の商取引慣習からして考えられないから、このコートハンガーフックは、本件考案の出願日である平成5年6月30日より以前に販売されていたものと認定できる。 2号機によるコートハンガーフックは、証人越岡元弘の証言および甲第11号証によれば、平成2年3月頃から製造および販売がなされたと認定できる。 b.コートハンガーフックの形状の認定 証人越岡元弘の、「この手書きで作成した図面に記載されたフックの形状は、1号機で作った形状であり、2号機で作った形状もこれと同じである」という証言、および「甲第4号証は、証人尋問中に同証人が手書きで図面を書いたフックの先端部分、の図面である」という証言によれば、同証人が尋問中に手書きで作成した図面および甲第4号証の図面は、いずれも1号機および2号機で作ったコートハンガーフックの形状を記載したものであることは明らかである。 したがって、証人尋問中に手書きで作成した上記の図面に基づく同証人の証言、甲第4号証および甲第8号証の図面の記載等によれば、本件考案の出願前に公然実施された考案は、本件の請求項1、請求項2、請求項3に対応して表現すれば、下記A?Cの3つの考案であると認定される。 考案A 「先端のテーパー部と、該先端のテーパー部から続く円柱状の平行な部分と、該円柱状の平行な部分から続き、該円柱状の平行な部分より太い高い所が形成されたネジとからなるコートハンガーフック。」、 考案B 「このようなコートハンガーフックであって、前記ネジが断面台形で、前記コートハンガーフックの線材の直径より太いネジの高い所と、前記コートハンガーフックの線材の直径よりも細いネジの低い所とからなるコートハンガーフック。」、 考案C 「このようなコートハンガーフックであって、前記ネジの山の部分を7つ設けたコートハンガーフック。」 (3)本件請求項1に係る考案との対比・判断 《対比》 そこで、本件の請求項1に係る考案と、本件出願前に公然実施された考案(上記考案A)を対比すると、この考案Aにおける「先端のテーパー部」、「円柱状の平行な部分」および「ネジ」が、ハンガーフック本体に挿入されるべきものであることは、これらのものの形状からして自明であるから、これらのものは、本件の請求項1に係る考案における「先端部をテーパー状に成形された第1挿入部」、「円柱形の第2挿入部」および「第3挿入部」にそれぞれ相当すると認められる。 また、この考案Aにおける「太い高い所」は、本件の請求項1に係る考案における、「大径の段部」に相当すると認められる。 したがって、両考案は、 「先端部をテーパー状に成形された第1挿入部と、 該第1挿入部から続く円柱形の第2挿入部と、 該第2挿入部から続き、該第2挿入部より大径の段部が形成された第3挿入部とからなることを特徴としたハンガーフック。」 で一致し、次の点で相違する。 《相違点A》 本件の請求項1に係る考案では、ハンガーフックが「ハンガーの本体が冷却固化する前に、前記本体に挿入され、取り付けられる」のに対し、上記の公然実施された考案では、このように取り付けられるかどうか明らかではない点。 《判断》 この相違点Aのように「ハンガーフックがハンガーの本体が冷却固化する前に、前記本体に挿入され、取り付けられる」ことは、甲第12号証および甲第13号証等にも記載されているように従来から周知の事項にすぎない。また、これが周知であることに関しては、当事者間にも争いがない。しかも、このように取り付けることにより、格別の効果が生じるとは認められないから、このように取り付けることはきわめて容易に行えたと認める。 したがって、本件の請求項1に係る考案は、本件出願前に公然実施された考案(上記考案A)に基づいてきわめて容易になされたものである。 (4)本件請求項2係る考案との対比・判断 《対比》 本件の請求項2に係る考案と、本件出願前に公然実施された考案(上記考案B)を対比すると、本件の請求項2には「前記第3挿入部が、逆円錐台形で、」と記載されている。これに対して、上記考案Bでは「前記ネジが断面台形で、」とされており、本件請求項2のように「逆円錐台形」とはされていない。 しかし、1号機および2号機はいずれも、前記「(2)イ.a.コートハンガーフック製造機械の概要」の項で述べたように、転造によりネジ切りを行なうのであるから、1号機あるいは2号機によりネジを切られる線材は回転しながら加工され、その結果、加工された「ネジ」が軸方向から見て「円形」となるのは自明である。 そうすると、上記考案Bにおける「断面が台形」と、本件請求項2の「逆円錐台形」との間に実質的な違いはなく、上記考案Bの「ネジが断面台形で、」、「ハンガーフックの線材の直径」、「ネジの高い所」および「ネジの低い所」は、本件請求項2中の「第3挿入部が、逆円錐台形で、」、「ハンガーフックの直径」、「上底部」および「下底部」にそれぞれ相当する。 それゆえに、両考案の相違点は、「(3)本件請求項1に係る考案との対比・判断」の欄で述べた《相違点A》と同じである。他の点では、両考案は一致している。 したがって、「(3)本件請求項1に係る考案との対比・判断」の欄で検討したと同様に、本件の請求項2に係る考案は、本件出願前に公然実施された考案(上記考案B)に基づいてきわめて容易になされたものである。 (5)本件の請求項3に係る考案との対比・判断 《対比》 本件の請求項3に係る考案と、本件出願前に公然実施された考案(上記考案C)を対比すると、本件の請求項3には「前記第3挿入部を複数個、設けた」と記載されている。 しかし、上記考案Cでも、「前記ネジの山の部分を7つ設けた」とされており、同様な構成が存在している。 それゆえに、両考案の相違点は、「(3)本件請求項1に係る考案との対比・判断」の欄で述べた《相違点A》と同じである。他の点では、両考案は一致している。 したがって、「(3)本件請求項1に係る考案との対比・判断」の欄で検討したと同様に、本件の請求項3に係る考案は、本件出願前に公然実施された考案(上記考案C)に基づいてきわめて容易になされたものである。 5.むすび 以上のように、本件請求項1ないし請求項3に係る考案は、その実用新案登録出願前に日本国内で公然実施された考案に基づいてきわめて容易になされたものであるから、これらの請求項に係る考案の実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-03-01 |
結審通知日 | 2001-03-13 |
審決日 | 2001-03-28 |
出願番号 | 実願平5-41782 |
審決分類 |
U
1
112・
112-
Z
(A47G)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 阿部 寛 |
特許庁審判長 |
大久保 好二 |
特許庁審判官 |
会田 博行 大槻 清寿 |
登録日 | 1998-08-28 |
登録番号 | 実用新案登録第2584460号(U2584460) |
考案の名称 | ハンガーフック |
代理人 | 清水 義仁 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 三好 千明 |
代理人 | 平野 和宏 |
代理人 | 小谷 悦司 |